時間は少し遡る。
ここは遠坂春香が営む喫茶店『two-Moe』である。
その主たる春香は今日は朝からものすっごいご機嫌だった。
何故か。
「朝から春香さんが淹れてくれたコーヒーが飲めるなんて最高の贅沢だよ。」
今日はカウンター席に彼女の夫であるドクター遠坂が陣取っていたからだ。
そして、今日はカフェ店員も華やかだ。
遠坂春香を筆頭に、ともえ、萌絵、イエイヌの三姉妹。
それに加えて何故か、宝条ルリとアムールトラにユキヒョウまでもがお客さん用コスプレ衣装で店員になっていた。
さらにドクター遠坂の隣の椅子には“教授”こと宝条和香までいるではないか。
ある意味で豪華な顔触れである。
そんな“教授”はメイドさん風カフェ店員制服なルリとアムールトラから給仕を受けてご満悦であった。
「ねえ。でもさ、お父さんや“教授”達が来てくれるのは嬉しいんだけど、みんな揃ってどうしちゃったの?」
さすがにここまで面子が揃って何もない事はあるまい。
ともえは疑問を口にした。
“教授”がコーヒーカップを芝居がかった調子で持ち上げると答えを返す。
「もちろんキミ達の可愛らしい姿を堪能したい、という目的もあるんだけどね。本当のところはこれさ。」
“教授”はカウンターテーブルに置いていたノートPCのディスプレイを皆に見せた。
それは一見しただけではよくわからない。
やはりこういう時は萌絵に頼ってしまうのが一番だ。一同の視線が彼女に集まる。
「ええと…、どこかの通販サイトの管理画面…かなあ。ええっと…システム名、U-Mya-System?」
萌絵の解説によると、“教授”が示したのは今まさに商店街で行っている通販イベントを支えるシステム画面だった。
どうやらそれが正常に稼働しているかどうかをモニタリングする為の画面のようで、特に今のところ異常はないらしい。
「ちなみに、このシステム構築は僕と和香君の共同開発なんだ。」
やはりドクター遠坂の前に置かれたノートPCにも同じようなシステム管理画面が映し出されていた。
という事は、二人は商店街のイベントの為にここにいるという事だろうか?
「たしかに、ここに居れば万が一システムトラブルがあった時にも駆けつけやすくはあるのう。」
そういうユキヒョウはさり気なく“教授”の空いたコーヒーカップにおかわりを注いでいた。
なんせ“教授”がこんな朝早くに起きている事は稀なのだ。
多分、徹夜して今も眠たいのを我慢しているのだろう。なので、眠気覚ましのブラックコーヒーは必須だった。
ただし、あまりコーヒーの飲みすぎもよくないので、2杯目はユキヒョウチョイスのミントハーブティーである。
「まあ、多少のシステムトラブルならラッキービースト君とラモリさんを派遣しているから問題ないよ。」
では“教授”とドクター遠坂は何のためにここにいるのか。
「僕たちがここにいる理由はね、ともえやイエイヌちゃんやルリちゃんやアムールトラちゃんを集めた理由にも関係があるんだ。」
ドクター遠坂の説明にますます話が見えなくなってしまう。
けれども、ある意味で豪華なメンバーのこの集まりには意味があるらしい。
「さて、これを見て欲しい。」
カタカタ、と軽くキーボードをタッチした後にエンターキーを叩く。
すると、画面には地図のようなものが表示された。
「これは?」
覗き込む一同にドクター遠坂が答えを返す。
「これはね、U-Mya-Systemのもう一つの顔、セルリウムレーダーさ。」
「ちょ、ちょっと待って、お父さん。U-Mya-Systemって通販サイトの管理システムでしょ?それがどうしてセルリウムレーダーになるの?」
萌絵が言う通り、通販サイトとレーダー、その二つに関連性が見えない。
「うん。順を追って説明するね。セルリウムレーダーっていうのはね、活性化したセルリウムを感知するものなんだ。」
どうやらセルリウムレーダーとは名前通りの代物らしい。
活発な動きを示すセルリウムを検知してセルリアンの出現位置を知る事が出来るのだ。
「既に市内の要所にいくつかのレーダーアンテナを立てて試験運用をしてたんだけど、問題があってね。」
その問題とは?と一同続くドクター遠坂の言葉を待つ。
「それは通信網の不足さ。レーダーで検知してもそれを伝える通信インフラが足りなかったんだ。」
なるほど、それでは十二分にレーダーの機能を活かせない。
「そこで、商店街のイベントの出番というわけだね。」
「ま、まさか…。」
ここに至って萌絵には心当たりがあった。
「携帯電話にインストールしたU-Mya-Systemのアプリを媒介にして、携帯を中継地点にしちゃうって事…?」
「その通り。」
レーダーで検知した情報をU-Mya-Systemをインストールした携帯電話を中継して情報を送る。
そうする事でレーダーの通信網不足を補おうというのだ。
萌絵は自分の携帯電話でU-Mya-Systemのアプリを開いて利用規約をあらためて開いてみる。
そこには、『災害や事故などの緊急性の高い案件が発生した際、当アプリを通じて情報の受信、発信をする場合があります。』という一文が混ざっていた。
それにしてもこれは何ともギリギリだ。
手口だけならコンピューターウィルスを感染させる方法と似たようなものだ。
ただ、セルリアンの事を公表したらパニックになるかもしれない現状からはその手段を取る他なかったのだ。
「もちろん、近くにセルリアンが現れた場合にはこのシステムを通じて避難情報も発信出来るよ。」
そして、何らかの誘導情報でセルリアンの出現位置から人々を避難させたり遠ざけたりすることも出来るかもしれない。
それを可能にするアプリを商店街の夏のイベントを利用して一気に広めたわけだ。
ラモリさんがエゾオオカミに語っていた『こっちにもメリットがある。』というのはこういう事だったのだ。
「まあ、まずは試験運用段階だけれどね。この夏で有用性が認められれば本格的に運用していこうかと思っていたんだ。」
これが狙い通りの効果を発揮するなら、今までセルリアンに対して後手に回っていたのが先手を取れるかもしれない。
「今のところ、ともえやイエイヌちゃんやルリちゃんやアムールトラちゃんに任せっきりだったからね。少しはサポートになれるように作ったんだ。」
どうやら、最近ラモリさんが忙しそうにしていて、学校にもあまりついて来ていなかったのもこのせいだった。
「このシステムが本格的に稼働できれば少しは安心して夏休みを楽しめるんじゃないかな。」
どうやらドクター遠坂も娘達の役に立とうと頑張っていたらしい。
中々にギリギリの線をついている気がするが、セルリアンの事を世間に明かせない以上仕方がない。
「そっか!お父さんありがとう!」
と抱き着いてしまうともえだった。
それだけでもシステム構築を頑張った甲斐があるドクター遠坂である。
それを見届けた“教授”は欠伸をかみ殺す。
「さて、説明も終わったところで私は少し…。」
「寝るんじゃな?」
今朝は珍しく早起きしたわけじゃなく、徹夜で今まで起きていた“教授”は既に眠気の限界であった。
ユキヒョウはそんな様子を察していたので、既に薄手のタオルケットを借りていた。
「はい、お母さんこっちこっち。」
「ソファー席一つ借りておいたで。」
そして、簡易の寝床を作っていたルリとアムールトラである。
この辺りの対処は慣れたものらしかった。
アムールトラの膝枕に吸い込まれるようにして寝入る“教授”
それをイエイヌはちょっと羨ましそうに見ていた。
じーっと何かを期待した視線をドクター遠坂へ送っている。
「ええと…。ごめんね、イエイヌちゃん。僕はまだ眠くないから…。」
ドクター遠坂の答えにイエイヌの耳がしゅん、と垂れた。
「あー!?そういえば、何だか少し喉が渇いた気がするなあ!?あ、このお湯に葉っぱ入れたヤツスペシャルっていうの美味しそうだなあ!?一つ注文してもいいかな!?」
慌てたように言い募るドクター遠坂。
どうやらそれは正解だったようで、イエイヌの顔はパッと明るくなった。尻尾もぶんぶんである。
「はい!お任せ下さい!」
どうやらイエイヌの扱いをわかって来たらしい事に春香も萌絵もともえも三人してドクター遠坂にサムズアップを贈るのだった。
の の の の の の の の の の の の の の
商店街の夏イベント。初日となる今日は中々の忙しさだったものの、無事に終了した。
エゾオオカミはセルシコウに一日中引っ張りまわされてクタクタだったが、今日が終わったわけではない。
母親が用意してくれていた夕食を手早く食べ終わると、ご馳走様、と再び出掛ける準備をはじめた。
なんせ、今日から早速セルシコウが稽古をつけてくれるらしい。
夕食を食べた後に、という事だから少しは急いだ方がいいだろう。
「あら、エゾオオカミ?またどこかにお出かけ?」
「ああ、ちょっとセルシコウと約束があってな。」
母親はまぁ!と驚きを露わにする。
この商店街の情報網だって中々のもので、今日もエゾオオカミとセルシコウが親密そうにしていたのを目撃していた者は多く、その噂は母親の耳にだって届いていた。
つまり、これは……。
デート!?
と、盛大な勘違いはさらに明後日の方向へ飛んでいく。
「(し、しかもこんな時間から!?い、いけないわ、エゾオオカミ!?いくらなんでもあなたはまだ中学生なのよっ!?いやでも私があの子くらいの頃にはお父さんと……でへへへ。)」
母親が夫との馴れ初めを思い出しているうちにエゾオオカミはさっさと出掛けてしまったらしい。
「ど、どうしましょう…。やっぱり後でお父さんにも相談しましょうかしら…。ああでももう少し見守りたいような…!」
そうして迷う母親を置いてエゾオオカミは商店街を抜けてさらに路地をいくつか通り抜けて公園へと至る。
ついでに腹ごなしと身体を暖める準備運動も終了だ。
どうやら先についたようなので、柔軟体操もしておく。
遠くの空は夕焼けの赤と夜の黒が混じり合っている。
日が長いのが夏の特徴でもあるが、それでもさすがにこの時間ではすっかり暗くなって公園の街灯もついていた。
「あら。お待たせしちゃいました?」
「いや。今来たところだ。」
程なくしてセルシコウもやって来た。
これからするのがデートなのかと思わなくもない会話ではあるが残念ながらそうではない。
今からするのは訓練なのだ。
「で、稽古って言ったって具体的には何をしたらいいんだ?」
エゾオオカミの疑問はもっともだ。
まさかいきなり組手なんてしたって、エゾオオカミとセルシコウでは実力差がありすぎる。大した訓練にはなるまい。
「そうですね。エゾオオカミはまだ身体の使い方がなっていない部分が多いと思うんです。どう身体を動かすか……。それをしっかり身に着けるにはやはり形をこなすのが一番かと。」
エゾオオカミだって一応は空手部だ。一番簡単な形くらいはこなせる。
「ええ。あの大会でやった形でいいので、まずはそれを一緒にやってみましょう。」
先日の空手部地区大会でエゾオオカミが行った形は平安初段というもっとも基礎的な物だ。
セルシコウが言うなら、とまずはそれをこなしていく。
「もう少しゆっくりでいいです。一つ一つ、身体の動きを意識して。身体が動く事で流れる力の動きを感じて下さい。」
セルシコウの言う通りにしてみたら、物凄いゆっくりとした動きになってしまった。
「ゆっくりになったからと言って、手を抜いてはいけません。しっかりと力の流れを途切れさせないように。」
「(お、思ってたよりキツイぞ!?これ!?)」
動きはゆっくりなのに、それを保持するのはかなり厳しい。
今まで勢いで出来ていた事がゆっくりにする事で力の流れも小さくなってしまい、途切れそうになる。
そうしない為には力任せの形ではなく、しっかりと正しい動きをしなくてはならない。
「そうです。大事なのは生み出した力をしっかりと拳に伝える事です。その為の踏み込み、その為の体重移動です。それを意識して。」
なるほど、ゆっくりであればその力の伝わりを意識する事に集中出来る。
「中々筋がいいと思いますよ。エゾオオカミ、やはり貴女には強くなれる素養があります。」
数本形をこなしたところでセルシコウがパチパチと小さく拍手した。
そうさせると何だか照れてしまう。
しかし、エゾオオカミには色気のある反応を返す余裕がなかった。
たった数本ゆっくりと形をこなしただけだというのに、もう汗だくで息も上がってしまっている。
「まだ、余計な力が入ってしまっているから身体が疲れるでしょうが、正しい動きを身に着ければ疲労も軽減されますよ。」
言いつつ、セルシコウはペットボトルに入れた麦茶を放ってくる。
それをありがたく頂くエゾオオカミ。
「さて、じゃあもう一本同じ形をやってみましょうか。」
「よっしゃ…!」
気合を入れ直すエゾオオカミにセルシコウも頑張れとエールを送る。
再びエゾオオカミが形を繰り出す前に…。
―ドゥルゥゥウウン!!
という重低音が響いた。
何事か、と二人してそちらを振り返ると、今度は車のヘッドライトらしき閃光が二人の姿をくっきりと照らし出す。
―キィイイイッ!
そして二人の前に横滑りしながら一台の大型バイクが停まる。
それに跨っているのは…。
「あ。やっぱりエゾオオカミちゃんとセルシコウちゃんだ。」
「「ク、クロスハートォ!?!?」」
なのであった。
ピンと立った犬耳と丈の短い服はイエイヌフォームだ。
こんなところに大型バイクで乗り込んでくるなんてタダ事ではない。
一体全体どういう事だ、と目を白黒させるエゾオオカミとセルシコウにクロスハートはビッ!と親指を立てると跨った大型バイクに取り付けられたサイドカーを指し示す。
「ねえねえ。」
クロスハートは何を言うんだろう、と固唾を飲んで待つ二人。
そんな彼女達にクロスハートはやたらいい笑顔にウィンク付きでこう言い放った。
「そこの彼女達っ。通りすがりの正義の味方、しに行かない?」
の の の の の の の の の の の の の の
セルシコウは思う。
どうしてこうなった、と。
彼女は夜の街を縫うように走るサイドカーつきの大型バイク、それのサイドカーに収まっていた。
で、その大型バイクを駆るのはクロスアイズに変身したエゾオオカミだった。
二人して改めて思う。
「「(どうしてこうなった……!!)」」
で、肝心のクロスハートはというと…。
「いやあー、ジャパリボード持って来ておいてよかったよー。」
ジャパリボードに乗って一緒に移動していた。
前よりもさらに改造してパワーアップしたらしいそれはただのスケートボードに見えるのに、大型バイクにも並走していた。
「なんか……。ごめんなさい…。」
さらにその後ろにはラモリケンタウロスに跨ったクロスナイトが続いている。
ミラーシェードの下の目はきっと申し訳なさそうになっているのだろう。
「いえ……。謝る事ではないです。ただ、ちょっと急な事態についていけてないといいますか何といいますか…。」
セルシコウは考える。
なんでもクロスハート達はセルリアンが現れる予兆があったから出現位置に移動しているらしい。
で、途中でエゾオオカミとセルシコウを見つけたので一緒に誘った、と。
そして、サイドカー付きの大型バイクはどうやら自動運転機能が搭載されているらしかった。
クロスアイズも殆ど何か操作らしい操作をしているわけではない。
なのに、バランスを取り、スピードを調節し、カーブを曲がっていく。
一体どんな手品だ、と不思議に思う。
その疑問に答えてくれたのはラモリケンタウロスの制御部に収まったラモリさんだった。
「そのジャパリバイク改はナ。サイドカーにも駆動系と自動運転機構を入れて完全自動運転が可能なんダ。もちろんサイドカーを切り離して手動運転も可能ダ。」
たしかにサイドカーの中には虎縞の警告マークで囲われたボタンがあった。
いかにも押さないでね!絶対押さないでね!といいたげな大きなボタンを前にセルシコウはついついそこに指を向けてしまう。
「だから押すなよ!?バイクなんて俺、運転した事ないからな!?」
クロスアイズは思わず悲鳴じみた声をあげてしまった。
サイドカーを切り離してしまったら、強制的に手動運転に切り替わってしまうらしい。何故ならジャパリバイク改の自動運転はサイドカー込みでバランスを取っているからだ。
それにサイドカー単体では長い時間移動する事は出来ない。
今この場で手動運転に切り替えても百害あって一利なしだ。
セルシコウは何とかボタンを押してみたい誘惑を振り切った。
そうしてどったんばったんのツーリングを経て辿り着いたのは色鳥川にかかる橋、玄武大橋である。
北部に広がる農業地区の物流を一手に支える大きな橋は、今は日も落ちた事もあって車通りもない。
そして、近年。
この玄武大橋へのアクセスをさらによくする為、近くの玄武峠にトンネルを通す一大事業も行われていた。
このトンネルが開通すればさらに物流がよくなると、農業関係者や食品会社、それに多くの市民達に待ち望まれていた。
ちなみにこの事業には北部の最有力農業法人、ゲンブファームが多額の出資をして事業を後押ししたとか何とか……。
ただ、今回はそれが裏目に出た。
「うっわ……おっきいね……。」
「ですね……。」
クロスハートとクロスナイトが見上げる先には巨大なイモムシのようなセルリアンがいた。
それがゆっくりとゆっくりと玄武大橋に近づいている。
それは玄武峠にトンネルを通す為に使われているトンネル工事用のシールド掘削機を模倣したものだ。
凶悪な刃がついた口は象よりも遥かに大きい。
じりじりと近づいてくる途中にある街路樹など、まるで紙のようにいともたやすく粉微塵にしていた。
超大型ワームとでもいうような巨大イモムシはランドワームセルリアンとでも呼ぶべきなのだろう。
そして、それは悪い事に玄武大橋よりも全幅が大きい。
もしもランドワームセルリアンが玄武大橋に辿り着いたら、橋を支えるアーチを壊して崩落させてしまうだろう。
「おいおい!?そうなったら明日から商店街にも新鮮野菜や果物が届かなくなっちまうじゃねーか!?」
クロスアイズは今度こそ悲鳴をあげた。
この玄武大橋の崩落は商店街にとっても死活問題だ。
なんとしてでもこのセルリアンは止めなくてはならない。
「ちなみに、俺たちだけで戦わないといけないのか?応援は?」
クロスアイズの疑問にクロスハートは首を横に振る。
「クロスジュエルの二人はセルリアンレーダーがちゃん動いていなくて間違っていた時の為に待機中なの。こんな大物だって分かってたら皆で来たらよかったね。」
クロスハートが説明した事も嘘ではない。
嘘ではないが、もっと大きな理由として…、“教授”がまだ寝たまま起きなかったので抱き枕やら膝枕やらになっているルリとアムールトラを引き離すのが忍びなかったりもした。
「ちなみになんですが、多分クロスシンフォニーも来ませんよ。今、ウチでマセルカと一緒に夏休みの宿題をしてくれていますから。」
そのセルシコウの言葉に思わずクロスアイズは「はいぃ!?」と目を丸くした。
確かに、クロスシンフォニー達とセルリアンフレンズの3人は今日で随分と打ち解けたように思える。
だけれども、そこまで仲良くなってたのか……とクロスアイズは驚きを隠せない。
「いやあ…。あのさ…。クロスアイズとセルシコウちゃんも相当仲良くなってるよね……。」
とクロスハートのツッコミが入った。控えめに後ろでクロスナイトも頷いて見せる。
「っていうか!そんな楽しそうなコトしてるなら呼んでくれてもよくない!?もう!」
ぷんすかと頭から湯気を出すクロスハートの姿を見てクロスアイズとセルシコウは顔を見合わせてぷっと吹き出す。
「いやあ、俺たちこれでもバイト仲間なんでな。」
「そうですね。一緒に働く仲間ですから。」
「えぇー!?じゃあアタシも!アタシも一緒にバイトするー!明日は商店街のお手伝いするからー!」
まるでダダっこのようなクロスハートにクロスアイズとセルシコウはなおも笑ってしまった。
「わかったわかった。人手はまだまだ足りないからコキ使ってやるからな。」
「やったっ!」
さて、そうと決まれば明日も通常通り営業する為に何としてでも玄武大橋を守らなくてはならない。
クロスハート、クロスナイト、そしてクロスアイズの三人は改めてランドワームセルリアンに向き直った。
と、そこに肩を並べる者がもう一人。
「さて、及ばずながら。私も今日は手伝わせていただきましょう。」
それはセルシコウだった。
「せっかくのバイト先がなくなってしまうのは私としても本意ではありません。ですからここは呉越同舟と参りましょう。」
「そこは呉越同舟じゃなくて恐悦至極…じゃないのか?」
クロスアイズのツッコミはセルシコウにしかわからない。
朝に起こったアライさんの一文字も合ってない言い間違えを知らないクロスハート達は?マークを浮かべるばかりだ。
「そうとも言いますね。」
セルシコウはニヤリとする。
こういう内輪ネタもたまには悪くない。
それに奇しくもついこの前公園で敵味方に分かれて戦った相手が今日は仲間だ。
何とも不思議な呉越同舟……いや、恐悦至極だ。
「さて、行きますよ!クロスハート!」
叫ぶとセルシコウは一枚の“セルメダル”を取り出す。
それはつい先日、色鳥武道館に現れた牛頭のセルリアン、カラテリアンの姿を刻んだものだった。
「“アクセプター”セットメダル!カラテリアン!」
セルシコウの額の『石』にスリットが現れ、そこにセルメダルを放り込まれた。
すると、一度元のレオタード姿に戻った後、そこに空手道着の上着がするりと着せられて、黒帯が締められる。
さらに金の輪っかが伸びてヘルメット状に変化して頭を覆うと、そこから目元を覆うバイザーが降ろされた。
空手道着は上のみなので、下はレオタードが丸見え状態だった。
「な、なんかじっと見ちゃイケないような気がする……!?」
と、手で目元を隠すクロスハート。指の間からチラチラ見てたりする。
そんな彼女にクロスアイズは心の中で思う。クロスハートも大概である、と。
何はともあれ役者は揃った。
4人で超巨大ランドワームセルリアンへと相対する。
その動きはまるでカタツムリのように遅い。
しかし今も回転を続ける正面の掘削機のブレード部分。これに触れでもした日には一たまりもないだろう。
なので4人は二人ずつ左右に別れると、側面から攻撃を仕掛けた。
―ガコォオオン!
と、いい音が響くけれども…。
「うへぇ!?ぜ、全然効いてない!?」
セルリアンを殴りつけた手の方が痛くなってしまったクロスハートだ。
それはやはりクロスナイトもクロスアイズもセルシコウまでもが一緒だった。
しかも、ランドワームセルリアンは殴りつけられたにも関わらず、全く歩みを止める気配がない。
それどころか、攻撃を受けた事すら気が付いていないのではないかと思えた。
致命的な鈍重さと引き換えに圧倒的な防御力を誇る重装甲重機。それがランドワームセルリアンだった。
「こ、こうなったら4人全員で力を合わせて一箇所に集中攻撃してみよう!」
クロスハートの言葉に残る3人が頷いた。
幸い、このメンバーなら遠吠えで身体能力をあげるバフ技の重ね掛けである『群狼ハウル』が使える。
その上で集中攻撃をして崩したところにセルシコウの一撃を加えれば、或いは……!
「「「あぁああぉおおおおおおん!!」」」
クロスハート、クロスナイト、クロスアイズの三人がそれぞれに『ウォーハウリング』×2と『天上ぶち抜きボイス』を発動させた。
今度は4人全員でランドワームセルリアンの左側面に回り込む。
クロスハート達3人が揃って両腕にサンドスターの輝きを集める。
そこから同じ構えで繰り出される必殺技は……。
「「「ワンだふるアタァアアアアアック!!」」」
三人がかりでの『ワンだふるアタック』であった。
側面の硬い表皮も『群狼ハウル』で攻撃力をあげた三人同時攻撃の前にほんのわずかな凹みが出来た。
「今だ!セルシコウ!!」
クロスアイズの号令で三人ともバッ、とその場から飛び退き、彼女の為に場所を開ける。
そこにすかさずセルシコウが走り込む。
まるで流れるかのように重心がピタリと決まった足捌きは空手の踏み込みの一つだ。
脅威的な速さからの踏み込み、腰の回転、その全てを拳に乗せて放たれる正拳での追い突きは移動のエネルギーまでも乗せた必殺の一撃である。
「疾風!正拳突きぃいいいいいっ!!」
三人がつけた凹みに吸い込まれるセルシコウの正拳。
―バキィイイイイッ!
という音をたてて、側面装甲に大きな亀裂が走った。
―ギョォオオオオオッ!?
今度こそ、ランドワームセルリアンは苦痛の叫びをあげた。
「よし!効いてるぜ!」
ここに至ってランドワームセルリアンはようやく敵が現れた事を認識した。
頑丈さとパワーはすさまじいがそれ以外は大した事はない。
攻撃だって正面の掘削機の口さえ気を付ければ他に攻撃手段はなさそうだ。
だが……。
―バラバラバラ……。
今度はランドワームセルリアンの背から何かが落ちて来た。
「ヘルメット?」
それは一見すると工事現場でよく使われる黄色いヘルメットに見えた。
「いけません!」
クロスナイトの警告に一斉にその場を離れる。
と、同時、ヘルメットに細い手足が生えるとピョンピョン飛び跳ねはじめた。
「これは小型セルリアンの一種です。多分、ランドワームセルリアン本体を守る為に寄生しているのかと。」
バラバラとランドワームセルリアンの身体から落ちて来てまだまだ数を増やすヘルメットセルリアン達。
どうやら体当たりくらいしか出来ないみたいだが、その数だけでも脅威になる。
「く…。ど、どうする!?」
襲い掛かってくるヘルメットセルリアン達を振り払いながら焦りの声をあげるクロスアイズ。
一体一体は大した強さではない。
けれど、この数の相手をしている間にランドワームセルリアンは玄武大橋に辿り着いてしまうだろう。
どうする、と全員の顔に焦りの色が浮かんでいた。
と、クロスハートがセルシコウの横顔を見ていた。
何か考えがあるのだろうか。
「ううん。セルシコウちゃんには何か考えがあるんじゃない?」
どうやらクロスハート自身に考えはなかったらしいが、セルシコウはそうではない。
その表情を読み取ったクロスハートはさらに訊ねる。
「何か手があるなら教えて欲しいな。」
確かにセルシコウには考えがあった。
先程、ランドワームセルリアンに一撃を入れた時の手応えに勝機を見出していたのだ。
「私にはあのセルリアンの『石』の位置に心当たりがあります。」
先程正拳突きを叩き込んだその手ごたえにセルシコウは確信していた。
『石』はその奥の体内に隠されている、と。
「なるほどね。前に戦った大蛇セルリアンもそんな感じで『石』を身体の中に隠してた…。」
クロスハートは納得して頷いていた。その時に一緒に戦ったクロスナイトも同様である。
「あの…。自分で言っておいて何ですが、信じてくれるんですか?」
なにせ、根拠はセルシコウの感覚だけだ。
「そりゃあ信じるよ。だってさ、セルシコウちゃんだってこの橋を壊されたら困るって事でしょ?だから、今はアタシ達とセルシコウちゃんの大切なものは一緒なんだよ。」
見ればクロスハートもクロスナイトもクロスアイズも真っ直ぐにセルシコウを見て頷いていた。
欠片も疑ってなどいない。
そう顔に書いてあった。
「まったく…。どうなっても知りませんよ。」
セルシコウは苦笑と共に作戦を説明した。
「なるほど…。他に作戦もありませんし、セルシコウさんに賭けるしかありませんね。」
クロスナイトの言葉に、むしろこの作戦を提案したセルシコウ自身が「本気か…。」と一瞬気後れしそうになる。
「お前の実力は相手した俺らがよーく知ってるぜ。だからお前ならやれる。っていうかお前しかやれねーよ。」
クロスアイズも続いて頷いていた。
「セルシコウちゃんと一緒にあのセルリアンを倒して明日は一緒にバイトする。敵同士かもしんないけど、一緒にバイトしちゃいけないなんてルールはなかったもんね。」
どんな理屈だ、とクロスハートにツッコミを入れたいセルシコウだったが不思議と悪い気はしない。
それにこのままではせっかくのバイトがなくなってしまうかもしれないのだ。
いいだろう。
「わかりました。全員の命。この拳に預かります。」
全員がセルシコウの差し出した拳に軽くコツン、と拳を合わせた。
それを合図に作戦開始である。
「チェンジ!クロスハート・オイナリサマフォームッ!」
まずは作戦の第一段階。
クロスハートが真正面からランドワームセルリアンに相対し、真っ白な和服に白のミニスカートのオイナリサマフォームへと変身する。
そのままキツネマークを作った右手を真っ直ぐランドワームセルリアンに向けて叫ぶ。
「邪気払い結界!キツネノヨメイリ!」
―ボボボンッ!
たちまちに浮かんだ青い狐火が周囲を照らして結界を形成した。
「でもって………!大結界ッ!!」
狐火をランドワームセルリアンの目の前に集中展開して分厚く結界を展開するクロスハート。
ランドワームセルリアンの掘削機ブレードが結界の先端に触れる。
―バチバチバチッ!
凄まじい火花が散りはじめた。
超巨体を誇るランドワームセルリアンが押し留められる。
「お、重いぃいいいっ!?」
クロスハートとランドワームセルリアンの押し合いは現在拮抗しているように見える。
けれど、それは早晩クロスハートのスタミナが切れて突破されてしまうだろう。
それに…。
結界を迂回したヘルメット型のセルリアン達がクロスハートを取り囲もうとしていた。
結界の維持とランドワームセルリアンとの押し合いに集中しているクロスハートにはヘルメット型セルリアンを相手する余裕はない。
このままでは無防備なまま小型セルリアンに集中砲火を浴びてしまう。
「させませんよ!」
それをカバーするのはクロスナイトだ。
骨型の剣『ナイトソード』を手にクロスハートに近づくヘルメット型セルリアンを次々と叩き伏せていく。
これで作戦の第一段階は成功だ。
「長くは保ちません!頼みます!」
既に声をあげる余裕すらないクロスハートに代わってクロスナイトは叫ぶ。
クロスアイズとセルシコウへ向けて。
―ドォルゥウウン!
玄武大橋に待機していたジャパリバイク改が再びエンジンの轟音を響かせた。
そのジャパリバイク改にクロスアイズとセルシコウが乗っていた。
「なるべくリモートサポートはするが、完璧じゃないゾ。」
ジャパリバイク改に跨ったクロスアイズとサイドカーに収まったセルシコウにラモリさんが声を掛ける。
ラモリさんはバイクとラモリケンタウロスを玄武大橋のところに待機させて戦いを見守っていた。
「上等だ……!」
クロスアイズはジャパリバイクのアクセルを捻り込む。
それに応じてもう一度鉄騎はエンジン音のいななきを返した。
「行くぜ!セルシコウ!」
「やって下さい!」
クロスアイズはヘッドライトを付けると、自動運転機能に発進を命じた。
ヘッドライトの閃光がこの先にいるランドワームセルリアンの巨体と、それと押し合うクロスハート達の姿を照らし出した。
同時、ジャパリバイク改がランドワームセルリアンに向けて走り出す。
すぐにクロスハート達の背中が近づいて来る。
「よし!今だ、セルシコウ!」
クロスアイズとセルシコウは同時にサイドカーの切り離しボタンを押した。
自動運転のバランス計算はサイドカーの存在を前提に計算されている。
だからそれを切り離したらもう自動運転は機能しない。
遠く、玄武大橋からラモリさんが運転をリモートサポートしてくれているが、最後の制御はそれぞれ自身で行わないといけない。
ジャパリバイクとサイドカーはそれぞれ左右に別れてランドワームセルリアンの側面へと走って行った。
行きがけの駄賃とばかりにヘルメットセルリアン達を蹴散らしながら。
残るヘルメットセルリアン達は一部が慌ててジャパリバイクとそこから切り離されたサイドカーを追いかける。
だが、スピード差は圧倒的だ。
どんどんヘルメットセルリアン達を置き去りにして目的の場所へ向かう。
目的地はすぐそこだ。
セルシコウを乗せたサイドカーは先程4人全員でつけた亀裂のところで、クロスアイズはランドワームセルリアンの巨体を挟んだ反対側が目的地だ。
「(出来るのか?俺に…?)」
まずはランドワームセルリアンの動きを完全に止める必要があった。
何故ならこれから二人が行うのはとんでもなく精密な作業だからだ。
セルリアンの足止めはクロスハートが、その護衛はクロスナイトが請け負ってくれた。
そしていよいよ作戦の最終段階だ。
邪魔するヘルメットセルリアンが追いついてくる前に成し遂げねばならない。
クロスアイズは一度深呼吸してセルシコウの説明を思い出す。
『いいですか?私一人ではあの巨体の奥の『石』を砕けません。例え衝撃を透す技を使っても、そこまで『石』を砕くのに十分な衝撃が透らないからです。』
ならばどうするというのか。
『だから、クロスアイズ、貴女が逆側から衝撃を透して下さい。』
言いつつセルシコウは両手をパチン、と打ち鳴らして説明を続けた。
『両方から透した衝撃をこんな具合に『石』でぶつけることで破砕する。それが唯一あのセルリアンを倒せる方法です。』
クロスアイズにはセルシコウ程の技はない。
果たしてあの巨体の奥へ届く程の衝撃を生み出せるのか。
「(出来るか出来ないかじゃねぇ!やるしかないんだ!)」
クロスアイズは覚悟を決めて腰だめに拳を構える。
つい先ほど、夜の公園でセルシコウが教えてくれた事を思い出して気息を整える。
「(拳に全てを伝える。その為の踏み込み、その為の体重移動、その為の気合だ!)」
ジャリ、と大地を踏みしめ、いよいよクロスアイズはランドワームセルリアンの側面へ踏み出した。
「行くぞぉおおおおおおおおおおおおおおっ!!」
叫びを気合とセルシコウへの合図とついでに『天上ぶち抜きボイス』へと変えて踏み込む。
拳はコンパクトに。
真っ直ぐに。
矢印を突き刺すように可能な限り真っ直ぐ突く。
そして拳のインパクトの瞬間にこそ全ての力を解放する。
そうする事で衝撃が透るのだ。
―ゴォオオオオンッ!
クロスアイズの拳がランドワームセルリアンの巨体に轟音を立てる。
その手応えに彼女は己の仕事の完遂を確信した。
きっと、後は何とかしてくれる。
何故なら最後の仕上げをしてくれるのはクロスアイズが知っている中で最強の実力を持った手強い強敵なのだから。
セルシコウは閉じた両目を開く。
先ほど4人でつけた亀裂が目の前にある。
この先に『石』がある。
それは間違いない。
あとは衝撃を両側からぶつけてやって『石』を砕くだけだ。
実を言うとそれが一番難しい。
その衝撃をぶつけるタイミングは完全にセルシコウの勘頼りだ。
それでもやるしかない。
セルシコウの耳にクロスアイズからの合図が届く。
そしてセルシコウは己の勘だけを頼りに踏み込んだ。
「はぁぁあああああああああああああああっ!!」
裂帛の気合と共に亀裂へと拳を叩きこむ。
今使っているカラテリアンの“セルメダル”は使う空手技の威力を高めてくれる効果がある。
高めた威力と熟練の技。
その二つはこの仕事を成し遂げるのに十分だ。
―ガゴォオオオオオオオオオン!
セルシコウの拳が亀裂に吸い込まれた。
「手応え…ありです。」
セルシコウは残心をとる。
透した衝撃は十二分な威力があったはずだ。
あとはタイミングが合っていたかどうか。
―ピシリ
亀裂はさらに広がっていって、ランドワームセルリアンの巨体はヒビ割れに覆われていく。
ダメージはあった。
果たして必殺の一撃は届いたのか?
「(どうだ……!?)」
睨みつけるセルシコウの目の前で…。
―パッカァアアアアアアアアアン!
ランドワームセルリアンは光輝くサンドスターへと還った。
クロスアイズとセルシコウ。
二人の拳は届いたのだ。
「ぷっはぁあっ!?もう、重たかったぁー!?」
ようやくランドワームセルリアンとの押し合いから解放されたクロスハートはその場に尻もちをついてしまう。
ヘルメットセルリアン達は本体のランドワームセルリアンが砕けると同時に一緒に砕け散った。
「やったな。」
ちょうど、ランドワームセルリアンのいただけの距離をつめて、クロスアイズはセルシコウに歩み寄ると右手の掌を挙げる。
「ええ。」
セルシコウはその手に自分の掌を打ち付けた。
パァン!
とハイタッチのいい音が響いた。
「そういや、セルシコウ。あのセルリアンは“セルメダル”にしねえのか?」
言われて気が付いたセルシコウは早速“コレクター”を取り出すと、ランドワームセルリアンの“セルメダル”を作り出した。
「あの…。自分で言うのも何なのですが、私に“セルメダル”を作らせていいんですか?」
この“セルメダル”は敵である自分を強くするものだ。
クロスハート達にとっては百害あって一利ないはずだが…。
「ん?まあ、いいんじゃない?」
「そうですね。」
二人してへたり込んだままのクロスハートとクロスナイトは特に気にした様子もない。
「目的は違うけどさ。セルリアンから街を守る、って事ではこうやって協力できるわけじゃない?だからいいんだよ。」
なるほど、クロスハート達は街を守れる。セルシコウ達は“セルメダル”を得られる。
これもお互いWIN-WINの関係というものか。
「ただ…、私…、強くなっちゃいますよ?」
「いいさ。そうしたらその分俺が強くなりゃいいんだからな。」
なおも気にした様子のセルシコウの肩をクロスアイズが叩く。
「鍛えてくれるんだろ?」
言いつつウィンクしてみせるクロスアイズにセルシコウもようやくニヤリと出来た。
「ええ。シゴいてあげますから覚悟して下さい。」
その答えにクロスアイズも不敵な笑みを返した。望むところだ、と。
「それよりさぁ~。お腹空いちゃったよぉ~!」
大結界でサンドスターを使い切ったクロスハートはとうとう変身が途切れて元のともえに戻る。
セルシコウはその正体を初めてみたが、緑がかった髪色の活発そうな女の子だ。
それに、随分無茶な役割を引き受けてもらってしまった。
ならばこのくらいのサービスをしてもバチは当たるまい、とセルシコウは一つの提案をする事にした。
「なら、うちに来ます?ハクトウワシもそろそろ帰るでしょうから、彼女の分の夕食を作るついでに何か作りますよ。」
「マジで!?いいの!?」
「ええ。私達の世界にも敵と一緒にご飯を食べちゃいけない、ってルールはありませんでしたから。」
そう言ってセルシコウはともえの手をとって引っ張り起こした。
こうして玄武大橋は奇妙な共闘の末に守り通されたのだった。
の の の の の の の の の の の の の の
結局。
玄武大橋近くの工事現場で街路樹などが倒れていた事は原因不明という事で片付けられて大した問題にはならずに済んだ。
で、ハクトウワシが仕事を終えて帰ってくると、今日は物凄く彼女のアパートは賑やかな事になっていた。
なんでもバイト仲間で仲良くなった子達と一緒に夏休みの宿題をしていたのだそうだ。
ただ、その数が尋常じゃない。
なんせ、オオセルザンコウ達3人に加えて7人ものヒトやフレンズがいるのだ。
本来一人暮らし用のハクトウワシの部屋はもう手狭なんてものじゃなかった。
かばん、サーバル、フェネック、アライさんのクロスシンフォニーチームに加えてともえとイエイヌとエゾオオカミまでお邪魔していたのだ。
最初目を白黒させていたハクトウワシだったが、すぐにご機嫌になってしまった。
「ぐ…Great…。」
セルシコウとオオセルザンコウに加えてかばんまで加わって作られた、やたらと品数の多い夕飯にハクトウワシはすっかり胃袋を握り直されてしまったからである。
まさか、今日遊びに来ていた女の子達が世間で噂になりつつある通りすがりの正義の味方だとは露程も思わないハクトウワシだった。
もちろん、実は彼女達がオオセルザンコウ達と敵対関係だとは気づくはずもなかった。
ちなみに。
ロシアンともえスペシャルを引き当ててしまったのがハクトウワシであった事も付け加えておく。
けものフレンズRクロスハート第20話『駆け抜けるけもの達』
―おしまい―
【セルリアン情報公開:ランドワームセルリアン】
トンネル工事用のシールド掘削機を模倣したセルリアン。
かなりの巨体を誇り、パワーと防御力はかなりのものだ。
その代わり、スピードは致命的に遅く、また攻撃方法も巨大な口につけられたブレードでの掘削のみだ。
威力は非常に高いが、直線的な上にスピードも遅いのでこの攻撃に当たる者は中々いないだろう。
その上、索敵能力もかなり低く、余程の攻撃を当てない限り敵が近づいた事に気づく事すらない。
だが、この本体を守る無数のヘルメット型小型セルリアンも内包しており、近づく敵にはそれらをけしかけて身を守る。
如何にしてこのセルリアンの守りを突破するか。それが攻略の鍵だ。