けものフレンズRクロスハート   作:土玉満

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登場人物紹介

名前:ゴマ
好きな物:走る事 プロングホーン様
特技:陸上競技全般
ジャパリ女子中学に通う2年生でG・ロードランナーのフレンズで名前はゴマ。
陸上部に所属。部長のプロングホーンに憧れており取り巻きのような事をしている。
実は彼女自身の実力も中々のもので陸上部の次期エースに名前が挙がる程ではある。
周囲の評価は口は悪いけど意外といい子、というものだったりする。


名前:プロングホーン
好きな物:走る事 陸上
特技:長距離走 陸上競技全般
ジャパリ女子中学に通う3年生でプロングホーンのフレンズ。
ともかく走る事が大好きないわゆる陸上バカで陸上部の部長を務めている。
行動基準が陸上中心でズレているせいか副部長のチーターが振り回される事も多い。
だがその実力は折り紙付きだ。
最も得意なのは長距離走だが陸上競技ならだいたい何でもこなせる。


名前:チーター
好きな物:短距離走
特技:短距離走
ジャパリ女子中学に通う3年生でチーターのフレンズ。
陸上部の副部長で短距離走のエース。
ゴマを引き連れて陸上バカに拍車がかかったプロングホーンのフォローに回る事も多い。
たまに陸上部の手伝いに来たりするともえとは面識がある。


第3話『紙飛行機の君』(後編)

多少のトラブルはあったものの、プール清掃作業も無事に終了して、ともえとイエイヌと萌絵の3人は更衣室へとやってきていた。

念の為にと着替えを用意しておいて正解だった。

ともえは泥だらけになった服を着替えて新しいシャツとハーフパンツを身に着けている。

結局、プール清掃は効率的に作業を進めるようあらかじめ作業計画を立てていたかばん生徒会長と、狙ったのか天然なのかよくわからないアライさん副会長の号令のおかげで史上類を見ない早さで作業が完了してしまった。

思っていた以上に早く作業が終わってまだまだ時間がある。

プール清掃に参加した生徒達の多くはこれ幸いと帰っていく者も多く、校内に人気は少ない。

 

「もう、さっきは焦ったよお。ともえちゃんは本当に怪我してないんだよね。」

「うん。擦り剝けたところもないよ。全然平気。心配かけてごめんね。」

「ともえちゃん。お転婆さんも程々にね。今回は怪我しなかったからいいけど…。」

「そうですよ。ともえさんは無茶しすぎなんです。」

心配顔の萌絵にイエイヌも頷いてみせる。

「うん、二人ともごめん。」

 

そんな事をしていると

「おい。」

と更衣室の入り口から声がする。三人でそちらを見ると

「ゴマちゃん、どうしたの?」

とゴマが入り口に立っていた。

 

「あー…。いや。その…。」

しばらくほっぺをポリポリして言葉を探すようにしてから…。

「おい!お前!なんで俺を助けたりした!危なかっただろうが!」

「何でって…。そりゃああのまま壁にぶつかったりしたら痛そうだろうし…?」

「そういうことじゃなくてー!」

と地団駄にも似た謎のステップを踏むゴマ。それをほっこりとした笑みでともえと萌絵は見ている。

 

「じゃあ。友達だから。それじゃあダメ?」

 

そのともえの答えにゴマの動きがピタリ、と止まる。

だんだんとその顔が赤くなっていき、指をちょんちょんとあわせるようにして

「ダメじゃ…ねーけどさぁ…。」

とようやくそれだけを絞り出す。

 

「アタシ2年A組の遠坂ともえ。でこっちがお姉ちゃんの遠坂萌絵と、今日はお手伝いに来てくれたイエイヌちゃんだよ。あらためてよろしくねゴマちゃん。」

「ゴマちゃ…。まあいいんだけど、2年C組、G・ロードランナーのフレンズ、ゴマ様だ。」

ぷいっとそっぽを向くゴマ。

「ともかく…。助けてくれて……あ、ありがと…。」

と消え入りそうな声でそっぽを向いたままそう続ける。

 

「どういたしまして!」

といい笑顔を向けるともえに

「しょ、しょうがなくなんだからな!チーター先輩がちゃんとともえにお礼言っておけっていうから仕方なくなんだからな!」

赤くなった顔でともえに詰め寄るゴマ。

「しょうがなくかあー。うんうん、それでいいよぉー。もう、ゴマちゃんは素直じゃないところも可愛いねえ。」

「きーっ!な、なんだよぉ!その顔はー!」

再び地団駄なのか何なのかよくわからない謎のステップを踏むゴマ。

 

「と、ともかく!俺はお礼言ったからな!こ、これで貸し借りなしな…ん…だ…か…ら?」

と、段々ゴマの言葉の様子が尻すぼみになっていく。そのままずんずん、と萌絵に近づいていくゴマ。

「おい、お前。」

「うん、どうしたの?」

萌絵も?マークを出しながら小首を傾げる。

 

「お前、気分悪かったりとかしないか?吐き気したりとか。頭痛したりとか。」

「うーん?ちょっとだけ?」

やけに真剣な表情で萌絵の顔を覗き込むゴマ。

「もしかして、お前、昨日夜更かしとかしただろ。」

「え?うん。よくわかるね、ゴマちゃん。」

 

ゴマは腰に手をあて、はぁー、と一息。

 

「多分、お前熱中症の初期段階だぞ。寝不足だと熱中症になりやすいんだ。」

「うぇえええ!?ね、熱中症!?お姉ちゃん大丈夫なのー!?」

「落ち着け!初期段階って言ってるだろ!意識だってちゃんとしてるから大丈夫だ!」

ゴマの肩を掴んでぶんぶんゆするともえ。

 

「そっかあ…。気持ち悪いのはともえスペシャルを飲んじゃったせいだと思ってたけど…。」

「お姉ちゃんヒドイよお!?ってそれどころでもないよお!ねえねえ!ゴマちゃん、どうしたらいいの!?」

相変わらずともえはゴマの肩を掴んだままガックンガックンさせる。

「わかった!わかったから取り敢えず落ち着け!俺の脳みそがシェイクになっちまうだろ!?」

「もう、ともえさん、落ち着いて下さい。」

ゴマからともえを引きはがすイエイヌ。どうどう、とともえを落ち着けている。

 

「んっと、あったあった。水筒にスポーツドリンク入れてあるからこれ飲んで塩飴舐めとけ。」

ゴマは自分のロッカーから取り出した水筒と飴玉を萌絵に手渡す。

「うん、ありがとう。」

「あと、時間があるなら保健室でちょっとだけでも休んでいったほうがいいぞ。」

「そうするよぉー!ゴマちゃんありがとねえー!」

と再びゴマに抱き着くともえ。

「だからお前は落ち着け!抱き着くな!イエイヌ、へるぷぅー!」

「あ、はい!ともえさん、落ち着いて!落ち着いてくださいっ!ステイ!ステイですよ!」

そんなどったんばったん大騒ぎの三人を萌絵はほっこりとした笑みで見守るのだった。

 

 

の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の

 

 

保健室。

今日は養護教諭はいないが休むだけなら特に問題なさそうだ。

既に萌絵をベットに寝かせて休ませ、ベットサイドでイエイヌとゴマがその辺にあったうちわでそよそよ、と小さく風を送っている。

萌絵はベットにいれられるとすぐに穏やかな寝息を立て始めた。

 

「ゴマちゃんも保健室について来てくれてよかったの?」

「お前達だけじゃ頼りないから仕方なくだ。仕方なく!」

ともえの疑問に赤い顔でそっぽ向くゴマ。ついつい声が大きくなりそうになって、イエイヌに「しーっ」と注意される。

ゴマもあわてて自分の口に両手をあててコクコク。

 

「でも助かったよー。ゴマちゃん、よくお姉ちゃんが熱中症なりかけてたってわかったね。」

「ああ。俺は陸上部だからな。練習中に熱中症になるヤツがいても平気なようにきっちり教わってるんだ。」

「へー。それであんなに手際よかったんだ。本当にありがとうね。」

ともえが笑顔を向けてお礼を言うとやっぱりゴマはそっぽ向いて

「べ、別に……このくらい。と、友達…。」

と消え入りそうな声でゴニョゴニョと何事かを話すゴマ。

「ん?なあに?」

「へんっ!と、友達を助けちゃいけないなんてルールはなかったぜ!」

と真っ赤な顔になるゴマ。

 

「ゴマさん、しーですよ。萌絵さんが起きてしまいます。」

「お、おう、悪い。」

再び口元を抑えてコクコク頷くゴマ。それに満足するとイエイヌはゴマの頭を撫でてみせる。

そんな微笑ましい光景に、ふ、と思いついたのか、ともえは自分の肩掛け鞄からスケッチブックを取り出すとその光景を描きはじめる。

 

「お、お前何描いてるんだよ…。」

今度は小声でこそーっとともえの描いている絵を覗き込むゴマ。自身が描かれている絵を見て再び頬を紅潮させる。

「お姉ちゃんが起きたら見せてあげようかなーって思って。思った通りめっちゃ絵になるよー。」

「俺…、こんな風に絵に描かれたの生まれて初めてだ…。」

「へー、もったいない。こんなにいいモデルなのに。」

スケッチブックから目を離さないともえにはさらに一段階ゴマの頬の赤が濃くなったのは見えていない。

 

「あー、もう。萌絵が起きたら飲ませる水、冷やしておくからな…。ったく…。」

ゴマは頭の後ろをガシガシかきながら保健室に備え付けられた冷蔵庫に向かう。

何故自分は絵に描かれた事に文句を言わなかったのか、それは全くわからなかった。

 

「あれ…?冷蔵庫が…ない?」

ふと気が付くとそこにあったはずの冷蔵庫がない。

「なあ。ここに冷蔵庫があった…。は…ず…?」

ゴマがともえ達の方に振り返ると

 

チョコチョコチョコ。

 

と冷蔵庫に足が生えたかのような何かが歩いていく。

思わず言葉を失ってその歩いている冷蔵庫を凝視するともえとゴマとイエイヌ。

ふ、と冷蔵庫が顔…というかドアの開く正面側をともえ達の方に向ける。

目はないけど目が合ったかのようにしばらくじーっとお互いに凝視しあう冷蔵庫とともえ達。

 

―ダッ

 

と、脱兎の勢いで逃げ出す冷蔵庫。

 

「ちょ…!?なんで冷蔵庫が!?冷蔵庫って歩くものだっけ!?」

「そんなわけねーだろ!?」

「お、追いましょう!?」

三人は逃げた冷蔵庫を追って廊下に飛び出す。

 

校舎内は休日で今日は部活動の生徒も少ないのか人気も殆どない。そんな中をチョコチョコチョコ、と走る冷蔵庫。

 

「ねえ!?イエイヌちゃん!あれってセルリアン!?」

「はい!微かにですがセルリアンの匂いがします!」

「セルリアンってなんだ!?お前ら何を言ってるんだ!?」

「ごめんねゴマちゃん、その辺りの説明は後でー!」

と、冷蔵庫を追う三人の行く手に今度は…

 

ピョインピョイン。

 

と電気ポットが跳ねまわるようにして現れる。

電気ポットは何故か廊下に用意されていたちゃぶ台の上に乗っかると、職員室に用意されていた急須にお湯を注ぎ、これまた湯飲みへ中身を注ぎ

粗茶ですが、とでも言いたげな様子でスッと三人に向けて差し出す。

 

「あ、これはどうもご丁寧に。」

「走って丁度喉も乾いたしな。」

「わたしはちょっとお湯に葉っぱ入れたヤツにはうるさいですよ。」

 

思わぬおもてなしを受けてしまったともえとゴマとイエイヌは立ち止まってついついちゃぶ台についてしまう。

それぞれの前に置かれた湯飲みを一口ゴクリ。

 

「ぬるっ!?!?ぬる過ぎじゃねーか!おい!」

「あと全然美味しくない!?」

ゴマとともえの二人は口に含んだお茶をぶー!と思わず吐き出してしまう。

 

そして、ふ、と気が付くとイエイヌが肩をぷるぷると震わせている。

 

「淹れ方がなっていなああああああああああい!!」

ガッシャーン!とちゃぶ台をひっくり返すイエイヌ!

 

「そこになおりなさい!わたしが正しいお湯に葉っぱ入れたヤツの淹れ方を教えてあげます!これでは葉っぱがかわいそうです!」

「う、うわぁああ!?イエイヌがガチギレしてるぞ!?おい!ともえ!何とかしろ!?」

「あー…。イエイヌちゃんはお茶の淹れ方もめっちゃ上手だからこのお茶は我慢できなかったかー…。」

 

電気ポットはピョインピョインと飛び跳ねて逃げていく。

「待ちなさい!まずお湯の温度はしっかりぶくぶく言うくらいまで一度あげてからですねー!って聞きなさーい!」

いち早く電気ポットを追いかけて校舎の曲がり角を曲がって行ってしまうイエイヌ。

「おい!俺たちもイエイヌを追いかけるぞ!」

「そ、そうだね!待って、イエイヌちゃん!」

ともえとゴマも慌ててイエイヌを追いかけ曲がり角を曲がる。

その先でともえ達が見た光景は……!

 

手の生えたドライヤーがイエイヌをブラッシングしている姿だった。

うっとりとした表情でブラッシングされているイエイヌ。

しかし…

「アチチっ!?」

ドライヤーの温度が高くなりすぎてイエイヌの毛皮をほんの少し焦がす。

 

「イエイヌちゃんの至福のブラッシングタイムになんて事を……!ひどい…ひどすぎる!?」

あまりの凶悪な攻撃に戦慄するともえ。

 

「あ、おい!あいつ逃げるぞ!?追わなくていいのか!?」

「はっ!?ま、まてえええ!」

ピョインピョインと跳ねて逃げるドライヤーやポットや冷蔵庫達は階段を上りはじめる。それを追いかけるともえとゴマ。

「この上って屋上だよね…。」

ともえ達も階段を駆け上がる。階段を上がっていけば終点は屋上になる。

さらにそのともえ達の横を液晶テレビとノートパソコン、扇風機たちが追い抜くようにして屋上へと駆けあがっていく。

 

「一体全体どうなってやがるんだ!?」

「あれって職員室とかにあった備品だよね…。これってやっぱりセルリアンの仕業…!」

「だからセルリアンって一体なんなんだー!」

 

言いつつ屋上への扉をバーン!と勢いよく開け放つともえ。その先では……。

液晶テレビ、ノートパソコン、冷蔵庫、扇風機、ドライヤー、電気ポットがまるでイタズラ大成功、とでもいうように跳ね回っている。

ともえ達の姿を認めると、動きを止めて振り返る。

 

「うえ!?あ、あいつらこっち見てるぞ!?」

ゴマが一歩を後退る。

ただ逃げていた今までとは違い、何か圧のようなものを感じさせる。

と、家電達はピョインピョインと飛び跳ねながら一か所に集まり積み重なっていく。

「へ……も、もしかして?」

扇風機と液晶テレビを土台に、その上に冷蔵庫がのっかりその両脇にドライヤーと電気ポットがくっついて、最後に冷蔵庫の上にノートパソコンが乗っかる。

で、真っ黒い水のような何かが折り重なった家電を包み込んだと思ったら…

 

―ギョォオオオ!

 

「が、合体したー!?!?」

ノートパソコンの頭に冷蔵庫の胴体。ドライヤーの左腕に電気ポットの右腕。

両足は液晶テレビと扇風機という異形の巨人が姿を現した!

「ききき、聞いてないぞ!?なんだあれー!?」

慌てるゴマに腕を振りかぶる家電セルリアン。

まるでスローモーションのように迫ってくる家電セルリアンの右腕。しかし、あんな大きな腕で殴られでもしたら大怪我は必至だ。

 

「ひっ!?」

と顔を両手で覆うようにして両目をキツク閉じるゴマ。

 

―ゴォン!

 

と物凄い音が響く。しかし、いつまでたっても身体には衝撃も痛みも来る事はなかった。

おそるおそる、といった様子で目を開けると…

「イ、イエイヌっ!?」

イエイヌが家電セルリアンの右腕を受け止めている姿が飛び込んでくる。

 

「ゴマさんは下がって隠れていて下さい。セルリアンの相手はわたしがします。」

「まあ、しょうがないか。ゴマちゃん。今から見る事は内緒にしといてね。」

「へ…?お前達一体何する気なんだ…。あんなでかいヤツ相手に勝てるわけ…、に、逃げようぜ!」

 

「普通はそうかもしれないけどさ。それでも…。友達を助けちゃいけないなんてルールはなかったからね!」

ともえの隣にイエイヌが立ち、二人で異形の巨人、家電セルリアンと対峙する。

 

「「変身っ!!」」

二人の声が揃って

「クロスハート!イエイヌフォームっ!」

二人の身体がサンドスターの輝きに包まれる。

ともえの頭にピョコンと犬耳が生えてお尻からは尻尾が生える。

丈の短いカーディガンに、ミニスカート。髪色もグレーに近い銀髪へと変化する。

最後に赤いハーネスが胸へと巻き付いて衣装をフィットさせてささやかな膨らみを強調して、変身完了!

 

「クロスナイトっ!」

まずイエイヌの両手にデフォルメされた犬の頭を模したアームガードが装着される。

続けて脛部分にも同じく金属製のレッグガードが装着され、胸には胸当てが装着される。

そして、肩から腰までの短いマントがバサリ、と翻りネックウォーマーはマフラー状に変化。軽く口元までを覆うくらいに隠している。

スカートにも一本真っ白いラインが一本追加、いつもよりちょっとだけ短めの丈だ。

最後に目元にミラーシェードが装着されて変身完了!

 

「おおー。あらためて見てもいい感じだよイエイヌちゃ…じゃなかったクロスナイトっ!やっぱり絵になるよー!」

「って後にしましょう!ともえs…じゃなかったクロスハートっ!」

 

変身完了した二人に家電セルリアンが腕を振りかぶる!

ぶぅん、と腕を振るうも二人はそれぞれ逆側に飛んでセルリアンの腕を回避。

 

「動きはそこまで速くないね!」

「はい、ですが油断しないで下さいね。どんな能力を持っているかわかりません。」

「でも攻撃しないと倒せないもんね!」

 

切り返したともえ。そのまま家電セルリアンに突撃、飛び蹴りを叩きこむ!

ぐらり、と傾く家電セルリアン。

 

その冷蔵庫の背中に巨大な『石』が見える。

 

「よおし!あれが『石』だね!」

ジグザグに走りながら一気に後ろへ回りこむともえ。

「セルリアン!こっちですよ!」

後ろへ回りこむともえをフォローするようにイエイヌが正面で気を引く。

 

「ワンだふる…!」

後ろに回ったともえが必殺技の構えに入るが…

 

―ブォオオオオッ!

 

と脚部の扇風機がともえに向けて強風を吹き付ける!

「へ…?あ、ちょぉおおお!?」

強風でミニスカートが揺れる。変身した際にミニスカートになってしまっているせいでそっち方面の防御力が低くなってしまっていた。

両手でスカートを抑えたせいで必殺技はキャンセルだ。

そうして動きを止めてしまったともえの背後にすそそそ、と近寄る家電セルリアン。

ガコン、と冷蔵庫の扉をあけると、中から取り出した氷を…。

「ぴょぉおおおおおっ!?!?」

ともえの背中に投入してしまった!

思わず変な声をあげるともえ。

駆け寄ったイエイヌが慌ててともえの背中に入れられた氷を取り出す。

今度は丈の短い服が幸いして簡単に氷を取り出す事ができた。

 

「このお!よ、よくもおー!!もう許さないんだからね!!」

再びジグザグダッシュから家電セルリアンの背後に回り込んだともえ。今度こそ…!

「ワンだふるアタァアアアアアック!」

と『石』へサンドスターを纏った手を叩きつけるも…

 

―ガキィン!

 

と火花を散らして弾き返されてしまう。

 

「くっ!?なんでこいつ『石』まで固いの!?『石』って弱点じゃなかったの!?」

「ともえさ…じゃない、クロスハート!危ないですっ!」

こちらに向き直って腕を振るってくる家電セルリアン、間一髪といったところでイエイヌがともえを抱えて飛び退る。

その飛び退った二人に向けて今度は電気ポットの腕部からお湯を発射してくる。

着地したばかりでまだ体勢が整っていない二人!

 

「危ないっ!イエイヌちゃん!」

発射されたお湯を今度はともえが前に出て受け止める。もろにお湯をかぶっちゃうともえだったが…。

「あれ?思ってたより熱くない…?」

電気ポットに表示されている設定温度は40度。ちょうどお風呂と似たような温度である。

ほっと一息つくのも束の間、ノートパソコンの頭がディスプレイに『電気ポット、温度上昇』と文字を表示する。

すると、電気ポットの設定温度も40度から50、60、70、90とどんどん上がっていく。

表示の通りであれば今度モロに喰らえばヤケドしてしまうかもしれない。

 

今度はノートパソコンの頭がディスプレイに『ドライヤー温度上昇。扇風機風量設定最強。必殺技ヲ使用シマス。』と表示する。

「そうか…。アイツ、頭のパソコンから指令を受けて動いてるんだ…!」

 

「ともえs…じゃない、クロスハート!攻撃が来ます!」

ともえとイエイヌ二人の二人は油断なく回避体勢に入る…が…

『クロスハート!攻撃が来ます!』

今度は家電セルリアンの脚部を形成している液晶テレビがイエイヌの声を真似る。

そこを見れば、ちょうど家電セルリアンと戦うともえとイエイヌ…、いや、クロスハートとクロスナイトの姿が映っている。

 

「テレビ部分が偽の声を出してくるかもしれないから気を付けて!」

「わかりました!」

と身構えているところに、とうとう、ピーッ。ピーッと電気ポットがお湯の湧いた事を電子音で報せてくる。

そしてドライヤーと扇風機が熱風を吹き出しはじめたところに電気ポットのお湯を粒状にして混ぜてくる。

 

『必殺技。スチームストームヲ使用。』

の文字がパソコンのディスプレイに表示される。

 

沸騰したお湯が細かい霧状の粒となってドライヤーと扇風機の風に乗ってともえ達に襲い掛かる!

「これ、見た目以上にヤバイ攻撃かも!攻撃範囲が広いし喰らったらヤケドしそうだし…!」

「はい!ともかく今はかわすしかありません!」

駆ける二人を追いかけて蒸気を伴った熱風が吹き荒れる。

屋上をそれぞれに方向をかえて逃げ回るともえとイエイヌであったが、決して屋上も広いわけではない。

徐々に逃げ場を無くしていく二人。とうとう屋上の端っこへ追い詰められてしまう。

 

その時

「おい!お前!」

と屋上の入り口から声がする。

「こここ、このゴマさまが相手だ!」

屋上の入り口からゴマが家電セルリアンを挑発しているのだ。膝がガクガクと震えてそれでも声だけは震えず家電セルリアンに挑発を続ける。

「おい!どうした!ビビってんのか!?違うんだったら勝負してみろー!!」

ともえとイエイヌを追いかけていた熱風蒸気が止んで二人は難を逃れるが今度はそれがゴマへと向けられる。

「なんて無茶を…!」

それでもどうして、とは二人は問わなかった。

ゴマがどう答えるのか二人にはわかり切っていたからだ。

そう。

友達を助けちゃいけないなんてルールはなかった。

ただそれだけなのだ。

 

「こうなったら…一撃で『石』を砕くしかない…!」

ゴマへと迫る熱風蒸気!

ともえとイエイヌが背中を向けた家電セルリアンの『石』に向けて疾る!

二人が『石』を砕くのが先か、熱風蒸気がゴマに届くのが先か…!

 

「ダブル!」

「ワンだふる!」

「「アタアアアアアアアック!」」

二人の必殺技を重ねて『石』へ攻撃するも…

 

―ガキィン!

 

とやはり『石』は二人の技をも跳ね返してしまう。

そして『石』を砕けなかったという事はゴマへ迫る熱風蒸気も止まらない。

「あ…。」

熱風蒸気がゴマを包み込む直前…。

 

―ヒュウ…

 

微かなサンドスターの輝きを伴った紙飛行機が一つ、家電セルリアンの前を横切る。

あまりにもその場にそぐわない程のんびりと飛ぶ紙飛行機に一瞬見惚れたように動きを止める家電セルリアン。

その間に一人の人影がゴマを抱えて大ジャンプでその場を離れる。

屋上に備え付けられた給水塔の上にまでひとっ飛びのその人影。

ゴマをお姫様抱っこにした人影は逆光でともえ達からは姿を確認できない。

 

「あ、あれは…」

「紙飛行機の君…!?」

徐々に逆光に慣れた二人。

その姿は大きな耳に蜂蜜色の髪、白のブラウスにヒョウ柄のスカート。二の腕までを覆うアームグローブとニーソックスもスカートと同じヒョウ柄である。

それは…

 

「サーバルちゃん…?」

ともえは一瞬そう思ったが顔立ちが違う。確かに猫科、サーバルキャットのフレンズなのであろうがそれは彼女達の知るサーバルではないように思えた。

 

紙飛行機の君は給水塔の上にゴマを降ろすと

「ここに隠れていて下さい、すぐに終わらせますから。」

と、言い置いてから給水塔の上から飛び降り、家電セルリアンと対峙する。

 

「紙飛行機の君…。一体あなた何者なの…。」

その背中に呼びかけるともえ。しかし紙飛行機の君からは…

「クロスハート!このセルリアンの『石』は6体分のセルリアンが防御力を集めているから凄く固いんです!」

と求めているのとは別の答えが返ってくる。しかし、今はその求めていなかった答えの方が重要だ。

「そうか…。それで、わたし達の牙が『石』に通らなかったんですね…。」

納得顔のイエイヌ。ならばどうするか、と思案するところに…。

 

「ボクが『石』を砕きます。お二人はあのセルリアンの注意をひいて下さい。」

「わかった。」

バッとそれぞれに散るイエイヌとともえとそして紙飛行機の君。

 

「さあ、セルリアン!こっちですよ!」

「当然こっちもね!」

「「あぁあおおおおおおおおん!」」

二人揃ってウォーハウリングの遠吠えをするともえとイエイヌ。セルリアンの注意がそちらに向いて再びスチームストームの体勢に入る。

腕の電気ポットから蒸気が吹き上がってもう必殺技を放つまでの時間はないように見える。

 

紙飛行機の君は…大きくジャンプすると空中で叫ぶ!

「チェンジシルエット…!アフリカオオコノハズクシルエット!」

 

―カッ

 

とサンドスターの輝きが紙飛行機の君の身体を包み込む。

それが晴れた時…。そこには白を基調としたコートのような衣装を身にまとい、頭に鳥系フレンズの特徴である翼を生やした紙飛行機の君がいた。

スッと音もなく家電セルリアンの背後に急降下で回り込む!

 

「チェンジシルエット!サーバルシルエット!」

 

家電セルリアンの背後で紙飛行機の君がもう一度サンドスターの輝きに包まれる。

その輝きの中から再びサーバルキャットのフレンズのような姿をした紙飛行機の君が飛び出す!

 

「あれってクロスハートのフォームチェンジと一緒!?」

と驚きを見せるともえ。

 

その間に紙飛行機の君は一気に『石』へ肉薄。

「疾風の…!サバンナクロォオオオオッ!」

サンドスターを纏った爪を叩きつける!

「うみゃみゃみゃみゃみゃみゃみゃみゃー!」

何度もサンドスターを纏った爪を叩きつけ続ける紙飛行機の君。

堅い『石』についに亀裂が入りはじめる…。が…

 

―バッ

 

と『石』を砕かれる直前、家電セルリアン達は合体解除してそれぞれに逃げ出す!

「まずい!あれでまた合体されたら……!」

「6体分のセルリアンが防御力を集めて『石』を守っていたのなら…分離した今ならチャンスだよ!」

焦りの声をあげるイエイヌに逆にニヤリと不敵な笑みを見せるともえ。

 

「あのセルリアンを一度に捕まえるにはスピードが重要…。多分ヘビクイワシフォームでも全部は捕まえきれない……。だから!」

 

ともえの持つ肩掛け鞄からサンドスターの輝きが漏れ出てスケッチブックが飛び出す。

勝手にページがめくれていき、さっき描いたゴマのページで止まる。

 

「チェンジ!クロスハート!G・ロードランナーフォーム!」

 

叫ぶと同時、ともえの身体をサンドスターの輝きが包み込む。

頭に鳥の翼とともに髪に☆のマークが散りばめられる。続けてお尻から尾羽がピョコンと飛び出して

左腕に水色のリストバンドが装着、続けて丈の短いランニングユニフォームに『Beep』の文字が入り。胸元を覆う。

そして下は足の動きを阻害しないブルマ型だ。

白のソックスに白のスニーカーが装着されて、最後にマフラーが装着されて…

「フォームチェンジ完了!」

 

G・ロードランナーフォームへと変化したともえ。

 

―ヒュン!

 

その速度は風をも追い抜く!一瞬で分離した家電セルリアン達へ追いつくと

「いえいぬ…じゃなかったクロスナイトッ!」

次々と捕まえた家電セルリアン達をイエイヌの方へぶん投げる!

 

「はい!任せて下さい!」

一体、また一体とイエイヌの方へぶん投げられた家電セルリアン達。合体状態ではない為防御の薄い『石』がイエイヌの手で次々と撃破されていく。

最後に残ったのは頭部のノートパソコンに取りついたセルリアンだけである。

「これで最後ぉ!」

とノートパソコンセルリアンに手を伸ばすともえ。

しかし…最後の悪あがきか、給水塔の前でサッと急に方向転換!

 

「へ!?」

 

あまりにスピードが乗り過ぎたともえ。給水塔の壁が迫る!

 

「遠坂さん!プールでやったあれ!」

給水塔とともえの間に割って入る紙飛行機の君。

そう、ほぼ同じ状況がついさっきあった…。

ともえは紙飛行機の君に手を伸ばす!

その手を掴んだ紙飛行機の君。身体を回して直線運動から円運動へもっていきスイングバイの要領で逃げたノートパソコンセルリアンの方へともえをぶん投げる!

「ナイス…!紙飛行機の君!」

ノートパソコンセルリアンへ迫るともえ。

 

「爆走…!スピードスタァアアアアッ!」

そのままさらに加速!すれ違い様に『石』を一撃…!

ズシャシャー!と土煙をあげながらともえが制動かけて止まると同時。

 

―パッカーン!

 

とついに最後のノートパソコンセルリアンもサンドスターへと還る。

 

「ふう。何とかなったね。ありがとう、紙飛行機の君。」

と紙飛行機の君へ歩みよるともえ。

「あれ?紙飛行機の君。さっき遠坂さん…って…。それにプールでの事を知ってるって…。」

しばらくじーっと紙飛行機の君の顔を眺めるともえ。髪色も違うし大きな耳も生えているけれど、それでもともえには一人の人物の姿が重なっていた。

「ええと…。も、もしかして紙飛行機の君って…か…」

とその名前を呼ぼうとした時、ぴ、と紙飛行機の君の人差し指でその唇を抑えられてしまう。

「後でお話しますから、今は…」

うん、とお互いに頷きあう二人。

 

「紙飛行機の君、一体何ばんちゃんなんだ…」

「クロスハート、一体何坂さんなんですか…」

 

言い合ってから再び「うん。」と頷きあう。

二人の間に何とも微妙な言いようのない空気が漂う。

 

「じゃ、じゃあ、また後日あらためて。」

 

紙飛行機の君は言いつつ大きくジャンプすると屋上から校舎の壁を蹴って姿を消してしまう。

 

「ええと…ともえさ…じゃなかった。クロスハート。紙飛行機の君と一体何を…?」

「あー。うん。そのうちお話しましょうね、って約束だよ。」

二人で紙飛行機の君が去った方角を見つめる。

 

「紙飛行機の君が来たらお茶出さないとね。どんなのがいいかな?」

「そうですね…。とりあえずともえスペシャルだけは止めておいた方がいいかと…」

「もう!イエイヌちゃんヒドイよぉ!」

二人して顔を見合わせてから微笑みあっているところに……。

 

「おい!そろそろ降ろせよな!」

と給水塔の上のゴマが悲鳴じみた文句を言うのであった。

 

 

の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の

 

 

その後、ゴマは二人の正体を内緒にしておいてくれる、と約束してくれた。

しかし…。

別な場所からクロスハートの名は一躍人々の知るところとなっていた。

 

時間は少しだけ遡る。

お昼くらいにようやくカフェに戻った遠坂春香。

ふ、とテレビを見ると、そこに映っていたのはクロスハートとクロスナイトという謎のヒーローが異形の巨人と戦う姿であった。

テレビ型セルリアンの能力は自身が画面に映したものを街中のテレビに映す、というものであったのだがまだ二人はそのことを知らない。

 

「これがクロスハート…。」

 

とテレビに視線を釘付けにする春香。

画面の中のクロスハートが戦う姿を見つめ…。

 

「そうだわ!録画しておかなきゃ!DVDにも焼いて永久保存版ね!」

 

その日、街中のテレビに突如として現れた謎のヒーローとしてクロスハートは本人も知らないうちに鮮烈デビューを果たしてしまっていたのだが

知らぬは本人ばかりなり、であった。

幸いだったのは、テレビに映っていたシーンは正体に言及されずに済みそうなシーンばかりであった事だろう。

 

こうして、一躍クロスハートの名は人々の噂に囁かれるようになるのであった。

 

 

 

けものフレンズRクロスハート第3話『紙飛行機の君』

―おしまい―

 




セルリアン情報公開

第3話登場 家電セルリアン『ジョア』
複数の家電に取りついたセルリアン。
内訳はノートパソコン、冷蔵庫、扇風機、ドライヤー、電気ポット、液晶テレビである。
一体一体は決して強くなく、イタズラする程度の能力しか持ち合わせていないが合体する事で脅威度が増す。
しかも、弱点の『石』に6体分のセルリアンが防御力を集める事で『石』をガードしているので非常に厄介だ。
必殺技は電気ポットで沸かしたお湯を扇風機とドライヤーの風に乗せて吹き付けるスチームストーム。
さらに防御に優れるフレンズが相手の場合には冷蔵庫から取り出した氷を砕いて扇風機の風に乗せて吹き付けるブリザードを追い打ちで放ち、熱膨張と収縮を利用した防御低下攻撃まで仕掛けてくる。
『石』は固いが合体状態で『石』を砕ければ一度に6体のセルリアンを撃破できる。
しかし、ピンチになると合体を解いて逃げ出すので如何にして固い『石』を砕くのかが攻略の鍵である。
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