けものフレンズRクロスハート   作:土玉満

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第21話『真夏の夜にあった怖い話』(後編①)

 

 

 昼下がりからゴロゴロと響く雷鳴。

 もう、空はいつ底が抜けて夕立を降らせ始めてもおかしくない模様だ。

 その空模様の中を、オオセルザンコウ、フェネック、アライさんの三人は商店街への道を急いで戻っていた。

 配達が終わったというのも、もちろんある。

 しかし、もっと深刻な理由があった。

 U-Mya-Systemがセルリアン発生のアラートを発したからだ。

 

「なあ、これはどういう事だと思う?」

 

 オオセルザンコウは後ろを走るフェネックに訊ねる。

 それはU-Mya-Systemが報せてきたセルリアン発生アラートが商店街全体に広がっている事だった。

 これはどう考えたらいいのか。

 商店街に大量のセルリアンが発生したという事だろうか?

 

「ごめん。それはわかんないよ。このセルリアンレーダーって試用段階だって話だからね。正確なところは実際自分の目で確かめるしかないんじゃないかな」

 

 オオセルザンコウの見立てでは、このフェネックというフレンズがクロスシンフォニーチームの参謀的な役割を担っていると考えていた。

 その彼女がそう言うのならそうなのだろう。

 やがて見えて来た商店街は異様だった。

 

「なんだ、これは……。」

 

 三人の目の前には霧に包まれた商店街があった。

 あまりにも濃い霧の為に、商店街内の様子が全くわからない。

 そこに無策で突入するのはあまりに無謀だ。

 だが、アライさんはスピードを緩める事なく商店街へと走り込もうとした。

 

「まぁ、待て」

「ぐへっ」

 

 オオセルザンコウがアライさんの首根っこを抑えて引き留める。

 急に止められたアライさんは首が締まったが、まあ、悪気はないので許して欲しい。

 

「な、何をするのだオオセルザンコウッ!?」

「すまない。だが、このまま突っ込むのはあまりにも危険過ぎる。何か作戦が必要だろう」

 

 両手をバタつかせて怒るアライさんにオオセルザンコウは努めて冷静に言った。

 何せ、冷静なはずのフェネックまでもが商店街に突入しようとしていたのだ。

 オオセルザンコウはフェネックを高く評価していた。

 冷静で、最小限の言動でもって場をコントロールしてさり気なくよりよい結果を出すよう誘導してくる。

 それなのに、今は無謀にも濃霧の中へ突っ込もうとしていた。

 他の者が焦りを見せるなら自分くらいは冷静でなくてはならない。オオセルザンコウはそう考えて、もう一度冷静にみんなを見返す。

 

「(ふむ。アライさんが突入するなら当然ついていく、と言ったところか)」

 

 オオセルザンコウはフェネックの行動をそのように分析した。

 それは的を射ていた。

 今日はオオセルザンコウとアライさんとフェネックは同じチームでデリバリーマンの仕事をこなしていた。

 なので、何となく彼女達の性格も把握できてきた。

 それに彼女達が焦る気持ちだって理解出来る。

 奈々やキタキツネやギンギツネは商店街の中にいるはずだし、他の多くの買い物客や店員達だって一緒のはずだ。

 セルリアンが現れているのならリスクを顧みず突入したい気持ちはわかる。

 

「いやぁ。ごめんね、オオセルザンコウ。止めてくれて助かったよ」

 

 そんなオオセルザンコウの考えを見透かしたようにフェネックが言う。

 いやはや、やはりクロスシンフォニーチームは一筋縄ではいかないらしい、と苦笑するオオセルザンコウだった。

 

「まずは作戦を考えよう。みんなでな」

 

 とりあえず三人で顔を付き合わせて作戦会議だ。

 フェネックは携帯電話を取り出すと、画面にU-Mya-Systemを映し出してみせた。

 そこには、ちょうど商店街を囲むようにして、こちらに近づいてくる者がいる。

 一つはともえとイエイヌのチーム。

 もう一つはかばんとサーバルとマセルカのチームだ。

 彼女達も商店街の異変に気付いてこちらに向かっているのだろう。

 

「これが私達。そして……この商店街の中にいる反応はエゾオオカミとセルシコウだね」

 

 オオセルザンコウもその画面を見ながら何かを考え込む。

 果たして、このまま突入していいものかどうか。

 最悪、あの霧の中がセルリアンの腹の中という事だってあり得るのだ。

 出来れば慎重を期したい。

 

「ふっふっふ……」

 

 そんな中で唐突にアライさんが含み笑いを漏らす。

 一体どうした、と訝しむオオセルザンコウはそちらに視線を向ける。

 すると、アライさんは自信たっぷりにこう言い放った。

 

「アライさん、かしこいから作戦を思いついたのだ!」

 

 ほう、どんな作戦だ。とオオセルザンコウも興味をそそられる。

 

「簡単なのだ。アライさんとフェネックの二人であの霧の中に入ってみんなを助けてくるのだ!」

 

 えっへん、と胸を張ってみせるアライさんにオオセルザンコウは頭が痛くなる想いだった。

 そう簡単にいかないから困っているというのに。

 助けを求めてフェネックの方へ視線を移したオオセルザンコウは意外なものを見た。

 フェネックが先程のアライさんの案を真剣に検討しているのだ。

 いやいやそれを考えるよりも他の作戦を考えた方がいい、と思っていたオオセルザンコウだったが、フェネックの意外な一言に絶句させられた。

 

「いやあ。案外ありかもしれないよ」

 

 案外も何も最初からナシだ。オオセルザンコウはその言葉を寸前で飲み込んだ。

 フェネックが「話を聞くくらいはタダだよ」と言いたげに彼女を見ていたからだ。

 

「まずね。私とアライさんはかばんさんが変身する時に、かばんさんの所へ行けるんだ。分かりやすく言うとテレポーテーションってところかな」

 

 にわかには信じがたい話だが、それが本当ならアライさんが言った作戦だって一考の余地が生まれる。

 

「つまり、キミ達二人が先行して偵察をする、と言いたいわけか」

「ご名答」

 

 つまり霧の中にフェネックとアライさんが先行して、クロスシンフォニーに変身する際に『シンフォニーコンダクター』の機能を使って合流しようというわけだ。

 悪くない案だ。

 今、足りていないのは情報だ。

 それを探れるというのなら願ってもない。

 だが、問題が一つ。

 

「しかし、キミ達二人だけではセルリアンが現れたらどうにも出来ないだろう」

 

 フェネックもアライさんもクロスシンフォニーとして戦って来た歴戦の戦士だ。

 けれども、変身できるわけではない。

 小物の取り巻きセルリアンくらいなら何とかなるかもしれないが、この霧を発生させるような大物になったら到底太刀打ちできないだろう。

 これを解決する案が一つだけある。

 

「だから、私も一緒に行こう」

 

 オオセルザンコウは“セルメダル”を取り出す。

 今は“アクセプター”の出力を最低に落としているが、“セルメダル”で変身してしまえば並みのセルリアンなど恐れるに足りない。

 それに、アライさんとフェネックだけを危険に晒すわけにはいかなかった。

 

「つまり、三人でまずはあの霧の中に突入ってわけだね」

 

 フェネックはニヤリとする。

 そう、それは……。

 

「アライさんが最初にやろうとした事で正解だった、ってわけだねぇ」

 

 という結果になったからだ。

 結果論だ、と言いたいオオセルザンコウだったが、思い直してこう言った。

 

「ああ。そうだな。アライさんはかしこいな」

 

 アライさんはそれに得意満面でフェネックはそれを嬉しそうに眺めていた。

 オオセルザンコウは苦笑しか出ないが悪い気分ではなかった。

 

「よぉし!それじゃあアライさんに続くのだー!」

 

 こうして三人は霧の中へ突入していくのだった。

 

 

の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の

 

 

 商店街の中は霧に包まれて、数メートル先ですら見通せない。

 それにいくら歩いてもどこにも行きつかないし、人にも会わない。

 あまりにも異様な光景に、キタキツネとギンギツネはお互いの手を握り途方に暮れていた。

 それに二人にはもう一つの大問題を抱えてもいた。

 奈々とはぐれてしまったのだ。

 この異様な光景の中で奈々を探し出して、どこかへ落ち着く。

 そんな事が出来るのかと二人して途方に暮れていたのだ。

 

「と、ともかく。こうしていても始まらないわ。まずは奈々姉さんを探しましょう。さっきまで一緒にいたんだもの。きっと近くにいるわ」

「うん、そ、そうだね」

 

 ギンギツネの提案にキタキツネも頷く。

 そうして、二人で手を取り合ったまま奈々の名を呼びその辺りを歩いてみた。

 やはり商店街の中だというのに、歩き回ってもどこにも行き着かない。

 しかし、さすがに歩き回れば誰かには会うもので、二人の前には霧に霞んでよく見えないが人影が現れた。

 ホッと安心するキタキツネとギンギツネ。

 ともかく、奈々の事を見なかったか訊いてみよう。

 そう思って人影の方へと近づく。どうやらあちらも二人らしい。

 

「あ、あの……。すみません」

 

 声を掛けたギンギツネは絶句した。

 振り返った人影はキツネの耳に尻尾。自分達とうり二つの姿をしていたからだ。

 ただし、その顔に本来あるはずの目や口や鼻はなく、大きな一つ目だけしかなかったが。

 

「ひっ!?!?」

 

 その姿を見たギンギツネは思わず腰を抜かしてしまった。

 ゆらり、と一つ目の化け物達がギンギツネの方へ近づいて来る。

 

「た、立って! ギンギツネ!」

 

 どう考えてもあの一つ目の化け物は普通じゃない。

 逃げなくてはとキタキツネがギンギツネの手を引っ張る。

 だけれども、あまりの事態にギンギツネは腰を抜かしたまま動けないでいた。

 ゆっくりと一つ目の化け物が彼女に向けて手を伸ばす。

 

「ぎ、ギンギツネに近づかないで!」

 

 キタキツネが両手を広げて通せんぼし、背中にギンギツネを庇う。

 そうなると、今度はキタキツネが矢面に立ってしまった。

 一つ目の化け物は、そちらでも構わないとでもいうようにキタキツネへ手を伸ばす。

 あと一息でその指がキタキツネへ届く、その刹那。

 

「うぉりゃぁああああああああっ!」

 

 聞き慣れた声の雄叫びと共に乱入して来る人影が一つ。

 揺れる赤毛のサイドポニーを揺らす姿は奈々のものだった。

 なんと、奈々はその拳で一つ目の化け物を殴り倒したのだ。

 

―パッカァアアン!

 

 と小気味よい音と共に砕け散る一つ目の化け物。後にはキラキラと輝く粒子の残滓が残るのみだ。

 奈々は続けてクルリ、と華麗なターンを決めるとそこからしなるように脚を繰り出す。

 回し蹴りである。

 その餌食はもちろん、残る一つ目の化け物だ。

 

「飼育員なめんなぁああああああっ!」

 

 謎の気合と共に繰り出された回し蹴りは再び一つ目の化け物をパッカーンと砕き、輝く粒子へと還してしまった。

 

「ふう。あなた達、大丈夫?」

 

 まだ腰を抜かしたままのギンギツネとキタキツネに奈々は手を差し出す。

 

「って、うわぁ。キタキツネだ。へー。こっちにもちゃんと居たんだ。ええと、こっちの子はギンギツネかなぁ」

 

 よっ、と軽い掛け声と共に、彼女はギンギツネを引っ張り起こす。

 

「ええと、ありがとう。奈々姉さん……」

 

 あの化け物が殴り倒していいものだったのかどうかわからないが、取り敢えず助けてもらった事は確かだ。

 ギンギツネは戸惑いながらも礼を言う。

 と、何かキタキツネが険しい顔をしていた。

 一体どうしたのだろうと思っているとキタキツネはギンギツネを引っ張って引き寄せる。

 

「離れて。ギンギツネ」

 

 どうして、キタキツネは奈々から距離を取るのだろう?

 その疑問の答えは彼女自身が続けた。

 

「あの人、奈々じゃない。あなた、誰なの?」

 

 まさか、そんなはずはあるまい。

 一体何を言い出すの、と言いかけたギンギツネは言葉を呑んだ。

 奈々が。

 いや、奈々の姿をした何者かがまるでキタキツネの言葉を肯定するようにニヤリとその口元を笑みの形にしたのだから。

 

 

の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の

 

 

「エゾオオカミ。あなたの選んでくれたユカタ? とやらは中々いいですね。動きやすいです」

「そうかい。そいつぁよかったぜ!」

 

 霧の商店街の中、エゾオオカミとセルシコウの二人は背中合わせになる。

 二人は青龍神社で行われる夏祭りのポスター撮影へ向かう途中だった。

 ちなみに彼女達が現在着ているのは、セルシコウは下がミニスカート状のミニ浴衣と呼ばれるもので、エゾオオカミの方は甚兵衛である。

 男形がいた方が映えると押し切った結果、エゾオオカミまで浴衣になる事態は避けられた。

 

「しかし、キリがないな!」

「まったくです」

 

 言いつつ二人揃って正拳突きで霧の中から現れたヒト型セルリアンを撃破する。

 先程、霧がいきなり濃くなって以降、この化け物たちはひっきりなしに現れるのだ。

 ハッキリ言ってそいつら一体一体は弱い。

 セルシコウもエゾオオカミも変身しなくても容易に相手どれる程に。

 しかし、倒しても倒しても、霧の中から次々とセルリアンが現れる。

 

「他の人達も無事だといいのですが」

 

 途中で出会うセルリアン達を倒しつつ進んでいたエゾオオカミとセルシコウだったが一向に誰にも出会わない。

 いくら霧に包まれているからといって、これはおかしい。

 

「そういうセルリアンの能力……なのかもな」

「ええ。おそらくはその通りかと」

 

 エゾオオカミの言葉に頷くセルシコウ。

 どうやら色鳥町商店街は突如あらわれたセルリアンに乗っ取られつつあるらしい。

 だったら、この霧を発生させているセルリアン本体を叩くしかない。

 だが当てがない。

 襲い掛かってくるセルリアンを撃退は出来ている。

 けれども、肝心の元凶がどこにいるのかわからない。

 

「まったく、まどろっこしいですね!」

 

―パッカァーン!

 

 セルシコウはいら立ちと共に、再び現れたセルリアンを上段回し蹴りで文字通り一蹴してみせた。

 と、エゾオオカミは気づいた。気づいてしまった。

 

「あー……その……。足技は程々にしておいた方がいいんじゃねーかな」

 

 そっぽを向きながらそんな事を言うエゾオオカミが何を言わんとしているのかわからず、セルシコウは小首を傾げた。

 

「いや……。ほら。今着てるのミニスカートだし……」

 

 そこまで言われればようやくセルシコウも言わんとしている事を理解出来た。

 慌ててスカートの裾を抑えるが、とき既に遅し。

 八つ当たりと理解しながらもセルシコウはエゾオオカミに感情をぶつけるしか選択肢がなかった。

 

「もう! そういうところですよ、エゾオオカミ!?」

「いや、どーいうところだよ!?」

 

 そんなこんなで、この二人も霧の商店街を彷徨うのだった。

 

 

の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の

 

 

 キタキツネとギンギツネは目の前にいる奈々の姿をした何者かから距離を取ろうとジリジリ後退る。

 先程、霧の中から現れた自分達ソックリの姿をした一つ目の化け物とは違うのだろうか。

 それとも、これが奈々が昨晩見たというドッペルゲンガーなのだろうか。

 考えてもキタキツネとギンギツネには分からなかった。

 目の前の奈々の姿をした何者かは両手を大きく広げると……。

 

「あー。うん。そうだよ。私はあなた達が知ってるナナじゃないの」

 

 言いつつ両手を降参、とばかりに挙げて見せた。

 どうやら自分達をどうこうしようというつもりはないらしいが、果たして信用していいものかどうか。

 

「信用しろとは言わないけれど、これだけは信じて欲しいな。私はあなた達の敵じゃあないよ」

 

 確かに先程はこの奈々の姿をした何者かに助けられた。

 けれど、こんな状況で信じていいものかどうか。

 なおも悩むキタキツネとギンギツネ。

 そんな二人の緊張をほぐす為か、奈々の姿をした何者かは降参の姿勢のままで続けた。

 

「ええとね。とりあえず自己紹介。私は菜々。こことは別な世界のジャパリパークってところから来た飼育員なの」

 

 一体彼女は何を言っているんだ。

 そう思ってキタキツネとギンギツネは顔を見合わせた。

 と……。

 

―ボンッ!

 

 霧を切り裂いて先程現れた一つ目の化け物が再びキタキツネとギンギツネに襲い掛かろうとした。

 

「私の目の前でフレンズを食べさせるわけないじゃない!」

 

 ほんの一呼吸で間合いを詰めた菜々と名乗った女の子は再びしなる足で上段蹴りを一閃。

 一瞬にして一つ目の化け物を蹴り倒してしまった。

 だが……。

 

―ゾロゾロゾロ

 

 霧の中から一つ目の化け物が大量に現れる。

 

「あー、もう。話の途中なのになあ」

 

 菜々と名乗った少女はそれでも臆する事はなかった。

 それどころか、キタキツネとギンギツネを背に庇う。

 

「ごめんね、詳しい話は後にするよ。ただもう一つだけ信じて欲しい。私があなた達二人を守って見せるって」

 

 言いつつ彼女は古ぼけた手帳を取り出す。

 使い込まれたらしいそれは多数の栞が挟まっていた。

 よく見ると、ほつれを補修する為か多数の動物シールが貼られている。

 彼女はその手帳に挟まれた栞のうち一枚を引き抜くとそれを額にあてて叫ぶ。

 

「変身ッ!キタキツネモード!」

 

 瞬間、木の葉が舞った。

 その木の葉は彼女が栞に押し花としてつけていたのと同じものに見える。

 菜々を中心に舞っていた落ち葉の嵐が治まった時、そこに立っていたのは……。

 

「「ニンジャだ……」」

 

 そろって感想を漏らすキタキツネとギンギツネ。二人の目の前にはそんな姿をした菜々がいた。

 肩から先の袖がない和服に足先に向かってラッパ状にわずかな膨らみを見せる袴。

 そして足元は脚絆と呼ばれる装具でしっかりと絞られている。

 履いているのは足袋と呼ばれる靴下で、草履は動きやすいようにギッチリと踵部分までわらじ紐で固定してあった。

 そして、サイドテールの逆側にキツネを象った面を横向きにつけて、口元を面頬と呼ばれるマスクで隠している。

 さらにはさっきまでは確かにヒトだった菜々の姿がレモンイエローの髪色にかわって、キツネの耳と先っぽだけが黒いキツネの尻尾まで付けているのだ。

 これはまるで……。

 

「クロスハートみたい」

「クロスナイトみたい」

 

 残念ながらキタキツネとギンギツネの感想は揃わなかった。

 しかし、そこからは一方的だった。

 菜々の姿が一瞬掻き消えたかと思ったら、あれだけいた一つ目の化け物達がシャボン玉でも割れるかのように全て光の粒へと還ってしまったのだ。

 そうしてから、再びキタキツネとギンギツネの前に謎のニンジャが姿を現す。

 

「さて、あらためまして自己紹介ね。私はクロスレインボー。通りすがりの正義の味方、クロスレインボーだよ」

 

 面頬を付けているというのに、その声は不思議とよく通った。

 

 

の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の

 

 

 色鳥町商店街前交番もやはりこの霧に異常を感じていた。

 

「ヤマさん、念の為ですけど軽く巡回してきますね。もしかしたらこの霧で困ってる人がいるかもしれないですし」

 

 いつも職務に熱心なハクトウワシはそういうと、無線の調子を確かめてから雨合羽を被る。

 幸いというべきかなんというべきか、交番までは霧は届いていないようだった。

 それだけに、商店街だけが濃霧に包まれている光景は異様でもある。

 

「うん。何かあったら無線ですぐに連絡してね。今の所110番通報なんかは入っていないけれど、こちらでも何かあったらすぐに報せるよ」

 

 ヤマさんは待機して緊急に備える。

 空模様も悪いし、この霧だし、何事もないといいが。

 そう願ってハクトウワシは巡回に出る。

 昼間だというのに、商店街の中は全然見通せない。

 念の為に持ってきた懐中電灯をつけてみても大した役には立たなかった。

 ハクトウワシは意を決して霧の中へ歩みを進める。

 と、少し歩くと霧が晴れた。

 最初ホッと安心したハクトウワシだったが……

 

「what?」

 

 と、戸惑いの声をあげる事になってしまった。

 目の前に交番がある。

 それはつい先ほど出発したばかりの色鳥町商店街前交番だ。

 つまり、ハクトウワシは商店街の中に入ったつもりだったのに、いつの間にか外に戻されてしまったのだ。

 慌てて後ろを振り返ると、商店街入り口のアーチが霧に霞んで見える。

 いくら霧で視界が悪くたって、180度進行方向を間違えるわけがない。

 ハクトウワシはもう一度、商店街の入り口に向けて歩みを進める。

 けれど結果は一緒だった。

 

「い、一体これはどういう事なの……」

 

 ハクトウワシは目の前に立ち込める濃密な霧に戸惑いの声をあげる事しかできなかった。

 

 

―後編②へ続く

 

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