けものフレンズRクロスハート   作:土玉満

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第22話『風雲! グルメキャッスル』(後編)

 

 

 時刻はお昼を回った。

 『グルメキャッスル』は大忙しのお昼時をこなし、少しばかりの小休憩といったところだ。

 お昼時も終わって比較的落ち着いて来たかな、という時にもまだまだ『グルメキャッスル』は攻勢を緩めない。

 

「はい、お疲れさまー。冷たいソーダはどう? かばんちゃんとイエイヌが作ってくれるんだよ。すっごいんだー! 見て行って!」

 

 サーバルが次々とお客さんを呼び込みしていく。

 その狙いは、青龍神社本殿へ続く長い階段を降りて来た人達だ。

 青龍神社本殿は神域という事で屋台が出ていない。

 つまり、あの長い階段を昇り参拝して戻って来たお客さんは相当疲れているはずだ。

 この暑さでもあるから、当然喉が渇いてしまう。

 そんな時に冷たいサイダーなんて言われたら、ついつい立ち寄りたくなってしまうというものだ。

 そして、サーバルに引っ張られていった先では……。

 

「い、いらっしゃいませー……」

「いらっしゃいませ!」

 

 ベストに蝶ネクタイ、スラックスでバーテンダースタイルを決めたかばんとイエイヌの二人がいる。

 かばんの方は若干の照れが見られるが、イエイヌの方は普段から喫茶店『two-Moe』でお手伝いをしているだけに堂々としたものだ。

 ただ、肝心の冷たいサイダーというのが見当たらない。

 あるのはシェイカーと大きな氷にアイスピック、それにお水だけだ。

 お客さんが不思議に思っていると、イエイヌがアイスピックを手にした。

 

「いきますよぉー!」

 

―ズガガガガガッ!

 

 電動工具もかくやと言わんがばかりの勢いでイエイヌは大きな氷を削っていくつものカチ割氷を作っていく。

 あまりの勢いに観客達も目を奪われた。

 もっとも、別な世界からやって来たイエイヌだ。やろうと思えば素手でだって氷を削る事は出来ただろう。

 ただ、それをすると目立ち過ぎる。

 なので、アイスピックはむしろ演出用の小道具だった。

 

「はい! かばんさんっ!」

 

 出来上がった氷はイエイヌの手によってかばんへとパスされた。

 それを受け取ったかばんは、シェイカーへ投入。

 砂糖を大匙で4つ入れた後に、予め用意された水を追加した。

 直後、かばんは素早くシェイカーの蓋を閉めると……。

 

―シャカシャカシャカシャカ!

 

 本職のバーテンダーのようにシェイカーを振って見せる。

 その姿に観客達からも感嘆の声が漏れた。

 

「かばんちゃんカッコいいよー!」

 

 客引きのはずのサーバルも思わず見入ってしまう程である。

 素早くシェイクを終えたかばんはシェイカーの中身を紙コップに注ぐ。

 すると……。

 

―シュワァアアアア……

 

 炭酸の弾ける音が響いてくるではないか。

 これは手品か何かなのか、と観客達も不思議に思う。

 

「これは正真正銘ソーダですよ」

 

 たくさんのカチ割り氷が入ったソーダは見た目もひんやりと美味しそうだ。

 けれど、かばんがシェイカーに入れたのはただの水のように見えた。水をシェイクしたところでサイダーになるはずがない。

 

「実は、シェイカーの中に予めクエン酸と重曹をそれぞれ一定分量でいれてあったんです」

 

 クエン酸も重曹も薬局などで簡単に買える物だ。

 その二つを溶かした水溶液に砂糖を加えると簡単にサイダーが出来上がる。

 それをパフォーマンスとしてシェイカーを使って作って見せたというわけだ。

 

「(実はこれ、化学反応で炭酸ガスがシェイカーの中に充満する前に仕上げないといけないんで、結構大変なんですけどね)」

 

 と心の中で苦笑するかばんである。

 遅すぎれば炭酸でサイダーが吹き出してしまうし、早すぎれば材料が十分に混ざらず味にムラが出来てしまう。

 本来ならマドラーやバースプーンでかき混ぜるステアという作り方を選ぶ場面だ。

 だが……。

 

―パチパチパチパチパチ!

 

 湧き上がる拍手を見るに、やはり見栄えとしてはシェイカーの方がよかったのだろう。

 バーテンダーと言えばシェイカーを振る姿を想像する人が多いのだから。

 ともあれ、観客達の注目が集まっている今がチャンスだ。

 

「『グルメキャッスル』特製ソーダは1杯100円ですっ」

 

 かばんのアピールと同時にワッと注文が殺到した。

 やはり狙いがよかったのと、パフォーマンスが効いたのだろう。

 そしてもう一つ。

 今日はライバル『cocosuki』のセイリュウ特製カキ氷こと『ブルードラゴン』は神事の為にあまり作れていない。

 その分のお客さんも取り込んで一気に差を縮めていく。

 

「あとはこれで、ともえさんの作戦がきまれば……」

「はい。ともえちゃんですから大丈夫ですよ」

「そうだよね! ともえちゃんだもんね!」

 

 かばんに応えるイエイヌとサーバル。

 二人の自信に満ちた目にかばんも微笑みと共に頷いた。

 そんな三人の目の前。

 階段のスタートラインには続々と『昇龍走』に挑戦する人達が集まっていた。

 もちろん、その中にはともえもいた。

 

「いやー、みんなスゴイねえ。思いつきで言ったアタシの作戦を実行しちゃうなんて」

 

 実はともえが昨日言った作戦は大雑把な指針だけだったりする。

 だけれども、それを真剣に検討し、手段を考えて実行してくれたみんなを心強く思う。

 

「さて、そしたら『昇龍走』はアタシが一番とってアピールしないと!」

 

 と気合を入れるともえだったが実は不安があった。

 

「ところで、ゴマちゃん……。チーター先輩とプロングホーン先輩ってまだかな……?」

「わかんねぇよ。いくら俺でもあの二人のデートを邪魔はできないからな」

「そうだよねぇ……」

 

 間もなく始まる『昇龍走』は大人達も参加するイベントだ。

 当然、一番を狙うガチ勢だって沢山いる。

 そこで、助っ人に陸上部のGロードランナーのフレンズ、ゴマに来てもらったのだ。

 そして陸上部部長のプロングホーンと副部長のチーターにも助力を求めたのだが、今この場にいるのはゴマだけだ。

 県内でも有数のトップアスリートである三人の助力があれば、大人達にだってヒケをとらないと思っていた。

 だが、このお祭りだ。

 ケンカする程仲が良いという言葉を体現するようなプロングホーンとチーターがデートしていても不思議はないのだ。

 

「って誰がデートよ」

 

 その声に振り返ると、そこにはチーターがいた。白のブラウスにヒョウ柄のミニスカートと同じ柄をしたネクタイという格好だ。

 

「遅くなってすまない」

 

 そしてチーターの隣にはいつも通りにジャージを羽織ってブルマ姿のプロングホーンもいる。

 

「チーター先輩! プロングホーン先輩!」

 

 ともえは思わずチーターに飛びつき抱きついてしまった。ついでにちゃっかりモフモフ成分も補給である。

 

「はいはい。私達が来たからには大船に乗ったつもりでいなさいな」

 

 そんなともえをチーターは優しく引き剥がす。

 

「でも、三人とも忙しかったのに来てくれて本当にありがとう!」

 

 メンバーが揃ったところであらためてお礼を言うともえ。

 

「構わないわよ。県大会に向けての練習と受験勉強ばっかりで気分転換もしたかったから」

「ああ。いい息抜きができたよ」

 

 そう言って笑うチーターとプロングホーンである。

 

「まあ、まさかお祭りにいつもの体操着で来るとは思わなったけどね」

 

 と続けて苦笑するチーターである。

 どうやら隣にいるプロングホーンはお祭りにジャージにブルマ姿で来たらしい。

 

「そういえばチーター。キミはせっかくの浴衣を着替えてしまったんだな。似合ってたのに」

「んなっ!? そ、そんな事一緒にお祭り周ってた時には言ってなかったじゃない!?」

「うん? 言う間でもない程に似合ってるかと思ったんだが……」

 

 何故か怒られてプロングホーンはしどろもどろになってしまう。

 そんな二人をともえとゴマはほっこりとした顔で見守っていた。

 

「プロングホーン様……そういうところですよ……」

 

 もっともゴマの方は若干の呆れ顔をしていたが。

 

「でも、やっぱりチーター先輩とプロングホーン先輩、デートしてたんだ」

「で、デートじゃないわよ! 単に待ち合わせして時間になるまで二人でお祭り見て周ってただけなんだから!」

 

 それがデートじゃなくて何なんだろう? ともえは不思議に思うがツッコミを入れたらチーターがますます赤面してしまうに決まっている。

 ここはそっとしておくか、とゴマもともえも目配せして頷き合った。

 何はともあれ、これで役者が揃ったわけだ。

 

「間もなく『昇龍走』を開始します。選手の皆さんはスタート位置について下さい」

 

 スタート係の案内に従ってともえ達もスタート位置につく。

 最後に、貸し出されたヘルメットと肘当て膝当てのプロテクターがきちんと装着されているか確認する。

 スタート準備は万端だ。

 それにしてもスタート位置に集まった人達はかなりの数だ。

 中には何かのコスプレをした人までいる。

 だが、大人のアスリートと思しき人達だってひしめいていた。

 こちらの世界では破格の身体能力を誇るイエイヌやアムールトラが出場すれば大人にも対抗できるだろうが、それではあまりにも目立ってしまう。

 そこでともえも大人達に対抗する作戦を考えていた。

 

「じゃあ、作戦通りに」

 

 ともえの言葉にゴマ達陸上部の三人も頷く。

 

「位置について……用意!」

 

―パァン!

 

 スタートピストルの号砲と共に、一団が一斉にスタートした。

 

「それじゃあアンタ達! しっかりついて来なさい!」

 

 まず飛び出したのはチーターだ。

 短距離走のエースである彼女がスタートから猛スパートをかける。

 その後ろにプロングホーン、ゴマ、ともえの順で真後ろにピッタリと一列で張り付いていた。

 チーターを風除けにしたともえ達のグループはトップ集団にしっかりと食い込む。

 ともえ達の作戦とはこれだった。

 参加者はほとんどが個人で参加している。そこでチーム戦を仕掛ければ大人達にも十分渡り合えると踏んだわけだ。

 だが、敵は他にもいる。

 

「おぉおおおっ!? もういきなり足がツライっ!?」

 

 それはこの青龍神社境内へと続く長い階段自体である。

 スピード重視の一段飛ばしで駆け上がるともえ達であったが、すぐに脚に疲労が溜まってしまう。

 大階段はまだまだ始まったばかり。思わぬ誤算にともえ達も焦った。

 

「ともかく、足が残っていないと話にならない。一段飛ばしはここまでだ」

 

 やはり陸上部部長のプロングホーンは冷静だった。

 実は階段上りでは一段飛ばしをするよりも一段ずつ走った方が疲労は少ない。

 周りの大人達を見ても、一段ずつ昇る人達ばかりだ。

 

「姿勢を保って前傾になりすぎるな。フォームが崩れればその分、脚にかかる負担も大きくなる」

 

 プロングホーンの言う通りにしてみたらいくらか足も楽になった。

 とはいえ、チーターは短距離では速いが長距離を走り切るスタミナに欠ける。

 だというのに、最初から先頭目指してひたすらにスパートを緩めない。

 これではすぐに失速してしまうだろう。

 

「これでいいのよ……! プロングホーン! あとは任せるわ! 可愛い後輩たちにしっかり一番取らせて来なさい!」

「ああ。任せろ!」

 

 チーターはトップが見えたところで先頭をプロングホーンに譲ると、そのままズルズルと後ろへ下がっていく。

 他の選手達の邪魔にならないように、なるべく脇に寄ってすらいた。

 チーターの役目は体力の続く限りスパートを続けてなるべくいい順位にともえ達を引き上げる事だった。

 その役目を終えた今、ロケットの噴射が終わったエンジンのように切り離されて落ちていくだけだ。

 そして第二エンジンはチーターに後を託されたプロングホーンの番である。

 彼女は最高速度ではチーターに劣る。

 けれども、スタミナならば決して負けない。

 

「はっはっは! この激坂も楽しいじゃないか!」

 

 代わって先頭を走るプロングホーンは階段をスイスイ昇っていく。

 後ろの風除けに入っているゴマとともえも付いていくのがやっとだ。

 そうして、とうとう先頭、トップを走る事になった。

 これならば『昇龍走』の一番を取る事だって夢じゃない。

 そう思っていた矢先……。

 

―ヒュン

 

 と一陣の風がプロングホーンの横を通り抜けた。

 いや、それは風ではない。

 一人の女の子だった。

 何かのコスプレをしているその姿には見覚えがある。いや、より正確に言うならば見覚えしかなかった。

 

「楽しそうだから私も参加しちゃった」

 

 ツインテールを揺らすその人は、ヘッドドレスとミニ浴衣で和風メイドさんな春香であった。

 この長い階段を半ばまで駆け上がって、まだ涼しい顔をしている。

 ともえは父から、彼女は学生時代から運動神経抜群だったと聞かされている。

 けれども、その実力を見る機会は中々なかったがこうして見せつけられるとやはり驚きだ。

 

「相手にとって不足なし! ゴマ! ともえ! ついてこい!」

 

 いきなり追い抜かされたプロングホーンであったが、意地というものがある。

 同年代かそれより下(に見える)の女の子に負けるわけにはいかない。

 残る体力を振り絞りさらに加速!

 春香の背中に追いすがる。

 そして、とうとう頂上が見えて来た。

 依然、春香リードのままで頂上へと辿り着く。

 けれど、ゴールはもう少しだけ先だ。

 境内を駆け抜けて本殿前がゴールとなっているのである。

 

「(やっぱり一番後ろで温存しているともえちゃんがゴールを狙って来るのかしら)」

 

 一番に頂上へ辿り着いた春香はそう分析していた。

 やはり、ここまでゴマとともえを引っ張って来たプロングホーンは頂上までで役目を終えたのか、邪魔にならないよう脇へ寄っていた。

 さて、ここからの勝負だが、階段を駆け上がった足で最後のトップスピードに乗せるのが意外と難しい。

 どの選手も既に脚の疲労は限界に達し、膝が笑いそうになっている。

 ここからは平地を走れるといっても、この境内から本殿までの間でリタイアしてしまう選手だって少なくないくらいだ。

 だから、春香は風除けの効果が一番大きい最後尾にいたともえがゴールを狙ってくるものとばかり思っていた。

 

「よっし! 行くよ、ゴマちゃん!」

「おうよ!」

 

 なので、後ろを走るともえがゴマの背中を押したのは予想外だった。

 目一杯の力で押されたゴマは一気にトップスピードへ加速!

 そのまま春香へ並んだ。

 

「悪いな! 親娘対決はまた今度って事で!」

 

 やはりここまでで体力を使っていた春香の足は鈍っていた。

 背中を押されて加速したゴマに追いすがる事が出来ない。

 そのままゴマがフィニッシャーとして境内を駆け抜けて本殿前へと辿り着きゴールテープを切る。

 他の選手達も続々とゴールを果たしていく中、やはり一位となったゴマに注目が集まる。

 そんな注目を集める今が好機。

 まだ息も整わない中、ゴマは叫んだ。

 

「『グルメキャッスル』のホットドッグ、美味いぜ!」

 

 何とも不思議な勝者の言だったが、特徴ある屋台の名前は麓で誰もが目にしていた。

 この一言の為に頑張ったというのであれば、そこに敬意は払わねばなるまい。

 そう思った参加者達は麓に戻ったら一つくらい食べてみるか、と興味を惹かれてしまう。

 

「ありがとねぇー! ゴマちゃあああん!」

「だぁー!? モフるなぁあああ!?」

 

 そんなゴマに抱き着き勝利の喜びを露わにするともえを春香が満足そうに見ているのだった。

 

 

の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の

 

 

 『昇龍走』で完全に流れを掴んだ屋台『グルメキャッスル』は大盛況だった。

 総料理長であるセルシコウもずっと調理しっぱなしで嬉しい悲鳴をあげる事となった。

 一日目は『cocosuki』が制する事となったが、二日目の結果は誰の目にも明らかに『グルメキャッスル』に軍配が上がっていた。

 ここまで中間成績では両者横並びと言っていい。

 いよいよ残すは最後の三日目だ。

 

「とはいえ、最後の三日目を前に何か作戦はあるだろうかモグモグ」

「正直後は策らしい策なんてありません。当たって砕けるだけですよモグモグ」

「それにしても、この鈴カステラって美味しいねえモグモグ」

 

 オオセルザンコウ達、セルリアンフレンズの三人は菓匠『若葉』の鈴カステラを突きながら最終日へ向けての作戦会議だ。

 もちろん、ともえ達やかばん達、ルリ達も一緒に頭を捻りつつ、『cocosuki』屋台で買って来た焼きそばやタコ焼き、そしてラーメンを突いていた。

 

「くぅー!? 悔しいけど美味しい!?」

「このタコ焼き、それぞれ具が違ったりして面白いね」

「焼きそばは濃厚ソースで美味しいよっ」

「こっちのラーメンも袋ラーメンとは思えません。お店で出てきても不思議じゃないですよ」

 

 あらためて敵の手強さを肌……いや、舌で実感しつつ皆で試食タイムである。

 ここまでで思いつく事は全てやった。

 あとは明日に全力を傾けるのみである。

 

「やれやれ。そんな事だろうと思っていたのです」

「そんな作戦切れのお前達の為に一つ提案があるのです」

 

 そこに現れたのは……。

 

「博士先輩! 助手先輩ッ!」

 

 コノハ博士とミミ助手の二人であった。

 博士の方は白を基調とした浴衣で助手の方が茶色を基調とした浴衣姿をしていた。

 しかも、両手には屋台で取って来たらしいヌイグルミや水風船やスーパーボールなどを一杯に持っており、あまつさえ頭の横にはそれぞれにお面をつけている。

 どこから見ても、二人で思いっきりお祭りを楽しんでいたようにしか見えない。

 

「受験勉強ばかりも飽きて来ましたからね。たまには息抜きなのです」

「誰なのです? 息抜きしかしてないんじゃないか、なんて言ったのは」

 

 助手のジト目にともえ達は慌てて首をぶるぶると横に振った。

 少しだけ思っちゃったけど、あの二人ならいまさら受験勉強で慌てる事などないし。

 

「で、コノハちゃん博士先輩とミミちゃん助手先輩には何か作戦があるの?」

 

 ともえは話題を入れ替える。

 二人はコホンと咳払いをしてから皆に告げる。

 

「やはり、料理は味で勝負なのです」

「明日、一つイベントが開催される事が急遽決まったのです」

 

 そのイベントというのが作戦になるのだろうか?

 ともえ達が疑問に思っていると博士と助手が続けた。

 

「やはりここは審査員を呼んでの味勝負なのです」

「既に公平な審査をせざるを得ない審査員は準備済みなのです」

「「「「「はぃいいいいいいいい!?!?」」」」

 

 あまりと言えばあまりの提案にともえ達は驚きと戸惑いの声をあげた。

 しかし、よくよく考えればそれは望むところなのではないだろうか。

 驚きから回復したオオセルザンコウは頷く。

 

「正面切っての味勝負というなら受けて立つしかない……だが」

「ええ……。この『cocosuki』屋台の味は中々のもの。我々が劣っているとは言いませんが……」

 

 セルシコウも不安で顔を曇らせる。

 正面切っての味勝負となると、『cocosuki』屋台と料理の品目が違い過ぎるので単純な味の比較がし辛い。

 審査員がいくら公平な審査をしようとも個人の好みには必ず引っ張られる。

 

「そうだな……。審査員を唸らせられるだけのインパクトが欲しい……」

 

 顎に手をあて考え込むオオセルザンコウだったが、マセルカが不思議そうな顔をしていた。

 

「オオセルザンコウ? なんで悩んでるの? インパクトのある味だったら作れる人いるじゃん」

 

 マセルカの視線は当然のようにある一点に注がれていた。

 つられて全員がそこに視線を移す。

 そこには……。

 

「へ……?」

 

 例によってイエイヌをモフっているともえがいた。

 

「マジか」

 

 思わずオオセルザンコウの語彙力がなくなってしまう。

 

「マジだよ?」

 

 どうやらマセルカは、ともえスペシャルを作らせるつもりらしい。

 確かに調味料マシマシで作られたともえスペシャルはインパクトだけはある。

 けれども、それが美味しいかと言われたら……。

 

「味はみんなでまとめたらいいじゃない」

 

 つまり、マセルカはともえスペシャルを食べられるレベルに全員でアレンジしようというつもりだった。

 

「イチかバチか……か。試してみる価値はあるな……」

「アタシの料理ってギャンブルなの!?」

 

 ともえの抗議は置いておいてオオセルザンコウは全員を見回す。

 

「みんな。力を貸してくれ。最高にインパクトのある一品を作り上げたい!」

 

 そんな願いに全員が頷きを力強い頷きを返した。

 唯一ともえだけは……。

 

「もうー! こうなったらいつもより凄いともえスペシャルを作っちゃうからね!?」

 

 とヤケクソになるのだった。

 

 

の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の

 

 

 そして一夜明けて三日目。

 今日は朝から青龍神社前の広場も大賑わいだ。

 そしてその人だかりの中心には二つの屋台があった。

 一つはショッピングモール『cocosuki』が繰り出して来た刺客、春香達のお母さんチーム。

 そしてもう一つが商店街代表『グルメキャッスル』だ。

 いま、二つのチームはそれぞれに相対し、睨み合い火花を散らす。

 

「はい! それじゃあ、今日は特別イベント! 商店街VS『cocosuki』の直接対決をやっちゃうよー!」

 

 今はここが臨時のイベント会場となっていた。

 長机やパイプ椅子で設えられた即席イベント会場では実況席にコイちゃんとアオイが座っている。

 

「両者一歩も譲らず、ここまでの中間成績はほぼ互角。勝負は最終日へと持ち越されました」

「うんうん、でアオイちゃん。今日はどういう風に対決するの?」

「はい。本来であれば、このお祭りでより多くの売上をあげたほうが勝ちでしたが、今のところ横並びです。そこで、今日は三名の審査員に来ていただいてどちらが美味しかったかを決めて貰おうというわけです」

「へー? でもさ、アオイちゃん。審査は公平でないとダメだよね? そんな審査をしてくれる人がいるの?」

 

 実況席のアオイはコイちゃんに一つ頷く。

 と同時、実況席の隣、解説席に二人のフレンズが座った。

 コノハ博士とミミちゃん助手である。

 

「審査員については心配いらないのです」

「この三人ならば公平な審査をしなくてはならないのです」

 

 実況席の博士と助手はニヤリと笑うと審査員席を指さした。

 そこには三人の男性が座っている。

 

「紹介するのです。今日の審査員、まず一人目はサンドスター研究所所長、ドクター遠坂なのです」

 

 ドヨドヨ、と観客がどよめく。

 そんな多忙な人が本当に来ているのかと思っていたが、白衣にやせ型の体形をした年相応の渋さを持ったその人は紛れもなくドクター遠坂だ。

 

「続けての審査員はショッピングモール『cocosuki』オーナー企業社長なのです」

 

 物凄いセレブの登場に会場のどよめきがさらに強くなった。

 ドクター遠坂の隣にはYシャツにベスト。ネクタイ姿の紳士がいた。

 にこやかに観客達へと挨拶がわりに手を振って見せる。

 どうやら彼がユキヒョウの父にしてサオリの夫らしい。

 

「そして最後は商店街の和服職人。知る人ぞ知る名工。和服屋さんのご主人なのです」

 

 そしてその隣には一見すると線が細くて優しそうに見える着流しの男性がいた。

 彼がエミリの夫にしてエゾオオカミの父である。

 審査員の紹介が終わったところでコイちゃんが納得した。

 

「なるほどねー。それぞれ『cocosuki』にお母さんがいて商店街側に娘がいるんだもん。公平に審査しないとご家庭での立場がとんでもない事になるってわけだ」

 

 コイちゃんの解説に観客のお父さんたちから同時に同情の視線が向けられる。

 どっちに肩入れしても待っているのは地獄だ。

 

「で、出来ればそんなにハッキリ言わないで欲しいなあ」

 

 妻と娘達に板挟み状態のドクター遠坂はそう言って冷や汗をかいている。

 それは他の二人も同様だ。なんせ全く同じ立場に立たされた父親同士なのである。

 なんだか妙な連帯感も生まれようというものだ。

 

「ともかく。各お父さん方がより美味しいと思った方に一票を入れて、より票が多い方の勝ちというわけです」

 

 アオイがそう言ってルール説明を終わる。

 この料理対決は急遽組まれたものだ。ここでの勝敗がそのまま対決の結果になるわけではない。

 かと言って、全く意味がないかといえばそうでもない。

 これだけの観客を集めたイベントだ。

 その勝者は確実に注目と興味を惹くし、その屋台の出し物を食べてみたくなるだろう。

 ここが勝負の分水嶺。いわば天王山というものだ。

 両者横並びの今、ここでの勝利が最終結果を左右する事になると誰もが予想していた。

 

「それでは各チーム! 調理を開始してください!」

 

 アオイの合図で一斉に調理に入った。

 

「まあ、調理に時間はかからないでしょう」

「どういう事かな? 実況の博士ちゃん」

「簡単なのです。どちらの料理もお祭りの屋台で提供する物なのです。下ごしらえを終えた状態のものを仕上げるだけという状態になっているのです」

 

 助手の言葉にアオイが頷く。

 

「なるほど。どの屋台も注文するとすぐに出てきますもんね。ファーストフード、というわけですか」

「ええ。注文が入ってからすぐに提供できないと、お客さんが逃げてしまうのです。保温機などを使って作り置きも出来ますがそれだって限界があります」

「なので、調理工程の単純化はお祭り屋台の必須課題なのですよ」

 

 助手の解説を博士が引き継ぐ。

 なるほど、その意味では二つの屋台はどちらも必須課題をクリアしていた。

 

「けれど、調理工程では『cocosuki』側が一歩リードしていると言っていいのです」

「どういう事かな? 解説の博士ちゃん」

 

 博士は実況のコイちゃんに頷くと続ける。

 

「『cocosuki』側は調理工程も一種のパフォーマンスとしているのです。見るがいいのです」

 

 博士が指さした先ではサオリとエミリの二人が抜群のコンビネーションで持ち場を入れ替えながらの調理で観客を魅了していた。

 そしてセイリュウが削った氷に豪快にシロップをかけていく。

 何ともお祭りらしい光景は見ているだけでも楽しい。

 対する『グルメキャッスル』側はまだ動きがない。

 果たして諦めてしまったのだろうか?

 その間にも『cocosuki』側はどんどん調理を進めていく。

 最も手間がかかる春香特製の野菜たっぷり本格袋ラーメンですら既に出来上がっていた。

 

「それでは、まずは『cocosuki』側の屋台から実食していきましょう」

 

 『cocosuki』側の品目はミックスタコ焼き、中華風焼きそば、セイリュウ特製カキ氷、そして野菜たっぷり本格袋ラーメンというラインナップだ。

 少し分量は抑えたがそれでも多い。

 お父さん方はしばし悩みながらもミックスタコ焼きから実食する事にした。

 これなら一皿を全員で分ければ少しは分量を抑えられる。

 爪楊枝に刺したタコ焼きを一口……。

 

「こ、これは……!?」

 

 ミックスタコ焼きの秘密は何と言っても中の具材が食べるまでわからないところにある。

 オーソドックスなタコの他にトロトロのチーズ、面白いところでカニカマまで入っているのだ。

 お祭りで誰かとシェアして食べると、どれが当たるかわからなくて面白い。

 

「それに……。具材を包むこの生地にもしっかりと出汁が効いている」

「ええ。その出汁に支えられてソースの味に生地が負けていません」

 

 どうやらユキヒョウの父やエゾオオカミの父にも好評なようだ。

 

「さて……続けては中華風焼きそばだけれど……」

 

 これまたお祭りの定番メニューだ。

 一口のつもりで食べたお父さん方だったが……

 

「くっ!? この濃厚な風味……! これはオイスターソースか……!」

「パンチの効いた味で箸が止まりません!」

「そして、お祭り屋台だというのに、このふわふわモチモチした麺……! あらかじめ市販の麺を蒸してから焼いたのだろう……」

 

 なんとあまりの美味さに完食してしまった。

 そして次に待っているのが本格袋ラーメンだ。

 食器こそお祭り屋台という事で使い捨ての発泡スチロール製どんぶりだが、立ち上る香りはお店で出て来たって文句ない。

 

「これが本当に袋ラーメンか……」

「ゴマの香り、かつお節の香り、それだけで食欲をそそりますね」

 

 そればかりがこの本格袋ラーメンの特徴ではない。

 お父さん方三人は頷き合うと、一口を口にする。

 

「「「!?!?!?!?」」」

 

 途端に海と山の香りが口いっぱいに広がった。

 三人とも言葉にならない。

 食レポもなしに食べ続ける審査員達に戸惑ったアオイは解説の博士と助手に訊ねる。

 

「こ、これは一体どういう事なんですか?」

「あれはスープに秘密があるのです」

 

 博士と助手は指を立てると解説を始めた。

 

「まず、あのスープは袋ラーメン付属の粉末スープを出汁で溶かしたものなのです。その出汁に工夫の正体があるのですよ」

「あの出汁は昆布と煮干しの合せ出汁に、さらにエノキ氷を使っているのです」

「ねえねえ、博士ちゃん、助手ちゃん、それってどういう風に凄いの?」

 

 コイちゃんの質問に博士は一つ頷く。

 

「出汁を取る時には単一の食材よりも沢山の食材を使った方がいいのです。それは複数の食材を使った方が様々な種類のうま味成分が抽出出来るからなのです」

「昆布からグルタミン酸、煮干しからイノシン酸、エノキ氷からはグアニル酸といううま味成分を抽出して味に奥行きを出しているのです」

 

 人間の舌は複数のうま味成分でより強いうま味を感じると言われている。

 だが、春香の作ったラーメンはそれだけではない。

 

「そして、その味をまとめ上げているのが付属の粉末スープなのです」

「ええ。味の方向性を決めるだけでなく、出汁と合わせたダブルスープ方式でさらに味わいを奥深いものにしているのです」

「じゃ、じゃあ……審査員の皆さんは……!?」

 

 何かに気づいたアオイはバッと審査員のお父さん方を振り返る。

 彼らは押し寄せるうま味の迷宮に迷い込んでいた。

 

「でも、ここまで本格的にやるんなら、麺も製麺所とかで作った手打ち麺にしたらよかったんじゃない?」

 

 コイちゃんのもっともな疑問は観客達も思っていた事だ。

 だが、それにも理由があった。

 

「実はね。今日出した屋台料理は……全部『cocosuki』の食品売り場で安く揃える事が出来るの」

 

 春香の言葉に観客の主婦層が「おお……」と感嘆の声をあげる。

 確かに焼きそばもミックスタコ焼きも安価な食材でまとめ上げられていた。しかも希望者にはレシピカードまで付けてもらえる。

 つまり、ご家庭でも多少の手間さえかければ十分に再現可能なのだ。

 そして、その評価は観客にはもちろん、審査員も好評なようで、全ての皿を平らげてしまっていた。

 いくら分量を少なめにしたとはいえ、ラーメンにタコ焼きに焼きそば。そんなに食べたらお腹がいっぱいになってしまう。

 これは勝負あったか、と観客達は思っていた。

 しかし……。

 

「さて、審査員の皆さん。『グルメキャッスル』のホットドッグはハーフサイズにする事も出来るけれどいかがかな?」

 

 オオセルザンコウが審査員のお父さん方の前で言う。

 これは嬉しい申し出だ。

 

「じゃあ、ハーフサイズでお願いしようか」

 

 ドクター遠坂に残る二人も同意と頷く。

 

「なるほど。『グルメキャッスル』の売りは何と言っても選択肢の多さにあるのです」

「トマトソース、ヨーグルトソース、カレーソースの三つからさらにプレーンウィンナーかチョリソーを選べて、そこからトッピング次第で組み合わせは多岐に渡るというわけですね」

 

 解説の博士と助手の説明に観客達から再び「おぉー……」と感嘆の声が上がった。

 

「ええと、味を選べばいいのかな?」

 

 ドクター遠坂が訊ねるがオオセルザンコウは首を横に振った。

 

「いや。今回は我々の自信作を既に用意させていただいた」

 

 と同時に、マセルカとセルシコウが素早く審査員にハーフサイズに切り分けたホットドッグを届ける。

 どうやら『cocosuki』側の実食中に仕上げたらしい。

 それは、どうやらヨーグルトソースをかけた物のようだ。心なしか真っ白なはずのソースが緑がかって見える。

 

「『グルメキャッスル』特製ホットドッグ、ともえスペシャルだ」

 

 オオセルザンコウの宣言にザワ、と会場がざわついた。

 これはまさかの最終日にしての新味だ。

 そしてともえをよく知る人物は物騒な単語が聞こえた気がして我が耳を疑う。

 ともえがノリと勢いで調味料マシマシで作ったともえスペシャルは恐怖の代名詞にすらなっていたのだから。

 ともえの父であるドクター遠坂も一瞬申し訳なさそうな目を両脇の審査員達の向けてしまう。

 

「安心していい。味は保障する」

 

 オオセルザンコウの言う通り、まさか食べられないものを出すわけではないだろう。

 ふと、『グルメキャッスル』の他のメンバーを見れば誰もがどこかゲッソリした様子だった。

 口々に「味噌はヤバかったね……」だとか「さすがに豆板醤はなかったですね……」などと言っているあたり、ともえスペシャルの失敗作を試食しまくったのだろう。

 その様子にドクター遠坂の頬に一筋の冷や汗が流れる。

 願わくば、死人が出ない事を祈るのみだ。

 

「(ええい!)」

 

 ここで食べないわけにはいかない。ドクター遠坂は意を決するとガブリとホットドッグに食らいついた。

 他二人のお父さんもそれに倣う。

 瞬間……。

 

―フワァ……。

 

 清涼な風が脳天を駆け抜けた。

 いま、審査員の三人はどこか小高い山奥の草原にいた。

 吹く風が少し肌寒さを感じさせるが決して厳しいわけではない。

 

「こ、これは……!?」

 

 肉汁を迸らせるウィンナーを食べたはずなのに、そのしつこさが全く感じられない。

 既にお腹がいっぱいのはずなのにサッパリとした清涼感のある味わいに食べる手が止まらない。

 気づけば三人ともホットドッグを完食してしまっていた。

 

「このインパクトのある清涼感……まさか……ヨーグルトソースに混ぜられた緑色……」

「そう、ヨーグルトソースにワサビを混ぜたんだよ」

 

 オオセルザンコウの解説にともえもドヤ顔をしていた。

 緑がかって見えたヨーグルトソースの正体はワサビだった。

 色々とともえのアイデアを試してみた結果、味にまとまりを作れそうなのがこの案だったのだ。

 ヨーグルトソースにワサビを混ぜる事でさらに清涼感をアップしつつ、マヨネーズと合わせる事で辛みで鼻がツーンとしちゃうのも防げる。

 ほぼ満腹状態でも食べられるくらいにサッパリとした味わいの一品になったのだ。

 

「まぁ……、ちょうどいいバランスでマヨネーズとワサビを配合するのにも手間取りましたが……」

 

 ゲンナリした様子のセルシコウに他のメンバー達も何度も頷く。

 その表情は試行錯誤の中で試食された失敗作の数がどれ程だったかを物語っていた。

 だがその甲斐あって、ヨーグルトソースはさらなる進化を遂げたのだった。

 二つの屋台の実食を終えて、いよいよ判定へと入る。

 審査員は三人がそれぞれ一票ずつ勝者と思う方へ一票を投じる。

 故に引き分けはあり得ない。

 果たしてこの味勝負はどちらに軍配が上がるのか……。

 

 

の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の

 

 

 夕暮れ時。

 完全に日が落ちれば、青龍神社夏祭り最後のイベントである打ち上げ花火が始まる。

 

「完敗だったわ」

 

 そう言って春香はオオセルザンコウに右手を差し出す。

 結局、朝の料理対決は3対0で『グルメキャッスル』に軍配が上がった。

 ともえスペシャルのインパクトと、急遽ハーフサイズを用意してくれた配慮を評価しての事らしい。

 

「いや。皆が手伝ってくれなかったらこの勝利はなかった。強敵だったよ」

 

 オオセルザンコウも春香の手を握り返す。

 実際にオオセルザンコウ、セルシコウ、マセルカの三人だけだったら春香達には勝てなかっただろう。

 こうして料理対決を制した『グルメキャッスル』はさらに話題を呼び、今回のお祭りで一番の売り上げを記録した。

 

「っていうか母さん! 一言だってこんなん聞いてなかったぞ!」

「だって……。言ったらエゾオオカミは反対するでしょう?」

 

 こっちはこっちで怒るエゾオオカミをエミリがなだめていた。

 ちなみに、サオリと共謀してあわよくばエゾオオカミとセルシコウが仲睦まじく料理してる場面とか見たいと思っていたりもしたが、そこまでは高望みだったようだ。

 

「それでね、オオセルザンコウさん、セルシコウさん、マセルカさん。もしよかったらなんだけどね、格安で貸せる空いてる貸店舗があるの。そこであなた達の腕を振るってみない?」

 

 サオリにはもう一つ計画があった。

 もしも『グルメキャッスル』が今回の対決に勝利したなら、そのご褒美として彼女達が自前の店を持つ為の出資者になってもよい、と。

 その腕前ならば出資に見合うだけの働きをしてくれるだろうし、仮に断られたとしたってそれはそれでエゾオオカミとセルシコウの仲が深まるだろうし損はない。

 思ってもいない提案にオオセルザンコウ達はお互いに顔を見合わせてしばらく考える。

 ここでサオリの提案を受ける事は、ここまで協力してくれた商店街の皆を裏切るような気もしてしまう。

 セルシコウとマセルカはそんな気持ちを込めてオオセルザンコウを見る。

 そして、サオリとしても、この提案が断られる公算が高いと踏んでいた。

 けれど……。

 

「その話……受けたいと思う。『グルメキャッスル』を正式に開店出来るのなら大歓迎だ」

 

 オオセルザンコウの口からはYESの答えが返ってきた。

 意外そうに彼女の顔を見るセルシコウとマセルカ。

 だが……。

 

「おい! やったな!」

「すごいわ! 三人ともcongratulations!」

 

 先にエゾオオカミやハクトウワシに祝われてしまって何も言えなかった。

 それからも手伝ってくれた奈々やキタキツネやギンギツネ達も含めて商店街の面々が次々におめでとうを言ってくる。

 

「それじゃあ、明日貸店舗を案内するわね。大丈夫、私が責任もって面倒見るから」

「ええ。サオリさん。オオセルザンコウさん達の事をよろしくお願いします」

 

 商店街会長が深々とサオリに頭を下げていた。

 商店街の皆は誰もが『グルメキャッスル』が新しくお店を持つ事を歓迎しているようだ。

 セルシコウとマセルカはこれからも商店街で屋台『グルメキャッスル』を続けていくものだとばかり思っていて急な話に戸惑いを隠せない。

 

「『グルメキャッスル』開店は私達の悲願だっただろう?」

 

 オオセルザンコウの言に、セルシコウとマセルカは当初の目的を思い出す。

 そう。

 『グルメキャッスル』はこの世界の輝きを保全するための橋頭保なのだ。

 その意味ではオオセルザンコウは正しい。屋台では橋頭保とならないのだから。

 けれど、二人ともどこか胸にチクリとした痛みを覚えていた。

 

「なに暗い顔してんだよ。開店したら遊びに行くぜ」

 

 そう言ってエゾオオカミはバシリとセルシコウの背中を叩いた。

 そんな彼女にセルシコウは何と返事をしていいのかわからず、曖昧な笑みを浮かべるばかりだった。

 だというのに、オオセルザンコウはサオリと明日の予定を既に話し合っていた。

 祝賀ムードの中、置いてけぼりになったようでセルシコウとマセルカはお互いに顔を見合わせる。

 そんな中で、もう一人、声を上げる者がいた。

 この対決にも参加した青龍神社神主のセイリュウだ。

 

「実はもしよかったらなんだけど、明日、青龍神社にご招待しようかと思ってるの」

 

 セイリュウは一歩を踏み出すと、ともえの耳元に口を寄せた。

 

「セルリアンについて教えておきたい事があるの」

 

 その囁きにともえが驚く前にセイリュウはパッと身体を離していた。

 どうしてセイリュウがセルリアンの事を知っているのだろう。

 そう訊きたいが、この場は人が多すぎる。

 

「だから、明日お泊りの準備をして来てくれないかしら」

 

 セイリュウはそう言うとニコリと笑って見せる。

 果たしてその先に待っているのが一体何なのか。

 

「大丈夫。ちゃんと責任もって一晩預かりますから。ね」

 

 セイリュウは春香にも安心させるように微笑む。

 その春香の困ったような曖昧な笑みは初めて見るような気がするともえと萌絵とイエイヌの三人。

 どうしてそんな顔をするのか不思議に思っていると……。

 

――ドォオオン!

 

 青龍神社夏祭りフィナーレを飾る花火。

 その最初の一発が大輪の花を咲かせる。

 夜空を彩る美しい花火に今は誰もが魅入ってしまうのだった。

 

 

 けものフレンズRクロスハート第22話『風雲! グルメキャッスル』

―おしまい―

 

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