けものフレンズRクロスハート   作:土玉満

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第23話『守護けもの』(中編)

 

 

 青龍神社の本殿からともえ達は移動していた。

 その場所は薄暗く、沢山の人形達が置かれたお堂だった。

 ロウソクの明かりに照らされた沢山の人形達は本来可愛らしいはずなのに、なんだか不気味な気がする。

 セイリュウはこんな場所にともえ達を連れて来て一体何をさせようというのか。

 

「人形供養、という言葉を聞いた事はありますか?」

 

 セイリュウの言葉にともえ達は揃って首を横に振る。

 中々聞き慣れない言葉である。特にホラーが苦手な萌絵だって積極的に調べたい言葉ではなかった。

 

「人形には人の想いがこもりやすいのです。そうした想いは何かの拍子に悪いものへと変化してしまう事があります」

 

 その説明がオカルトじみていて萌絵は顔を青くしてともえの影に隠れる。

 脅かすつもりはなかったセイリュウは苦笑してから言葉をかえて説明した。

 

「人形に込められた想いにサンドスターが反応しやすいのです。それがふとした拍子にサンドスター・ローと反応したり、場合によってはセルリウムと反応する事も有り得ます。そうなると人形がセルリアン化するわけですね」

 

 そう科学的に説明されると萌絵も一気に元気を取り戻した。

 つまりここに安置されている人形達は誰かに大切にされて“輝き”が込められているのだろう。

 ともすればサンドスター・ローやセルリウムと反応してセルリアン化する可能性があるわけだ。

 そうならずに済むように処置するのが人形供養である。

 

「あ、あの……。じゃあ人形供養ってどうするんですか?」

 

 萌絵がおっかなびっくりで訊ねる。

 これで祈祷や何かの儀式でお祓いをするなどと言ったら再びオカルトに逆戻りだ。

 

「そうですね。それをお教えする前に、まずは紹介しなくてはなりません」

 

 セイリュウは何かを呼び出すようにパンパン、と二度手を叩いて鳴らす。

 

「この方達は大丈夫です。出てきて下さい、ドール=ドール」

 

 すると、その呼びかけに応えて安置されていた人形の山から一体がぽてぽてと進み出て来た。

 背丈としてはラモリさんより一回り小さいくらいだろうか。

 デフォルメされたフレンズのヌイグルミらしい。

 頭が大きく、手足は短い三頭身で、茶色の毛並みとふさふさの尻尾を持っている。

 

「こいつハ、アカオオカミ、通称ドールのフレンズを模した人形だナ」

 

 一人で進み出て来たその人形を見たラモリさんが言う。

 しかし人形が一人で歩くとは……。

 そう思って見守る一同の前で歩み出て来た人形は短い手足でペコリとお辞儀をしてみせた。

 

「はじまして。私はドール=ドールで……うひゃぁああ!?」

 

 挨拶が終わるか終わらないかのうちに菜々はドール=ドールを抱え上げると思い切り抱きしめた。

 

「なにこれ可愛い! お人形みたいっていうか人形そのものだ!」

 

 頬ずりまでしている菜々を萌絵とともえが羨ましそうに見ている。

 オバケは苦手な萌絵もこんな可愛い人形なら大歓迎だった。

 

「まったく、アンタ達、程々にしておきなさいよ」

 

 ドール=ドールが目を回しているのを見かねてカラカルが救出してくれた。

 菜々から取り上げたドール=ドールをイエイヌの頭上に乗せて避難させる。

 

「あぁ……。モフモフにモフモフが乗っかって最強に…」

「ほんとだねぇ……ほんとに最強だねぇ」

 

 目を輝かせたともえと萌絵がイエイヌに迫っていた。何なら手をわきわきさせて今にもモフモフしたそうにしていた。

 ここに至ってカラカルは自分の失策を悟る。

 仕方ない、と手をパンパン二度鳴らして注目を集めてから言った。

 

「はいはい、アンタ達。ちゃんとセイリュウの話を聞きなさい」

「「「はーい」」」

 

 素直に返事するともえと萌絵と菜々の三人を見てセイリュウは可笑しそうに笑ってから、イエイヌを引き寄せて続ける事にした。

 

「あらためまして、この子はドール=ドール。ええと、何て言っていいのかしらね」

 

 セイリュウはイエイヌの両肩を掴んでともえ達の方に向き直るようにさせる。

 ドール=ドールはまだイエイヌの頭の上で目を回していた。

 

「セルリアン、なんですよね?」

 

 そのイエイヌがドール=ドールを頭の上に乗せたまま言う。

 イエイヌの嗅覚はセルリアンの匂いを嗅ぎ分ける事が出来る。

 ドール=ドールがセルリアンであるなら人形の身でありながらひとりで動く事も納得だ。

 

「は、はいぃいい! で、でも悪いセルリアンじゃないんです! パッカーンしないでくださいぃ!?」

 

 ドール=ドールはイエイヌの頭の上で身を小さくする。

 

「安心してください。悪い子でないならわたしもともえちゃん達も戦ったりしませんから」

 

 イエイヌはというとドール=ドールを頭の上に乗せたまま言う。

 なんせ友人にはルリ達だっているからセルリアンだから悪いとは思ってもいない。

 イエイヌがこちらの世界に来てから変わった考えの一つである。

 

「余計な心配をしてしまったようですね。変な気を回してしまったようでごめんなさい」

 

 いきなりセルリアンだ、なんて告げて驚かせるのも悪いかと思っていたセイリュウだったが、どうやら彼女達は予想以上に思慮深いらしい。

 子供と甘く見ていたのではないかと反省しきりである。

 

「そうです。ドール=ドールは青龍神社に仕えるセルリアンです」

 

 セイリュウの説明によるとこういう事らしい。

 アカオオカミ、ドールのアニマルガールをモチーフとしたぬいぐるみに憑りついたセルリアンであったドール=ドールであるが、今では青龍神社でお役目を与えられて暮らしているらしい。

 そのお役目こそ、人形供養なのだ。

 人形に宿った“輝き”をドール=ドールが食べてしまう事でセルリウムと反応しなくする。

 そうする事で想いの宿った人形がセルリアン化する事もなくなるというわけだ。

 

「ドール=ドールのおかげで元の持ち主のところに帰れた人形達も多いんですよ」

 

 そう言うセイリュウはどこか誇らしげであった。

 ここ、青龍神社で人形供養が終わった人形達は元の持ち主に返されたりもするらしい。

 安全になった人形達が元の持ち主のところへ帰れるなら、ドール=ドールの働きも尊いもののように思えた。

 

「でもですね……最近、人形達に宿る“輝き”が増えてて、私一人では食べきれないんです」

 

 イエイヌの頭の上でドール=ドールが言う。

 萌絵はふむ、と考え込んだ。

 

「サンドスターの活動が活発になってるって事と関係あるのかもね」

 

 サンドスターの活動が活発になれば、誰かの想いと結びついて“輝き”となる。

 それが増えてしまってドール=ドール一人では対処しきれない事になっていたのだ。

 

「つまりセイリュウ様のお願いって、処理しきれなくなった“輝き”がセルリアンになる前にアタシ達に何とかして欲しいって事?」

「ええ。その通りです」

「ごめんなさい、私一人ではもうお腹いっぱいで……」

 

 ともえに頷いたセイリュウにドール=ドールが続いた。

 そうなると、ルリがこの場にいない事が悔やまれる。

 彼女も“輝き”を食べて生きるセルリアンなのだから。

 ともかく、ルリがいないとなるとどう対処していいやら。

 

「それならば問題ありません。ドール=ドールが抑えるのをやめれば、人形達に宿った“輝き”とセルリウムが反応して程なくしてセルリアンが現れるでしょう」

「はい。私一人でももうしばらくは抑え込めたでしょうが、セルリアンが現れなくて済むようには出来なかったんです」

 

 なるほど、“輝き”を喰らったセルリアンが現れるというなら、それさえ倒してしまえば問題ないわけだ。

 

「これは確かにクロスハートの出番かも!」

 

 ともえが腕まくりして前に出る。その彼女の横に並んだのは菜々だった。

 

「ねえねえ、ともえちゃん。せっかくだから今日は私と組んでみない? 私もこっちの世界の子がどんな戦い方をするのかとか興味あるし」

 

 菜々はクロスレインボーである。その実力はついこの前、商店街が濃霧に覆われる事件で実証済みだ。

 

「いいよ。じゃあイエイヌちゃんとカラカルちゃんはお姉ちゃんとセイリュウ様とラモリさんとそれにドール=ドールちゃんをお願いね」

 

 ともえとしても興味をそそられる話である。

 それにイエイヌとカラカルが後ろに控えていてくれるならそれはそれで心強い。

 

「いざとなれば私も加勢しますよ。昔取った杵柄というものです」

 

 セイリュウも昔はセルリアンと戦った事があるというなら、萌絵達を守ってくれるだろう。

 なら訓練とでも思って異色のタッグを組むのも面白い。

 

「じゃあよろしくね、菜々ちゃん」

「こちらこそ、ともえちゃん」

 

 言いつつ、二人はそれぞれにスケッチブックと手帳に挟まれた栞を取り出して叫んだ。

 

「「変身!」」

 

 

の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の

 

 

「悪いな。待たせたか?」

「いいえ。今来たところです」

 

 公園の広い芝生。大きな木陰で待ち合わせをしていたのはエゾオオカミとセルシコウの二人だった。

 セリフだけ聞けばデートの待ち合わせと思えなくはない。

 ここはついこの前、エゾオオカミがセルシコウと戦って完膚無きまでに叩きのめされた場所でもある。

 

「ルリ達はまだか。それならもう少し待つか」

「ええ。隣、どうぞ」

 

 ちょうどいい木陰は夏の日差しを遮って心地よい涼しさを提供してくれる。

 エゾオオカミは遠慮なくセルシコウの隣へ腰を降ろした。傍目に見ればデートのように見えなくもない。

 けれど、そういう事ではなかった。

 

「しかし、まさか今日試合しようって言い出すとは思わなかったぜ」

 

 エゾオオカミの言葉にセルシコウは何とも言えない表情になった。

 そう。

 今日、二人が待ち合わせていたのは試合をする為だ。

 セルシコウはここ最近、エゾオオカミを鍛えていた。それは自ら鍛えた相手と本気で戦う為だった。

 

「まぁ、鍛えてもらっておいて言うのもなんだけどさ。今の俺がセルシコウとまともに戦えるとは思えないぜ?」

 

 エゾオオカミもここ最近の特訓で強くなった手応えはある。

 けれど、それでもセルシコウに渡り合えるとは思えなかった。

 

「けれど、差は確実に縮まっています。今日はエゾオオカミが成長しているという事を実感してもらいたいんですよ」

 

 セルシコウの言う事は嘘ではあるまい。

 本気でぶつかり合う事で分かる事だってあるだろう。今日、本番さながらにルリとアムールトラとユキヒョウの三人に立会人を頼んでまで舞台を整えたのはそういう理由だった。

 けれど、エゾオオカミはどこか釈然としないものを感じていた。

 

「(一体何なんだろうな。この違和感)」

 

 ふむ、と空を見上げ考える。

 枝葉の間から夏の空が透けて見えた。今日も夏らしい抜けるような青空が広がっている。

 

「あー。そうか。らしくないんだな」

 

 一体何がらしくないのか。

 そう思ったセルシコウはエゾオオカミの顔を見る。

 と、エゾオオカミもセルシコウの方に顔を向けていた。

 想像以上にお互いの顔が近くてセルシコウは慌てて顔をそむけた。

 が、エゾオオカミはセルシコウの肩を掴むとこちらを向かせて来る。

 一体何を、と言いたいセルシコウだったが、正面から瞳を覗き込まれて柄にもなくドキドキしてしまった。

 

「やっぱりだ。セルシコウ。お前さ……何か焦ってるだろ」

 

 エゾオオカミが感じていた違和感の正体はそれだった。

 セルシコウの性格から言って、まだ未熟なエゾオオカミと今戦う事は本意ではないはずだ。

 さながら、まだ熟していないリンゴをもいでかじるようなものである。

 なのに、それをしようとしている理由は焦っているから。

 エゾオオカミはそう推察していた。

 

「もう。エゾオオカミ。そういうところですよ」

「いや、どういうところだよ……。」

 

 セルシコウは自身ですら気づいていなかった胸のうちを見透かされて困っていいやら怒っていいやら照れていいやら、何とも言えない表情になった。

 確かに思い返せば自分は焦っているように思う。

 今日、エゾオオカミと約束をしたのは昨夜、青龍神社夏祭りのフィナーレを飾る最後の花火大会の後であった。

 それは、元を正せばオオセルザンコウがサオリの提案を受けて入れて『グルメキャッスル』の新店舗を立ち上げる事にしたからだ。

 『グルメキャッスル』はこの世界の“輝き”を保全する為の橋頭保となる予定だ。

 それが用意されれば、いよいよエゾオオカミ達クロスアイズとは本格的な戦いになるだろう。

 

「だから、私は……なんていうか……クロスアイズのエゾオオカミと戦う前にエゾオオカミと戦いたかったんだと思います」

 

 体育座りで膝に顔を埋めるセルシコウ。そんな彼女にエゾオオカミも「そうか」と返すしか出来なかった。

 さて、どうしたものか、とエゾオオカミは考える。

 今戦うのが正しいのか。

 そう考えると何か違うように思えた。

 

「なあ、セルシコウ」

「なんです?」

 

 だからエゾオオカミはそのままそれを訊ねてみる事にした。

 

「このまま戦ったとして、お前はそれで満足できるのか?」

 

 エゾオオカミに限って怖気づいたわけではあるまい。

 セルシコウにだってわかる。エゾオオカミがセルシコウの事を考えてくれた結果なのだ、と。

 ならばキチンと考えて答えるのが礼儀であろう。

 セルシコウも自らの胸の内に問い掛ける。

 果たして今日、エゾオオカミと戦いたいのかと。

 

「やっぱり私はエゾオオカミの言う通り焦っていたような気がします」

 

 落ち着いて考えれば、セルシコウが望む戦いはこういうものではなかった気がする。

 それをエゾオオカミに言われるとは……。

 セルシコウは反省していた。

 けれども、なら自分は一体どうしたいというのだろうか?

 そう思っていたセルシコウとエゾオオカミの前に……。

 

「もう! そんなの決まってるじゃない!」

 

 腰に手をあて仁王立ちになったマセルカがいた。

 その後ろには何故か物陰に隠れたルリとアムールトラとユキヒョウまでいるではないか。

 

「お前ら、何やってるんだ」

 

 思わず半眼ジト目になってしまうエゾオオカミである。

 

「あぁ、いや……そこでマセルカ殿と一緒になったんじゃが、二人がよい雰囲気じゃったからお邪魔かと思ってのう」

 

 そういうユキヒョウであったが、エゾオオカミとしては一触即発の間違いじゃないのかと思う。

 ルリとアムールトラまで揃って頷いてるあたり、しばらく様子を見ていたのだろうかと思わなくもない。

 それはともかく、マセルカは何が決まっているというのだろうか?

 

「オオセルザンコウのところに行こう! やっぱりちゃんとお話しした方がいいよ!」

 

 どうやらマセルカも自分と同じようなモヤモヤを朝から感じていたらしい。

 

「余計なお世話かもしれぬがわらわもそう思うぞ」

 

 そう言うユキヒョウの後ろではルリとアムールトラがうんうん頷いていた。

 

「オオセルザンコウ殿は、母上と一緒に色鳥駅の商業ビルに行っているはずじゃ」

 

 居場所もわかった。

 となれば、あとは向かうだけだ。

 

「そうですね。私達がどうしたいのか、まだわかりません。けれど、それも含めてオオセルザンコウと話してみたいと思います」

 

 セルシコウはそう決めると、マセルカに手を差し出した。

 

「おう。それがいい。試合はまた今度にしようぜ」

 

 エゾオオカミも二人を送り出す。

 やはりセルシコウとの決戦はお互いに万全の状態で臨みたい。

 

「すみません。エゾオオカミ。それにルリとアムールトラとユキヒョウも。せっかく来てもらったのに」

 

 無駄足を踏むことになってしまったルリとアムールトラとユキヒョウであるが、三人とも揃って首を横に振る。

 

「なあに、構わぬよ。わらわ達とてお主らがギクシャクしておると何というか落ち着かんからの」

「そうそう。私達の事は気にしないで」

 

 ユキヒョウとルリも笑って送り出してくれる。後ろに控えたアムールトラも無言のままに頷いていた。

 

「では、この埋め合わせはいずれ。行きましょう、マセルカ」

「うん!」

 

 セルシコウとマセルカの二人は連れ立って駅の方へ歩いて行った。

 

「さぁて、ウチらは暇になってもうたけどどないする?」

 

 二人を見送った後アムールトラは皆を見渡した。

 

「そうじゃのう……。せっかくクロスジュエルチームが勢揃いしているわけじゃし、どこか行ってみるかの?」

「そうだなあ……。だったらキンシコウ先輩んところは? キンシコウ先輩の家のスポーツジムは駅前の方にあるし」

 

 すっかり予定が開いてしまったわけだが、ユキヒョウの提案にエゾオオカミが返した。

 

「なるほど! キンシコウ先輩って空手部の主将さんだもんね! もしかしたらセルシコウさんに勝つヒントとかもらえるかも!」

「おう。ウチらはエゾオオカミを応援してるで!」

 

 早速ルリとアムールトラの二人に手を取られるエゾオオカミだ。

 エゾオオカミとしてもセルシコウに負けてやるつもりは毛頭ない。

 せっかく空いた時間なのだ。有効に使わせてもらおう。応援してくれる友達の為にも。

 揃って駅前の方へ歩くクロスジュエルチームであったが、この時はまだ気づいていなかった。

 駅前の方にやけに厚い雲がかかりはじめている事に……。

 

 

の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の

 

 

「はぁ……」

 

 ハクトウワシは今日何度目かの溜め息をついていた。

 いつも仕事熱心なハクトウワシにしては珍しく、心ここに在らずといった様子だ。

 交番のデスクに広げられた事務書類には何も書かれていない。

 さっきからずっとこんな調子だ。

 

「どうしたんだい? ハクトウワシ君。どこか体調でも悪いとか?」

 

 さすがに心配になったヤマさんが訊ねる。

 それでようやくハクトウワシは我に返った。

 

「すみません、ヤマさん。体調が悪いとかそういう事ではないんです」

 

 だとしたら、ハクトウワシがこんな風になる理由として思い当たる事は一つしかなかった。

 

「オオセルザンコウちゃん達の事かい?」

 

 重ねて訊ねられて、ハクトウワシの顔には「図星です」と書いてあった。

 どうやら往年の名刑事は何でもお見通しらしい。

 

「なんだか今朝は三人とも様子が変だったというか、なんていうか……。喧嘩をしたってわけじゃないんでしょうけど、なんだかギクシャクしてたというか……」

 

 いつもなんだかんだで仲のよいオオセルザンコウとセルシコウとマセルカの三人だったが、今朝に限ってはなんだか奥歯に物が挟まったような変な空気だった。

 ハクトウワシもこんな事は初めてで気を揉んでしまっていたのだった。

 

「なるほどなるほど。でオオセルザンコウちゃんは駅前の方に行っているんだったね」

 

 ふむ、とヤマさんは考え込む。

 

「じゃあ、ハクトウワシ君。少し気分転換がてらパトロールにでも行って来るといい。事務仕事はこっちでやっておくから」

 

 言いつつヤマさんはハクトウワシのデスクにあった書類を引き受ける。

 この調子で気もそぞろなハクトウワシではいつまで経っても事務仕事は終わらないだろう。

 

「ああ。いつものパトロールコースから少しくらい外れて駅前の方まで行ったってかまわないからね」

 

 そう言ってヤマさんは不器用なウィンクをして見せた。

 そんな思い悩むくらいだったらちょっと行って話して来たらいい。

 そう言外に言っているのだ。

 

「すみません、ヤマさん」

「いいさ。オオセルザンコウちゃん達にはいつも美味しい昼食をご馳走になっているからね」

 

 ハクトウワシはヤマさんにもう一度礼を言うとパトロールの準備に取り掛かった。

 ともかく、オオセルザンコウに会えたら話をしてみよう。

 準備を終えたハクトウワシはヤマさんの前で敬礼。

 

「ただいまよりパトロールを実施します。先日の色鳥武道館不審者侵入事件を鑑みてパトロール範囲を通常より広くします」

「了解。気を付けて」

 

 ヤマさんも返礼を返す。

 と。

 パトロールに出ようとしたハクトウワシは気が付いた。

 交番の入り口でフレンズが一人、こちらをじーっと見つめている事に。

 やや丸みを帯びた耳と黒く長い毛並みが特徴的なフレンズだ。

 着ているのも黒のワンピースで何だか清楚な印象がある。

 年齢的にはハクトウワシよりも少しだけ年下といったくらいだろうか。

 女子大生、いや、事によっては女子高校生かもしれない。

 こちらを伺っているという事は交番に用事だろう。ハクトウワシは声を掛けてみる事にした。

 

「お嬢さん。なにか困りごとかしら?」

「そうですねぇ。困っていると言えば困っているかしら。例えば夫が女子中学生の手作り弁当で鼻の下を伸ばしちゃってる、とか」

 

 言ってニコリとそのフレンズは笑った。

 夫、という事はこのフレンズは見た目よりも年上なのだろうか?

 それに夫、というのは……?どうあれ夫婦喧嘩の仲裁までは警察官の仕事ではない。

 ハクトウワシが困っていると、そのフレンズはペコリと頭を下げた。

 

「はじめまして。私はヤマバクと言います。いつも夫が……」

 

 どうやら彼女はヤマバクのフレンズらしい。ヤマバクが言葉を続けようとするのをヤマさんが遮った。

 

「あー。ハクトウワシ君。ここは儂が引き受けるからパトロールに行ってきなさい」

 

 珍しく少し焦った様子を見せるヤマさんを怪訝に思いながらもハクトウワシは言われた通りパトロールへと向かった。

 

「うふふ。あなた。たまには私もお弁当、手作りしてみたの。一緒にどうかしら?」

「あー、ああ、うん。ありがとう。い、一応言っておくけれど別に鼻の下を伸ばしたりはしていないからね」

「わかってますよ。あなたは私一筋ですものね。うふふ。」

 

 もしもハクトウワシが交番に残っていたなら、本名に一つとしてヤマ要素のないヤマさんがどうして『ヤマさん』と呼ばれるのかを理解していただろう。

 けれど、ハクトウワシはヤマさんの配慮に感謝すべきだった。

 何故なら、夫婦喧嘩は犬も食わないが、当然鷲だって食べないのだから。

 

 

―後編へ続く

 

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