プール開き前のプール清掃に参加したともえと萌絵とイエイヌの三人。
色々とトラブルがありながらもG・ロードランナーのフレンズ、ゴマと知り合う三人。
そんな時、休日の学校に冷蔵庫や電気ポットなどの家電に取りついたセルリアンが現れる。
クロスハートに変身したともえとクロスナイトに変身したイエイヌがセルリアンと戦う。
しかし、堅く攻撃の通らない『石』に苦戦するともえ達。
あわや、というところで再び姿を現した“紙飛行機の君"
クロスハート、クロスナイト、そして紙飛行機の君の三人は力をあわせてついに家電セルリアンに勝利するのだった。
登場人物紹介
名前:遠坂 春香
好きな物:家族 フレンズ 写真
特技:家事全般 お料理
遠坂 ともえと遠坂 萌絵の双子の母親。よく姉妹と間違われる。しかも妹の方だと思われる。
自宅をカフェに改造して1階部分でカフェを経営している。家事全般が得意でお料理やお茶の淹れ方などは中々のもの。
自宅カフェの名前は娘達の名前をとって『two-Moe』であるが、馴染みの客達からは『もえもえカフェ』の名で親しまれる。
制服はメイドさんモチーフで春香、ともえ、萌絵の三人の他にもバイトのフレンズ達がいて『もえもえカフェ』の名に相応しい華やかさだ。
趣味は写真撮ってのアルバムづくりである。
けものフレンズRクロスハート第4話『イエイヌの戦い』
プール清掃作業も、セルリアンとの戦いも無事に終わって家に帰りついたはずのともえと萌絵とイエイヌの三人。
しかし、彼女達は今まさにラスボス戦とも言うべき大ピンチに遭遇していた。
「ねえ、ともえちゃん。萌絵ちゃん。クロスハート、って何かしら。」
家に帰った彼女達を待っていたのはいつもの笑顔を湛えた春香のその言葉であった。お帰りなさいの後に続く台詞にともえと萌絵の動きが固まる。
続けて家に帰った時の顔のまま二人揃って顔色が青くなっていく。イエイヌだけが不思議そうに春香とともえ達を交互に見比べていた。
普段は温厚を絵に描いたような春香だが、彼女が怒る事がいくつかある。そのうちの一つが危険な事をする事だ。
当然セルリアンと戦うのは危険な事だし、なんなら命賭けちゃってた部分がないでもない。
「アー。春香。二人がすっかりビビってるカラ、ちゃんと説明してヤレ。」
後ろからラモリさんがピョイン、と飛び跳ねて躍り出る。
「ええと…あの…その…。」
「マズな。俺と春香が今朝からドクターの研究所に行ってたのハ知ってイルよな?」
当惑を見せるともえにしょうがない、というようにラモリさんが話し始める。
「デ、そこデ俺のメモリに記録されタ昨日の記録映像ヲ見た。」
昨日、つまりそれは群体セルリアンと大蛇セルリアンと戦った時の映像を見た、という事だろうか。
つまるところ、誤魔化したり言い逃れは通用しないレベルでばっちりクロスハートの正体が春香にはバレている、という事だ。
「ドクターが研究所カラ中々帰ってこれない事情トちょい関係ガあったりシタんでメモリの映像記録を再生シタのは勘弁してクレ。」
そこでようやく、といったように春香が口を開く。
「萌絵ちゃん。ともえちゃん。」
「「は、はひっ!」」
二人は直立不動、ピシリ、と固まって続く春香の言葉を待つ。遠坂家怒らせちゃいけない人ランキング堂々の第一位は春香なのである。
まな板の上の鯉の気分とはこんな感じか、と一つ勉強になってしまったともえと萌絵。二人の前でゆっくりと春香の口が開かれる。
「ずるいわっ!こんなカッコイイ事を内緒にしてたなんて!」
とほっぺを膨らませて腕をぶんぶんさせる春香。
「「(そっちかー!!)」」
と脱力する二人。とりあえずどうやら母親の雷が落ちる事は回避されたようだ、と内心で安堵する。
「それにイエイヌちゃんもかっこよかったわ!クロスナイト!頑張ってたわねっ!」
と、春香は一人取り残されていたイエイヌに抱き着きモフりまくる。
「あ、あれ?今日はラモリさんが一緒じゃなかったよね。なんでイエイヌちゃんがクロスナイトになってる事も知ってるの?」
「ああ、それだったらテレビに流れてたわよ。ほら、録画もしておいたの。」
早速、といった様子でテレビのリモコンを操作する春香。テレビは反応よく映像を映し出す。そこにはついさっき戦った家電セルリアンとの一戦の一部始終が何故か流されていた。
「あー。これアタシも見逃したやつだ。見たかったんだー。」
「ええ。今回もイエイヌちゃんもともえちゃんもカッコよかったわぁー。ほらほら、ここ。G・ロードランナーフォーム!」
「うわわ…。でもお姉ちゃん的にはこれはちょっとエッチいんじゃないかなって心配になるかなー。ヘビクイワシフォームの時は割と大人しめだったのにー…」
と、テレビの前で萌絵と春香がキャイキャイと観戦開始。なんならお煎餅とほうじ茶でも淹れてきそうな勢いだ。
「いや、ちょっと待って!?なんでさっきのセルリアンとの戦いがテレビに流れてるの!?問題はそこだよ!」
思わずツッコミ入れちゃうともえ。
「ソレは俺カラ解説しよう。」
とラモリさんが再びぴょん、と飛び跳ねてみせる。
「映像ヲ解析した結果ナ。あのセルリアンのテレビ部分の能力は街中のテレビに自身が映した映像ヲ同じヨウニ映す事だ、と判明シタ。」
つまり…
「この映像って街中に出回ってるって事ー!?!?」
ともえの叫びがこだまする。
「うーん、でも一通り見たけどテレビに映った部分ってクロスハートとクロスナイトの正体部分がわかりそうなところはないみたいだねえ。」
テレビに映っていたのは、ちょうど家電セルリアンのテレビ部分が映像を映し始めて撃破されるまでの間の出来事だったらしい。萌絵の言う通りだったらしくとりあえず胸を撫でおろすともえであったが…。
「ケドな。クロスハートって何ダ、みたいな噂話は出てるゾ。」
「お、おおう…。やっぱりそうなるよね…。」
なんかもう色々ありすぎてどんな表情をしていいやら、なともえ。とりあえず今の表情を一言で言い表すならばゲンナリ、だろう。
で、一通りテレビに映ってた家電セルリアンとの戦いの観戦を終えた春香と萌絵。
テレビをリモコンで電源落とすと春香はあらためて二人に向き直る。
「ほんとはね。二人にもイエイヌちゃんにも危ない事をして欲しくはないけれど、みんなまたセルリアンが出たら戦いにいっちゃうんでしょう?」
「はい。わたしが皆さんを守りふぁああああああ!?」
その問いに即答で答えようとするイエイヌをギュっとしてモフりまくる春香。
「そう…。だね。また友達やみんながセルリアンのせいで危ない目にあったりするならアタシは戦いにいっちゃうと思う…。」
イエイヌをモフったままの春香を見つめ返して頷くともえ。
「そうよね。ともえちゃんはそういう子だもの。ちょっと複雑なところはあるけれど、ともえちゃんが誰かのピンチを見過ごせない子に育ってくれてお母さんは嬉しいわ。」
ちょっとだけ困ったような苦笑を浮かべる春香。すぐに表情を戻してともえを見つめ返し、続ける。
「なら約束して。絶対に無理しない事。困ったらちゃんと相談する事。あと、ちゃんとおうちに帰ってくること。」
「うん。約束する。」
「内緒で無理されるよりはずっといいわ。だから頑張って。お母さん応援するから。」
「お母さん…。ありがとう。」
「あとね、イエイヌちゃんもよ。あなたももうウチの子なんですから。ちゃんと無理せず毎日おうちに帰ってくるんですからね?」
言いつつ春香はさらにワシャワシャとイエイヌを撫でまくる。
「春香さん…。はい。ありがとうございます。」
嬉しそうに尻尾を揺らすイエイヌ。その耳元に唇を寄せて続ける春香。
「あとね、ともえちゃんと萌絵ちゃんを守ってくれてありがとう。イエイヌちゃんも自慢の娘ですからね。」
その言葉にしばらく呆けてからボム、と赤くなるイエイヌ。尻尾だけはぶんぶんと揺れていた。
そんなイエイヌをパッと離してから…
「あとあと!カッコよく活躍できたらお母さんにも教えてね!」
春香は目をキラキラさせてともえに詰め寄る。
「あの…。お母さん。それは一度置いておいて、お父さんが最近忙しそうなのってアタシがクロスハートになったのと何か関係あるの?」
と、さっきラモリさんが言ってた気になる事に話題をかえるともえ。
『それは僕から説明するよ。』
「お父さん?!」
ラモリさんから別な声が響く。どうやら通信でドクター遠坂が話しているようだ。
『実はね、セルリアンというのは一般には知られていないけど数年前から存在が確認されていたんだ。』
「ほへー…。全然知らなかった…。」
『セルリアンは誰かに知られる前にクロスハートのような戦士がこっそり倒してたからね。知らないのも無理はないよ。』
そう、今まで人知れず戦ってきた戦士、というのには心当たりがある。
「かば…じゃない。紙飛行機の君みたいな…?」
『そうか、ともえ達はそう呼んでいるんだね。うん。彼女もそうだとも。』
「じゃあさ…。セルリアンって例えば警察みたいなのに任せたらどうなるの?」
その疑問はもっともだ。本来であれば人々の安全を守るのは謎のヒーローの仕事ではないのだから。
『そうだね…。難しいと思う。セルリアンは人間の使う道具に寄生してその能力をコピーして強くなる傾向がある。警察の装備をコピーされたりしたら大変な事になるからね。相性がよくないんだ。』
「じゃあクロスハートだったら…?」
『うん、戦うという点では相性がすごくいい。クロスハートもクロスナイトもサンドスターを使って戦ってるからね。セルリアンを構成するサンドスター・ローを分解してサンドスターへ変換する事ができるんだ。』
どうやらセルリアンに対しては変身したともえ達が天敵ともいうべき存在になるようだ。
『だから、ともえ達がセルリアンと戦うつもりなら影ながら出来るだけ協力しよう、という事を今日の朝から春香さんと話し合ってたんだ。』
「あー。それでお母さん、朝からお父さんの研究所にラモリさんと一緒に行ってたんだねえ…。」
納得顔の萌絵。
『そしてね。ちょうどイエイヌちゃんと出会った日から急激にサンドスターの活動が活発になってるんだ。』
「え…。」
それに驚きの表情を浮かべるイエイヌ。
『そのせいでセルリアンの出現率も高くなってるんだ。だから今後もセルリアンには注意が必要だね。』
そう続けるドクター遠坂の声も聞こえていないようにイエイヌの元々白い顔色は蒼白になっている。
「も、もしかして、わたしが来たせいでセルリアンがこちらにも…?」
なるほど、ちょうどイエイヌが別な世界のジャパリパークからこの世界へやって来た日からセルリアンの出現率が高くなった、というのであればそう考えるのも無理はないように思えた。なんと声をかけていいのかわからないともえ達。
『いや、それは違うんじゃないかな。むしろ逆かもしれない。確かにここのところのサンドスターの活動は異常だけれどそれがイエイヌちゃんのせいだとは思えないんだ。』
「ど、どういう事でしょう。」
『うん、むしろ逆にこの事態を助ける為にセルリアンと戦える力を持ったフレンズのイエイヌちゃんをこちらに応援として送ってくれたって考えた方がしっくりくるんだ。』
そう、イエイヌをこの世界に転移させたフレンズのオイナリサマ。もしかしたらそういう意図があったとしても不思議ではない。
『だからね、イエイヌちゃんは何も悪い事はしてないよ。むしろ感謝している。萌絵とともえを守ってくれてありがとう。これからもよろしくお願いしたいくらいだよ。』
「うんうん!そうだよ!お父さんいいこと言った!」
「ええ、ステキよ!お父さんっ!」
「今度何か好きなご飯作るからね!」
手放しでともえ、春香、萌絵に褒められて通信ごしでも照れている様子が伝わってくるドクター遠坂。
『それは楽しみなんだけど、まだまだ帰れそうにないんだ…。』
今度は通信越しでも明らかに気落ちした様子が伝わってくる。
『サンドスターの活動が活発になってる、って言ったんだけどね、これのおかげで研究も凄い勢いで進んでるんだ…。ざっと今までの数十倍くらいの速度でね。』
「ええ…。だからおうちに帰れる機会が減っちゃうみたいなの…。すごく残念だわ。」
ほっぺに手をあてて落胆の表情を浮かべる春香。
『すまないけれど、留守がちになっちゃうんだ。ごめんね。春香さんも萌絵もともえもイエイヌちゃんもおうちの方はよろしくね。』
言ってそれでラモリさんの通信は途切れてしまう。
「そっかあ…。お父さんまだまだ忙しいんだ…。イエイヌちゃんになかなか紹介できないね。」
「うん…残念だよねえ…。」
そう気落ちしてみせるともえと萌絵。そんな二人に春香は一度パンと手を鳴らしてからあらためるように言う。
「はい、そんなともえちゃんと萌絵ちゃん、それにイエイヌちゃんにもお報せがあります。」
三人とも春香の方に注目して続く言葉を待つ。
「実はね、イエイヌちゃんの編入試験が月曜日に決まったの。試験に合格したらイエイヌちゃんは晴れて二人と一緒の中学2年生よ。」
と嬉しそうに続ける春香。
「「え…。」」
とその言葉に再び固まる萌絵とともえ。
「ええっと…。月曜日って明後日だよね…?」
「ええ、そうよー。」
「ちなみに、その試験って合格しなかったら…」
「ん?そうねえ…。多分学年下げたり小学校から編入って形になるんじゃないかしら?」
ともえと萌絵は顔を見合わせる。お互いに目配せで同じ事を考えているのは理解できた。
まず、小学校への編入。それは絶対にダメだ。何せ学校が違う。一緒に登校できないし、一緒に部活できないし、一緒に授業受けられないし、一緒に下校できない上に家でしか一緒にいられないではないか。中学1年生への編入であれば一緒に登校は出来るが将来的には進学時に別れてしまうだろう。
やはりベストはともえと萌絵と一緒の中学2年生への編入だ。
だが、その為には当然編入試験に合格しなくてはならない。
中学2年生への編入という事は当然試験内容も中学2年生相当の学力を問う内容になってくるはずだ…。
二人は同時にバッとイエイヌの方を見る。急に自分の方を見られて?と小首を傾げるイエイヌ。その表情には危機感というものが全く感じられない。
「萌絵お姉ちゃん…。」
素早くアイコンタクトを送るともえ。それに萌絵も一筋の汗を浮かべながら頷きを返す。
「うん…。あのね…、イエイヌちゃん…。一緒にお勉強しよっか…。」
今のイエイヌの学力はようやく平仮名の読み書きができるようになった程度…。どう高く見積もっても小学1年生程度の学力しかない。
つまり、今夜と明日の間に約7年分の勉強を詰め込まねばならないのだ…。
悲壮な顔のともえと萌絵。戦力差はあまりに絶望的だ。
「あら、三人でテスト対策ね。じゃあお夜食とか作ろうかしら。頑張ってね。」
そんな絶望的な状況にも関わらず春香は気楽な様子。しかし、そんな気楽な様子を見せる春香に気づく余裕は二人にはなかった。
「はいっ!ともえさんと萌絵さんと一緒にお勉強、嬉しいです!」
目を輝かせて尻尾を揺らすイエイヌに過酷な一夜漬けをしなくてはならない事に萌絵とともえの二人の胸はチクリと痛むのだった。
の の の の の の の の の の の の の の
一夜明けて日曜日。
ここは喫茶店『two-Moe』。遠坂春香の営むカフェである。今日はここでイエイヌの試験勉強してもいいよ、と言われた三人。
昨日の夜から引き続き、といった様子でカフェの一角に陣取って教科書やノートを広げているイエイヌ。真剣な表情で教科書とにらめっこだ。
その隣には今日は『two-Moe』の制服に身を包んだ萌絵とともえの二人が控えている。
萌絵の方がロングスカートのクラシカルメイドをモチーフにした制服なのに対し、ともえの方はミニスカートにニーソックスのモダンメイドタイプの制服だ。
お揃いのリボンがついたカチューシャも中々に可愛らしいく、これで笑顔があれば完璧だったのだが、残念ながら二人の表情は揃って暗い。
「ええと、萌絵さん。この掛け算、というのは2×3という書き方だと2個の塊が3つある、という事でいいのでしょうか。」
「うん、そうだよ。すごいよ、イエイヌちゃん。もう足し算と引き算も出来るし掛け算も覚えつつあるね。」
イエイヌがくるり、と振り返ると揃って笑顔を向ける萌絵とともえ。そう、イエイヌは優秀といってよかった。学年一の秀才、萌絵の指導のおかげもあるだろう。
既にイエイヌは平仮名の読み書きはマスターして簡単な漢字も書けるし足し算引き算くらいの簡単な計算なら出来るようになっていた。一晩でこの成長なら優秀すぎると言っていいだろう。
そして、長時間の勉強になっていたが意外にもイエイヌは二人が一緒のせいか、よく集中力を保ち続けている。
もう小学1年生のレベルは越えているのは間違いないだろう。それでも中学2年生レベルの学力とは程遠い。戦力差は変わらず圧倒的と言っていいだろう。
「ねえ…、お姉ちゃん…。やっぱりテストに出そうな範囲を丸暗記しちゃった方がいいんじゃあ…。」
そう、ヤマを張って丸暗記すればもしかしたらこの圧倒的な戦力差を埋める可能性も出てくるかもしれない。ともえが萌絵にした耳打ちにも一考の余地があるのではないだろうか。だが、その提案に萌絵は首を横に振って否定する。
「ううん、それをしない理由は二つあるの。まず一つ目ね。」
萌絵は指を二本立ててみせてから続ける。
「まず、イエイヌちゃんには基礎ともいうべきものが一切何もないの。だから丸暗記をするっていうのはオススメできないよ。だってちょっと問題文がかわったらそれだけで対応できなくなっちゃうでしょ。」
言いつつ萌絵は人差し指だけを残して…。
「で、こっちの方が大きい理由なんだけど、丸暗記って面白くも何ともないの。イエイヌちゃんは今はお勉強を楽しんでやってるように見えるでしょ。」
「うん…。そうだね。新しい事を覚えるのが楽しいみたいだし、問題正解したときに撫でてあげるとすっごい喜んでくれるし…。」
「一晩で色々覚えられたのも、お勉強が楽しいって思えてるからだよ。だから丸暗記の詰め込みでお勉強がつまんない、ってなるよりは地道に正攻法で小学1年生のお勉強からやっていくのが一番だと思う。」
昨日一晩の快進撃はやはりイエイヌが勉強を楽しい、と思っていてくれるからこそのものなのだ。萌絵の教え方が上手いというのももちろんあるが、それを聞くイエイヌが正確に何を伝えたいのかを理解する事に長けているという犬のフレンズの習性もプラスに働いているのだろう。
「だから正攻法で今日一日でいけるところまでイエイヌちゃんのお勉強を出来るようにするのが一番いいと思う。」
その萌絵の言葉にともえも頷く。だが、問題はそれだけではない。
「でも…。アタシ達が接客で抜けたらイエイヌちゃん、今の集中力でお勉強続けられるかな…。」
そう。今日は日曜日。今はまだ開店時間から間もない為お客さんの来店はまだないが、この喫茶店『two-Moe』には常連客も結構いるので日曜日はそれなりに忙しいのだ。
今日はバイトの子達もいないので萌絵とともえの手伝いは必須だろう。しかし、忙しくなってイエイヌが一人になった時、それでも今の集中力を保って勉強を続けられるかは疑問が残る。
「ないものねだりとはわかってるけど、誰かついててくれたらいいんだけど…。」
「一応俺もイルが、やはり誰かいてくれれば心強いナ。」
イエイヌが勉強道具を広げるテーブルにはラモリさんも一緒にいて勉強を見てくれてはいる。だが、やはりラモリさんの他にも誰かがいてくれれば、と願わずにはいられない。
―カランカラン。
そんな二人の願いとは裏腹に、ドア鈴が鳴る。早速お客様だろうか。イエイヌの事は萌絵に任せてともえは接客へと回る。極力萌絵をイエイヌの側に残してともえが接客に回る作戦だ。
調理にともえが回ってしまったりしたらともえスペシャルの犠牲になるお客さんが出てくるかもしれないが尊い犠牲だ。
「いらっしゃいませー、お客様何名でしょうか♪」
さっきまでの暗い表情からは一変、完璧なスマイルでやってきたお客さんを迎えるともえ。
「やあ、おはよう、ともえ君。随分と可愛らしい格好でありますな。」
やってきたのは私服姿のヘビクイワシだった。今日は白のYシャツに黒のベスト、でもってネクタイを締めて下はチェック柄のキュロットにニーソックスという格好だ。
思わずともえは…
「ヘビクイワシちゃんの方が可愛いんじゃー!」
と感想を漏らしてしまう。
「なになに?ヘビクイワシちゃんの私服姿ってはじめてみるよ。今日はどうしたの?遊びにきてくれた?」
ヘビクイワシに纏わりつくように前から後ろから観察するともえ。ともえファンクラブとヘビクイワシファンクラブの会員が見たら垂涎ものの光景だ。
というか両方のファンクラブの会員ナンバー一桁第の遠坂春香はその光景を脳内メモリーにしっかりと記録していた。何なら写真撮りたそうにしていた。
「ああ、イエイヌ君の一大事と聞き及びまして。微力ながらお手伝いに来たのでありますよ。」
「もしかして、明日イエイヌちゃんの編入試験があるって聞いてたの?」
「ええ。生徒会が準備の手伝いをしたのでその関係で。それに心強い味方も連れてきたのであります。」
どうやらヘビクイワシはイエイヌの為に駆けつけてくれたらしかった。思わず目頭が熱くなるともえ。と、それよりも…。
「心強い味方…?」
「ええ、こちらに。」
とヘビクイワシが後ろを指し示すとそこには私服姿のかばん生徒会長とサーバルが立っていた。
かばんの方は赤色のYシャツに黒ベスト。それにハーフパンツという姿でサーバルの方は白のブラウスに黄色のスカート。そして首元にお揃いの黄色いリボンタイが結ばれている。
「も、もしかしてかばんちゃんもイエイヌちゃんの為に…?」
「はい。ヘビクイワシさんに昨日どうしても、と頼まれて…。」
「私も!私もお勉強お手伝いするよ!」
はいはーい、と元気に割り込んで自己主張してみせるサーバル。そんな彼女をかばんが撫でながら
「サーバルちゃん、お店の中だから少しだけ静かにね。」
「そっか、ごめんね。私、また先走っちゃったよ。」
自らの口元を抑えてコクコクと何度も頷くサーバル。思わずほっこりとした表情でそんな二人を見るともえ。
「勉強に関してならこれ以上の助っ人はいないでありましょう?サーバル君の方は置いておいて…。」
「ヘビクイワシひどいよっ!」
そう。かばん生徒会長の成績は学年2位。むしろ体育なども含めた総合成績なら1位である。つまり、学年ツートップの二人がイエイヌの勉強を見てくれるというのだ。これより心強い事はないだろう。
「それと、G・ロードランナーのフレンズ、ゴマ様も、なっ!」
さらにその後ろからヒョコリと顔を覗かせるゴマ。Beepの文字が入った青色のシャツにスパッツというやたらスポーティーな格好だ。
「あ、いたの。ゴマちゃん。」
「きいー!なんだよその反応はー!」
「うそうそ、ゴマちゃんももしかしてイエイヌちゃんの為に?」
「ま、友達に勉強を教えちゃいけないなんてルールはなかったからな。」
とそっぽ向くゴマ。すっかりほっぺたが赤くなってしまっている。
「先ほどから店に入ろうか入るまいか迷ってたようであります。」
「そこお!バラすな!」
そっとともえに耳打ちするヘビクイワシにゴマがびしぃ!と指を突きつける。
戦力としては不安の残るメンバーもいるようではあるが、これで当面の問題は解決した、と言ってよさそうだ。
「萌絵お姉ちゃん、イエイヌちゃん、みんなが応援に来てくれたの!」
嬉しそうにイエイヌ達の元へ戻るともえ。
「あー!ヘビクイワシさん!ゴマさんっ!」
みんなの姿を見つけると顔をパッと輝かせてぶんぶん尻尾を振るイエイヌ。
「私とかばんちゃんもいるよっ!」
「はいっ、サーバルさんとかばんさんも会えて嬉しいですっ!」
自己主張するサーバルに苦笑してみせるかばんであったがイエイヌは二人にも嬉しそうな笑顔を見せる。
「みんな来てくれて助かったよおー。今日、アタシ達バイトだったしイエイヌちゃんのお勉強ずっと見てられなかったろうから。」
「そうでありましたか。いや、役に立てるのであれば来た甲斐もあったというものでありましょう。」
「えーっと、それでイエイヌさんのお勉強はどのくらい進んだんですか?」
メイン戦力ともいうべき萌絵、ヘビクイワシ、かばんの三人がイエイヌのノートを覗き込む。何せこの萌絵とかばんの成績は学年ツートップだしヘビクイワシも成績上位者グループに入っている。
現在望める最高戦力が集結したと言っていい。
「ふむ…。正直見違えたのであります。既に簡単な漢字くらいなら読み書き出来そうでありますな…。」
「そうですね…。思ってた以上に進んでるみたいです。これだと四則計算だって今日中には覚えられそうですね。」
「うんうん、そこさえ覚えちゃえば後は応用が効いてくると思うから踏ん張りどころだよね。」
「足し算と引き算は桁が増えても大丈夫です!掛け算は…。まだちょっと難しいですが…。」
「いやいや、昨日の今日でそこまで出来るだけでも大したものであります。」
「はい、凄いですよイエイヌさん。これなら希望も出てきます。」
ヘビクイワシ、かばん、萌絵が顔を突き合わせて作戦会議。かなり勉強は進んでいる、というのが共通認識ではあるがそれでも戦力差はまだまだ埋まっていない。
それでも昨夜からの頑張りに三人は交互にイエイヌの頭をなでなでする。それにイエイヌは満足そうに目を細める。
それをちょっと遠巻きに眺めるともえ、ゴマ、サーバル。しそくけいさん?なにそれ美味しいの?状態で別なグループを形成しつつあった。
「えーっと、ともえちゃん。皆は何を言ってるのかなあ?」
「教育方針の確認、かなあ。」
「お、おう。そうだな。方針の確認は重要だな。」
チームお勉強苦手同盟として妙な連帯感が生まれつつあるサーバル、ともえ、ゴマの三人。
「ちなみに、ともえ。お前この前の中間の順位どうだったんだ?」
「えーっと学年で20位くらいかな。」
学年20位。これはそれなり上位の成績にあたる。成績上位者グループの最後尾くらいに位置するポジションといっていい。勉強が得意というわけではないが普段から萌絵が勉強を教えてくれているおかげでともえも成績は中々にいい方なのだ。
「お前こっち側じゃねーのかよ!」
「へへー、お姉ちゃんにお勉強を教わっちゃいけないなんてルールはなかったからねー。」
「くっそぉー!ともえの裏切りものぉー!へんっ、こうなりゃ、サーバルっ!一緒に勉強しようぜっ!」
「みゃっ?うん!私もかばんちゃん達と一緒にお勉強するーっ」
「おぃい!俺を一人にするなぁー!」
お勉強苦手同盟、早くも解散であった。
の の の の の の の の の の の の の の
お昼も回った喫茶店『two-Moe』
日曜日だけあって常連さん達で結構な賑わいを見せている。ともえも萌絵も接客やら調理やらでかなり忙しい。
その間はかばんやラモリさんやヘビクイワシたちが中心となってイエイヌの勉強を見続けている。
イエイヌの集中力は中々どうして大したもので、既に四則計算はもちろん分数の足し算、引き算すらも覚えはじめていた。
で、同じテーブルではサーバルちゃんやゴマちゃんも一緒に勉強していてなんとも和気藹々とした雰囲気である。
しかし、ともえには一つ気になる事があった。
バイトでイエイヌ達のテーブルを離れなくてはいけない時は多々あったのだが、たまにそちらの様子を確認するとかばんと目が合うのだ。
目があって軽く手を振ってみせたり笑顔を向けてみると、やはりかばんも同じように手を振り返してくれる。
「(多分、あれかなー。昨日のお話したいんだけどいいタイミングがないってやつかなー。)」
元々かばんとともえは同じクラスなのでそれなりに仲はよかった。
1年生の時も同じクラスではあったのだが、どちらかと言えば大人しくて目立たない感じの子だったはずだ。優しい子なので友達は多かったが生徒会長までやるようなタイプには思えなかった。
そして、1年生の時の彼女は間違っても謎の変身ヒーローとしてセルリアンと戦うようなタイプには見えなかった。
「(でも学年上がってから、なんかすっかりカッコよくなっちゃったんだよねえ。)」
特に彼女が生徒会長に立候補してからともえはそれに気づいてしまった。元々優しい子ではあったがこうして困ってる子がいるといつの間にか駆けつけて問題を解決してしまう。先日のプール清掃いがいでも助けられた事が何度かあったりするともえである。
その評価は周囲も似たようなもののようで、生徒会長選挙では稀に見る大差での当選となったのであった。
「ともえちゃーん。イエイヌちゃんの陣中見舞いできたから運んでくれるー?」
「あ、はーい。」
ランチタイムもひと段落ついた頃、春香の呼ぶ声で考え事を中断するともえ。
春香が作ってくれたのは手軽に食べられそうなミニサンドイッチ。定番の卵にツナマヨの他ハムレタスサンド、ベーコンレタストマトのBLTサンドと色鮮やかな大皿が出来上がっていた。
「わあー。美味しそう!きっとみんな喜んでくれるよっ」
「ついでだし、ともえちゃんも皆とお昼休憩しちゃって。」
「うん。お母さんありがとうっ」
早速大皿に盛りつけたミニサンドイッチ達を持ってイエイヌ達の元へ戻るともえ。
「進み具合はどう?お母さんがご飯用意してくれたから一休みにしない?」
言いつつあいてる場所に大皿を降ろすと皆に喜色が広がる。
「イエイヌちゃんはどう?疲れたんじゃない?」
「はい。なんだか頭がぐるぐるしますがまだまだ元気です。」
健気にも強がってみせるが疲労の色は隠せなくなってきた模様のイエイヌ。ここで休憩はちょうどいいかもしれない。そう思って萌絵とかばんの方をチラリと伺うともえ。二人も同じ考えのようで揃ってこくり、と頷く。
それが合図となったのか、みんなでほっと一息、遅めのランチタイムだ。
「おーいしー!」
「はい、春香さんのご飯も萌絵さんのご飯も美味しいんですよ。」
嬉しそうに早速サンドイッチに手を伸ばすサーバルとイエイヌ。と、期待に満ちた目でともえがイエイヌを見ている。
「あー…。ともえさんのは…。はい。ええと…。無茶な挑戦さえしなければ美味しいです…。」
と目を逸らすイエイヌ。残念ながら調味料マシマシのともえスペシャルはやはりイエイヌも素直に美味しいとは言えない模様であった。
「くぅー!い、いつかイエイヌちゃんが美味しいって言ってくれるともえスペシャル作るんだからねっ!」
「諦めろ。ともえ。料理に関してはお前はこっち側だ。」
「あ、諦めないっ!諦めたらそこで試合終了だって漫画で言ってたしっ!」
捕まえて仲間に引き入れようとするゴマの手をかわして、ともえはかばんの隣にストン、と腰を降ろす。
「あのね、かばんちゃんもお料理上手だよ。私ね、かばんちゃんのカレーとか大好きだよ。」
「ふふ。かばん君本人は?」
「もちろん大好き!」
マイクを向けるかのような手の形をサーバルに向けるヘビクイワシとそれに即答するサーバル。
「かばんちゃんところは相変わらずだねえ。」
とほっこりした笑みを見せる萌絵。対してかばんの顔は真っ赤だった。
「でもでも今日はかばん生徒会長とともえちゃん、なーんか怪しくない?さっきから目でチラチラしてるしー、かばん生徒会長の隣に座っちゃうしー。」
そんな爆弾発言をぶっこんでくる萌絵。
「これはお姉ちゃんヤキモチ妬かないといけないやつかなー?んー?」
「違うよぉ!?」
「サーバルちゃん…。ライバル出現かもしれないよー?」
「え?ともえちゃんがライバルなの?いいよおー負けないよおー?何で勝負するの?狩りごっこがいいなぁー!」
そんな何の話かわかってないサーバルを置いておいて
「そ、そういうのじゃなくて、ほら昨日のお礼まだ言えてなかったから。だからいい機会がないかなーって。」
「そうそう、そうですそうです。昨日のーってプールの事ですよね、遠坂さんっ」
と二人して慌てはじめるともえとかばん。
「なんだ。お礼って屋上での事じゃなかったんだね。私てっきりそっちかと思ってたよー。」
「サササ、サーバルちゃんっ!?」
「あ、ごめん、屋上での事ってまだ内緒だった?私まだ先走っちゃったよ。」
爆弾発言の上にに爆弾発言をさらにぶっこんでくるサーバル。慌てるかばんを見てようやく自分の失言に気が付いたようだがもう遅い。
「ほほう。屋上でともえちゃんとかばんちゃんにイベント発生?どんなイベントかなあー。」
「それは是非記録したいのであります。詳しく聞かせていただきたいのでありますよ。」
ずずい、とサーバルに詰め寄る萌絵とヘビクイワシ。既に連鎖爆発は始まってしまったようだった。なお、彼女達の学校では屋上はそういう内緒話をする際の定番スポットである。
そこで発生するイベントは推して知るべしであった。
「ご、ゴマちゃんへるぷぅー!」
とともえがゴマに助けを求めてみるが…。
「イエイヌー。頭使った後はな、甘いものを摂るといいんだぞー。お茶にお砂糖もう一つ追加しとくなー。」
「あ、ありがとうございます。」
ゴマはイエイヌと安全圏で我関せずを決め込んでいた。
「ゴマちゃあああん!?」
「自分に被害が及びそうなガールズトークには関わらないってルールはあったんだ…。悪いな。」
諦めろ、とでも言いたそうな表情のゴマ。
その後しばらくは萌絵とヘビクイワシの追及をどうにか誤魔化す事に心血を注ぐかばんとともえであった。
の の の の の の の の の の の の の の
夕暮れ時が迫ってくる。喫茶店『two-Moe』はバイトの子がいない時はかなり早めに閉店する。17:00にはラストオーダーで18:00には閉店してしまうのだ。
看板をしまって店内に戻ってくる春香。閉店準備もほぼ終わりだ。彼女が店内を見回すと死屍累々とした光景が広がっていた。
ぐったりとテーブルに突っ伏すイエイヌに椅子にもたれて口から魂出てるんじゃないかって勢いの萌絵。かばんはサーバルにもたれてぐったりとしている。
お昼休憩の後もイエイヌに必死で勉強を教えた一同。それにイエイヌもよく応えていたし、たったの一日で小学4年生程度までの常用漢字を覚えて四則計算から分数の計算なども覚えて英語もアルファベット、ローマ字、基本構文などまで理解した。
だが、その必死の努力をもってしても、ほぼゼロの状態から中学2年生レベルの学力までもっていくのは厳しすぎた。
「せめてあと1週間あれば…。」
同じくぐったりしながら呟くヘビクイワシ。その呟きはこの場にいる誰もが同じ事を思っているだろう。
今日一日ずっと勉強漬けだったイエイヌにこれ以上の勉強は辛いだけだろう。一度休息を挟むとしても明日まではもう時間がないが徹夜で一夜漬けなど論外だ。テスト時間に集中力を欠いてしまっては本末転倒というものだろう。
「皆さん。本当にありがとうございます。わたし、今日は大変だったけど楽しかったです。」
イエイヌはテーブルから身を起こすとまだ疲労の色が見てとれるがそれでも皆にお礼を言う。
「このくらいお安いご用なのです。それに私もイエイヌ君と一緒に学校に行きたかったのでお互いさまでありますよ。」
「まあな。イエイヌが一緒の学年だったら絶対楽しいもんな。」
ヘビクイワシとゴマもなんとも複雑な笑顔を見せる。その願いも叶わない夢のまま終わりそうな公算が高い事を理解しているのだろう。
「こ、こうなったら…。何か他の手段を…。」
「いっそのこと学校のコンピューターに侵入して問題文を手に入れてくるとか…」
バイトに勉強にと今日一日大忙しだったともえと萌絵の二人もかなりぐったりとした様子。思考が危険な方向に向かうのも仕方がないといえば仕方ない。
「あの…。それは気持ちだけで十分です。」
ぐったりとはしながらもイエイヌはともえと萌絵の思考を否定する。
「せっかく皆さんで教えてもらった事ですもん。わたし、試験っていうので試してみたいです。」
そう一同へ顔をあげるイエイヌ。その顔は決戦に臨む覚悟を決めた戦士の高潔さがあった。
「お任せ下さい!試験なんて全力で叩き潰してやりますよっ!」
「いや、叩き潰しちゃダメでありますよっ!?」
「じゃあ噛みちぎる?」
「なんでお前はそうアグレッシブなんだっ!?」
ヘビクイワシとゴマが両側からイエイヌをわしゃわしゃする。それが下手な激励なのはその場にいる誰もが理解していた。
「よっし!じゃあ、後はしっかり休んで体調を万全にしたら明日の朝に軽く復習しよっ!」
パンっと締めるように手を鳴らす萌絵。泣いても笑っても試験日は明日。最善は尽くした。あとは運が味方してくれることを祈るばかりである。
そんなみんなを少し遠巻きに眺めるかばん。何か考え込むようにするかばんにそっとサーバルが寄り添って耳打ちする。
「ねえ、かばんちゃん。また何かするの?」
「うん?ちょっと考えがあるんだ。帰ったら手伝ってくれる?」
「任せて。私、庶務だし。」
ふふ、とお互いに笑いあってイエイヌ達の輪を眺めるかばんとサーバル。
果たしてイエイヌの試験結果はどうなるのか。かばん生徒会長は何をするつもりなのか?
後編へ続く
ヒーロー紹介
名前:クロスナイト
パワー:B スピード:A 防御力:C⁺ 持久力:S
必殺技:ドッグバイト ウォーハウリング ワンだふるアタック
萌絵の作った〝ナイトチェンジャー"によってイエイヌが変身した姿。
犬の頭をデフォルメしたアームガードにレッグガードと胸あてを装着し、肩から腰までの短いマントと口元を軽く隠すくらいのマフラーが翻る。
そしてほんの少し丈が短くなったスカートには白いラインが一本追加。
正体を隠す為に目元にミラーシェードが装着される。
実際はクロスナイトに変身していてもしていなくても戦力には大差がない。せいぜいほんの少し防御力が上がるくらいだ。
必殺技はサンドスターをまとった手を獣の顎に見立てたドッグバイトと両手を獣の顎に見立てたワンだふるアタックの二つ。
さらに一時的に自身の身体能力を高める遠吠え、ウォーハウリングという技も使える。
かつて住んでいた世界でセルリアンからおうちを守る為に色々な技を編み出した。その為使える技も多い。