けものフレンズRクロスハート   作:土玉満

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ナベワタ様よりステキなイラストを頂きました。

https://twitter.com/nabewata1120/status/1360930409177964544?s=20

ともえちゃんと春香さんにモフられわしゃわしゃされちゃうイエイヌちゃんです!
まだこちらに来たばかりの頃でしょうか。まだわしゃわしゃされ慣れてないイエイヌちゃんですが、これからは萌絵お姉ちゃんも含めて無茶苦茶わしゃられまくる毎日ですよ…!
URLより見られますので是非ご覧下さいませ!
ステキなイラストをありがとうございます!


第24話『クロスハートがいない夜』⑤

 

 色鳥駅では未だ激戦が続いていた。

 

「クロスラズリ! これで大体避難は終わったよ!」

「よっしゃ! ここからようやく反撃開始やな!」

 

 暴れまわる巨大霊亀と化したセルゲンブをクロスラズリが食い止めている間にクロスラピスが人々を回収し避難させる。

 その作戦はどうにか上手くいって、殆どの人は避難を終えた。

 あとはセルシコウとハクトウワシとエゾオオカミの三人だが、彼女達は動いてくれそうもなかった。

 まあ、彼女達なら自分で何とかするだろう。

 何はともあれ、これでようやく決戦の舞台は整ったと言えそうだ。

 

「それにしても……」

 

 クロスラピスは周囲を見渡す。

 辺りの惨状は目を覆いたくなるようなものだ。

 床材は割れ、壁も凹みや穴がひび割れ、果ては穴が空いている箇所だって少なくない。

 どうにか、ビル内で眠りこけていた人々に被害が出なかったのが奇跡のようだ。

 これ以上セルゲンブを暴れさせるわけにはいかない。

 クロスラピスとクロスラズリは改めて巨大霊亀と化したセルゲンブと相対する。

 

「それで、ここからどないする……?」

 

 クロスラズリは隣に並び立つクロスラピスに問い掛ける。

 セルゲンブを食い止める為に戦っている間に散発的な攻撃を仕掛けてはみたクロスラズリであったが、彼女のパワーを以てしてもその防御は頑として崩せなかったのだ。

 

「あの亀の額のところ。あそこに『石』があるから、あれさえ砕ければスザクさんと同じようになると思うんだけど……」

 

 セルスザクはかつてクロスシンフォニーと戦い、その『石』を砕かれた事でセルリアンフレンズからフレンズへと戻った。

 ならば、やはりセルゲンブも同じだろう。

 問題は堅牢な防御をいかにして掻い潜り、『石』を砕くのかという事だ。

 

「見た目通り、亀だからいざとなったら首を引っ込める事だって出来るよね」

「うへぇ……。そないなったら、あの甲羅を砕くなんて絶対無理やで……」

 

 防御に優れるセルゲンブ。その霊亀の甲羅を砕く事はたとえ力自慢であるクロスラズリと言えども不可能と思えた。

 

「それやったら、何とか隙を作ってアレを叩き込むしかないんちゃう?」

「そうだね」

 

 アレとはクロスラピスとクロスラズリの必殺武器、『ジュエル・クロス・バイス』の事だ。

 一回使ったら再度充填しないといけないけれど、機械仕掛けの万力でどんな防御も砕ける。

 しかも、オイルのセルリアンであるイリアのオイルを使用しているから“けものプラズム”で出来た武器でもないのにセルリアンにだって通用するのだ。

 

「出来ればもう少し頭数は欲しいんやけどな……」

 

 気を引く囮役もクロスラズリ一人では心許ない。

 だが、きっとこの事態には他のヒーロー達だって駆けつけてくれるはずだ。

 『ジュエル・クロス・バイス』は一度しか使えないのだから確実を期するべきだろう。

 

「せやけど、悪い。ウチの体力が保つかどうか……」

 

 先程までたった一人でセルゲンブの猛攻を食い止めていたクロスラズリは既に相当疲れが溜まっていた。

 怪我の功名と言うべきか、セルゲンブが暴れてくれたおかげで取り巻きセルリアンを生み出す闇色の煙はビル内から一掃されていた。

 これなら取り巻き『ヨルリアン』の取り巻きである『ナイトメア』が現れる心配もない。

 

「じゃあさ、こうしよう」

 

 クロスラピスはピッと指を一本立てる。

 

「私がアイツを引き付けて時間を稼ぐよ。だからその間、クロスラズリは隠れて身体を休めて」

 

 クロスラピスは他の誰よりも小回りのよい機動力を誇る。

 囮役を引き受けるのならうってつけだ。

 

「それやったら、隠れつつチャンスがあったら攻撃仕掛けたる。ウチ、そういうのは得意やからな」

 

 以前のクロスラズリ……いや、アムールトラだったらルリを危険に晒す作戦なんて絶対に受け入れなかっただろう。

 けれど、クロスラズリにとって、クロスラピスはパートナーだ。

 この危険な役割だってきっとこなしてくれる。

 

「頼んだで。相棒」

「任せてよ。相棒」

 

 二人は軽く拳をコツンと合わせてニヤリとして見せる。

 クロスラピスとクロスラズリは二人合わせてクロスジュエルなのだ。

 

『さて。小賢しい策は練り終わったか?』

 

 セルゲンブはフシュウゥウ、と霊亀の口から凍った息を吐きつつ訊ねる。

 

「もちろん!」

「待たせてもうたなぁ!」

 

 言いつつクロスラピスとクロスラズリはバッ!と二人同時に散開する。

 クロスラピスは三つ編みを使って天井を掴みつつ、得意の空中機動でセルゲンブの鼻先をかすめて飛ぶ。

 その間にクロスラズリはいずこかへ姿を隠してしまった。崩れたガレキの影か、それとも壁に開いた穴の中か。はたまた崩れそうな天井に潜む事だって出来るかもしれない。

 

『(これは遅滞戦術というものか)』

 

 セルゲンブは二人の意図を読んでいた。

 彼女の勝利条件は『ヨルリアン』が完全に孵化してこの世界の“輝き”を全て手中に納める事だ。

 既に、『ヨルリアン』は覚醒の第一段階を迎えている。

 このまま放っておくだけでこの世界は“夜”に沈む。

 クロスジュエルの二人が時間稼ぎをしたところでセルゲンブに利するだけだ。

 だが、先に戦ったクロスアイズの事もある。油断など以ての外だ。

 ならば、クロスジュエルの二人が時間稼ぎをする目的は……。

 

『(そうか……!)』

 

 あちらも時間を稼げば状況を好転させるアテがあるという事だ。

 それはつまり、セルスザクを倒したクロスシンフォニーやさらに別世界から現れたヒトのフレンズであるクロスレインボー、それに何故かもう一人いるヒトのフレンズ、クロスハートが現れるのではないか。

 

『なるほど! 合流されれば厄介極まりないのう!』

 

 今でも鼻先を掠めて飛び去るクロスラピスと物陰から隙を伺うクロスラズリの連携に手を焼いている。

 これがさらに増えるのなら、鬱陶しい事この上ない。

 だが。

 

『悪手じゃ』

 

 セルゲンブは尾となっている蛇をしならせると鞭のようにクロスラピスを追いかけさせる。

 巨大霊亀と違って俊敏な動きを見せる蛇に、クロスラピスは目算を外された。

 自身の三つ編みを蛇にぶつけて相殺を図るも威力を消しきれない!

 

―ガッ!

 

 と鈍い音がしてクロスラピスが弾かれる。

 

「ルリッ!」

 

 物陰に隠れたクロスラズリが思わず飛び出して、弾かれた彼女の身体を受け止める。

 が、勢いに押されて窓へと飛ばされ、そこから外まで弾き出される事になった。

 

「ちっ……!大丈夫か、ルリ」

「うん。ガードは間に合ってるから何とか」

 

 二人ともどうにか立ち上がる事に成功していた。多少のダメージはあるものの、まだまだ戦える。

 そこに壁を破って巨大霊亀が追って来た。

 

『時間を稼いで援軍を待つという算段自体は悪くない。しかし、こちらから見ればそれは戦力の逐次投入というものじゃ』

 

 余裕を見せて二人を睥睨するセルゲンブ。

 

『お主らは、クロスアイズとやらを捨て石に、クロスシンフォニー達と合流して我に挑むべきだったのじゃ』

 

 そう。

 最初から合流して戦いに来ていればよかったのだ。

 もっともその場合、駅ビルに残された人々がどうなっていたかはわからないが。

 状況の主導権は未だにセルゲンブのものだ。

 

『それにのう。見るがいい』

 

 セルゲンブは霊亀の顎をしゃくって周囲を示して見せた。

 クロスラピスもクロスラズリもあらためて周囲を見て、そして異変に気が付いた。

 

「「な……」」

 

 まず、外がすっかり夜になっている。

 街灯が点灯しているものの、ジジッと音をたてて明滅し、何とも心許ない。

 周囲にいたはずの人達もいつの間にかいなくなっている。

 ユキヒョウも含めてどこかに避難していてくれればいいが……。

 それに、いつもは車でごった返している駅前ロータリーもタクシープールも無人の車しかいないし、沢山の人がいるはずのバスターミナルにも人っ子一人いない。

 さらに極めつけは駅前の人々に取って代わったかのようにひしめく『ナイトメア』の群れだ。

 それらはジリジリと包囲を狭めるようにしてクロスラピスとクロスラズリの二人へ迫ってくる。

 

『諦めよ。異世界の戦士達よ』

 

 セルゲンブに加えて『ナイトメア』の相手までしなくてはならないとなれば、先ほどまでの数的優位も逆転だ。

 明らかな劣勢。戦況の天秤は明らかにセルゲンブへと傾いていた。

 しかし、それでもクロスラピスとクロスラズリは不敵に笑う。

 

「ハッ! ウチらが諦める事なんてあるわけないやろうが!」

「そうだよ。私達が諦めるのを諦めるんだね!」

 

 クロスラズリとクロスラピス、いや、アムールトラとルリの二人だって最後まで諦めなかった人達によって救われたのだ。

 だから、状況が絶望的だろうと敵の数が多かろが強大だろうが、諦める理由なんてない。

 

『そうか。その意気やよし』

 

 目の前の二人はセルゲンブにとって未熟もいいところだ。

 けれども、先だって未熟な戦士によってしてやられたのだ。もう油断はしない。

 

『我が全力で滅してやろう。せめて名乗るがいい、異世界の戦士達よ』

 

 クロスラピスとクロスラズリの二人はお互いに顔を見合わせると頷き合う。

 ここは己を鼓舞する為にも久しぶりにやらせてもらおう。

 まずは、クロスラピスがバサァ! とケープを翻す。

 

「我ら今は半輝石!」

 

 続けてバサァ! とクロスラズリが同じようにケープを翻す。

 

「けれど、いつか奇跡を起こし輝石になろう!」

「クロスラピス」

「クロスラズリ」

「「二人合わせて……」」

 

 そして二人は左右対称になる決めポーズを決めると高らかに宣言した。

 

「「クロスジュエル!」」

 

―パッカァアアアアアン!

 

 二人の名乗りと同時、周囲を取り囲んだ『ナイトメア』達が吹き飛んだ!

 

『「「へ?」」』

 

 名乗りにそんな効果があるはずがない。

 思わずセルゲンブは間の抜けた声を出してしまったが、なんと名乗ったはずのクロスジュエルの二人まで同じ反応だった。

 一体どういう事だ、とセルゲンブは周囲を見渡す。

 あれだけいたこの辺り一帯の『ナイトメア』は一体残らず消し飛んでいる。こんな事が出来るのは……。

 

「お待たせしました」

 

 それは、大きく立った耳に白いブラウス。ヒョウ柄のスカートに同じ柄のアームグローブにニーソックスのフレンズがいた。

 

『来たか……!クロスシンフォニー……!』

 

 セルゲンブだってよく知っている。

 彼女こそがセルスザクを倒した最も警戒すべき仇敵、クロスシンフォニーである。

 

「ちょっとちょっと。私もいるんですけど? いくら四神とはいえ無視は酷いんじゃない?」

 

 さらにもう一人。

 オレンジ色を基調とした忍者装束に身を包み、先端だけが黒い狐耳と狐尻尾を持ったフレンズ、クロスレインボーまで一緒だった。

 彼女の周囲には渦巻く木の葉が舞っていた。

 

「忍法、『木の葉手裏剣』ってね」

 

 それらはクロスレインボーの号令一下、空から落ちてこようとしていた『ナイトメア』達へ殺到すると次々に吹き散らしていく。

 先に『ナイトメア』達を砕いたのもこの技だ。

 

「せめて、ともえちゃんがゆっくり悩む時間くらいは稼がせてもらうんだから! 覚悟しなさい、セルゲンブ!」

 

 ビシリ、とクロスレインボーはセルゲンブへ指を突きつける。

 そうしてから、不味い事に気が付いてしまった。その姿勢のままで油が切れたロボットのようにクロスシンフォニーの方へ顔を向ける。

 

「あ、あのー……。ち、ちなみにかばんちゃんは、ヒトのフレンズの事はー……」

 

 もしもかばんまで自身がヒトのフレンズであると知らなかったなら、色々とまずい。

 しかし、クロスシンフォニーは事もなさげにあっさりと言った。

 

「あ、はい。ボクはヒトのフレンズですよ。菜々さんもそうですよね?」

「って事はともえちゃんの事も……?」

「ええと……。知ってはいましたけれど、春香さんにお願いされて内緒にしてました」

 

 そんな告白にクロスレインボーは何と反応していいやら複雑な表情を浮かべた。

 

「と、とりあえず全部終わったら後でともえちゃんに謝るよ! 巻き込んじゃうからね!」

 

 クロスレインボーとしては後でともえに謝る人が増えて心強くはある。

 怒られるにしても一人より二人、二人よりは三人だ。

 

「あー……。な、なるほど……。ともえさんがまだ来てないのはそういう……」

 

 クロスシンフォニーはクロスレインボーの反応だけでともえに何が起こっているのかを察した。

 なるほど、これは後で自分も謝るべきだろう。

 だが、その為にもセルゲンブはここで倒さなくてはならない。

 

「時間を稼ぐのはいいですが……。別に倒してしまっても構わないでしょう?」

 

 いつかともえと一緒に真似した漫画のセリフだ。

 この場面でなら相応しいだろう。

 

『くっくっく……。我を倒すと来たか……。この我、セルゲンブに傷を付けた者すらここ一世紀以上はおらぬわ!』

 

 セルゲンブが霊亀と化した状態はまさに堅牢無比だ。真の姿を晒した以上、如何な攻撃だろうが防ぎきる自信がある。

 この状態を突破出来るのは彼女達の女王くらいのものだ。

 

「確かに、生半可な攻撃は通用しそうにないで」

 

 何度か実際に攻撃を仕掛けたクロスラズリも、その頑強さには舌を巻いていた。

 パワーに優れる彼女の攻撃は普通に殴りつけただけでも下手な技を上回る威力を誇る。

 なのに一人ではセルゲンブの防御を突破出来るイメージが湧かないのだ。

 

「だったら、全員で最大火力をぶつける……、それしかないよね」

 

 クロスラピスがクロスラズリを見ている。

 彼女達二人に託された必殺武器は今こそ使い所だ。

 クロスラズリはシルクハットを脱いで、中から機械仕掛けの万力を取り出す。

 それこそが『ジュエル・クロス・バイス』だ。

 クロスラピスはそれを右腕に装着する。

 

「まだまだ仕舞いやないで!」

 

 『ジュエル・クロス・バイス』をクロスラピスに渡したクロスラズリは自身も必殺技の体勢に入る。

 “けものプラズム”を両手に集めて猫科の鋭い爪を形成。

 そして……。

 

「野生……ッ! 解放!」

 

 クロスラズリの瞳に金色の炎が宿ると同時、彼女を中心にゴウと烈風が吹き荒れる。

 ここが勝負処だ。

 クロスシンフォニーとクロスレインボーもお互いに頷き合う。

 

「トリプルシルエットッ!」

 

 クロスシンフォニーは切り札となるトリプルシルエットへと変身。

 その姿はアフリカオオコノハズクとワシミミズクの白と茶色のまだら模様をしたコートを纏って、翼も同じ色をした一回り大きなものになっていた。

 この状態になったクロスシンフォニーは二人のフレンズの力を同時に引き出せる。

 つまり、単純計算で通常シルエットに比べて二倍の出力を誇るわけだ。

 まさに切り札。かつてセルスザクもこのトリプルシルエットで倒したし、セルメダルを使ったマセルカだって一蹴してみせたのだ。

 そして……。

 

「私だって忘れて貰っちゃ困るよ! 転身! チーターモードッ!」

 

 さらにこの場にはクロスレインボーだっているのだ。

 ピンと立った猫科の耳にシュルリと長い猫尻尾。

 そして忍者装束は黄色を基調としたヒョウ柄へと変化していた。

 クロスレインボーのチーターモードはスピードと瞬発力に優れる。

 一撃必殺を狙うならうってつけのモードだ。

 

「私だって切り札がないわけじゃないんだから……!」

 

 そう言うクロスレインボーの瞳に青色の炎が宿る。

 これはクロスラズリと同じく『野生解放』の炎だ。

 クロスレインボーもまた、いざという時には『野生解放』を使えるのだ。

 チーターモードでの『野生解放』は特にサンドスターを大量消費する。

 だが、その分クロスレインボーが現在もつ最大火力を発揮できるモードだ。

 

「超…!瞬閃撃……!」

 

 クロスレインボー履く草鞋の足裏から伸びた爪がガッチリと大地に食い込む。

 さらに両手には鋭い猫科の爪が伸びる。

 先日、商店街に現れたミラーセルリアンの『石』を一撃で砕いた技を放つ体勢に入った。

 ガリリ、と彼女の草鞋から伸びた鉤爪が脚から生み出されるパワー全てを推進力に。

 誰もが視認するのが困難な程、まさに目にも留まらぬ速さでセルゲンブの『石』へ突き進む。

 それに併せて、クロスシンフォニーとクロスラピス、クロスラズリも必殺技を繰り出した。

 

「『インビジブルダイブ!』」 

「『ジュエル! クロス! バイスゥゥウウウ!』」

「ぐるぁああああああああああああああっ!」

 

 先駆けを務めたクロスレインボーがそのままフェイントを入れつつ全員でタイミングを合わせて、それぞれ別角度で『石』を狙う。

 どの技も一撃必殺の威力を秘めている。

 いくら防御力に優れたセルゲンブと言えどいずれを喰らっても『石』を砕かれる事だろう。

 それに絶妙にずらされた多方面からの攻撃を障壁で全て防ぐのも困難だ。

 四人のうちいずれかの技はセルゲンブの『石』を砕ける。その場の誰もがそう思っていた。

 セルゲンブ以外は。

 

『なるほど。これはチェックメイト、と思っても不思議はないのう……普通ならば!』

 

 だが、セルゲンブは吠えた。

 

『絶対矛盾障壁《アキレスと亀》』

 

 と。

 それだけで『石』に触れるか触れないか、ギリギリの隙間でもって全員の攻撃がピタリと止まった。

 まるで時間が停まったかのように『石』の直前で四人の動きは完全に停まってしまっていたのだ。

 

『アキレスは最速。亀は最遅。しかし、アキレスが亀のいる位置に進むまでに亀は僅かにでもアキレスから遠ざかる。アキレスが追いかけて亀のいた位置に進んでも亀はほんの僅かにその先を行く。アキレスは決して亀に追いつけぬ』

 

 それは有名なパラドックスである。

 実際にはアキレスは亀に難なく追いつける。

 けれど、このパラドックスをほんの一瞬だけでも四神セルゲンブの権能を使って真であるとしたなら?

 答えがこれだ。

 変身解除されたクロスシンフォニーとクロスレインボー、それにサンドスター切れとなったクロスラズリ、弾切れになった『ジュエル・クロス・バイス』を抱えたクロスラピスが地に落ちる。

 誰もが何が起こったのかわからない様子だった。

 

『我の防御力に対して、全員の持つ最大火力を一度にぶつけるという作戦はよい。実際、もしも貴様らの攻撃いずれかを受けていたなら我の『石』は砕かれていただろう』

 

 だが、そうはならなかった。

 それどころか、攻撃を仕掛けたはずのクロスシンフォニー達自身がサンドスター切れになってダメージを受けているのはどういう事か。

 

『絶対矛盾障壁の中では、アキレスという攻撃者は我という亀に追いつく為に無限の刻を費やす。それでも攻撃が届く事はないわけじゃがな』

 

 セルゲンブの言に、変身解除されたかばんが、ハッとする。

 

「つ、つまり、ボクらが亀に攻撃出来なくなるまで決して届かない攻撃を繰り出し続けた、という事ですか……!?」

 

 つまり、クロスシンフォニー達はサンドスター切れになって、攻撃できなくなるまで絶対矛盾障壁に囚われていたのだ。

 攻撃が出来なくなって、亀を追う事を諦めたからこそアキレスは絶対矛盾障壁から抜け出せたのだろう。

 それはほんの一瞬とはいえ時間さえも意のままに操ったという事か。

 まさに四神の名に相応しい異能と言える。

 

『ご名答じゃ。もっとも、こんな大技は連発など出来ぬ。お主らが最大火力を一度に繰り出すという選択をしてくれたからこそ一網打尽に出来たというわけよ』

 

 セルゲンブの言に変身解除されたかばんも菜々も悔しさに歯噛みする。

 まんまと敵の策略に乗ってしまった。

 

『もっとも、一人ずつ技を放っておったのなら、それぞれに結界や障壁でいなす事は容易かったであろう』

 

 つまり……。

 

『お主らは、この我、セルゲンブを相手にした時点で詰んでおったのじゃよ」

 

 変身解除されたかばん、菜々、サーバルとそしてサンドスター切れで動けなくなっているクロスラズリを睥睨するセルゲンブ。

 かろうじて、クロスラピスだけはまだ戦えるだろうが、パワーに乏しい彼女ではどう逆立ちしたところでセルゲンブに傷一つつける事はできないだろう。

 そして、こうなった彼女達に止めを刺すのは赤子の手を捻るより簡単だ。

 

『よく戦ったが相手が悪かったのう』

 

 セルゲンブは大きく息を吸い込むと全員に向けて凍える息吹(ブレス)を吹きつけた。

 クロスラピスが前に出て身を挺そうとするが無駄な事だ。

 この吐息は彼女達全員を凍り付かせるのに十分過ぎる。

 が……。

 

「ドッグスロー!」

 

 丸形の盾が飛んで来て、セルゲンブの放った息吹(ブレス)を遮る!

 まだ、ヒーロー達は全員が倒れたわけではない。

 まだこの街を守るヒーローは残っているのだ。

 

『貴様は……』

「どうも。わたし、クロスナイトです」

 

 それは犬耳にふさふさ尻尾。目元をミラーシェードで隠したフレンズだった。

 セルゲンブは思い出す。

 

『(確か、クロスナイト……。正体はただのイエイヌのフレンズだったはず……)』

 

 ヒトのフレンズであるクロスハートやクロスシンフォニー、クロスレインボーとは違ってクロスナイトはただのフレンズだ。

 クロスラズリと違って戦いの得意な大型獣というわけでもない。

 だからそれほどの脅威にはならない。

 

『無駄な事を』

 

 今さら一人で現れたところで何が出来るわけでもあるまい。

 しかし、クロスナイトは“けものプラズム”で作り出したらしい骨型の棍棒と盾を構えると抵抗する意思を見せた。

 

「クロスラピスは皆さんを連れて下がっていて下さい」

 

 クロスナイトは変身解除されて動けないかばん達をクロスラピスに託す。

 

「クロスハートは必ず来ます。それまであなたの相手はわたしですよ、セルゲンブ」

 

 純白の剣、ナイトソードを突きつけるとクロスナイトはキッパリと宣言した。

 

 

の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の

 

 

 公園の中も段々と夜の闇が近づいて来ていた。

 遠くの空はすっかり夜へと替わっており、ここももうすぐ夜闇が届くだろう。

 明度センサーを内蔵した自動販売機がジジっと音を立てて照明を点けていた。

 

「アタシ……。何やってるんだろ」

 

 ともえはその近く、遊歩道のベンチに座っていた。

 夢中で走って来たはいいがどこに行ったらいいかもわからずに気が付いたらここに座っていた。

 辺りが夜に染まっていく。

 この異変をともえは夢の中にいるかのようにぼんやりと見ていた。

 異変が起きているのは間違いない。

 けれど、それをどうしていいのかわからない。

 いや。

 自分がそれをどうしたいのか全然わからないのだ。

 この異変を食い止めたいのか、それともこのまま見過ごして世界が夜の闇に呑まれて欲しいのか、それすらわからない。

 わからないから動く事すら出来ずにただここで何も出来ずにいた。

 

「アタシってヒトのフレンズ……なんだよね」

 

 両手を見てもいつもと変わらない。

 けれど、それはそうだ。生まれた時からともえはヒトのフレンズだったのだから。

 むしろ、ヒトとして過ごして来たこの十三年と五ヶ月程の時間が嘘だったのだ。

 なんだかさっきから頭がふわふわとして、全ての事に実感が湧かない。

 

「いっそこのまま全部夜になっちゃったら……」

 

 そうしたら、ともえ自身が望む通りに今まで生きて来たという事にならないだろうか。

 春香や父から事情を聞いてしまったなら。

 もしもそれが望むものではなかったのだとしたら。

 

「それよりはいいかもね……」

 

 ともえは自身の膝を抱き寄せると身を丸めて目を閉じようとした。

 きっと、そうして目を閉じて何も見なければ、真実も何もかも夜に沈む。

 いっその事、それでいいのではないか。

 もしも、もしも本当はともえは家族ではないのだとしたら。萌絵の妹ではないのだとしたら。

 そんな真実よりも今まで生きて来た夢に浸っていたい。

 だが……。

 

「ともえちゃん!」

 

 耳までは閉じられなかった。

 その耳に今、一番聞きくもあり聞きたくない声が届いた。

 それは萌絵の声だ。

 ともえが顔をあげれば、目の前には萌絵がいた。

 きっと自分を探して走り回ったのだろう。その肩が上下している。

 その表情の意味するところがともえにはわからなかった。

 いつもなら何を考えているのか大体わかる姉の考えが全く読めない。

 怒っているようでもあり心配しているようでもあり決意のようでもあり、もしかしたらその全部なのかもしれない。

 

「ともえちゃん。アタシね。どうしてもともえちゃんに伝えたい事があって探したの」

 

 萌絵が言う。

 それがどんなものであるのか。

 ともえには恐怖しかない。

 もしも。もしも一欠けらでも萌絵に存在を否定されたのだとしたら。

 それで自分は粉々に砕ける。そう思えた。

 

「あのね、ともえちゃん」

 

 萌絵はともえを抱きしめた。

 意外な程高い体温がともえを包む。

 それは優しいはずなのに決して離さない、という強さが感じられた。 

 そして、耳元に言葉が囁かれる。

 絶対に届くように。すぐ近くで。

 

「生まれて来てくれてありがとう」

 

 と。

 

「アタシね。ともえちゃんがいてくれたから世界で一番幸せなお姉ちゃんだったよ。だから、生まれて来てくれてありがとう」

 

 それはともえが今一番欲しかった言葉だ。

 

「ともえちゃんがいてくれたから一人じゃなかったよ。幸せだったよ」

 

 萌絵はなおもともえを抱く手に力を入れて続ける。

 

「これからもアタシはともえちゃんのお姉ちゃんだよ。妹を辞めさせてなんてあげないから。ありがとうね。大好きだよ」

 

 それは萌絵の体温と共にともえの心に熱を灯す。

 どうにも熱くて身体から溢れ出しそうな程に。

 

「あ。でも、もしかして、ともえちゃんはアタシの妹じゃイヤだった? でも離さないけど」

 

 そんな萌絵の物言いにとうとうともえの熱は身体から溢れ出した。

 

「ア”タ”シ”もお姉ちゃんの妹じゃなきゃヤだぁあああっ!」

 

 と。

 ヒトのフレンズだったことはぶっちゃけどうでもいい。

 萌絵の妹じゃないかもしれない。

 家族が家族じゃないかもしれない。

 それがイヤだった。

 

「うん。じゃあ、ともえちゃんはアタシの双子の妹。今までもそうだったし、これからもそうだよ」

 

 けれど、萌絵が姉じゃないはずがない。

 遠坂萌絵は遠坂ともえの姉なのだ。

 それを改めて思い知らされたともえは……。

 

「おねえぢゃああああん!」

 

 声を上げて泣く事を止められなかった。

 ヒーローは涙を見せない。

 けれど、ともえはクロスハートである前に萌絵の妹だ。

 お姉ちゃんの前でくらいなら思い切り泣いたって構わない。

 萌絵は妹の涙をただ受け止めながら思う。

 

「(もしかして、イエイヌちゃん……こうなるってわかってた?)」

 

 萌絵は一足先にイエイヌが色鳥駅へ向かう前に何か言葉を引っ込めたのを思い出していた。

 ともえはイエイヌのお姉ちゃんポジションを諦めていない。

 イエイヌがいたらこうして気兼ねなく甘えてくれなかったかもしれない。

 

「(やっぱり、ともえちゃんは末っ子ポジションが安定だと思うなー)」

 

 思いっきり泣きじゃくるともえの髪を優しく撫でつけながら思う萌絵であった。

 

 

の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の

 

 

 ともえと萌絵。

 二人でベンチに並んで座って広がる夜闇の空を見上げる。

 その手はしっかりと繋がれていた。

 

「落ち着いた?」

「うん。ありがとう、お姉ちゃん」

 

 萌絵に応えるともえは、まだ少し涙声だったけれど、それでもいつものともえだった。

 

「ねえ、ともえちゃんはどうしたい?」

 

 広がる夜闇の空を見上げながら、萌絵は訊ねる。

 例えここでともえが何もしたくないと答えても、それを受け入れるつもりだった。

 今までこの世界を守って来たともえだ。

 今日くらい休んだって誰にも文句など言わせない。

 けれど、ともえは答えた。

 

「アタシ……。街を、皆を守りたい」

 

 と。

 今なら言える。

 萌絵を、家族を、友達を、皆を守りたいのだと。

 それが自分のやりたい事なのだと。

 

「うん。わかった。じゃあ、作戦があるよ」

 

 萌絵は満足気に頷くと、ともえに身をよせて耳打ちする。

 その内緒話を聞いたともえは驚きと共に訊ねた。

 

「マジで?」

「マジで」

 

 聞く限りとんでもなく無茶な作戦だが、姉は即答だった。

 

「だって、アタシ達が揃えば大体の事は出来たじゃない」

 

 確かに、子供の頃から二人が揃えば無敵なんだと思えた。

 

「そうだね。それに、今はイエイヌちゃんもいるんだもん。無敵のトリオだよ」

 

 だからともえも言いつつ力強く頷いて見せる。

 無茶に乗った、と。

 二人は繋いだ手を一度解くと、握り拳にして、軽くコツンと合わせる。

 

「じゃあ、行こうか!」

「うん!」

 

 言って二人で立ち上がる。

 と、その時だ。

 

―ドルゥウウウウン!!

 

 大きなエンジン音が響く。

 と、公園内にサイドカー付きバイクが走り込んで来た。

 

「「ジャパリバイク!?」」

 

 それは二人が言う通り、ジャパリバイク改だった。

 それに跨っているのは、いつものメイド服姿な春香だった。

 春香はともえと萌絵の姿を認めると、バイクのスタンドを立てる事すら忘れてともえに飛びついて来た。

 自動運転席に収まっていたラモリさんが慌ててバイクスダントを立てたのとサイドカーが付いていたから転倒は免れたが。

 

「ともえちゃん!」

「お母さん!?」

 

 なんでここに春香が? というのがわからずにともえは目を白黒させて抱き止めた。

 

「ごめんなさい、私のせいで……本当にごめんなさい」

 

 そう言って謝る春香だったが……。

 

「あ、あの。お母さん? アタシは大丈夫だから落ち着いて? ね?」

 

 と逆に心配されてしまいキョトンとしてしまった。

 そして、傍らの萌絵に視線を移す。

 

「あ、ごめんね、お母さん。多分、いいところはアタシが全部持ってったと思う」

 

 悪びれもせずそんな事を言う萌絵に、既に一番の問題は解決した事を春香は悟った。

 せっかく家に置いてあったジャパリバイク改を飛ばして街中駆けまわったというのに。

 途中でラモリさんを拾って公園の中にともえがいると知ってこうして乗り込んで来たのに一足遅かったようだ。

 

「アア、ちなみに、マセルカはちゃんと商店街に運んでおいたから安心シロ」

 

 そう言ってラモリさんは試作型多機能アームの親指を立てて見せた。

 春香に拾われたのはその帰りだったらしい。

 あそこならしばらくの間は大丈夫だろう。

 

「それにしたって……。お母さん。バイクで公園の中に乗り込んじゃダメだと思うな」

 

 そのもっともなともえの指摘にラモリさんが言う。

 

「ともえ……。お前も同じ事をしてただろウ……」

 

 あの時はエゾオオカミとセルシコウをセルリアン退治に誘う為だったが確かに同じ事をしていた。

 夜で無人だったかもしれないが、今だって半分くらいは“夜”で無人だ。

 春香の事は言えないともえである。

 

「血は争えないねえ」

 

 萌絵の言葉に全員がぷっと吹き出してしまった。

 

「そうね。じゃあ……、へーい。そこの私の可愛い娘達。一緒に通りすがりの正義の味方、しに行かない?」

 

 春香はわざわざ芝居がかった調子を作ってまでいつかのクロスハートと同じような事を言うと、親指でジャパリバイクのサイドカーを指し示す。

 それに対する二人の答えは決まっていた。

 

「「行く!」」

 

 春香が駆るジャパリバイク改は萌絵とともえの二人をサイドカーに詰め込んで夜の闇へと突っ込んで行った。

 

 

けものフレンズRクロスハート第24話『クロスハートがいない夜』

―おしまい―




【次回予告】

 夜の闇へ沈む色鳥町。
 そして世界。
 果たしてクロスハートは街を取り戻す事が出来るのか?
 
 次回
 けものフレンズRクロスハート第25話『その名はやっぱりクロスハート』

 土玉満を信じろ!
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