けものフレンズRクロスハート   作:土玉満

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【前書き】

 今回のお話をもって、けものフレンズRクロスハート第3章は完結となります。
 どんな結末を迎えるのか、是非皆様の目で確かめていただきたいです。
 それではお付き合いの程、よろしくお願いします。



第25話『その名はやっぱりクロスハート』③

 

 

「オオセルザンコウさん。調子はどうですか?」

「ああ。ヤマバクさん。世話をかけるな」

 

 色鳥町が“夜”に沈んだ事件が終わって数日。

 オオセルザンコウは『ヨルリアン』のセルメダルを使った影響で病院に救急搬送された。

 そしてそのまま入院である。その直後からしばらくの間眠り込んでしまい、意識を取り戻したのが今日の事だ。

 『ヨルリアン』のセルメダルが砕かれ、セルゲンブも倒された事で事件は解決を見た。

 あれだけの事件にも関わらず、重傷者は二名。

 元セルゲンブであるゲンブとオオセルザンコウの二人だ。

 何かと事件の後処理に忙しいヤマさんや、怪我を負いながらも軽症だったのですぐに現場復帰したハクトウワシの二人に代わって、入院中の世話を焼きに来たのがヤマバクだ。

 ヤマバクはオオセルザンコウの意識が戻るまでずっと付き添ってくれていたし、今もこうして側にいてくれた。

 彼女はヤマさんの奥さんらしい。随分と年齢が離れているように思えて、最初オオセルザンコウもびっくりした。

 ヤマバクはその名の通り、ヤマバクのフレンズだ。

 何でも随分前にヤマさんに保護され、一緒に生活するようになって、そしてそのまま結婚したらしい。

 色々と気にかかる部分はあるが、それでもオオセルザンコウが今一番気にかけているのはあの後一体どうなったのか、という事だ。

 

「そうですね……。世間は大騒ぎですよ。謎の新生物、セルリアンのせいで」

 

 そんな気がかりにヤマバクはベットサイドでリンゴを剥きながら教えてくれた。

 結局あの事件は表向き、新生物であるセルリアンの仕業という事になっていた。

 ニュースではその話題で持ち切りだったらしい。オオセルザンコウは気を失っていたのでその辺りは全然わからないが。

 

「ちょうど、会見のニュースが流れる頃ですから見てみましょうか」

 

 ヤマバクはテレビのリモコンを操作してスイッチを入れる。

 いくつかチャンネルを変える間でもなく、目的のニュースにすぐに行き当たった辺り、やはりそれだけの大事件だったのだろう。

 テレビの中では警察の制服を着た年配の男性がマイクの沢山乗った檀上で何かを説明している。

 どうやらこれは警察の公式発表なのだろう。

 

『今回発生した原因不明の皆既日食、停電、市内数ヵ所での設備破壊、駅ビルへの破壊。先にも説明しました通り、これらは全て存在が確認された新生物セルリアンの手によるものです』

 

 テレビの音声にオオセルザンコウはホッと一息を吐く。

 自分はともかく、セルシコウとマセルカの名前が出なかった事に安心した。

 今はこの場にいない二人がどうなっているのか。今回の事件で責められたりしていたら怪我を押してでも二人のところに駆けつけなければならない。

 

「安心して下さい。セルシコウさんもマセルカさんもちゃんと無事でいますから。怪我もなくて元気なものですよ」

 

 そんな心配がわかるのか、ヤマバクは身を起しかけたオオセルザンコウを再びベットに戻すと、彼女が見やすいようにテレビの角度を調節してくれる。

 

「まぁ、悪いようにはなりませんよ」

 

 そう言って微笑むヤマバクに今は甘えるしかない。

 一体これから自分達がどうなってしまうのか。それを知る為にもオオセルザンコウは視線をテレビへと戻した。

 

 

の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の

 

 

 色鳥警察署署長は会見原稿を読みながら冷や汗が止まらない。

 なんせ、原稿を読む事は出来るがこの先に訪れる記者達の質問に答える事なんて一つとして出来るかどうかわからないからだ。

 それなのに会見に集まった記者達は誰もが殺気立った様子で質問を浴びせかけようと待ち構えていた。

 

「(猛獣の檻に入れられたウサギはこんな気分なのかもな)」

 

 思いながら警察署署長はハンカチで一度冷や汗を拭ってから読み終えた原稿を閉じる。

 そして意を決して言った。

 

「それでは、質疑応答に移らせていただきます」

 

 待っていました、とばかりに記者達が一斉に手を挙げて発言を求める。

 

「今回の事件は新生物のセルリアンが引き起こしたものとおっしゃいましたが、セルリアンとは一体どんな生物なのですか!?」

 

 まず最初の質問に警察署署長は傍らの人物を振り返る。

 

「その質問には専門家から答えていただきましょう。サンドスター研究所所長、ドクター遠坂です」

 

 会見にはドクター遠坂も同席していた。

 ここで下手を打てば、世間は存在が暴露されてしまったセルリアンによってたちまちパニックに陥るだろう。

 彼にとってはここからが正念場である。

 せっかく娘達が守ってくれた街だ。その頑張りを無駄にする事だけはするまい。

 大丈夫、既にシナリオは出来上がっている。

 ドクター遠坂は深呼吸すると勢いよく立ち上がり白衣を翻させた。

 

「ご紹介に預かりました、サンドスター研究所所長、ドクター遠坂です」

 

 一つ礼をするとそれだけで会場は一度静まり返る。

 現在、ドクター遠坂はサンドスター研究所所員達総出で身だしなみを整えられていた。

 シワ一つないYシャツにビシリと締められたネクタイ、それに染み一つない白衣。さらに磨き上げられた眼鏡のレンズは光を放ちどこから見ても出来る科学者という見た目だ。

 実は会見前に女性所員達がテレビ映りがいいようにメイクまで施してくれたのだが、おかげで主導権(イニシアティブ)を握る事に成功した。

 それにドクター遠坂はちゃんとしてさえいればカッコいいのだ。

 

「まず、セルリアンは簡単に言えば不定形の生物になります。彼らは様々なものに憑りつきその特性を模倣して身体を構築するのです」

「あ、あのー……。もう少しわかりやすく説明していただけると……」

 

 それだけの物言いでは理解が追い付かない。

 記者達の戸惑いの視線にドクター遠坂は一つ頷くと自分の目の前にあったマイクをスタンドから取り外して軽く掲げて見せる。

 

「例えばですがここにマイクがあります。このマイクにセルリアンが憑りつけば、マイクの特性を模倣した『マイクのセルリアン』が誕生します」

 

―ザワザワザワ……。

 

 新種の生物、その存在を明かされて記者達はさらに戸惑う。

 それをどう考えていいのか分からないのだろう。

 だが、この戸惑いが広がっている今がチャンスだろう。

 ドクター遠坂はさらに言葉を続ける。

 

「まず、セルリアンの知能レベルについては様々です。会話を成り立たせるものから、昆虫と同程度のものや、反射反応を見せる程度のものまで」

 

 再びそれに記者達がざわつく。

 会話が出来る者もいるという事ならその知能レベルは相当高いのではないだろうか。

 ドクター遠坂は機先を制して先に釘を刺しておく事にした。

 

「ご安心下さい。全てのセルリアンが人類に敵対的であるとは限りません」

 

 それで記者達にも安心の空気が広がった。

 だが、そのまま終わらせるわけにはいかない。今後の為にも。

 やはり記者達の中にも気が付くものがいて質問をぶつけて来た。

 

「で、では人類に敵対的なセルリアンもいる、という事ですか?」

 

 当然そうなる。

 ルリや彼女の家にいるイリアやレミィ、青龍神社にいるドール=ドールのような者ばかりではない。

 

「はい。そうした人類に害を為すセルリアンもいると考えてよいでしょう。今回の事件もそうしたセルリアンが起こしたのですから」

 

 それは認めなくてはならない。

 

「な、ならば今後もセルリアンによる被害は発生するのですか!?」

「どうやってそれに対抗するのですか!?」

 

 ハチの巣を突いたような騒ぎになりかけるのをドクター遠坂は手で制する。

 

「我々、サンドスター研究所ではセルリアンの研究も行っていました。余りにも実数やサンプルが少なかった為、研究成果は芳しくなく発表に至りませんでしたが、危険性は認識しておりました」

 

 そこでドクター遠坂は先ほどから沈黙を守っている警察署署長へ視線を送る。

 打ち合わせ通りに、と。

 

「はい、我々警察もセルリアンの危険性についてサンドスター研究所から指摘を受けて、今回のような事件に対抗する準備を進めていました」

 

 警察署署長はゴホン、と咳払い一つ。

 居住まいを正すと立ち上がり言った。

 

「それではご紹介しましょう。今回出現した災害級セルリアンを倒し街を救った英雄(ヒーロー)を」

 

 その言葉に記者達も思い至った。

 最近噂になっている通りすがりの正義の味方を。

 つまり今から現れるのは……。

 

「(クロスハートだろうなぁ)」

「(クロスハートだよなぁ)」

「(クロスハートに違いない。俺は詳しいんだ)」

 

 誰もが異口同音にそう思っていた。

 

「入り給え! キャプテン・ハクトウワシ!」

 

 そして警察署署長の呼んだ名前に記者達は同じように思った。

 

「「「「「「「誰!?」」」」」」

 

 と。

 そんな記者達に構わず会見場には一人のフレンズが入って来た。

 真っ白な長髪に前髪の一房だけが黄色く色づいた髪。

 黒を基調としたマーチングバンドのようなジャケット。深い青色のミニスカートの下は黒のストッキングで覆われていた。

 頭からは鳥系フレンズの特徴である翼が一対生えている。

 そして、その目元はミラーシェードで隠されて、一応だけれど正体がわからないようになっていた。

 テレビを見ていたオオセルザンコウは開いた口が塞がらない。

 それはどこからどう見てもハクトウワシだったからだ。

 そんな記者達やオオセルザンコウの戸惑いを余所に、警察署署長は高らかに宣言する。

 

「セルリアンの脅威が現実のものとなった今、我々警察はキャプテン・ハクトウワシを中心にして新たなセルリアン対策課を新設します!」

 

―おお……。

 

 戸惑いと感嘆の混じった声が漏れる。

 警察が既にセルリアン対策を行っていたという安心が半分。果たしてそれが本当に有効なのかという不安が半分と言ったところだろうか。

 そこにキャプテン・ハクトウワシが口を開いた。

 

「皆さん、セルリアンの出現に不安を抱いていると思うわ。けれど、No Problem! 悪い事をするセルリアンは警察が取り締まる。今までと何も代わりないわ!」

 

 キッパリとそう言い切られれば安心の方が勝っていく。

 警察がセルリアンに対しても機能するのならば今までと変わらない生活が送れるはずだ。

 

「けど一方で無害なセルリアンだっているの。だからもしもセルリアンかなって思ったら警察に相談して。無害なセルリアンは保護するし、悪い事をするセルリアンなら取り締まるわ」

 

 そしてテロップで警察のセルリアン相談窓口が表示される。

 どうやらその相談窓口は「セルリアンかも?」という疑問があった程度でも相談していいらしい。

 なんせ警察でもその他の省庁でもセルリアンの情報は些細なものでも必要としているのだから。

 一通りの熱弁を振るったキャプテン・ハクトウワシの隣にドクター遠坂が並ぶ。

 

「先にキャプテン・ハクトウワシが言った通り無害なセルリアンもおります。彼らは我々と共存し新たな社会を築く一員となれるかもしれません」

 

 だから、とドクター遠坂はキャプテン・ハクトウワシの手を取り、固く握手してみせる。

 

「我々サンドスター研究所は警察とキャプテン・ハクトウワシに全面協力します。無害なセルリアンを保護し、危険なセルリアンから皆さんを守る為に」

 

 その場面に一斉にカメラのシャッターが切られた。

 明日の朝刊にはきっとこの写真が使われるのだろう。

 この日、セルリアンは人々の知るところとなったが、混乱は起こらなかった。

 警察が公的にセルリアンへの対処と人々の安全を保障してくれた事が大きな理由だろう。

 ただ会見の主役を演じたドクター遠坂も警察署署長も、そしてキャプテン・ハクトウワシもこれからが大変だ、と新たな冷や汗を浮かべるのだった。

 

 

の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の

 

 

 オオセルザンコウの病室ではテレビの中でなおもドクター遠坂が記者達の質問に答えていた。

 そこにはキャプテン・ハクトウワシも一緒に映っている。

 

「な、なんでハクトウワシが……」

 

 そこにヤマバクが皮を剥いてウサギさん型にしたリンゴを差し出しつつ言う。

 

「そうですね。ご存知だとは思いますが、ハクトウワシさんが事件を解決したわけではありません。ですが、貴女達セルリアンフレンズやクロスハート達の存在を隠すには誰かが分かりやすい英雄を演じる必要があったんでしょう」

「それがハクトウワシ、というわけか」

「ええ。ただ、彼女は納得して今回の役を引き受けたそうですよ」

 

 その理由は想像に難くない。

 きっとオオセルザンコウやセルシコウやマセルカに罪を被せない為だ。

 

「そうでしょうね。それに元セルゲンブさんにも」

 

 ヤマバクに言われて思い出した。

 元セルゲンブは一体どうなったのか。

 

「元セルゲンブなゲンブさんはサンドスター研究所で治療を受けていますよ。まともに動けるようになるには年単位のリハビリが必要でしょうが」

 

 それにオオセルザンコウはやはり、よかった、と思う。

 どんな感情が湧いてくるのかと思ったが、彼女の無事に安堵している自分がいた。

 先にこの世界に来ていたセルスザクと同じように『石』を砕かれたせいでオオセルザンコウよりも重症ではあるが、セルゲンブも命が助かった事にホッとしている。

 だがいいんだろうか。

 セルシコウとマセルカはともかく、セルゲンブとオオセルザンコウは今回の主犯と言っていい。

 そんな自分達が何も罰されずにのうのうと過ごしていても。

 そう思い悩むオオセルザンコウの手をヤマバクがとった。

 

「いいんですよ。貴女達を罰するよりも役に立ってもらう方がいいと判断されたのですから。それに……」

 

 それに、一体何だろう、とオオセルザンコウは小首を傾げる。

 

「実はハクトウワシさんにも色々とメリットがありますし」

 

 そう言ってクスクス笑うヤマバクだったが、オオセルザンコウには何が何やら全く分からない。

 そうしてオオセルザンコウが戸惑っていると……。

 

―ガラリ。

 

 と、病室のドアが開いた。

 どうやら新たな人物がやって来たらしい。

 そこにいたのは……

 

「は、ハクトウワシ!?」

 

 だった。

 オオセルザンコウは慌ててテレビを見る。

 そこではやはり変わらずキャプテン・ハクトウワシが映っていた。

 どういう事だろう、と目を白黒させるオオセルザンコウにヤマバクが種明かしをしてくれた。

 

「実はその会見放送、生放送じゃなくて再放送なんです」

 

 てっきり生放送かと思っていたが、どうやらそうではない。

 オオセルザンコウが眠り続けていた間にとっくに本放送は終わっていたのだ。

 さらにハクトウワシの後ろにはセルシコウとマセルカもいた。

 全員が無事なのをその目で見る事が出来てオオセルザンコウは改めて心底安心した。

 それはハクトウワシもセルシコウもマセルカも変わらない。

 マセルカがベットのオオセルザンコウに飛びついて来た。

 

「よかったー! オオセルザンコウ目を覚ましたんだね!」

「本当ですよ。大分心配したんですから」

 

 マセルカのダイブはセルシコウが素早く阻止していた。

 まだ全身が痛いオオセルザンコウとしては助かった、とホッと一息である。

 しかし、三人を前にしたオオセルザンコウの顔が曇った。

 なんせ、彼女達には何から謝っていいやら分からない。

 そうして戸惑うオオセルザンコウの顔をハクトウワシが覗き込んでいた。

 

「は、ハクトウワシ……私は……」

「知ってるわ。セルリアンフレンズなんでしょう?」

 

 何とか言葉を紡ごうとするオオセルザンコウの先をハクトウワシが遮った。

 

「それでも、私がこれから言う事は変わらないわ」

 

 ハクトウワシはオオセルザンコウの両手をとるとキッパリと言った。

 

「オオセルザンコウ、セルシコウ、マセルカ。三人とも正式に私の家族になって欲しいの」

 

 まさかそんな事を言われるとは思っていなかったオオセルザンコウは固まってしまう。

 その無反応具合にハクトウワシは、もしかしてイヤだっただろうか、と慌てた。

 

「ほ、ほら。私、今度新設されるセルリアン対策課の暫定課長って事になるじゃない? 大出世なわけで、当然お給料もアップするのよ! だから貴女達三人とも正式に引き取れるの!」

 

 なるほど、ヤマバクが言っていたハクトウワシのメリットとはこれだったか。

 嬉しくないわけがない。

 けれどオオセルザンコウはこう言わざるを得なかった。

 

「い、いいのか……?」

 

 と。

 オオセルザンコウはあれだけの事をしでかしたのだ。

 本来なら厳しく罰せられなくてはならない。

 それが罰せられるどころか、今まで通りハクトウワシとセルシコウとマセルカと一緒に暮らせるというのだ。

 

「まぁ……その、条件が二つ程あるわ」

 

 まぁ無条件なわけがないよな、とオオセルザンコウも続くハクトウワシの言葉を待つ。

 

「オオセルザンコウ。貴女も学校に通うの。それでこの世界の事を学んで欲しいの。そうしたらもう悪い事なんてしないでしょう?」

 

 またもやぬる過ぎる条件にオオセルザンコウの方が面食らっていた。

 そんな事でいいのか、と。

 それに学校というのには興味もあった。

 任務達成の為にもお金を稼ぐ必要があったから学校に行く暇なんてなかったけれど。

 それが学校に行けるというなら、願ったり叶ったりだ。

 

「それにですねぇ、今回の皆さんの行動をどういう法律に照らし合わせたらいいのか分からないっていう事情もあるんですよ。だから罰を与えるよりもきちんと保護した方がいいっていうのが最終的な判断です」

 

 とヤマバクが補足してくれた。

 つまり、これでオオセルザンコウ達は名実ともにハクトウワシの家族になれるわけだ。

 

「ん……? ちょっと待て。条件は二つあるって言っていたよな? もう一つは一体何なんだい?」

 

 オオセルザンコウが訊ねると今度はセルシコウとマセルカがにんまりと笑っていた。

 そして懐から二つ折りの手帳のような物をそれぞれに取り出す。

 

「あのねあのね、マセルカ達ね!」

「特別隊員になったんです」

 

 マセルカとセルシコウがかわるがわる言うが何の事か分からない。

 オオセルザンコウは説明を求めてハクトウワシを見た。

 

「そのね……。貴女達にはセルリアン退治を手伝って欲しいの。ぶっちゃけ私一人じゃとてもセルリアン退治なんて出来ないもの」

 

 つまり、特別隊員とは今度警察に新設されるセルリアン対策課の特別隊員という事なのだろう。

 

「あのねあのね! マセルカが特別隊員No3なの!」

「で、私が特別隊員No2なんです」

 

 どうやらマセルカとセルシコウの二人は既にセルリアン対策課の特別隊員となる事を了承したのだろう。

 

「特別隊員No1は空けておきましたよ、オオセルザンコウ」

 

 言ってセルシコウがオオセルザンコウの分だ、とばかりに二つ折りの手帳を差し出してくる。

 それは特別隊員証らしい。

 

「貴女達を罰するよりも役に立ってもらった方がいいって言ったでしょう? 迷惑を掛けた以上に役に立つというのもよいのではありませんか?」

 

 そう言ってヤマバクも優しく笑っている。

 

「ね!? お願い、オオセルザンコウッ!」

 

 ハクトウワシは逆に頼み込むようにオオセルザンコウに言った。

 実は事件の後、キャプテン・ハクトウワシになる事を決めたハクトウワシの為にドクター遠坂と和香教授と萌絵が三人して変身アイテムを作ってくれた。

 その名もキャプテン・アクセラレーターである。

 それで変身した姿が今もテレビの中に映るキャプテン・ハクトウワシというわけだ。

 ところがどっこい、問題が一つ。

 ハクトウワシはイエイヌのように元から強い異世界のフレンズというわけでもないし、エゾオオカミのように適合する“メモリークリスタル”もなかった。

 そういうわけで、キャプテン・ハクトウワシは見た目の変身は出来ているが、それで身体能力が伸びているわけでもなければ強大なセルリアンを倒せるようになったわけでもない。

 ハッキリ言ってハリボテもいいところなのだ。

 なので、セルリアン対策課がまともに機能する為にはオオセルザンコウとセルシコウとマセルカの協力も必要不可欠だったりする。

 

「まったく、呆れた話だな」

 

 そんな内情を知ってしまってオオセルザンコウは苦笑いしていた。

 

「これではのんびり寝込んでる場合でもないじゃないか。さっさと治してハクトウワシを手伝わないとな」

 

 そんな憎まれ口と共にオオセルザンコウは隊員No1の手帳を受け取る。

 

「でもありがとう。ハクトウワシ、セルシコウ、マセルカ」

 

 そして言いつつハクトウワシに抱き着いた。

 まだ身体は『ヨルリアン』になった影響でギシギシと痛むが構わない。

 気を抜けば嬉しさで涙がこぼれそうなのだから。

 

「それとね、オオセルザンコウ! 特別隊員はマセルカ達三人だけだけど、他にも協力者はたーっくさんいるんだよ!」

 

 マセルカの言にそういえば、とオオセルザンコウも思い出す。

 この世界をずっと守って来た本物のヒーロー達がいる事を。

 

「クロスハート達の事かな?」

「そうそう!」

 

 どうやらクロスハート達はセルリアン対策課への協力者となったらしい。

 有事の際に協力したり情報共有はするが、やる事は今までと大して変わらない。

 もしもセルリアンが現れたなら、いつも通りに通りすがって皆を助けるだけだ。

 

「実はさっきまでともえ達と一緒にいたんですよ」

 

 セルシコウが言いつつマセルカに頷く。

 マセルカはその合図を受けて、商店街から借りている自分用の携帯を取り出した。

 その画面には……。

 

『あ、オオセルザンコウちゃん、元気ぃー?』

 

 ともえが映っていた。後ろの方には萌絵もイエイヌも、かばんもサーバルもアライさんもフェネックも、それにルリもアムールトラもエゾオオカミもユキヒョウもいた。

 どうやら皆無事だったらしい。

 こうして元気にしている姿を見れただけでも嬉しく思えるオオセルザンコウだ。

 それにしても全員集まって何をしていたのだろう?

 どうも、携帯電話の画面を見る限り、そこは屋外らしい。

 その疑問が携帯電話の向こうにいるともえ達にも伝わったのか、彼女達はニヤリと笑っていた。

 

『ほら、実はさ、駅ビルってこのまえセルゲンブちゃんが大暴れして色々壊れちゃったじゃない? だから『グルメキャッスル』をしばらく出店出来なくなったんだけど……』

『なんと! 商店街の皆がだなー! じゃあしばらくの間、屋台を出して欲しいって言ってくれたのだ!』

『あ、後でサオリさんやエミリさんや奈々さんにキタキツネさんやギンギツネさん達も手伝いに来てくれますよ」

『そういうわけで、皆でその相談してたんだー。さっきまでセルシコウもマセルカも一緒だったんだけど、オオセルザンコウが目を覚ましたって聞いたからさー』

 

 あまりにもみんながワチャワチャしているので、携帯の小さな画面に収まりきっていないが、オオセルザンコウには誰が何を言っているのか分かる気がした。

 そして携帯電話の向こうにいる皆が脇にずれると、奥にあった『グルメキャッスル』(屋台)が姿を見せる。

 

『オオセルザンコウちゃんー、早く戻って来ないと本当にメニューがともえスペシャル尽くしになるから頑張って治してね』

『う、うみゃぁああっ!? と、ともえちゃんっ!? イチゴジャムに辛子は絶対合わないよおぉおおお!?』

『ともえちゃん! ステイ! ステイですよぉおおおっ!?』

 

 そんな大騒ぎと共に画面が揺れて暗転した。

 どうやら相手の携帯が倒れてしまったのだろう。

 

『よう、聞こえてるかー。そういうわけだから、もうホント早く治せ。俺らがともえ先輩を抑えてられるのも長くはねーからな』

 

 携帯からエゾオオカミの声だけが聞こえて、それきり画面の向こうでどったんばったん大騒ぎしているのだけが聞こえる。

 最初目が点になっていたオオセルザンコウだったが、くつくつと笑いがこみ上げて来た。

 笑うと傷が痛むけれど、それでも笑わずにはいられなかった。

 目尻に浮かんだ涙は恐らく痛みのせいばかりではない。

 

「やはり、私達は間違っていたんだな」

 

 オオセルザンコウはようやく分かった。

 『グルメキャッスル』(屋台)は苦心の末に手に入れた自分達の“輝き”だ。

 それを保全するから差し出せと言われて納得できるはずがない。

 例えそれでいつでも再現出来るとしたって、それは別の『グルメキャッスル』(屋台)だ。

 自分達がやろうとしていた事はそういう事だったのだ。

 セルシコウとマセルカの二人を見れば同じように頷いてくれていた。

 間違えてしまった過去などなかった事には出来ない。

 ならばこの世界に掛けた迷惑以上に助けてやろうじゃないか、と。

 

「さて、そうと決まったらまずはさっさと治すか」

「ええ。やはりオオセルザンコウがいないとツッコミが足りないですから」

「その意気だよ! オオセルザンコウッ! マセルカも応援しちゃうからっ!」

 

 そんなわけで病室は賑やかだったけれど、そのせいで後で看護師さんに静かにするよう怒られた事を付け加えておく。

 

 

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 さて。少し時は遡って事件当日。

 オオセルザンコウやゲンブが病院に搬送され、それぞれ怪我した人達の手当なんかも終わって一息ついた後の事である。

 『ナイトメア』によって眠らされた人達も『ヨルリアン』が倒された事で無事に目を覚ました。

 無事に事件が解決した事を悟ったともえ達はいつも通りに家に帰る。

 本当は今日は青龍神社にお泊りの予定だったが、あんな事があった後だ。お泊り会はまた今度に延期である。

 それにしても、気になるのはやはり新たなクロスハートに変身した萌絵の事であった。

 

「もうね! 萌絵お姉ちゃんもイエイヌちゃんもね! すっごいカッコよかったんだよ!」

 

 家に帰ってからともえはテンションマックスで春香に言う。

 おかげで春香はともえの出自を言えずにいた事を謝れなかった。

 だが、それでいい。

 

「ふふ。そうね、萌絵ちゃんもともえちゃんも、もちろんイエイヌちゃんもカッコよかったわ」

 

 ともえがヒトのフレンズであろうが何だろうが萌絵の妹であり春香の娘である事には一切変わりがない。

 それだけでいいのだ。

 

「今日はともえちゃんが食べたいものを作るわ。何かリクエストはある?」

「やった! じゃあお母さんのカレーがいい! もうお腹ペコペコだからたーっくさんお願いね!」

「ええ、任せて」

 

 せめてものお詫びに、今日の晩御飯はともえが好きな物を作ろう。

 春香はそう決めてキッチンへ入った。

 それにあれだけの大仕事の後だ。娘達にはリビングでゆっくりしていてもらいたい。

 だが、ともえはと言えば、まだまだ元気いっぱいだ。

 萌絵が変身してみせたという事に未だ興奮冷めやらないのだ。

 

「ねえねえ! これからは萌絵お姉ちゃんも一緒に変身して戦ってくれるって事だよね!? じゃあさ、じゃあさ、お姉ちゃんにも何か専用の呼び名が欲しくない!?」

 

 ともえはワクワクしながら言う。

 もうテンションが上がりすぎてテーブルに手をつき、脚でピョンピョン跳ねてしまっていた。

 イエイヌの方も似たようなもののようで、こちらも控え目ながらキラキラした目で萌絵を見ている。

 なので、萌絵はこの一言を言うのが凄く心苦しかった。

 

「ごめん。アタシは多分この先よっぽどの事がない限り変身しないと思う」

 

 それにともえもイエイヌも「「なんで!?」」と驚いてしまった。

 萌絵はそのもっともな疑問に頷くと理由を説明するべく指を三本立てた。

 

「理由はね、主に三つあるの」

 

 その三つとは一体何なのか。

 

「まず一つ目の理由ね。アタシはクロスハート・ともえフォームにはなれるけどそれだけなの。アレって見た目がまんまともえちゃんだから、アレで戦ったらクロスハートの正体が思いっきりバレちゃうからね」

 

 確かに、クロスハート・ともえフォームはともえの姿そのものだ。

 ミラーシェードやサングラスで多少の変装は出来るかもしれないが特徴的な髪色や瞳の色をごまかすのは難しいように思える。

 

「それでね、二つ目の理由なんだけどね」

 

 萌絵は一度大きく息を吸うと一息に言った。

 

「ぶっちゃけ、アタシが変身して能力を使うと最悪世界が滅びるかもしれないの」

「「「はぃいいい!?!?」」

 

 あまりの急展開にともえもイエイヌも驚きの声をあげてしまった。

 だが、一体全体どうしてそんな事になるというのだろうか。

 

「アタシのクロスハート・ともえフォームはアタシが未来に作るはずだった道具を今使う事が出来るの。でもね、今日使った道具は未来のアタシから借りたものだから、キチンと作らないといけないの」

 

 言いたい事が分からなくもないけれど、ちょっと難しい話になってきてともえとイエイヌの頭からはぷすぷすと煙が上がり始めた。

 

「つまり、もしアタシが今日使った道具を作らないと、世界は辻褄を合わせる為に多元宇宙理論に基づいて世界を一つ構築しちゃう可能性が高くてね。その際に世界が一つ新たに生まれるだけのエネルギーでビッグ・バンが起こる可能性が……」

 

 萌絵が早口で説明しはじめたせいでとうとう二人の頭は爆発した。

 目をぐるぐる回してる妹達を見かねて、萌絵はなるべく簡単に説明した。

 

「要は、アタシがもし今日使った道具を作れなかったら、世界に矛盾が生じてとんでもない事が起きちゃうかもしれないって事」

 

 つまり、今日萌絵が使った『ラモリドリル』と『ジュエル・クロス・バイス』との合体機構を実現しないと、そこに矛盾が生じてしまう。

 そうなったときどうなるのかは実際なってみないとわからない。

 けれどそれを試したいとも萌絵は思っていなかった。

 

「と、いうわけでラモリさん。後で『ラモリドリル』になれるように改造してあげるね」

 

 抜き足差し足で逃げようとしていたラモリさんは萌絵にあっさり捕まってしまった。

 せっかく静かにして目立たないようにしていたのに、どうやら見破られていたらしい。

 

「た、頼むからお手柔らかにナ……」

 

 ラモリさんとしても自分が『ラモリドリル』にならないと世界にとんでもない事が起きるかもしれないのは理解していた。

 だが、萌絵の手によって改造されてしまう。

 それにはヒドくイヤな予感がしてしまう。

 

「大丈夫大丈夫。すっごいカッコいいドリルになれるようにするから! あと、今日使わなかったけど別な形態になれるようにしてもいいかもね! 例えば試作型特殊アームにプロペラをつけて『ラモリコプター』とか……!」

 

 萌絵の目はキラキラと輝いていた。

 別に今日使った『ラモリドリル』以外の改造しかしちゃいけないなんてルールはなかったのだ。

 

「う、うぉおおおおおっ!? 俺はどうなってしまうんダ!?」

 

 ジタバタするラモリさんだったが萌絵の目は既に改造へ向けて燃えていた。

 

「まぁ、今日はさすがに疲れたから改造はまた今度にするよ」

 

 萌絵の宣言にラモリさんはホッと一息。

 まぁ、未来のいつかに作ればいいわけだから、締め切りはまだまだ先である。

 

「さて、それじゃあ三つ目の理由ね。これが結構大きいんだけど……」

 

 世界が滅びるかもしれないよりも大きな理由。

 それは一体何なんだろう。

 ともえもイエイヌもラモリさんもゴクリと固唾を呑んで次の言葉を待った。

 

「ともえちゃんとイエイヌちゃんは、今までもこれからも皆のクロスハートとして頑張るんでしょ?」

 

 それはそうだ。

 今までだって友達を守りたい、家族を守りたい、街を守りたい。

 その一心でクロスハートとして戦って来たのだ。

 ちょっと迷ったりもしたけれど、その想いは今回の一件でますます強くなった。

 けど、それと萌絵が今後は変身しないという理由がどう関係あるのだろうか?

 そう思ってともえとイエイヌは小首を傾げていた。

 

「えっとね、アタシはともえちゃんとイエイヌちゃんのクロスハートになりたいな、って」

 

 ともえもイエイヌもクロスハートである前に一人の女の子だ。

 今回のように傷つきもすれば迷う事だってある。

 だからそんな時に誰かが支えてくれるならそれはなんと心強い事か。

 

「もう! もう! お姉ちゃんそういうところだよっ!」

「そうですよ! 萌絵お姉ちゃん、そういうところですよっ!」

 

 嬉しくてともえとイエイヌは思わず萌絵に抱き着いていた。

 両側から妹達にサンドイッチにされて、萌絵はにへらと相好崩す。

 

「お姉ちゃんはずっとずっとアタシのクロスハートだったよっ!」

 

 ともえにそう言われれば、萌絵としても今回無茶をした甲斐があったというものだ。

 実はあの後、萌絵とイエイヌ以外もともえから力を借りられないか試してみた。

 けれど、かばんも菜々もアムールトラもエゾオオカミもそれは出来なかった。

 『クロスハート・ともえフォーム』を実現できたのは萌絵だけだったし、『クロスナイト・ハウンドフォーム』を実現出来たのはイエイヌだけだったのだ。

 それは、こうして支え合うともえと萌絵とイエイヌの固い絆があってこそ起こせた奇跡だったわけだ。

 

「あ」

 

 妹達にサンドイッチにされて至福のモフモフタイムだった萌絵が突然声をあげる。

 一体どうしたんだろう?

 ともえもイエイヌも揃って萌絵の顔を覗き込むと、萌絵がやたら真面目な顔をして言った。

 

「ごめんね。アタシが今後なるべく変身しないようにする四つ目の理由があったよ」

 

 それは一体。

 続く言葉を待つともえとイエイヌの目の前で、萌絵の顔色がだんだんと青くなっていく。

 そして萌絵はこう言った。

 

「実は、変身後にしばらくすると、反動で体調を崩すみたい」

 

 と。

 そして力なくともえに寄り掛かったものだから、ハチの巣を突いたような大騒ぎになってしまった。

 

「お、お母さんー! 大変だよぉー!? 萌絵お姉ちゃんが熱出しちゃったー!?」

「萌絵お姉ちゃん、しっかりして下さいー!?」

「あらあら大変」

「ハァ……俺は萌絵のベットを用意してくるゾ……」

 

 

 

 この物語は、ある日突然フレンズの姿に変身する不思議な力を手に入れて、通りすがりの正義の味方クロスハートになったヒトのフレンズ、遠坂ともえとその仲間達の物語である。

 彼女達の戦いはまだまだ続く!

 戦え、クロスハート!

 

「はい、お姉ちゃんアーン」

「こちらも! こちらもどうぞ! はい、アーン」

「いやぁ……。こうやって看病してもらえるならたまには変身してもいいかもねえ」

 

 さしあたってまずは風邪を治すんだ!

 

 

 

 けものフレンズRクロスハート第25話『その名はやっぱりクロスハート』

 ―おしまい―




【セルリアン情報公開:ヨルリアン】
 夜という概念そのものに憑りついた強力なセルリアン。
 劇中では既に一度倒されてセルメダル化されていたが、その力は強大過ぎた。
 セルメダル使用者の負の感情を喰らって成長していき、やがて意識を乗っ取る程に。
 『ヨルリアン』は夜や闇を自らの勢力圏とする事が出来る。
 もしもクロスハート達がヨルリアンを倒せず日没を迎えていれば、世界は全て『ヨルリアン』の支配下に置かれていただろう。
 あまりにも強力なセルメダルである為、日中にしか使えないという弱点がなければなす術もなかったはずだ。
 『ヨルリアン』の勢力圏内では『ナイトメア』という取り巻きセルリアンが無限に湧き出て来る。
 『ナイトメア』は煙が寄り集まって人型となった外見をしており、一体一体は弱いが数が多いため厄介だ。
 攻撃力も低いが纏わりついて“輝き”を奪い犠牲者を眠らせる事が出来る。
 また、一体一体は弱いものの、『ナイトメア』が集まって合体し『巨人ナイトメア』となる事も出来る。
 また『ヨルリアン』本体も強力な技を持っている。
 闇色の手を伸ばし相手を捕まえる『ナイトサーヴァント』や闇色の帯を鞭のようにして相手を攻撃する『シャドウ・ウィップ』や闇のカーテンで本体を防御する『夜の帳』など多彩な技を持つ。
 『ヨルリアン』が発生したなら、出来る限り速やかに駆除しないと世界は“夜”に沈む事となるだろう。


【ヒーロー紹介:クロスハート・ともえフォーム】
 パワー:D スピード:D 防御力:D 持久力:S

 遠坂萌絵がともえの力を借りて変身した変身フォーム。
 緑かかった髪に、左右の瞳にそれぞれ青と赤の光点を宿す外見はともえそのものだ。
 服装は黒のアンダーシャツに深い青色のベスト。
 それに膝上のハーフパンツ、足元は頑丈そうなトレッキングシューズだ。
 彼女の被るアドベンチャーハットには青と赤の模様が入った飾り羽がついている。
 基本的なスペックはヒトの限界性能を引き出したものであるため、あくまでヒトの域を出ない。
 だが彼女の使う技は凄まじい。
 萌絵が未来で作るはずだった発明品をその場で使う事が出来るのだ。
 萌絵が作れる範囲のものという制約はあるものの、頭脳明晰な彼女を相手にしたセルリアンは人類の叡智と戦う事になるだろう。


【ヒーロー紹介:クロスナイト・ハウンドフォーム】
 パワー:? スピード:? 防御力:? 持久力:?

 イエイヌがともえの力を借りてさらなる変身を遂げた変身フォーム。
 毛足が長くふさふさになり、どこかオオカミ種を思わせる外見へと変化する。
 そのスペックは現在計測不能である。
 どうやらイエイヌの使う特別な野生解放の反動を抑える働きも持つようだが、詳しい調査が待たれる。
 いずれにせよ、優秀な猟犬と化したクロスナイトの牙から逃れられるセルリアンは存在しないだろう。


【あとがき】

 今回の第25話をもって、けものフレンズRクロスハート第3章は完結となります。
 実は、各章にはその章の主役ともいうべきもう一人の主人公が設定されていました。
 第1章ではイエイヌちゃん。
 第2章ではルリちゃんとアムールトラ。
 そして、ここまで読んでいただいた皆様にはおわかりいただけるかと思いますが、第3章のもう一人の主人公は萌絵お姉ちゃんになります。
 実は萌絵お姉ちゃんは私にとって、ちょっと特別な存在です。
 実はクロスハートを始めようと思った理由の一つは、ともえちゃんの前身である『とおさかもえ』ちゃんはともえちゃんになる未来しかないのか、という疑問を持ったからです。
 もえちゃんとともえちゃん。この二人、絶対仲良くなれるのになあ。
 そう思ったら、そういう話を書きたくて仕方なくなりました。
 そしてともえちゃんと、そしてもえちゃんが仲良く暮らせる世界というものをデザインし、けものフレンズRクロスハートの最初が生まれました。
 クロスハート世界においては『とおさかもえ』ちゃんは『遠坂萌絵』となって、ともえちゃんと一緒に様々な戦いに身を投じていきます。
 本作でも『とおさかもえ』ちゃんは『ともえちゃん』になります。
 ただ、それがこういう形でもいいんじゃないかな、という自分なりの答えを3章に盛り込ませていただきました。
 さて。
 物語を作ろうと思った時に、こんなシーンを作りたい!描きたい!描写したい!という想いは誰にもあるかと思います。
 それはその作品の原風景ともいうべきものではないでしょうか。
 私にとって、けものフレンズRクロスハートの原風景は二つあります。
 一つは7話と8話。
 そしてもう一つが第3章最後の二話となった24話と25話です。
 クロスハート1話の初リリースから約1年と半年。
 貸していただいた沢山のアイデアに彩られながらここまで来る事が出来ました。
 難しい場面も多々ありましたが、私が思い描いた原風景をこうして皆様にお届け出来た事に感無量です。
 アイデアを貸して下さった沢山の皆様。
 感想や応援コメントをくださった皆様。
 そして、ここまで読んでいただいた皆様。
 本当にありがとうございます。

 今回のお話をもって、けものフレンズRクロスハートは最終回…………とはなりません!
 まだまだ続けます!
 ぶっちゃけ原風景とも言うべきものはないけれど、逆に言えばここから先は未知の領域!
 どうやってお話を続けていこうか頭を抱える事だってありますが、それだって楽しい作業です!
 ちょっと充電期間をいただくとは思いますが、とある方から既にキャラクターをお借りしております。
 今度はお借りしたキャラクターを中心に物語を展開させようかと思います。
 どんな物語になるのか、楽しみしていただけたら嬉しいです。

 これからも、けものフレンズRクロスハートをよろしくお願いします!

 

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