けものフレンズRクロスハート   作:土玉満

78 / 107
第4章
プロローグ


 

 色鳥町が“夜”に沈みかけた事件から一週間程が過ぎた。

 街は表面上平静を取り戻している。

 『ヨルリアン』によって破壊された街灯などの復旧も終わり、鉄道の安全も確認されたので運航が再開していた。

 もっとも、駅ビルは未だ修復工事の真っ最中で防塵幕にその姿を覆われている。

 ちなみに、駅前大通りには原因不明の道路陥没が出来ており安全の為工事用三角コーンで一車線が潰されていた。

 これは春香と和香教授が『巨人ナイトメア』を相手に大太刀周りを演じた際の副産物である。

 そんな事を露とも知らないドライバー達はいつもより流れの悪い駅前大通りに若干の苦戦をしながらもいつも通りに運転を続けた。

 街の色んなところに戦いの傷跡が残りながらも、人々はいつも通りの日常を過ごす。

 しかし、事件の前と後では大きく違う事が一つある。

 それは市民の誰もがセルリアンの存在を知ってしまった事だ。

 表面上はいつも通りに過ごしていても、やはり心の何処かで不安を感じずにはいられない。

 それでも街が平静を保っているのは、警察が本格的なセルリアン対策に乗り出した事もある。

 しかし、それとは別にもう一つ人々の心の拠り所となっている噂があった。

 セルリアンと戦う通りすがりの正義の味方、クロスハートの噂である。

 水面下でますます噂になるクロスハート達であった。

 閑話休題。

 運航を再開した電車にはとある二人の親子が乗っていた。

 母親の方は黒髪を頭の高い位置で一つにまとめた長身の女性だ。キレ長の瞳がどこかクールな印象を与える。

 黒のジャケットに同じ色のスラックスという男性寄りの服装が似合っていて、周囲の乗客はついついその美貌に目を奪われてしまっていた。

 一方の娘の方はどこか子供っぽい印象だ。

 母とよく似た黒髪を頭の低い位置で一つにまとめている。

 今も、靴を脱いで座席に後ろ向きで膝立ちになり、流れる景色をまん丸の瞳で見つめていた。

 こちらの少女は紺色のアンダーシャツに小豆色のベスト、ひざ丈のデニムスカートという格好だ。

 被っているアドベンチャーハットには水色の模様が入った羽根飾りが一本ついている。

 

『次はー。色鳥駅。色鳥駅。お出口右側となります』

 

 車内アナウンスが流れると、母親の方が娘の肩を叩く。

 目的地が近いのでそろそろ支度をしないといけない。

 

萌音(モネ)。そろそろ靴を履いて降りる準備をして。乗り過ごしたら大変よ。ともえちゃん達に会えなくなっちゃうわ」

「オッケー。分かったわ」

 

 萌音(モネ)と呼ばれた少女は早速座席にちゃんと座り直して靴を履く。

 

「お母さんこそ忘れ物はないかしら? しばらくお仕事でお泊りなんでしょう?」

「ええ。ちゃんと萌音(モネ)ちゃんが準備してくれたもの。心配してないわ」

「私は心配だわ。お母さんは放っておくと適当な食事しかしないんだもの」

 

 そう言って萌音(モネ)と呼ばれた少女が歳相応に見える仕草で頬を膨らませる。

 喋り方は大人びているのに、声と仕草は子供のものだ。

 なんともアンバランスな印象のある女の子、それが萌音(モネ)であった。

 対する母親の方は名を浦波 遥という。彼女は任せて、とばかりに胸を張った。

 

「ふふ。大丈夫よ。萌音(モネ)ちゃんがいない間、食事できる色鳥町のお店だって調べてあるんだから」

 

 えっへん、と言いたげな遥はノートPADを取り出し画面を示して見せる。

 その内容に萌音(モネ)は顔をしかめた。

 

「なによこれ……。モフドナルドに竹屋にラーメン太郎に黒木屋、養生の滝、島貴族……。あと市内各所のコンビニって……」

「だ、ダメだったかしら……?」

 

 遥の言に萌音(モネ)は深いため息をついた。

 母が調べていたのはどれもが名だたるファーストフードチェーン店に居酒屋である。毎度それでは栄養が偏る事受け合いだ。これでいいと思ったその頭の中を覗いてみたい萌音(モネ)であった。

 まぁ、毎食ビタミン剤とカロリーブロックと言い出さなかっただけマシなのかもしれない。

 

「いいわ。私がハルおば様のところでお弁当作って持ってってあげるから。毎日は無理かもしれないけどね」

 

 そんな提案に遥の顔はパッと輝いた。

 

「やったわ! 色鳥町でも萌音(モネ)ちゃんのご飯が食べられるなら言う事なしよ!」

「褒めても晩酌のビールは増やさないわよ?」

「くっ!?」

 

 遥は悔しそうに拳を握る。

 どうやら狙いを看破されたらしい。

 

「せ、せめて缶ビール五本までは……」

「三本まで」

「あのー……では間をとって四本という事では……」

「三本」

「す、少しは譲歩していただけると当方と致しましてもー……」

「ダメ。三本」

 

 頑として譲らない少女に母は再び悔しさで拳を握る。

 

「お弁当作る時に何かよさそうなおつまみも作ってあげるから」

「ならよし!」

 

 今度はガッツポーズで拳を握る遥である。

 これなら戦果としては上々だ。

 そんな母娘の心温まる(?)会話を車内アナウンスが遮った。

 

『間もなくー、色鳥駅ー。色鳥駅ー。お降りの際はお忘れ物のないよう……なんだ、あれ?』

 

 普段とは違うアナウンスに車内の誰もが怪訝な顔をしていた。

 一体車掌は何を見たのだろうか。

 萌音(モネ)は靴のまま再び座席に膝立ちになると窓にほっぺたをくっつけて外を覗き込む。

 だが、それでは状況がよくわからない。

 萌音(モネ)は窓を開けると、アドベンチャーハットが風に飛ばされないよう手で押さえながら窓の外へ顔を出した。

 危険なのでよい子は真似してはいけない。

 だがそんな事を言っている場合でもなかった。

 遙か前方ではあるが、単線の線路の上をこちらに向かって走ってくる電車がいるではないか。

 それはドス黒い車体をしており、車両先端にはギョロリとした一つ目がついていた。

 萌音(モネ)と遥にはその正体に心当たりがある。

 

「セルリアンだわ……」

 

 セルリアンの電車、略して『デンシャリアン』は萌音(モネ)達の乗る電車の前方から物凄い勢いで迫って来ていた。

 つまり、このまま行けばデンシャリアンと正面衝突だ。大惨事は免れない。

 まだ遠くに見えるデンシャリアンではあるが、お互いに近づいている電車同士だ。

 おそらく衝突までに約三分程度しか時間は残されていない。

 この事態に萌音(モネ)の表情がスッと真剣なものに変わる。

 そして座席から通路に降り立つと言った。

 

「ごめんね、お母さん。私先に行くわ。お仕事頑張って」

「待ちなさい。忘れ物よ」

 

 遥は萌音(モネ)へ彼女の背丈の半分はあろうかというギターケースを渡す。

 ナイロンで覆われた黒いセミハードのギターケースを見て「そうだった」と萌音(モネ)も思い出す。

 そうとも。

 セルリアンが来た以上戦わなくてはならない。

 浦波 萌音(モネ)。彼女は守護者の一人なのだから。

 そして、このギターケースの中には彼女の武器が入っているのだ。

 

「ありがとう。お母さん」

「あ……それと……」

 

 遥は心配そうな視線を娘に向けた。

 萌音(モネ)には遥が何を言いたいのか分からなくもない。

 

「分かってるわ。私は守護者の中ではスペックは高くない。だから無理はするな、でしょう?」

 

 だから、言いづらそうにしている遥に代わって萌音(モネ)自らが言い当てて見せる。

 

「大丈夫大丈夫。無理はしないわ。あのセルリアンを倒すだけだもの。1分30秒もいらないわ」

 

 やけに具体的な数字を言うと萌音(モネ)はヒョイと窓の外へ身を躍らせる。

 そのまま窓枠を掴み、逆上がりの要領で電車の屋根へと飛び移った。

 重ねて言うがよい子は絶対に真似しちゃいけない。

 

「さて。見た感じはイケそうだし、まずは片づけないといけないわね」

 

 萌音(モネ)は電車の屋根で風を浴びつつ前方から迫り来るデンシャリアンをキッと睨む。

 そして、大きく息を吸うと……

 

「浦波流ッ!!! サンドスター・コンバットォッ!!!!!!!!」 

 

 一声吠えた!

 と同時、電車の屋根の上を先頭へ向かって駆け抜ける!

 どんどんと近づいて来るデンシャリアン。

 運転手が急ブレーキを掛けるが無駄である。

 何故ならデンシャリアンはこちらが停まろうともお構いなしに突っ込んでくるのだから。

 このままでは正面衝突は避けられない。

 

「そうはさせないわ」

 

 萌音(モネ)は急ブレーキで後ろへ身体が引っ張られる前に一度目の跳躍。

 背負ったギターケースを開けるとその中に手を突っ込んだ。

 そして再び電車の屋根へ着地。と同時、制動のかかった電車が今度は前へと乗せた全てを放り投げる。

 当然萌音(モネ)も前へ放り出されるが、その勢いを利用して二度目の跳躍!

 ギターケースから中身を一息に引き抜いた。

 中身はエレキギターだ。ギターケースに入っているのだから当然だけれど。

 Vの字を二つ上下逆さまに重ねたデザインのそれを空中でくるくると回す。

 

―パシリ。

 

 ネック側を両手で握って萌音(モネ)はエレキギターを逆さまに構えると、その武器の名を高らかに叫ぶ。

 

「バチバチッ!! ダブルッ!!! ブイッ!!!!」

 

 萌音(モネ)の叫びに呼応するようにエレキギター『バチバチ・ダブルV』がサンドスターのスパークを放つ。

 とうとう車両先端へ辿り着いた彼女は三度目の跳躍を果たし、デンシャリアンへと突撃した!

 

「It's……!!」

 

 萌音(モネ)は逆向きに持ったエレキギター『バチバチ・ダブルV』を大きく振りかぶると……

 

「Rock 'n' Roll タァアアアアアアイムッ!!」

 

 デンシャリアン目掛けて振り下ろした!

 

―パッカァアアアアン!

 

 ドス黒い車体は一撃でサンドスターの輝きを撒き散らし霧散する。

 先程まで正面衝突の危機にあったというのがまるで嘘のようだ。

 萌音(モネ)はそのままさっきまでデンシャリアンがいた線路の上へと降り立つ。

 

―キィキィキィ……

 

 車輪の軋んだ音を立てながら急ブレーキがかかった電車はのんびりのんびりと萌音(モネ)の元までやって来て完全に停止した。

 と、先頭車両の運転席にいた運転手が驚きで目を丸くしたままこちらを見ているではないか。

 しばらく考えた萌音(モネ)だったが、ニマリと笑ってエレキギターを肩に担ぐとこう言った。

 

「私は通りすがりの正義の味方。色鳥町ではそういう風に言うんでしょう? そういう事にしておいてくれるかしら」

 

 

の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の

 

 

 喫茶店『two-Moe』は今日も春香と萌絵とともえとイエイヌ、その四人が働いていた。

 夏休みという事もあっておうちのお手伝いに忙しい遠坂三姉妹である。

 今はちょうど昼時も終わって客足も途切れたところだ。

 仕事が一段落したところを見計らって、春香がパン! と手を鳴らし注目を集める。

 

「みんな聞いて。実はね、萌音(モネ)ちゃんが遊びに来る事になりました」

 

 イエイヌは聞き慣れない名前に?マークを浮かべる。

 だがともえと萌絵の二人は反応が違った。

 

「え!? 萌音(モネ)姉ちゃん来るの!」

「うわぁ! 萌音(モネ)姉さんに会うの久しぶりだねぇ。元気にしてたかなぁ?」

 

 どうやらともえと萌絵の二人は萌音(モネ)という人物を知っているらしい。

 

「えっとね、萌音(モネ)姉さんは隣県の八百万(はちはくまん)市ってところに住んでる高校二年生なの」

「イエイヌちゃんは会うの初めてだよね。えっとね、萌音(モネ)姉ちゃんは親戚なの。いつも夏休みに遊びに来てくれるんだよ」

 

 親戚、と聞いてイエイヌも思い出した。

 ルリやアムールトラと似た様な関係のヒトなのであろう、と。

 ともえと萌絵は嬉しそうにしているのだから心配するような事は何もないのだろう。

 イエイヌはそう考えて、あとは成り行きに任せる事にした。

 まだ春香とともえと萌絵の三人はワイワイとやって来る萌音(モネ)の事で盛り上がっている。

 

―カランカラン。

 

 だから来客を告げるドア鈴が鳴るのに一番早く気が付いたのもイエイヌだった。

 

「いらっしゃいませ。一名様でしょうか? お席の方にご案内しますね」

 

 もうすっかり接客にも慣れたイエイヌだ。

 イエイヌよりも背が少しばかり低い女の子のお客様だったので少しだけ膝を折るようにして目線を合わせてご挨拶。

 完璧な挨拶だったはずなのだが、女の子はイエイヌの方を見て固まっている。

 何か問題があっただろうか。

 席の方へ案内しようと振り返っていたイエイヌだったが、もう一度女の子の方へ向き直った。

 女の子はまん丸の瞳をキラキラと輝かせ、イエイヌの耳と尻尾を見つめている。

 そんな反応に戸惑ったイエイヌはもう一度女の子と視線を合わせた。

 

「ええとー……」

 

 さて、なんと声を掛けたらいいかイエイヌが戸惑っていると、さらに困惑するような出来事が彼女を襲った。

 なんと目の前の女の子がイエイヌに抱き着いて来たのだ。

 

「わひゃぁっ!?」

 

 思わず変な声が出てしまったイエイヌであったが、女の子の方はお構いなしに抱き着いた感触を楽しんでいるようだった。

 

「あぁー……これが噂のイエイヌちゃんね……。うん、いいわ。実にいいモフモフぶりだわ」

 

 なんだかその言動にイエイヌは既視感(デジャヴ)を覚える。

 そうだ。

 これはいつもともえと萌絵がしてくるのにそっくりなのだ。

 それに思い当たったイエイヌの脳裏には「もしかして?」という思いが沸き上がる。

 

「あの……萌音(モネ)さん……ですか?」

「おおお! すごい! この子かしこいわね! そうなの! 私が萌音(モネ)よ!」

 

 相変わらずイエイヌをモフったままの萌音(モネ)である。

 

「でしょう? 自慢のイエイヌちゃんだもん」

 

 さすがにこの大騒ぎなら気づかないはずがない。

 ともえも萌絵も春香もやって来た。

 

「久しぶりね! マイシスター達っ!」

 

 イエイヌを放すと今度はともえ達に抱き着いてくる萌音(モネ)

 もうすっかり慣れっこなのか、ともえは萌音(モネ)を受け止めるとぐるぐる回転してから降ろした。

 よいしょ、と降ろすと萌音(モネ)は最初上機嫌だったが、次第に怪訝な表情になっていく。

 おや? 何か問題だろうか?

 イエイヌはそう思って成り行きを見守る。

 すると萌音(モネ)はもう一度ともえに近づき、被っていた帽子を脱ぐと右手を自身の頭頂部に乗せた。

 そのままくるり、と手首のみを半回転。

 そうするとまるでともえの額にチョップするようになってしまう。

 イエイヌはその成り行きをハラハラして見守っていた。これは一触即発の雰囲気ではないだろうか。

 

―ガクリ

 

 だがしかし、何と膝をついたのは攻撃を仕掛けた萌音(モネ)の方だった。

 

「身長が……! 身長が抜かされてるわ……!?」

 

 どうやらさっきのチョップは背比べだったらしい。

 ともえももう慣れっこなのか膝をついた萌音(モネ)の頭を撫でている。

 

萌音(モネ)姉ちゃんドンマイ。背の高さで負けても萌音(モネ)姉ちゃんは姉ちゃんだから……ね?」

「でもでもっ! 姉より背が高い妹なんて存在しないのよっ……!」

 

 そうして落ち込んでみせる萌音(モネ)だったが、バッと顔をあげると今度は萌絵の方に駆け寄った。

 そしてさっきと同じ要領で萌絵と背比べである。

 結果……。

 

「も、萌絵ちゃんにも身長抜かされてるわっ!?」

 

 再び萌音(モネ)は膝をつく事になった。

 盛大に落ち込んでみせる萌音(モネ)だったが、実は同じやり取りを去年もした。

 去年の時点で二人とも萌音(モネ)の身長を抜かしてしまっていたのだ。

 

「あらあら。でも私は萌音(モネ)ちゃんと同じくらいだから気にしないでいいのよ」

「うっうっ……ハルおば様だけだわ……変わらず私の妹でいてくれるのは……」

 

 ちなみに、春香も低身長である。

 むしろ育ちざかりなともえと萌絵に比べたら背が低いのではないかと思える程だ。

 そんなわけで身長で言うならイエイヌ、次いでともえと萌絵、そして春香と萌音(モネ)という順番になる。

 だが……。

 

「大丈夫よ。萌音(モネ)ちゃん。去年決めたでしょう? 萌音(モネ)ちゃんは高校生になったから特別ルールを採用していいのよ」

「はっ!?!? そ、そうだったわ!」

 

 見守るイエイヌとしては、特別ルールって何だろう? と思わずにはいられなかった。

 果たしてその正体はすぐにわかった。

 萌音(モネ)が再びともえの所に駆け寄ると、見事なつま先立ちを披露してみせた。

 当然、その分見た目の身長は伸びる。

 

「(せ、背伸びしてるぅうううう!?!?)」

 

 イエイヌはかろうじてツッコミの声を抑える事に成功した。

 これはいいんだろうか、と戸惑いの方が大きい。

 そんなイエイヌを余所に、萌音(モネ)はともえとの再戦に勝利すると、次いでバレエダンサーもかくやというつま先立ち歩きでもって萌絵のもとへ移動。そのまま萌絵との背比べにも勝利した。

 

「やったね、萌音(モネ)姉ちゃん!」

「そうだよっ! これでお姉ちゃんの威厳は守れたねっ!」

「うん! ありがとう妹達っ!」

 

 ともえと萌絵と萌音(モネ)の三人が寄り集まって全く同じ動きでガッツポーズしてる辺り、この特別ルールでいいのだろう。

 ひとしきり三人で喜んだ後に、萌音(モネ)はギラリとイエイヌの方に目を向けた。

 まさか……。

 イエイヌはこの後の展開を予想していたが、そのまさかだった。

 

「さあ、ラスボス戦といきましょうっ!」

 

 てててて、と今度はつま先立ち歩きでイエイヌのところまでやってくると、やはり萌音(モネ)は同じ要領で背比べを仕掛けて来た。

 さすがにイエイヌはともえ達と背の高さでは大差がない。

 背伸びまで駆使してくる萌音(モネ)には敵わなかった。

 

「やった! これでイエイヌちゃんも私の妹になるわねっ!」

 

 そうなのか、とイエイヌは若干の戸惑いを覚える。

 まぁ、ともえと萌絵とお揃いなわけだからそれでもいいか。そう考えたイエイヌはコクリと頷き返事した。

 

「はい。では萌音(モネ)さんもお姉さん、という事ですね」

萌音(モネ)お姉ちゃん、とか萌音(モネ)姉さんとか、萌音(モネ)姉ちゃんとかそんな感じで呼んでくれていいのよっ」

 

 そう言われても困ってしまうイエイヌだ。

 しばらく考えた後にイエイヌは結論を出した。

 

「では、萌音(モネ)お姉さん……という事でどうでしょう?」

「もちろん構わないわ! マイシスターッ!!」

 

 再び抱き着いて来た萌音(モネ)を受け止めるイエイヌ。

 当然その後は再びモフモフタイムである。

 

「あー! ずるい、萌音(モネ)姉ちゃん!」

「せっかくだからアタシもイエイヌちゃん成分を補給しておこうかなぁ」

「私もご相伴に与ろうかしら」

 

 そうなると、ともえと萌絵と春香まで加わって四方からのモフモフストームになってしまった。

 もうイエイヌは半分ほど諦めた表情でそれを受け入れる。

 イヤなわけではないし、こうして撫でられるのは嬉しくもあるのだけれど、あまり沢山されると疲れてしまう。

 そこに助け船が入った。

 

「オオ。萌音(モネ)。速かったんだナ。てっきりもっと到着が遅れるかと思ったゾ」

 

 それはラモリさんだった。

 

「あ、ラモリさん久しぶりね。相変わらず小さいけど、私はそういうの気にしないわよ。ラモリさんも妹って事にしておいてあげるわね」

「イヤ……。まぁどこからツッコんでいいやらわからんゾ……」

 

 さすがにラモリさんの背丈には萌音(モネ)でも余裕で勝てる。

 だが、問題はそこではない。

 春香も疑問に思ったのか、ラモリさんに訊ねた。

 

「ねえ、到着が遅れるって何かあったの?」

「ああ。ちょうど萌音(モネ)達が乗って来る予定だった電車がトラブルで遅延したんダ。いま、ようやく運航再開したらしいゾ」

 

 ラモリさんがテレビを点けると、そこには確かに電車が何らかのトラブルで遅延しているというニュースが流れていた。

 電車が急ブレーキを掛けたけれど、幸いな事に怪我人は出ずに済んだらしい。

 

「ふぅん? 一体何があったんだろうね……」

 

 何とはなしにテレビを見ていたともえだったが、萌音(モネ)の続く一言で驚かされる事になった。

 

「ああ、それはセルリアンの仕業なのよ」

「「「えぇえええええ!?」」」

 

 ともえと萌絵とイエイヌの三人が驚愕の声をあげる。

 セルリアンの仕業だというならこうしている場合ではない。急いで色鳥駅に駆けつけないと。

 慌てるともえ達に萌音(モネ)が宥めるように言った。

 

「安心して。もうセルリアンは退治してきたから」

「「「えぇえええええっ!?!?」」」

 

 再び驚愕の声をあげるハメになったともえと萌絵とイエイヌである。

 まず、萌音(モネ)がセルリアンの事を知っているのも驚きだったが、それを倒したというのがもっと驚くべき事だった。

 去年遊びに来た時もその前だってセルリアンのセの字も出さなかったのに。

 そこを解説すべく、春香が萌音(モネ)の両肩に手を置いてともえ達の方へ向かせつつ言った。

 

萌音(モネ)ちゃんの家も代々守護者を務めてるの。去年はクロスシンフォニーのお手伝いだってしてくれてたのよ」

 

 まさかこの精神的にも物理的にも背伸びした少女がそんな秘密を隠していたとは。去年は夏休みを一緒に過ごしたというのに、ともえも萌絵も全然気が付かなかった。

 

「すごいよ萌音(モネ)姉ちゃん! まさかそんな事になってたなんて!」

 

 思わぬ秘密にともえは興奮を隠せない。

 

「すごいのはともえちゃん達の方よ。聞いたわ、クロスハートとクロスナイト。大活躍じゃない」

 

 そうやって萌音(モネ)に褒められると、ともえと萌絵とイエイヌ三人揃って同じ動きで後ろ頭を掻きつつ照れてしまう。

 しかしこうして、この時期に萌音(モネ)がやって来たという事は……? 萌絵は思い浮かんだ疑問を口にする。

 

「ねえ、萌音(モネ)姉さん。もしかして今回もセルリアン絡みでこっちに来たの?」

「お、さすが萌絵ちゃんね。ご明察よ。私とお母さんはそれぞれ色鳥町に仕事があって来たの」

 

 萌音(モネ)の仕事とは一体……?

 そうして小首を傾げるともえと萌絵とイエイヌの三人。

 そこに春香がラモリさんをカウンターテーブルに乗せると解説を始めた。

 

「じゃあ、ラモリさん。解説をよろしくね」

「オウ」

 

 ラモリさんはお腹のレンズにつけられたホログラム投影機を起動。

 色鳥町の地図を映し出す。

 

「色鳥町は昔からセルリアンが発生しやすい土地なんダ。何故なら……」

 

 色鳥町の地図に細かい線がいくつもいくつも引かれる。

 それらは町の東西南北それぞれでいくつも交差し大きな池のようになっていた。

 

「これは色鳥町に走るサンドスターの地脈ダ。この地脈のおかげで色鳥町は豊かな土地になってイル。が、同時にセルリアンの発生率も高くなっているんダ」

「そう。その上先日一時的にでも『ヨルリアン』の支配領域になっちゃった後遺症で、ますますセルリアン発生率が高くなっちゃってるの」

 

 その後を春香が引き継いだ。

 

「で、八百万(はちはくまん)市の守護者してる萌音(モネ)ちゃんが手伝いに来てくれたってわけなのよ」

 

 春香の解説に、えっへんと胸を張って見せる萌音(モネ)である。

 

「ルカちゃんも昔は修業を兼ねてこっちの学校に通ってたのよね」

 

 頬に手をあて春香は昔を懐かしむ。

 けれどルカって誰だろう?

 イエイヌはまたも聞きなれない名前が出て来て疑問の顔になった。

 

「ああ、ルカちゃんっていうのは私のお母さんよ。浦波 遥。ハルおば様と名前の音が一緒でしょ? だからハルおば様とルカってわけ」

「懐かしいわー。どっちがハルになるか勝負したのよねー」

 

 萌音(モネ)の解説にまたまた春香が楽しそうに昔を懐かしむ。

 

「うふふ。腕相撲勝負にまさかパワーアシストマシーンを作ってくるとは思わなかったわー」

「でも勝ったのはハルおば様だったのよ」

「でもって私がハル希望で、ルカちゃんがルカ希望だったのよねー」

「それ聞いた時は勝負の必要なかったじゃない! ってツッコんだわ」

 

 言って、萌音(モネ)と春香二人して「「ねー」」と声を揃える。

 ただ、その問題のルカちゃん事、遥はどこにいるのだろう?

 

「ああ、お母さんも別な仕事があるの。そっちで泊まり込みになるからこっちには泊まらないわ。後で挨拶には来ると思うけどね」

 

 萌音(モネ)の説明によると、どうやら二人はそれぞれ別な目的があって色鳥町にやって来たという事か。

 

「というわけで、私はこっちでの仕事が終わるまで皆のところに泊めてもらうからよろしくね」

 

 ようやくイエイヌは悟った。

 どうやらただでさえ賑やかな遠坂家がしばらくの間、さらに賑やか度マックスになるという事を。

 

「さぁ! そうと決まったらお世話になる分ちゃーんと働かないといけないわね!」

 

 萌音(モネ)はバビューン、と擬音を残しつつ更衣室へ飛んでいくと、ポイポイ着ていたベストやデニムスカートを脱いでいった。

 そして戻って来た時には『two-Moe』のメイドさん風制服になっている。

 くるくる回りながら戻って来た萌音(モネ)はビシっとポーズを決めるとあらためて宣言する。

 

「浦波 萌音(モネ)。ちょっとの間お世話になるからよろしく頼むわね!」

 




 【後書き】

 さて、今回から始める第4章ではえひたさとしひや様よりキャラクター原案をお借りしています。
 https://twitter.com/Ehitasa104hi8
 キャラクターをお貸しいただいたえひたさとしひや様ありがとうございます!

『浦波 遥』
 原案 https://twitter.com/Ehitasa104hi8/status/1273619892160221184

『浦波 萌音』
 原案 https://twitter.com/Ehitasa104hi8/status/1320335740249600000

 こちらの二人が今回えひたさとしひや様よりお借りしたキャラクターになります。
 クロスハート用に苗字をはじめ色々と原案とは設定部分に変更があったりなかったりします。
 原案との違いも楽しんでいただければ嬉しい限りです。
 今回のプロローグは自分の中でちゃんとキャラクターが動かせるかどうかの試運転を兼ねています。
 書いてみた結果、きちんと動かせそうな手応えがありました。
 第4章のストーリーなどなどもこれから詰めていこうかと思います。
 クロスハート第4章もお楽しみにいましばらくお待ちいただければ幸いです。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。