けものフレンズRクロスハート   作:土玉満

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第26話『ツインプリンセス』②

 

 一方その頃。

 萌絵とプーの二人は『two-Moe』への道をテクテクと歩いていた。

 

「プーちゃん、ありがとねぇ。荷物持ちまで手伝って貰っちゃって」

「別にいいわよ。案内のお礼って事で」

 

 二人の手には萌絵が『Bard-OFF』で買って来た色々なパーツが抱えられていた。

 

「それにしても、こんなもの何に使うの?」

 

 プーから見たら、それはガラクタのように見える。

 こんなものが一体何の役に立つのかわからない。

 そんな疑問に萌絵は物凄く意外そうな顔をする。

 

「えぇー!? このドリルブレードとかすっごいイイ感じじゃない!? 理想の形してるよっ!?」

「ごめん……。ドリルの良し悪しなんて分からないわ」

 

 プーはゲンナリしていた。

 ちょっと変わった子を捕まえちゃったかもしれないとほんのちょっぴり後悔もしたけれど、彼女の目的にはこのくらいの方がいいのかもしれない。

 そんな反応をするプーに萌絵は頬を膨らませて見せる。

 

「だいたいプーちゃんこそあんな所で何してたの?」

 

 『Bard-OFF』はやはり女の子向けの店ではない。

 工具や機械に興味がない子にはあまり縁のない場所なのだ。それ以外の人には入店すら憚られる雰囲気すらある。

 それなのに、プーは単身そんな店にやって来ていた。観光するなら他にいくらでも場所はあるだろうに。

 

「ええとね。しゃちょ……じゃなかった。バイト先でお世話になってる人が昔に通ってた店なんだって。一回見てみたかったの」

 

 プーに『Bard-OFF』の事を話したのは遥である。

 若かりし日の遥も色々と工作する事があったので『Bard-OFF』は御用達の店であった。

 だが、萌絵は別な事に食いつくと、プーに顔を近づけて訊ねる。

 

「ねえねえ! プーちゃんもアルバイトしてるの!? なになに!? どんなお仕事!?」

 

 おうちの手伝いとはいえ萌絵もアルバイトはしているので、そこに興味はあった。

 

「あー……ええと……せ、接客業……かしら?」

 

 まさか「アイドルやってます」とは答えられないプーである。

 一応ギリギリ嘘ではないが真実でもない答えでお茶を濁す。

 これ以上話しているとボロが出そうだから話題を変えよう。

 

「ところで、萌絵はどこに案内してくれるのかしら?」

「へへー。アタシのバイト先ッ」

 

 えっへん、と言いたげに萌絵は胸を逸らして見せる。

 腕の中のジャンクパーツ達がガチャリと鳴って危うくバランスを崩しかけた。

 慌ててパーツを落とさないようにバランスを取り、危ういところで難を逃れる。

 

「あ、危なかったぁ……。プーちゃんが手伝ってくれてなかったら、せっかくのパーツを落っことしてたかも」

 

 萌絵は胸を撫で下ろしつつ言う。

 

「ふふ。どういたしまして」

 

 そんな様子にプーは自然と笑みがこぼれた。

 

「ところで、萌絵のバイト先に行くんでしょ? もしかして萌絵が接客してくれたりするの? どんなところ?」

「それはねぇ、もう着くから見た方が早いよ」

 

 萌絵が言う通り、話しながら歩いているうちに『two-Moe』へと辿り着いていた。

 そこは二階建ての喫茶店だ。

 おそらく、二階部分が住居スペースになっていて家族経営のお店なのだろう。

 犬を模した意匠がグルリと尻尾で囲むようにした看板には『two-Moe』の文字が躍る。

 

「(外装はいい感じね)」

 

 プーは第一印象をそう評価した。

 アットホームな暖かみが感じられる店先だ。

 

「(中はどうかしら?)」

 

 とはいえ、二人とも結構な大荷物を抱えているのでドアが開けられない。

 

「ただいまぁー! ごめーん、荷物があるからドア開けてもらっていいかなぁー!」

 

 萌絵がドアの向こうに声をかける。

 すると、カランカランというドア鈴の鳴る音と共に二人のフレンズが姿を現した。

 何故かメイドさん風の格好だったが。

 

「あぁー、おかえり萌絵ちゃんっ! 何買って来たの!? お菓子かなぁ!? 何かなぁ!?」

「パフィンちゃん、そんなにしたら萌絵ちゃんが困っちゃうよ。でもでもエトピリカも何買って来たのか気になるなぁ」

 

 出て来た小さな鳥のフレンズ二人は萌絵にわちゃわちゃと纏わりつく。

 

「ごめんね、二人とも。食べ物じゃないの」

「「なぁーんだ」」

 

 明らかにガッカリという様子でパフィンとエトピリカの二人は肩を落とす。

 直後、じっと見ていたプーに気づいた。

 

「あ、もしかしてお客さん!?」

「ごめんなさい、いらっしゃいませっ!」

 

 慌てて二人して営業スマイルだ。

 そのまま、萌絵とプーが抱えていた荷物を分けっこしながら店内へ案内するパフィンとエトピリカ。

 何とも可愛らしいメイドさんだ、とプーはその背中を微笑ましく追う。

 

「あら、いらっしゃいませ。お帰りなさい、萌絵ちゃん」

 

 これまた小さな黒髪の女の子がメイドさん風の制服でお出迎えしてくれた。

 さらにカウンターの中では格好イイという形容詞がピッタリなオオアリクイのフレンズがコーヒーを淹れている。

 萌絵はといえば小さな女の子の方に声をかけていた。

 

「ただいま、お母さん。こっちはプーちゃん。さっき『Bard-OFF』で友達になったの」

「あら、そうなの」

「そうそう。荷物持ちまで手伝って貰っちゃったからお礼にお昼食べてって欲しいな、って連れて来たんだ」

「そういう事なら大歓迎よ」

 

 多分『お母さん』というのはお店でのあだ名なり何なりなのだろうとプーは思っていた。

 どう見ても自分と同い年くらいか年下に見える女の子が、それとよく似た年齢の女の子の母であるはずがない。

 見た目の割に大人っぽい雰囲気がする子ではあるが、まさかね、と思うプーである。

 だがそんな想いを余所に、その女の子はプーを席に案内しつつ言った。

 

「いらっしゃいませ。娘がお世話になりました」

「(え!? まさか本当に萌絵のお母さん!?)」

 

 内心の動揺をプーは見事に抑え込んだ。さすがアイドルである。

 

「ねえねえ、お母さん。プーちゃんはまだお昼ご飯食べてないんだって。ウチで食べてってもらってもいいよね?」

「ええ。ちょうどお昼のお客さんもひと段落したところだから、パフィンちゃんとエトピリカちゃんのお昼休憩にしようと思ってたの。二人も一緒に食べて行って」

 

 プーが驚いている間に、あれよあれよと状況は動いていた。

 パフィンとエトピリカが「待ってました!」とばかりに次々テーブルに料理を運んで来る。

 プーはその量に唖然としてしまった。

 まず、大皿パスタにチーズピザ。それにオムライスとポテトサラダ。まだまだ終わらないとばかりにコーンスープがやって来る。

 どれも大皿で出て来て取り分けて食べられるようだが、女の子4人で相手どるには荷が勝ちすぎる。

 が……。

 

「はい、プーちゃん。早く食べないとなくなっちゃうから」

 

 萌絵はそんな信じられない事を言いつつ、プーの分を取り皿によそう。

 なくなるって……なにが?と、プーが戸惑っているうちに、料理を運び終わったパフィンとエトピリカが二人並んでテーブルに付く。

 二人ともキラキラした目で料理の山を見ている。

 

「「じゃあ、いっただっきまーす!」」

 

 パフィンとエトピリカが宣戦布告と共に揃って両手を打ち鳴らす。

 二人で仲良くそれぞれの取り皿に料理をよそうと、猛然と食べ始めた。

 

「やっぱり春香さんのご飯美味しいよねぇ」

「そうだねぇ。ここのバイトでよかったよねぇ」

 

 二人がそんな事を言いつつ手と口を動かしているうちに、どんどん山が平らになっていく。

 

「ほらほら、プーちゃんも食べて食べて。じゃないとお昼食べそびれちゃうから」

 

 すっかりパフィンとエトピリカの二人に目が釘付けになってしまっていたプーである。

 萌絵に言われてようやくプーも我に返った。

 早速取り皿によそわれたパスタを一口食べてみる。

 

「(あ、ほんとだ。美味しい)」

 

 ミートソースを存分に絡められたパスタに、トロトロチーズのピザ。

 オムライスはとろりと半熟卵がかかって、チキンライスと一緒に食べるとそれだけで口の中が幸せだ。

 なるほど、これはついつい食が進む。

 しかも目の前に食いしん坊二人がいるからなおさらだ。

 

「はっ!?!?」

 

 プーが再び我に返った時、あれだけあった料理の山は全て四人に平らげられていた。

 まぁ、主な功労者はパフィンとエトピリカであるが。

 

「ついつい食べ過ぎちゃったわ。ご馳走様」

 

 プーもあらためて空になったお皿に両手を合わせる。

 一応アイドルだけあって、食事の総カロリーなんかにも気をつかってはいるのだが、今日は明らかにオーバーしている。

 後で何か運動をしないと。

 まぁ、散歩がてら色鳥町観光をすればいいか。

 

「ねえ、萌絵。どこか面白そうな観光スポットってある?」

 

 プーが訊ねてみると、萌絵はしばらく、うーん、と頭を捻る。

 意外と地元だと観光スポットに縁がなかったりもするものだ。

 やはりそれは萌絵も変わらないらしい。

 オオアリクイは四人に食後のお茶を運びつつ、話の輪に入って来た。

 

「今の時期は青龍神社の夏祭りも終わってしまったから、何かいい観光スポットと言われるとパッとは思いつかないね」

 

 だが、プーは正確に言えば観光が目的というわけでもなかった。

 

「ええと、そうね。別に観光スポットとかじゃなくてもいいの。普段萌絵達がどんなところに行くか知りたいのよ。さっき行った『Bard-OFF』みたいに」

「そういう事なら……商店街とか? 今日はともえちゃん達がお手伝いに行ってるはずだし」

 

 ともえ、という名前に聞き覚えはないけれど、商店街というのは面白そうだ。

 

「ねえねえ、そこってどんなところなの?」

「うーん? 普通だよ? 区画整理して中央市場があったり、最近ネット通販の『U-Mya-System』っていうのを導入したり、あと『グルメキャッスル』って屋台も最近名物になって来たかなぁ」

 

 プーはそれを聞いて「(普通じゃないんですけど)」と胸中で呟く。

 だが、俄然興味も沸いて来た。

 

「ねえねえ、萌絵。私、その商店街に行ってみたいわ」

「うん、いいよ。ついでだからともえちゃん達に差し入れでもしてあげようかなぁ?」

 

 今頃はともえ達も商店街のお手伝いを頑張っている頃だろう。

 ちょっと不思議な新しい友達を連れて行ったらどんな顔をするかな、なんて想像する萌絵であった。

 

 

の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の

 

 

 その頃。

 

「一体どうしたんですか? 萌音(モネ)さん」

 

 色鳥町商店街アーケード入り口前に屋台『グルメキャッスル』が出店している。

 ただ、今日はその店番がいつものオオセルザンコウやセルシコウ、マセルカではない。

 何故かいるのは、かばんとサーバルであった。

 そして、屋台前に設えらた丸椅子に座ってぐったりしているのは萌音(モネ)ではないか。

 

萌音(モネ)ちゃん、こっちに来てたんだ。疲れてるの? お水飲む?」

 

 疲れた様子を見せる萌音(モネ)にまとわり付いてサーバルは色々と世話を焼こうとしている。

 

「うっうっ、ありがとうねぇ、サーバルちゃん。お礼にサーバルちゃんはちょこーーーっとだけ私より身長高いけど妹にしてあげるわね」

 

 あれから萌音(モネ)は色鳥町を走り回ったものの、アテがあるわけでもなくプーを見つける事はできなかった。

 疲れて来たところに、何やらいい匂いがしたので屋台に立ち寄ってみたら、かばんとサーバルがいたというわけである。

 

「ところで、二人はこんなところで何をしてるの? アルバイト?」

 

 まさかこんなところで、かばんとサーバルの二人に出会うとは思っていなかった。萌音(モネ)も二人が何をしているのかが気になった。

 

「そうですね。アルバイトみたいなものです」

 

 答えつつ、かばんは青龍神社夏祭りで開発された『グルメキャッスル』特製のホットドッグを差し出す。

 カレーソースのいい匂いに思わず萌音(モネ)のお腹が鳴る。

 そういえば、お昼はまだ食べていなかった。ありがたく頂く事にしよう。

 

「おおっ! かばんちゃん、また腕を上げたねぇ」

 

 一口で分かる。かばんの料理はまた上手になった。

 トマトの酸味とハチミツで甘味を加えられたカレーソースが疲れた身体に染みる。

 確かに物凄く美味しいが、こんなところで屋台をやっている理由にはならないのではないか、と疑問を持つ萌音(モネ)

 

「実は、ここの店主さんとお友達なんですが、今日はどうしても用事があるという事でお留守番をお願いされたんですよ」

 

 かばんはその疑問に、特製ソーダを差し出しつつ答えた。

 

「まぁ、これだけ美味しくて可愛いかばんちゃんとサーバルちゃんがいるんだったら人気店になるわね」

 

 萌音(モネ)は言いつつ残ったホットドッグを平らげて、特製ソーダで一息入れる。

 かばんと萌音(モネ)は昔一緒にセルリアンと戦った戦友だったりする。

 まだ、かばんがクロスシンフォニーに成りたてだった頃に手伝って貰ったりしたのだ。

 だから、萌音(モネ)が何かに困っているようであれば、手助けはしたい。

 それはサーバルも同じ気持ちだったようで、一息ついた萌音(モネ)に早速色々と訊ねていた。

 

「ねえねえ萌音(モネ)ちゃん、もしかしてセルリアンを追っかけてたとか? 私も手伝うよ? 何したらいい?」

「あはは、大丈夫大丈夫。セルリアン絡みってわけじゃないから」

 

 サーバルの勢いに押される事なく、萌音(モネ)は余裕をもって答える。

 今、萌音(モネ)がやっているのはPPP(ペパプ)メンバーの一人、プリンセスことプーを探し出す事だ。

 かばんとサーバルの二人ならば、事情を話しても協力してくれるだろうが、そうできない理由も萌音(モネ)にはあった。

 

「それより二人とも。明日の夜って予定空いてる?」

 

 萌音(モネ)が突然話題を変えるものだから、かばんもサーバルも二人して顔を見合わせたものの、素直に頷く。

 

「ならさ、はい、これ。他のクロスシンフォニーチームの皆にも」

 

 言いつつ萌音(モネ)が差し出したのは明日の夜に控えたPPP(ペパプ)ライブのチケットだ。

 急遽開催される事になったにも関わらず、PPP(ペパプ)ライブのチケットはあっという間に完売していた。それを六人分も持っているだなんて。

 驚きで目を丸くするかばんとサーバルに萌音(モネ)は得意満面だ。えっへん、と言いたげに胸を逸らしてすらいる。

 これが、萌音(モネ)が積極的にかばんとサーバルに協力を頼めない理由であった。

 萌音(モネ)はつい先日起こったヨルリアン事件を聞いていた。だから、かばんも勿論そうだが、ともえ達も労いたいと考えていたのだ。

 そこでPPP(ペパプ)ライブである。

 関係者である萌音(モネ)にとってライブチケットを確保するのはそこまで難しくない。

 今回くらいはともえ達にもかばん達にもセルリアンの事は忘れてゆっくりしてライブを楽しんで欲しかった。なので、もちろんともえ達の分だってライブチケットを準備している。

 その為にも、プーを無事に見つけ出さないといけない。

 

「じゃあ、かばんちゃん。サーバルちゃん、また後でね」

 

 言いつつ、萌音(モネ)は再び靴に仕込まれたインラインスケートを出すと駆け出して行った。

 呆気にとられてかばん達が反応出来ないでいるうちに、萌音(モネ)の姿はあっという間に街へと消える。

 

「あれ? さっき萌音(モネ)姉ちゃんが来てなかった?」

 

 それと入れ違いになるようにやって来たのは、イエイヌを伴ったともえであった。

 ともえとイエイヌは、配達のお手伝い中である。

 『U-Mya-System』を利用した配達サービスは中々好評なようで、今日も商店街は大忙しだ。

 今日はオオセルザンコウとセルシコウとマセルカのセルリアンフレンズ三人組が揃ってお休みの為、ともえ達が来てくれて大助かりの商店街だった。

 

「それにしても、三人揃ってお休みなんて風邪とかじゃなければいいですが」

 

 心配そうにしているイエイヌだったが、病気になったわけではない事は連絡を貰った時に聞いていた。

 どうしても外せない用事がある、と言っていたがセルリアン絡みだろうか。

 

「だったら私達にも手伝ってーって言ってくれたらいくらでも手伝っちゃうのに!」

 

 サーバルはそう言って頬っぺたを膨らませてもいた。

 そんなサーバルの頬っぺたをともえが突く。

 

「まぁまぁ。オオセルザンコウちゃん達だったら何かあったら連絡してくれるよ」

「それもそうかっ! じゃあ私達はグルメキャッスル頑張ってればいいんだね!」

「そうだよっ!」

 

 言ってともえとサーバルはイェーイ、とハイタッチ。

 

「じゃあ早速、今日の日替わりともえスペシャルを……」

「はい。ともえちゃんは私と一緒に配達ですよー」

「ぁあああああっ……」

 

 腕まくりして屋台に入ろうとしたともえをイエイヌが捕まえた。

 そのままズルズルと引っ張っていく。

 まだまだ配達する物は沢山あるので油を売っている場合でもない。

 イエイヌがともえを引っ張って退場していくと、これまた入れ違いになるようにやって来たのは萌絵だった。

 傍らに、大きな眼鏡をかけて帽子を被ったフレンズを一人連れている。

 かばんには、そのフレンズに見覚えがなかった。大きな帽子でフレンズの特徴を隠しているから何のフレンズなのかすらわからない。

 萌絵の友達だろうか。

 そう思っていると、萌絵の方が口を開いた。

 

「あれ? さっき、ともえちゃんが来てなかった?」

 

 やはりこういうところは双子か。

 つい今しがた似た様な会話をした記憶があるかばんである。

 

「はい。ともえさんも来てましたが、萌音(モネ)さんも来てましたよ。こんな物を置いていったのですが……」

 

 言いつつ、かばんはさっき萌音(モネ)に渡されたPPP(ペパプ)ライブのチケットを見せる。萌絵なら何か知っているかもしれない、と。

 

「わぁ。これ、あっという間に売り切れになったのにスゴイねえ。じゃあ、さっき萌音(モネ)姉さんから来たメールってこれの件かなぁ」

 

 言いつつ、萌絵は自分の携帯電話を取り出す。

 そこには萌音(モネ)からのメールで『明日の夜あけておいてね』とだけ記されていた。

 

萌音(モネ)さんのサプライズって事でしょうか」

「かもね」

 

 じゃあ、ここはあまり広めないようにしようか。かばんと萌絵は二人してお互いの口元に人差し指を立てて内緒ね、のポーズで笑い合う。

 が、プーは若干居心地の悪そうな顔をしていた。

 なんせ、PPP(ペパプ)ライブの主役、その一人が彼女なのだから。

 そんなプーに早速サーバルが絡んでいた。

 

「ねえねえ、こんにちわ! 私サーバル! あなたは?」

「あ、ええと、私はプー。みんなそう呼んでるわ」

 

 まとわりつかれて、プーは戸惑っているようだったが別にイヤというわけでもない。

 萌絵が「さっき友達になったの」と教えると、サーバルは「いいないいなー!」と羨ましそうにしている。

 ここは話題を変えねば、と思ったプーは屋台に目を付ける。

 

「もしかして、あなたはここの店員さんなのかしら?」

「うん! そうだよっ。今日はオオセルザンコウ達のかわりにお手伝いなの」

 

 元気に答えるサーバルの言葉にプーも思い至る事があった。

 さっき萌絵に教えてもらったここが『グルメキャッスル』なのだろう。キャッスル、という割に店舗は凄くこじんまりとしている。

 

「というか屋台なのね……」

 

 聞いてはいたが、実物はさらにキャッスルとは程遠いように見える。

 

「まぁまぁ。食べてみたらわかりますよ」

「そうだよっ! 皆で作ったからすごく美味しいんだからっ!」

 

 かばんとサーバルに言われてプーは自身のおなかをさする。

 さっき、お昼をいつもより沢山食べてしまったばかりだ。

 

「なんなら、ハーフサイズにも出来ますよ」

 

 かばんにそう言われては断る事も出来ない。

 それに観光に来たのだから、ここで食べないという選択肢はないだろう。

 

「あ、じゃあかばんちゃん。ヨーグルトソースのともえスペシャル、プレーンのハーフサイズを二つお願い」

 

 しかも、萌絵がもう注文を終えてしまった。

 まるでコーヒー専門店のような注文をしていたようだが、色々なオプションを選べるという事だろうか。

 かばんの素早い調理から出て来たのはホットドッグだ。

 

「はい、プーちゃん。アタシの奢り」

「あ、ありがとう」

 

 やや緑がかったヨーグルトソースと焼き立てのウィンナーはそれなりに美味しそうに見える。

 だが、食べ過ぎと言っていい腹具合に捩じ込めるだろうか。

 

「(ええい!? ここまで来て食べないわけにはいかないわっ!)」

 

 プーは腹を括ってホットドッグにかぶりつく。

 瞬間、爽やかな風味のヨーグルトソースから、さらに鮮烈なインパクトが駆け抜ける。

 

「な……!? これってもしかして、わさび!?」

 

 ヨーグルトソースに混ぜられたわさびが、味にさらなる奥行きを出していた。

 爽やかな風味に、気が付けばあっという間にホットドッグを平らげてしまったプーである。

 

「ちなみに、カレーソースとトマトソースもあって、そこからウィンナーをプレーンとチョリソーから選べて、後はトッピングも付け加えられますよ」

 

 ニコリと笑ってみせるかばんにプーは己の敗北を悟った。

 

「そうね……。認めるわ。ここはグルメキャッスル……いえ、グルメダンジョンね」

 

 とても一度では攻略できない千変万化のラインナップだ。そこに迷い込んでしまったが最後、このグルメキャッスルを攻略しきる事は難しい。

 そしてプーには大問題が一つ生まれてしまった。

 

「けど、明らかにカロリーオーバーよぉっ!?」

 

 彼女の絶叫が色鳥町商店街に響き渡るのだった。

 

 

の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の

 

 

「はい、オオセルザンコウ。セルシコウ。撮るよー」

 

―パシャリ。

 

 マセルカの持つ携帯電話からシャッター音がする。

 写真を撮られたオオセルザンコウとセルシコウの二人は黒のスーツ姿であった。

 きっちりネクタイまで締めている。

 

「ふふー。エゾオオカミに送ってやろーっと」

 

 早速マセルカは今しがた撮ったばかりの写真をエゾオオカミに送り付ける。

 スーツでビシッと決めた二人の絵になる光景に何と返信がくるか。

 

―ピロン。

 

 程なくして返信を告げる着信音がする。その内容は『馬子にも衣裳だな』というものだった。

 

「もー。エゾオオカミったら。『そ、う、い、う、と、こ、ろ、だ、よ』っと。送信」

 

 マセルカの返信には『だから、どういうところだよ』というお決まりの文句が即座に返って来る。マセルカはそれを確認すると携帯電話をしまった。

 オオセルザンコウとセルシコウにマセルカの三人がいるのは色鳥エンプレスホテルのスイートルームだった。

 なんでこんなところにいるのかといえば……。

 

「すみません。ヤマさん。PPP(ペパプ)の護衛を引き受けてもらって」

「いやいや、構わないよ。まさかセルリアン対策課の初仕事がこんな大仕事になるとは思ってもいなかったけどね」

 

 いま、遥とヤマさんが言った通りの理由だった。

 二人はスイートルームのダイニングテーブルでのんびりとコーヒーを傾けていた。

 さらに、広々としたこの部屋にはPPP(ペパプ)メンバーも思い思いに過ごしている。最上階がまるまるワンフロア、PPP(ペパプ)の貸し切りだった。

 それぞれにリラックスして過ごしているらしい一同だったが、一人だけ修羅場っているのがいた。

 

「あ、あのー……。ヤマさん。いくらなんでも詰め込み過ぎじゃないでしょうか?」

 

 それは大量の参考書に囲まれたハクトウワシだった。

 

「何を言っているんだい? ハクトウワシ課長補佐。キミはセルリアン対策課の次期課長になるわけだから昇進試験を受けまくらないといけないんだよ。これでも手加減してるくらいさ」

 

 ゲッソリした様子を見せるハクトウワシにもヤマさんはいい笑顔だ。

 『キャプテン・ハクトウワシ』としてセルリアン対策課の表向き切り札となったハクトウワシだったが、それで事態は丸く納まらない。

 一足飛びに課長になるには大量の昇進試験を受けなくてはならなかった。

 そのままではセルリアン対策課自体が成立しないというピンチに立ち上がってくれたのがヤマさんである。

 ヤマさんはまだ課長になれないハクトウワシに代わって課長のポストに納まったわけだ。

 

「まぁ、もっともおかげで定年は先延ばしになってしまったがね」

 

 言って苦笑するヤマさん。

 おかげで妻のヤマバクには随分と膨れられてしまった。定年後は二人の時間が増えると喜んでいたのに。

 

「うぅうう。ご、ごめんなさい」

 

 というわけでハクトウワシはヤマさんとヤマバクに頭が上がらなくなってしまった。

 そんな様子に遥がクスリと笑みを漏らす。

 

「相変わらず二人とも仲がいいようですね」

「はっはっは。尻に敷かれてるよ」

 

 遥はヤマさんとヤマバクの馴れ初めを知っていたりする。

 そんな遥はふ、と思い至ってしまった。

 

「そういえば、仕事とはいえ、うら若き乙女達と一緒にホテル泊まりと知ったら奥様は何と言うんでしょうね?」

「やめてくれいっ!?」

「冗談ですよ」

 

 遥の思いつきに本気で青ざめるヤマさんだった。

 どうやらヤマさんとヤマバクは色んな意味で相変わらずのようである。

 ヤマさんをいじめるのはこのくらいにして、遥は今度の標的をハクトウワシに変えた。

 

「ハクトウワシさん。お勉強も大事だけれど、修行の方も忘れずにね」

 

 まだ詰め込まれるのか、とハクトウワシはさらにゲンナリした。

 PPP(ペパプ)が色鳥町に滞在する間の護衛を引き受けたかわりに、ヤマさんは一つの交換条件を出したのだ。

 それが、遥にハクトウワシを鍛えてもらおうという提案だった。

 これでも浦波 遥は浦波流サンドスター・コンバットの現当主である。

 果たしてハクトウワシがその教えをものに出来るのかどうかは未知数だが、いつまでも張り子の虎というわけにもいくまい。

 

「Oh……My God」

 

 怒涛の愛の鞭による攻撃にハクトウワシはスイートルームの天上を見上げるのだった。

 

 

 

の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の

 

 

「やっぱり、広いこの街をアテもなくプーを探すなんて無茶ね」

 

 あれからも街中を駆け回った萌音(モネ)であったが、成果は得られなかった。

 もっとも、プーの方は萌絵と商店街巡りを満喫していたが。

 

「これだったら、いっそ色鳥町にいるセルリアンを全部一掃しちゃった方が早い気がしてきたわ」

 

 そうすれば、プーがセルリアンに襲われる心配はなくなる。

 萌音(モネ)はこれだけ街中を走ったというのに、セルリアンと遭遇する事もなかった。案外思っていたよりもセルリアンの発生率は高くないのかもしれない。

 そう思って萌音(モネ)が胸を撫で下ろした時……。

 

―ゾクリ。

 

 その背中に悪寒が走った。真夏だというのにである。

 悪寒の正体は強力なセルリアンの気配だ。

 いつの間にこんな近くに寄られていたのか。いくらなんでも油断し過ぎたか、と萌音(モネ)は後悔するがもう遅い。

 その強力なセルリアンの気配はすぐ背後まで迫っていた。

 その強大さは、今までに萌音(モネ)が相対して来たものの比ではない。

 おそらくだが、萌音(モネ)が持つ最大の切り札を使ったとしても一矢報いられるかどうか。そのレベルだ。

 背後を振り返るのすら怖い。

 そう思った時、その背後から声が掛かった。

 

「おや? キミはもしや浦波 萌音(モネ)君じゃないかい?」

 

 ギ、ギ、ギ。と油の切れたロボットのように萌音(モネ)が振り返ると、そこには暗緑色した髪色の黒いジャケットを着た女性が立っていた。何故か買い物袋を両手に提げて。

 よくよく見ると、その両脇にヒトの女の子と、アムールトラのフレンズ、それにカラカルのフレンズ、ユキヒョウのフレンズともう一人小さな女の子を侍らせているではないか。

 

「やあ、実際に会うのは初めてだね」

 

 そう言われても、萌音(モネ)は誰なのかわからない。

 そもそも、こんな強力なセルリアンに知り合いなんていない。だが、答えはその本人から返って来た。

 

「私は宝条 和香。キミの母上であるルカ先輩から聞いた事はないかな?」

 

 その名前は萌音(モネ)も聞き覚えがあった。母である遥と共にかつて色鳥町を守った守護者の一人である。

 宝条 和香であれば遥経由で萌音(モネ)の姿を見知っていても不思議はない。

 だが、その守護者がセルリアンになっているのはどういう事か。

 

「驚かせてしまっただろうか。故あって今の私は半分セルリアンなのさ」

 

 和香教授は言いつつ両手を広げて見せた。

 途端にカラカルとユキヒョウのツッコミが入る。

 

「和香。アンタねえ。こんなちっちゃい子をビビらせてんじゃないわよ」

「そうじゃぞ、教授殿よ。最近は寝不足も改善されて人相もよくなってきたと思っていたというのに」

 

 そして、ひと際小さな女の子、ルリがハンカチで萌音(モネ)の額を拭ってくれる。

 

「大丈夫? すごい汗だけど」

 

 そして菜々が自分の持つ買い物袋からスポーツドリンクの入ったペットボトルを差し出してくれた。

 

「ごめんねぇ、和香さんが驚かせちゃったみたいで」

 

 ようやく萌音(モネ)も反応出来るようになってきた。

 

「く、クロスメロディー……ですよね。は、はじめまして」

 

 萌音(モネ)は緊張しきりである。なんせ相手は伝説の守護者だ。

 ルリとアムールトラとユキヒョウは『クロスメロディーって何!?』と言わんがばかりの凄い勢いで和香教授を振り返る。

 

「ああ、昔の事さ」

 

 言いつつほっぺたを掻く和香教授は少しばかり照れ臭そうだった。

 それに菜々が納得の相槌をポンと打つ。

 

「あ、もしかしてルリちゃん達は和香さんがどんな感じで戦ってたとか聞いた事ないんだ」

「いいわよ。今日の夕飯にでも和香の恥ずかしい昔話も教えてあげるから」

「カラカル!? 私そろそろ泣くよ!?」

 

 ニヤリとするカラカルに和香教授が絶叫で返す。 

 萌音(モネ)もすっかり毒気を抜かれた。一体このヒト?セルリアン?のどこに脅威を感じたのか分からない。

 和香教授は萌音(モネ)に向き直ると言う。

 

萌音(モネ)君。頑張るのはいいが少し疲れているようだね。今日のところは帰って休んだ方がいい」

「で、でも……」

 

 まだ萌音(モネ)はプーを見つけていない。

 確かに街中を走って疲れてはいるがまだ休むわけにはいかなかった。

 だが、和香教授は萌音(モネ)の前に片膝を付いてしゃがむと恭しくその手を取る。

 

「無理をして萌音(モネ)君が倒れでもしたら私は悲しい。将来の美人にそんな事はさせられないよ。ここは私の顔を立ててくれ給え」

 

 そんな物言いに、萌音(モネ)は思った。

 母とキャラが被っている、と。多分、遥が聞いたらそんな事はないと言うだろうが。

 母によく似た人の言う事では仕方がない。

 

「わかりました。今日のところは帰ります」

「そうだね。そうするといい」

 

 萌音(モネ)は日も傾きかけてきた中を遠坂亭へと戻る事にした。

 確かにプーを見つけていないが、闇雲に走り回っても仕方がない。むしろ、プーと連絡がついた時の為に体力を温存しておくのがいいように思える。

 それにしても、やはり萌音(モネ)は不思議でならなかった。

 目の前の和香教授からは一欠けらとして背中が総毛立つ気配は感じない。

 だったら、あの時感じた禍々しい気配は一体何だったのだろう、と。

 やはり自分は思っていた以上に疲れているらしい。萌音(モネ)はそう結論づけると帰路へ着く。

 和香教授は萌音(モネ)の背中をしばらくの間見送る。

 

「何をしておる。早く帰らぬと夕飯の支度が遅れるぞ」

 

 ユキヒョウの言葉に和香教授は一度彼方の空を見上げて流し目を送るようにするが、ふ、と踵を返す。

 

「ああ。すまないね。夕飯の支度が遅れるようなら私も何か手伝おうか?」

「「「「「「絶対ダメ!?」」」」」

 

 和香教授の提案は全員揃ったガチめの却下をされてしまうのだった。

 

 

 

の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の

 

 

「へー。いやいや、中々どうしてこっちの世界も一筋縄じゃ行かないみたいじゃないの」

 

 和香教授が見ていた先。

 そこはビルの屋上であった。

 そこに一人の少女が立っている。

 浅黒い肌をした黒髪の少女である。見た目は中学生くらいだろうか。

 その少女は傍らに片膝を付き臣下の礼をとる二人のフレンズへ言う。

 

「セルセイリュウ。セルビャッコ。プラン変更よ」

「「御意」」

 

 少女はその返事に満足そうに頷く。

 

「我の殺気に気づいた戦士といい、あの女王といい、こちらの世界も中々に面白い。力任せに蹂躙するのはつまらないわ」

 

 だから、と少女は両手を広げると空を仰いで言い放った。

 

「ゲームをしましょう」

 

 

  

―③へ続く

 

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