けものフレンズRクロスハート   作:土玉満

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第26話『ツインプリンセス』③

 

 

 なんだかんだで夕暮れ時。

 萌音(モネ)は結局プーを見つける事が出来ずに『two-Moe』へと戻って来た。

 一度、遥にも連絡を入れたものの、やはりまだプーは戻っていないらしい。

 やはりこうなっては、無事を祈るくらいしか出来る事はなさそうだ。

 ともかく、妹も同然の萌絵やともえやイエイヌに心配を掛けるわけにはいかない。

 萌音(モネ)は一度頭を振って疲れを追い出すようにしてから『two-Moe』のドアを開けた。

 

「ただいまぁー!」

 

 店内はアルバイトのパフィンとエトピリカとオオアリクイが上がった後だったものの、ともえとイエイヌ、それに萌絵が戻っていたから賑やかさは相変わらずだった。

 

「お帰りなさい、萌音(モネ)姉さん」

 

 そろそろ店仕舞いへ向けて準備中だった『two-Moe』では、ともえもイエイヌも萌絵も掃除に勤しんでいた。

 

「ごめんなさいね。ちょっと野暮用で今日はお手伝いできなかったわ。今からでも何か手伝おうかしら?」

 

 萌音(モネ)が訊ねるが、今度は店長である春香がカウンター席の椅子を引いて首を横に振る。

 

「大丈夫よ。もう殆ど済んでるから。それよりも萌音(モネ)ちゃん。顔が少し疲れてるわ。何か飲む?」

「あはは。ハルおば様にはお見通しね」

 

 萌音(モネ)はお言葉に甘える事にした。

 春香は微笑むとすぐにオーダーを入れる。

 

「イエイヌちゃん。レモンティー淹れてくれる? 萌音(モネ)ちゃんは少し疲れてるみたいだからお砂糖は二つにして」

「はい、お任せ下さい!」

 

 イエイヌはといえば、今は普段着姿だった。

 ついさっき商店街のお手伝いから戻って来たばかりで残る作業が店仕舞いのお掃除だけだったので、制服に着替えていなかった。

 それはともえも一緒で、やはり商店街を駆け回った時と同じ格好である。

 萌絵はそれよりも少し早く戻っていたのでメイドさん風制服だ。

 イエイヌは手早く茶葉の準備から、お湯の準備、ティーセットの準備までを滞りなく進めてあっという間に紅茶を淹れてくれた。

 最後に輪切りのレモンを浮かべて出来上がりである。

 

「どうぞ。萌音(モネ)お姉さん」

「ありがとうねぇ、イエイヌちゃん」

 

 お礼を言ってから萌音(モネ)はレモンティーを飲み干した。

 レモンの酸味と砂糖の甘味が疲れた身体に染み渡る。

 

「すごいわね。イエイヌちゃん。お茶を淹れるのが上手なのね」

 

 萌音(モネ)も浦波家の台所を預かる身であるから、味の良し悪しは分かる。

 これは茶葉の持つ旨味をしっかり引き出した一杯である。

 

「ふっふーん。でしょう?」

「自慢のイエイヌちゃんだもんねー」

 

 それに、ともえと萌絵が何故か得意満面だ。

 三人はワイワイとお掃除へ戻る。

 しかし、もったいない事をしたと思う萌音(モネ)だった。

 いくら疲れていたとはいえ、せっかくの一杯だからもう少し味わって飲めばよかった。

 名残惜し気にティーカップを指でなぞっていると、そこに声が掛かる。

 

「あら? まだ飲むなら何か淹れる? イエイヌ程上手くないけどね」

「あ、うん。お願いするわ」

 

 萌音(モネ)は遠慮なく返事してから、ふと気が付いた。

 今のは誰だったんだろうと。

 その答えはすぐにわかった。

 

「はい。水出し麦茶だけど。冷たいのもいいでしょう?」

 

 たっぷりの氷を入れた麦茶をトレイに乗せて戻って来たのは『two-Moe』のメイドさん風制服に身を包んだプーであった。

 相変わらず大きな帽子と似合ってない眼鏡で変装した状態であったが。

 

「な、な、な……」

 

 あまりの事態に萌音(モネ)は「なんで」の一言が出てこない。

 そんな萌音(モネ)の様子をプーは不思議そうにしていた。

 

萌音(モネ)? どうしたの? 疲れてるの?」

「そりゃ、疲れてるよぉ!? 探したんだからっ!?!?」

 

 思わずツッコみを入れてしまう萌音(モネ)

 なんでプーがここに、とか、今まで何をしていたのか、とか色々訊きたい事はあるけれど、椅子の背もたれに大きく寄り掛かって崩れ落ちてしまう。

 

「ほんと、無事でよかったわよ……」

 

 ヘタれこみつつ言う萌音(モネ)にプーは?マークが止まらない。

 

「どうしたの。萌音(モネ)? 何かあった?」

「あったわよぉ!? 探してたの! プーを!! っていうかプー! あなた携帯はどうしたの!?」

 

 萌音(モネ)に言われてプーも思い出した。自身の服に入れっぱなしにしていた携帯電話の存在を。

 ロッカールームに置いていた自分の服からわざわざ携帯電話を引っ張り出してみると、充電切れでうんともすんとも言わない状態だった。

 そこにラモリさんがテコテコやって来る。

 

「ホレ。充電ケーブルならあるからそこで充電するといいゾ」

 

 ラモリさんが差し出すままに、プーは電源席のコンセントを借りて携帯電話に充電してみる。

 電源を入れるとすぐに不在通知が山のような数になっているのが画面に出て来た。

 

「あらら……」

 

 プーは困った顔でほっぺをポリポリ掻く。

 実は色鳥町に来てからすぐに携帯電話は電池切れになってしまっていた。

 それでも、プーは元々目的地があったわけでもなく、ブラブラと色鳥町を散策していたのでそれでも困ったりはしなかったわけだ。

 

「でも、こんなに連絡取ろうとしてたって何かあった? リーダーにはちゃんと断りを入れてたと思ったんだけど」

 

 プーが別行動で色鳥町観光をしていたのはPPP(ペパプ)リーダーであるコウテイの許可を取っての事である。

 何か緊急の用事でもあったのだろうか、と訝しむ。

 

「まぁ……色鳥町って私が思っているよりもセルリアンがわんさか出るみたいなのよ。だから、一人で出歩いて何かあったらと思ったらね」

 

 萌音(モネ)の説明にプーはようやく事態を理解した。

 

「ご、ごめんなさい。まさかそんな事になってるなんて」

「いいわよ。私だって昨日実際にセルリアンと戦うまではそこまでだと思ってなかったもの」

 

 何はともあれ、プーが無事でよかったと安堵の萌音(モネ)だ。

 安心したら、どうしてプーがこんなところでこんな事をしているのかが気になった。

 そこに割り込んで来たのが萌絵である。

 

「あっれー? プーちゃんって萌音(モネ)姉さんと知り合いだったの?」

 

 萌音(モネ)としては「それはコッチのセリフよ」と言いたかった。

 プーは色鳥町に来るのは初めてだったはずだから萌絵やともえと知り合いであるはずがない。

 萌音(モネ)が答えを求めてプーを見る。

 

「えっとね、今日知り合ったの。『Bard-OFF』で。で、萌絵に色鳥町を案内してもらってたの」

 

 言って萌絵とプーの二人して「「ねー♪」」と手のひらを合わせている辺り、随分と意気投合したのだろう。

 

「で? なんでプーが『two-Moe』のウェイトレスさんになってるの?」

 

 萌音(モネ)が分からないのはそこである。

 プーが色鳥町観光をしていたのは分かる。けれどそれがどこをどうしたら『two-Moe』の店員さんになっているのか。そこから一気にわからない。

 

「萌絵に商店街を案内してもらったでしょう? そしたら思いのほかすごくて。色々見てたらすっかり日も暮れ掛けてもう夕ご飯の時間じゃない?」

「で、アタシが夕ご飯に誘ったの。プーちゃんをともえちゃんやイエイヌちゃんや萌音(モネ)姉さんにも紹介したくて」

 

 プーと萌絵がかわるがわる説明してくれるが、それではまだプーがウェイトレスさんをしている理由にならない。

 

「で、お昼に続いてタダでご飯をご馳走になるのも悪いから、お店のお手伝いをさせてもらってたってわけ」

 

 ようやく萌音(モネ)の理解も追いついた。

 どうやら、萌音(モネ)の知らないうちに萌絵とプーは偶然知り合いになって、そのまま随分と仲良くなったらしい。

 プーは小首を傾げるようにしつつ言う。

 

萌音(モネ)がお世話になってるおうちって萌絵の家だったのね。すごい偶然もあったものだわ」

「ほんとにね!?」

 

 そんな偶然があるものか、と言わんがばかりに萌音(モネ)の絶叫が響き渡る。

 ともかく、プーが無事でよかった。

 あとは色鳥エンプレスホテルまで連れて行けば取り敢えずは安全だろう。

 なんせそこには遥もいれば、色鳥町から助っ人としてセルリアンフレンズ三人組まで来てくれている。

 なので、萌音(モネ)はプーの手を取って言った。

 

「プー。送るからホテルへ戻りましょう」

 

 ところが、プーは首を横に振る。

 

「ごめんなさい。それは出来ないわ」

 

 なんで、と意外そうな顔をする萌音(モネ)

 けれど、幼馴染であるだけに知っている。プーがこうなった時は頑固である事を。

 きっとそこにはプーなりの真剣な理由があるはずだ。

 その理由を語るべくプーの口が開く。

 

「私は色鳥町の為に歌わないといけない。けど、私はここに誰が住んでどんな暮らしをしているのかわからないの。そんな状態じゃあ気持ちのこもった歌は歌えないわ」

 

 プーは根っからのアイドル気質で、そこに掛ける情熱がどれ程のものか萌音(モネ)だって理解している。

 プーがPPP(ペパプ)のプリンセスとしてステージに上がるのであれば、最高のパフォーマンスをファンに魅せる為にあらゆる努力を惜しまない。

 けれど、今はのんびり観光をさせてあげられる状況ではないのだ。

 何と言って説得したものか、萌音(モネ)が思案していると、萌絵が割り込んで来た。

 

「ええっと……ねえ。萌音(モネ)姉さん? 何がどうなってるの?」

 

 萌絵としてはすっかり話が見えていなかった。

 けれど、萌音(モネ)とプーの二人が知り合いらしくて、ちょっぴり剣呑な雰囲気である事も何となく察している。

 

「あー。ええとね。違うのよ、萌絵ちゃん。プーと喧嘩してるわけじゃなくて……」

 

 萌音(モネ)としても妹分である萌絵やともえ達の前で言い争いをしたいわけではなかった。

 事、ここに至っては色々と白状するしかない。萌音(モネ)はそう諦めの吐息をつくと、ともえもイエイヌも、そして春香もプーの前に連れて来てから言った。

 

「プー。まず、このハルおば様が伝説の守護者の一人ね」

「もう。萌音(モネ)ったら。そんな………って、マジ?」

「マジよ」

 

 最初何かの冗談だと思っていたプーも、萌音(モネ)の顔が冗談を言っているようには見えずに思わず訊き返してしまう。

 重々しい萌音(モネ)の頷きにそれが事実であるとわかったけれど、どうみても自分よりも年下にしか見えない。

 当の春香本人は「あらやだ、伝説だなんて」と涼しい顔して笑っていた。

 信じられない気持ちはよくわかる萌音(モネ)であるが、ここで説明は終わらない。

 

「で……。こっちの子達が色鳥町の守護者達」

「も、もしかして……?」

「そう。クロスハート達よ」

 

 ともえもイエイヌも萌絵も三人して顔を見合わせる。

 プーに正体を明かしてしまってもいいのか、と。

 けれど、萌音(モネ)がいいと判断したのだからいいのだろう。では、この場でプーに正体を明かした理由は何なのか。

 続く萌音(モネ)の言葉で、全員がその理由を知る事になった。

 

「プー。帽子とメガネを外していいわよ」

 

 プーは頷くと、変装用にずっと被っていた帽子を脱いで大きな伊達メガネを外す。

 今度はともえと萌絵とそして春香が驚く番であった。

 三人の表情が驚きに固まるのを見てから萌音(モネ)は続ける。

 

「紹介するわね。私の幼馴染で同じ部活のプー。本名はプリンセス。ロイヤルペンギンのフレンズでPPP(ペパプ)のアイドルやってるプリンセスよ」

 

 直後、ともえと萌絵と春香が驚きで叫ぶ声が店内に響く事になった。

 もっともイエイヌだけは、「春香お母さんがこんなに驚くのって珍しい気がします」と呑気なものだったが。

 

 

の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の

 

 

「ふう。お風呂ありがとう。いいお湯だったわ。それにパジャマまで貸してもらっちゃって」

 

 そう言うのは変装を解いたプーことプリンセスであった。

 ここは遠坂家、萌絵の部屋だ。萌絵とともえの二人は未だ「「あわわわわ」」となっていた。

 なんせ今をときめくPPP(ペパプ)のメンバーであるプリンセスが自分達の部屋にいるのだ。しかも萌絵から借りたパジャマを着て。

 

「もう。二人ともいい加減慣れなさいな」

 

 気持ちはわからないでもないけれど、萌音(モネ)としては苦笑を浮かべるばかりだ。

 結局あの後どうなったのかと言うと、萌音(モネ)は洗いざらい今回の計画を白状した。

 色鳥町の地脈を清浄化する為にプリンセス達『歌巫女』がライブを行う事。

 先日の『ヨルリアン』事件で大変だったともえ達には、萌音(モネ)が姉として皆をPPP(ペパプ)ライブに招待して労おうと思っていた事を、だ。

 

「もう。ハルおば様の太鼓判があるから私だってプーがこっちに泊まる事に賛成したんだから。イエイヌちゃんを見習ってしっかりしてよ」

 

 萌音(モネ)の苦笑にも相変わらず「「あわわわわ」」となりっぱなしのともえと萌絵だったが、イエイヌはいつも通りだった。

 単にPPP(ペパプ)というアイドルユニットをよく理解していないだけだったりするが。

 こんな状態になっているのには理由がある。

 安全の為ホテルへプリンセスを戻したい萌音(モネ)と、アイドルとしてステージへ立つモチベーションを確立したいプーの二人で押し問答となっていたわけだが、春香が「だったらいい考えがあるわ」とプーも遠坂亭で宿泊を提案したので今に至る。

 なんせこの場には、クロスハート本人であるともえも、クロスナイトであるイエイヌもいる。その上現役を退いたとはいえ春香もいれば、萌絵もそして萌音(モネ)だっているのだ。

 考えようによっては色鳥町で最も安全な場所である。

 そんなわけで、ともえと萌絵は自分の家にアイドルがいるという奇妙な体験をする事になったわけだ。

 イエイヌだけは状況を理解していないせいで、プーとも相変わらず普通に接していたが。

 

「プーさん。パジャマ似合ってますね。ちなみにそのパジャマは萌絵お姉ちゃんの匂いがするので安心できますよ」

「本当? んー? よくわからないわね」

 

 自分の袖口をクンクンするプーにとうとう萌絵が我に返った。

 

「も、もう!? 嗅がなくていいよぉ!?」

 

 ようやく「「あわわわ」」状態から脱した萌絵は続けて呟く。

 

「プーちゃんがPPP(ペパプ)のプリンセス……全然気づかなかったよぉ……」

 

 半日以上も一緒にいた萌絵だったが、まさか自分がファンであるアイドルと一緒だったとは夢にも思わなかった。

 萌絵は未だ現実に付いていけていない。

 さすがにこうなるとプーとしてもいたたまれなくなってきた。

 

「なんかゴメンね。騙すつもりはなかったんだけど、素顔で出歩くと観光どころじゃなくなりそうだったから……」

「プーちゃんが謝る事ないよっ!?」

 

 萌絵の言うとおり、プーの事情は分かっていた。

 なので、ここはその辺りの事は置いておいて、明日どうするかを決めた方がいい。そう考えた萌音(モネ)はみんなを見回してから言う。

 

「ねえ。プーは明日どうするつもり? 明日の夕方がライブ本番よ」

 

 急遽開催となったPPP(ペパプ)ライブ。

 その開催日は明日の夕方18時からとなっていた。

 今回のPPP(ペパプ)ライブは通常とは異例の夕方一回公演のみの予定である。

 とはいえ、プーも夕方まで時間があるかというとそうでもない。

 ライブの準備やリハーサルがあるので明日の昼には現場入りしなくてはならない。

 

「そうね……。明日は10時くらいまで街を見て周りたいわ。そこからは色鳥武道館に移動してリハーサル前には現場入りしなきゃ」

 

 大雑把な希望を伝えるプーだったが、じゃあ具体的に明日はどうするかという目途は立っていなかった。

 そこで頼るように萌絵の方を見る。

 

「んー。じゃあ、こういうのはどうかな? 明日朝ご飯食べたら、青龍神社に行くっていうのは」

「いいかもね! 青龍神社の夏祭りは終わったけど、あそこって結構有名な神社だもん。あと、見晴らしもいいし!」

 

 萌絵が考えてくれたプランにともえが賛成してくれる。

 青龍神社は県下でも有数の神社で参拝客だって多い。観光するならいい場所だ。

 

「いいわね。じゃあ明日はそこに行ってみるわ。ありがとうね、萌絵」

「どういたしまして」

 

 こうして、丸く納まりかけた。

 だがしかし……

 

「ちょっとまって。まさかプー。明日もあなた一人で出歩くつもりじゃないでしょうね?」

 

 萌音(モネ)の詰問にプーがギクリとした顔をする。

 萌音(モネ)は盛大に溜め息を吐く事になった。

 

「いいわ。私が護衛についてあげるから」

 

 半分呆れつつ言う萌音(モネ)

 本来なら明日は朝からPPP(ペパプ)ライブの会場を護衛する予定であったが、こうなった以上、プリンセスであるプーを守る方が重要だ。

 それにPPP(ペパプ)とライブ会場の護衛にはセルリアンフレンズの三人が付いてくれている。萌音(モネ)が遅れて合流しても何とかなるだろう。

 それだったら、とともえが挙手した。

 

「ねえねえ、アタシも一緒に行こうか?」

 

 イエイヌも同意するようにうんうん頷いている。

 護衛としてこの二人程頼もしい人物もいないだろう。

 だというのに、二人は萌絵に後ろから抱き締められるようにして止められた。

 

「あんまり大人数だと騒がしくならない?」

 

 萌絵が心配したのはそこだった。

 プーだって他のPPP(ペパプ)メンバーなりマネージャーなりを伴って行動したってよかったはずだ。

 それなのに一人で行動していたのは大人数だと自由に動き回れなくなるのを危惧しての事だったのではないか。

 護衛として萌音(モネ)を伴うのはともかく、そこに大人数で付いて回るのは得策ではないように思えた。

 

「どうかしら? プー」

 

 萌音(モネ)も意見を求めるようにプーの方を見る。

 やはり最終的な決定は彼女がすべきだろう。

 

「萌絵が言う事ももっともね。もう少しだけ自由にこの街を見て周りたいもの」

 

 プーはしばらく考え込んでからそう答えた。

 それが希望というなら否はない。

 ともえもイエイヌも頷いた。

 

「けどさ。やっぱりアタシも何か手伝いたいなぁ」

 

 ともえの気持ちには萌絵もイエイヌ同意だった。

 いくら萌音(モネ)の気遣いとはいっても、PPP(ペパプ)萌音(モネ)達も色鳥町の為に働いてくれているのだ。何かしら手伝わせてもらわないと却って心苦しいというものだ。

 さて、何が出来るかと考え込むともえとイエイヌと萌絵の三人。

 

「プーちゃんは萌音(モネ)姉ちゃんとデートだから大丈夫として……。やっぱりPPP(ペパプ)の護衛かなぁ?」

 

 ともえの言葉に萌絵もイエイヌも頷いた。

 萌音(モネ)ならば万が一セルリアンが襲って来たとしても何とかしてくれるだろう。

 それだったら護衛対象が多い色鳥武道館を手伝いに行った方がいい。

 

「もしかしたらPPP(ペパプ)にも会えるかもしれないもんね!」

「ね!」

 

 ともえと萌絵は二人して同じポーズで顔を付き合わせて頷き合う。

 そんな二人に萌音(モネ)はまたも苦笑してしまった。

 

「なんだったら、サインくれるように頼んでおいてあげるわよ」

「「いいの!?」」

 

 再び同じ動きで萌音(モネ)に詰め寄るともえと萌絵。

 

「じゃあじゃあ、アタシ、イワビーのサイン欲しいっ!」

「それくらいならお安い御用よ。イワビーさんは私に楽器の弾き方教えてくれた人だから仲いいし」

 

 ともえのリクエストに萌音(モネ)は自らの胸を叩いて請け負う。

 けれど、萌音(モネ)はまたも苦笑すると一言付け加えた。

 

「ちなみに、ここにもう一人PPP(ペパプ)メンバーがいるんだけど。サインいらない?」

「「いいの!?」」

 

 その指摘に今度はプーに二人して詰め寄るともえと萌絵。

 やたらキラキラした目を向けてくる二人に若干気圧されながらもプーは応えた。

 

「え、ええ。そのくらいでいいなら喜んで」

 

 

の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の

 

 

 翌朝。

 青龍神社へと続く長い階段を二人で昇るプーと萌音(モネ)の姿があった。

 今日は予定通り、青龍神社を観光したらそのまま現場入り。その後リハーサルから本番である。

 既にともえと萌絵とイエイヌは色鳥武道館へ向かっているし、今日の段取りは遥やマーゲイ達に連絡済みだ。

 

「それにしても、本番前だっていうのに随分余裕が出来たのね。昔は朝から緊張でガチガチだったじゃない」

 

 萌音(モネ)の言葉にプーは苦笑する。

 

「そりゃあ一年もPPP(ペパプ)やってればね。緊張してないわけじゃないけどそれでパフォーマンスを落としたりする事はないわ」

「ほほーぅ? 言うじゃない。でも、ちょっと今日の朝ご飯食べ過ぎじゃなかった? 体重管理大丈夫?」

「あ、あれは今日の朝ご飯が美味しかったのが悪いわ」

 

 萌音(モネ)のちょっとした意地悪にプーは頬を膨らませてそっぽを向く。

 今日の朝ご飯が美味しかったのは事実だ。

 なんせ、春香と萌絵が二人で張り切って用意してくれたのだ。

 焼き立てパンとベーコンエッグにサラダというシンプルなメニューではあった。

 けれど、程よい半熟具合の焼き加減は今思い出しても幸せになれる。

 

「そ、それに、この階段はいい運動になりそうだからセーフよ。セーフ」

 

 そう言うプーもついさっき、実際ここの階段で走り込みをしているらしい四人組とすれ違ったばかりだ。

 確かホワイトタイガーのフレンズにその妹っぽいフレンズ。それと龍系のフレンズに水棲動物の特徴を備えたフレンズだった。

 

「ああ、あの四人ね。あれって四神のビャッコとセイリュウの娘さん達とそのお付きみたいよ」

 

 萌絵が教えてくれた通り、その四人はセイリュウの娘であるアオイとビャッコの娘であるシロの二人にホワイトタイガーとコイちゃんであった。

 

「色鳥町の現状が大変そうだから、守護者の修行を前倒しして始めたみたいよ」

 

 萌絵はそれを昨日の夜に遥から聞いていた。

 一番小さなシロが一番張り切ってスタート位置である麓へ駆け下りていたのを思い出す。

 おそらくもう少ししたら駆け上がってくる彼女達に追い抜かされる事だろう。

 噂をしていたら、ちょうど彼女達が駆け上がって来たところだ。

 邪魔にならないように萌音(モネ)とプーは脇に寄る。

 一番最初に駆け上がって来たホワイトタイガーと、その後ろにペースを守って走るアオイの二人。

 二人は道を譲ってくれた萌音(モネ)とプーに軽く会釈をするとそのまま駆け上がって行く。

 と、そこから大分遅れてシロとコイちゃんの二人もヘロヘロになりながら続いていた。

 

「ほ、ホワイトタイガーもアオイも速いのだぁー……」

「ほ、ほんとだねぇ~。アオイちゃんもいつの間にそんな速くなったの~……」

 

 先を行っていたホワイトタイガーとアオイの二人は少しだけ足を止めて二人を待つ。

 

「シロ様、頑張って下さい。千本ダッシュの一本目ですよ。ここは根性で乗り切りましょう!」

「千本はさすがに無茶ですが三本くらいはこなしたいですね」

 

 追いついたシロとコイちゃんの背中をポンと叩いてからホワイトタイガーとアオイは再び階段を駆け上がる。

 

「「お、鬼ぃ~」」

 

 シロとコイちゃんは二人して泣き言を零しつつも先を行く二人を追う。

 それを見たプーの顔には笑顔が零れる。

 

「ふふ。色鳥町の守護者達も頑張ってるのね」

「そうね。私も妹達が頑張ってるのを見ると姉として負けてられないって気持ちになるわ」

 

 むん、と拳を握って見せる萌音(モネ)だったが、プーはちょっぴり意地悪な笑みを浮かべた。

 

「言っておくけど萌音(モネ)。あなたどっちかというと妹キャラよ」

「うそっ!?」

「ほんとよ。むしろ萌絵の方が姉っぽいまであるわ」

「そそそ、そんな事は……!?」

 

 ないとは言い切れない萌音(モネ)である。

 実際には一人っ子の萌音(モネ)と、双子とはいえ長年姉を務めて来た萌絵では姉力にも差が生まれようというものだ。

 その事実に萌音(モネ)は愕然とする。

 

「じ、実は妹達に妹にされていたというの……!?」

「なくはないわね。萌音(モネ)には甘やかされるよりも甘やかしたいもの」

 

 そんな風に言われて今度は頬を膨らませる萌音(モネ)

 

「も、もう! そんな事言うんだったら新学期からお弁当作って来てあげないんだからっ!」

「あはは、ごめんごめん。冗談だったら」

 

 萌音(モネ)が本格的に怒り出す前にプーは矛を納めた。

 萌音(モネ)も横目でプーを見て「許す」と一言。

 

「はいはい、ありがとうねー」

 

 プーに頭を撫でられるままにされる萌音(モネ)はやはり妹キャラだと思う。

 それを言うとまた怒り出すだろうから言わないが。

 代わりにプーはこんな事を言い出した。

 

「本当はね。今日は朝から現場に向かってもよかったの」

 

 プーはアイドルとして、また『歌巫女』として色鳥町の為に歌う。

 そのモチベーションを探す為に単身行動していたはずだ。

 それはもういいのだろうか、と萌音(モネ)は視線で問う。

 

「うん。昨日散々萌絵に見せてもらったもの。ここで暮らす人達の事を。その人達を守る為なら私は歌える」

 

 それに、と付け加えるプー。

 

「こっちに友達も出来たんだもの。それだけでも歌う理由なんて十分だわ」

 

 どうやらアイドルであるPPP(ペパプ)のプリンセスは仕上がっているらしい。

 だったらどうして今日はわざわざ寄り道なんてしたのだろう。

 

「まあ、最近萌音(モネ)とあんまりゆっくり出来てなかったから……」

 

 途端にプーは言葉を濁した。

 プーと萌音(モネ)は幼馴染で友達同士だ。友達としていつも一緒だったし、二人でバンドを組んでもいた。

 けれど最近はプーがPPP(ペパプ)のプリンセスとしてデビューした事で二人の時間も減ってしまっていた。

 

「だから、たまには二人で過ごしてもいいんじゃないかなーってね」

 

 本番前にこんな余裕まで見せるようになるとは、すっかりプーも大物である。

 それにしても、随分と可愛い事を言ってくれるものだと萌音(モネ)はクスクス笑う。

 

「あら。じゃあ今はプーを独り占めね。責任重大だわ。ちゃんとステージまで送らないと全部私のせいになっちゃう」

 

 そう冗談めかして笑う萌音(モネ)にプーも応じた。

 

「そうよ。よろしく頼むわね。私の騎士さま?」

「頼まれたわ。私のお姫様(プリンセス)

 

 言って二人してクスクス笑う。

 そうこうしているうちにどうやら頂上まで辿り着いたようだ。

 掃き清められた参道に、荘厳な本殿。そして脇側には社務所がある。

 一通り見渡した後に萌音(モネ)が提案する。

 

「どうする? せっかくだしセイリュウ様に挨拶でもしていく?」

「そうね。もしかしたら遥社長の昔話なんかも聞けるかもしれないものね」

 

 さて、そうしたらセイリュウを探さなくては。

 本殿の方から何か気配がするからそちらにセイリュウがいるのだろうか。

 本殿の上がり口脇では一本目の階段ダッシュを終えたアオイ達四人が休憩しているのが見えた。

 彼女達にセイリュウの所在を訊ねるのもよいかもしれない。

 そう思っていたがどうやらその必要はないようだ。

 本殿の扉が開いて神主服のセイリュウが姿を現したからだ。

 

「結界に反応があるから何かと思えば随分なお客様のようで」

 

 だが現れたセイリュウは随分と剣呑な雰囲気を纏っていた。

 キッと鋭い視線を萌音(モネ)とプーへ投げかけると、ずんずん二人の方へ進んで来るではないか。

 

「あああ、あれ? なんかセイリュウ様怒ってない?」

「私達何か悪い事しちゃったかしら!?」

「あ、もしかしたら参道の真ん中って歩いちゃいけないっていうじゃない? そのせいかも」

 

 萌音(モネ)とプーは怖い表情のまま近づいてくるセイリュウに戸惑っていた。

 だが、セイリュウはそんな二人とすれ違うようにさらに入り口の方へ歩みを進めると、その背に萌音(モネ)とプーを庇うように立ちはだかる。

 セイリュウが視ていたのは萌音(モネ)とプーではない。さらにその後ろだ。

 

「ここは神域です。貴女のような者が訪れる場所ではありませんよ」

 

 セイリュウが放った言葉に応じるのは萌音(モネ)とプーの後から階段を昇って来た何者かだった。

 

「お言葉ですね。こちらの世界のセイリュウ。我とてセイリュウですよ。我を祀った神社であるなら歓迎してくれてもいいでしょうに」

 

 「もっとも」と前置きしてから萌音(モネ)とプーの後ろからやって来た人物は続けた。

 

「我はセルセイリュウ。ここで祀られるには相応しくはありませんが」

 

 その言葉と共に、セルセイリュウは目深に被っていたフード付きマントを脱ぎ捨てる。

 

―バサバサバサッ!

 

 と同時、その下に隠されていた大量のお札が舞った。

 それらはスッと伸ばしたセルセイリュウの右腕に纏わりつくように渦を巻く。

 

「いけない……!」

 

 セイリュウは背中が総毛立つ程の危機感を覚える。

 もしもセルセイリュウが彼女と同じかそれ以上の技を使えるのだとしたら。これはまずい(・・・・・・)

 セイリュウもその危機を迎え討つべく袖口から大量のお札を投げ放つ。

 それらはセイリュウが伸ばした右腕に纏わりつくように渦を巻く。

 

「ほう」

 

 どうやら同じ技でもって迎え撃つつもりらしいと悟ったセルセイリュウはニヤリと笑う。

 ならば力比べと行こう。

 

(ブラウ)……!」

(シュバルツ)……!」

 

 二人の腕に纏わりつくように渦を巻いていたお札は、その腕先で砲塔の形を為す。

 

「「(ドラッヘ)……!」」

 

 セイリュウとセルセイリュウの声が重なると同時、それぞれの腕先に蒼と黒の光が生まれた。

 

「「(カノーネ)!!」」

 

 二人の叫びと同時にそれぞれが放った蒼と黒の閃光が激突した。

 

 

 

―④へ続く。 

 

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