けものフレンズRクロスハート   作:土玉満

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第26話『ツインプリンセス』④

 

 色鳥武道館ではライブ準備が着々と進んでいた。

 ステージ準備から音響機材の確認や照明機材の点検、さらには客席準備とスタッフ達は忙しなく働いている。

 あまりの活気を前に、やって来たともえも萌絵もイエイヌも場違い感が拭えない。

 

「い、いやぁ……。これでPPP(ペパプ)の護衛に来ましたーって言ったって……。ねぇ……」

 

 現場の様子に、萌絵は今更ながら気後れしていた。

 しかも、色鳥武道館に来てみたはいいけれどどこへ向かえばいいのか分からない。

 

「しょうがない。萌音(モネ)姉ちゃんに電話してみようか」

 

 ともえは自分の携帯電話を取り出したけれど、萌音(モネ)の連絡先を呼び出すのをためらった。

 今頃萌音(モネ)はプーと二人の時間を過ごしている事だろう。

 そこを邪魔するのも悪いかと思われる。ならどうするか。

 

「ヤレヤレ。ここは俺にまかせロ」

 

 そこにテコテコやって来たのはラモリさんだ。

 今日はともえと萌絵とイエイヌの三人について来たラモリさんであるが、こういう時には頼りになる。

 期待の眼差しがラモリさんに注がれる中、彼はピコピコと胸のコアを明滅させる。

 どこかに通信でもしているのだろうか。

 やがてそれも終わったのか、ラモリさんは三人の方へ振り返る。

 一体何をしていたのか、イエイヌが代表して訊ねた。

 

「ええと……。ラモリさん。何をしていたんですか?」

 

 同じ事を思っていた、とばかりにともえと萌絵も同じ動きでもってうんうん頷いている。

 ラモリさんはやや得意気に胸をそらして答えた。

 

「遥……ああ、萌音(モネ)の母親の方。つまりルカの方だナ。ルカに連絡を入れタ」

 

 春香と遥。名前の音が一緒なだけにちょっとややこしい。

 けれど、遥はPPP(ペパプ)を擁するプロダクションの社長である。今もっとも忙しい人物ではないだろうか。

 そんな時に連絡するだけでなく、迎えに来てもらうだなんて大丈夫なのかとともえも萌絵もイエイヌも三人で顔を見合わせた。

 

「そこのところは問題ないゾ。遥も優秀だからナ。色んなところから連絡が来たところで捌き切れないはずがナイ」

 

 ラモリさんの口ぶりからすると、遥とラモリさんも知り合いだったのだろうか。

 

「まぁ、通信くらいはしてたゾ。色々と近況報告やら情報交換をしておいたおかげデ、今回のライブが決まったって部分もアル」

 

 心なしか、ラモリさんは得意気にえっへんと胸を逸らしているように見える。

 

「つ、つまりPPP(ペパプ)ライブはラモリさんのおかげなんだ!」

「えらい! ラモリさん!」

 

 PPP(ペパプ)ファンであるともえと萌絵は隠された裏事情にラモリさんをわっしょいと胴上げだ。

 全てが全てラモリさんの手柄というわけではないが、大きな役割を果たしていた事は間違いない。

 そうして目立っていれば、迎えの人だって見つけやすい。

 

「みんなして何してるの……」

 

 若干の戸惑いと共に声をかけて来たのはマセルカであった。

 何故か黒を基調としたパーティードレス姿だったが。

 

「おおお! マセルカちゃん! どうしたのそれ! 可愛いじゃない!」

「うんうん、似合ってる!」

 

 今度はドレス姿のマセルカにともえと萌絵が詰め寄る。

 

「はい。とてもお似合いです。可愛らしい感じがしますね」

 

 これにはイエイヌまで手放しで褒めてくれる。

 三人ともに褒められてマセルカはてれてれ、とばかりに頭を掻いた。

 

「そ、そうそう。こういう反応が欲しかったのにー。エゾオオカミったらね、ヒドいんだよっ」

 

 マセルカは先導して歩きながら、昨日エゾオオカミにセルシコウとオオセルザンコウの写真を送った時の事を話した。

 

「それは多分……」

「照れてるだけじゃない?」

「ですね」

 

 ともえも萌絵もそしてイエイヌまでもが同意見であった。

 

「でもでも、オオセルザンコウちゃんもセルシコウちゃんもすっごいカッコいいじゃない! 後でスケッチさせてもらってもいいかなぁ?」

「あ、アタシも! もちろんマセルカちゃんも一緒にスケッチさせて欲しい!」

 

 ともえと萌絵に詰め寄られて、最初マセルカは目を白黒させていたが「ぷっ」と吹き出す。

 何か可笑しかったかな? とともえと萌絵が顔を見合わせていると、後ろから声が掛けられた。

 

「マセルカは二人とも相変わらずだな、と言いたいのさ」

「ともえも萌絵もイエイヌもお手伝いありがとうございます」

 

 それは先程マセルカに携帯で見せてもらった時と同じ黒いスーツ姿のオオセルザンコウとセルシコウであった。

 

「「おおー!!」」

 

 写真で見ても格好良かったが本物はさらにいい。

 早速ともえと萌絵はオオセルザンコウとセルシコウにまとわりつくようにして観察していた。

 だが、オオセルザンコウがともえと目線を合わせてくれない。

 オオセルザンコウの視線の先にともえが回り込んでもぷい、と顔を逸らしてしまうのだ。

 そんなオオセルザンコウを不思議に思っていると、イエイヌがその理由を言い当てた。

 

「オオセルザンコウさんは照れているのかと。あの時のともえちゃんは格好よかったですからね」

 

 イエイヌが言っているのはオオセルザンコウがヨルリアンになった時の事だ。

 あの時の事はオオセルザンコウとともえとそしてイエイヌしか知らない。

 なので、萌絵もセルシコウもマセルカもラモリさんまでもが「そうなの?」とばかりにオオセルザンコウを見る。

 

「そそそ、そんな事はあったりなかったり……!?」

 

 真っ赤になったオオセルザンコウの顔には『図星』と書いてあるような気がした。

 

「なるほどー。これが『照れる』ね。エゾオオカミもこんな感じかー。ふーん」

 

 マセルカはオオセルザンコウの周りをぐるっと一周して観察した後、ニヤリと笑うとこう結論づけた。

 

「ならよし!」

 

 何がだ、と言いたい一同だったが、マセルカが何かに納得したのならそれでいいのだろう。

 ただ一つ思った。

 きっと今頃エゾオオカミは大きなクシャミでもしているだろう、と。

 そうやって皆で歩みを進めるうちに楽屋へ辿り着いた。

 表札には『PPP(ペパプ)様』と出ている。

 つまり、この先にPPP(ペパプ)がいるのだ。

 そう思うと、足が重くなる萌絵である。

 

「ね、ねえ。今さらだけどアタシ達が入ったりしたら迷惑にならないかな。ライブ前で集中してるだろうし……」

 

―グイッ

 

 そうやって気後れする萌絵の肩を後ろから来た誰かが引き寄せた。

 

「あぁん? んな事ねーだろ。通りすがりの正義の味方がせっかく来てくれたんだからな」

 

 萌絵がそちらを見ると、そこにいたのは……

 

「い、イワビーだぁっ!?!?」

 

 PPP(ペパプ)メンバーでイワトビペンギンのフレンズであるイワビーであった。

 イワビーはともえ達が驚きから回復する前に楽屋のドアを開けてしまう。

 

「あー。おかえりぃー」

「あら、イワビーさん。お客様もご一緒ですか?」

 

 そう言って出迎えてくれたのは最初がフンボルトペンギンのフルルで次がジェンツーペンギンのジェーンだ。

 

「ああ。萌音(モネ)から聞いているよ。来てくれてありがとう、クロスハート」

 

 そして最後がPPP(ペパプ)リーダーであるコウテイペンギンのコウテイだ。

 言いつつコウテイは萌絵の手を取って握手してくれた。

 真横にイワビー。目の前にコウテイ。

 心の準備が出来ていなかった萌絵は……

 

「はぅあ……」

「も、萌絵お姉ちゃあああん!?!?」

 

 感情のオーバーフローに耐え切れず気を失った。

 

 

の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の

 

 

―オォォオオォオオン……

 

 青龍神社では蒼と黒の光が激突した余韻で空気が震えていた。

 

「(ギリギリでしたね……)」

 

 セイリュウは先の攻防をそう評した。

 『蒼竜砲(ブラウ・ドラッヘ・カノーネ)』と『黒竜砲(シュヴァルツ・ドラッヘ・カノーネ)』はお互いに相殺。まずは互角と言ってよさそうだ。

 けれど、セイリュウの内心には焦燥が沸き上がる。

 

「中々ですね。こちらの世界のセイリュウ」

 

 何故なら唐突に現れて突然に大技を放ってきたセルセイリュウの方はまだまだ余裕綽々だったからだ。

 ここはセイリュウにとって最も力を引き出せる青龍神社という聖域だ。

 しかも先程放った『蒼竜砲(ブラウ・ドラッヘ・カノーネ)』は全力全開で放ったはず。

 なのにセルセイリュウにはまだまだ余裕があるように思える。

 現役を既に退いたセイリュウとセルセイリュウでは実力に明らかな差があるのだ。

 その事実にセイリュウの額には冷や汗が一筋。

 それを見てとったセルセイリュウは「ふふん」と胸を逸らし、片目を隠す決めポーズとともに口を開いた。

 

「ふっ……! セルゲンブとセルスザクを降した程度でいい気になってもらっては困ります。彼女達は四神の中でも小物!」

「あ……いえ。セルゲンブさんとセルスザクさんを倒したのは私というわけでは……」

 

 セイリュウはセルセイリュウの勘違いを正そうとしたが、どうやら聞く耳を持ってもらえてはいないようだ。

 だが、セイリュウも若い頃に一度は考えたセリフを目の前にいる異世界の自分が言っている事に軽い眩暈を覚える。

 

「ですが! 我は四神の中でも最強! 我らが! 女王からの信頼も! 最も篤いこのセルセイリュウが! 引導を! 渡して! あげましょうッ!!」

 

 それを無視してセルセイリュウは一文毎に決めポーズを変えながら宣言する。

 まるで昔の自分を見せられているようでセイリュウは両手で顔を覆った。

 

「ふっふっふ。恐れていますね、セイリュウ。それは仕方ないです。なんせ四神! 最強の! このセルセイリュウを前にしてしまったのですから!」

「あ。いいえ。その……黒歴史に心が痛いといいますか何と言いますか……」

 

 セイリュウにとって幸いなのは、娘のアオイが彼女の黒歴史に全く気付いておらず、きょとんとしている事だろうか。

 だが、ピンチは終わっていない。むしろ今からが本番と言える。

 何せセルセイリュウがこの青龍神社に殴り込みをかけて来たのだ。

 セイリュウは気を取り直しあらためて身構える。

 その様子を見てとったセルセイリュウは、はたと気が付いたように、逆に構えを解いて見せた。

 

「すみません。実は今日は別にあなた方と戦いに来たわけじゃなかったんですよ」

 

 セイリュウはそんなセルセイリュウの言葉を訝しんだ。

 では一体何をしに来たのか、と。

 セルセイリュウの視線はセイリュウの後ろに注がれていた。

 即ち、セイリュウの後ろに庇われていた萌音(モネ)とプーの二人に。

 

「今日、用があるのはそちらの歌巫女です」

 

 セルセイリュウが言うと同時、パチンと指を鳴らす。

 それに応じて、幾つもの小さな影がセルセイリュウの後ろから飛び出した。

 

拘束する弾丸(クーゲルシュライバー)

 

 それは黒色ボールペンの群れだった。

 

「(速い!?)」

 

 予備動作もなしで放たれた拘束する弾丸(クーゲルシュライバー)にセイリュウは反応出来なかった。

 黒色ボールペンの群れはそれぞれが弧を描き、セイリュウをかわして背後のプーへと迫る。

 が……。

 

「させないわよ……!」

 

 そうは問屋が卸さない。

 プーは萌音(モネ)が守っているのだ。

 

「バチバチッ! ダブルッ!! Vッ!!!」

 

 萌音(モネ)は背負ったギターケースから愛用のエレキギター『バチバチ・ダブルV』を引き抜きざまに一閃!

 

―ギュィイイイン……!

 

 萌音(モネ)の意思を受けた『バチバチ・ダブルV』は雷を纏い、一振りで全ての黒色ボールペンを薙ぎ払う。 

 そのまま萌音(モネ)はセイリュウの隣に並び立つと、『バチバチ・ダブルV』のヘッドをセルセイリュウへ向けた。

 

「狙いがプーなのはわかったけど、残念だったわね。これで二対一よ」

 

 セイリュウは隣に来てくれた萌音(モネ)へ視線を送る。

 一体誰だろう、と。

 

「はじめまして。セイリュウ様。私は浦波 萌音(モネ)

「浦波……という事はもしかして遥さんの…?」

 

 どうやら短いやり取りだけでもセイリュウは萌音(モネ)が味方だとわかってくれたらしい。

 先程まで庇うようにしていたのを、背中を預けるようにしてくれた。

 それに、ニヤリと萌音(モネ)は笑みを返す。

 

「蒼き竜公女のお噂は母から伺っています……ってあれぇ!? セイリュウ様!? 急にしゃがみこんでどうしました!? もしかしてどこか怪我!?」

「あ……い、いいえ……。その……昔の古傷が疼いたといいますか何と言いますか」

 

 まさか知り合いの娘にまで黒歴史を掘り起こされるとは思ってもいなかったセイリュウである。

 しかもその子が自分の娘とそんなに変わらないくらいの年齢であれば、ショックも尚更だ。

 

「いいですね……その二つ名。セイリュウが蒼き竜公女ならば、我はさしずめ黒き竜皇女……といったところですか。うんうん。中々いいじゃないですか」

 

 しかもセルセイリュウまで乗ってくる始末。

 さすがにそれにはセイリュウも絶叫してしまった。

 

「貴女、本当に何しに来たんですか!?」

 

 そのツッコミに萌音(モネ)もプーも境内の影で成り行きを見守っていたアオイやシロ達も「そういえば」と思い出した。セルセイリュウはプーを狙ってやって来た事を。

 セルセイリュウもセイリュウのツッコミにうんうん頷いてから言葉を紡ぐ。

 

「そうでした。色々語り合うのはいずれこの世界を我らが女王に捧げてからでも遅くないですね。今は我の使命を果たさせていただきましょう」

 

 そしてセルセイリュウは懐から黒いビー玉のような物を取り出した。

 もしもこの場にオオセルザンコウやセルシコウやマセルカがいればそれがセルリアンを生み出す道具である『シード』だと気づいただろう。

 だが、この『シード』にはオオセルザンコウ達が知らないもう一つの機能があった。

 

「出でよ! ゴーンベルッ!」

 

 セルセイリュウが叫びつつ、手にした『シード』を境内の石畳に叩きつけた。

 

―パキン

 

 『シード』は軽い音を立ててあっさりと砕け散った。

 本来であれば、そこから中に封じ込められた『セルリウム』が吹き出して、それが何かに憑りつく事でセルリアンを生み出すはずだ。

 が、セルセイリュウの放った『シード』から吹き出した『セルリウム』はモゴモゴとその場で蠢き大きさを増していく。

 それは最初指先程度の塊だったのが、すぐに拳大になり、程なくして萌音(モネ)達の背丈を追い抜き、やがて鳥居と同じ程度まで巨大になってしまった。

 

―ギョォオオオオオオオオッ!!

 

 咆哮をあげるその威容を一言で言うならばお寺にある大きな鐘だ。

 大きな吊り鐘の胴体にはまん丸の一つ目がついている。

 さらに胴体からは丸をいくつも繋げたような一本の腕が伸び、その先に鐘をつく為の撞木が備えられていた。

 

「これで二対二ですね」

 

 ゴーンベルが現れた事に、セルセイリュウはニヤリとして見せた。

 ここまでしておいて、まさか仲良くしに来たという事もあるまい。

 セイリュウと萌音(モネ)は揃って構えを取る。

 

―ギョォオオオオオッ!!

 

 抵抗の意志を見せた二人に、ゴーンベルは巨大な撞木を振りかぶってそれを叩きつけた!

 

―バッ

 

 セイリュウと萌音(モネ)は左右に散ってそれをかわす。

 空振りに終わった撞木はそれでも石畳に盛大なひび割れを穿つ。

 

「なんてパワー……!」

 

 それを見た萌音(モネ)の背筋には冷たいものが走る。

 正面からの打ち合いは得策じゃない。

 

「なら、私が壁を……!」

 

 セイリュウは新たにお札を構えると萌音(モネ)の前に防御壁を張ろうとした。

 けれど……。

 

「貴女の相手は我ですよ! セイリュウッ!」

 

 そこにセルセイリュウが再び拘束する弾丸(クーゲルシュライバー)を連射してくる。

 四方八方から襲い掛かってくる黒色ボールペンの群れに、セイリュウは準備したお札を自分の為に使わざるを得なかった。

 

―ガキキィンッ!!

 

 セイリュウの張った結界はセルセイリュウの拘束する弾丸(クーゲルシュライバー)を弾き火花を散らす。

 どうにか防ぎ切る事は出来ているが、少しでも気を抜けば防御を破られそうだ。

 

「こ、これでは文字通り釘付けじゃないですか……!」

 

 セイリュウは攻撃を防ぎながらも萌音(モネ)の方を見る。

 この状態では萌音(モネ)を援護する事は出来ない。セルセイリュウの狙いはこれだったか。

 相手の策にハマった形ではあるが、セルセイリュウだってセイリュウを足止めするので手一杯だ。

 ならばセイリュウは決意する。少しでも隙あらば逆撃を喰らわせてやろうと。

 けれど、いくらあの遥の娘とはいえ、あれだけ巨大なセルリアンをたった一人で相手どれるのか。

 ゴーンベルは撞木をぶんぶん振り回して萌音(モネ)に襲い掛かっていた。

 

「プーは下がってて!」

 

 萌音(モネ)は敢えてゴーンベルの懐へ飛び込む。自ら囮になる事でプーが狙われないようにしたのだ。

 その分彼女は嵐のような攻撃に見舞われる事になるのだが、そこは小回りを活かして身をかわしていた。

 

「(けど、いつまでもこうしていられないわね)」

 

 戦況は芳しくない。

 今は均衡を保っているものの、押されているのは萌音(モネ)達の方だ。

 特にセイリュウはセルセイリュウの猛攻を防ぐだけで手一杯である。出来る事なら加勢したいがその為にはゴーンベルを倒さなくてはならない。

 

「って事は攻撃あるのみね!」

 

 萌音(モネ)は意を決すると『バチバチ・ダブルV』を振りかぶりつつゴーンベルの懐へ飛び込む!

 めちゃくちゃに振り回される撞木も、懐へ飛び込んでしまえば攻撃の死角に入れる。

 

「It's Rock'n'Roll Time!」

 

 ゴーンベルへ肉薄した萌音(モネ)は『バチバチ・ダブルV』に雷光を纏わせると一気に振り下ろした!

 

―ゴィイイイイン!

 

 『バチバチ・ダブルV』を叩きつけられたゴーンベルは見た目通り鐘の音を周囲に撒き散らす。

 それを至近距離で浴びてしまった萌音(モネ)はグラリと体勢を崩した。

 

「くぅっ!? 打撃攻撃にはこれで反撃してくるわけね!?」

 

 あまりの音で萌音(モネ)は平衡感覚を狂わされていた。

 けれど、それだって一瞬。後ろから撞木の一撃を狙って来ているのだって気づいている。

 体勢を立て直した萌音(モネ)は一度離脱して追い打ちを回避した。

 だが、ゴーンベルの狙いはそれだけではなかった。

 撞木の一撃は萌音(モネ)を背後から狙っていた。即ちゴーンベル自身へ向けて撞木を振り抜いている。

 本来であれば、自らを攻撃するなんて自爆行為以外の何者でもない。

 しかし、ゴーンベルは吊り鐘のセルリアンだ。撞木を本来の用途で使ったのである。

 

―ゴィイイイイイイイイイン!!

 

 先程よりも大きな音が周囲に響く。

 見守っていたプーも境内に隠れていたアオイやシロやホワイトタイガーにコイちゃんも思わず耳を覆ってしまう程だった。

 いくら離脱して距離を取ったと言っても、その影響を一番受けたのは萌音(モネ)である。

 

「あわわわわ……」

 

 先に浴びた物よりも強力な音に萌音(モネ)はガクリと膝をつく。そうしないと転んでしまいそうな程に平衡感覚を狂わされていた。

 強力な音はそれだけでも武器になる。萌音(モネ)だってよく知っている事だ。

 萌音(モネ)の動きを止めたゴーンベルはゆっくりと彼女へ近づき、撞木を振り上げる。

 そこにセルセイリュウが待ったをかけた。

 

「ゴーンベル。我らが女王の望みは歌巫女です。捕えなさい」

 

 セルセイリュウの命令を受けてゴーンベルはグルリとプーへ振り返る。

 

「うそ……。セルリアンが命令を聞くだなんて……」

 

 プーはその事実に唖然としてしまっていた。

 迫る巨大なゴーンベルに逃げる事すら出来ない。

 

「我は四神が一柱。知性も持たない低級セルリアンを従わせるくらい造作もありませんよ」

 

 セルセイリュウはセイリュウを釘付けにしながらもまだ答えてくれる余裕があるらしい。

 セイリュウの援護も萌音(モネ)の回復も間に合いそうにない。

 これ以上ないピンチだ。

 

「待ちなさいよ……!」

 

 萌音(モネ)は無理やり立ち上がる。

 まだ視界がグラグラ揺れて、戦うどころか歩く事すら難しい。

 それでも萌音(モネ)は『バチバチ・ダブルV』を今度は順手に構えた。

 セルリアン退治の武器としてではなく、純粋な楽器としての役割を全うする演奏体勢だ。

 

「Come'on! Rock'n'Roll!!」

 

 萌音(モネ)はギターピックを取り出すと『バチバチ・ダブルV』をかき鳴らす。

 アンプに繋がれていないはずの『バチバチ・ダブルV』は、しかしゴーンベルの鐘に負けぬ大音量を生み出した。

 『バチバチ・ダブルV』はセルリアンと戦える武器だけあってただのエレキギターではない。サンドスターバッテリーを内蔵しており短時間ならばアンプなしでも大音量の演奏が可能なのだ。

 その大音量はさすがにゴーンベルも無視出来なかった。再び萌音(モネ)へと向き直る。

 

―ギョォオオオオッ!

 

 ゴーンベルはその巨体で萌音(モネ)に踏みつけ攻撃を仕掛ける。

 未だ平衡感覚を取り戻せていない萌音(モネ)にはそれをかわす術はなかった。

 

―ズゥウウウン!

 

 萌音(モネ)の姿はゴーンベルの下敷きになったように見えた。

 だが、ゴーンベルは吊り鐘のセルリアンだから中は空洞である。

 踏みつぶされるという最悪の事態は避けられたが、萌音(モネ)はゴーンベルの中に閉じ込められた格好になってしまった。

 ゴーンベルは当然そこで手を緩めたりはしない。

 撞木を大きく振りかぶると再び自身の身体目がけて振り下ろした!

 

―ゴォオオオオオオオン!

 

 再び辺りに鐘の音が響く。

 その轟音にプーは思わず自身の耳を塞いだ。

 だが、その強烈な音をゴーンベルの体内で受けた萌音(モネ)は一体どうなってしまうのか。

 

萌音(モネ)!?」

 

 思わず叫んだプーだったが、ゴーンベルは無情にも追撃の手を緩めない。

 撞木を何度も振りかぶっては自身の胴体に叩きつけ、その度に鐘の轟音が響き渡る。

 散々に鐘を鳴らしたゴーンベルは、さすがにこれだけやれば仕留めたろう、と手を休めた。

 

「も、萌音(モネ)……?」

 

 戻って来た静寂にプーの呟きだけが響く。

 果たして萌音(モネ)はどうなってしまったのか。

 あれだけの轟音をモロに浴びていたのなら、無事であるとはとても思えない。

 だが、プーは気が付いた。戻って来た静寂の中に小さな小さな音が混じっている事に。

 それはエレキギターの音だ。

 ゴーンベルの中からかすかに漏れ出して来るエレキギターの音にプーは顔を輝かせた。

 何故ならそれはPPP(ペパプ)の代表曲である『大空ドリーマー』のメロディであり、その癖は萌音(モネ)のものだったのだから。

 

―ギュィイイイイン!!

 

 ゴーンベルに負けるとも劣らない大音量でエレキギターの音が響くと同時、バチンとゴーンベルの巨体が弾き飛ばされた。

 当然その中にはエレキギターを構えた萌音(モネ)がいる。もちろん無事な姿で。

 

「目には目を。歯には歯を。音には音ってわけよ」

 

 そう言ってニヤリとしてみせる萌音(モネ)は音を操る浦波流サンドスター・コンバットの戦士だ。

 自らの音で相手の音を打ち消すくらいの芸当は出来る。

 そして、音は先にゴーンベルがやって見せたように人体に影響を与える事だって出来る。

 悪影響を与える事も出来るのならば逆もまた然り。音でもって鼓舞する事だって出来るのだ。

 それを音楽と呼ぶわけだが、その極みこそが萌音(モネ)の切り札であった。

 

「変身……!」

 

 エレキギター『バチバチ・ダブルV』をかき鳴らす萌音(モネ)はそう一言呟いた。

 『大空ドリーマー』の最後の一小節を弾き終わると同時に、萌音(モネ)の身体がサンドスターの輝きに包まれる。

 

「スノーホワイトッ!!」

 

 サンドスターの輝きが散って萌音(モネ)の姿が現れた時、その黒髪は雪のように真っ白になっていた。

 その瞳は赤色に変化する。

 まるでアルビノと呼ばれるような姿だ。

 スノーホワイトと化した萌音(モネ)は再び『バチバチ・ダブルV』のヘッドをゴーンベルに突きつけると言い放つ。

 

「1分30秒だけ付き合ってあげる」

 

 スノーホワイト化は萌音(モネ)の持つ最大の切り札だ。

 音を使って体内サンドスターを最大限まで活性化させて爆発的な身体能力を得る。

 その代わり、それを維持できるのは1分30秒が限界だし連続使用だって出来ない。

 だが、萌音(モネ)はその時間内でセルリアンを仕留め損なった事はないのだ。

 

「それじゃあ……! Let's Rock'n'Roll!」

 

―ダンッ!!

 

 踏み込んだスノーホワイトの姿が掻き消えたように見えた。

 次に現れた彼女は既にゴーンベルへ肉薄している。

 

「浦波流……ッ! サンドスター・コンバットォオオオオッ!!!!!!!!」

 

 そこから放たれるのはスノーホワイトの豪快な上段蹴りだ。

 小さな身体のスノーホワイトが放った蹴りはしかしそれでもゴーンベルの巨体を吹き飛ばし、石畳みへ叩きつける!

 

―ゴォィイイイイイィイイン!!!!

 

 その際に響いた鐘の音は今日一番の大きさだった。

 実はそれ自体がゴーンベルの自動反撃でもある。打撃を受けた際に自動的に大音量の音を攻撃者に浴びせかけるのだ。

 けれど、そこは萌音(モネ)の変身したスノーホワイトである。

 

―ギュィイイイイン!!

 

 再び『バチバチ・ダブルV』を一鳴らし。音を音で相殺してみせる。

 その一鳴らしはスノーホワイトの攻撃予備動作にもなっていた。

 それを受けた『バチバチ・ダブルV』はその名の通りにバチバチと音を立てる雷鳴を纏う。

 

「ひぃいいいっさつ!!」

 

 スノーホワイトは『バチバチ・ダブルV』を振りかぶると高らかに技名を叫んだ。

 

「サンダァアアアアアッ!! クラァアアアアアアアッップ!!!!」

 

 『バチバチ・ダブルV』が纏う雷鳴が激しさを増す。

 スノーホワイトはそれを倒れたゴーンベルへ叩きつけた。

 狙いは吊り鐘を吊るす為の接続部だ。

 先程、ゴーンベルの体内に閉じ込められたからこそ気付いていた。その裏側、鐘の内部頂点に『石』がある事を。

 叩きつけられた『バチバチ・ダブルV』の雷が、ゴーンベルの身体を伝い、裏側の『石』を……。

 

―パッカァアアアアン!

 

 と砕いた。

 『石』を砕かれたゴーンベルの身体もすぐにサンドスターの輝きに還る。

 これでまずは一体。残るはセルセイリュウのみである。

 セルセイリュウはといえば、攻撃の手を止めていた。

 それどころか……。

 

「お見事です」

 

 パチパチと拍手すらしていた。

 再び二対一の状況に陥ったというのに随分と余裕ではないか。

 いまさら攻撃の手を休めたからと言って見逃すわけはない。

 セイリュウとスノーホワイトと化した萌音(モネ)は再びセルセイリュウと相対した。

 それでもセルセイリュウは余裕の態度を崩す事なくニヤリとする。

 

「頃合いですね」

 

 何が、と訊ねる前に一陣の風が舞った。

 それはセイリュウとスノーホワイトの間を吹き抜けると、後ろにいたプーを掻っ攫う。

 

「なっ!?」

 

 宙へ舞い上げられたプーの姿を見てスノーホワイトは驚きを隠せない。

 そんな強力な風を巻き起こせるのはただ者ではあるまい。

 プーを掻っ攫った風はフレンズの形をとると言った。

 

「セルセイリュウ。少し遊び過ぎではないか? 待ちくたびれたのだぞ」

「すみません。セルビャッコ」

 

 風が変化して現れたフレンズはシロによく似ていた。

 それもそのはず、異世界のビャッコがセルリアンフレンズとなったセルビャッコなのだから。

 

「それでは歌巫女は貰っていくのだ」

 

 セルビャッコはさらに、灰色の巨大な虎へと姿を変える。その口にプーを咥えたまま。

 その巨大な虎の背にセルセイリュウが飛び乗る。

 

「では、ご機嫌よう」

 

 セルセイリュウが言うと同時、巨大な虎は風を纏い駆け去って行く。

 あまりのスピードでセイリュウもスノーホワイトも即座に反応できなかった。

 

「ちょ、ちょっと待ちなさい!!」

 

 慌てて追いかけようとしたスノーホワイトだったがガクリと膝を付く。

 その白く輝く髪にいつもの黒色が戻り、瞳の赤い輝きも納まり元の萌音(モネ)へと戻ってしまった。

 時間切れだ。

 萌音(モネ)はスノーホワイト化が終わった直後にはまともに動く事すら困難になる。

 当然待てと言われて待つセルビャッコ達ではない。

 萌音(モネ)を後目にプーを連れ去って行ってしまった。

 

「待てって言ってるでしょう……ッ!!」

 

 萌音(モネ)は歯を食いしばり、無理やりに立ち上がる。

 震える足にへこたれるなと自らの拳で活を入れると、靴に仕込まれたインラインスケート『DX(デラックス)ゴーゴージェットローラー』を起動させた。

 

「プーを返しやがりなさいッ!!!」

 

 セイリュウが制止する前に、萌音(モネ)はインラインスケートで青龍神社の大階段を駆け下りて行った。

 セイリュウも萌音(モネ)を追いかけたいが、果たして追いかけて役に立てるかどうか。

 そもそも、セルビャッコと萌音(モネ)を追いかけられるだけの足がない。

 

「ですが、まだやれる事はありますね」

 

 セイリュウは神主服の袖から、今度は自分の携帯電話を取り出すのだった。

 

 

―⑤へ続く

 




【アイテム紹介:バチバチ・ダブルV』

 エレキギター『バチバチ・ダブルV』は浦波 萌音(モネ)の使う武器である。彼女の母である浦波 遥の手で制作されている。
 Vの字を上下逆さまに二つくっつけたようなヘッドが特徴のエレキギターだ。
 当然普通のギターではなく、萌音(モネ)のサンドスターに反応するよう調整されている。
 内部にはサンドスターバッテリーを内蔵しており短時間であればアンプなしでも大音量を生み出す事が出来る。
 だが、それはあくまで副産物。主な機能はサンドスターバッテリーから供給されたエネルギーを萌音(モネ)の意志で雷撃へ変換する事にある。
 その際のスパーク音が『バチバチ・ダブルV』の由来だったりもする。


【ヒーロー紹介:スノーホワイト】

 浦波 萌音(モネ)が変身した姿。
 変身とは言ってもフレンズの力を借りているわけではないのでクロスハートの変身とは全く別物である。
 浦波流サンドスター・コンバットの奥義とも言うべき技だ。
 専用の楽器を用いて体内サンドスターを極限まで活性化させる事により爆発的な身体能力を発揮する。
 その際、髪が白く変化し、瞳も紅くなる。アルビノと呼ばれる見た目に近い。
 この技は1分30秒しか保たず、連続使用も出来ない。
 また使用後はかなりの疲労を伴う。
 萌音(モネ)の持つ最大の切り札であるが、その反動も大きい。
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