玄武峠の山頂ではクロスシンフォニーとセルビャッコの戦いが始まっていた。
『行くのだ!』
巨虎と化したセルビャッコは雷光を纏って体当たりを仕掛ける。
『のわぁあっ!? 速い!? 速いのだっ!?』
心の中でアライさんが驚くのも無理はない。
セルビャッコが司るのは風。四神の中でもスピードならば誰にも負けない。
『サーバルシルエットを選んでいたのは僥倖だったのです』
『かばん。一旦距離を取るのです』
博士と助手の助言に従い、クロスシンフォニーはセルビャッコの突撃から身をかわす。
クロスシンフォニーの中で最も瞬発力とスピードに優れるのはサーバルシルエットだ。
それでも雷光を纏って突撃してくる巨虎の速さは尋常ではなく、辛うじて距離を取るのが精いっぱいである。
「しかも悪い事に…………」
クロスシンフォニーの額に冷や汗が滲む。
巨虎の纏う雷光は攻防一体の能力だ。
体当たりの威力を引き上げるだけでなく、下手に近接攻撃を仕掛けようものなら、反対に感電させられるだろう。
『どうしたのだ、クロスシンフォニー! セルスザクを倒したのはまぐれというわけではあるまい!』
クロスシンフォニーはサーバルシルエットの脚力を活かして、セルビャッコの突撃をかわし続けてはいるものの、反撃の糸口が見つからない。
距離を取るクロスシンフォニーに対してセルビャッコは空中に氷の飛礫を生み出すと、それをショットガンのように撃ち出して来た!
「くっ!」
思わぬ遠距離攻撃が飛んで来た事に、クロスシンフォニーは焦りを覚える。
さらにもう一度跳躍して氷の飛礫をかわした。
そして気づく。
「そうか……」
『え? かばんちゃん、何かわかったの?』
心の中で問いかけるサーバルにかばんは頷いた。
「うん。あの突撃は想像以上に厄介なんだ」
どういう事だろう、と心の中でかばんを除く全員が小首を傾げる。
「皆さん、カミナリがどう発生しているのか知っていますか?」
その問い掛けに博士と助手がハッとする。
だが、サーバルとアライさんはそれでもピンときていないようだ。
『えぇーっと、空の上でカミナリさまが太鼓を叩いているのだ?』
『そうそう。おへそ隠しておかないとカミナリさまに取られちゃうんだよね?』
アライさんとサーバルの答えに、博士と助手は嘆息する。
『まったく、二人とも。小学生ではないのですから』
『雲の中で、雹がぶつかり合う事で静電気が発生するのです。その静電気がカミナリの正体なのです』
博士と助手の説明をフェネックが引き継いだ。
『その発生した静電気が雲に帯電するんだけど、それが溢れると落雷が起きるわけだねー』
その解説に、アライさんとサーバルは『おぉー』と思わず拍手してしまう。
『けど、それがどうしたのだ?』
アライさんが再び小首を傾げる。
「つまり、セルビャッコさんは自分で生み出した小さな雹を自分の風でぶつけて稲妻を作っているんです」
かばんの答えに再びアライさんとサーバルが『おぉー』と感嘆するものの、すぐに再び小首を傾げる。つまりどういう事?、と。
『つまり、セルビャッコの周囲では目に見えない程小さな雹が高速でぶつかり合っているという事です』
『迂闊に飛び込んでいたらズタズタだったのです』
嘆息しつつも博士と助手が解説してくれた事に、サーバルとアライさんは肝を冷やした。
それはどうやらその通りで、セルビャッコは巨虎の顔をニヤリと歪ませる。
『さすがにクロスシンフォニーなのだ。安い挑発には乗ってくれないのだ』
セルビャッコの纏う雷光自体も決して侮れるものではないが、どちらかと言えば目くらましだ。
最も脅威なのはセルビャッコの周囲を高速で飛び回る小さな雹だった。
『まずは、我の能力を見破った事は褒めてやるのだ。けれど、どうやって打開するのだ?』
セルビャッコの問い掛けにもクロスシンフォニーは答えを返せない。
セルビャッコのやっている事は単純だ。
自身の能力で生み出した雹と、その副産物である雷光を纏って突撃してくるだけだ。
だが、単純であるだけにその対処は難しい。
『さて、どうするのかお手並み拝見といくのだ!』
クロスシンフォニーに対処法を考える余裕など与えない、とばかりにセルビャッコは再び突撃を仕掛ける。
今はサーバルシルエットの強靭な脚力で攻撃をかわす余裕がある。
けれど、何度もそれを続ければ先にバテるのはクロスシンフォニーの方だ。
動きが鈍れば、いずれ攻撃をかわしきれなくなる。
そして、体当たりを一度直撃させれば、それでセルビャッコの勝ちであろう。
『どうするのです? かばん』
博士の問い掛けに、クロスシンフォニーチームの誰もがかばんの言葉を待つ。
「はい。こうなったらアレを使おうかと思います」
アレとは一体。
だが、その一言だけでクロスシンフォニーチームの皆には伝わったようだ。
『けれど、アレはまだ試作段階だったはずですよ? 大丈夫ですか?』
助手が懸念を示すが、サーバルとアライさんはノリ気だった。
『大丈夫だよ! だってドクター達が作ってくれたんだもん!』
『そうなのだ! アレを今使わずにいつ使うのだ!』
やる気十分といった二人と心配そうな助手を見かねてフェネックが言う。
『まぁ、心配になるのもわかるよー。でも、かばんさんが考えてる作戦に使うなら今の状態でも十分じゃないかなー』
どうやらフェネックはかばんが何をしようとしているのかまで分かっているらしい。
それで助手もかばんが何をしようとしているのかに気づいた。
『仕方ないのです。コレで作れるチャンスはおそらく一度が限界でしょう。全員、気合入れるのですよ!』
助手も覚悟が決まった。
全員が「おー!」と返事を揃えて準備完了だ。
幾度目かになるセルビャッコの突撃をクロスシンフォニーはサーバルシルエットの跳躍力でかわし、大きく距離を離す。
着地した先にはジャパリバス改があった。
何かあるのかと思ったセルビャッコであるが、警戒するよりもここは攻めを貫く。
『何を狙っているのか知らないけれども、全部喰い破ってやるのだ!』
クロスシンフォニーが距離を離したのならば、ここはセオリー通りに遠距離攻撃だ。
セルビャッコは無数の雹を中空に出現させると、それを飛礫としてクロスシンフォニーとその後ろに控えるジャパリバス改へ浴びせかけた。
対するクロスシンフォニーは左腕を胸元に引き寄せる。
変身の際と同じポーズではあるが、それで一体何が出来るのか。
クロスシンフォニーは左腕につけた腕時計のような物、『シンフォニーコンダクター』へ向けて叫ぶ。
「ラッキーさんっ! トランスフォームッ! ジャパリロボッ!!」
と。
叫びに応えてジャパリバスのヘッドライトがギラリと輝く。
「マカセテ」
ラッキービーストが言うと同時、ジャパリバスが
後部客車部分が展開し、前輪部が腕へ。後輪部は脚へ、それぞれに変形する。
そして、ラッキービーストの乗る運転席部分が胴部になった。
その姿は明らかに人型のロボットだ。
これで頭部があれば完璧だったろうに。
『んななななっ!?!?』
これには流石にセルビャッコも驚きの声をあげた。
なんせ、目の前には全長3mくらいにもなる人型ロボットが急に現れたのだから。
セルビャッコの驚きを余所に、ジャパリロボは両腕で覆い包むようにしてクロスシンフォニーを隠した。
―カカカンッ!
セルビャッコの放った雹はジャパリロボの腕部で弾き返された。
『おぉー! ボスッ! 今日は本当にカッコいいねー!』
「マカセテ。マカセテ」
サーバルの声が聞こえていないはずのラッキービーストだったが、それでもコクピット部と化した運転席でピョンピョン飛び跳ねていた。
「じゃあ、ラッキーさん! 行きますよ!」
クロスシンフォニーの叫びに、やはりラッキービーストは「マカセテ」と返す。クロスシンフォニーチームの皆だけは、その声がいつもよりテンション高いのがわかっていた。
ラッキービーストの張り切りに応じてというわけではないが、ジャパリロボは脚部のタイヤを軋らせクロスシンフォニーを隠したままセルビャッコへ向けて突撃!
『んななななぁっ!?!?』
迫りくるジャパリロボにセルビャッコも慌てた。
だが、よくよく考えれば接近戦なら望むところではないか。
セルビャッコは自らが纏う突風の結界に目に見えない程小さな雹を混ぜ込む。
雹同士がぶつかり合う事で静電気が発生し、さらにカミナリへと成長する。
攻防一体となるセルビャッコの得意技だ。
『さあ、来るならこいなのだ! クロスシンフォニー!』
セルビャッコの予想はこうだ。
ジャパリロボを盾にして肉薄したクロスシンフォニーは、そのままジャパリロボで風の流れを遮って結界を力任せに解くつもりだろう。
さらにセルビャッコを守る第二の鎧であるカミナリだって金属を使っているジャパリロボなら一度くらいは避雷針代わりになる。
『(確かにこっちの防御は無効化できるかもしれないのだ……。けど、こっちの攻撃までは予想できてないのだ!)』
クロスシンフォニーを覆い隠し防御しているジャパリロボの腕が解かれた時がチャンスだ。
そこで溜め込んだカミナリを放電してやればいい。
もしかしたらカミナリ自体はジャパリロボが避雷針となって防ぐかもしれない。
だが、そこから先にクロスシンフォニーを守るものはない。
『(カミナリの閃光はいい目くらましになるのだ。出鼻をくじいたところで我の牙なり爪なりで引き裂いてくれようなのだ!)』
突っ込んで来たジャパリロボが両手を解いて、セルビャッコの張った風と雹の結界に突っ込んで来る。
予想通り、ジャパリロボの両腕はぶつかって来る雹をものともせずに風を遮った。
突風を止める事で雹も止まり静電気も発生しなくなった上に、装甲となっている金属を伝って電気も逃がされる。
たったの一手でセルビャッコの纏う鎧は無効化された。
『だがっ!』
セルビャッコは予め決めていた通りに、毛皮に帯電していた稲妻を解き放つ。
―ビシャァアアアン!
狙いもつけずに放った稲妻だったが、狙い通り轟音と共に激しい稲光は発生してくれた。
稲妻自体はジャパリロボの腕が避雷針となってクロスシンフォニーに届かないが、この轟音と閃光に怯まない者などいない。
『貰ったのだ! クロスシンフォニー!!』
ジャパリロボが解いた腕の中から現れたクロスシンフォニーに向けて、セルビャッコは虎の鋭い爪を全力で振るった。
クロスシンフォニーは微動だにせずにその爪で引き裂かれる……が。
―スカッ
あまりにも手応えがなくて逆に攻撃を仕掛けたセルビャッコの方が面食らってしまった。
それどころか爪で引き裂いてやったというのに、クロスシンフォニーは苦悶の表情を浮かべるでもない。
『ど、どうなっているのだ……!?』
セルビャッコがよくよく目を凝らしてみれば、クロスシンフォニーの姿は半透明で向こう側が透けて見える。
さらに注意深く観察してセルビャッコは気が付いた。
『幻覚か!』
当たらずも遠からず。
ジャパリロボの運転席にいるラッキービーストの胸についたレンズから、クロスシンフォニーの立体映像が投影されていた。
それが先程セルビャッコが引き裂いた物の正体である。
なら、本物のクロスシンフォニーは一体どこに?
思った瞬間、セルビャッコの足元がガクリと沈み込んだ。
何事かとセルビャッコが足元を見れば、一体いつの間にか、その足元は柔らかい砂にかわっていた。
しかもそれは渦を巻いてセルビャッコを呑み込まんとしている。
こんな事が出来るのはクロスシンフォニーしかいまい。
おそらく、ジャパリロボの腕に隠されていたうちに地中へと逃れて何か細工をしたのだろう。
予想通りというか、渦巻く砂の中からセルビャッコとは逆に浮かび上がってくる者があった。
『「なぁーっはっはっは!」』
高笑いと共に現れたのはクリーム色と黒で彩られたチェック柄のミニスカートに紫のベストにピンク色のブラウスを着たフレンズだった。
首元を彩る蝶ネクタイは黒とクリーム色だし、大きな黒い耳と先端だけが黒いクリーム色の尻尾は何の動物なのかよくわからない。
『「いやぁー。かばんさんの声と顔でアライさんのテンションだと違和感すごいねー」』
現れたフレンズがそんな事を言い出すものだから、セルビャッコはわけがわからない。
『「それでも! それでもアライさんはセルビャッコに一言いってやらないと気が済まないのだ!」』
一体何を言うのだろう。と思っていると現れた不思議なフレンズはビシリとセルビャッコを指さして続きを言い放った。
『「やい! セルビャッコ! お前、アライさんとキャラが被っているのだ!!」』
そんな事か。
と全員が呆れ返る中、現れたフレンズは言いたい事を言ってやったと満足気である。
呆れはしたが、セルビャッコも目の前のフレンズが何なのかようやくわかった。
『トリプルシルエット……!』
そう。
目の前の不思議なフレンズはアライグマとフェネックギツネのトリプルシルエットに変身したクロスシンフォニーなのだ。
『「それじゃあ、このままやらせてもらうのだっ!」』
セルビャッコを呑み込む砂の渦がさらに加速する。
『「ひっさぁーつ」』
なんだか間延びしたフェネックのような口調の後に……
『「アライ・デザートッ!ウォッシングゥウウウウッ!!」』
アライさん風ハイテンションで宣言するクロスシンフォニー。
砂の渦はさらに加速し、一気にセルビャッコを呑み込む。
まるで洗濯機の中にでも放り込まれたようにセルビャッコは揉みくちゃにされてしまう。
『(こ、このままではまずいのだ……!)』
セルビャッコは焦る。
地中に引きずり込まれた事でまともに動く事は出来ない。
だが、クロスシンフォニーの方は地中である事をものともせずにトドメの一撃を狙っているようだ。
『だったらっ!』
クロスシンフォニーがセルビャッコの額についた『石』を狙ってトドメの一撃を放つのに合わせて、セルビャッコは巨虎化を解除して元のフレンズへと戻る。
『「んなっ!?!?」』
当たったはずの一撃がまったく手応えがなくて、クロスシンフォニーはアライさんの声で驚きの声をあげた。
それもそのはず、今のセルビャッコは巨虎ではなく小さなフレンズへと戻っているのだから。
しかも、そのおかげでほんの一瞬、地中に隙間が出来る。
「今なのだ!」
セルビャッコは残った全力でほんのわずかに生まれた隙間に風の結界を差し込む。
そのまま風の結界を下方向に放って何とか地中から脱出した。
「はぁはぁはぁ……あ、危なかったのだ……」
セルビャッコは風を操り、空中にまで逃れる。
下を見れば、クロスシフォニーもまた地上へ追って来ていた。
どうするか、とセルビャッコは自問する。
相手が思っていた以上に手強い事は理解した。だが、ここで死力を尽くせばまだまだ戦えるだろう。
しかし、ここでそれをする意味はない。
なので、ここは逃げる方がいい。セルセイリュウだってきっと自力で何とかするだろう。
そこまでを決めると、セルビャッコは地上のクロスシンフォニーにビシリ!と指を突き付ける。
「やい! クロスシンフォニー!!」
セルビャッコが何を言うつもりなのか、クロスシンフォニーは続く言葉を待つ。
「覚えてろなのだぁあああああああっ!!!」
清々しいまでの捨て台詞を残してセルビャッコは空の彼方へと逃げて行ってしまった。
思わず呆気に取られたクロスシンフォニーは追いかける事も忘れて見送ってしまう。
そして、すっかりセルビャッコが見えなくなってからポツリとフェネックが言った。
『いやぁー。やっぱりアライさんとキャラ被ってるかもねぇ』
心の中で博士も助手もサーバルもかばんも、ついでにジャパリロボのコクピットにいるラッキービーストまでもが頷いていたが、ただ一人アライさんだけは絶叫と共に言い放った。
『どういう意味なのだぁああああああっ!?!?』
―⑧へ続く
【アイテム紹介:ジャパリロボ】
ジャパリバスが人型に変形したロボット。
運転席部分が頭部兼胴体となって、後部客車が展開して腕部と脚部を形成する。
ラッキービーストによる制御で動いている。
だたし、まだ未完成である為、単純動作はともかく戦闘行動のような複雑な動作は難しい。
安全性に重きを置いたジャパリバスが元となっている為、装甲は厚く耐電処理なども施されている為、セルビャッコの風と雷の結界を破る事が出来た。