けものフレンズRクロスハート   作:土玉満

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これまでのけものフレンズRクロスハートは!

 プール清掃が終わって家に帰りついたイエイヌとともえ達を待っていたのはイエイヌの編入試験という重大イベントだった。
 小学校1年生にも満たない学力から中学2年生への編入試験に向けて過酷な勉強に挑むイエイヌ。
 集まってくれた仲間達と共に悪戦苦闘しながらも勉強を進めていく。
 時間もない中、ベストを尽くしたイエイヌはついに試験本番に挑むのであるがそんな時にセルリアンの匂いがしてしまった。
 彼女の頑張りを無駄にしない為に立ち上がってくれたのはもう一人のヒーロー、紙飛行機の君ことクロスシンフォニーであった。
 クロスシンフォニーのおかげで無事に試験に臨む事が出来たイエイヌ。
 ついに合格を勝ち取り晴れて中学2年生になったのだった。


登場人物紹介

名前:星森 かばん

 ジャパリ女子中学に通う2年生。生徒会長を務めており、ともえのクラスメイト。
 困っている人を見過ごせない性格をしている。
 いつも被っているくたびれた2本羽根の帽子がトレードマークだ。
 実はクロスハートの先輩ヒーロー、クロスシンフォニーの正体でもある。
 いつも一緒にいるサーバルとは大の仲良し。周囲もほっこりとした目で見守っている。
 学業成績なども優秀で成績は萌絵に次いで2位。体育などもかなり優秀な部類で総合成績なら1位だったりする。
 なお、学園教師の星森 ミライは彼女の姉である。


名前:星森 サーバル

 ジャパリ女子中学に通う2年生。サーバルキャットのフレンズだ。
 天真爛漫元気いっぱい。ときどきドジだったりするけれどどんな時でもへこたれず周囲を気遣える優しい性格をしている。
 かばんとはいつも一緒で大の仲良し。一緒に暮らしてもいる。
 そして、かばんがクロスシンフォニーとして戦う際はサーバルも仲間としてクロスシンフォニーとなって一緒に戦う。 



第5話『おキツネコンコン。キツネ一派と探検ボクらの商店街』(前編)

けものフレンズRクロスハート第5話『おキツネコンコン。キツネ一派と探検ボクらの商店街』

 

 

 朝の通学路。制服姿のイエイヌを真ん中においてのんびりと歩くともえと萌絵。まだ制服に慣れないのかイエイヌは頬を染めて俯きながら歩いている。

 

「大丈夫、めっちゃ可愛いから!」

 

 それは偽らざるともえの本音であった。萌絵も激しく同意、とばかりに何度も頷いている。それでもイエイヌは真っ赤になって俯くばかりであった。

 

「じ、実は…。他の毛皮を着るのって初めてだったので何か落ち着かないというか何というか…。」

 

 そんなシドロモドロで恥じらいを見せるイエイヌに萌絵とともえは顔を見合わせてアイコンタクトで頷きあう。

 

―今日帰ったらイエイヌちゃんに似合う服を選んで着せてみよう、と。

 

 そうしてほんの少しのイタズラ心を膨らませつつ歩く通学路。

 今度のお休みに絶対イエイヌちゃんの服選びにいこう。きっとお母さんだって乗り気になってくれるはずだ。

 楽しい計画はどんどん進んでいく。

 

「ソウ言えばイエイヌの服に関してハ考えて無かったナ。衣食住のウチ食と住ハ何とかナッテルが衣の方モ何トカしないトな。」

「おお!さすがラモリさん!そうだよね!女の子だもん!可愛い服は必須だよね!」

 

 しばらくの間、イエイヌのサポートに、とついて来てくれたラモリさん。イエイヌに抱えられているところに詰め寄る萌絵。

 イエイヌの今まで着ていた服はけものプラズムが変化したものなので実は着替えなくても勝手に汚れを落としたりほつれを直したりしてくれる優れものだったりする。なので生きていくというだけなら服はさほど重要ではないのだがそこは女の子。生きていければいいというものではないのだ。

 そうやって賑やかに歩いていくと後ろからやってくる同じく制服姿の女の子が二人。

 

「おはようございます、ともえさん、萌絵さん、イエイヌさん。」

「おっはよー!」

 

 いつものトレードマークなくたびれた二本羽根の帽子を被ったかばんとサーバルだった。

 

「制服、似合ってますね。」

「うん!すっごい可愛いよ!」

 

 二人揃って嬉しそうにイエイヌに笑いかける。あの過酷な勉強会を一緒に乗り切った仲間なのだ。今日の結果への喜びもひとしおだろう。

 

「あ、あの…。ありがとうございます。その…セ、セルリアンの方は大丈夫だったんですか?」

 

 イエイヌは未だセルリアンの事を話すのに少しばかりのためらいを見せる。

 

「はい、大丈夫ですよ。昨日あらわれたのはきちんと倒しておきましたから。」

「ふっふーん!かばんちゃんは凄いんだから!」

 

 そんなためらいを知ってか知らずか、笑顔のままに続けるかばんにドヤ顔のサーバル。

 

「まさかかばんちゃんがいつの間にか変身ヒーローやってたなんて知らなかったよ。いつくらいからやってたの?」

「ええと、中学生になったくらいからですから1年とちょっとくらいでしょうか。」

「うん、そのくらいだよね。博士とかアライさんとかが仲間になってくれて色々あったよねー。」

 

 二人で頷きながら遠くを見るような目をするかばんとサーバル。

 

「でも最近セルリアンの出現がすごく頻繁になってるみたいなのでともえさん達も気を付けて下さいね。」

「うん、前はこんな毎日って程じゃなかったよね。」

「ドクターが言ってタ、サンドスターの活動ガ活発になってル事と何か関係ガあるのかもナ。」

 

 そんな二人の疑問にラモリさんが推測を教えてくれる。

 

「ともかく、今まで守ってくれてありがとね!これからはアタシ達も一緒に皆を守るからねっ!」

 

 そんなともえにかばんは少し驚いた表情をしてから嬉しそうに笑う。

 

「はい、頼りにしてますよ。クロスハート。」

「うん、こちらこそ、クロスシンフォニー。」

 

 言って二人で忍び笑いを漏らす。

 

「わ、わたしも!今度はわたしも皆さんをお守りしますからっ」

「はい、クロスナイトも頼りにしてますから。」

「はいはーい!私も負けないよおー!」

 

 そんなイエイヌに柔らかく微笑むかばんに元気に割り込むサーバル。今日も朝から賑やかだった。

 

「ともあれかばんちゃん。アタシ達セルリアンの事、色々知らない事だらけだから今度教えて欲しいんだ。」

「あ…そうですね。うーん…話すと長い事になりそうですから時間をとって説明したいですね…。」

 

 萌絵の提案に考え込むかばん。やがて、ポンと手を打ち指を一本立てるとやたらと真面目な表情で続ける。

 

「差し当たって急を要しそうな事なんですが…。」

「「「うんうん。」」」」

 

 真面目な顔をするかばんにともえも萌絵もイエイヌも同じく真剣に顔を寄せて聞き入る。

 

「変身するとお腹が空きやすくなります。」

「「「うんうん……え?」」」

 

 そして飛び出した言葉に一同思わず変な顔になる。

 ちょっと唐突すぎやしませんか、かばんちゃん。とでも言いたげな様子だ。

 

「変身して戦うと身体の中のサンドスターを消費するんですが、それを補給する方法が食事と休養なんです。」

「うんうん!博士達もいっつも言ってるもんね!ちゃんと食べろーって!」

「で、身体の中のサンドスターを大量に消費するとお腹が空いちゃう、というわけなんです。」

 

 そのかばん達の補足説明に続けてさらにともえ達の後ろから声が掛けられる。

 

「だいたいの食事にはサンドスターが含まれているのです。それは原材料となる野菜なんかがサンドスターを取り込んで成長しているから、なのです。」

「これをモグモグ生物濃縮、というのです。モグモグ生物の授業で習うのです。きちんと勉強していますか。モグモグ。」

 

 後ろから声を掛けてきたのは二人。先代生徒会長の博士と先代副会長の助手の二人である。ちなみに助手の方が何故かおむすびを齧りつつの解説であった。

 

「もー。おしゃべりする時は食べ終わってからの方がいいよー。」

「何を言うのです。助手は昨日めちゃくちゃ頑張ってたのでサンドスター補給の為には仕方がないのです。」

 

 サーバルが助手のほっぺについてるご飯粒をハンカチで拭ってあげるが博士の方はそうしてぷんぷんしてみせる。

 

「あ、ちなみに博士先輩と助手先輩もボク達の仲間なんです。」

「ええ。話は大体理解していますよ、クロスハート。」

「ええ。我々はかしこいのですよ、クロスナイト。」

 

 紹介されると胸を張ってふんぞり返ってみせる博士助手。ちなみに身長はこの場の誰よりも低いのでなんだか可愛らしくしか見えないのだ。

 

「お前達もセルリアンと戦うのならちゃんと食べるのです。腹が減っては戦はできないのです。」

「そうなのです。美味しいものを食べてこその人生なのです。」

 

 そんな博士と助手の言葉にんー、と思い出すともえと萌絵とイエイヌ。確かに思い返してみると最近食事の際に食べる量が増えているような気がする。ともえも昨日はおかわり2度していたし。

 イエイヌもついついたくさん食べてしまうのは春香と萌絵のご飯が美味しいからだったのだが、確かに以前はジャパリまん数個で十分だったのが食事量が増えている気がする。

 

「そっか…。じゃあ美味しいご飯沢山つくらないとね。」

「ほうほう。遠坂萌絵は話が早いのです。」

「美味しい料理が出来たのなら我々にも食べさせるのです。」 

 

 そうやってわちゃわちゃ、と博士助手にまとわりつかれる萌絵。二人にまとわりつかれて顔がデレっと緩んでいた。

 

「あー!いいないいな、萌絵お姉ちゃんいいなっ!アタシも!アタシもともえスペシャル作るから博士先輩と助手先輩モフってもいい!?」

「そ、それは止めておいた方がよいのではないかと…」

 

 羨ましそうにするともえをイエイヌが止める。そう、犠牲者は少ない方がいい。

 

「もう!イエイヌちゃんったらひどいよぉ!」

 

 とか言いつつイエイヌをわしゃわしゃモフモフしちゃうともえ。ついでのモフモフ成分補給でもあった。

 

「さて、我々は今日は図書当番なのです。先に行っているのです。ともえ、萌絵、イエイヌ。いずれまたなのです。」

「ええ。それまでちゃんと食べて元気でいるのですよ。」

 

 二人は頷きあうと小走りで駆けだそうとする。

 と、助手だけが一度くるり、と振り返って

 

「ちなみに、かばんの仲間になってよかった事が二つあります。一つはご飯が美味しくたくさん食べられるようになった事と…」

 

 一同、もう一つは?と続く言葉を待つ。

 

「たまにこうして博士が世話を焼いてくれることです。」

 

 嬉しそうにふふ、と笑うといつものポーカーフェイスに戻って博士を追いかける助手。その先では博士が学生鞄から取り出したおむすびを助手に手渡していた。

 いつもとは逆に博士が助手のお世話をしているのは中々にレアな光景なのだ。

 

 

の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の

 

 

 それからは順調な学校生活のスタートだった。イエイヌが割り振られたクラスはB組。萌絵とヘビクイワシが一緒のクラスである。

 ともえは凄く残念がっていたがまあ仕方がない。休み時間のたびにクラスメイトのかばんとサーバルを伴って遊びに来ていた。

 ちなみに、A組がともえとかばんとサーバル。B組が萌絵とイエイヌとヘビクイワシ。C組がゴマとアライさんとフェネックが所属するクラスになる。

 編入の自己紹介も無事に終わり席も萌絵の隣で一安心のイエイヌ。それもともえはとても羨ましがっていた。

 昼休みにはみんなで集まってお弁当タイム。ともえと萌絵とイエイヌにヘビクイワシとゴマも合流して楽しくお弁当を食べて、そして午後イチの授業は…

 

「ふっふっふ。この時間を待っていたっ!!」

「ともえちゃん、テンション高いねえ。そりゃあ体育の授業だから張り切るのはわかるんだけどね。」

 

 と、体操着に着替えたともえ達はグラウンドに集合していた。その隣には萌絵もイエイヌもいる。そう、体育の授業は3クラス合同なのだ。

 

「つまり!アタシもイエイヌちゃんと一緒に授業受けられるんだよっ!」

「今日の張り切りポイントはそこだったかぁー。じゃあバッチリいいとこ見せてね。ついでにファンクラブ会員のみんなにも。」

「ファンクラブの方はともかくお姉ちゃんとイエイヌちゃんにいいとこバッチリ見せてあげるんだからっ!」

 

 ふんすふんす、と鼻息荒く張り切って見せるともえ。しかしそこに…。

 

「おおっと、そうは問屋が卸さないぜ!体育だけは5確定系女子遠坂ともえ!」

「なにその愉快なあだ名!?でもそんなに間違ってない!っていうか誰!」

 

 バッと振り返るともえ、その先にいたのはG・ロードランナーのフレンズ、ゴマであった。

 

「今日の体育の授業はハードル走だからな!俺様の独壇場だぞ!例え相手がお前でも負けないぜっ!」

 

 そう、ゴマは陸上部。しかも最も得意とする種目はハードル走なのだ。何せハードル走だけなら昨年の新人戦でも良成績を残して次期エースの呼び声だって高いのだ。

 

「あと俺様もせっかくだしイエイヌにいいとこ見せたい!」

 

 勉強会ではあまり戦力になれなかったゴマ。こちらもここぞとばかりに張り切っているのだった。

 

「お、どうした?ともえ。ビビってんのか?違うんだったら勝負してみろー。」

「ぐぬぬー!素人相手に大人気ないっ!でも負けないんだからっ!」

 

 なんだか賑やかに火花を散らすゴマとともえ。

 ちなみにこのハードル走という競技、陸上競技の中でもかなりテクニカル面やメンタル面が重要な競技でもある。

 ただ足が速いというだけでは好成績は望めない。ハードルを飛び越える際にしっかりと上体を倒して被せるようにしないとスピードが落ちてしまうのだがこれが結構な恐怖なのだ。ついつい腰が引けてしまってスピードが落ちる。スピードが落ちれば次のハードルを跳び越す勢いが足りなくなる。それが足りなくなれば次のハードルも跳び越せなくなってくる、と悪循環が続くのだ。

 ハードルを跳び越す際のフォーム、タイミング、そして自分の力を信じてハードルに突っ込む精神力と軽く挙げただけでもフィジカル以上にテクニック、メンタルが重要な競技なのだ。

 それは現在スタートしたかばんとサーバルの組でも明らかだ。

 ハードルが並ぶエリアに来るまではサーバルが優勢なのだが、それにハードルジャンプが加わってくると途端に形成は逆転する。サーバルもバネを活かした綺麗なジャンプを見せているのだが上体が倒れ切っていないせいでわずかにスピードが落ちているのだ。

 対するかばんはまさに最小限のジャンプでハードルをクリアしていく。しっかり上体も被せるように倒して高く飛ぶよりもハードルを跳び越して前に進む事を重視した綺麗なフォームだ。まさにハードル走のお手本と言っていい。

 普段の短距離走ならサーバルに分があったのだが今日はかばんの勝ちのようだった。

 話は戻ってともえVSゴマの一戦は下馬評でいうならともえよりも陸上部のゴマの方がテクニカル、メンタルの両方で有利なように思えた。

 

「けど、それで勝負を降りるアタシじゃないんだからねっ!」

 

 そして次にスタートする組の番がくる。ゴマ、ともえ、そしてイエイヌも一緒の組だった。

 

「へっへっへ、悪いな、イエイヌ。俺様の背中をしっかりと見せてやるぜ。ついでにともえに勝つところもな!」

「なにおー!イエイヌちゃんの前で負けるわけにはいかないんだから!たとえ相手がゴマちゃんだってそう簡単にいくなんて思わないでよねっ!」

 

 早くもイエイヌの両脇のコースで火花を散らすともえとゴマ。それを両側にキョロキョロ視線をやって嬉しそうに笑うイエイヌ。

 

「はいっ!ともえさんとゴマさんと一緒に走れるんですよね!楽しみですっ!」

 

 そんな賑やかな組がそれぞれにクラウチングスタートの体勢。スタートの合図を待つ。

 

―ピッ!

 

 スタートの合図となる笛の音が響く、と当時全員が弾かれたように駆けだした!

 

―ドヨッ…

 

 と不思議な歓声が沸く。それもそのはず、クラウチングスタートを切った一同、なんとイエイヌが4足歩行の獣のような走りでゴマとともえのトップ集団についていっていたからだ。むしろトップだった。

 フォームは無茶苦茶だけど、それでも速い!

 だが、重心を落としたその体勢ではハードルを跳び越えられないのではないか…。そう見守る一同が懸念する中、イエイヌは身体を伸ばした綺麗なジャンプで第1ハードルをクリア。そのまま次のハードルも綺麗な踏切から四足の獣のようにジャンプ!まるでドッグランを駆け回る訓練された猟犬のように華麗に跳び越していく。

 しかし、四足走行では重心が低い分ジャンプは不利だ。それで両脇のコースにいるゴマとともえがそれぞれに追いつく。

 二人とも綺麗なフォームでハードルをクリアして一気にイエイヌを追い抜く…!が…。

 

「わはぁ!」

 

 イエイヌはそれで逆に瞳を輝かせた。目の前にともえとゴマの背中があってそれが少しずつ遠ざかっていく。それがイエイヌの中の何かをくすぐる。

 イエイヌにとっては初めての体育の授業でドッグランに追いかけっこ。テンションはマックスを振り切れていた。つまり、イエイヌの今の気持ちは……。

 

「すごい!なんでしょうこれ!?たーのしーですぅうううう!」

 

 ともえとゴマの後ろを走るイエイヌ。ハードルを変わらずの四足走行からからのジャンプでクリアしていく。

 無茶苦茶なフォームではあったがともえとゴマの背中を追う。追えてしまっている。

 一体どれだけの身体能力があればそれを成し遂げられるというのか。

 先にハードルエリアをクリアしきったともえとゴマ。ほぼ横一線といっていい。それをほぼ間をおかずにイエイヌが追う形だ。

 先に見せた速度から言えば障害物なしの残りの距離でイエイヌが二人を追い抜く、と誰もが予想していた。つまり、この勝負を制するのはまさかのイエイヌか。

 だが…

 

「おいぃい!?なんで俺らを追いかけるんだー!?」

「ちょおおお!?イエイヌちゃんー!?」

 

 イエイヌはそのままともえとゴマの後ろを追走する形で追いかけていた。と、いうよりはハードル走がいつの間にか追いかけっこにかわっていた。

 そのままほぼ同着の形でともえとゴマが先着ゴールを切ってイエイヌがそれに続く。が…ゴールを過ぎてもなおも三人の追いかけっこは続いていた。

 

「もうゴールしただろー!?何で追いかけるんだー!?」

「むしろ何で逃げるんですかー!追いかけたくなっちゃうじゃないですかー!」

「イエイヌちゃんー!?ステイ!すてーいっ!?」

 

 結局、グラウンドじゅうを駆け回るハメになっているともえとゴマ。運動能力には自信ありの二人を相手に互角以上に駆け回っているイエイヌに他の生徒達も唖然とした様子で見守っている。

 

「ああ……。これはちょっと大変な事になっちゃうかも…。」

 

 その追いかけっこを見守るかばんがポツリと呟く。その視線の先にあるのは校舎だ。その校舎の窓からは複数の視線がイエイヌ達の追いかけっこに注がれている。

 そんなかばんの心配を余所に続いている追いかけっこではイエイヌがとうとうともえに追いついて捕まえてごろごろと地面を転がっていた。

 ともえを組み敷いた状態のイエイヌ。ハァハァ、と全力疾走ですっかり荒くなった吐息で見つめあう。

 おや?このシチュエーションはあのセリフを言ってみるチャンスじゃないだろうか。ともえの頭にそんな考えが浮かぶ。

 思いついたら即実行。

 

「た、食べないでー!」

「食べませんよっ!」

 

 知ってか知らずかイエイヌは正確な答えを返すのだった。

 

 

の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の

 

 

 そんなこんなで体育の授業でちょっとしたトラブルはあったものの初日の授業はつつがなく終了したと言っていいだろう。

 イエイヌも満足しているようで始終尻尾がぶんぶん振られていた。今日の授業は全て終了してホームルームも終了。ともえも合流してさて放課後はどうしようか、と言った相談を開始しようとしているところであった。

 

「うーん。どうしよう?どこかの部活見学とかいってみる?」

「今日は美術部の活動日じゃないもんねえ。」

 

 そうして考え込んでいると…

 

「それなら陸上部に遊びに来てみないか!一緒に走ろうじゃないか!」

 

 と唐突に背後から声を掛けられる。そこにはいつの間にやら立っている3年生陸上部部長のプロングホーンがいた。

 

「急にごめんねー。ほら、今日の体育でアンタ達が追いかけっこしてるの見てプロングホーンがイエイヌを気に入っちゃったみたいでさ。よかったら見学だけでもって誘いに来たのよ。」

 

 同じく3年生、陸上部副部長のチーターもやって来ていた。3年生が唐突に教室に現れた事に一瞬騒然となりかけるもそこはしっかりとチーターがフォローしていた。

 

「イエイヌ!お前のフィジカルなら県大会…いや、全国大会優勝だって夢じゃないぞ!な、一緒に走ろう!あの夕日の向こうまで!」

 

 キラキラとした目でイエイヌに詰め寄るプロングホーン。しかし…

 

―ビュッ

 

 と何か棒のような物がプロングホーンとイエイヌの間に割り込まれる。それは丸めた新聞紙だった。

 

「おおっと。抜け駆けはよくないぞ?プロングホーン。私たち剣道部もどうだ?実戦的な稽古は楽しいぞー?」

「お前は…ヘラジカッ!」

 

 その丸めた新聞紙を突き入れてきたのは3年生、剣道部副主将のヘラジカである。その後ろには同じく3年剣道部主将のライオンが「ほどほどにねー。」と欠伸しながら控えている。

 

「まあ待てよ。先輩方。俺たち空手部だってイエイヌを勧誘に来たんだぜ。今年こそキンシコウ先輩を全国まで連れていくんだからな!」

「ほう。2年、空手部所属オウギワシに3年空手部主将キンシコウ…。いいだろう。相手にとって不足なし!」

「あー…いやいや、ヘラジカさん?私たちは別に争いに来たわけでは…」

 

 さらに現れた2年オウギワシと3年キンシコウの二人。こちらは空手部のようだ。後ろの方で控えめにしているのがキンシコウなのだろう。

 

「ヘビクイワシのヤツが生徒会にいっちまったからな。空手部が全国に行くためにはここは譲るわけにはいかないのさ。」

「ふっ…。それはどこの部活も変わるまい。あれ程の身体能力の新人。放っておく手はないのだからな。」

「そしてどこの部も同じ事を思っているだろう。他の部に渡す気はない。とな!」

 

 バチバチと火花を散らすオウギワシにヘラジカとプロングホーン。

 

「はいはーい!私も勧誘に来たよー!あ、私ね、バンドウイルカのドルカ!水泳部なのっ!」

「わたぁーしはぁー♪トォキィー♪仲間をー♪探してるぅー♪あ、ちなみに私は合唱部ね。」

「私はカンザシフウチョウ。今ダンス部に入ってくれたらこの黒より黒い漆黒の衣装をプレゼント!」

 

 どうやら放課後まで待っていた各部活。一斉にスタートしてイエイヌのいる2年B組のクラスへ集まってきたようだ。

 既に教室は勧誘にやってきた各部のヒトやフレンズで収集つかない事になっていた。

 一部運動部じゃなくて文化部も集まっているあたりに混乱ぶりがうかがえる。

 

「じゃ、アタシ達はそういうことでー…」

 

 こそこそ、と抜き足差し足で教室からの脱出をはかるともえ達であったが…

 

「おおっと!そうはいかんぞ?貴様達はこの剣道部が貰い受ける!」

 

 ビュンっと振るわれる丸めた新聞紙。それを後ろに飛び退ってかわすともえとイエイヌ。

 

「アンタもちゃっかりともえまで争奪戦に巻き込んでんじゃないわよ…」

 

 と呆れ顔のチーターだったがその一言に場の空気がさらに加熱した。何せともえは各部の助っ人要請に応じて練習の手伝いをしたり、人数の足りない練習試合に参加したりして活躍してきた。その実力は折り紙つきなのだ。

 有望な新人に加えて有力な助っ人を専属に出来るとあればまさに火に油を注いでしまうようなものだろう。

 明らかに目の色がかわった一同に…。

 

「よし、逃げよう。」

「あ、はいっ!」

 

 ともえとイエイヌはとりあえず教室から逃げ出した。萌絵の方は後で落ち合うしかあるまい。それを理解しているのか萌絵はラモリさんを抱えたまま、頑張ってねーとばかりに気楽に手を振っていた。

 

 

の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の

 

 

 放課後の校舎はまさにどったんばったんの大騒ぎになっていた。

 逃げるともえとイエイヌを追いかける運動部の面々。さらに野次馬や穏健派やよくわからない各種勢力が入り乱れての各部活対抗大乱戦が始まっていた。

 

「待て!お前達!空手部に来い!」

 

 とオウギワシが振るう拳を

 

「こら!オウギワシ君!あまり無理な勧誘は感心しないのでありますよ!」

 

 とヘビクイワシがガードする。

 

「いやいや、お前が空手部に来てくれてればだなあ!って今はその話はどうでもいい!」

 

 と思わぬ場所でオウギワシとヘビクイワシの戦いが展開されていたり…

 

「ふむ。空手部主将、キンシコウ…一度戦いたいと思っていた。」

「あのー…。なんでこんなことに…。」

 

 ヘラジカVSキンシコウの一戦に沸き立つギャラリー達がいたり。

 

「ふふーん!私たちが陸上じゃ遅いと思った?水泳は全身運動!水泳で鍛えた身体は地面を走ったって速いんだから!」

「お前もやるなあ。このまま夕日の向こうまで走らないか!」

「待って下さいプロングホーン様ぁ!」

 

 ドルカVSプロングホーンの競争を追いかけるゴマなんてよくわからない勝負が発生してたり。

 そしてそれを観戦して声援を送るギャラリーたち。もうすっかり当初の目的を見失ってる者まで出ているようだ。

 そんな中を逃げ回るともえとイエイヌ。特別教室棟へと差し掛かっていた。

 と、特別教室棟の教室が一つ、ガラリ、と開くとピョコン、と三つの耳が覗く。それはキツネ達の耳だった。そのうちの一人はオイナリ校長である。

 ちょいちょい、と手招きするオイナリ校長。

 ともえとイエイヌは一度顔を見合わせると、うん、と頷きあってオイナリ校長が手招きする特別教室へと滑り込む。

 二人が滑り込むと同時、教室のドアをそっと閉じるオイナリ校長。

 しばらくの間みんなで息を潜めているとドタドタと複数の足音がドアの向こうを遠ざかっていって静かになる。

 それに安堵の吐息を漏らすともえとイエイヌ。

 

「二人とも平気かしら?」

 

 と笑うオイナリ校長、その後ろから二人のフレンズがともえ達を見ていた。

 

「あ、ありがとうございます、オイナリ校長先生とそれと…ええと…」

 

 と、そのオイナリ校長の影から覗き込んでいる二人を見やる。

 

「あ、私はギンギツネ。1年A組です。それとこっちのキタキツネも同じく1年A組。私の幼馴染です。」

 

 と銀髪に黒い耳をもったフレンズが一歩出て挨拶してくる。それに挨拶を返すともえ。もう一人のキタキツネと呼ばれたフレンズの方は恥ずかしそうにギンギツネの後ろに隠れたままだった。

 

「ええと、助けてくれてありがとうね。」

「はい、急に追いかけられてビックリしてたので助かりました。」

 

 お礼を言いつつ周囲を見渡すともえ。ここは和室なのか畳の匂いがする。招かれるままに入ったここは一体どこなのだろう。

 おそらく萌絵も心配しているだろうから携帯電話ででもメールを入れておかなくては、とともえはスカートのポケットを探って携帯電話を取り出す。とにもかくにも現在位置の把握だ。

 

「あのー。ここってどこなんでしょう?」

「ここは茶道部の部室だよ。私はここの顧問なの。この子達は茶道部の部員ね。」

 

 と答えるオイナリ校長の袖をちょいちょい、と引くキタキツネ。

 

「違う。オイナリ校長先生。ここは茶道部じゃない。」

「ええー……。キタキツネ…。やっぱりアレやるの?」

「うん、やるの。」

 

 と、何やら逡巡を見せるギンギツネとキタキツネ。それにやれやれ、と言わんがばかりにスクリと立ち上がるオイナリ校長。

 

「ええい!もうこうなりゃヤケよっ!」

 

 ギンギツネは叫びつつ立ち上がりバッとポーズをとる。

 

「茶道部とは仮の姿っ!私たちはっ!」

 

 手でキツネの影絵の形を作るギンギツネとそれに習うキタキツネ。

 オイナリ校長はセンターで何やら随分と可愛らしいポーズをとる。

 

「「私たちはオイナリ校長先生の会!」」

 

 じゃーん、とでも言いたげな様子で決めポーズ!

 とりあえず勢いに押されておおー。と拍手を送るともえとイエイヌ。

 

「えっと…。そのオイナリ校長先生の会ってなあに?アタシ初めて聞いたよ。」

 

 というともえに詰め寄るキタキツネ。やたらキラキラとした目を向けてくる。

 

「あのね、オイナリ校長はすごいの。私たちキツネのフレンズにとって神様みたいな存在。だからそれを崇め奉るのがオイナリ校長先生の会なの。」

 

 そんなキタキツネの言葉にオイナリ校長の方を見やるともえとイエイヌ。

 

「あはは。ずっと昔に私のご先祖様くらいの頃にはそういう不思議な力もあったみたいなんだけどね。今はちょっと縁起のいいキツネのフレンズって程度なんだけど…。」

 

 とほっぺをポリポリしつつ言うオイナリ校長。ほっぺを赤くして照れているようだ。

 

「それでもいいの!オイナリ校長は凄いんだからっ!」

「まあ…確かに私たちはオイナリ校長先生のおかげで色々助かってるわね…。」

 

 目をキラキラさせるキタキツネにギンギツネも苦笑しながらも頷いてみせる。

 

「ん?オイナリ校長先生はこの子達に何かしてるんですか?」

 

 ギンギツネの物言いに興味をそそられたともえ。オイナリ校長に視線を向けて訊いてみる。

 

「ああ。この子達のウチはね。色鳥町商店街のお店なの。それでね、私ってこれでも一応商売繁盛とかのご利益のあるキツネってことで色鳥町商店街の名誉顧問なんてさせてもらってるのよ。」

「うん、オイナリ校長は凄い!売上倍増!大型ショッピングモールも目じゃないっ!」

 

 確かにともえ達の暮らす色鳥町には大型ショッピングモールなどもあるが、商店街も活気に満ちている。その活気の要因がオイナリ校長にあるのだとしたら…。俄然興味が湧いてくるともえ。

 

「と、いうわけで私たちはオイナリ校長先生を崇め奉る部活、オイナリ校長の会を作ろうと思ったんですが…。」

「部活作る申請却下されたからとりあえずオイナリ校長が顧問をしてる茶道部を乗っ取る事にした!」

「人聞き悪いわよ、キタキツネ。茶道部って部員がいなくて休部状態だっただけよ。」

 

 そんなキタキツネとギンギツネの解説に困ったような顔で笑うオイナリ校長。

 

「私自身何かしてるわけじゃないんだけど、まあ慕われたら悪い気はしないからね。」

「そんなことない…!オイナリ校長なんだかんだちゃんとしてる!今日も商店街で校外活動の予定…!」

 

 やたらとキラキラした目を向けてくるキタキツネ。どうやらオイナリ校長先生の会に興味を持ってくれているのがたまらなく嬉しいのだろう。その尻尾が揺れている。

 こうなってくるとオイナリ校長がどんな事をしているのかますます気になって来たともえとイエイヌ。好奇心が既に抑えきれないところまできていた。

 ともえとイエイヌは一度顔を見合わせて頷きあってから訊いてみる。

 

「あの、オイナリ校長先生。どんな活動をしてるのか気になってるんですが…茶道部…じゃなかった。オイナリ校長先生の会って見学できますか?」

「うん。私はかまわないよ。二人とも今日は校内にいても運動部の子達に追いかけられそうだし校外活動の方がちょうどいいかもしれないものね。」

 

 そんな言葉にさらにキタキツネの目が輝きを増した。

 

「やった!すごいよギンギツネ…!一気にオイナリ校長先生の会に二人もっ!」

「いやいや…ただの見学だから。」

「じゃあ二人も一緒にポーズの練習しようっ!」

「もう、先輩方に失礼でしょっ。」

 

 ともえをぐいぐい引っ張るキタキツネに苦笑するギンギツネ。とりあえず都合の悪い部分はキタキツネの狐耳には届いていないようだった。

 

「あ、アタシもちょっとやってみたいかも。こんな感じ?」

「わたしもっ、わたしもやりますっ」

 

 案外ノリノリで手でキツネポーズを作ってみせるともえとイエイヌ。キタキツネのテンションは既にマックスだった。

 

「うん!バッチリっ!じゃあみんなでポーズっ!」

「もう、なんでみんなこんなノリノリなのっ!」

 

 文句を言いつつもギンギツネも配置につく。そしてみんなでオイナリ校長をセンターに

 

「「「「「我ら、オイナリ校長先生の会っ!」」」」」

 

 と決めポーズ。そんなところに…

 

「あのー。こっちにともえちゃん来てましたよね。合流しにきましたー。」

 

 ガラリ、と和室の扉をあける萌絵。ちょうど決めポーズしてるとこを目撃し、しばしお互いに固まる。

 萌絵はさっき連絡をとった携帯電話を取り出して、パシャリ。一枚写真をとる。そのまま流れるような動作で春香に送信。即座に返って来たイイネ!を確認した後に携帯電話をしまってから…。

 

「ところでオイナリ校長先生の会ってなあに?」

 

 と小首を傾げるのであった。

 

 

の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の

 

 

 どったんばったんの大騒ぎになっていた校舎内だったが、現在は落ち着いていた。

 というか主犯格らしきヒトもフレンズもまとめて正座させられていた。

 

「はい、皆さん、一度落ち着きましょう。」

 

 パンパン、と手を鳴らしながら廊下にずらりと正座させられている皆に語り掛けるかばん生徒会長。

 

「イエイヌさんには各部活から勧誘のパンフレットを提出してください。それ以上の勧誘は禁止です。いいですね?」

 

 ちなみに一人ずつ丁寧に丁寧に制圧していったかばん生徒会長。とうとう校舎内の大騒ぎを治めてしまったのだった。

 今正座しているメンバー達は一様に同じ事を思っているだろう。

 

―かばん生徒会長を何とかして勧誘できないかなー。

 

 だが、その方法を思いつく者は誰もいないのだった。

 

 

 

―後編に続く―

 




フォーム紹介

クロスシンフォニー・サーバルシルエット
パワー:A スピード:A 防御力:C 持久力:C
特徴:柔軟性。ジャンプ力。
必殺技:疾風のサバンナクロー 怒涛のサバンナクロー

 かばんが変身した姿であるクロスシンフォニーのフォームの一つ。サーバルキャットのフレンズのような姿になる。
 クロスシンフォニーが最も多用するフォームでもある。
 猫科の柔軟な動きとその脚力から繰り出されるジャンプ力で高い機動力を活かした戦い方が得意だ。
 また、サンドスターを纏った爪で繰り出す斬撃はかなりの威力。
 必殺技はサンドスターを纏った爪をトップスピードに乗せて一閃させる疾風のサバンナクローと、そのまま連続で引っ掻きまくる怒涛のサバンナクローである。
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