けものフレンズRクロスハート   作:土玉満

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【ヒーロー紹介:クロスメロディー】

 浦波 萌音(モネ)PPP(ペパプ)の力を借りて変身した姿。
 歌巫女であるPPP(ペパプ)から力を借りている為、彼女達が側で歌っていないと変身できない。
 なお、クロスメロディーは2代目であり、初代は教授こと宝条和香である。

【ロイヤルペンギンスコア】
パワー:B スピード:C 防御力:C 持久力:B
 ロイヤルペンギンのフレンズであるプリンセスから力を借りた状態。
 クロスメロディーの基本形態でもある。
 必殺技はアイドルとしての輝きを身に纏って突撃する一閃『ロイヤル・ストレート・フラッシュ』だ。
 

【イワトビペンギンスコア】
パワー:C スピード:B 防御力:C 持久力:B
 イワトビペンギンのフレンズであるイワビーから力を借りた状態。
 萌音(モネ)はイワビーから楽器の演奏を教わった為、プリンセスに次いで相性がよかったりする。
 機動力に優れるこの形態での必殺技は稲妻のようにジグザグに跳ねまわり攻撃を繰り出す『全開! Rock'n' Soul』だ。


【フンボルトペンギンスコア】
パワー:C スピード:D 防御力:A 持久力:B
 フンボルトペンギンのフレンズであるフルルから力を借りた状態。
 マイペースが過ぎて、たまにダンスでも一拍遅れてしまう事も多いフルルから力を借りているせいか、この形態での必殺技は『マイペース・メロディー』である。
 音色を聞いたセルリアンはあらゆる速度が遅くなってしまうデバフ技だ。


【ジェンツーペンギンスコア】
パワー:C スピード:C 防御力:B 持久力:B
 ジェンツーペンギンのフレンズであるジェーンから力を借りた状態。
 正統派アイドルであるジェーンから力を借りて放つ必殺技は『Let's Cheer Up!』だ。
 こちらは聞いた味方の身体能力を向上させるバフ技となっている。


【コウテイペンギンスコア】
パワー:A スピード:B 防御力:D 持久力:B
 コウテイペンギンであるコウテイから力を借りた状態。
 PPP(ペパプ)リーダーであるコウテイであるが、実は一番空への憧れを持っている。アイドルになっていなかったら飛行機のパイロットになりたいと思っていた程だ。
 そんな彼女の力を借りて放つ必殺技は『大空ドリーマー』である。
 敵を宙空へと放り上げる打ち上げ攻撃だ。
 なお、必殺技名がPPP(ペパプ)代表曲名になっているのはリーダー特権である。



エピローグ

 

 『two-Moe』の入り口にはいつもなら『CLOSE』の札が掛かる時間である。

 けれど、今日掛かっている札は『本日貸し切り』だった。

 中を覗いて見れば、店主である春香が一人厨房で大量の食材相手に格闘する姿が見える。

 

「さぁて、そろそろね。一番は誰かしら」

 

 仕上がったクリームシチューの味を見ながら、春香は笑みを浮かべる。

 

「ただいまぁー!」

「「遠坂 春香! 我々は料理を求めているのです!」」

 

 どうやら一番乗りはともえとコノハ博士&ミミ助手らしい。

 

「アライさんも! アライさんももうお腹と背中がくっつきそうなのだー!」

「それは大変だねぇ。でも、春香さんが誘ってくれて助かったよねー」

 

 そして続くのはアライさん、その後ろをフェネックがいつもの微笑でついていく。

 連戦続きでサンドスターを大量に消費したであろう通りすがりの正義の味方達。

 春香はドクター遠坂に頼んでみんなを『two-Moe』に来るよう連絡していた。

 

「あの……い、いいんですか? ボク達、今日もトリプルシルエットを使っちゃったから相当に……」

 

 と言いつつやって店内に入って来るのはかばんであった。

 かばん達クロスシンフォニーチームは切り札であるトリプルシルエットを使用済みだ。

 トリプルシルエットは凄まじい力を発揮してくれるものの、使用するとかなりの消耗を強いられる。

 それを回復するには大量の食事が必要になるので、主に星森家の家計へ多大な負荷がかかるのだ。

 

「大丈夫、大丈夫。心配いらないわよ。その辺りはちゃーんとスポンサーさんがいらっしゃるから」

 

 言いつつ春香は片手に2皿、計4皿のスープ皿を運びつつにこやかに答えた。

 

「あ、あの!? 春香お母さん!? わたしも手伝いま……」

「はいはーい! お手伝いなら私も……」

「あ、ボ、ボクも!?」

 

 春香は一人で調理から給仕までを担当するつもりらしい。

 それに対してイエイヌとサーバルとかばんがお手伝いを申し出ようとしてくれたが……。

 

「はーい、腹ペコさん達は座って座って。今日は気兼ねなく沢山食べてね」

 

 春香がイエイヌとサーバルとかばんの間をスルリとすり抜けると、一体何をどうやったのか、三人はいつの間にかテーブルについていた。

 手品の如き所業であったが、そればかりではなく、三人の前にはいつの間にやら湯気を立てるクリームシチューがサーブされているではないか。

 本当にこのまま何もせずにいていいものか、とかばんが迷っている間に……。

 

「「おかわり! 我々はおかわりを要求するのです!」」

「あ、アライさんもー! アライさんもなのだー!」

 

 既に博士と助手に加えてアライさんは一杯目を食べ尽くしてしまったらしい。

 おかわりを要求された次の瞬間には、春香がスルスルとテーブルの隙間を縫っていつの間にやら新しい皿がサーブされている。

 

「はい、ともえちゃんも心配いらないから沢山食べてね?」

 

 しかも大皿に盛りつけられた唐揚げまで追加されているではないか。

 実を言うと春香は今日の15時くらいからずっと下拵えをしていた。きっと娘達ならば何とかするに決まっているが、きっとお腹を空かせて帰って来るに違いないと思っていたからだ。

 なので、彼女達が満腹になるまで調理し、盛り付けし、サーブする覚悟を決めていたのだった。

 早くも下拵え済みの食材が物凄い勢いで減りつつある。

 だが、こんな程度で負けるわけにはいかない。

 まだまだ春香にだって策は残っている。既に作り置いてあるカレーソースにミートソースだってある。パスタは吸水させて短時間で茹で上がるようにしてあるし、業務用炊飯器はフル満タンで炊き上がっているし、しかも冷蔵庫に冷や飯もタッパに入れてある。

 

「(ふふ……。腕が鳴るわぁ)」

 

 さて、この腹ペコさん達をどうやってお腹いっぱいにしてやろうか。

 春香は思いつつフル稼働状態のキッチンを一人で捌く。

 今のところ、情勢は春香に有利だ。

 奈々達に頼んで大量の食材を商店街から配達してもらった甲斐があるというものだ。

 だが、刻一刻と変わっていた戦況把握と食材発注まで一人でこなせたわけではない。

 

「まぁ。今回わらわが出張らんでも色鳥武道館は何とかなりそうじゃったからのう」

 

 ユキヒョウがしれっとテーブルの隅でお茶を飲んでいる。

 戦況オペレートと食材発注はユキヒョウが担当だったのだ。

 色鳥武道館にセルリアンが出るかもしれないと聞いた時、ユキヒョウはルリ達の足手まといにならないように居残りをしていたのだが、それだけではいてもたってもいられず、それならばという事で春香の手伝いに回った。

 ユキヒョウがいなかったら、既に第一波であるともえとイエイヌ、それにクロスシンフォニーチームのみんなで食材の大半を使い切っていたはずだろう。

 だが……。

 

「(しかし、春香殿……。この後をどう捌くのかのう?)」

 

 普段料理もするユキヒョウだが、この春香が支配する戦列(キッチン)に加われる気はしなかった。

 現在は拮抗しているように見えるが、この後はやはり精魂尽き果てるまで戦った腹ペコさん達が大量に押し寄せる予定である。

 ユキヒョウの見立てだと、次に来るのはクロスレインボーチームの二人だった。

 

「こんばんわー。私達もお呼ばれしちゃってよかったの?」

「でもありがたいわ。もうクタクタのお腹ペコペコだったもの」

 

 ユキヒョウの予想は大当たりだったようで菜々に続いてカラカルがやって来た。

 

「もちろんよ、菜々ちゃんとカラカルちゃんには和香ちゃんがすっかりお世話になってたみたいだもの。そのお礼もしなきゃだから遠慮しないでね」

 

 二人もテーブル席につけると、春香は変わらず調理と給仕に余念がない。

 続けては既に仕込んで切り分けるのみとなっていたサンドイッチ達の登場だ。

 具材の馴染み具合を確かめてから、春香はサンドイッチ達も大皿に盛り付けると素早くサーブへ移った。

 早速カラカルがそのうちの一つ、BLTサンドをつまみつつ訊ねる。

 

「で、結局そっちはどうなったの?」

 

 カラカルと菜々は色鳥武道館手前で力尽きてしまった。

 それから少し休んで『two-Moe』へと戻ってきたところだったので、その後がどうなったのかは全くわからないのだ。

 

「ええと……こっちはセルビャッコさんは帰ってくれたので何とかなったと思います」

「こっちはセルセイリュウちゃん? ……ちゃんでいいのかなぁ? も逃げちゃったし、プーちゃんの“輝き”をセルリアンにされたけど、それも倒したから問題ないはずだよ」

 

 かばんの説明の後にともえが続く。

 その説明通りなら、あとは色鳥武道館へ向かった和香教授やクロスジュエルチームのみんな、それにセルリアンフレンズの三人が何とかしてくれるに違いない。

 

「それに萌音(モネ)ちゃんもいるんだもん。きっと何とかなってるよ」

 

 実に気楽に言って見せる菜々だったが、その場の誰もがそう思っていた。

 時計を見れば、もうPPP(ペパプ)ライブは終了している頃合いだ。

 ユキヒョウの携帯電話が震えて着信を告げる。

 連絡は和香教授からだった。

 

「ふむ。そうか……なるほどのう。わかった。して、そちらは? ……うむ。伝えておこう」

 

 何度かのやり取りをする通話の間、賑やかだった店内は静まり返る。

 きっと結果を伝えるものだったのだろうから、誰もが固唾を飲んでユキヒョウの続く言葉を待つ。

 

「まずの。みな無事で作戦は成功じゃ」

 

 その宣言にワッと店内が沸いた。

 

「会場にいくらかセルリアンが出たそうじゃが、みんなで何とかしたそうじゃよ」

 

 ユキヒョウの言葉にみんなが「やっぱり!」と言い合う。

 

「じゃが……まぁ、落ち着いて聞いて欲しいのじゃが……」

 

 ユキヒョウは一度言葉を濁すものの、意を決して一息に言った。

 

「萌絵先輩殿が変身したそうじゃ」

 

 先程まで淀みなく動いていた春香の動きが一瞬止まる。

 萌絵が変身したという事はこの後体調が崩れるという事だ。

 

「とりあえず、萌絵のベット用意してくるナ」

 

 ともえ達と一緒に帰って来ていたラモリさんがピョインピョインと跳ねて二階の住居部分へ上がる。 

 萌絵が戻ったらすぐに休ませられるようにしておかないといけないので、非常に助かる。

 けれど、春香は計算が狂っていた。

 

「どうしましょう。あんまり消化によさそうなモノは作ってないわ」

 

 今のところ作っているのはお腹に溜まりそうな物や食べ応え重視で揚げ物がメインだ。

 出来れば萌絵が帰ってきたら早急に栄養補給させて寝かせるのが一番いいのだが、さて、そのメニューにまで手が回るか。

 

「お母さん。萌絵お姉ちゃんの分はアタシが作る」

 

 そこに助け船を出したのがともえだ。

 ともえは萌絵が体調を崩した時によく食事のお世話もして来た。なので定番メニューもある。

 

「そうね。お願いしていい?」

 

 春香もここは素直に甘える事にした。

 頑張ったみんなに出来るだけゆっくりして欲しかったが、そうも言っていられない事態と判断したらしい。

 そこにユキヒョウが一言を付け加える。

 

「その……ともえ先輩殿。二人分頼んでもよいかの?」

 

 一人目は萌絵の分としてもう一人は一体誰だろう?

 そう思うともえにユキヒョウが答えを返した。

 

「実は……萌音(モネ)殿も現在絶賛ダウン中だそうじゃ」

 

 再三に渡りスノーホワイトになった事に加えて、色鳥武道館でクロスメロディーにまで変身した事で限界を越えて疲労してしまったらしい。

 ライブ終了と同時に気を失ったそうだ。

 

「うん、とりあえず萌絵お姉ちゃんのと同じものなら消化にはいいから大丈夫だと思うよ。イエイヌちゃんも手伝ってね」

「はい! お任せ下さい!」

 

 言ってともえとイエイヌもラモリさんを追って二階の住居部分へ上がる。

 二階にもキッチンはあるから調理をするのに不足はない。

 それに、こういう場面ではともえは『ともえスペシャル』を作らない事を全員が知っていた。

 ついこの前まで萌絵が体調を崩したら、表面上は取り繕って内心凄く焦っているともえだったが、最近では慌てはしても焦る事まではないように思える。

 

「いつものヨーグルトにハチミツ混ぜて、カットバナナとすりおろしリンゴを足してもいいね」

「じゃあ、わたしヨーグルトにハチミツ混ぜるのやります!」

 

 実はヨーグルトにハチミツを混ぜるのは美味しいのだが、中々均一に混ざらないので根気のいる作業だったりする。イエイヌならば適任だ。

 そんなイエイヌにともえは一度微笑むと、ふ、と思いついたように「あ。」と声をあげる。

 何事だろうと思うイエイヌにともえはこう言い放った。

 

「ねえ……。いっそのことマヨネーズも混ぜたらさらに栄養豊富にならないかな……?」

「絶対やめましょう」

 

 キッパリ言ってイエイヌは呆れ半分の半眼をともえに向けた。

 続けて萌絵が体調を崩したと聞いても余裕が出たのはいい事だけれど、余計な事を試そうとする余力まで生まれてしまったのはどうしたものかと苦笑する。

 

「えぇー!? でもさ、萌音(モネ)姉ちゃんはすっごい疲れてると思うから栄養ありそうな感じで仕上げたいんだよぉ!」

「普通でいいんです。普通で」

「イエイヌちゃーん!?」

 

 言いつつ二人して二階のキッチンでワイワイ調理を始めていた。

 で、肝心の萌絵と萌音(モネ)の二人はどうしているかというと……。

 

「二人はハクトウワシ殿と教授殿が車で送ってくれるそうじゃ」

 

 ユキヒョウが今しがた来たばかりのメールを見ながら言う。

 しかし、二台で分乗という事は他にも誰か戻って来るのだろう。

 

「クロスジュエルチームの皆とオオセルザンコウ殿たちも一緒じゃよ」

 

 なるほど、それなら車二台で分乗というのも頷ける。

 

「あらまぁ。じゃあまた腹ペコさん達が追加ね」

 

 春香は腕まくりして調理を加速させていた。

 フライパン三枚を同時に駆使しての大盛ペペロンチーノにパエリアを仕上げていく。

 焦ってはいけない。大量に作ろうとフライパンに大量の食材を入れてしまうと火が通りにくく、かえって調理に時間がかかるばかりか味も落ちてしまう。

 だから、大量に短時間に作ろうと思うなら……。

 

「フライパン自体を増やしちゃった方が効率いいのよね」

 

 三枚ですら曲芸のようだったのに、いつの間にやらフライパンは五枚に増えていた。

 春香は歴戦の勘でもって食材への火の通り具合や味の馴染み具合を見極めながら、五枚のフライパンと三口のコンロを華麗に操る。

 フライパンを入れ替えて温度が下がらないように次々とコンロ上に乗せる物を交代していく。

 春香の奥義の一つ、フライパンジャグリングである。

 フライパンを入れ替える際に食材をかき混ぜて焦げ付き防止、余熱で火を通していいかどうかの判断などなど熟練以上の技が要求される奥義だ。素人にはオススメできない。

 だが、時短効果はバッチリで各テーブルに大皿パスタとパエリアがサーブされるのは驚異的な早さと言っていい。

 それと同時に再び『two-Moe』の扉が開く。

 どうやら追加の腹ペコさんが帰還のようだ。

 

「やあ、ただいま」

「Wow! 美味しそうな匂いね!」

 

 やってきたのは和香教授とハクトウワシの二人だった。

 その後には……

 

「ほれ、ついたでー。しっかりするんや」

 

 萌音(モネ)を負ぶったアムールトラと……

 

「ルリちゃあーん、もう歩けないから運んでぇー」

「あ、はい!」

 

 限界を越えたせいですっかり甘えん坊モードに切り替わった萌絵を連れたルリの二人が続く。

 そこからさらに……。

 

「なんか萌絵先輩ってこんなんになるんだな」

「ねー、なんか新鮮」

 

 苦笑するエゾオオカミと萌絵を覗き込むマセルカ。

 

「せっかくライブ会場では格好よかったのにこれでは締まりませんね」

「まぁ、大活躍だったからこれくらいは許されるさ」

 

 とこちらも苦笑交じりのセルシコウにオオセルザンコウが続く。

 ちなみに、彼女達四人は溶けてる萌絵を見た事がない。なので驚きが6割。呆れが1割。残りの3割が「こういうのも萌絵っぽいかもしれない」という気持ちだ。

 ただ、こうなった萌絵の扱いにかけてはともえとイエイヌの右に出る者はいない。

 

「ルリちゃん、ありがとうね」

 

 早速ともえは萌絵を受け取る。

 そして素早く額に手を当てて熱を測るが、まだ本格的に体調が崩れる前だったらしい。

 

「よし! イエイヌちゃん! 萌絵お姉ちゃんに目一杯食べさせちゃって!」

「ラジャーです!」

 

 ならば、ここは食欲がなくなる前にしっかりと栄養補給だ。

 萌絵は早速イエイヌに「はい、あーん」をおねだりしていた。

 

「萌絵姉ちゃんの方はこれでええとして、こっちはどないするん?」

 

 そんな光景を眺めつつアムールトラは背負った萌音(モネ)へ視線をやる。

 彼女はセルリアンを倒すと同時に気を失って今まで眠ったままだ。

 命に別状はなさそうだから、このまま休ませてやるのがいいように思える。

 が……。

 萌音(モネ)の鼻がひくひくと動いた。

 今の店内は美味しそうな匂いで満たされている。

 フェネックがニヤリと笑みを深くしつつ萌音(モネ)に近づく。片手にフォークに刺した唐揚げを持って。

 

「ほれー。萌音(モネ)ちゃーん。早く起きないとみんな食べられちゃうよぉー」

 

 そのまま萌音(モネ)の鼻先に唐揚げを突き付けると……。

 

「わ、私の分も残しといてー!?」

 

 ガバリ、と萌音(モネ)が目を覚ました。

 目を覚ましたはいいが、しばらく状況を把握できなかった萌音(モネ)は辺りをキョロキョロと見回す。

 そして……。

 

「もしかして、天国?」

 

 と勘違いした。

 なんせ彼女自身は戦いの結末がよくわからないままに眠りに落ちて、目を覚ましたら山盛りの美味しそうな料理が並んでいるのだ。

 

「んなわけないでしょうが。試しに食べてみなさいな」

 

 カラカルも近づいて来てサンドイッチを差し出す。

 萌音(モネ)はフェネックの唐揚げとカラカルのサンドイッチをしばらく眺めると……。

 

―パク。パク。

 

 二つとも一息に食べてしまった。

 でもって……

 

「美味しい!」

 

 目を輝かせる。

 こんな美味しい物は夢でも食べられないだろう。

 という事はここは現実だし、間違っても負けて天国に来たわけでもない。

 

「後で色々説明するから、まずは腹ごしらえといこうじゃないか。二代目君?」

 

 言いつつ、ニヤリとした和香教授がテーブルへ萌音(モネ)を案内する。

 そこで先にテーブルに付いていた菜々が萌音(モネ)の分の料理を取り皿に取りつつ言う。

 

「和香さん、二代目ってなあに?」

 

 和香教授が萌音(モネ)を二代目と呼んだ事が気になったのだ。

 

「はっはっは。実はここにいる浦波 萌音(モネ)君こそが二代目クロスメロディーなんだよ」

 

 和香教授はもうクロスメロディーにはなれない。

 それは彼女が別世界の女王種と融合した為だ。それは変身の為の容量を全て使い切ってなし遂げた事でもある。

 今の状態で変身しているようなものであり、ここからさらに変身する事は出来ないのだ。

 だからこそ、もう一度思い出のあるクロスメロディーを名乗るヒーローが現れてくれた事が嬉しくもある。

 だが、そうなるとカラカルには一つ心配な事があった。

 

「まぁ、萌音(モネ)なら心配はないだろうけど和香にだけは似ないで欲しいわね」

「カラカル!? 私そろそろ泣くよ!?」

 

 名前を継いでもズボラなところまでは似ないで欲しいというカラカルの願いに和香教授は絶叫してしまった。

 

「でも、そういう事ならますます沢山食べてもらわないとねー」

 

 既に夢中で料理をパクついていた為ハムスターみたいにほっぺたを膨らませた萌音(モネ)に対し、菜々は追加をよそってあげる。

 クロスメロディーは彼女達の世界にとって救世の英雄だ。

 その名を継ぐ子ならばこのくらいのサービスをしたってバチは当たるまい。

 

「ふぅむ。病人食でなくともよかったかもしれんのう」

 

 そんな萌音(モネ)の様子を見るユキヒョウは一人苦笑する。

 ともえ達に萌音(モネ)の分も消化によさそうな食事を頼んでしまったのは蛇足だったかもしれない。

 

「そんな事ないよ。ほら」

 

 ともえが言う通り、萌絵の為に用意したヨーグルトとカットフルーツのハチミツ和えは既に一人前を平らげて萌音(モネ)の分へ手が掛かっていた。

 結果オーライである。

 

「これだけ食欲があるなら、体調悪くなってもすぐによくなるかな」

 

 萌絵はイエイヌに「はい、あーん」をしてもらいつつ、ついでに抱き着いてモフモフ成分も補給していた。

 いたれり尽くせりでご満悦の萌絵である。

 

「でも、何があったの?」

 

 ともえとしてはそこが疑問だ。

 萌絵は以前「よっぽどの事がないと今後変身はしない」と言っていたはずだ。

 つまり、よっぽどの事があったという事だ。

 

「あのね! ともえさん! 萌絵さんすっっっっごい格好よかった!!!」

 

 そこにルリがキラキラした目で詰め寄った。

 そして両手をぶんぶん振り回しつつ、ライブ会場であった出来事を話す。

 萌絵がプリンセスの代理としてリハーサルに参加した事、ギリギリにステージへ到着したプーの為に急遽クロスハート・ともえフォームの技でもって変身アイテムを届けた事。

 そして、ステージに乱入したセルリアンを倒す為に自らも舞台へ乱入し萌音(モネ)の変身したクロスメロディーと共にセルリアンを倒した事。

 それを聞いたともえの心境は一つだ。

 

「なにそれ……めっっっっちゃ見たかった!!!」

 

 つまるところ、今日一日、萌絵はPPP(ペパプ)の一員だったのだ。

 そんな姿を見逃してしまったとは!

 

「ねえねえ、萌絵お姉ちゃん! ルリちゃん! 誰でもいいから写真とか撮ってないー!?」

 

 だが、残念ながらステージ内はもちろん、会場内でも写真撮影も録音も禁止である。

 一部の例外を除いては。

 

「ありますよ」

 

 ニョキリ、と生えて来たのはマーゲイであった。

 彼女こそが例外の一人。PPP(ペパプ)ライブの関係者にしてスタッフの一人である。

 記録用のデジタルカメラを取り出すと、いくつかの写真をディスプレイに表示して見せる。

 

「ほら、これなんか萌絵さんがプリンセスさんの衣装を着ているところですね」

「おおおおおお!」

 

 見逃してしまったかと思っていたものが見れてともえは大満足だった。

 

「ひょぇええええ!? 見ちゃダメぇえええ!?」

 

 これに大慌てだったのは萌絵である。

 まさか写真が残っているとは思っていなかった。

 しかもそれがともえに見られてしまうとは。とても格好よかったのだから別に恥ずかしがる事はないと思うのだが姉心とは複雑なのである。

 だが、続くマーゲイの言葉に萌絵は少しだけ安心した。

 

「こちらはオフィシャルサイト用だとかライブDVD用にするつもりだったんですが、さすがに萌絵さんの存在を公表は出来ないのでお蔵入りですね」

 

 今回の騒動が必要以上に広まればクロスハート達の正体がバレる可能性も高くなる。

 なので、今回のライブ映像は一切商品化されないらしい。

 事件を聞きつけた報道機関などからライブ映像の提供を打診されてはいたが、撮影機材のトラブルを理由に全て断っていた。

 実際に色鳥武道館は謎の停電に見舞われていたわけだし。

 それにしても……。

 

「あ、あの……マーゲイさん? こんなところにいて大丈夫なんですか?」

 

 ルリが心配そうに訊ねる。

 なんせマーゲイはPPP(ペパプ)マネージャーである。ライブ後はその後片付けなどて大忙しのはずだ。

 増してやライブであった事件は既に広まりつつある。その対応をするのはマーゲイの仕事であろう。

 つまり、今、一番忙しいのは彼女であるはずだ。

 

「ふっふっふ。心配ご無用!」

 

 だが、マーゲイは余裕の笑みを見せる。

 

「明日の事は明日考えりゃあいいんですよ!! 今はそれよりも大事な事があります!!」

 

 力説するマーゲイは拳を振り上げて高らかに宣言した。今、最も優先すべき事を。

 

「打ち上げですよっ!!!」

 

 夏が終われば秋が来るように、ライブが終わったら打ち上げがある。それはマーゲイ達にとって当然の事である。

 だからこれは業務であり仕事なのだ。

 だが待って欲しい。

 打ち上げってどこで?

 

「そりゃあ、ここよ」

 

 そして、これまたいつの間にやって来ていたのか。マーゲイの雇い主である浦波 遥がその隣にいた。

 彼女が言った「ここ」とはつまるところ『two-Moe』の事である。

 

「はい、みんなー、注目ー」

 

 でもって、キッチンで大忙しであるはずの春香もやって来ていた。

 一体何事だろうと、皆が食べる手を止めてそちらに視線を向ける。

 

「今日のお大尽さんはこちらでーす」

 

 と春香は遥をみんなに指し示した。

 今みんなが食べている大量の料理の代金を提供してくれたスポンサーとは遥の事だったのだ。

 そんな遥はみんなに言った。

 

「そういうわけだから今日はみんな心行くまで食べてね」

「「「「「ゴチになりまーっす!!」」」」」

 

 早速調子のいい数名から声があがる。

 遥は既に空になった皿の量を見つつ料金に関するソロバンを脳内で弾いてみる。

 そして、マーゲイに小声で確認した。

 

「ねえ……。これ、経費で落ちるわよね?」

「一応大丈夫だと思いますよ……。経理さんには私からも言っておきます」

 

 既に腹ペコさん達が食べ尽くした料理はかなりの量に及んでいる。

 これが経費で落ちなかったら遥の自腹だ。

 そして何より、打ち上げ参加者はこれで全員ではない。それどころかまだ半分くらいだ。

 では残る半分とは一体誰なのか。

 これがPPP(ペパプ)ライブの打ち上げなのだから、主役は当然彼女達だ。

 

「フルルいっちばーん!」

「あ、ずりーぞ!? 俺が一番乗りしようと思ってたのに!?」

 

 『two-Moe』の扉を開けて入って来たのはフルルとイワビーだった。

 目立たないように帽子で変装していたが。

 そう。

 PPP(ペパプ)ライブの打ち上げであるならば、主役は当たり前だけれどPPP(ペパプ)である。

 

「お二人とも。あまり羽目を外し過ぎてはいけませんよ」

「そうとも。ジェーンの言う通り、騒ぎ過ぎたらお店に迷惑が掛かるしご近所迷惑にもなってしまう」

 

 フルルとイワビーの後に続いてやって来たのはジェーンとリーダーであるコウテイだ。

 

「が、まぁ、ライブは大成功だったわけだから、適度に騒ぐのは許可しよう」

 

 コウテイがそう言うと、フルルは「やった!」と快哉をあげて、即座にテーブルへ突撃した。

 萌音(モネ)の隣に陣取ると早速自分の分を取り分けてパクつきはじめる。

 

「フルルさん。慌てて食べなくてもまだまだ沢山あるわよ」

 

 ようやく空腹も落ち着いた萌音(モネ)は苦笑する。

 ついさっきまでの自分と同じように、ほっぺたをハムスターのように膨らませたフルルを見ながら。

 

「あっるぇー? フルルが一番乗りだと思ったのに萌音(モネ)ちゃんの方が先だった? そっかー。でもまぁいっかー。美味しいしー」

 

 言いつつも山盛りの料理がフルルの前から次々と消えて行く。

 PPP(ペパプ)ナンバーワンの食いしん坊キャラは伊達ではない。

 

「フルルさん。私達にはまだこの後、一仕事残っているんですからね?」

 

 いつの間にやら、フルルの逆側には変装しなおしたプリンセスことプーが座っていた。

 その言葉を聞いて、萌音(モネ)は「?」マークを浮かべる。

 ライブを終えたばかりだというのに、何かこれ以上仕事があるというのだろうか。

 

「ねえ。プー。何かあるんなら私も手伝うわよ。私に出来る事ある?」

 

 そう提案する萌音(モネ)だったが、その口にプーが手ずからテーブルにあったカツサンドを放り込んだ。

 

萌音(モネ)はいいから休んでなさい。今回は貴女に手伝って貰うわけにはいかないの」

 

 萌音(モネ)は放り込まれたカツサンドをむぐむぐ咀嚼し再び「?」マークを浮かべる。

 

「でもそうね。手伝ってくれるなら、私の分の料理は低カロリーなヤツを取り分けておいて」

 

 言いつつプーは萌音(モネ)にウィンク一つ残すとテーブルを立ってお店中央へと進み出る。

 誰もが進み出て来たプーへ自然と注目する。

 その視線を受けてプーは口を開いた。

 

「さて、今日、私達PPP(ペパプ)には一つだけ大きな仕事が残ってしまいました」

 

 その言葉に誰もが一様に小首を傾げた。

 プーが言うと同時、ジェーンもイワビーもコウテイもフルルも彼女の周囲に集まった。

 もっともフルルだけは名残惜しそうに、テーブルからサンドイッチを一つ持って来たままだったが。

 プーは一度コウテイへ視線を送る。その視線を受けてコウテイは頷きだけを返した。

 先を続けるように、と。

 プーもまた頷きを返してから言葉を続ける。

 

「それは、私達が一番ありがとうを伝えるべき人達に歌を届けていないという事です」

 

 つまりプーが、いやPPP(ペパプ)が残した大きな仕事とは……。

 

「ありがとう、通りすがりの正義の味方達!」

 

 コウテイが言う。

 

「俺たちPPP(ペパプ)の特別アンコール公演だぜ!!」

 

 既にイワビーは愛用のギターを取り出していた。

 プーが萌音(モネ)の手伝いを断ったのは、彼女も含めた通りすがりの正義の味方達に歌を聞いて欲しかったからだ。

 

「ご近所迷惑にならないように音量抑えめですが、ミニライブ楽しんで下さいね」

 

 ジェーンはテーブルに再び料理を取りに行こうとするフルルを捕まえていた。

 

「フルルの分も料理残しておいてねぇー」

 

 フルルも観念して配置へ着く。

 ともえやかばん達はライブ会場にいられなかったからPPP(ペパプ)ライブを全く見られなかったし、会場にいたルリやアムールトラ、エゾオオカミやセルリアンフレンズ三人組だってまともにライブを楽しめる状態ではなかった。

 そして誰もがPPP(ペパプ)ライブを見られなかった事を残念に思っていたのだった。

 だからこそ押しも押されぬトップアイドルであるPPP(ペパプ)が自分達の為にそんな事をしてくれるとは信じられずにキョトンとしていた。

 

「それじゃあ行くわよ!」

 

 そんなともえ達を余所に、プーの号令でPPP(ペパプ)は一曲目を開始した。

 最初信じられなかったともえ達であったが、パフォーマンスが始まると同時、すぐに熱中してしまった。

 例え機材が乏しくても、その実力は本物だ。

 目の前で繰り広げられるライブに興奮せずにはいられない。

 一曲目である『ようこそジャパリパークへ』を歌い終わる頃には誰もが拍手を惜しまなかった。

 トップアイドルであるPPP(ペパプ)の歌を独占したのだ。

 こんな贅沢はあるまい。

 ともえ達は大満足だった。

 が……。

 

「何を勘違いしてるのかしら?」

 

 プーがニヤリとした。

 

「まだPPP(ペパプ)ライブは始まったばかりよ!」

「よっしゃ行くぜぇ! 続けて『大空ドリーマー』だっ!!」

 

 イワビーの伴奏に合わせて何と二曲目が始まった。

 あまり歓声をあげるわけにもいかないので、マーゲイが観客のみんなにサイリウムを配る。

 誰もがそれを振り回してPPP(ペパプ)を応援する。

 通りすがりの正義の味方達へ贈る特別PPP(ペパプ)ライブはその後しばらく続くのだった。

 

 

 

の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の

 

 

 PPP(ペパプ)ライブから一週間後。

 世間では今回の色鳥町ライブで「PPP(ペパプ)に6人目と7人目の新メンバーが!?」などと噂される事態になっていた。

 その火消しに苦労したマーゲイと遥である。

 今回のライブ映像は販売される事がないので、PPP(ペパプ)の6人目と7人目の新メンバーはまさに幻となったのだった。

 なお、大忙しだった大人達とは裏腹にPPP(ペパプ)メンバーはというと、最初の二日間程は萌絵と萌音(モネ)のお見舞いやら看病の手伝いやらをしてくれた。

 その後はちゃっかり色鳥町観光を楽しんでいたようではあるが。

 念願の色鳥町食べ歩きツアーを楽しんだフルルを筆頭にイワビーもジェーンもコウテイも色鳥町を満喫し、マーゲイと共に一足先に帰って行った。

 

 さて、ここは色鳥駅。

 ホームには萌音(モネ)とプーがいる。二人もいよいよ帰る日がやって来たのだ。

 

「じゃあマイシスター達! お世話になっちゃったわね!」

 

 そう言うのはすっかり復調した萌音(モネ)である。

 見送る側にはともえと萌絵とイエイヌが集まっていた。

 

「こっちこそ! 楽しかったよ!」 

 

 ともえが萌音(モネ)の両手を取る。

 なんだかんだで忙しくはあったけれど、楽しい時間であった。

 それこそアッという間に時間が過ぎるくらいに。

 だが、萌音(モネ)には少しばかり心残りがあった。

 

「でも、残念だったわ。せっかく萌絵ちゃんを甘やかして姉っぽい事をするチャンスだったのにっ!」

 

 萌音(モネ)は拳を振るわせ後悔する。

 ほぼ精魂尽き果てていた萌音(モネ)は萌絵の看病に回る事が出来なかったのだった。

 

「諦めなさい。萌音(モネ)はどっちかっていうと妹キャラなんだから」

 

 そういうプーはというと、遠坂家に泊まり込みで萌絵と萌音(モネ)の看病を手伝ってくれた。

 もちろん、二人とも散々甘やかした。 

 で、プーをはじめとするPPP(ペパプ)のおかげもあって、二人とも二日目にはすっかり回復したのである。

 そして三日目からはPPP(ペパプ)メンバーの色鳥町観光にみんなで付き添って散々遊び倒したわけだ。

 

「色々ありがとうね、萌音(モネ)姉さんもプーちゃんも」

 

 今度は萌絵が前へ出る。

 その腕にはセミハードの楽器ケースが抱かれていた。

 これは萌音(モネ)の『バチバチ・ダブルV』ではない。そっちはいつも通り萌音(モネ)が背負っているのだから。

 

「これはお礼でもあるし、お土産でもあるし……両方かも」

 

 萌絵はそれをプーへと手渡す。

 セミハードの楽器ケースを受け取ったプーは視線で「開けてみてもいい?」と問い掛ける。

 萌絵が頷いてくれたので、プーはファスナーを開けて中身を確かめた。

 それはVの字を逆さまにしたようなボディを持つエレキベースだった。

 あの日、PPP(ペパプ)ライブで萌絵が変身したクロスハートが使った『ゴロゴロ・フライングV』である。

 

「ほら、プーちゃん、楽器が出来たらステキだって言ってたじゃない? だからそれはプーちゃんに持ってて欲しいなって」

 

 萌絵が変身したクロスハートにはある種の制約がある。

 それは、使った道具は未来の自分から借りたものであるからいつか作らなくてはならないという事だ。

 萌絵は復調後に時間を見てあの日使った道具を制作していたのだった。

 そして、あの時クロスハート・ともえフォームが使った新アイテムは二つ。

 

「それで、こっちは萌音(モネ)姉さんに」

 

 渡されたのは一見すると何の変哲もないマイクだ。

 だが、萌音(モネ)は知っている。それはプーがPPP(ペパプ)のプリンセスに変身できるアイテムである事を。

 

「でも、これも渡すならプーにじゃない?」

 

 萌音(モネ)としては疑問だった。

 これはプーの為の変身アイテムだ。ならばこれもプーが持っているべきではないだろうか。

 

「ほら、萌音(モネ)姉さんもまた幻の6人目になる事もあるかもしれないし」

 

 なんてイタズラっぽく笑う萌絵が続ける。

 

「それに、二人はいつでも一緒だと思うからプーちゃんがそれを使わなきゃいけない時は萌音(モネ)姉さんが判断してくれるよ」

 

 まぁ、それもいいか、と思う萌音(モネ)である。

 それに、二人で組んでいる軽音楽同好会でも萌音(モネ)もボーカルに加わってプーのベースも交えれば演奏に厚みが出る。

 そういう使い方もアリかもしれないと思う萌音(モネ)だ。

 

「でも、そうなるとマイクだと片手が塞がるからインカム型の方がよかったかもしれないわね」

「あ……」

 

 萌絵はそこまでは考えていなかった、とハッとする。

 

「「うそうそ!? めちゃくちゃ嬉しいわ!!」」

 

 萌絵が考え込み始めてしまったので、萌音(モネ)もプーも二人して大慌てでフォローを入れる。

 だが、萌絵は顔をバッと上げるとやたらキラキラした目で言った。

 

「今度新型を作っておくね!」

 

 やる気があるのはいい事だが、萌音(モネ)もプーもある事を心配していた。

 二人ともイエイヌの肩を両側からポムと叩く。

 

「萌絵がまた無理しすぎないように見ててあげてね」

「あと、体調崩した時のお世話もよろしくね」

「はい! お任せ下さい!」

 

 こういう事ならイエイヌに頼むのが一番だ。

 

「えぇー!? アタシだってたまにはお姉ちゃんっぽい事したい!」

「はいはい、ともえも萌音(モネ)と一緒でどっちかって言うと妹キャラだからねー」

「もう!? プーちゃんひどいよぉ!?」

 

 ともえの抗議だったが、プーはニヤリとすると指先を彼女の鼻先に突き付けた。

 

「じゃあ訊くけど……。ともえ、貴女、夏休みが残り一週間くらいしかないって気づいてた?」

「へ……?」

 

 ともえはその言葉にしばらく考え込む。

 アルバイトしたり夏祭りで奮闘したり、ついでに世界を救ったりPPP(ペパプ)ライブの手伝いをしたり……確かにそんな事をしていた間にもう夏休みは残り僅かとなっていた。

 

「あ、ああああああああああっ!?!?」

 

 その事実に今さら気づいたともえは声を上げた。

 

「まだ海行ってない!?!?」

 

 と。

 それもあるかもしれないけど、まだあるだろう、と嘆息するプー。

 

「で? ともえ。貴女、夏休みの宿題は大丈夫?」

 

 途端にともえの顔が青くなっていった。

 実はここのところ、PPP(ペパプ)の皆と萌音(モネ)がいてくれたのが楽しくてついつい遊び過ぎてしまった。

 その分きっちり宿題は遅れていた。現実は残酷である。

 

「ちなみに、私は萌絵とイエイヌと一緒に宿題随分進んだわ。あと1週間もあれば楽勝ね」

 

 と勝ち誇るプー。彼女達3人は夜にほんの少しずつでも宿題を進めていた。

 みんなでやれば宿題も捗るから、僅かな時間の積み重ねでも大きな成果だ。

 それを聞いて顔を青くするのはともえばかりではなかった。

 

「い、いつの間に……!?」

「ちょっと、萌音(モネ)……まさか貴女まで……?」

 

 妹達に囲まれて楽しかったのは萌音(モネ)もである。

 結果、ついつい遊び疲れてしまって夜の勉強時間はともえと一緒に居眠りしてしまっていた。

 なので、宿題の進み具合は芳しくない。

 

「ま、まぁまだ1週間あるし!」

「そ、そうよ!」

 

 ガシリ、と力強く手を握り合うともえと萌音(モネ)

 それを見る三人は同じように思った。やっぱり二人とも妹キャラだ、と。

 

「ってわけで、プー! 宿題見せてぇええええ!?」

「こういう時こそお姉ちゃんらしく頑張りなさい」

「そんなぁあああああ!?!?」

 

 色鳥駅のホームに萌音(モネ)の絶叫が響くのであった。

 

 この物語は、ある日突然フレンズの姿に変身する不思議な力を手に入れて、通りすがりの正義の味方クロスハートになった遠坂ともえと仲間達のお話である。

 彼女達の戦いはまだまだ続く!

 戦え、クロスハート!

 

「お姉ちゃぁあん! イエイヌちゃああん!? アタシも! アタシも宿題見せてぇえええ!?」

「ともえちゃん。後でわからないところは教えてあげるけど、写すのはダメだよ」

「そうですよ。宿題は自分でやらないと意味がありませんからね」

 

 夏休みは残り少ないぞ!

 さしあたってまずは宿題を片付けるんだ!

 

 

 けものフレンズRクロスハート第26話『ツインプリンセス』

 ―おしまい―

 




 【後書き】

 皆様お久しぶりです。土玉満です。
 さて、今回はえひたさとしひや様よりお借りしたキャラクターである浦波 遥さんと浦波 萌音(モネ)ちゃんを交えての長編となりました。
 あらためてキャラクターをお貸し下さったえひたさとしひや様、本当にありがとうございます。

 このお話でイメージしたものは、劇場版クロスハートともいうべきものです。
 劇場版ってこんな感じだよなー、という自分の中にあった物語を出力させていただきました。
 なので、今回は劇場版という事でいつもよりも長尺でお送りさせていただきましたがいかがでしたでしょうか?
 ちなみに、今回のサブタイトルである『ツインプリンセス』ですが、一人目のプリンセスは当然プーことロイヤルペンギンのフレンズであるプリンセスなわけですが……。
 ツインどころじゃないお姫様(プリンセス)的役割を担ったキャラクター達がいたりしました。
 そんなところも含めて楽しんでいただけたら嬉しい限りです。

 さて、次回からいよいよ5章へ突入しようかと思っていますが、本格的な5章開始は3月辺りを目途にしたいと思っています。

 まだちょっとお話の構成に悩んでいる部分はありますが、なるべく早くお届け出来るように頑張ります。

 これからもけものフレンズRクロスハートをお楽しみいただければ幸いです!
 どうぞこれからもよろしくお願いします!
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