けものフレンズRクロスハート   作:土玉満

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 【これまでのけものフレンズRクロスハートは!】

 色鳥町が夜へと沈む『ヨルリアン事件』から少しして、ともえ達の親戚である浦波 萌音(モネ)が遊びに来る事になった。
 時を同じくして急遽色鳥町でライブを開催する事になったトップアイドルグループPPP(ペパプ)
 実はPPP(ペパプ)は『ヨルリアン事件』で乱れた地脈を清浄化する為に色鳥町へとやって来たのだ。
 そして、萌音はそのPPP(ペパプ)を守る守護者なのだった。
 そんなPPP(ペパプ)ライブを阻止せんと異世界の四神であるセルビャッコとセルセイリュウが立ち塞がる。
 さらに多数のセルリアンが現れる。
 が、色鳥町を守る通りすがりの正義の味方達が総集結してこれに立ち向かう。
 多数のピンチを乗り越えてPPP(ペパプ)ライブは成功するのだった。


第5章
第27話『はじめての協奏曲』①


 

 

 時は約13年と少し前。

 色鳥川が近くを流れる大公園は快晴のよい天気も手伝って沢山の人で賑わっていた。

 そんな中に星森 ミライ、星森 ノナの二人も芝生に座ってのんびりしていた。

 正しくはもう一人。

 生まれたばかりであるノナの娘、サーバルも一緒である。

 

「サーバルちゃんは本当にお外が好きですね」

「そうだねー。多分そういうところは私に似たんだよ」

 

 ミライの言葉にノナが同意してみせる。

 二人が言うように、サーバルは外の景色が嬉しいのか上機嫌だった。

 そんなサーバルをあやしながらミライが言う。

 

「サーバルちゃんはサーバルさんに似てきっとお耳と尻尾がステキなフレンズさんになりますよ」

「もうー。ミライさん。私はもう名前をこの子にあげたの。今はノナだよ」

「おっと、そうでしたね。なんだかノナさんって呼ぶのがまだ慣れなくって」

 

 ノナはサーバルが生まれてからほぼすぐに名前を譲った。

 そんなサーバルは最近は特に活発になって来たところだ。

 おうちでハイハイで動き回ってはどったんばったんの大騒ぎである。

 

 そうこうしていると……

 

―ブワッ

 

 春先の風が吹き抜けてミライの被った帽子を飛ばす。

 ずっと昔に祖父から譲ってもらった愛用の帽子だ。

 少しくたびれて来たけれど、色々な思い出があるから今でも変わらず使っている大切な物である。

 慌てて立ち上がり帽子を追おうとしたミライだったがそれよりも早く……

 

「みゃあ!」

 

 ノナの腕からすり抜けたサーバルが帽子を追って飛び出した。

 おそらく動く物に猫科の狩猟本能が刺激されたのだろう。

 驚く程の高速ハイハイで帽子を追いかけるサーバル。

 見通しのいい芝生の上だから見失う事はないだろうけど、これにはノナもミライも驚いて一瞬動きが止まってしまった。

 

「うみゃあ!」

 

 何とサーバルはジャンプ一番、ミライの帽子へ飛びついて見せる。

 そこでミライとノナにとってはさらに意外な事が起こった。

 

「わぁ!?」

 

 さっきまで確かに誰もいなかったはずなのに、帽子に飛びついたサーバルの下から声が聞こえるではないか。

 ノナとミライが慌ててサーバルの元へ駆けつけると……。

 

「「へ……?」」

 

 サーバルに押し倒される格好で同い年くらいに見える赤子が組み敷かれていた。

 ミライもノナも訳が分からない。

 さっきまで周囲には誰もいなかったはずだ。

 帽子が飛ばされた距離だって大したものではない。

 ここにサーバルと同い年くらいの赤子がいるはずがないのだ。

 しかも、飛ばされたミライの帽子を被った子が。

 

「た……」

 

 ミライとノナが戸惑い動けずにいる間に、組み敷かれた赤子が何かを言おうとしていた。

 一体何を? と思っているとその子は一息に言った。

 

「たぅえにゃいでくらさい!」

「たぅえにゃいよ!」

 

 それに即答するサーバル。

 ノナもミライも一瞬訳が分からなかった。

 何を言ったのかも、どうして二人だけに通じ合っているのかも。

 そうしている間にも事態は進行する。

 

「たぅえにゃいでくらさぁああい」

「たぅえにゃいよぉ」

 

 サーバルが下にいる子のほっぺをペロペロしていた。

 その頃にはようやく金縛りから解けたミライとノナはサーバルともう一人の子を引き剥がす事にした。

 ノナがサーバルを抱き上げ、その間にミライが下にいた子を抱える。

 ミライが見たところ怪我はなさそうだ。

 だが、この子は一体誰なのだろう? 何か身元が分かりそうなものはないだろうかとよくよく観察するミライ。

 まず、ミライが愛用していた二本の羽根がついた帽子。まだぶかぶかだがそれが頭の上に乗っている。

 赤い半袖シャツにハーフパンツ。

 それに背中には小さな背負い鞄(リュックサック)を背負っていた。

 

「この鞄に何か……」

「あい?」

 

 ミライが鞄に目を向けたら、抱えていた子が返事をした。

 

「ん?」

 

 なんで今返事をしたのか。

 ミライが疑問に思いつつも赤子が背負った鞄をよく見てみる。

 そのネームプレート部分に刺繍がされていた。『かばん』と。

 

「かばん……ちゃん?」

 

 まさかそれが名前なのか、と若干の戸惑いと共に呼びかけるミライ。

 

「あい」

 

 やはり赤子は反応を示した。

 そんな様子を見て、ノナに抱えられたサーバルがかばんと呼ばれた子に手を伸ばす。

 

「うぇ……」

 

 今度は一転して泣きそうな表情でミライの腕に隠れるかばん。

 先程飛び掛かられたばかりのサーバルに対して警戒心があるらしい。

 だが、サーバルの方は特に気にする事なくミライの腕に抱かれた『かばん』へ手を伸ばし続ける。

 

「もう、サーバル。急に狩りごっこしたらダメだよ」

 

 相変わらず『かばん』が警戒しっぱなしだったから、ノナはまずサーバルを止める事にした。

 サーバルをあやして落ち着かせた後、あらためて『かばん』へ語り掛ける。

 

「ごめんね。この子、狩りごっこが大好きで」

 

 語り掛けるノナだったが、『かばん』は言葉の意味を理解できているのだろうか。

 だが、ノナは気が付いた事がある。

 『かばん』の視線がノナに向いているようで、微妙に上の方にずれている事に。

 その視線はノナの耳に注がれていた。

 

「ああ、これ? 私はサーバルキャットのフレンズでノナ。立派なお耳でしょ?」

 

 どうやら『かばん』はノナの耳に興味があったらしい。

 

「で、こっちがサーバルキャットのフレンズでサーバル。私の娘なんだ」

 

 少し距離を離して抱っこしたサーバルを示して見せる。

 紹介されたサーバルはなおも『かばん』に触れたそうに手を伸ばしていた。

 

「はい、サーバル。急に飛び掛かったらビックリしちゃうでしょ? ごめんなさい、は?」

「あー……」

 

 サーバルもノナに言われて伸ばした手を引っ込めて神妙そうな顔をした……ような気がした。

 とりあえずサーバルも落ち着いてくれたようだから、ノナはあらためて問題を口にする。

 

「それにしても、この子、何処から来たのかなぁ? ね、ミライさん?」

 

 自分で立つ事すらままならなそうな赤ん坊が一人でこんな場所にいるわけがない。

 きっと、どこかに親がいるはずだ。

 迷子などであれば親を探してあげなくてはいけない。

 だが、『かばん』を抱いたまま深刻な顔をしたミライは答えを返さない。

 いや、実はミライは『かばん』を抱っこしてみて直感的に答えを理解していた。

 けれどそれはミライ自身でも信じられない内容であったのだ。

 

「どうしたの? ミライさん」

 

 心配したノナに向けてミライはギ、ギ、ギ、と首だけをノナの方へ向けて何とも困った表情と共に自身の直感を口にした。

 

「あのですね……。多分、この子の親……私です」

 

 一瞬何を言われたのか分からなかったノナだったが、言葉の意味を数秒をかけて反芻し理解した瞬間……。

 

「ええええええええええ!?!?」

 

 思わず絶叫してしまうのだった。

 

 

の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の

 

 

 星森 ミライはその当時大学生であった。

 ノナというパートナーはサンドスターの奇跡によってサーバルという娘を授かったものの、ミライが子供を授かるような要素はない。

 結局『かばん』は一時的にノナとミライの家で保護していた。

 それからどうするか、というのはノナもミライもどうしていいのか悩んでいるところだ。

 

「なるほどね。で、慌てて私を呼んだわけね」

 

 そう言うのはミライの従妹であるカコという女性であった。

 彼女はミライよりも年上で既に飛び級で大学を卒業し、サンドスター研究所に勤めている。

 

「そうなの。来てくれてありがとうね、カコさん」

 

 カコに返事しつつも、ノナはサーバルと連れ帰った『かばん』のお世話をしてた。

 ミライにも手伝ってもらいつつノナは二人のおむつを交換している最中である。

 

「あ、この子、女の子だ」

「あら本当ですね」 

 

 で、ノナとミライの二人してそんな事を確認したりしていた。

 

「で、実際どうなの? カコさん」

 

 ノナはカコに訊ねる。

 今お世話をしている『かばん』は結局何者なのか、と。

 まさか本当にミライの娘という事はあるまい。

 カコがしばらく考え込みながら返事を口にした。

 

「そうね。まず心当たりがある現象があるにはあるわ」

 

 それは一体? とノナもミライも先を促したが、カコは逆に問い掛ける。

 

「そもそもノナ。貴女はサーバルをどうやって授かったの?」

「それは、サンドスターの奇跡で……」

 

 ノナがサーバルを授かったのは『サンドスターの奇跡』によってだ。

 フレンズはある時期になると自分と同種のフレンズを授かる。

 それはノナも同じだった。

 高校を卒業し保育士の仕事をしていた時期にサーバルを授かったのだ。

 カコが言わんとしている事は何となくわかる。

 

「じゃあ、この『かばん』ちゃんはサンドスターの奇跡で授かったミライさんの子だって言うの?」

 

 ノナの確認にミライは戸惑いを浮かべた。

 それはそうだ。『サンドスターの奇跡』で生まれるのは全員がフレンズなのだから。

 だが、『かばん』は耳も尻尾もないし、羽根もないのだから鳥系フレンズでもないし、フードもないから蛇系フレンズでもないだろう。

 どこからどう見てもヒトにしか見えない。

 だけれどもミライにも思い当たる事があった。

 

「ヒトの……フレンズ……」

 

 ヒトのフレンズは存在しない。それが世間一般での認識だ。

 だが、『かばん』がヒトのフレンズであると考えれば全ての辻褄も合うし、ミライが直観的に『かばん』が自分の子であると思ったのも納得が行く話だ。

 

「私もサンドスター研究所に勤めるようになってから知ったのだけど、ヒトのフレンズは存在するわ」

 

 カコは一つ息を吐いてから続けた。

 

「でも、ミライ。貴女の子というのは半分正解だろうけど正確ではないわ」

 

 なんとも微妙なカコの物言いにミライは首を傾げた。目線でカコに先を促す。

 

「おそらくだけれど、この子はミライの帽子から生まれたの」

 

 ミライの帽子は随分と年季が入っておりくたびれている。

 そこから生まれたというのは一体全体どういう事なのか。

 

「この帽子はね、昔はおじい様の物だったでしょう?」

 

 カコが言う通り、ミライの帽子は彼女達の祖父である人物から譲り受けた物だ。

 カコの言う祖父はジャパリ女子学園の学園長を務めた人物でもあり、教育者としてミライも尊敬している。

 祖父から譲り受けた帽子はミライにとっても宝物だ。

 だが、話が見えない。

 

「この帽子は私達一族の因子を内包している、と言っていいと思うのよ」

「つ、つまり……」

 

 ミライもカコが言いたい事をようやく理解した。

 この『かばん』というヒトのフレンズは帽子に付着したミライの毛髪から生まれたわけではない。

 代々受け継がれて来た帽子に宿ったミライとカコの一族という概念がフレンズ化したと考えたわけだ。

 それであれば先にカコが言った『ミライの子というのは半分正解だが正確ではない』というのにも合点がいく。

 

「でも……概念がフレンズ化なんてそんな事……」

「あるわよ。ミライと同じ学校だったオイナリちゃんだってそうでしょ」

 

 未だ信じられないと言ったミライの呟きにあっさりと返すカコ。

 オイナリちゃんはオイナリサマの家系を継ぐフレンズだ。

 彼女の祖先は神使の白狐という概念がフレンズ化したものである。

 それに、色鳥町に古くから住む旧家である四神の一族だって元を正せば伝承や口伝に伝わる幻想上の生き物がフレンズ化したものだ。

 概念がフレンズ化する事は決して有り得ない事ではない。

 

「あ、あのね!」

 

 シュビ、っとそこにノナが挙手して割り込んだ。さっきまで難しい話が続いていたせいで頭から湯気を出していたが。

 

「ミライさんとカコさんの言う難しい事は私にはよくわかんないけど……でも、今は『かばん』ちゃんをどうするかが一番大事じゃないかな」

 

 ノナの指摘にミライもカコもハッとする。

 そうだ。

 最も重要な事はそれだ。

 カコはしばらく考えてから言う。

 

「サンドスター研究所に事情を話して引き取ってもらうって手はあると思う」

 

 『かばん』はヒトのフレンズであるからサンドスター研究所が無碍に扱うとは考えにくい。最も現実的な案に思えた。

 けれど……と、三人揃って『かばん』の方を見る。

 『かばん』はサーバルにじゃれつかれていた。

 最初こそ警戒していた『かばん』だったが、今は慣れたのか楽しそうにしている。

 それを見たら三人とも考えざるを得ない。

 『かばん』をサンドスター研究所に引き渡したらヒトとして健全な生活を送れるのだろうか、と。

 もしかしたら一人っきりで隔離されて観察と研究の対象にされてしまうのではないか。

 暗い思考に陥りそうになったその時……。

 

「はい!」

 

 再びノナが挙手した。

 

「『かばん』ちゃんも私の子供になったらいいよ!」

 

 ノナは実に気楽に言ってのけるが、果たしてそんな事が可能なのか。

 

「まぁ、何とかならなくもないと思うわ」

 

 カコは素早く頭の中で計画を練り上げる。

 サンドスター研究所にはカコの上司である遠坂主任という信頼できる人物がいる。

 彼に頼めば諸々の面倒な手続きまで含めて悪いようにはしないに違いない。

 

「けどいいの? ノナ」

 

 血も繋がらない子を自分の娘とするには並々ならぬ覚悟がいるはずだ。

 この場の雰囲気だけで決めていいはずがない。

 

「いいよ。どっちにせよサーバルにも妹が欲しかったし。一人も二人もあんまり変わんないよ」

 

 言ってサーバルと『かばん』を抱え上げるノナはふんす、とドヤ顔だ。

 サーバルはもちろん、既に『かばん』まですっかりノナに懐いてしまっているように見える。

 それに、ノナはちょっとドジなところはあるけれど、いい加減な気持ちでこんな事は言わない。

 

「私も手伝います。だから……」

 

 ミライとしても『かばん』の事は他人とは思えない。

 だから家族になれるならどんな苦労だって甘んじて受け入れるつもりでいた。

 そんな二人の決意を見てカコも腹を括る。

 

「それならいいわ。遠坂主任に話しを通しておくから」

 

 カコだって『かばん』は他人の気がしない。

 なんなら娘が出来たらこんな感じか、と思う。

 カコは『かばん』へ触れようと手を伸ばす。

 

「「あー」」

 

 その指先を『かばん』とサーバルの二人が小さな手で握って来た。

 

「カコさん……いつでも二人の様子見に来ていいからね」

 

 その様子をノナとミライは生暖かく見守った。

 普段クールな表情の多いカコだったが、今日ばかりは他人に見せられないくらいのニヤケっぷりだったのだから。

 

 

の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の

 

 

 結局、『かばん』はノナの娘として『星森 かばん』となった。

 生育具合を見てもサーバルとほぼ変わらなかったので、同じ学年になるようにしておいた。

 ミライはかばんの姉となり、カコも親戚のお姉さんという扱いである。

 で、当初色々な苦労を覚悟していたノナだったが、蓋を開けてみるとそんな事はなかった。

 むしろ二人になったおかげで楽になったまである。

 サーバルはやたら活動的な赤ん坊だったので怪我をしないように注意し続けなくてはならなかったのだが、かばんが大人しいせいか釣られるように落ち着いていてくれた。

 少し大きくなってからも、活発なサーバルがかばんを引っ張っていく構図はよく見られていたものの、かばんはよいブレーキ役になってくれた。

 小学校でもサーバルとかばんの二人はよいコンビとなる。

 ちょっと引っ込み思案なところがあるかばんと何にでも興味津々なサーバルはお互いを補い合っていた。

 特にかばんは大きくなればなる程、家事や料理などのお手伝いに興味を示してノナとミライを多いに助ける事になる。

 つられてサーバルもお手伝いに精を出してくれる為、ノナは随分と助けられた。

 そんなこんなでサーバルとかばんの二人も中学に上がる時期がやって来る。

 二人揃ってジャパリ女子中学への進学を決めた。

 

 

の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の

 

 

「ええと……。変じゃないかな?」

「大丈夫!! すっっっっっごい可愛いよ!」

 

 いよいよジャパリ女子中学への入学式。

 制服に袖を通したかばんにサーバルが目を輝かせて答える。

 

「ありがとう。サーバルちゃんも可愛いよ」

「うん! ありがとう、かばんちゃん!」

 

 もちろんサーバルだって初々しい制服姿だ。

 二人してお互い褒め合って照れたりしている。

 

「はいはい! 二人とも! 記念撮影しよう! みんな集まってー!」

「「はーい、ノナ母さんー」」

 

 二人してノナのところに駆け寄る。

 その頃にはミライの準備も出来た。

 三脚に自慢のカメラとタイマーをセットしたミライも合流する。

 ミライは大学を卒業して既にジャパリ女子学園中等部の教員になっていた。

 今日はいつもよりフォーマルなスーツでおめかしである。

 なんせ今日はミライの妹二人の中学入学式なのだ。

 

「言っておきますけど、二人とも。学校ではミライ先生ですよ?」

「「はーい、ミライ先生」」

「でもおうちではいつも通りお姉ちゃんって呼んでくれないと寂しいですよぅ!」

 

 言いつつミライはサーバルとかばんの二人にまとめて抱き着いた。

 

「じゃあ私はいつでも二人のお母さんだよー!」

 

 で、ノナも便乗して抱き着いて来たところに……。

 

―パシャリ

 

 とタイマーをセットしたカメラがシャッターを切った。

 

「さ、じゃあ三人ともそろそろ出ないと入学式に遅れちゃうんじゃない?」

 

 ノナの言葉に「「「そうだった!」」」と三人してハッとする。

 

「私も後で行くからねー。気を付けて行ってらっしゃーい」

「「「行ってきまーす」」」

 

 三人が見えなくなるまで見送ったノナはポツリと呟く。

 

「大体の家事はもうかばんちゃんに敵わなくなっちゃったなぁ」

 

 かばんは教えた事を覚えるのが早く、おうちの手伝いをいつもしてくれていたせいか星森家の家事は既にかばんが取り仕切る状態になっていた。

 なので、ノナはサーバルとかばんが中学生になるのを機に保育士の仕事に復帰する予定である。

 こうして10年以上もかばんを娘として育てて来たわけだが、正直手が掛からないどころか助けられた方が多いくらいだ。

 ノナが感慨に耽っていると……。

 

―プルルルル。

 

 家の電話が鳴った。

 

「はいはーい。あ、カコさん?」

 

 電話をかけて来たのはサンドスター研究所で主任にまで出世したカコ博士であった。

 何かとかばんとサーバルの二人に会いに来ては見守ってくれているようだ。

 ノナとしても、カコは放っておくと主に食生活がだらしないので顔を出してくれると安心する。

 カコ博士は挨拶もそこそに訊ねる。

 

『ノナ。最近かばんちゃんの様子で変わった事はあった?』

 

 カコ博士はミライやサーバルの事も気に掛けてはくれたが、一番気にしていたのはかばんの事だった。

 

「うん。今日からかばんちゃんも中学生だよー」

 

 しばらく他愛もない話をしていたがカコ博士は言ってくれた。

 

『相変わらずみたいで安心したわ。でも何かあったらすぐに言って』

「うん。ありがとうね、カコさん」

 

 カコ博士が心配しているのはかばんがヒトのフレンズである事だ。

 成長して何か異変がないかどうか定期的に様子を見に来てくれてもいる。

 幸いにしてそういった事は全くなかったが。

 

「そうだ。今日は入学祝いで夕食が豪華になる予定だからカコさんも食べに来ない?」

「ちなみにメニューは?」

「メインはかばんちゃん特製カレー」

「行くわ」

 

 カコ博士は即答した。

 食にはあまり興味がないカコ博士であるが、かばんが作ってくれるとなれば話は別だ。

 そうと決まれば今日は定時で仕事を終わらせなければ。

 俄然やる気を出したカコ博士は仕事に戻る。

 今現在彼女が急ぎでしなければならない仕事は二つ。

 一つはヒトのフレンズである『星森 かばん』を見守る為の特別製ラッキービーストを完成させる事だ。

 彼女の上司であるドクター遠坂は兄弟機である『ラモリさん』を既に完成させている。カコ博士も急ぐに越した事はない。

 既に本体は完成しており、後はいくつかのプログラムを追加で組み込む微調整を残すのみである。

 本体の製作も制御プログラムも大分ドクター遠坂に手伝ってもらったが、おかげで想定よりも早く完成しそうだ。

 中学校への入学祝いとしてかばん達にプレゼントすればより自然であろう。

 問題はもう一つの方だ。

 

「結局、ヒトのフレンズって何なのかしらね」

 

 カコ博士はかばんが生まれた日、ヒトのフレンズが実在する事を知った。

 が、ヒトのフレンズがこの世界に二人も存在している事を知ったのはドクター遠坂に事の次第を相談した時である。

 同種のフレンズは本人とその家族ぐらいしかいない。そしてそれはヒトのフレンズでも例外ではないはずだ。

 なのにどうして『星森 かばん』と『遠坂 ともえ』の二人が存在するのか。

 その疑問についてカコ博士は調べていたのだ。

 

「これが研究すればする程、疑問が増える一方なのよね」

 

 研究の過程で別な歴史と時間を歩む別世界の存在を知った。

 カコ博士の仮説ではこうだ。

 

「ヒトのフレンズとは世界の特異点である……」

 

 彼女達の世界でフレンズとは、その種の代表であると考えられている。

 ならばヒトのフレンズはヒトの代表とも言える。

 当然その行動は世界に大きな影響を与えるだろう。

 ヒトのフレンズが取った行動によって世界が変わり、いくつもの世界が枝別れしていったのではないか。

 きっと、別な世界には別な『かばん』がいたり別な『ともえ』がいたりするのかもしれない。

 そして彼女達の行動とその結果によって、世界はいくつにも別れてたくさんの世界が存在するのではないだろうか。

 だとするならば……。

 

「どうして私達の世界には同時に二つもの特異点が生まれてしまったのかしらね」

 

 その理由は全く判らない。

 『遠坂 ともえ』が特別なプロジェクトの果てに生まれた存在だからなのか。

 はたまた天文的な確率ではあるが、縁も所縁もないのに同種のフレンズが存在する事もあるせいなのか。

 本来一人しかいないはずであるヒトのフレンズが出会った時に何が起こるのか、それはカコ博士の頭脳を以てしても全く予想がつかない。

 

「まぁ、その二人が出会う可能性なんて殆どないわね」

 

 彼女達の住む色鳥町はそれなりに人口だって多い。

 同じ街に住んでいるからと言ってかばんとともえが出会う確率は高くない。

 かばんが生まれたという奇跡にともえが生まれたという奇跡が重なり、さらにその上に二人が出会うという奇跡を上乗せしない限り起こり得ない。

 

「まさか、ね」

 

 取り敢えずラッキービーストの最終調整に戻ったカコ博士は知らなかった。

 

「アタシ、遠坂 ともえ」

「あ……ボクは星森 かばんです」

 

 ジャパリ女子中学校1年A組の教室で、二人のヒトのフレンズが隣同士の席になっていた事を。

 

 

 

―②へ続く

 

 

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