けものフレンズRクロスハート   作:土玉満

97 / 107
第27話『はじめての協奏曲』③

 

 

 C組の教室には続々と生徒達が登校してくる。

 そして、綺麗に掃除されているはずなのにピカピカではない教室に戸惑いを露わにした。

 その間、アライさんとフェネックの二人は何も出来ずにいた。

 数人のクラスメイト達もアライさんとフェネックに事情を訊ねるものの、何と答えていいやらわからない。

 

「お、オイッ! 大変だぞ! 他の教室も……! 他の教室も……ッ!」

 

 鳥系のフレンズが慌てて駆け込んで来る。

 彼女は既に陸上部入りを決めたGロードランナーのフレンズ、通称ゴマである。

 

「昨日までは確かにキレイだったのにさぁ! なんつーか、こー……上手く言えねーよ!」

 

 ゴマは地団駄らしきものを踏んで見せる。

 その様子を見ていたフェネックはゴマに訊ねた。

 

「って事はさー。他の教室もこんな感じ?」

 

 百聞は一見に如かず。

 フェネックはC組の教室を指し示して見せる。

 

「お、おう。そうだな……」

 

 目の前に見本がある事に気付かなかったゴマは恥ずかしそうに頭をかいて続けた。

 

「でもさぁ……1年生の教室は似たようなモンだけど、2年生の方は普段通りだったぜ」

 

 どうやらこの現象が起きているのは1年生の教室のみらしい。

 ゴマはそれを陸上部の2年生であるプロングホーンとチーターのところに行った時に知ったのだった。

 

「うーん……。これは本当にどういう事なんだろうね」

 

 フェネックはじっと考え込む。

 本当にピカピカ泥棒だとして犯人はどうして1年生の教室だけで犯行を行ったのか。

 それとも、アライさんの言は的外れで、ただ単に日光の差し込み具合でこう見えるだけなのか。

 どちらかといえば後者のような気がしなくもないが、さりとて昨日の朝はこうではなかった。

 

「んー……」

 

 試しにフェネックは教室のカーテンを開けたり閉じたりしてみたが、教室の様子は特に変わらない。

 光の加減が問題ではないだろう。

 となると、本当にピカピカ泥棒がいるというのか。

 一体何の為に?

 そもそもどうやってピカピカを盗んだ?

 いくら考えてもフェネックはそれらしい答えを思いつく事が出来なかった。

 そうしていると、アライさんがフェネックの肩を叩く。

 

「フェネック。安心するのだ。ピカピカじゃなくなったのなら、またピカピカにしてやったらいいだけなのだ」

「あー、うん。そうだね」

「だからフェネックはアライさんについて来て欲しいのだ!」

「もちろんアライさんについてくけどさー、一体どこへ行こうって言うんだい?」

 

 アライさんはビシリ、と教室の外を指さす。

 

「他のクラスもきっとショックを受けていると思うのだ! だからまずは青菜に塩しに行くのだ!」

「敵に塩を送る?」

「それなのだ!」

 

 昨日の今日なのにやはりアライさんは『敵に塩を送る』を言い間違ってしまう。

 逆にそれがフェネックを安心させてくれた。

 

「なるほど。ホシモリサンへの道は一日にしてならず、ってわけだねぇ」

「さすがフェネック、分かっているのだ」

 

 アライさんとフェネックはまずA組の教室へ向かう。

 そこはC組の教室と同じようだった。

 ただ、そこにはC組の教室では見られない光景があった。

 

「なななな!? かばん、どうしたのだ!?」

 

 A組の教室ではかばんが床に膝を付きガックリとうなだれていたのだ。

 アライさんが慌てて駆け寄ってもかばんは反応を返さない。

 

「か、かばん! 安心するのだ! このくらいまたすぐにピッカピカになるのだ! 昨日みたいにみんなで頑張ったらすぐに……すぐに……」

 

 励ますつもりでアライさんの胸にもこみ上げて来るものがあった。

 昨日クラスや学年の皆でやった共同作業が台無しになったのだ。

 アライさんだってかばんの横でガックリしたい。

 すると、アライさんの肩をサーバルが叩いた。

 

「大丈夫だよ、アライさん。かばんちゃんはスッゴイんだから」

 

 アライさんはわけがわからないと言った顔でサーバルへ振り返る。

 かばんは教室の惨状を見てこんなにも落ち込んでいるというのに何がスゴイのだろう。

 アライさんがかばんをよくよく見てみると、彼女はうなだれているわけではなかった。

 かばんは床に膝をつき観察していたのだ。

 

―ツツー……

 

 かばんは床に指を走らせる。

 そうしてからようやく、かばんはアライさん達の方を振り返った。

 

「大体わかったかもしれません」

 

 何が? とは誰も問わなかった。

 かばんが調べていたのは教室がピカピカじゃない理由だったと誰もが知っていたからだ。

 かばんは立ち上がってから言う。

 

「教室のワックスが剥がれています」

 

 ワックスは床に塗られる保護剤である。

 床に汚れが付きづらくする効果に加えて、光沢を与える効果もある。

 つまり、それがすっかりなくなっているからピカピカが消えたように見えていたのだ。

 

「でもさー、かばんさーん。ワックスってそう簡単に剥がれるようなものじゃないでしょー?」

 

 フェネックの指摘してくれた通りだった。

 ワックスは取ろうと思ってもそう簡単に剥がす事は出来ない。

 一部が剥がれる事はあるだろうが、こうも綺麗サッパリなくなる事はまず有り得ない。

 

「いえ、そうでもないんです。ワックスは剥離剤を使えば剥がす事が出来ます」

 

 実はワックスを剥がす為の剥離剤という薬剤がある。

 それを塗って少しするとワックスが溶けて剥がれてくるのだ。

 しかも一度ワックスを剥がしてから塗り直すとワックスに付着したシツコイ汚れも落とせるので驚く程に床が綺麗になる。

 

「と、いう事はピカピカ泥棒はワックスを剥がして教室をキレイにしようとしたのかねー?」

 

 フェネックが再びうーん、と考え込む。

 

「いえ、多分そういう事ではないと思うんです」

 

 かばんは言いつつワックスの剥離清掃について説明してくれた。

 ワックスの剥離清掃とは物凄い手間がかかる。

 ワックス剥離剤を床に塗布する→剥離剤がワックスを溶かしてきたら床を擦ってワックスを剥がす。

 そうしたら溶けたワックスごと剥離剤を回収する。

 最後に床を綺麗に清掃してから、新しいワックスを塗っていくわけだ。

 言葉にすれば難しくなさそうだが、これは専門の清掃業者にお願いするような作業だ。

 素人の生徒達が機材もなしに短時間で誰にも気づかれず出来るような事ではない。

 ワックスの剥離清掃を見よう見まねでやったとしたって、ここまで綺麗にワックスを剥がすだけでも素人には難しいはずだ。

 

「なら、そのピカピカドロボーは何がしたかったのだ?」

 

 かばんの説明を聞いてアライさんが訊ねる。

 教室からピカピカが消え去った理由は分かった。けれど犯人の動機が分からない。

 

「それなんですけれど、ボクの想像が正しければ……」

 

 かばんはまたも考え込みつつアライさん達に言う。

 

「放課後、一緒に来てもらえませんか? アライさん達が言うピカピカドロボーの正体がわかったかもしれません」

 

 

の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の

 

 

 放課後。

 先生方が急遽ワックスを用意してくれたので、その清掃をするのでいつもよりも時間が掛かってしまった。

 他の生徒達は清掃での遅れを取り戻そうとそれぞれに部活見学などへ出向いていたが、かばんとサーバル、アライさんとフェネックの四人は廊下を歩いていた。

 

「なあなあ。かばんー。ピカピカドロボーは一体どこのどいつなのだ? 見つけたらアライさんがビシッ!!っとバシッ!!っと言ってやって目一杯お掃除を手伝わせてやるのだ」

「その前にやらなきゃいけない事があるんです」

 

 かばんの先導で向かっていたのは資料室だ。

 1階は1年生の教室と職員室や図書室、2階は2年生と3年生の教室がある。それに加えて別棟に特別教室や体育館という構成になっている。

 資料室は図書室に併設されている。

 そこは歴代の卒業アルバムや生徒総会資料など様々な学校関係書類が納められた部屋だ。さらに古いものは旧校舎に保管されていたりする。

 

「で、資料室に来て何を探したらいいんだい?」

 

 フェネックだけは何かの書類を探しに来た事が分かっていたものの、アライさんとサーバルはここにピカピカ泥棒がいるのかと勘違いしていた。二人して血走った目でキョロキョロしている。

 かばんは苦笑しつつ目的のものを言う。

 

「はい。自動掃除ロボットの取り扱い説明書ですね」

 

 自動掃除ロボットは無人でも掃除してくれる機械だ。

 この学校には教室棟の各階に一台ずつ配備されていて、夜間に自動で清掃を行っているらしい。

 

「なるほどねー。つまり自動掃除ロボットに何か異状があるんじゃないかって考えたわけだー」

 

 フェネックも納得しつつ取り扱い説明書を探し始めた。

 ここに至ってもサーバルとアライさんは二人して「?」マークを浮かべたままである。

 

「つまりさー。2年生の教室と3年生の教室は別に何ともなってなかったんでしょ? つまり1階の自動掃除ロボットだけ壊れてたら……?」

「「1階だけ掃除されない!!」」

「それどころか壊れたまま変な動き方したら、もしかしたら一晩かけてワックスを剥がしちゃうような事をするかもしれないよー?」

 

 フェネックの解説でサーバルとアライさんもかばんが何を疑っているのかようやくわかった。

 自動掃除ロボットを調べる為にまずは取り扱い説明書を探しに資料室へと来たわけだ。

 取扱説明書は資料室にある、と職員室で先生から教えてもらったがどこにあるのかよくわからない。

 図書室はきちんと整理されているが資料室はそうでもない。

 中には書架に出ていないどころかダンボールにしまわれているものだってある。

 目的の取り扱い説明書を探し出すのは中々大変だった。

 

「でも、ちゃんとダンボールに何が入ってるか書いてあるのは助かるね」

「そうなのだ。きっとしまう前に面倒くさがらず、後の事も考えてくれたのだ。エライのだ」

 

 アライさんとサーバルも手伝って取り扱い説明書を探す。

 ちなみにこの時の事も、後に四人が生徒会に入る一つの要因になっていた。

 閑話休題。

 四人で探しても、ようやく目的の物を探し出せた頃にはもう下校時刻も近くなってきていた。

 

「じゃあ、自動掃除ロボットのところに行ってみましょう」

 

 かばんは探し出した取り扱い説明書を手に1階の自動掃除ロボットの元へ向かう。

 既に日は傾いており、生徒達の大半は帰ったのかシーンとしていた。

 

「あれだねー」

 

 フェネックが指さした1階の奥まった場所に自動掃除ロボットはあった。

 

「んー? アライさんが知ってるヤツじゃないのだ」

 

 学校に設置された自動掃除ロボットは家庭用のものではなかった。

 家庭用のものは床のホコリを吸い込んで掃除する円盤みたいな形をしたものだ。

 自分で部屋の形を学習して、一通り掃除が終わったら自分で充電器のところに帰る。

 アライさん達が知っている自動掃除ロボットは平べったいが、学校にあるものはかなり大きい。

 サーバルの腰くらいまで高さがある円筒形だった。

 これは家庭用のものよりもさらに多機能だ。

 機械の前側でお掃除用パッドを回転させ床を磨く。その際に予め機械に貯水した水を散水しながら水拭きをしてくれる。

 そして機械の後ろ側で掃除した後の水を吸い込んで回収し床を綺麗にするわけだ。

 貯水する水に床用洗剤を混ぜておくとさらにお掃除の効果は高くなる。

 ご家庭用のものより高い円筒形になっているのは、その部分に貯水タンクやお掃除後の水を回収するタンクがついているからだ。

 

「この自動掃除ロボットが稼働するのは下校時間から翌朝の登校時間前までだそうです」

 

 かばんが早速自動掃除ロボットを調べながら言う。

 この自動掃除ロボットならば犯行は可能だし、手段もある。さらに動機もある。

 というか動機自体必要ない。

 普段通りに掃除しようとしたが、何か不具合が発生したのだ。

 

「そうですね……怪しいのは貯水タンクです」

 

 かばんは取り扱い説明書を見ながら手順に従って貯水タンクを開けてみる。

 かばんはこう予想していた。

 何かの手違いで貯水タンクにワックスの剥離剤が混ざっていたのではないかというものだ。

 だとしたら、朝の惨状も理解出来るし全ての辻褄が合う。

 

―パカリ。

 

 開けた貯水タンクには真っ黒い水が入っていた。

 

「なに……これ……」

 

 かばんの呟きはその場にいた全員の総意だった。

 黒い水はドロリとした粘性のある液体らしい。

 今まで見て来たものの中で強いて似ているものを上げるならばコールタールだろうか。

 けれど、それはコールタールなどではない。もっと禍々しい何かのような気がする。

 その時……。

 

―ブルルッ

 

 貯水タンクに入った黒い水が動いたように見えた。

 

「ななな!? う、動いたのだ!?」

 

 最初は気のせいかとも思ったが、そうではない。

 アライさんの声に反応したのか、黒い水はうにょうにょと波打ちはじめる。

 

―ズルリ

 

 それどころか黒い水が貯水タンクから蛇のように抜け出して来たではないか。

 

―ズルリ。ズルリ。

 

 黒い水は少しずつアライさん達の方へ近づいて来る。

 まるで獲物に狙いを定めた捕食者のように。

 

「おおお、オバケ……!?」

 

 かばんはペタリとその場に腰を抜かしてしまった。

 彼女はホラーが大の苦手である。

 だがそんな場合ではない。

 自動掃除ロボットから現れた黒い水にとって格好の獲物になってしまうのだから。

 

「逃げよう!」

 

 サーバルがかばんの手を取って立ち上がらせるとジリジリと後退り、アライさんとフェネックもそれにならう。

 ジリジリと下がるものの、黒い水は諦めるつもりはないらしい。あちらもジリジリと迫って来る。

 

「こ、これ……!?」

 

 サーバルがある事に気が付いて驚きの声をあげる。

 それは黒い水が這いずった跡はワックスが消えていく事だ。

 もしもカコ博士がこの状況を見たならきっとこう説明してくれたであろう。

 学校に侵入したセルリウムが自動掃除ロボットに憑りついてワックス清掃された“輝き”を食べてしまったのだ、と。

 だが、今かばん達には与り知るところではない。何とかこのわけがわからない状況から抜け出そうと周りを見れば2階への階段が見えた。

 高いところへ逃げればもしかしたら追ってこれないかも。そう思ったサーバルは……

 

「こっち!」

 

 と、かばんの手を引きながら階段を駆け上がる。

 もちろんアライさんとフェネックも後に続く。

 走りながらフェネックが言う。

 

「けどさー。職員室からは離れちゃったね」

 

 こんなわけのわからない物に追いかけられたのなら、大人に頼るべきだ。

 けれど、2階に逃げたから職員室から離れてしまった。別な階段から1階へ戻って職員室へ駆け込むのがいいかもしれない。

 ただ、仮に職員室へ駆け込んだところであんなわけのわからないものは大人達だってどうにも出来ないかもしれない。

 それにそもそも階段程度であの黒い水を止められるものか。

 

―ニュルルン!

 

 イヤな予想は当たるもので、まるで蛇のように形を変えた黒い水は階段を昇って来る。

 

「に、逃げろー!」

 

 サーバルの言葉にみんなで2階の廊下を一目散に逃げ出した。

 だが、一気に速度を増した黒い水は四人の行く手を遮るように回り込む。

 慌てて急制動をかけたサーバル達の目の前で、黒い水はグネグネと形を変えていく。

 その形は自動掃除ロボットに似ていた。

 丸みを帯びた立方体状のボディもサイズもちょうど自動掃除ロボットに似ていた。

 けれども、その数が問題だ。

 ズラリと廊下を埋め尽くす程大量の真っ黒な自動掃除ロボットが立ち並んでいるではないか。

 

―ギョロリ

 

 一斉に自動掃除ロボット達は胴体の真ん中についた大きな一つ目でサーバル達四人を睨みつける。

 

「どどど、どうしよう!?」

 

 行く手を塞がれてサーバルは慌てる。

 後ろを見れば来た道も既に真っ黒な自動掃除ロボットで埋め尽くされていた。

 

「か、囲まれたのだ……!?」

 

 ジリジリと迫って来る黒い自動掃除ロボット達の群れがサーバルとかばんとアライさんとフェネックの四人を少しずつ少しずつ追い詰める。

 とうとう背中に壁が当たった。

 が、運はまだ四人を見放していなかったらしい。

 フェネックの背中に教室のドアが当たったのだ。

 

「みんな、こっちだよ!」

 

 フェネックは勢いよく教室のドアを開く。

 上級生の教室だが緊急事態だ。仕方あるまい。

 全員で教室内に雪崩れ込んでからピシャリとドアを閉めた。

 教室のドアは横開きで鍵もかけられる。滅多に使われる事はない鍵だけれど今は使用をためらっている場合ではない。

 

「あっち側も!」

「任せるのだ!」

 

 フェネックが指さしたのはもう一つの扉だ。教室は前後2箇所に扉がある。

 もう片方も鍵を閉めないと、あの黒い自動掃除ロボットが入って来るかもしれない。そこはアライさんがフェネックの意を汲み取り素早く走って鍵をかけた。

 これでひとまず安心出来るか。四人で顔を見合わせて全員でふぅ、と安堵の吐息をつく。

 が……。

 

―ドカン!!

 

 鍵をかけたドアが大きく揺れた。

 横開きのドアに体当たりをかけたらすぐに破られるかもしれない。

 鍵程度では時間稼ぎが関の山だ。

 もしも教室にアイツらが押し入って来たらどうなるのかは想像したくない。

 

「ま、まだベランダには逃げられるよね……」

 

 フェネックが後退りながら言う。

 確かに2階の教室にはベランダが併設されている。ベランダからは他の教室へも入れるが、普段は出入り口に中から鍵が掛けられているのでベランダに逃げたらその先がない。

 イチかバチか怪我を覚悟でベランダから飛び降りるのはリスクが大き過ぎる。

 八方塞がりに思えたその時……。

 

「そうだ……!」

 

 かばんが教室のカーテンを外し始めた。

 いくら緊急事態とはいえ、その意図が分からずにアライさんは慌てて声をかける。

 

「な、何をしているのだ?」

「大丈夫だよ。かばんちゃんはスッゴイんだから」 

 

 サーバルは答えになっていないような事を言いながらかばんの作業を手伝う。

 そこに疑いは何もないようだった。

 サーバルが教室中のカーテンを外して持って来たのをかばんが端と端を結びつける。

 

「ああ……なるほどねぇ……」

 

 フェネックはかばんが何をしようとしているのか理解した。

 簡易ロープを作ってベランダから校舎外へ逃げようとしているのだ。

 ベランダから地面まではそこまで高いわけじゃない。ロープで途中まで降りただけでも怪我のリスクは大分下がるだろう。

 程なくしてカーテンで作った即席ロープが出来上がった。

 が……。

 

―ドカン!!

 

 ひと際大きな音が響いてとうとう教室のドアが破られた。

 踏み入って来た黒い自動掃除ロボットは勢いそのままに黒い奔流となって四人へ殺到する。

 

「危ない!!」

 

 咄嗟に反応したサーバルがかばんとアライさんとフェネックを突き飛ばした。

 おかげでかばん達は難を逃れたが、ただ一人、サーバルだけが黒い奔流に呑まれてしまう。

 

「そ……そんな……」

 

 慌ててかばんが起き上がった時にはもう、サーバルが黒い自動掃除ロボットの中に閉じ込められていた。

 サーバルが呑まれた黒い自動掃除ロボットは他の者よりも一回り大きくなっている。

 何かキラキラと輝く物がサーバルから漏れ出して、それが黒い自動掃除ロボットへ溶けるように吸われているようだ。

 さらに悪い事には、小さめの黒い自動掃除ロボット達が大きなもの……いや、それに取り込まれたサーバルに引き寄せられていく。

 結果として黒い自動掃除ロボットはもうかばん達の背丈を追い越して天井に届きそうな程になっていた。

 何が起こっているのかわからないがこのままではまずい。

 だが、何か打つ手はあるのか……。

 かばんは周りを見渡す。

 たとえ何もないとしても諦める事だけは絶対にダメだ。

 

「あった……」

 

 そしてかばんの脳裏にヒラメキが生まれる。

 

「アライさん! フェネックさん!」

 

 かばんは先程作った即席ロープを自らの身体に巻き付けてから逆側を二人に渡す。

 

「マジかぁー……」

 

 フェネックは既にかばんが何をするつもりなのか理解していた。

 けれど、それは彼女には……いや、他の誰にも荷が重いだろう。

 

「それでも……!!」

 

 かばんは叫び床を蹴った。

 先程いの一番に腰を抜かしていたとは思えない程の速さだ。

 だがサーバルを捕まえた黒い自動掃除ロボットの周りには小さいのが群がっている状態である。

 かばんも捕まるのは火を見るより明らかだ。

 早速かばんに気が付いた小さい方の自動掃除ロボットが食指を伸ばしてきた。

 が……。

 

「みゃあ!」

 

 一声吠えると、かばんはジャンプして机に飛び乗って、そこからもう一度飛び上がって攻撃をかわす。

 

「うみゃあ!!」

 

 それでは終わらない。

 別な机に着地してそこから再びジャンプ。次々と机を飛び移り黒い自動掃除ロボットの背後を目指す。

 体力測定では平均的な記録を出していたかばんだったが、今は上位だったサーバルに負けない動きだ。

 

「むしろ、サーバルみたいだねぇ」

 

 フェネックが言った通り、まるでサーバルがかばんに乗り移ったかのようだ。

 が……。

 

―ギョロリ。

 

 それでも所詮中学生だ。そんな動きを見逃すはずもない黒い自動掃除ロボットはかばんへと視線を外さない。

 ロープを巻き付けたのが却って仇になった。

 これではさらに動き回ってかく乱する事が出来ない。

 

「うみゃあ!!」

 

 だが、かばんだって諦めない。

 かばんのブレザーにはあるものが入っていた。

 イチかバチか、それを黒い自動掃除ロボットの目先を掠めるように投げ放つ!

 

―ヒュウ……

 

 それは紙飛行機だった。

 紙飛行機を飛ばすとサーバルが喜んで追いかけてくれる為いつも常備しているものだ。

 それが目先を掠めた事で、黒い自動掃除ロボットはそちらに注意が逸れた。

 

「いっけぇ!!」

 

 訪れたチャンスに思わずフェネックは叫んでしまう。

 

―ダンッ!!

 

 応えてかばんは強く机を蹴り黒い自動掃除ロボットに囚われたサーバルへ向けて飛んだ。

 

―ドプンッ

 

 ちょうど周囲の小さな個体を取り込んでいた黒い自動掃除ロボットは半固体となっていた。

 かばんの身体もサーバルと同じように黒い自動掃除ロボットに取り込まれる。

 それがかばんの狙いだった。

 小学校での水泳の授業は苦手だったかばんだったが、今は見事なクロールだった。

 そして囚われたサーバルの元へ辿り着いた瞬間。

 

「ここがアライさんの出番なのだな!」

「そーいう事ッ!!」

 

 アライさんとフェネックが握っていた即席ロープを「「せーの!」」と声を併せて思いっきり引っ張る。

 

「「どっせぇええええええええい!!!」」

 

―スポーン!!

 

 二人で一息にロープを引くと、かばんとサーバルが引っこ抜けた。

 

―ドンガラガッシャーン!

 

 着地の事までは考えていなかったせいか、かばんとサーバルはアライさんとフェネックをクッション代わりにしてしまった。

 ついでに教室の机をいくつか倒してしまいもしたが、問題はそこではない。

 黒い自動掃除ロボットは今なお健在という事だ。

 獲物を奪われた黒い自動掃除ロボットはギョロリ、と倒れた四人を睨みつける。

 

「……サーバルちゃん……?」

 

 かばんがサーバルに呼びかけてもぐったりと両目を閉じたまま反応がない。

 呼吸はしているようだから、気を失っているだけだろう。

 けれど、この状態では素早く逃げる事なんて夢のまた夢である。

 それどころか未だ四人はもつれて倒れたままだ。

 

「こ……これは……」

「万策尽きたのだぁああああああああ!?」 

 

 フェネックとアライさんも諦めの声をあげる。

 

―ギョォオオオオオオオオオオ!

 

 黒い自動掃除ロボットは怒りの咆哮を上げる。

 だが、かばんだけはまだ諦めていなかった。

 咆哮に怯む事なく立ち上がると、キッ!っと黒い自動掃除ロボットを視線で射抜く。

 しかし、どうすればいいのか。

 どうすれば……とかばんも考える。

 たとえ身を挺して立ちはだかったとしても数秒稼ぐのがオチだ。

 だとしたら戦って、そして勝つしかない。

 

「(けど……どうやって……)」

 

 先程から襲って来る化け物にどう対処していいのか全くわからない。

 けれど……どうあったってサーバルと友達だけは守らなくてはならない。

 そもそもさっきだってどうしてサーバルを取り返せたのか、かばんは分かっていなかった。

 どちらかと言えば体育の授業は苦手な方だ。

 むしろ、さっきの動きはまるでサーバル自身がかばんに乗り移ったかのようだった。

 

「(サーバルちゃんが……力を貸してくれていた?)」

 

 そう思うとそんな気がしてくる。

 そうだ。

 一人では何も出来ないかもしれないけど、二人だったら何だって出来る。

 ずっとずっとそうだった。

 サーバルはずっとかばんをスゴイと褒めてくれていたけれど、かばんだってサーバルの事をスゴイと思っている。

 かばんは考える。

 かばんにとってサーバルとは一体何なのか。

 友達であり、姉であり、妹であり、大切な家族であり……もっともっとそれ以上の何かがある。

 

「(そうか……サーバルちゃんは……ボクの全部だ)」

 

―ドクン。

 

 その考えに至った時、かばんの鼓動が強く震えた気がした。

 

―ドクン。ドクン。

 

 腕の中に抱いたサーバルからも同じ鼓動が伝わって来た。

 その鼓動はほんのわずかに違うけれど、重なり合う事で共鳴しているように思える。

 そして……。

 

『出来るよ! だってかばんちゃんだもん!』

 

 サーバルの声が聞こえた気がした。

 と同時。

 

―カッ!!

 

 サンドスターの輝きが教室に満ちた。

 

「な……」

「なななななぁー!?」

 

 フェネックもアライさんも開いた口が塞がらない。

 気が付いた時、かばんとサーバルの姿が消えていた。

 代わりだとでも言うように、そこには一人のフレンズが立っている。

 その子は大きな猫科の耳にシュルリと長い猫科の尻尾。

 ヒョウ柄のニーソックスに同じ柄のアームグローブ。

 そして真っ白なブラウスにハチミツ色の髪。

 

「さ、サーバル……?」

 

 アライさんはそう思ったが正確ではなかった。

 

「アライさん達は下がっていて下さい」

 

 不思議と頼もしさのある背中と肩越しに振り返ったそのフレンズの顔はかばんの物だった。

 

―ギョォオオオオオオオオオ!!!

 

 突如あらわれた闖入者に黒い自動掃除ロボットは再び怒りの咆哮を上げた。

 まるで「全員まとめて喰ってやる!」とばかりに。

 けれど……。

 

『食べさせないよ!!』

 

 サーバルの声が聞こえた気がした瞬間、教室内に一陣の風が吹いた。

 すると……。

 

―パッカァアアアアアアン!

 

 大きな個体の周りにまだ残っていた小型の黒い自動掃除ロボット達が一斉に砕け散ってキラキラとした輝きを残す。

 気が付くと、アライさんの目の前にいたサーバルの姿をしたかばんそっくりのフレンズが腕を一閃させたようである。

 サンドスターの輝きをまとった鋭い爪が印象的だった。

 それをたったの一度振るっただけで、周囲の小さな黒い自動掃除ロボット達を砕いたのだ。

 

「疾風の……サバンナクロォオオオオオッ!!」

 

―ダンッ!

 

 雄叫びと共に凄まじい脚力で弾丸と化したサーバル(?)が今度は大きな黒い自動掃除ロボットの脇を駆け抜けつつ、輝く爪を再び一閃させる。

 

―ギョォオオオオオオッ!?!?

 

 ザックリと胴体部分を切り裂かれて苦悶の声をあげる黒い自動掃除ロボット。

 だが、それも数瞬の事だ。

 

「再生……」

「してるのだ!?!?」

 

 フェネックとアライさんが見ている前で、抉られた部分に水が満ちるように元へ戻りつつあった。

 

「(どうしよう……)」

 

 かばんは考える。

 小さい個体だったら一撃で致命傷を与えられる。

 けれど、目の前にいる大きな黒い自動掃除ロボットはそうはいかない。攻撃しても倒し切れずに再生してしまう。

 もしもカコ博士がこの場にいてくれたのなら、弱点である『石』を狙えとアドバイスしてくれただろうが……。

 

『じゃあさ! やっちゃおうよ! 倒せるまで何度だって!!』

 

 かばんの脳裏に声が響いた。それはサーバルの声だ。

 いま、かばんとサーバルは文字通りの一心同体となっていた。

 それを実感していたかばんは自然とサーバルに応える。

 

「そうだね……やろう! サーバルちゃん!」

『オッケー! 自慢の爪でやっつけちゃうよ!』 

 

 一人ではダメでも二人だったら何とかなる。

 例え弱点がわからなくたって、倒せるまで攻撃し続ける!

 その決意と共にサーバルの姿をしたかばんは跳躍した。

 サーバルキャットの脚力で容易く天井へ到達した後、今度は天井を蹴って黒い自動掃除ロボットの背後へ突撃!

 

「疾風!」

『怒涛のぉ!』

 

 かばんとサーバルの声が重なり……。

 

「『サバンナクロォオオオオオオオッ!!』」

 

 サンドスターで輝く両手の爪を一閃……いや………

 

『「うみゃみゃみゃみゃみゃみゃみゃみゃー!!!」』

 

 雄叫びと共に連続で爪を振るい続ける。

 細切れにされた黒い自動掃除ロボットはついに……。

 

―パッカァアアアアアアン!!!

 

 と光輝く粒子を残して跡形もなく消え去った。

 

「『はふぅ……』」

 

 その場にペタリ、とサーバルの姿をしたかばんが尻もちをつく。

 と、その姿がブゥン、とブレたかと思ったら同じ格好をしたかばんとサーバルの二人がその場に現れた。

 

「ど、どうなっているのだ……?」

 

 アライさんが戸惑いの声をあげるが、ひとまずピンチは脱したらしい。

 だが、分からない事だらけだ。

 

「あのさー、アライさんもかばんさんもー、あとサーバルも」

 

 それよりなにより、問題が残っているぞ、とフェネックは皆に言う。

 

「この教室……どうしようか」

 

 黒い自動掃除ロボットと謎のサーバルキャットのフレンズが暴れたので、机はいくつも倒れているし、教室のドアは外れてしまっている。

 ありていに言って、めちゃくちゃ散らかっていた。

 この後始末を誰がするのか。

 それはこの場にいる四人に他ならない。

 

「「そ、そんなぁー!?!?」」

 

 一難去ってまた一難。

 かばんとサーバルの絶叫が響き渡った。

 

 

の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の

 

 

「ふぃいい……。いくらアライさんがなんだかんだ言ってお掃除が得意だと言ってもアレはちょっと大変だったのだ」

 

 いま、アライさんとフェネック、それにかばんとサーバルの四人は無事に帰路へと着いていた。

 ちなみに、散らかってしまった教室は四人でお片付けを完了している。

 幸いドアも壊れておらず、外れただけだったし、机も倒れはしていたが壊れていなかったので並べなおして事なきを得た。

 そして不思議な事に、剥がれていたワックスはどこもかしこも元通り綺麗になっていた。

 今の四人にはわからない事だが、セルリアンを倒した事で“輝き”が元に戻ったのだろう。

 

「それにしても、本当なんだったんだろうねー」

 

 フェネックは後ろを歩くかばんとサーバルの方を振り返って言う。

 まず、あの黒い自動掃除ロボットは何だったのか。

 そして、それを倒してくれた謎のサーバルキャットのフレンズ。

 あれらは一体何だったのか、その場の誰もよく分かっていなかった。

 ただ、フェネックもアライさんも一つだけ確信している事がある。

 それはあのサーバルキャットのフレンズはかばんとサーバルの二人が何かをしてくれたのだという事だ。

 

「でさー。かばんさーん、サーバルも。そろそろ教えてくれてもいいんじゃなーい?」

 

 そう言われてもかばんもサーバルも自分が何をしたのかよくわかっていないのだから、何と答えていいのか分からない。

 そこに……。

 

「わかったのだ!」

 

 とアライさんが声をあげた。

 

「アレはきっと……」

「「「きっと……?」」」

 

 と残る三人もアライさんの続く言葉を待つ。

 

「アレはきっと、通りすがりの正義の味方ってヤツなのだ!!」

 

 どういう事だろう、と三人揃ってアライさんの意図をはかりかねる。

 

「つまりだなー。アレはきっと通りすがりの正義の味方がかばんとサーバルに力を貸してくれたに違いないのだ」

 

 アライさんとしても、かばんとサーバルの二人があの化け物を退治してくれた事はわかっていたが、どうしてそんな事が出来たのかわからない。

 けれど、そんな事が出来る人物にアライさんは心当たりがある。

 

「そう……そうなのだ……! ホシモリサンならきっと……!!」

 

 想像が飛躍してアライさんの中で神格化しつつあったホシモリサンならばもしかしたらそんな事も出来るかもしれない。

 だが、等身大の星森さんであるかばんとサーバルはさらに戸惑う。

 

「あー……。ゴメンね、アライさーん。明後日の方向に想像を広げてるところ悪いんだけど、星森さんってこの二人だよ」

 

 さすがにそろそろまずそうか、とフェネックがアライさんの勘違いをバラしてしまった。

 

「お……」

「「「お?」」」

「おおおぉおおおおおおっ!?!?」

 

 どんな反応をするのか見守る三人の前で、アライさんはやたらキラキラした目でかばんに詰め寄った。

 

「そうなのだ……そうなのだ……!! かばんがホシモリサン……つまり、かばんさんだったのだな!!」

 

 あの自動掃除ロボットの化け物に臆する事なく立ち向かっていたかばんの姿とアライさんの中にあったホシモリサンの姿は重なっていた。

 が……。

 

「ねえねえ、アライさーん。私も。私も星森さんだからサーバルさんって呼んでくれてもいいんだよー?」

「えー……? サーバルはどっちかっていうとサーバルって感じなのだ……。しっくりこないのだ」

 

 残念ながらアライさんの中で『サーバルさん』と呼ぶのは違和感があったらしい。

 

「なあなあ、かばんさーん! アライさんは、アライさんは……!!」

 

 早速アライさんはかばんへアレやコレやと絡んでいた。

 

「えー!? アライさーん! 私も私もー!」

 

 で、そのアライさんにまとわりつくサーバル。

 そんな三人の様子を見守るフェネックはようやくいつもの日常に無事戻れた事を実感していた。

 

「(で……。結局アレって何だったのかねー……?)」

 

 とは思うものの、それはフェネックのみならず、その場の誰にも分らない。

 けれど、こうも思うのだった。

 

「(けどまぁ、そのうち分かるかもねー)」

 

 それから……。

 いつしかクロスシンフォニーと名付けられた通りすがりの正義の味方が人知れずセルリアンと戦う事になる。

 その前に、先代生徒会長であるヒグマ率いる3年生達が校内美化コンクールで優勝をもぎ取ったり、その賞品としてコノハ博士とミミ助手がてんやわんやになったり、で、それを何とかしようと校内美化コンクールで目をつけていたかばんとサーバルとアライさんフェネックの四人を生徒会に勧誘したりと色々な出来事があった。

 それから沢山の仲間達と共にクロスシンフォニーは激しい戦いを繰り広げていく。

 だが、彼女がはじめての協奏曲を奏でたのは桜舞い散るこの日の出来事であった。

 

 

の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の

 

 

「で? で!? それからどうなったの!?」

 

 ともえが話の先を促す。

 時は現在に戻ってここは『two-Moe』

 今は皆で集まって夏休みの宿題ラストスパート中だ。

 先程までの話は当然のように集まってくれたクロスシンフォニーチームの皆が語ってくれた話だった。

 前にもこうして昔話をしてくれた事があったが、今回も勉強の合間の息抜きに披露したわけだ。

 

「はーい、ともえちゃんは夏休みの宿題ヤバい組なんだからそろそろ休憩おしまいだよー」

 

 なおも話の続きを聞きたそうにしているともえを萌絵が引き取った。

 なお、夏休みの宿題がヤバい組は、今日集まった中だと、ともえ、アライさんの二人だ。

 イエイヌとサーバルの二人もまだ宿題が終わってはいなかったが、後は読書感想文を残すのみである。

 サーバルの方はかばんが付きっ切りで教えていたし、イエイヌの方も萌絵が教えていた。

 なので難関である読書感想文が残っていても、夏休みの宿題完了だって時間の問題だ。

 

「まったく。計画的に宿題をやっておけばこんな事にはならなかったのです」

「アライ。ともえ。二人ともさっさと宿題に戻るのです」

 

 で、宿題ヤバイ組であるともえとアライさんの二人にはコノハ博士とミミ助手がスパルタで面倒をみてくれていた。

 可愛い系のフレンズである博士と助手に囲まれたともえはある意味で天国と地獄の両方を同時に味わっている気分である。

 ちなみに、フェネックはなんだかんだでアライさんを甘やかしてしまうのでみんなのサポートだ。

 

「そーいえばさ、コノハちゃん博士先輩とミミちゃん助手先輩。あの時の校内美化コンクールの優勝賞品って結局なんだったの?」

 

 ともえが二人に訊ねる。

 

「「そ、そんな物はなかったのです!!」」

 

 すると明らかに動揺したような返事が帰って来た。

 

「ふふ……」

 

 そんな様子を見てかばんが思い出し笑いをこらえ切れない様子だ。

 

「お? かばんちゃんもその様子だと知ってるんだねー?」

「あ……ええと、はい……実は……」

 

 再びかばんが昔話を始めそうなのを……

 

「「かばん!!」」

 

 慌てた博士と助手が慌てて止めに入る。

 同じように慌てて自分の口元を抑えるかばん。

 おそらく事情を知っているであろう生徒会メンバーであるアライさんとサーバルは宿題にかかりっきりだし、フェネックはいつものように涼しげな笑みを見せるばかりだ。

 

「コノハちゃん博士先輩ー! ミミちゃん助手先輩ー! 何があったか教えてー!」

「「いいからさっさと宿題をやるのです!!」」

 

 ともえは再び博士と助手にサンドイッチ状態にされて宿題に向きなおされる。天国と地獄再びで、デレっとしながら苦しむという器用な真似をするともえである。

 そんなともえは放っておいて、博士はこれ以上恥ずかしい過去を掘り返されないようかばんの注意も逸らす事にした。

 

「かばん! お前はサーバルの宿題をいつも通りイチャつきながら見ていやがれなのです!」

「普通にしろと言っても無駄なのはわかり切っているのでいっそ末永くラブラブっぷりを見せつけてやがれなのです!」

 

 助手まで加わった挑発に、かばんは赤面するとポツリと呟く。

 

「いや……そういうのは、よそのおうちではちょっと……」

 

 それにサーバルを除く全員は同じ事を思って戦慄した。

 

「「「「「「「(自分のおうちでならいいんだ……)」」」」」」」

 

 

 

 けものフレンズRクロスハート第27話『はじめての協奏曲』

 ―おしまい―

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。