故にDIOによって『運命』に選ばれたエンリコ・プッチから『DIOの血族』へと『運命』は移った。
護るものが出来たからこその承太郎の敗北、そして徐倫やウェザー達の意志を継ぐ者としてエンポリオがプッチに勝つという終わりは良かったのですが、それはそれとしてのIFとなります。
「もっと固まれッ! 俺の傍に寄るんだッ!」
アナスイは必死の形相で、通常よりも流れの早い波に打たれながら承太郎や徐倫達に声を張り上げる。
西暦2012年3月21日、フロリダ州の東海岸に位置するブレバード郡メリット島にあるケネディ宇宙センターに彼らはいた。
空条承太郎、空条徐倫、エルメェス・コステロ、ナルシソ・アナスイ、エンポリオの五人は、DIOの骨によって作り上げられた『緑色の赤ちゃん』をその身に宿し、ケネディ宇宙センターのある座標で『新月』になると『天国』というモノへの道を開いてしまうエンリコ・プッチを打倒すべくこの場に集結した。
無敵のスタンド『C-MOON』の能力により、アナスイを離れた建物まで落とし、エンポリオは未だにそこにはおらず、承太郎はまだこの場所に来てすらいないし、エルメェスはケネディ宇宙センターに来た時に敷地の外に落とされた。
そしてプッチがこの場で最も脅威として認識している徐倫は彼のスタンドの力で『裏返し』をしても、体を紐に変えてメビウスの輪を作ることで、裏も表も無くすことによって、『C-MOON』の『裏返し』を無効化した。
だが、エンリコ・プッチはそれを見ても驚くことは無い。相手が肉体を紐にして『裏返し』を防ぐのなら、脳みその詰まった頭を『裏返し』すればいい。脳みそのある頭を糸にしてメビウスの輪にできるのか? 答えは確実に否である。
だが、ここでプッチは『C-MOON』での近接戦闘をすることを辞め、徐倫と話すことにした。そして稼いだ時間で彼はまた『運命』を引き当てた。
『C-MOON』の能力で彼を中心に重力は作用しており、彼の元に空を横に落ちてきた警官の腰のホルスターから拳銃を抜き取り、徐倫に向けて放ったのだ。
しかしッ!
承太郎と共に舞い戻ったエルメェス。そしてこの場に集まったアナスイとエンポリオ。満を持して登場した復活せし承太郎と父親に抱かれる徐倫。
彼らに囲まれたエンリコ・プッチは『スタープラチナ』に殴られた時に、窓枠のフレームに挟まってしまっている。
「『新月』を待たなくていいッ! 完成した能力はもう手に入ったッ!」
プッチを中心に重力が掛かる現在において、フレーム、箱の中に入れば、箱はプッチごと空へと重力の楔から解き放たれて舞い出す。
そして既に能力が変わりつつあるプッチだからこそ、『スタープラチナ・ザ・ワールド』の時止め世界の中で放たれた銛すらも、『運命』を引き寄せて避けたプッチは、彼に引き寄せられるように舞ってきた展示用のスペースシャトルに乗り込んだ。
「『位置』が来るッ! 今承太郎が撃ち込んで来たあの位置で感じたッ! 私を押し上げてくれたのはジョースターの血統だったッ!」
銛による攻撃の時にプッチは感じ取った。『天国の時』、『天国に至る位置』のその在処を。そして感謝した。
プッチを押し上げてくれた
しかしッ! ここで彼は感謝をする人を、絶対に感謝を
ドナテロ・ヴェルサスがスタンド能力をプッチのおかげで認識し、その力を自信に変え、プッチを軽んじて仇なしたように。
プッチは『緑色の赤ちゃん』を生み出した骨の主を、彼に『石の矢じり』を与えた救世主を、彼に今の『覚悟』を抱かせた妹のディスクを取り出したスタンド能力を教えてくれた友人を。エンリコ・プッチは『天国』に到達した瞬間、その絶対的な力に酔いしれてしまい、『DIO』への感謝を忘れてしまった。
彼の『運命』はDIOに納骨堂で出会った時から、エンリコ・プッチの味方をし始めた。その『運命』を操りきれず、妹を死なせることになってしまったが、その事件があったからこそ今の『覚悟』が存在する。
石仮面を被ってハイになって目からビームならぬ、目からウォーターカッターを出したディオ・ブランドーも、ジョナサン・ジョースターの肉体を手に入れたあとのスタンドを使うDIOも等しく短気であり、割と人間くさい面が強い。
故にその存在に感謝を忘れたらどうなるだろうか? 確実に気分を害するだろう。DIOのおかげでこの場にエンリコ・プッチは立っているのに、DIOへの感謝を忘れた。
だからこそ、既に『運命』を賭けた戦いに勝利し、死んで行った仲間の意志を継いで、世の中を良くしようとしている彼がこの場に現れる。
もし『運命』がエンリコ・プッチにそのまま味方をしていれば、この時期にフロリダ州に仕事で来ていたのに、何もせずに帰って行った彼、彼らに捕捉されることは無かった。
***
『運命』に見放されたからこそ、海洋学者としての研究をしつつ、世界に危機が迫らないか見張っている空条承太郎に連絡が取れなくなった『広瀬康一』が
「康一さん、あなたのおかげで今起きている『真実』を知ることが出来ました。空条承太郎はあなたが言う通り強いでしょう。ですが、わたし……僕たちを護ってくれたブチャラティも同じように強かった。ならば何故ブチャラティは死んでしまったのか……それは護るものを守るために命を懸けた為です。空条承太郎には護るべき娘が居ると聞きました。今の彼はきっと世界と娘の選択を迫られれば、娘を取るでしょう。それが親というものです」
「行くんだなジョルノ」
「確かに承太郎は昔は
ミスタはすぐさまSPW財団に空条承太郎の援護をする為に動くので、その場所までの脚を用意して欲しいと連絡を取り始める。その傍らにいる亀、ココ・ジャンボの甲羅に埋め込まれている鍵から小人程度のサイズで身を乗り出しているジャン・ピエール・ポルナレフがジョルノの意見に賛成する。その顔には昔を思い出しているのか、少しだけ寂しげな表情を浮かべている。
「なら僕もッ!」
「康一さんは万が一に備えて、他の戦える方と連絡を取り合って下さい。口には出していなかったのですが、僕は何となく察していました」
ジョルノは負ける気は無いが、沢山の仲間を無くしたディアボロとの戦いを思い出す。あのレベルの戦いがもし起こる事を想定すれば、他にも戦力はあった方がいいだろう。逐次投入は愚策ではあるが、集結してから向かった結果、戦いが終わっていたなどということもあるかもしれない。
「察していたというのは戦いが起きていることをか?」
「そうです。ポルナレフさんが言う通り、僕はまるで
「今のジョルノは『パッショーネ』のボスだ。別の場所で戦いが起きているからと、そうやすやすと足を運ぶべきではないからその判断は正しい。しかし!」
「そう、しかし、僕はその戦いが世界の命運を掛けているかもしれないと知ってしまったのなら、『パッショーネ』のジョルノ・ジョバァーナではなく、ブチャラティ達の意志を継いだ男『ジョルノ・ジョバァーナ』として戦いに赴きます」
ミスタとSPW財団の迅速な対応により、ジョルノとミスタとポルナレフは財団の用意した垂直離着陸戦闘機に乗り込み、ケネディ宇宙センターへと向かった。
なお、ケネディ宇宙センターに着く前に『メイド・イン・ヘブン』にスタンドが変化した為、生物以外の時の加速に巻き込まれてしまい、三人が乗る戦闘機は墜落した。
一つだけ言えるのは、その時のミスタの周りには4に関わるようなものは一切なかったという事だ。
***
「時がさらにもっともっと加速してるんじゃないのかーッ!」
「な……波の動きが見えない」
承太郎達は地上に居ては不利だと悟り、エルメェスの『キッス』のシールを貼って分裂したモノは、シールを剥がすことによって引き寄せられるようにして合体しようとする性質を利用して、弾丸で無理やり海の浅瀬まで来ていた。
その場所は本来の彼らが立つ場所とは少しだけズレていた。まるで『運命』がそうしたかのように、彼らの近くへと二発の弾丸が導いた。
「間に合ったみたいだな。いつでも援護できるぞ」
「現状を纏めると敵は生き物以外のあらゆるものの時を加速させる能力。ディアボロとの戦いを参考にするならば、その力を使うスタンド使い自体も時を加速させて動けているはず。そして空を見ればわかります。これは今まで使ってこなかった、去ってしまった者達から受け継いだ矢を使うべき時であると」
「ああ、そうだろう。受け取れ、ジョルノ」
鍵の空間に保管されていた矢をポルナレフは外に弾くと、まるで忠誠を誓った永遠の持ち主の元へと戻るかのように、ジョルノ・ジョバァーナの手の中に矢は収まった。
ここよりも更に沖に墜落した戦闘機だったが、ポルナレフの経験とミスタのタフネスとジョルノの機転により、何とか怪我一つせずに海に着水出来た。
そのあとまるで世界が加速しているかのように空模様が変わり、物体の動きが加速している現状をココ・ジャンボのミスタープレジデントの鍵の中で視認し、三人で考察していた。沖からこの浅瀬まで戻ってこれたのはココ・ジャンボの肉体が陸に戻ろうと泳いだ結果である。
こんな異常現象の中、いきなり海から現れた三人に徐倫達は警戒するが、この中で唯一承太郎だけはそこに居た存在が誰なのかを理解出来た。
理解していない他のメンバーは、金色に輝くコロネと後髪を流しているその髪型。胸元をハート型に開けた黒い学生服にも見える格好をしていて、若草色のてんとう虫のブローチをつけている
その存在が放つ圧倒的なカリスマを受けると何故かは分からないが、今まで戦ったリキエル、ウンガロ、ヴェルサス、そして緑色の赤ちゃんを思い出させられる。
「お、お前たち誰だよ!? ここに来てプッチの仲間が来たってのか!!」
「挟み撃ちにされたらさっき決めた作戦がッ!」
「どれだけオレの徐倫への結婚の申し出には苦難が迫ってくるんだ!!」
「……」
エルメェス、エンポリオ、アナスイは新たなる強敵に流石に顔を引き攣らせて心に絶望を浮かばせる。しかし徐倫はそんなジョルノ達を見ている承太郎が
「承太郎、敵はあの神父みたいな奴でいいんだな?」
「ポルナレフ……そうだ、敵はエンリコ・プッチ。スタンド能力は時を加速させる。生き物以外のあらゆる時を加速させ、本人はその加速した時を動ける。俺たちの目の前にいる奴がそいつだ」
「誰だお前た、いや、まさか……何故お前がここにいる、何故DIOの息子であるお前が今更になってこの場に来る、ジョルノ・ジョバァーナ!!」
岩の上に立ち、まるで有り得ないモノを見るような目で見ているプッチに対して、手に握る矢を強く握りしめながらジョルノは言い放つ。
「……それがエンリコ・プッチ。僕の支配地域で麻薬を売り払おうとしている組織の裏にいる人間」
そう、ジョルノ・ジョバァーナが帰国のために急いでいた理由の、麻薬密売組織を裏から操っていたのはエンリコ・プッチだったのだ。
DIOの息子達が集結したのは『運命』であるが、その『運命』でジョルノ・ジョバァーナが来ないように、プッチは工作していた。
ジョルノがSPW財団を通して空条承太郎やその
「世界を加速させる。その先にどんなモノが待ち受けているのかは僕には分からない。でも、一つ分かることがある。あなたは我々『パッショーネ』に敵対した」
「何だかわかんねえけど、喋ってないで戦う準備をしろ!!」
エルメェスが叫ぶが、ジョルノは『覚悟』を口にするのを辞めない。まるであの時のように言葉を続ける。
「あなたは何かに対して『覚悟』をしている。その『覚悟』の元、我々『パッショーネ』、そして今は亡きブチャラティ達の意志である麻薬撲滅の邪魔をして、僕達を「始末」しようとしている。人を「始末」しようとするという事は逆に「始末」されるかもしれないという危険を常に『覚悟して来ている人』ってわけですよね。『覚悟』の戦いで生き残れるのはこの世の『真実』だけ……真実から出た『誠の行動』は決して滅びない」
ジョルノが『覚悟』を示しているのは承太郎やポルナレフ、プッチ達へではない。自らが受け継いだ意志が形として残っている矢に対して、再び
「承太郎達に完全に合流される前に因縁を断ち切る」
「故に」
「時は加速する」
「再び『レクイエム』は発現する」
「『メイド・イン・ヘブン』ッ!」
「『ゴールド・E・レクイエム』ッ!」
「……」
「……」
「……どうなったんだ? なんで二人とも動かないんだ!?」
エルメェスが叫んだすぐあとに、『ゴールド・E・レクイエム』を発動させたジョルノ・ジョバァーナが一歩ずつエンリコ・プッチに近づいていく。
近づかれているにも関わらず、プッチは走り出そうとした格好のまま動きが止まっている。
「僕も『ゴールド・E・レクイエム』の能力の真相は知らない。でも、心で確信している。このスタンドと敵対すると、決して『真実』に辿り着けなくなる」
「真実って?」
「エンリコ・プッチの攻撃が僕に届くという『真実』。僕に敵対して動こうとする『真実』。それら全てが決して『真実』まで届かない」
ジョルノが岩の上で動きを止めているプッチの目の前まで移動した。その間にもある程度の距離を開けて、いつでも『ピストルズ』で援護ができるように、頭に
「僕の、僕達の『覚悟』は決して踏み躙らせない」
プッチは意志がどれだけ無効化されようと、この場面ではジョルノ・ジョバァーナを殺さなければ負けると理解しているからこそ、無効化される度に再びジョルノを殺すと思い浮かべ、その意志が無効化されてを繰り返し続けている。故に彼は動くことが出来ないでいる。
能力は違えど、『キング・クリムゾン』を使うディアボロと同じように、戦いの結末が決まった。
「無駄! 無駄! 無駄! 無駄! 無駄! 無駄! 無駄! 無駄! 無駄! 無駄! 無駄! 無駄! 無駄! 無駄アァァッ!!」
こうしてDIOの血筋であり、ジョースターの血筋によって再び世界は護られた。
たった一つのボタンの掛け間違いで世界は一巡していたかもしれない。あの時にプッチがDIOに感謝を捧げていれば到達出来たかもしれない『天国』は、『覚悟』の差によって一生到達することは無かった。
ストーンオーシャンで『メイド・イン・ヘブン』が『ゴールド・E・レクイエム』に無効化されなかったのは、あくまでも時の加速は攻撃ではなかったからなのでしょうかね。異常現象が起きた時点で矢は解禁していたと思いますしね。
ただ忘れてた可能性も高いとは思いますが。