的な?
女王と話をした次の朝。
「あぁ、わかってる。ノゾミには連絡とって貰ったし、俺を座標のビーコン代わりにしてもらえば来れると思う。」
と、エヴォリアに近況報告している。
すると、部屋にノックがされ、部屋への許可を出す。
今日で召喚3日目、各国が知らせを聞いて、動き出す頃だろう。
「アカシ殿、あら、どなたと会話を?」
女王か、ふむ、電話や遠距離の会話が出来ない世界じゃ、その概念すら存在しないのか。
「これは別世界に待機中の仲間や嫁さんに、声が届くようにしているんだ。仲間内じゃ、俺のこの能力はおまけで、個人用みたいなものだよ。俺の仲間には複数人用から他人用まで、いくらでも空間を歪める力を持った奴が居るからな。俺のはちっぽけなもんさ。まぁ、遠距離で会話が出来る能力とでも思っといてくれれば良いさ」
卑屈の若干入った俺が言うと、アスカが猛抗議してきて、俺の背中を防御無視攻撃のくちばしでわざわざつつく。
空間の操作の細やかさなら、ものべー殿より私です!とか言ってたが。
それとじゃれつつ、
「それで、どうかしました?」
呆然としていた女王が、なにやら物言いたげにしながらも本題に入った。
「あ、はい、これからまた会議に出席するのですが、アカシ殿はどうされますか?」
会議に出ても勇者の話で、何もかもがそれどころでは無いだろう。
独断で勇者召喚をした早漏野郎の国が、先日乱入した勇者らしき奴を連れてて、どうして会議が荒れないと思うのか?俺は逆に気になるよ。
「ご心配なく、他国も上は比較的まともな思考回路をしています。あなたの言葉でしたら、ある程度考える余地があると考えると思いますよ」
そんなものですかねー。
あぁー、はいはい、面倒だけど弁護させていただきますよー。
「此度の事どういう事か!説明を要求する!」
鳥人間がうるさい。
会議が始まってすぐにこれなのだ。
盾の勇者が召喚したかったシルトヴェルトとしては、盾の勇者が他国それも亜人排斥国で、しかも盾の勇者に初日から差別的だとか噂まで流れている。
俺が何か言うまでもなく、情報はダダ漏れだった。
まぁ、勇者召喚をどこから始めるか、それを決めるためにも話し合いをしていたので、実に正しい怒りだ。
「はいはーい!」
俺が手をぶんぶんと振る。
こう言うときは、雰囲気をぶち壊すのが一番なのだ。
「どうも、盾の勇者の幼馴染みのアカシって言うんだが、勇者が育つまでは他国の波は俺が引き受けよう」
その一言に全員がギョッとした顔でこちらを見た。
「き、貴様は勇者では無いのだろう!?戯れ言を申すのなら、首を叩き落とすぞ!」
即反応の鳥人間さん、略して鳥さん。
彼は煽り耐性ゼロなのか?そんなんで代表で大丈夫か?
とりあえずニッコリと笑顔で、
「とりあえず、どんな勇者よりも今は強いぞ?なんなら、この国の勇者と模擬戦でもするか?」
おらかかって来いやおぉぉん?とスラング混じりのチンピラ言葉を付け加えながら手招きする。
大袈裟に手招きするもんだから、フォーブレイの豚さんが笑い転げて良しを出している。
「良いでしょう!お前が勝てば納得しよう!だが、負けたらわかっているな!?」
「あいはーい、りょーかいりょーかい、手加減する為に今から力抜いとくわー」
鳥さんの煽り耐性がゼロからマイナスに差し掛かり、何を言っても買い取ってくれそうだ。しめしめ。
「これはお上手で、なに、今回はこやつの勉強と思って手を打つとしますか」
苦笑ぎみに了承する亀さん。
年季か、読まれてるかぁ。
つまり、あまりに煽りに弱くて、売り言葉に買い言葉、彼が了承し、フォーブレイの王が(何故か)オーケーを出したので、他国も何も言えず、しかも、俺が他国の波に参加するために、勇者が独占召喚されたせいでうちの国は!と言う攻め文句が使えないのだ。
これで、とりあえずはメルロマルクは無事だろう。
あ、尚文に強化素材あげるの忘れてたわ。
「んじゃ、いつごろ始めますかねぇー?」
上半身を円卓に預けてダラリ、顔も上げずに訪ねる。
「ふむ、明日でどうかな?」
「オーケーでーす、んじゃ、鳥さん!また明日!」
勢いよく立ち上がって会議室を女王と一緒に出る。
やりすぎだ、と背中に視線が刺さる。
だから、俺も背中に知らない、と言葉が伝わるように思念を飛ばしてみる。
まぁ、特に意味は無い。
「このフォーブレイに居る勇者は、とても優秀だと聞きます。どうなのですか?」
部屋に戻った女王の言葉に首をかしげた。
「負ける筈が無いな、勝つしかありえない」
「それは何故です?」
女王は心底不思議そうだ。
まぁ、理解は出来る。
自分達の世界の誇る伝説の武器だ、それの選んだ勇者なのだ。
それに対して負ける筈がないと、そんな事を言われたのだから。
「あぁー、あれだよ。契約もしてない半端な状態じゃ、そもそもその神剣の全力も出せない」
「契約、ですか?」
女王が首をかしげる。
「本来、神剣使いってのは契約した時点で、体を構成するモノが、すべてマナになる。君たちが言う経験値みたいなもの、だね」
「つまり、どういうことで?」
「早い話、この世界の勇者武器って、契約している人が1人も居ないんだわ。俺はほらこの通り、な?」
俺は自分の指を小さく切り、血を床に垂らす。
次の瞬間、血は金色の雪や綿毛の様にふわりと崩れて、空気に溶ける様に消えていった。
「俺達神剣使いは体全てがマナだ。だから、死んだら死体は残らない。あぁ、使ってた道具、神剣以外なら残るぜ?だが、その分、ダイレクトに神剣の力を体に受け、人の限界は最初から超えている。もう、人間じゃ無いんだろうさ」
朗らかに笑って言う俺に、女王はそら恐ろしいモノを見たような顔をした。
「では、自分が死んだら何も残らないと知って、それでも戦うのですか?」
その言葉は、意味が無い。
「残念、残るのさ。俺の意思が、俺のやって来たものが、俺の関わったすべての人間に。だからこそ、俺は戦える。・・・何、これは若輩者の戯れ言さ」
皮肉を込めた笑みで答える。
俺達神の転生体は、覚醒すれば後戻りは出来ない。
何も残らないから戦えない?
ありえない、無為な死に方はもっと無い。
俺達はその覚悟さえ、する時間もなくこの体だ。
だが、いや、だからこそ、思うがままに生きられているのでは無いだろうか?
まぁ、こんな思いも全て同じ境遇の仲間たちが居たからなんだが。
成り行きでこんな事になったし、成りたくてなった訳でもないが、今はそれで良いと思える。
それで良いんだと俺には思えたんだ。
「そう・・・、ですか」
俺の顔に色々な感情でも浮かんだのか、女王はそれ以上何も言わなかったが、その顔は畏怖と敬意が浮かんでいるようだった。
「そうさ、俺は仲間や敵の心の叫びを見た、聞いてきた。それは俺を一歩進ませた。それだけで戦った価値がある」
俺はそう思うんだ。
side out
「急になんなんだ!?しかも手加減だって?この俺に?この最強の勇者に?真の勇者に?殺してやる!模擬戦だろうと知るか!殺してやる!クソッ!クソッ!」
フォーブレイのなんちゃらは、豚さんの命令で予定が狂ったとかなんとか。
次回
フォーブレイのなんちゃら、諦めを覚える
大人になれば諦めることも増えるのさ、うんうん。