「ああ天龍さん待ってましたよお!」
工廠へ入るなり、明石が大きなアクションで手招きをしてきた。
「なんだよ用って」
相変わらず取っ散らかった部屋だ。いや、むしろこの前より酷くなってる気がする。
「いいからこちらへこちらへ!」
「やな予感するんだが」
ガラクタを避けつつ、工廠の奥へと進む。
「損はさせませんから」
「ほんとかー?」
足元のガラクタを避けていると、ん? 俺の目に、どこかで見たような刀が映りこんだ。つーか折れてる。つーか……。
「おおい! 俺の斬波刀! 折れてんだけど!!」
それは紛れもなく俺の愛刀、斬波刀だった! なんてこった!
「え? ああ、すみません、天候に合わせて攻撃音が変化するようにしようとしたら折れちゃいました」
「はあ!? 何してくれてんの!? 攻撃音って何!?」
「まぁまぁ、落ち着いてください」
明石は半笑いを浮かべ、たいして悪びれる素振りもない。なんだこいつ!
「いやいや、落ち着けねぇって! どうしてくれんの!?」
「どうするもこうするも、天龍さん、そもそもは天龍さんの使い方に問題があったんですよ? 艦娘は砲弾や魚雷、爆雷に艦上戦闘機で戦うもの。艦娘の持つ刀というのは、特殊状況下で敵の懐へ入った際、苦し紛れに使用することはあるかもしれませんが、それでもサバイバルナイフ程度の物なのです。それを天龍さんは主力武器として深海棲艦を斬りつけるのに使ったり、敵の砲弾を斬ったり弾いたり、そんなことをしていましたらね、効果音を付けただけで折れてしまう程に脆くもなりますよ」
「なるほど、ってならねぇだろ! 今までずっと使ってきて問題なかったんだぜ? 明らか余計な改造が原因だろ」
「余計とは失敬な。とはいえ、最終的に工廠内で折れたのは事実なわけですから、天龍さん、安心してください」
「何を」
「代わりの刀ですよ。いえその刀を上回るものです。天龍さんの為に開発しました……これです」
アホの明石はそう言って、誇らしげに手元にあった鉄の刀を掲げた。
「どうです!?」
「……」
銀色に輝く刀身。無骨なシルエットに、一目でわかる頑強さ。静止していさえ空を斬るような鋭い刃。非戦闘艦の明石にやすやすと片手で持ち上げらているその軽量さ……。
「……くれんの?」
「もちろんですよ!」
刀が横に向けられ、明石の指が刀身をなぞっていく。
「天龍さんの為に造りました。天龍さんの戦闘スタイルに合わせて造りました。この刀であれば、深海棲艦の装甲部位ですら、スパッ! と切断できますよ。それだけでなく、この鋼鉄の刀身は敵の砲撃を防ぎ弾く盾でもあります。どうですか? 天龍さん」
「……どうって、それ使うしかないぜ。斬波刀は折れちまったんだし」
「もーう、素直じゃありませんね~。でもいいです。使ってください、この、超集合組織制御アルミニウム合金刀を!」
刀が差しだされ、俺はそれを受け取った。
「超集合……なんて?」
刀の質感を確かめる。冷たい。単に温度の話じゃあなく、なんだ、その硬さが実際以上にそう感じさせるのかもしれない。
「略称だけ覚えてくれればいいですよ。超集です」
「……なんかもっと別の名前じゃダメか?」
「ダメです」
「せめて略称ヵ所を別の部分にとか」
「もうこの子自分の名前を覚えちゃいましたから。天龍さん、鍔の裏にボタンがあります。押してみてください」
ボタン? 見ると、鍔の裏に四角いでっぱりがある。これか?
「ああっと!!」
ボタンを押そうとすると明石が大声を上げた。
「なんだよ」
「刃先を何もない方へ向けてください」
「は?」
刃先を部屋の中心の空へ向ける。
「そこでいいです。どうぞ」
ボタンを押す。すると、ジャガンッ! という音と共に、刀身が倍近くに伸びた。
『おいのあまえあちょうしゅうだ。よおひくなっ』
「どうですか天龍さん! 凄くありませんっ!?」
「お、おお。凄い。いや凄いけど、今なんか言ったぞこの刀」
「自己紹介機能を付けたんですよ。ですから、自分の名前を覚えちゃったって言ったんです。いざというときの隠し玉、いや斬り札ですかね」
「うん……え、名前言ったのか? もしかしてこれボタン押す度に自己紹介すんのか?」
「そうですよ」
「……いらないかなぁ、その機能」
「でももうつけちゃいましたから。刀身を伸ばした状態だと耐衝撃性能が少し落ちるので、この機能は突き刺す際だけに使ってください」
「それは、おう、わかった。わかったけど、自己紹介機能いらなくねぇか?」
「そこまで言うならぶっちゃけて言いますけど。これはあくまで必殺技なんですよ。耐久性的なことも含めてポンポン使わないで欲しいんです。ですからちょっと恥ずかしい感じにして、超長身化に抵抗感が生じるようにしたんです」
あ、恥ずかしい感じっていう認識はあるんだな。けど。
「まるで俺が言いつけ守れないみたいな言い方じゃねぇか」
「そうは言ってませんけど、天龍さん、とりあえずデカい刀好きそうじゃないですかぁ」
「なんだその偏見っ!?」
「違います?」
「ち……うーん、でもそれで壊れやすくなるっつーなら、ちゃんといざっていう時にしかボタン押さないようにするぜ。変な音付けなくてもよ」
「最初はね、みんなそう言うんですよ。ただ2回3回とリスキーモード解放していくうちに、あれ、これ常時リスキーモードでいんじゃね? いけるんじゃね? ってなっちゃうんです。そういうものなんです、艦娘って」
「いやいやそんな」
「そんなもんだろ」
声に振り返ると、工廠の入口に木曾が立っていた。
「おまえ話聞いてなかっただろ」
木曾が近づいてくる。
「ああ。けどおおよそ予想はつく。いいから明石の遊びに付き合ってやれ。でないと、ほら、どうせ何かに妙な機能付けられたんだろ? もっと余計な機能付けられるぜ?」
マジで状況理解してやがる。そして確かにそうだ。直させたらもっと余計な改造加えられそうだし……それに木曾は口振りからして経験者か。仕方ねえ。
「……このままでいいわ」
「このままがいい! ですよね?」
「このままがいい」
「宜しい! 大変宜しい!」
満足げな笑顔を浮かべる明石。人間医者には逆らうな、艦娘明石にゃ逆らうなだ。
「で、木曾さんは何処悪くしました?」
「どこも悪くしてないさ。天龍を探しててな」
「俺?」
「ああ。緊急の連絡が入った。通常は管轄外の海域なんだが、ある島に深海棲艦が潜伏している可能性があるらしい。近くには民間人が住む島もある。急ぎ島へ向かい、調査せよとのお達しだ。昨日の今日で悪いが、行ってくれるか?」
「おう、いいぜ。もし敵がいたらヤっていいんだろ?」
「ああ。けど慎重に行け。鬼の可能性も高いらしい。だから管轄外のここへわざわざ通達が来たわけさ。言わずもがな、特殊作戦だ。近海ではないし、今回ばかりは撤退も許可する」
「いらないぜ、そんな許可。いい斬り試しだ。鬼だろうと何だろうと叩き斬ってやる。この……刀で」
「超集です」
「うん、その意気で頼む。で、だ。おまえに率いてもらう艦隊だけどな、当然隼鷹は留守番だ。代わりに加古と萩風を入れる。七人編成の遊撃部隊、いいか?」
「ああ」
「じゃあ、まずはそこから、頼むぜ」
「……頼むって何を?」
「だから、決まってるだろ。七人だ。つまり……龍驤を説得してくれ」
「はぁ!? 俺が?」
「昼間のやりとり見ただろ。俺が行っても火に油を注ぐだけだぜ」
「それは……そうだろうな」
「だろ?」
「ん~わかった。説得してみるよ」
「助かる」
「けど自信はないぜ? 俺そういうの苦手だし」
「承知の上だ。とはいえ空母なしは、索敵はともかく、敵空母に出くわした場合まずい」
「まぁな」
「じゃあ、行ってくれ。出撃予定時刻は二二〇〇だ」
「え、もう二時間もないぜ」
「一刻でも、時が早ければ救われる命があるかもしれない。おまえの刀は誰かを救う刀なんだぜ?」
「……良いこと言うじゃん」
「たまに良いこと言うんですよねー」
茶化す明石を木曾が無言で指さす。
「まぁ、よし、わかった。龍驤は何処に?」
「それが見当たらん。おまえが知ってるんじゃないかとも思ってな」
「知らねぇよ。じゃあ、探すとこからだな」
「ああ、頼む。頼りにしてるぜ」
「おう」
新しい刀を手に、工廠を後にする。説得か。できんのかな。
第12話あとがきです。
超集合組織制御アルミニウム合金刀、略して「超集」!長州ではありません。天龍と超集だから、もう息はぴったりだね!バカだね!
次回、龍驤を捜索する天龍と龍田は鎮守府の上階へ。暗闇に包まれたそこで、二人は何を見るのか。鎮守府の秘密が、まだ明らかにならない!