艦娘会話劇ー(天)ー特別完全版   作:司薫

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第弐拾章 プレデター

 エレベーターが止まり、開く。するとそこには、明石が待ち構えていた。

「うわっ、木曾さん、なんですかその姿! 見た目はマリモ、頭脳は大人、名提督」

「明石さん!」

「はい!」

 古鷹がエレベーターを降り、明石の前に立つ。俺とまるゆもエレベーターを降りた。ここは、提督室か? エレベーターが閉まる。執務机の背後の棚がずれ、そこがエレベーターになっていた。

「次また私の左目にハッキングを仕掛けたら、もう阿戒様も黙ってはいませんよ」

「い、今回は、何もしてませんよ」

「今回は?」

「あ、いや、あー、あははは」

「やはり赤城さんを檻から出した日、私の目をハッキングしましたね。忠告はしましたので、忘れないでください」

 古鷹が明石の耳に左手を伸ばす。そして何かを掴み取り、握り潰した。粉々になった部品が床に零れ落ちていく。

「盗聴も、もうしないでください。わかりましたね?」

「はい……」

 古鷹が提督室の扉に向かい……部屋から出ていくのかと思いきや、身体を翻して扉の横で待機する形を取った。

「明石さん、提督は治りますか?」

 まるゆが心配そうな声で尋ねる。

「ああ、大丈夫ですよ。虚言癖は治らないでしょうけど。ただ……」

 明石はちらりと古鷹を見、続きを言うのを止めようかと戸惑うそぶりを見せたが、結局口を開いた。

「動力源も頭部に集中させていることまで、阿戒先生はお見通しだったわけですね」

「それのせいでいつも、頭ん中でターミネーターの音楽が流れてることもお見通しかな?」

「なんですかそれ、最高ですね。工廠へ行きましょうか」

 二人の会話はよくわからない。俺とまるゆは明石について、工廠へと向かった。

.

 六つに分かれた木曾が作業台の上に並べられていく。最後に頭が置かれると、木曾は散髪を待つ客のように、ちょっと澄ました顔で瞼を閉じた。

「綺麗に弾けましたね~。とはいえ今日は徹夜になりそうですよ」

 明石はそう言って工具箱を作業台に置くと、中から様々な工具を出してそれらを並べていった。

「明石、ラダーのことなんだけどよ」

 俺の言葉に、明石の動きが止まる。俺の方をゆっくりと振り向き、俺を見て、しかし視線だけは逸らした。

「あー……はい。ラダーは、私が開発したものです。すみません……」

 どうやら、明石は全て知っているらしい。俺が失った仲間のことも、阿戒が俺にそれを造ったのは明石だと教えたことも。

「謝ったってな……なんであんなもの」

 問い詰める。俺自身色々あって半分頭が働かないが、それでもこの話だけは、後回しにはできない。

「確かに、私は……どうして適性検査は間違いなく正しく行われるなどと思い込んでいたのか。いつの世も現場は技術者に反発するものだと、そんなの分かり切ったことだったはずなのですが、私はただ艦娘の皆さんをより強くしたい一心で……」

 明石の表情に、反省や後悔は見られた。けどどこか言い訳じみた感じもする。

「今も作ってるのか?」

「今は……龍驤さんの分だけは未だに……」

 木曾が龍驤に言った、製造が止まったうんぬんというのも、どうやら嘘だったらしい。けど……明石が造ってると知ったら龍驤の奴、明石に直接ねだりだすか。明石にラダーを造らせるために、何をしでかすかもわからない。

「はぁ……本当の仇が、とんだ近くにいたもんだぜ」

 明石を睨み、拳を握る。けど……ああくそ、睨みきれねぇ。あんなものまで見ちまった後じゃ。それに龍田を治療してくれたのもこいつだし。

「すみません! 本当に、私は昔から造った物の後先を考えなくて」

 明石が自分の襟首を握り、肩を小さくする。ちょっと意外だった。明石は、敵意なんかには鈍感な奴だと思ってたから。

「天龍、その辺にしといてやってくれよ」

 嘘吐き首が音を漏らす。

「いや、この件に関してだけは……」

「気持ちはわかるぜ? ただこいつはラダーの危険性を問われ、大好きな職場を追われたんだ。艦娘艤装研究の為に自らを艦娘化までしたってのに。技研を追い出された後も反艦娘団体に散々嫌がらせを食らい、地上の地獄を味わって。もう十分罰は受けてんだ」

 何処まで本当だよ。けど艦娘化……ってことはつまり。

「元人間か」

「はい……」

 元人間、と聞くと、少し、ただそれだけで自分はその相手に対して従うべき存在であるというような感情が芽生える。俺達艦娘が兵器だから、そういう風に造られているのかもしれない。

「いや、許せねぇけどさ……とりあえず木曾を直せよ。俺は……もう今日は、頭が疲れた。ちょっと休む」

「はい……今度、刀の自己紹介機能外しますんで」

「いいよあのままで」

 明石に背を向け、工廠を出る。

「……」

 工廠を再度覗く。

「やっぱ外してくれ」

「はい」

 俺は情報過多の頭に重さを感じながら、寮室へと戻った。

.

 暗い救護室に入ると、未だ療養中の龍田が寝台から外の雨を眺めていた。あれから数日が経ち、俺達の日常は戻りつつある。今日も出撃があり、今帰ってきたところだ。ようやく嵐も寮室へ戻り、救護室には龍田だけになっていた。

「身体の調子はどうだ?」

 俺の言葉に、龍田がこちらを向く。寝台のそばに椅子を引き、俺は腰掛けた。龍田が身体を半回転させ、片腕に頭を乗せて俺を見る。

「おつかれさまぁ~。身体はだいぶ、良くなってきたわぁ~。あと一週間もしたら、起き上がっていいって」

「そっか。良かった」

「うん。早く天龍ちゃんと、海に出たいなぁ~」

「そうだな」

 龍田の手に触れ、指を撫でる。その手の小指は通常よりも少し短く、その特徴は俺とよく似ていた。

「ねぇ、天龍ちゃん」

「なんだ?」

「わたし、もう砲は撃てないかもしれないって」

「……」

 知ってる。木曾から聞いた。

「解体、されちゃうかなぁ~?」

 龍田の表情はあまり変わらず、しかしその端に、寂しさを読み取ることができた。解体されるかもという恐怖じゃない。たぶん、俺と戦場に出られなくなることに対する寂しさ。

「それはねぇよ。大丈夫。明石がきっとなんか凄い武器作ってくれるさ」

「でもぉ」

「大丈夫だって。無理って言われても作らせてやる」

 俺の言葉を聞いて、龍田は静かに微笑む。ぐぅ~っと、腹が鳴った。

「真面目な話してるのに、ひどぉ~い」

「いや、その、わりぃ」

「ちゃんとごはん食べてるぅ~?」

「……食べてるよ」

「ほんとぉ~? 鈴谷ちゃんが、天龍ちゃん全然ごはん食べてないみたいって、言ってたよぉ~?」

 鈴谷、急に記憶力良くなりやがって。

「ちょっと、ダイエットしててさ」

「天龍ちゃんが~? うそぉ~」

「嘘じゃねぇし……無駄肉は戦場じゃ命取りなんだぜ」

「腹が減っては戦はできぬって、いつも自分で言ってるじゃない」

「……そういう時期が、俺にもあったかもな」

「何かあったのぉ~? もしかして、提督に何か言われたぁ~?」

 勘がいい。龍田は本当に勘がいい。

「あいつは……関係ねぇよ」

「ほんとぉ~?」

「本当だって」

「……」

 龍田が訝しげな目で俺を見る。木曾の治療、いや修理は、バラバラになった次の日の夜には済んでいた。そして元の姿に戻った奴は俺に言った。昨日の夜から何も食べてないだろ、と……当然だ。あんなものを見せられて、平然と艦娘糧食を食べられる方がどうかしてる。俺は間食と言って、酒保で人間用の菓子を買い、飢えを凌いでいた。ただやっぱり、戦いに出てりゃそれだけじゃ足りない。木曾はそれを見越して、俺を連日出撃させてるんじゃないかと、そう疑っていた。顔を合わす度、まだちゃんと食ってないのかまだちゃんと食ってないのかとうるさい。

「天龍ちゃん」

「ん?」

「何か、わたしには言えない理由があるのかもしれないけどぉ……ごはんだけはちゃんと食べて。それか、おなかすいた状態で出撃しないで。どっちもできないなら……」

 龍田が身体を起こす。

「あ、おい」

 龍田の人指し指が、俺の口を塞ぐ。

「提督が出撃指示を出せないよう、わたし、何するかわからないわ」

「……」

 困った。龍田には敵わない。俺はそして、食事を摂ることを約束し、入渠するため救護室を後にした。今の会話だけでどれだけ嘘をついただろう。秘密を持つと、嘘はそこから積み重なっていく。自分が木曾のようになっていくことに、俺は嫌気を感じた。

.

 腹が減り過ぎると腹痛になるのか? 入渠後、出撃の疲れですぐに眠りについた俺は、しかし深夜にその重くのしかかるような腹痛で目覚め、確か、トイレに向かった。それで、暗い廊下をよろけながら歩いていたのは覚えている……雨音がうるさい。全身がずぶ濡れになっていた。うるさいのは雨音以外にぶつかる音があるからだ。何処までも暗く先の見えない海面に、おびただしい数の波紋が広がっている。波紋は波長だ。海が波長で呼んでいる。記憶の海で、会いましょう。記憶の海に、堕ちましょう。あぁ、懐かしいなぁ。

「いっ」

 何かが足の下で、小さな声をあげた。世界が半分水に沈んだような視界の中、石段の縁にかけた足の下に、小さな手が。墨のような海面から、何かが顔を出していた。白い髪に、白い肌。黒い艤装……!

「深海!」

 俺は上段へ飛び避け、しかし、違和感に目を凝らした。それは上がってこない。目に深海棲艦特有の禍々しい光はなく、よくよく見れば頭部から血を流していた。

「深海、じゃないのか……大丈夫か?」

 近づこうとすると、肩を、何者かに掴まれた。振り向く。傘をさしたあきつ丸がすぐ後ろに立っていた。

「関わらない方が良いであります」

「あきつ丸。けど」

「心配ないでありますよ」

 再び石段の縁を見ると、そいつの姿は消えていた。

「阿戒博士直属の第三艦隊の者であります。彼等は他者との関わりを嫌う」

 阿戒……そうか、そうだよな。こいつも全部知ってるわけだ。

「第三艦隊なんてあったんだな」

 腹がぎゅるぎゅると苦痛を訴えだす。

「ええ……といっても、深海棲艦とは戦わないのでありますが」

「ああ、また嫌な感じするぜ」

「うむ。ずばり対艦娘の粛清部隊であります。今日も何処かで不穏分子を片付けてきたのでありましょう」

 痛……腹の中で、刺すような痛みが。

「おまえや、木曾や明石が、真っ先に狙われそうなもんだけどな」

「まさか。我々は阿戒博士を知っているであります。決して殺せないことを。それを知っている我々は、博士の脅威にはなり得ないのでありますよ」

 刺すような痛みが、広がり出す。

「なら、どんな艦娘を、始末するってんだ?」

「主には、反艦娘団体に加わった艦娘や、深海棲艦側に付いた艦娘でありますな」

「深海、棲艦側に? そんな奴いんのか?」

 あ、やべぇ。内臓が捻じれていくみてぇだ。

「いるでありますよ。艦娘だけでなく、人間の中にもいるであります。理由は色々。戦争ではそれが長引けば長引くほど、敵意がおかしな方向に向かっていくでありますからな。深海棲艦に全てを明け渡せば全て元どおりになると信じる者。人類側から深海棲艦との戦いを始めたと信じる者。仲間を失ったのを組織の所為だと考え、ただその復讐の為に仇名す者。様々であります」

「うぐぁあっ」

「天龍殿!?」

 膝をついた。あきつ丸が俺の身体を支え、けど、んっぐ、身を捩り、倒れ込む。のたうつ。

「どうしたでありますか!」

「腹が、いてぇ」

「腹!? 雨で冷えたでありますか!? というかなんでこんな雨の中外に! っと最初に声をかけようと思っていたのでありま」

「うああんぐぁいてぇ!!」

「ええ!?」

 なんだこれ、腹の中がスクランブルエッグにされてるみてーだ。傘で防がれていた雨が顔を打つ。

「ともかく庁舎内に。天龍殿少しじっと」

「っくはぁ、っぬぅぐ!」

「ああもうっ」

 あきつ丸が閉じた傘を置き、俺を抱え上げた。またこいつに。でもこれはお姫様抱っこってより鮭の抱え獲りだな。はーいてぇ!

「すぐ救護室に連れていくでありますから! それで鎮静剤を。頑張るでありますよ!」

「んあ、はーっんぐぁっよぉ」

「わかったでありますから」

 鎮守府の方へと運ばれていく。いっそあの意識を刈り取る手刀で、ぶっ叩いて欲しかった。

.

 寒い! 酷い寒気だ! 痛みと震えが全身を駆け巡っている。気がつくとタオルに包まれ、俺は救護室の寝台でもがいていた。服はどこかに捨ててきたらしい。呼吸を止め、歯を食いしばり、全身に力を入れると少し痛みは我慢できた。けどそんなのずっとは無理だ。

「んぅっぐ……ったぁは、震えが、止まんねっえ」

「あきつ丸ちゃん、私のベッド天龍ちゃんのにくっつけて!」

 龍田の声。視界が二重になっている。二重に、でも、あ、龍田がいた。隣の寝台にいる。

「え、なんで!?」

「いいから!」

 あきつ丸が龍田の寝台を動かし、こっちとくっつけた。龍田が這い寄り、俺の身体を抱き締める。

「龍田。龍田」

「大丈夫、わたしはここにいるよ」

「龍田」

「大丈夫」

 龍田の手が俺の頭を撫でる。

「海に連れてってくれ。海で死にたい」

「ダメ。絶対離さない」

 龍田に、震えを押さえ込まれる。

「眩しい。明かりを消してくれ」

「消してますよ!」

 明石の声。は? こんなに眩しいのに、何言って、んだ。

「天龍さん、これを。鎮痛薬です」

「おまえの薬は飲みたくねえ」

「飲まないとその状態、呼吸がまずいですから!」

「明石ちゃんそれわたしに貸して!」

「え、あ、はい」

「天龍ちゃん、ごめんね」

「あっ!」

 明石が驚く声が聞こえた。唇に、柔らかな感覚を感じる。小さな錠剤が入ってくる。

「んー」

 龍田が唇を重ねている。離してくれない。

「んー、っく」

 唇が離れた。

「飲んじまっ、たっ」

「明石ちゃん、これすぐ効くの!?」

「すぐ効く、はずですけど」

「天龍ちゃん、頑張って。わたしがついてるから」

「ん、んぅぐ……お、う」

 眩しい。いや、白い、真っ白だ。また鋭い痛みが膨れ上がってくる。

「……っは、んがぁぐあがががあが!!」

「あー天龍ちゃんっ」

 その後も俺は龍田に抱き締められながら、永遠にも感じる地獄の夜を苦しみもがき続けた。結局どのくらいしてから薬が効いたのか、正直覚えていない。もしかすると薬が効いたんじゃなく、痛みで意識を失ったのかもしれない。人生最苦の夜。俺にはただ、龍田の温もりだけが救いだった。

.

 目を覚ましたというより、意識を取り戻したといった方がいい。朝を認識したとき、俺の瞼はすでに開いていた。まるで止まっていた時が動き出したかのような感覚の中、腹と全身の痛みが消え去っていることに気づく。地獄の夜が過ぎたんだ。思わず、ほっと息をついた。

「おはよう、天龍ちゃん」

 横を見ると、龍田が微笑んでいた。俺の手を握っている。目の下には大きな隈が。もしかして、ずっと起きててくれたのか?

「龍田……ありがとう」

「んふ。気分はどぉう?」

「ああ、もう大丈夫だ」

「良かったぁ」

 心底安心した龍田の顔に、俺も自然と微笑みを返していた。目の下が重い。俺も龍田と同じ隈面だろうな。

「明石ちゃんも、ずっと心配しててくれたよぉ~」

「え?」

 龍田がいるのとは反対側を見ると、確かに、椅子に座ったまま、離れた寝台の上に上半身を崩すようにして明石が眠っていた。

「起きたら身体痛めてそうだな」

「そうねぇ」

 龍田が俺の指に、指を絡めてくる。

「ありがとうな」

「うん」

 龍田の手を握り返す。はぁ……すごく、なんだろう。穏やかな気分だ。頭がパンクしそうになってたのが、嘘みたいに……ぐぅ~。

「天龍ちゃん、また」

「うん……いや、もうダイエットやめるぜ。なんだっていい。なんでもいいから腹に入れたい。喉もカラカラだ」

「なら食堂までエスコートしてやろう」

 救護室の入り口を見ると、木曾が立っていた。

「提督さんはいつも人の会話に割り込みながら登場するな」

「そうか? そうかもな」

 木曾が俺の側へやってきて、紙コップを差し出す。中には水が入っていた。

「助かる」

 身体を起こしコップを受取り、水を一飲みで飲み下す。枯れた大地に雨が降るように、喉に心地良く染み渡った。そういえば外の雨も止んでいる。

「はー……死ぬかと思った」

「死なせないよ」

 どこか、呪いのようなニュアンスも漂うその優しい言葉に、俺は顔を緩ませ、龍田の頭を撫でた。寝台横に畳み置かれていた服を着る。

「龍田、ちょっと行ってくるぜ。食ったらまた戻ってくるよ」

「うん。今度は逆に食べ過ぎないようにねぇ~」

「はは、あり得るな」

「るせーやい」

 寝台から立ち上がり、差し出された木曾の手を打ち払う。

「何食っかなー」

 俺は木曾を連れ、食堂へと向かった。

.

 食堂へやってくると、そこには龍田以外の第二艦隊のメンバーが揃っていた。あきつ丸の姿もある。朧げだが、全員昨日の夜は俺を心配して様子を見にきてくれたのを覚えている。

「天龍さん! もう起きて大丈夫ですの!?」

 熊野が席を立ち近づいてきた。

「もうすっかり良くなったぜ。心配かけたな。みんなも!」

「心配かけ過ぎやでぇ」

「へへ」

 メニュー板の方へ向かい、いつもの手順で、ああ余計なことは考えるな、大盛り天ぷら蕎麦を選び、木札を注文口へ落とす。離れた受け取り口から天ぷら蕎麦を受け取る。あ、今気がついた。たぶんこれ、壁の向こうには誰もいねぇ。機械が全自動でやってんだ。

 そうして俺はみんなのいる場所に座り、食事に参加した。何も考えない。ただ空腹に従って、それを口へ運んでいく。

「しかし驚いたで。もうダメかと思ったわ」

 スプーンを咥えた龍驤が、その柄を弄りながら言った。

「よしてくれよ」

「よっぽど悪運強いんやな」

「なんも悪いことしてないぜ」

 どんどん腹へ流し込んでいく。大盛りにして良かった。

「食欲も、あるようだな」

 木曾が俺を観察するように見ている。

「ですが油断は禁物。出撃中に急に病気が出たりするかもしれませんわ」

 隣の熊野は大真面目な顔だ。

「脅かすなよ」

 冗談よせよと、笑い飛ばす。なんだかおかしかった。まだまだ全然食い足りない。

「なぁ、こいつがなんで出来てるか知ってるかぁ?」

「おい天龍? 何言って」

「うっ」

 あっ、変なとこ入った。

「ごほっ、げほっ」

「ほら急いで食べますからー」

 熊野が俺の背中をさする。

「赤ちゃんかいな」

 龍驤がケラケラと笑う。

「ごほっ、ごっはっ」

 椅子から立ち、食台に手をつく。

「うっ、げはっ、おぐぁはっ、げっふぉ、ぐっごほっ、ごぐぉほっ」

「ちょ、ヤバイんじゃん?」

「ごがはっ、えぶぉほっ」

「天龍さん大丈夫でして?」

 腕が痙攣しだす。いや身体全身が。咳が止まらねぇ。なんだこれ。

「げがぁっはっ、ぐぶぇっ、んごぉっごぇはっ」

「アカンやつやないの!?」

「熊野、天龍を台の上で仰向けに」

「はい!」

 木曾の指示で熊野が俺の上半身を台の上で仰向けにする。天井が見える。喉が苦しい。

「おがぁはっ、ごぇっ、ぐほぁっ!」

 身体が激しく痙攣しだす。熊野と木曾が、両手で俺を抑え込む。

「ぐぉごっはっ、ぐぇ、っがぅごっ」

「リュウジョー、ソコノタオル! テンリューノクチニ! シタカンジマウ!」

「ぉあ、わかった!」

 龍驤が俺の口に台拭きタオルを突っ込む。身体が、まるで自分のものでないかのように跳ね回る。

「んんぉんおっ、んぐんっ、っんおんっ」

「あきつ丸キャッチしろ! 来るぞ!」

「わ、わかったであります!」

「んぐぉんっ、んうぅ、んぐぶぁっ!!」

 口からタオルが吹き飛ぶ。タオルだけじゃない、何かも喉をずるっと飛び出ていった。

「うわ! なんや!」

「みんな騒ぐな!」

「ああっ!!」

「おいあきつ丸!」

「ごめんであります!」

「いいから捕まえろ!」

「あ、んぁ、どこに!」

「後ろ後ろ!」

 何が起きてる? 身体が動かねぇ。視界が暗くなっていく。何を騒いでんだ。

「捕ったであります!」

「よし! 放すなよ!」

「陸軍の名に懸けて!」

 身体が持ち上げられる。誰かに、背負われている?

「なんですの!? 何がどうなってますの!?」

「それあれやろ、どう見たって、それ」

「静かに! 全員、今見たことは忘れろ。天龍の為だ。間違ってもガングートには言うなよ」

「え、な、説明してや」

「ダメだ」

「何がどうなって」

「ダメだ」

「木曾っち!」

「今はまだダメだ。いずれわかる。今は忘れろ。しばらくそこから動くな。これは提督命令だ」

 なんだ、なんかわかんねぇが、木曾がまた勝手なことを言ってる。動いていく。なんだ、意識が、吸い込まれていく。暗闇に、呑まれていく。落ちていく。溶けていく。あ……ダメだ……引き込まれる。あらがえな……なに……たつ…………。




第20話あとがきです。

 プレデターは捕食者という意味で、対してエイリアンは宇宙人という意味ですね。いや、元々は外国人や外からの者という意味でしたが、SFなどで地球外生命体を示す言葉として多く使われ過ぎてしまったことから、外国人等を示す場合にはフォーリナーが使われるようになりました。最近はフォーリナーも降臨者的な意味で使われてるけど、一部のゲームの影響で。ともかく深海棲艦を示す言葉としてはエイリアンより断然プレデターなのです、このお話では。それでどうしてこんなお話をしているかというと、最後の方、お気付きの方はもうお気づきでしょう。映画エイリアンのパロディです。お暇な方はチェストバスターのシーンと合わせてご覧ください。あのシーンもとても好きなシーンだ。

 さて次回、劇場公開版では大幅にカットされてしまったシーンとなります(そんなものはない)。第21話「地獄の艦話録」をノーカットでお届けします。特別完全版なので。長いです!
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