艦娘会話劇ー(天)ー特別完全版   作:司薫

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第弐拾漆章 ソドムとゴモラと、時々、セラフ

「バカ出せえええ!」

「出しなさいこのフナムシいいい!」

 扉の向こうから霞と満潮の声が聞こえてくる。扉を叩く音も。代わりに警報音はいつの間にか止んでいた。

「あんまガンガン叩くなよ。他の部屋の奴等に迷惑だろ」

「うるさい出せええええバカアホおおお!」

「ダセエェエ!」

「ガラクタドモォオオオ!」

「アケロ! アケロォオオオ!」

 通路に並ぶ他の扉からも、叫びと叩く音が聞こえてきている。

「ダセェエエエ!」

「出しなさあああい!」

「ダセエエエ!」

「黙れ!」

 尻尾で扉を軽く叩く。

「ひっ……」

 騒がしい二人の声が止んだ。ふう、なんか別の意味で疲れたぜ。だな。さて、武器も手に入った。足元の機関銃と火炎放射器、どっちにする? どっちもでいいんじゃね? そうだな、せっかくの小さな天使からの贈り物だ。天使ねぇ。武器を拾い、右手に機関銃を、左手に火炎放射器を持つ。うーん、これはなかなか俺好みだぜ。刀じゃなくていいのか? 派手ならいいんだよ。単純だなぁ。うるさい。

 通路を進み、扉の前を通過する度、深海の叫びは治まっていった。俺が自分達を解放してくれると、そう思ったのかもしれない。俺の姿を見て。けど悪ぃな。そういう予定じゃないんだ。そうだ、仲間の危険を増やすことになる。ああ、仲間の。艦娘の仲間の。

 通路の先に両開きの扉があった。それよりあちこちに得体の知れない肉片が転がっている。それよりじゃない、作戦に集中しろ。見ないようにしてたのに。いや見るだろ。何の肉だよ。考えるな。

 両開きの扉を開く。この部屋は……奴等本当に悍ましいぜ。実験室っていうより拷問部屋だなこりゃ。電気椅子や血の跡がこびり付いた拷問台が置かれている。壁際にも何に使うんだか考えたくもないような器具がずらりだ。おいなんだあの大きな牛の置物。腹の下に窯が付いてるぜ。考えたくもないって言ったろ。あった。ほら、部屋奥の窪み、その先にやたらフラットで丈夫そうな扉がある。あの銀の? あれ扉か? たぶんそうだ。冷蔵庫だろ。かもしれない。けどむしろほら、冷蔵庫で保存してるのかもしれないぜ、生ものだし。なるほど……適当に言ってね? いいから行くぞ。

 銀の扉に触れる。扉か? しつこいな。だってドアノブも取っ手もないぜ。つか鍵かかってんじゃね? ここは侵入されることが想定されていない場所だ。仮に内側から外へ出るのに鍵が必要だとしても、外側から内側へ入るのに鍵は必要ない、はず。他の部屋がそうだ、青葉の情報が正しければ。扉を押してみる。すると、銀の面に青い光の線が格子状に走り、ジグザグに隙間が開いた。うお、本当に扉だったぜ。おかしいな。何が? ん、待て、ノイズが聞こえる。

「契約の箱は現在正常に稼働中です。角笛の付近では穢れた言葉に注意をしてください。警告へのご協力に感謝します」

 阿戒の声だ。見てるのか? 違う、たぶんAIの方……やっぱりおかしい。だから何が? AIが制御してるなら、俺を通してくれるってのはおかしいだろ。ああ、確かに。入った途端閉じ込められるかもしれない。そりゃ困るぜ。やっぱ武器は一つだな。扉の間に機関銃を置いていこう。火炎放射器じゃなくて? 中は暗い。深海の目があるとはいえ、暗闇に火は必要だ。おう、そうか。おまえ本当何も考えないんだな。うるせえや。

「邪魔するぜ」

 扉を開き、機関銃を置き、暗闇へ足を踏み込む。冷たい床だ。空気も冷たい。それに湿ってる。空間は、実験室より広いな。感覚的にそんな感じがする。止まれ。奥に息遣いを感じる。誰か、いる。

「マッタクソンナヤクマワリダゼ」

 この声。背後でぼぉっと蝋燭の明かりが灯った。一つ、二つ、三つ四つ。俺を囲むように、蝋燭に火が灯っていく。そしてそれを浮かび上がらせる。透明なケースがあった。中に、深海棲艦の頭部が浮かび、髪の間から俺を見ている。更にそのケースの上に腰かける、人影。なんでおまえがここにいる。

「ワルイコトハイワナイ、ヒキカエシナ」

 隼鷹はそう言って酒を……いや酒を持っていない。まずいぞ、今の隼鷹はシラフだ。なんでまずいんだよ。

「おまえがそっち側についてるなんて思わなかったぜ」

「ソウカイ? アタシハシガンヘイダゼ。アカイニツクノガドウリダロウサ」

「わかってないぜ。奴は戦争を利用して自分の王国を造るつもりなんだ。今ある何もかもを壊して」

「ダカライイノサ。ワカッテナイノハアンタダヨ。アンタラダ。クローンタイニナッタヤツラミンナ。ミンナオクニノタメオクニノタメト、シンデイッタ。ダレモカレモ、ダレノタメカモワスレテ。タダタマシイノザンガイダケガ、ツミカサネラレテイク。ナラモウイイノサ。モウコワシチマエ、アンナモノハ。イノチヲカケテマデマモルベキモノナンテ、モハヤリクノドコニモアリャアシナイ」

 木曾、解説してくれ。解説? 知るか。おい。シラフの隼鷹は酷くネガティブでめちゃくちゃだ。あいつの頭は言葉の通じない場所に行っちまってる。ただ一つ言えるのは、そうだな。古鷹のように種の生存の為、そういう理由で阿戒に付いてるわけじゃないってことだ……そうか、そもそもの理由から違うのか。理由? 隼鷹はあれだ、人類を守る為に艦娘志願したんじゃない。人間社会から遠ざかる為に艦娘志願したんだ。

「ホラ、ワカッタラサ、カエンナサイナ」

「わかんないぜ。俺ぁ正義の味方なんだ。そんでもって阿戒って女はよ、悪逆非道の親玉だぜ。んならもう、奴の勝手にゃさせらんねぇや」

「……イマノテンリュウ? ソノスガタデソレイウノ、ワラエルゼ。マァデモ、ヘタニセットクシヨウトサレルヨカマシカ」

「その尻の下のものを寄こしてくれ。その深海棲母が阿戒の企みを暴く証拠になるんだ」

「ナニコレ、シンカイセイボナノ? マジカヨ」

「そうだ、だから」

「アタシヲタオシテモッテキナ」

 隼鷹が指を振る。

「くぁ」

 は!? なんだ、誰だ。すぐ目の前に誰かいる。俺の首を絞めている。誰だ? こいつ、雲龍だ。雲龍? 誰だそれは? は? 雲龍だよ。そんな奴は知らん。なんだこれ、凄い力だ。この深海の身体で、まるで逃げられない。

「誰、なんだ。だから、雲龍、だって」

「……ウンリュウヲニンシキデキテル? コリャオドロイタ」

「誰だ、雲龍、って。雲龍は、雲龍だろ」

「ハッ……ハハ、オモシロイコトナッテンノネ、ホント。シカシ、アレダ。クモノリュウハセツナノリュウダゼ。ダレノキオクニモノコラナイ。ソウイウヤツラノオンネンサ。ダノニイマ、タンナルエネルギーノカノジョヲ、アンタハキオクシテルノカ。インガナカンムスダネ、アンタモ。ケドダカラッテ、ソノエンサノテヲフリホドクコトハデキナイ。ヘリクツヤバカヂカラジャ、アタシヲタオセヤシナイヨ」

 さっぱりわからん! くそ、なんだこれ、全然腕掴めねぇぞ。空を切っちまう。まさか存在してないのか? こんなに明らかな、物質的な力を感じるのに。息は大丈夫だけどよ、このままじゃ喉を握り潰されそうだ。どうすんだよ。脚は動くか? 脚? ああクソ! だめだ! 脚も尻尾も動かねぇ! 腕は動くのに! おい落ち着け。おそらくこれは精神攻撃だ。とはいえ超常戦略部の技術はさっぱりわからんしな。ともかく同じ精神攻撃で対抗するしかないのかもしれない。なんだそれ、なんだよそれ! 物理的じゃない仕方で攻撃するんだ。当たってないのに当たってるみたいな!? え? ああ、うん、そうかも。龍田みたいのだな!? 龍田? なんのことを、あ、いや、見えてきた、おまえの記憶。ああなるほど、龍田と赤城の戦闘記憶か。う~ん、これ、そうか? いやこれとはちょっと、いやでもそうか? う~ん。うるせえ! 集中させろ! 集中集中集中!

「ぐぉおおおおらああああ!!」

 気合を込め、俺は物体を殴りつけるイメージでなく、存在をぶっ飛ばすイメージで、雲龍のあばらを殴りつけた!

「ウオ、コエデケェ」

 ダメだ! なんも起きねぇ! だよな、うん。雲龍の手の締め付けが強くなる。

「ダレダイアンタ」

 隼鷹の視線が、なんだ? 俺の横の方を向いている。誰かが、隼鷹の方へ進み出る。おまえは。

「名乗る名前は置いてきた。浮世も浮世、波の狭間に。それでも誰かの窮地とあらば、駆け付け守るが艦娘魂! 暴れるぜ! 天龍!」

「長波!」

「ドラァ!」

 長波が振り返りつつ、雲龍にアッパーを繰り出す。それを雲龍は片手で掴み防ぐが、すぐに長波のもう一つの拳が雲龍の脇腹を抉った。俺の首を絞めていた手が離れ、雲龍の身体全体が隼鷹の中へすぅーっと引っ込んでいく。長波って死んだおまえの仲間だよな? そうだぜ。じゃあれは残留電子? けど隼鷹の精神攻撃を吹っ飛ばした。それに長波の遺体は海の底だ。じゃああれはいったい。

「オドロイタ。アンタミタイナタイプガ、セイシンエネルギーヲツカエルナンテネ」

 精神エネルギー?

「おうよ! あたしはあんたの有能な幻覚だ。さーいくぜ!」

 長波が隼鷹に殴りかかる。しかしすぐに雲龍が立ち塞がり、長波の拳を払った。こっから勝負だ!

「本気で行くぜ!」

 長波の拳が速度を増す。両拳が雲龍を乱れ撃つ。一発でもいいから通すんだ!

「ドラドラドラドラドラドラァ!!」

 なるほど精神エネルギーか。よくわからんが、おまえの精神を反映したかのように考え無しの猪突猛進だな。うるせえおまえも応援しろ! ドラァってなんだ?

「ドラドラドラドラドラァ……ラァ、ドラァ! ド、ラァ!」

 あれ、息切れしてきてね? い、気のせいだぜ。

「ドラァ! ドラァ! ド、ラァ! ド……」

 長波が膝をつく。うっ。思わず口を手で押さえた。目から涙が滲み出る。なんだこれ、すげぇ、気持ち悪ぃ。身体が、傾く。吐き気が。

「おえっ」

 何も出ない、が、それが逆に、くそ、なんだこれ、頭が重ぇ。おい天龍、どうなってる。まるで二日酔いだ。それも酷い二日酔いの気分だぜ。説明しろ。説明できると思うか? 思わねぇ。

「おっ……おうぇっ」

 長波が消えていく。ああくそ、何が有能な幻覚だ。おい、長波の悪口言うんじゃねぇ。おまえにだ。

「テンリュウヨ、マエニハナシタロ。コレガウンリュウノタタリダゼ」

 おい天龍。あ? 忘れたよ。あー気持ち悪ぃ。頭痛もしてきた。立ってらんねぇ。横になる。視界がぐるぐる回る。隼鷹が揺れる火の中でぐるぐる回ってる。息しろ、深呼吸。水飲みてぇ。水飲んでも変わらん。本当の二日酔いじゃないんだから。深呼吸するぞ。勝手にやれよ。ほら深呼吸。すーはー、すーはー、すー。

「ハハ、マルデアミニカカッタシンカイギョダゼ。セイシンエネルギーヲダセタノニハビックリシタケドサ、アンナンジャアタシニフレルコトスラデキナングァッ」

 あ? 何かが隼鷹の額を弾いた。隼鷹が後方に倒れ気絶する。なんだなんだ?

「遅いからこっちから来ちゃったよぉ~」

 龍田の声だ! 青葉の奴思った以上に仕事が早いな。龍田が近づいてくる。隼鷹の近くに落ちてるのは、機関銃だ。これ投げつけたのか。超物理じゃねぇか。

「天龍ちゃん大丈夫ぅ~?」

 差し伸ばされた龍田の手を掴み、立ち上がる。不思議と二日酔い感が完全に消えていた。隼鷹が気を失ったからか。

「助かったぜ龍田」

「わたしが助けて貰いたかったんだけどなぁ~」

 龍田が困ったような顔で微笑む。ほんと敵わねぇな。あれ、青葉いないぞ。こいつ自力で脱出してきたのか? 龍田ならあり得るぜ。おまえの妹何者だよ。

「ちょっと隼鷹に手惑っちまってよ。あとチビ二人と」

「その尻尾は古鷹ちゃんの?」

「ああ。エレベーターの鍵になるらしいぜ」

「尻尾に武器つけてるのますます深海棲艦っぽいよぉ~?」

「……言われてみりゃそうだな」

 龍田がしゃがみこみ、透明なケースの中を覗き込む。隼鷹が倒れた振動のせいか、頭部だけのそれはケース内の液体の中でゆっくりと傾きつつ、大きく見開いた目で龍田を見つめ返していた。髪は白く、肌も白く、ただそれ以外はほとんど人間と見分けがつかない顔をしている。首からは植物の根のようなものが幾本も伸び漂っていた。唇が時折、ぴくぴくと動いている……間違いなく生きていた。

「これ、もしかして深海棲母ぉ~?」

「ああ。二十一年前に大本営を襲った奴だ」

「わぁ~お。胴体には会ったけど、こんなお顔してたのねぇ~」

「ある意味運命の再会だな。で、俺達は今からこいつを奪還しようと思ってる。大本営に持ってって阿戒の悪行を告発するのさ。おまえも来てくれるだろ?」

「それは、いいけどぉ~……上手くいくかなぁ~?」

 龍田が立ち上がり、俺を見る。いつもの俺を見る目と少し違う。たぶん、俺と木曾を見分けようとしてるんだ。なるほど。

「それは正直、わからん。けどどっちにしても逃げなきゃ地獄だ。どうせ逃げるんなら土産が欲しい」

「……今のは、提督? それとも天龍ちゃん?」

「木曾だぜ。けどそうだな、こんなんされて、俺もただ黙って逃げるってのは性に合わねぇ」

「ふふ。わかったわ、わたしにも手伝わせて。どうせお尋ね者になっちゃうだろうしぃ~、天龍ちゃんを逃がすのが第一だもん」

「助かる。おまえがいてくれりゃ百人力だぜ」

「どこでもついていくよぉ~」

「おうっ」

 龍田と笑顔を交わす。龍田ってこんな顔するんだな。俺にだけな。

「じゃあとりあえず、龍田、手前の実験室からストレッチャーを持ってきてくれ。あったはずだ」

「はぁ~い」

 龍田が実験室の方へ向かい、部屋から出ていく。ストレッチャーに乗せるのか? ああ。下の用具台にカースィッド・ソングを。上に隼鷹を。隼鷹も? そうだ。反対か? いや、おまえのことだから隼鷹は置いてくもんだと思ったんだ。賛成だぜ。うん、隼鷹を引き取ったのは俺だからな。シラフじゃなけりゃ隼鷹はまともだ。普通逆だけどな。

「持ってきたよぉ~」

 龍田がストレッチャーを引いてきた。

「よし、載せよう」

 ケースを持ち上げる。良かった、重いが固定はされてない。カースィッド・ソングが俺を見上げる。その目は何処か、助けに来た仲間を見るようだ。いや、実際そうなのか? 違う、俺はこいつを解放はしない。そうだな。

「あんま見んなよ」

 ストレッチャーの下段に乗せる。隼鷹も上段に。遠くドーーンと音が響いてくる。

「そろそろ急いだ方が良さそうだな。行こう」

 ストレッチャーを押し、部屋を出る。阿戒とガングートの動向が気になっていた。




第27話あとがきです。

 はい、ジョジョパロでございました。天龍ちゃんのスタンドは中距離探索型。近距離パワー型ではないのです。スタンドの長波は今行くべき方向を指し示すスタンドとでも言いましょうか。天龍ちゃんが何かと運よく見つけたり盗み聞けたりしたのはその為です(ドラァのドラはドラム缶のドラ)。対して隼鷹のスタンドは遠隔操作型。しかし自身との距離に比例してパワーも上がります。「見る」ことを極めた隼鷹にとって「見る」は同時に「見せる」ことであり、天龍ちゃんに雲龍が残留電子を見せたように、大元である隼鷹も皆に雲龍を見せていたのです。そして「見える」ことが「存在する」ことであるように、雲龍を「見えなく」したとき、人々の認識から雲龍の存在も喪失します。また「見せる」力は視界を弄る力であり、この弄られた視界は激しい吐き気やだるさ、気分の悪さを引き起こすのです。またそもそもの精神エネルギーというのは、スタンド関係なく大抵の艦娘は持ってるもので。木曾は相手の考えを察知するのが得意だったり、青葉の音の反射で壁の向こう側の空間を把握する能力だったり、龍田の薙刀での武術だったり、あきつ丸の影掴みだったり、そういうところで知らず知らずのうちで使われているものです。

 さて次回、「ロックユーハラショー」。猟犬は獲物の匂いを忘れない。1週間後です。
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