3年の時を経て再会した森嶋帆高と天野陽菜。
共に歩いて行こうとする二人の前に現れる魔人が残酷な託宣を告げる…


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魔人との邂逅

「陽菜さん、僕達は大丈夫だ!」

「帆高!」

「そうかな?」

しっかりと肩を抱きあい、お互いを見つめ合う帆高と陽菜にいきなりかけられた声・・・地の底から響いてくるような不気味さと絶対零度の嘲弄を含んだ問いかけに声の方向をそろって向く。

‥そこにいたのはおよそ場違いな人物だった、どう見ても軍帽としか思えない帽子に隠れた目は見えないが張り付いたような笑いを浮かべた口元、灰色の外套を纏いゲートルを巻いた足と軍靴…その男が顔を上げて二人を観た、生きている人間の目ではなかった。

「あんた、誰だ?」

「あなたは何!?」

ばさり、男は両腕で外套の前を開いた。二人は知らないがそれは旧日本陸軍の軍服、白手袋には鮮血の鮮やかさで五芒星が記されている。帆高と陽菜は直感で知った、

『こいつはこの世のものじゃない!』

男は白手袋の手を胸の前で交差しつつ皮肉なまでの丁重さで二人に会釈をし、名乗った。

「我は加藤保憲。帝都東京を呪い、その破滅と破壊を図る者。」

‥一般人なら『こいつおかしいんじゃない?』とでも思いあざ笑うような名乗りだったが二人にはできなかった。当然だろう、帆高と陽菜は知っているのだから…この世界を劇的に変えてしまったのが自分達である事を!

「…あんたが世界の裏側の人物なのは分かったよ…で、俺たちに何の用があるんだ!?」

加藤保憲から噴きつけられる瘴気に心臓を鷲掴みにされ、窒息しそうになりつつ帆高は必死で陽菜を背中にかばいつつ彼に正対する!後ろの陽菜の指は自分の肩にくい込む程きつく握りしめられているが、その痛みが彼の勇気を奮い起こしてくれていた・・・

「帆高、私達最後まで一緒よ。」

「駄目だ陽菜、君だけでも!」

「私逃げない!ううん、逃げられないよ…」

陽菜の言う通りだった、おそらく目の前の男は指を一振りするだけで自分たちを殺す事の出来る存在なのは明らか・・・覚悟を決めた二人、だが加藤保憲の言葉は意外なものだった。

彼は笑いながらこう言ったのだ。

「おいおい何を勘違いしている?我はお前たちに礼を言いに来たのだ、我という存在が消滅する前にな。」

「?」×2

「観よ!」

ぶわっ!訳が分からない帆高と陽菜に加藤保憲は両手を広げた。その場の光景が一変する!

・・大地が波打つ、倒壊する建造物。やがて炎が上がる…火の粉はやがて人々の引く大八車に降りかかる…人間と荷物で埋め尽くされた道路が炎を導いて東京の全てに火が回り火災旋風が人々を追い詰め、焼き尽くしていく…やがて火災の光景は移る、夜空に輝くB29の機体、響き渡る2千馬力エンジンの轟音、東京という都市とその住人を効率的に焼き払う為に投じられる焼夷弾の豪雨、燃え上がる母親の遺体から火達磨の幼児が二人に向かって歩む、一歩、二歩・・そして陽菜の目の前で倒れた。

「い、いやぁぁーっ!!」

「陽菜!見るなっ!」

体の全てで陽菜をかばう帆高、唐突にその光景は消えた。

「あんたぁっ!なんで俺たちにこんなものを見せたぁーっ!?」

目の前の存在が何者かなどもう頭になかった、帆高は全身全霊で加藤保憲を怒鳴る!だが加藤は何も変わらない。笑いながら発した言葉は。

「何をいきり立っている?同じことをしたお前たちが。」

「何を言って!」

「帝都を水底に沈め、滅ぼしたのはお前たちだろうが?」

加藤の言葉が帆高と陽菜を貫いた、自分たちがまだ生きている事が信じられない思いで彫像のように固まった二人の前で加藤保憲は続ける。

「我は2度、火によって帝都を滅ぼした…お前たちも知っていよう?関東大震災と東京大空襲だ。だが、その2度共に帝都は蘇り、更に巨大に成長した。我は3度目の機会をうかがっていた…ところがだ、帝都は滅んだ!火ではなく水で!呪いではなく色恋で!

・・・全く笑うしかない、我の存在意義とはなんだったのだろうな!?」

知る者が見れば驚愕したろう、加藤保憲は笑っていた。額に手を当て、虚空を向いて・・・『わはははは』…と…

ひとしきり笑った後、加藤保憲は再び帆高と陽菜をねめつけた。蛇に睨まれた蛙そのものの二人は動けない。

「お前たちの名を聞こうか?我が大願を成就させた者たちの名を!」

「森嶋 帆高…」

「天野 陽菜…」

気押されるままに二人は己の名を口にしてしまう…にやりと笑った加藤はあれよあれよという間に二人の名を奉書に書き記すとそれを二人に投げつけた…掌そのものと共に!

掌は避ける間もなく二人に当たった。それはそれぞれの体に溶けるように消える。

「うわあぁーっ!」

「きゃあぁーっ!」

帆高の右手と陽菜の左手に走る激痛。そこに赤い五芒星が浮かび上がり、消えた。

「あんた、俺たちに何をしたんだ!?」

「大したことではない、我の力を半分ずつくれてやった。お前たちが二人揃って共に手を翳せば大概の技は使えようよ。」

「そんな・・・私達あなたの力なんていりません!」

「そうかな?必要になるぞ…森嶋帆高、お前天野陽菜の所へ行く為に何をしたか忘れたのか?…そうだ、お前は警察官達に銃を向けた!天野陽菜の為に奴らを、この日の本を呪ったのだ!お前たちはお前たちのした事はお前たちしか知らないと思っているようだがとんでもない間違いだ。知っている者は多いぞ?我の他にもな。その全てはこの日の本の表と裏を知る者共だ…ああそうだ訂正しよう、我はお前たちに礼をしに来たのではないな。呪いから生まれし我がそのような事をする筈がない。我は我を消したお前たちに我の呪いを引き継がせたのだ、この日の本を命続く限り呪い続ける式神としてな。」

「そんな…そんな…」

「呪いは祝い、祝いは呪い。さらばだ、魔人の祝いを受けた者たちよ。」

くるりと踵を返す加藤保憲、それだけで彼は消えた。まるで初めからそこにいなかったように・・・

 

呆然と立ち尽くしていた二人はどれほどの間そうしていたか…やがて陽菜が崩れ落ちた

「いやぁぁーっ!!」

「陽菜っ!」

己も震え痺れ切った体で帆高は陽菜を抱きしめる、強く!強く!

「帆高、帆高っ!あたしたちのやった事ってあんな‥あんな奴が喜ぶ事だったの!?」

「陽菜っ!」

「!?」

帆高は陽菜の顔を掴むと唇を重ねた、無理矢理に!…陽菜もそれに答える、舌を絡ませて!

「帆高、私達大丈夫だよね?」

「うん!大丈夫だ陽菜!」

「お願い帆高、抱いて!強く!強く!私をメチャクチャにしてっ!!」

 

陽菜は夢を見ていた、白い闇の中に一糸纏わぬ姿で立つ自分達。そして目の前に一人の人物が現れた。甲冑の上に陣羽織を羽織った初老の男、どこかで見たことがあるような気がするが思いだせない、しかしその男が烈火の如く怒っている事は分かった。

「貴様らが江戸を水底に沈めた痴れ者共か!」

陽菜も、自分をかばって前に立つ帆高も息を呑むのが分かる、眼前の男の横に14人の男が現れた、その後ろには数限りない人間が…髷を結った姿から江戸時代のころの人々だと分かる…武士らしき者、作業着姿の者、商人や職人らしき者…それらの姿が全て眼前の男に集まっていく…

「江戸は余が、余の子孫共が、家臣・大名・人夫その他もろもろが湿地を干し、埋め立てて営々と広げてきた町よ!ようもしてくれたわ!!」

男が腰の太刀を抜き放つ、『陽菜!』と叫んで自分を庇おうとする帆高、だがその太刀は帆高と自分を袈裟懸けに切り裂いた…

「帆高ぁーっ!」

「陽菜ぁーっ!」

帆高の下宿、ベッドの上で二人は同時にお互いの名を呼んで目覚めた。

「帆高、帆高っ!生きて…!?」

「陽菜…」

それは夢だったが夢ではなかった、それぞれの体に走る大きなみみず腫れがその証…

 

「君が欲しい!陽菜ッ!陽菜ァーッ!」

「帆高もっと痛くして!私を壊してェーッ!!」

お互いの血の滴る傷を貪るような交わりの中で二人は思う。

『俺たちは、許されない事をしましたか?』

『私達がこうしている事は罪ですか?』

『罰を受けなければいけないなら…お願いです』

『この幸せだけは奪わないで…』

『罰を受けるまで、罰を受ける時も』

『私達二人を一緒にいさせて下さい』

 

二人は知らない、徳〇宗家を筆頭にその男の裔孫達の、日光東〇宮の権禰宜の、そして或るやんごとなき御方の夢枕にその男が立ち、全てを語った事を…

 




 新海監督が「天気の子」を「『君の名は』を見て怒った人を更に怒らせる」物語だと言っていましたが…むべなるかな、です。
 あの結末‥一応ハッピーエンドではありますが最も怒るのは徳〇家康ではないかと思ったのが始まりでした。逆に狂喜するのが加藤保憲と思い至った次第なのです。
 さて、実はこの物語には次の展開があるのですが正直言って私の力量ではとても書けません。なにしろ口にするのも恐ろしい御方の意を受けた日本国そのものを二人は敵としなくてはならないのです。とても大団円では済みませんので…

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