すくつ廃人が少女をすくつに潜れるようになるまで鍛え上げるお話 作:ニカン
「……エーテミアさんは思ったよりまともな人でしたね」
「あいつ、エーテル病のせいで憎しみに支配されているから機嫌が悪い時は大変なんだ……今回は痴呆を起こしていたからまだマシだったがな。機嫌が悪い時は大抵加速を使う知恵もなくなっていることが多いから与し易いが」
「ふうん……そういえば開催は1年後なんですね? 招待状を送られた人以外も参加自由みたいですし結構大きなイベントになりそうです」
「いくら廃人とはいえ準備期間はいるからな。雪音もカンを取り戻しておいたほうがいいだろう?」
「さらっと私も参加することになっているのは別にいいですけど……イリアスさんは参加しないんですか?」
「俺は……元々あまり戦闘は好きではないからな。研究しているのが一番楽しい。それに……」
「それに?」
「何かあったら俺が対応しないといけないからな」
「廃人を程度理解してない普通のガードとかでは対応もできないでしょうしね……」
しかし、1年後ですか。
そうなると準備と対策をしなければいけませんね。
レシマス廃人研究所のレポートももう一度確認しておかないと。
何より……この戦いはまず間違いなく超超高速度領域での戦闘になるでしょうから。
理由は簡単です。
……廃人同士の戦闘ではいくつか問題となる現象があります。
完全無効装備もその一つですが……今回は禁止されているので考慮しません。
さて、ではなぜスピーダーさんが参戦すると超超高速度領域での戦闘になるのか。
簡単です。
なので、何らかの手段でスピーダーさんの全力速度域まで到達しなければならないわけですが……約2000万という速度はまともな方法で到達できるものではありません。
そうなると、まずは速度2000万を達成する手段がなければいけませんね。
となれば最低限200万%程度の魔法威力強化武器が必要になりますが……ハンマーは叩いたことがないんですよね。
可能ならイリアスさんやその知り合いに頼んで作ってもらいましょうか。
1年。
たった1年しか無いのです。
色々やらなければならないですし忙しくなりそうです。
「うーん、どうしようかなぁ……爪が生えちゃったからまほういりょくを上げる武器はそうびできないし……うーん」
エーテミアは痴呆になった頭を抱えて考えていた。
速度2000万を達成する方法について。
痴呆になったからといって馬鹿になったわけではない。
忘れっぽくなっただけで廃人となるまでに培った知恵と知識がなくなったわけではないのだ。
そして、その廃人としての経験から解るのだ。
最低限スピーダーと渡り合える速度がないとまともに勝負にならないと。
「まほうがだめなら……ポーション?」
大量の加速のポーションを濃縮していけば速度2000万は可能だ。
一回限りのものになってしまうが構いはしない。どうせ全員が1箇所に集まって最後の一人になるまで戦うのだ。
それに、
「うん、それならいけそうだけど……まてりあるがたりないかなぁ。あつめないと。だったらペット式マニマテリアルマイニングであつめるのがらくだし……そのためにしゅうまつをおこそう!」
ペット式マニマテリアルマイニングには最低限、地雷犬と高レベルの罠解体を覚えたペットが必要となる。
高レベルの罠解体を覚えたペットは妹に終末を起こしてもらって職業がガイドの妹を支配すれば解決だ。
だがそんなことより……
「終末! しゅうまつだ! どこでおこそうかな! やっぱりすくつのふかいところかな!」
彼にとっては終末を起こすことのほうが重要であった。
「まずは一人、完成ですなぁ……結構時間がかかってしまいましたねぇ。この分だともう少し性能を落とした装備をあと二人分、といったところですか。いやはや、1年というのは短いものです」
名工のハンマー+7を置いて、ガリクソンは出来上がったアーティファクトを誇らしげに構えた。
「そういえば……今回作った戦闘用のグウェンは牧場のグウェンとは区別しなければなりませんね。適当にグウェン1号とでもしておきましょうか」
片付けをしながら独り言を行っていると、ガリクソンの腹が鳴った。
「……ふむ。少し小腹も好きましたしお昼にしましょうか」
「どうしてそんな事するの?」
「クロスボウよし、ボルトよし……装備はこれで十分ですな。そもそもあまり装備ができる体ではありませんが」
ハインゼルは13個ある肩と手をすくめてつぶやいた。
ハインゼルの体はただでさえ人間離れしている。
それゆえ防具の類は胴体に鎧や防弾服をつける程度のことしかできないのだ。
もっとも、それ以上に13の腕があるメリットのほうが大きいが。
「速度はどうしましょうか。どうせスピーダーも出てくるでしょうし……ふむ」
翼と蹄もありますしレベルを上げれば問題ないでしょう。なに、たかだか数千万上げるだけです。
1年以内には終わりますな。
そう言ってハインゼルはバブル工場を回し始めた。
イルヴァ最強の生物となるために。
「あと一年ですか長いですね私にとってはあまりにも長い正直準備などする必要は殆どないんですがどうしましょうか速度関係のことも大体突き詰めきった気もしますしそろそろやることがなくなってきたんですよねどうしましょうやることが本当になくなってきてしまいましたどうやって暇つぶしをしましょうか」
残像だけを残して異様な速度で独り言を話す、加速狂いのスピーダー。
速度数万の世界で時が経つのを待つのはあまりにも長い。
最近は速度の限界を達成してしまい、新たな暇つぶしを探している。
それでも加速をやめないのは自身のプライドか、あるいは信条ゆえか。
──ふいに、スピーダーの残像が途切れた。
「……あ、加速切れちゃいましたね。掛け直さなきゃ……」
残像が途切れたことにより、その姿が顕になる。
藍色の服にネクタイ、青みがかった髪と、頭には最大の特徴である──
「本当にそろそろ次の目標考えなきゃいけませんねまだまだ埋まるつもりはないですしさてなにか面白いテーマはないでしょうか時間はたっぷりあるのですゆっくりじっくり考えましょう」
──残像が、その姿を再び曖昧にした。
スピーダーの本当の姿を知るものは、少ない。
「あ? 何だこりゃ……廃人バトルロワイヤル?」
掲示板を見ていた男がつぶやいた。
その男は作り込まれた人形のように美しい見た目をしていた。
しかし下卑た表情と雰囲気がそれを台無しにしていた。
「へぇ、なかなか面白そうじゃねーか……よし! そろそろ俺の名前を売ってもいい頃だろ! それに……」
男は機械化された腕を握りしめ、吐き捨てた。
「もう誰にも弱いなんて言わせねぇ……」
その声には強い殺意と、憎しみが滲んでいた。
転生者、カキザキ コウタ。
彼は、廃人の領域に到達していた。
「今度は何をするつもりなのかしら? 忌々しい廃人共め……」
それは美しい女性の声だった。
だが、滲み出す憎しみの感情がそれを意味のないものにしていた。
「どいつもこいつも私をバカにしたような使い方をして……何より許せないのは、最近廃人になったあの娘……雪音と行ったかしら?」
ギリ、となにもない空間に歯軋りの音が響く。
「*成就*……あれだけは、絶対に許さない……見てなさい廃人共。おまえたちは──」
──自分の作り出した技術で、死ぬのよ。
ハンマー+7:
elona_oom_SESTにおける真の廃人の証。
ハンマー自体はooの頃から存在しているが、oomSESTではそれが廃人御用達のレベルまで強化・変更されている。
具体的には+7まで育て上げることでアーティファクト合成で無印ハンマーの50倍の強度のエンチャを移すことができ、更には称号トバルカインの効果で生き武器に付くエンチャ強度も50倍になる。
ただしその道程は非常に遠く、無印ハンマーのレベルをカンストである2000まで上げてようやく転生──レベルをリセットして+1にすることが可能。
転生するとカンストレベルが2000上がり、Lv4000でカンストになる。
もう一度転生すると6000でカンスト。
なお、ハンマーのレベルを1から2000まで上げるのにはLv48994のバブルの皮がおよそ8万枚ほど必要。
2000から4000まで上げるのには150万枚ほど必要になる。
……ハンマー転生が地獄と呼ばれる所以である。
余談であるが。
世の中にはこのハンマーを+40まで転生させたキチ……廃人も、存在しているらしい。