すくつ廃人が少女をすくつに潜れるようになるまで鍛え上げるお話 作:ニカン
9人の廃人が、お互いにじわじわと距離を詰めてゆく。
本来、この世界の戦闘において先制側が絶対的に有利である。
なぜならば、完全無効装備が存在しない場合廃人の攻撃に耐えられる者は廃人にすらいないからである。
にもかかわらず、お互いが後の先を取ろうとしているこの状況。
なぜこんな状況が発生したのであろうか?
理由は一つ。
先制有利、それはこの状況でも変わることはない。
しかし、先に攻撃して一人倒したとしても
そう。
すべての敵を一撃で倒せない限り、その後に来るであろう誰かの攻撃で倒されることが確定するのだ。
故にこそ起こった膠着状態。
そしてそれが終われば──状況は一瞬で推移し、一瞬で終わるだろう。
……静寂が、闘技場を満たしている。
誰も、動かない。
…………。
……しびれを切らし、最初に動いたのは金髪の男だった。
「あああああ! めんどくせえぇぇぇぇ! とりあえず全員殺せばいいんだろぉぉぉッ!?」
カキザキ コウタがハインゼルに向かって突撃したのだ。
13の手を持つ生物が飛び道具をもっているから面倒になりそうだという理由はあるが、しかしそれは戦術もなにもない無謀な突撃だった。
……この時点でまず一人、脱落が決定した。
それを見て動いたのは、エーテル病の怪物。
金髪の男、カキザキに続くようにハインゼルへと突貫を仕掛けた。
漁夫の利、無謀な突撃を仕掛けた馬鹿な男を囮にすれば厄介な飛び道具をもった敵を排除できると思ったからだ。
圧倒的に体躯と強力な重力により、地面を砕きながらハインゼルへと近づき──そこで、自らの失策に気づいた。
カキザキ コウタは速度2000万を装備の力で達成していた。
だが、2000万程度で妥協してしまったのだ。
スピーダーが発見した速度限界。
ここにいる廃人は多少の差はあれど2140万以上まで速度を上げている。
……何も知らないカキザキ コウタ以外は。
それゆえ、カキザキに先行してしまったエーテミアはその体重と重力のために止まることもできず、半ば破れかぶれで爪を振り上げ、
接射された1040発のボルトに蜂の巣にされてミンチになった。
ハインゼルはその手に持った13のクロスボウにバースト弾を装填し、ギリギリまで引きつけてから圧倒的な技量でもって8連射したのだ。
廃人の放った攻撃は、一発でもそれなりの打撃を与えることが出来る。
それを1040発まとめて受けたエーテミアは蜂の巣になって爆散し、ミンチになった。
遅れて到達したカキザキも攻撃寸前になって自分がしでかした失態に気づいたのか青ざめている。
そして、ハインゼルはそれを見た程度で躊躇するような男ではない。
再び、1040発のボルトが乱れ飛んだ。
──さて、実のところ漁夫の利を狙ったのはエーテミアだけではない。
突撃する戦法を取らず、ハインゼルを包囲するように移動する4人のグループがいた。
ガリクソンと3人のグウェンである。
彼らは突如発生したこの隙をみて、ハインゼルを確実に倒すことが出来る布陣を整えていたのである。
ハインゼルの三方から同時突撃を仕掛けるグウェンたち。
タイミングは完璧で、誰か一人を攻撃して倒しても残りの2人がハインゼルに一撃を当てて撃破できる。
──勝った。
ガリクソンがそう思った瞬間である。
ハインゼルが、見覚えのある構えをとった。
廃人に限らず、ある程度戦術を修めた者なら誰もが扱う技能。
──即ち、スウォームの構えである。
全方位へと向けられたクロスボウが一斉にボルトを射出した。
……ガリクソンは当然のごとく契約の魔法を事前に唱えているし、グウェンたちもガリクソンが行った鼓舞の力で契約と同じ効果を得ている。
つまり、たとえ致死的な攻撃を受けても80%の確率で生き延びることが出来るのだ。
しかし、80%で生き残れると言ってもそれを10回繰り返せば生存率は10.7%まで落ち込む。
ましてや、それが100回以上繰り返されれば?
結果は自明である。
一人あたりに200発以上のボルトを叩き込まれ、グウェンたちは全滅した。
一歩遅れる形で近づいていたガリクソンも同様に。
13のクロスボウから放たれる、全方位への圧倒的な攻撃力。
これこそが、カオスシェイプが最強とされる所以である。
ハインゼルはこれ以上『敵』が攻撃を仕掛けていないことを確認し、落ち着いて13のクロスボウをリロードした。
「さて、こちらは落ち着いたようですが……あちらの戦いはどうなるでしょうか。いずれにせよ」
勝ったほうを倒すことに変わりはありませんが、ね。
スピーダーは一気に動き出した状況を見てある行動をとった。
速度にどこまでもこだわっているスピーダーは当然のごとく限界値である2147万4836まで速度を上げきっている。
そのため1手遅れてもほんの僅かの差で先手を取れるという自信があった。
そして、ハインゼルの戦法と攻撃範囲を確認した上でギリギリまで近づき、遠隔武器による攻撃を仕掛けて削り殺すつもりだったのだが……。
ここで思わぬ横槍が入った。
真田 雪音が必中である魔法の矢をスピーダーに放って来たのだ。
しかし、魔法属性を含めた全属性に耐性をつけているスピーダーには何の痛痒も与えられない。
当たる寸前までスピーダーはそう考えていた。
雪音が放ったアローが触れた瞬間。
「……な!?」
突然スピーダーの体が火照り、体が燃えるように熱くなる。
異常な体の変化に彼女は混乱し、足がもつれた。
「これは……まさか!?」
雪音が放ったのは当然ながらただの魔法の矢では、ない。
予想もしない方面からの攻撃に焦り遠隔武器の光子銃を構えるも、照準がぶれてしまう……!
これでは遠隔武器をまともに当てることができない!
それを認識したスピーダーは瞬時に決断した。
スピードに任せて突撃し、スウォームに巻き込んで切り払う!
そうすれば、多少体の動きがぶれたところで関係ない!
そうして、世界最速の突撃が雪音に向かって放たれた。
近づかれる間にも雪音は媚薬の矢を連射し、スピーダーのコンディションを削り取っていく。
ふらつく足を意思の力で強引にねじ伏せ、両手の短剣を強く握ってスピーダーは突撃する。
「……があああああああああああああああ!!!!!!!」
スピーダーの叫びとともに、お互いの攻撃が交錯した。
結果。
双方共に相打ち。
同時に双方で契約が発動した。
だが。
二人の状況は全く同じものにはならなかった。
双方が電撃により一瞬麻痺する。
しかし、スピーダーのほうがほんの少し速いため、その差の分だけスピーダーのほうが先に攻撃出来る。
勝った!
「……え?」
契約が発動し、スピーダーは生き残った。
だが、麻痺しているためもはや死に体である。
スピーダーの勝ち目はなくなった。
「……な」
「なぜ、と言いたそうですね?……簡単です。私は成就の魔法を事前に唱えて、次に食らう状態異常を即回復できるようにしていました」
「……!」
「その結果、同時に攻撃があたってお互い麻痺して、しかし私はすぐに麻痺が治り、あなたに先制できました。……契約や成就の魔法が不発したら負けていたのは私のほうでしたけどね」
雪音は。
スピーダーの首に長剣を振り下ろし、その細い首を落とした。
「…………さ、次に行きましょうか。最強の生物が、私を待っているようですしね」
こうして。
イルヴァ最強を決める戦いは、佳境を迎えようとしていた。
何を願う?
カキザキ コウタは狂喜して叫んだ。
「無敵!!!!!!!」
速度1万問題:
ゲーム中に発生する速度1万問題は、彼我の速度に関係なく速度が1万を超えると(速度÷1万)回連続行動できる、というもの。
つまり2000万同士で戦うと2000回行動のターン制バトルになる。
作中では考慮されていない。