すくつ廃人が少女をすくつに潜れるようになるまで鍛え上げるお話 作:ニカン
「ううう……やりました。やりましたよ私は……! 餓死しながらハーブの山をひたすら食べて……いくら食べてもお腹が空いて……ハーブ、ハーブなんてもう見たくない……!」
「…………」
この程度でこんなに憔悴していて大丈夫なのだろうか。
意思の強さはともかくつらい経験をあまりしたことがないようなので、餓死しながらハーブを食べ続けるだけの相当に楽な部類の鍛錬をしたのだが……それでも相当辛かったらしい。
そうなると、このあとの工場も耐えられるかどうか……とりあえずやってみてから考えようか。
駄目なら駄目で他の方法も無くはない。
「さて、最低限の主能力を確保したところで本番の魔力上げだな」
「はい……! あの地獄のような鍛錬をくぐり抜けた私なら、このあとどんな鍛錬が来ても大丈夫です!」
この鍛錬はハーブ漬けに比べると割ときついんだが本当に耐えられるのだろうか。
「さて、当然のことだが……強力な魔法を使うためには魔力が強くなければならない。目標のためにも絶対に必要な能力だ」
「はい!」
「そして、魔力を鍛えるには魔力制御と
「はい……はい?」
「後々のことも考えれば下落転生のために解剖学を鍛えて習得も上げておきたい」
「……はい」
「よって、魔力を鍛えるためにその準備として魔力制御を除いた多くのスキルと主能力を鍛える事ができる方法である『バブル工場』を最初に行うのが最適だろう」
「……それは一体どういうものなんですか?」
「スタミナ吸収と地獄属性を持った武器で延々と分裂するバブルを殺し続ける鍛錬だ」
「魔力を鍛えるんですよね?」
「そうだが?」
「魔力が育たないんですが」
「言っただろう、まだ準備だ」
「…………」
「最低限片手に地獄スタミナ吸収武器を、もう片手にグレネードを発動する武器を持った状態でスウォームを命中させられないと魔力制御の鍛錬もできないからな……魔力を上げるためには脳筋の真似事もできねばならんのだ。残念ながら」
「……納得はできませんが、わかりました。やります」
「それに……最終的にはすくつに潜ってモンスターを支配できるようになってもらうからな。あそこはある程度殴り合いができないと詰むことがある。そのためにも必要なのだ。別に俺が支配してやってもいいが……自分で実験材料を確保できたほうが自由に研究ができるだろう? 俺も俺で色々と研究したいことがあるからな」
ここ10年ほどは雪音を帰還させるための研究ばかりしていたからそろそろ他の研究も再開させておきたいのだ。
あまりサボっていると他の廃人共に遅れを取るかもしれないからな。
レシマス最深部の常闇の眼に群がる研究廃人共もまたぞろ新しい発見をしているかもしれないし、油断はできない。
あいつらほんの数十年前にも完全無効盾の作成法やそれを突破する方法までセットで思いついていたからな。本当に油断ならない。
「ところで……一体どこに向かっているんですか?」
「店だ」
「……店?」
「そうだ、俺が経営している店だ」
「なぜそんなところに工場が?」
「工場でできた肉を売ってるんだ。金になる上に鍛錬もできるので無駄がない」
「……ちなみにどれぐらい儲かるんですか?」
「そうだな……今は1日で大体……200万ぐらいか」
「それでこんなにお金持ちだったんですね?今まで一体どこからお金が出ているのかと思っていましたけど……納得です」
「いや、店の稼ぎは大したことはないぞ?」
「え?」
「まあそれについてはまたの機会に話そうか。そのうち出来るようになるだろうしな」
そういうわけで、俺たちはポートカプールにほど近い場所にある大勢の人で賑わう店に来ていた。
店に入ると高級そうな雰囲気の漂う店内には似つかわしくない髭面のシーフが目立たないようにあちこちを観察していた。
「お、カモだ…」
ふむ。奴の様子の確認もしにきたのだが、思ったより真面目に仕事をしているようだ。
売れ筋商品の調査もしっかりとしている。
ただ、客のことをカモと言うのはどうにかならないのだろうか。前に聞いたら習慣のようなものらしく、直すのは難しいそうだ。
ともあれ、俺たちは売られている様々な商品には目もくれず従業員専用の扉をくぐろうとする。
すると、いつの間にかすぐ近くまで近づいていたマスターシーフが俺たちに声をかける。
「どうしたのかな、
「オーナーの顔を忘れたか? 俺だ、イリアスだ」
「はっ?……あ、ああ! 何だ、オーナーですかい! 驚かせねぇでくださいよ! また祝福された鈍足のポーション使ったんで?」
「そうだ。早速だが工場を使わせてもらうぞ。しばらくは大量生産することになるだろうからその宣伝もしておいてくれ」
「わかりやしたぜオーナー! へへっ、こりゃあしばらくぶりのやばいヤマになりそうだぜ……!」
そう言ってマスターシーフは楽しそうにしながら部下に声をかけていく。
その手際を見る限り、組織の管理も完璧なようだ。
やっぱりアイツ足を洗って正解だったな。
「……なんですか、あの妙に胡散臭い盗賊みたいな人は」
「そう言ってやるな。見た目はあれでもノースティリス最高の店を管理する凄腕の商人だ。アイツの話術にかかれば売れないものはないほどだぞ?」
「一日200万以上を売り上げる店ですもんねぇ……しかし、それにしても」
雪音は頭にかぶった
「やっぱりこれ、若返り過ぎではないでしょうか?」
「別にいいだろう? 若いに越したことはない。いちいち分けて飲むのも面倒だし身体能力だって変化するわけではない」
「若いにも限度があると思うんですよ……」
そう。
俺たちは祝福された鈍足のポーションを服用して限界まで肉体年齢を下げている。
現在の見た目の年齢はおよそ、12歳。
背もずいぶん低くなってしまっているので少しばかり過ごしづらくもある。
だが、ダルノやマーレスはこうなった俺を手助けするのが好きらしいので、俺はちょくちょく限界まで年齢を下げている。
*気持ちいいこと*をするときもこの姿だとなんというか……燃える、らしい。
普通に組み敷かれるのも好きらしいのだが逆に組み敷くのもそれはそれでいいとかなんとか……どうでもいいな。
ちなみにシュナックはそのあたりはどうでもいいらしく、俺達と同じく12歳まで若返っていた。
ともかく。
「ここがバブル工場だ。まずは戦術を覚えて……どうした? 」
「すみません、この異様なほど縦に長い吊るされた時々蠢く不気味な肉塊はなんですか?」
雪音の視線の先には人が両手を広げたぐらいの横幅の、遠すぎて見えない天井からどこまでも下に伸びる円柱の肉塊がぶら下がっていた。
「……バブルだ」
「これが? この時々ビクビクと蠢くやけに細長い正体不明の肉塊が?」
「…………正直俺も疑わしいと思うことがある」
「いや明らかにおかしいじゃないですか!? バブルってせいぜいが1メートルもないような分裂モンスターでしょう!?一体何をどうやったらこんな正体不明の超巨大な蠢く生ものになるんですか!?」
「いや、最初は冗談半分だったんだがな……祝福された乳を与えると少しだが身長が伸びるだろう? じゃあどこまで伸びるのかと思って100服ほど与えていたら突然急激に身長が伸び始めてな?面白がって更に投げつけてたらいつの間にかこんな状態に……」
「バカじゃないですか?」
「若気の至りだ、見逃してくれ」
「今も肉体的には十分若いじゃないですか!見逃しませんよ!?」
「まあ肉の生産工場には役立つから別にいいかと思ってな……」
「あのですねぇ……」
「まあそんなことはどうでもいい! まずはウォーミングアップに戦術を鍛えてスウォームを覚えるぞ!!」
「鈍足のポーションで若返ってから行動が若干子供っぽくなってませんか? やっぱりこれ結構心身に影響があるんじゃ……」
「いいから! やるぞ! 渡しておいた武器を出せ!」
「はいはい……」
呆れながらも雪音は4次元ポケットの魔法を唱え、中からブラックマーケットで適当に揃えたスタミナ吸収ダガーと地獄属性の鉾槍を取り出す。
「ちゃんとスキルトレーナーで限界まで教わってきたか?」
「はい。言われたとおりに、戦術と二刀流と解剖学を限界まで」
「最初は何も考えずひたすら吊るされたバブルを殴り続けろ。そのうちスウォームの使い方が何となく分かるようになる」
「なんとなくって言われても……一体どういう技なんですか?」
「どういうって……こういう技能だ」
スウォーム!
俺は☆永遠なる長剣『妖怪の火炎』を抜き打つとまず四方にぶら下がった肉塊に回転斬りを叩き込む。
続いてバブルの分裂体がこぼれ落ちるので、そいつらが落ちる先を予測し落ちるのが早いものから切り裂いてゆく。
その間も吊るされたバブルに剣撃を叩き込むことを忘れない。そうして最後にまた回転斬りを大きく踏み込みながら打ち込み分裂体ごとまとめて切り払う。
全滅だ。
「こういう技だ。決まった形はない。ただ効率よく周囲の敵を切り刻んでいくだけの簡単な技能だ」
「なるほど……それで戦術が関係する技能なんですね」
「とりあえず練習のつもりでバブルを適当に叩きながら戦術を意識するように。本当にすぐ出来るようになる。分裂したやつは適当に片付けておくから気にしないように」
「はい!」
────そうして殴り続けて2時間ほど経過した。
「うーん……これが、こう動いたときにこう動けばいいから……つまり、こう!」
スウォーム!
「できた! こういうことですよね?」
「ああ、そうだ。それがスウォームだ」
「よし、結構簡単でしたね!」
「最初に言ったろう? これはウォーミングアップ程度だと」
「よーし……それにしてもちょっとお腹すきましたね。ご飯食べませんか?」
「何を言ってるんだ? この鍛錬中は飯など食わないぞ?」
「はい?」
……妙な沈黙が流れて会話が途切れる。
「いえ、あの……ご飯食べないと餓死しますよね?」
「いいや? 何のために地獄属性武器を用意したと思っているんだ?」
「……まさか?」
「そのまさかだ。想像は付いてるんじゃないか?」
「…………餓死しながら地獄武器で回復し続けろと?」
「そうだ。ちなみにこのあと10時間ほど続ける予定だ」
「嘘でしょう?」
「俺は正直者なんだ。前にも言わなかったか?」
────そうして殴り続けて10時間ほど経過した。
雪音はフラフラとした動きでスウォームを続けている。
無理もない。集中した状態で10時間以上も動き続けるのは最初は非常にきつい。
だが泣き言も言わずに続けられるとは思ってはいなかった。
やはり帰りたいという強い意志がそれを可能にするのか。
だが、流石にそろそろ限界だろう。時間もいいところだろうし終わりにするか。
「雪音。もう終わりにするぞ」
「………………」
雪音は虚ろな目で虚空を見つめたままスウォームを続けている。
……まあ鍛錬が続くとよくあることだ。
集中しすぎて意識もなほとんどない状態で体が勝手に動き続けるのだ。
こういう時は、これを使う。
ホイッスル!
*ピーーーー*
寝ているやつも飛び起きるほど大きな音でホイッスルを鳴らす。
「……はっ!? あ、あれ、私……あれ? 美しいフォームのスウォームが、もうちょっとでできたような……あれれ?」
「おつかれ。10時間経ったぞ」
「……おわり?」
「そうだ終わりだ。疲れただろう? 家に帰ってすぐ寝よう」
「…………おわったぅ? ねれぅの?」
だいぶ参っているようだな。
すぐに帰還で戻って食事を取らせて幸せのベッドに放り込んでおこう。
「ほら、帰還も唱えた。家に帰ってゆっくり休もう」
「……かえぅ? おうちかえぅ?」
翌日。
「おはよう。調子はどうだ?」
「体の疲れはないですけどまだ精神的に疲れてる気がします……」
「そうか……なら数日は休んだほうがいいかもな」
「そうさせてもらいます……」
「しっかり休んだらまたやるからな?今度は慣れもあるからもう少し楽だと思うが……」
「……確かに今なら10時間ぐらいどうってこと無い気がしてきますね」
「代わりに今度は乗馬して3日間ほど続けてもらうがな」
「は?」
「じゃあ3日後にまたやるからそれまでは自由だ。3日間バブル工場にこもり続けるのはなかなか厳しいからちゃんと休んでおけよ?」
「…………は?」
黒髪少女の真田 雪音 女 12歳 124cm 35kg
種族 : 人 信仰 : ????
職業 : 魔術師 所属 : 魔術師ギルド
レベル : 57
残りBP : 134
金貨 : 28759
筋力 : 74(74) Hopeless 生命力 : 100(100)
耐久 : 33(33) Hopeless マナ : 80(80)
器用 : 36(36) Hopeless 狂気度 : 0
感覚 : 36(36) Hopeless 速度 : 70
習得 : 68(68) Hopeless 名声度 : 0
意思 : 46(46) Hopeless カルマ : 20
魔力 : 30(30) Hopeless DV : 18
魅力 : 27(27) Bad PV : 15
武器1 : 181% 2d15+3 x1.5
武器2 : 88% 2d5+4 x0.9
射撃 : 63% 1d12+0 x1.0
回避 : 75%
軽減 : 22% + 1d8
---------------------- 装備品 合計重量4.7s (軽装備)
バブル工場:
みんな大好きバブル工場。
レシマス卒業したばかりの初心者からハンマーを鍛えるような廃人まで、
お世話にならない冒険者は居ないであろうelonaにおいて最も重要な稼ぎ法。
やり方は、バブルなどの分裂モンスターを吊るしてスタミナ吸収と地獄属性武器がついた武器を持ってスウォームし続けるだけ、と非常にシンプル。
それ故、初心者であっても★ランキス・★ラッキーダガー二刀流や★モーンブレイドを用いれば簡単に実行可能。