すくつ廃人が少女をすくつに潜れるようになるまで鍛え上げるお話   作:ニカン

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それは生きている

「えーっと、最後は確か……61614222ページの『妖怪の火炎』……で、レベルを上げて……これで、エンチャントを確認して……うん、できた!」

 

シェルターから飛び出した黒髪少女の雪音は『妖怪の火炎』を誇らしげに構えた。

 

「イリアスさん! できました! すごいですね、この『妖怪の火炎』! 適当に撃った魔法の矢(マジックダート)ですら威力が10倍以上に跳ね上がりました!」

 

「なぜレシマス廃人研究所にあれ程の量の生き武器エンチャントリストがあるのか、その理由がわかっただろう? あれがないと魔法威力強化特化武器や全属性耐性遠隔武器も作れないからな」

 

「ええ! 最初は全く意味がわかりませんでしたが……理解すると色々作れて面白いですね! ……あ、そうだ。一つ聞きたいことがあるんですが」

 

「ん? なんだ?」

「あれ程の量のエンチャントリスト……一体どうやって調べたんですか?」

 

「…………」

「エンチャントリストに載っている銘とエンチャントの関係はすべて、生きている武器のレベルが1の時のものでした。一つ一つ調べていったとしたら名前の巻物が数百万巻は必要になります……いくら廃人といえど、そんな気が遠くなるような数を調べられるとは思えません。それともまさか本当に……?」

 

「いや……あれは別の方法で調べられたものだ」

「それは一体どういう方法なのですか? ……あまり聞かれたくない方法なんですか? それなら……」

 

イリアスさんはなぜか先程から少しばかり歯切れが悪いです。

聞かれたくないことなのでしょうか。

 

「そういうわけではない。ただ、若い頃の……未熟な時期を思い出すのでな。なぜレシマス最深部という場所に研究所があるか、という理由にも関わってくる」

「確かに随分辺鄙な場所に研究所があるな、とは思っていましたが……」

 

「昔……そうだな、もう100年以上も前の話になるか。ノースティリスに流れ着いた俺は……まあ、なんだ、色々あって、俺はレシマス最深部に安置されていた『常闇の眼』という本の所有者になった。その本が非常に便利でな……この世界のすべての歴史が記されているんだ」

 

「色々ってなんですか色々って……それにしてもすべての歴史、ですか?」

「そう、すべて……本当にすべてだ。この世界の創生から今現在に至るまで。そしてそれは今なお更新され続けている。それゆえ、この本を閲覧することはこの世界の全ての情報を閲覧できると言ってもいいほどだ。ただ、一つだけ難点があってな。その『常闇の眼』はレシマス最深部の台座から動かしてしまうと新たな歴史が記されなくなるんだ」

 

 

「それでわざわざあんなところに研究所を作ったんですね」

「あの本は本当に便利でな。見たい情報をきれいに整理(ソート)して見せてくれる機能まであるんだ。この世界が生まれてから生成された全ての生きている武器の情報を、名前の巻物で出てくる銘の順番通りに並べてくれたよ。おまけに、一冊の本であるにも関わらず何故か無限にめくることが出来る」

 

「そうでもなければ一冊の本にこの世すべての歴史が収まるはずもないですものね……」

 

「それであの本を動かさないように解読しながら3年ほどあちこちを放浪していたんだが……そのときに何人か頭のおかしい奴らと出会ってな。この世の全てを解き明かしたいという研究バカや、世界最強の生物になりたいとのたまうカオスシェイプ。永遠に美しさと若さを維持したいと()かすやけに強い娼婦や凄まじく偏屈な鍛冶屋なんかもいたな。……ともかく、そいつらとレシマス最深部を整備して各々の目標のために研究と調査を始めたのが……」

 

「レシマス廃人研究所の始まり、ですか」

 

「ああ。その後何十年か経ったら噂を聞きつけて更に頭のおかしい奴らが集まってきてな……今ではあそこはすくつに並ぶ、廃人のたまり場だ」

 

イリアスさんはため息をついて、話を切り上げました。

 

「まあ、レシマス廃人研究所とエンチャントリストについてはそんなところだ……『妖怪の火炎』も完成したんだ、すくつに潜るんだろう? 準備はいいか?」

 

「全属性耐性遠隔生き武器に、全維持装備……魔法のストックも万全です! ではちょっとすくつを潜ってきます!」

 

イリアスさんにそういったあと、私はバーテンダーにちょっと前に支配したティラノサウルス(Lv276)を呼び戻してもらい、祝福された肉体復活のポーションを投げつけて乗馬し帰還の魔法を唱えました。

 

 

「さあ! 一気に1000階層まで潜りますよ!」

 

 

 

 

 

「あ、そうだ。すべての歴史が載っているということはイリアスさんの歴史も載っているはずですよね? さっきの色々の部分が気になるので『常闇の眼』で見てもいいですか?」

「…………あれはあくまで歴史しか載っていないからひどく客観的な内容になっている。単なる興味であるならシュナックにでも聞け。シュナックもあの時一緒にいたからな……」

 

 

 

 

 

黒髪少女の真田 雪音は次元の扉を開けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………」

「おかえり。這い上がったようだが何階まで行けたんだ?」

 

「745階層まで……」

「なかなかいいとこまで行けたな。死因は?」

 

「盾で殴られて朦朧としたまま死ぬまで……」

「ああ、盾バッシュの朦朧はな……あれは音耐性が*とても*高ければ防げるぞ。具体的には強度3342ぐらいだったかな」

 

「全属性耐性生き武器の強度っていくらでしたっけ……?」

「大体500ちょっとだな」

 

「……音耐性揃えて出直してきます」

「盾バッシュということは敵は近接のはずだからテレポートも有効だぞ。速度が同じぐらいならそもそも近づかれなければいい話だしな」

 

「参考にします……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うーん……お金が足りない」

 

私は今、ポート・カプールのブラックマーケットで装備を探しています。

この店はイリアスさんが限界まで投資したらしいので品揃えはとてもいいのですが……当然のごとく、値段も相応です。

 

「私も店を建てて金策すればいいんでしょうか……でもイリアスさんはもっと効率のいい方法を知ってるみたいでしたし……ちょっと相談してみましょうか」

 

 

そうしてブラックマーケットから踵を返し、私はイリアスさんの小城へと歩き始めました。

しかし……なにか騒がしいような?

 

 

「ガード!ガード!」

「何をするのにゃん!」

 

本当に何があったのでしょうか。カルマの低い冒険者がうっかり街にでも入って────

 

 

 

 

 

終末の日が訪れた。

 

 

 

 

 

 

それは、突然起こりました。

 

そこら中の空間がズタズタに切り裂かれ、その反動で辺り一帯に炎の嵐が吹き荒れて。

無理矢理に開かれた次元の狭間からはエーテルの風とドラゴンの群れが溢れ出し、ポート・カプールに住む人々を蹂躙していきます。

 

終末です。

 

「さっき騒がしかったのは……まさか!」

 

私は魔力の嵐(マジックストーム)であたりのドラゴンを薙ぎ払いながら、さきほど騒がしかった方へと向かいます。

 

 

 

 

 

────普通、終末というものは滅多に起こるものではありません。

まして、こんな町中では。

冒険者もその危険性は熟知していますし、大抵はすぐに手放します。

 

それはそうでしょう。

エーテルの風が吹き荒れる中でドラゴンと巨人の群れに囲まれるなんて状況は、普通の冒険者にとって死と同義です。

 

 

 

もしドラゴンをなぎ倒せるほど強く、エーテルの風への対策ができていれば稼ぐために起こすことも考えられます。

実際、そのための終末発生用シェルターがいくつか設置された地域が妹の館の近くにありますし。

 

 

なので、意図的に終末を起こすとしてもこんな町中で起こすバカはいません。

もし、いるとすればそれは……。

 

 

 

 

「あ? まだ死んでないやつがいたのか……冒険者か? つーか終末ってあんまり稼げねーなぁ。宝箱落ちるけど金は小銭ばっかりだし。誰だよ終末稼ぎが儲かるとか言ったの!」

 

 

こういう…………周りの迷惑も考えないような、救いがたいカタツムリ以下のウジムシです。

 

 




『妖怪の火炎』:
ヴァリアント、elona_oomSESTにおける最高強度のレベル15魔法威力強化武器。安定版では『必ず紳士』という名前のものが最高の強度を誇る。

その力は凄まじく、魔法の威力を512%上昇させることが出来る。
また、攻撃魔法に関しては威力が10倍以上に跳ね上がる。
なぜ攻撃魔法だけこんなに威力が上がるかと言うと、魔法威力強化武器は攻撃魔法の『ダイスと面数を両方とも』上昇させるからである。


終末:
ヴェルニースの虚空さんが起こすアレ。
エーテルの風が吹き荒れ巨人とドラゴンの群れがどこからともなく現れる。

そいつらが落とす各種アイテムや宝箱目当てにわざと起こすこともある。
通称、終末稼ぎ。

実は極まった廃人にとってはあまり旨味がないので起こすのはある程度中途半端な時期だけである。

廃人が起こすとすれば、特性肉まんじゅうの材料が欲しいときぐらいだろうか。


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