これTS? 憑依?   作:am56x

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T/A35:アメリアの誕生日会です。(前編)

 八月の下旬、アメリアと友人となってからはこの時期は決まってパーティーに参加するようになっていた。

 

「本当にいいの? 別に断ってくれてもいいのよ」

「ううん、そんなことないよ。着飾ったアメリアの姿楽しみにしてるからね」

「もう、フィエーナったら……ありがとうね」

 

 電話でアメリアには今年も参加する旨を伝える。アメリアも一人で参加となったら心細いはずで、案の定電話越しに安堵のため息が漏れ聞こえてきた。

 

「今年もウィーネンナッハ城塞で開催?」

「そうね、お父様ったら今年も張り切っちゃってたくさん人を呼ぶみたいね」

 

 アメリアの家系は十世紀ごろに興った古ロートキイル王国を建国した七大支族の末裔で、

今でもヴェルデ市のあるルヴェ州の主要な土地はアメリアの家系が保有している。アメリアのファミリーネームであるレイハウと聞けば、誰しもがここではピンと来る有力家系なのだ。

 

 ウィーネンナッハ城塞は州都であるウィーネンナッハ市にある、レイハウ家がかつて拠点として使用していたお城だ。今では一般公開もされていて、私もかつて小学校の遠足でアメリアとも一緒に訪れた覚えがあった。

 

 そして一般公開の休日を利用して、アメリアの父は娘の為のパーティーを毎年のように催しているのだった。私もまた、アメリアの友人として何度も訪れたことがある。

 

とにかく古めかしくて大きくて、歴史の重さに圧倒される建物の中で壮麗に催されるパーティーはかつてヴェイルが経験したパーティーを思い起こさせて私は心躍らせたものだ。

 

 

「フィエーナが来てくれると助かるわ。あなた物怖じしないものね」

「んふ~、頼りにしてくれていいんだよ」

「はいはい、頼りにしてるわフィエーナ」

 

 

 

 エリナと私の準備に手伝ってくれた母親に見送られ、私はアメリアの家族が手配してくれた車に搭乗し現地に向かう。

 

「うげえ~、緊張してきた」

「あはは、要はお誕生日会なんだからそんな気負わなくても大丈夫だよ」

 

 レースの入った黒地のワンピースドレスを纏い、母親から借りて来たというネックレスを首に下げたエリナは深窓の令嬢にも見える。いつもよりしおらしくなっているのも、一層お嬢様といった感じを増しているように見えた。

 

「今日のエリナ、とっても綺麗だね。自慢の幼馴染だよ」

「フィエーナ、恥ずかしいからやめて」

 

 正装をするのに気後れしているエリナは、頬を赤くしながら俯いてしまった。こんな反応をするエリナは珍しい。元々小柄なことも相まっていよいよもって愛らしく見える。

 

 そのまましばらく車は進み、遥をピックアップしていく。私たちは三人で会場に向かうことになっていて、里奈は専属の運転手を自前で持っているのでそれで連れて行ってもらい、キアリーとトヨは別の車で一緒にやってくることになっていた。

 

「フィエーナ……綺麗」

「ありがとう遥、遥もすっごく綺麗だね」

 

 紺色のジャケットにワンピース姿の遥を前にして、私とエリナは思わず目を奪われてしまう。最近は夏季休暇で道着姿の遥ばっかり見ていたギャップもあって、すっかり私は遥に見とれてしまった。

 

 ヴェルデ市を出発して二十分ほど車は走り続け、やがてウィーネンナッハ市に入っていく。州都とあってヴェルデ市には見られない高層ビル群が遠目に見える人口八十万人を誇る大都市を流れる川の畔にウィーネンナッハ城塞は築かれている。

 

 数百人が籠城可能な巨大な石造りの集中式城郭として建造されたウィーネンナッハ城塞は、高さ十五メートルはある城壁の内側にさらに二十メートルの高さの内壁が設けられて、内部には三十メートルの高さに及ぶ塔が四隅に建てられた石造りの城が建っている。

 

 普段は一般人が見学可能で、なおかつ中央の一部の建造物が博物館にもなっているウィーネンナッハ城塞だけれど、今日はレイハウ家が貸し切りでアメリアの為のパーティーが開かれるのだ。改めて考えるとスケールの大きな話だ。

 

「すごい、本物のお城だ」

 

 多分初めて訪れたであろう遥は車窓に顔を近づけて感嘆としている。パーティーに合わせて続々と集まって来る車両群はどれもお高そうな代物ばかりで、何だか私みたいな普通の階級の人間が来てよかったものかと思わないでもなかった。

 

 短機関銃を持った警察官が巡回しているのをぼんやりと見つめながらのろのろと進む車の中でエリナや遥とお喋りしながら暇をつぶし、十分ほどかけてようやく私たちの乗る車は城内に入ることが出来た。

 

 駐車スペースに車が停車し、石畳の道を歩いて私たちは城の中に案内される。案内されたのはアメリアのために解放された一室で、ゴシック調の広々とした部屋には既に里奈たちが先に到着してアメリアと一緒に私たちを待っていた。

 

「うわああ……アメリアのその衣装、綺麗だね」

「ありがとう遥。でも、遥も負けてないわよ」

 

 手間の掛かるだろうレースの刺繍がみっちりとワンピース全体に施された絹のドレスを着たアメリアは、中世期の貴族の令嬢のようだ。首元に立ったレースで出来た襟に、僅かに膨らみを持たせているスカート部分が格式高く歴史を感じさせる衣装になっている。

 

 一番綺麗なドレスを着ているのはアメリアだけど、里奈やトヨ、キアリーも今日はしっかり着飾っていてみんなちゃんとした衣服を着ていると気品のあるお嬢様然としていた。

 

 いつもは活発元気少女なトヨもワンピースドレスに身を包んで両手を前に組んでいると様になっているし、ハチャメチャな行動をしてみせるキアリーだって同様だ。

 

「えへへ~、ちょっと動きにくいよね~」

「ホントだよなー、短パンとかじゃ駄目なのか?」

 

 それでも中身が変わっている訳ではない。朗らかに笑いながらくるくるとその場を回るキアリーに、スカートを無遠慮に膝が見え掛かるまで持ち上げて見せるトヨはいつの通りだ。

 

「駄目に決まってるでしょ」

「そりゃそっか」

「当たり前だよトヨちゃん! こんなトコで短パンで来てたら場違い過ぎて恥ずかしいよ!」

「たはは」

 

 私たちが談笑しているところ、アメリアの家族が挨拶にやってくる。

 

「やあ、ちょっといいかなアメリア」

「お父様! ええ、どうぞ入って」

「やあみなさん、今日は私の娘のために集まってくれて感謝しているよ」

 

 室内に入ってきたのは顎鬚を蓄えた壮年の男性と彼に寄り添うアメリアに何処か似た雰囲気の美しい女性、それにアメリアの兄が一人に弟が二人だった。

 

「ふむ、見ない顔もいるので自己紹介もしておこうか。グリジン・レイハウ、アメリアの父親だ」

 

 互いに抱擁を交わし、挨拶を終えるとアメリアの両親と兄はパーティーの準備があるそうで早々に出て行ってしまった。アメリアの二つ下の弟のアロルと、八歳のテキオルだけが残される。

 

「ふぇっへっへ~、大きくなったねアロル~。流石成長期!」

「はは、ありがとうございますキアリーさん」

 

 アロルは年齢に見合わない丁寧な態度の優しい子だ。キアリーが無遠慮に背中をべしべしと叩いてきても、何も言わずに笑顔で感謝を述べている。何て大人な子なんだろう。

 

「姉ちゃん疲れたー」

「もうテキオルはすぐへばるんだから。ほら、そこにあるソファで休んだら?」

「姉ちゃんでいーよ」

 

 一方のテキオルはアメリアにべったりのお姉ちゃん子で、アメリアもそれを憎からず思って接している。こっちは年齢相応に子供らしい。今も両親がいなくなった途端、隣のアメリアによりかかっていた。

 

「確かアロルはイギリスの寄宿学校に行ってるんだよね。あっちはどうなの?」

「中々厳しいですよ。けど、先輩や同級生は良くしてくれますし、楽しくやってます」

 

 私が話しかけると、柔和な笑みを讃えながらアロルは返事をしてきた。そんな泰然としたアロルは、何かを思い出したかと思うと急にそわそわしだしてアメリアに声を掛ける。

 

「そうだ姉さん、本は何処に置いてありますか」

「そこの机に置いてあるわ。サイン、欲しかったんでしょう?」

「はい!」

 

 アメリアが指し示した机の上からブックカバーに入った本を駆け足で取ると、年相応な笑みを浮かべながら私の目の前に走って来る。

 

「実はフィエーナさんの本、読ましてもらいました。とっても面白かったです!」

「あ、ありがとうアロル」

 

 なんてことだ。イギリスにいたアロルに私の本の存在が知られているとは。

 

「おお~、フィエーナちゃんのファンがまた一人誕生だね~」

「アロル君もヴェイルの回顧録読んでるの!? どこら辺が好き!?」

 

 いきなり生き生きと話し出した里奈にちょっと面食らいながらも、アロルは滔々と語り始める。

 

「そうですね、情景描写がまず好きですね。実世界の話じゃないのにまるで自分自身がいるかのように思えてきて、世界観にはまりこんじゃうんです」

「おお~、分かってるねー!」

 

 テンションの上がった里奈に負けず、アロルの声音もウキウキとしている。普段の落ち着いた様子のアロルを見ていた私には見せなかった顔で、ちょっと意外に思えた。

 

「フィエーナ、アロルはフィエーナの本のファンなの。よかったらサインしてあげて」

「あ! そうだ、ぜひお願いしたいのですがいいですか?」

「いいよ、それじゃ本を貸してね。ペンはある?」

「はい! これでお願いします」

 

 アロルの持つ本へサインを書いてあげると、アロルは嬉しそうに表情を緩めてずっとサインを見つめ続けていた。足はステップを踏んでいるし、鼻歌まで時々歌いだすはしゃぎようは見ていて微笑ましい。

 

「そんなに喜んでくれると、私もサインした甲斐があるよ」

「あ……はは、お恥ずかしい」

 

 照れて俯いてしまう姿も可愛らしくて、アロルは私たち全員からすっかり可愛い子認定されてしまうのだった。

 

 

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