もしも切嗣が喚んだセイバーがオルタ化してたら   作:ひきがやもとまち

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ACT10

 冬木の聖杯戦争用にアインツベルンが用立てていた別邸のサロンにおいて。

 久宇舞弥は、表情には出さずに戸惑っていた。

 

 昨夜に行われた倉庫街での戦いの後、ランサーのマスターであるケイネス卿を襲撃するため冬木ハイアットホテルを爆破し、その直後には聖堂教会の代行者言峰綺礼とも一戦交え、さらには別邸に到着した直後には冬木教会からの呼び出しを受けた切嗣が使い魔を操作して監督役の告知をチェックするのをサポートしていた彼女は、実質昨日がはじまってより一睡もしていない。

 そのことに不満はなく、疲労も許容範囲内に収まっている。この程度で弱音を吐くほどヤワな鍛え方はしていないつもりだし、精神も同様だ。この程度で揺らぐ程度の覚悟では切嗣の理想を実現する手伝いなど夢のまた夢でしかないのだから・・・。

 

 ――だが、そんな彼女も心持つ人間だ。意外すぎるモノを目にすれば驚きもするし、戸惑いもする。時には驚愕することだってあるだろう。

 

 具体的には、自分を拾って育ててくれた自分の全てだと信じ尽くし続けてきた男の、意外すぎる側面を見てしまったときなどに・・・・・・

 

 

「――地脈の中心となるのは二カ所。ひとつはセカンドマスターである遠坂の邸宅。もう一つは・・・・・・」

「見るがいいマスター。私がサーヴァントとして貴様より先に、この洋館に来てからの充実ぶりはどうだ?

 欠片の埃もない窓枠。パリパリのシーツ。冷やしておいた炭酸飲料とアイスと冷凍食品。フフフ・・・まさに完璧な奉仕と言えるだろう。メイド好き変態ジジイが趣味で造ったとしか思えないホムンクルスメイドの仕事ぶりとは雲泥の差だ。

 やはり私こそが王。王たる者、メイド界においても一番になって王とならなければならぬ義務があるからな!」

「・・・・・・言わずと知れた円蔵山だ。この辺り一帯の命脈はすべてこの山に集まることになる。詳細はアハト翁から聞いてのとおりなわけだが――」

「・・・くすくすくす♪(^_^)」

 

 

 目の前に広げた冬木市全域をフォローしている地図を指さしながら、額に血管浮かべながら意地でも自分のサーヴァントの顔を見ようとしないで今後の戦略についての説明を無理矢理続けていく自分のマスター衛宮切嗣。

 

 そして、何の意味があるのか全く解らないながらも一応は魔力付与がなされているらしい黒いビキニ水着を身にまとい、その上から白いエプロンと黒いミニスカートを巻いてジャケットを羽織り、頭にはカチューシャ乗っけてモップを手に持ち、自分たちの居城中を破壊しまくってきた戦果を自信満々に報告している切嗣が召喚したサーヴァントと思しき白すぎる肌と錆びた色の金髪の美少女。

 

 更には、それら全てを生温かく見守っているかのように優しい笑顔で黙ってみているだけのアイリスフィール夫人。

 

 ・・・シュールだ。舞弥は素直な感想としてそう思った。それ以外に思いようがなかったとも言うけれども。

 

 

 現在、アイリスフィールたちに先駆けて城を訪れていたメイドたちによって完璧な状態に整え直されていたはずのアインツベルン別邸は、セイバー・オルタの手によりボロボロな状態に変えられてしまっている。

 テーブルクロスからティーカップに至るまで染み一つなかった昨日までが嘘のように、ほとんどの物が綺麗サッパリなくなっていて、どことなく廃墟感を醸し出しているような気がしなくもない。

 これが六〇年もの間、住まう者もなく無人だった城を短時間で新品同然にしてもらった招かれざる客人の所業とは到底思えないほどに。

 

 余計な調度品が何もない、安ホテルと廃墟の見分けがつかないような空間はむしろ切嗣にとって過ごし慣れたホームと呼べるのかもしれないが、物事には限度というものがある。

 これほどまでに何もかも全部なくなってしまった城の中で少しの間だけでも過ごさなければならないと思うと流石の彼でも苛立ちぐらいは覚えてしまうのだ。

 ガン無視するぐらい許されるのが当然のことされまくっている切嗣さんだったのだけれども、女たちには今いち彼の思いは伝わってくれない。会話が妙に流されれしまいやすい。

 

 

「アルトリアと言えば聖剣。聖剣と言えば私だが、このようにモップを使った掃除も出来る。勘の良さ、目の良さ、物わかりの良さでは円卓の誰にも引けは取らない。基本的に斧と包丁以外の武器は何でも使えるのが私だぞ」

「(ピクピク)――円蔵山には頂上の柳洞寺を基点として強力な結界が張られている。そのせいでサーヴァントのような自然霊以外の存在は参道からしか侵入できない。セイバーを使う上では留意しておいてくれアイリ」

「はいはい♪ わかってるわよ、ア・ナ・タ☆」

「・・・ぐぬ・・・」

 

 軽くいなされ、無視していることを無視されてしまう冷酷非情な魔術師殺しの衛宮切嗣。

 いったい、この数年間で彼に何があったのか? 彼を完成させるための機械として、気にならないと言えば嘘になる。

 だが、その変化が彼にとって良いものであるように感じられている以上、彼女にとっても否やはない。

 だから舞弥は大人しく見守る。黙ったまま切嗣の説明を聞き続ける。

 それが彼を支える機械としての役割だと信じ続けているが故に・・・・・・。

 

 

「――とまぁ、大体こんなところだが・・・アイリ、何か質問は?」

「今後の方針についてなんだけど・・・切嗣は他のマスターも全員がキャスターを狙うと見ていいかしら?」

「まあ、間違いないだろうね。監督役が提示した報償はたしかに旨味がある。

 だが、ことキャスターに関する限り、僕らには他の連中にはないアドバンテージがある。奴の真名を知っているのは現状では僕らだけだろう。僕らはキャスターを追い立てるまでもなく、ただ待ち構えて網を張っているだけでいい」

 

 洋館に着いてから好き勝手やっているらしいセイバー・オルタだったが、基本的には切嗣の作戦に理解を示しているためか、自分の趣味(?)に傾倒しているだけで作戦そのものには異論を唱えてくる気配を見せない。

 

 今回、切嗣が立てた作戦も、セイバーを狙ったキャスターを城内へおびき寄せ、監督役から約束された報償目当ての他のマスターが追ってきたところを背後から撃つという正々堂々をモットーとする騎士道精神からは大きく外れたものでありながら、特に否定的な感情を抱いたようには見受けられない。

 

 然もあろう。なぜならこれは『戦争』なのだから。

 ルールに則った公平な形で行われる決闘ならいざ知らず、戦争の中で正々堂々などやっていたのでは無駄な血が流れるばかりで救える者も救えなくなってしまう。

 

 まして、キャスターが行っている賞金をかけられても仕方のない悪逆非道は、本来なら聖杯戦争を秘匿するため隠蔽工作を受け持つ聖堂教会がやるべき仕事である。

 『報酬は払ってやるから、自分のやるべき仕事をお前が代わりにやれ』などと平気でのたまう生臭坊主の尻拭いのため自分のマスターが危険を冒すなど論外だ。反吐が出る。

 

 

 そして何より、今の自分は『王でも騎士でもないサーヴァント』。

 マスターの剣であり、盾であり、鎧でもある存在だが、マスター本人では断じてない。

 武具は所詮、道具でしかない。使う者がどう使いたいかが問題なのであって、武具自体が自我と自分の目的を持って所有者の意思を無視して勝手に動き回るようになってしまったら本末転倒というものだろう。

 

 だからセイバー・オルタは、衛宮切嗣の作戦を支持する道を選んだ。

 この戦いは彼の願いを叶えるための戦いであり、自分は決闘用に喚び出された代理人に過ぎない身の上。それ以上でも、それ以下でもない。分を超える行いは越権行為である。

 

 

「監督役が提示した新しいルールはどうなるの? キャスター以外とは休戦のはずでしょ?」

「構わないよ。監督役は報償を示しただけで罰則は設定していない。難癖をつけたところでシラを切り通せばいいだけの話だからね」

 

 とは言え、聞き捨てならない部分を指摘するのもまたサーヴァントの果たすべき役割でもあるわけなので。

 

 

「――それに今回の監督役はどうにも信用できない。なにせ素知らぬ顔でアサシンのマスターを匿っているような奴だ。ひょっとすると遠坂ともグルかもしれない。裏が見えてこないうちは疑ってかかった方がいいだろう」

 

 

「・・・おい、ちょっと待てマスター。

 貴様、今なぜ自分自身を謀ろうと甘言を弄してきたのだ?」

 

 

 

 ――場の空気が凍り付いた。

 アイリスフィールは笑顔を凍り付かせているし、氷のような美女久宇舞弥も内面も外面も同じもののように完全に固まって動きを停止させられてしまっていた。

 

 全ては黒ビキニメイド服姿をした、イカれたサーヴァントが放った一言が行ったことだ。それだけでこれ程の影響をもたらしてしまったことは凄まじいことではあったが、味方に対して示すものでは全くないのも事実である。

 

「・・・・・・」

 

 切嗣は答えない。ただ黙ったまま無視する姿勢を維持するだけだ。

 そんなマスターからの無視という反応を、セイバー・オルタは無視して言葉の続きを口にしていく。

 

「マスター、貴様は自分自身の口から言ったはずだぞ。アサシンのマスターを監督役が匿っている、と。そして貴様とマイヤの目によってアサシンの健在を確認したともな。

 にも関わらず、なぜ貴様は今アサシンによる諜報でキャスターの正体が知られている可能性について口にしなかった? なぜキャスターと私たち二人が話していた内容をアサシンのマスターが知っているかもしれない事実を話そうとしない? なぜ、そうまでしてコトミネキレイに拘りたがる?」

 

 

「・・・・・・っ」

 

 セイバー・オルタの言葉で切嗣の表情が初めて歪む。

 唇をかみしめ、必死に震えを押さえ込もうとしているような痙攣が彼の身体を内側から震わせているらしく、揺れのリズムが安定しないまま小刻みに不安定な速度で揺れ続ける。

 

「一日目の夜に死んだはずのアサシンが生きていたのだ。どんな手段を用いたのかはわからんが、少なくとも何処で誰の話を盗み聞きしていたとしてもおかしくないと考えるのが妥当だろう?

 だと言うのに、貴様は先ほどからアサシンを軽視するかの如き発言を連続し続けている。アサシンそのものが持つ脅威度の低さと、コトミネキレイの危険度とを混同して価値を低く見積もろうとしている。なぜだ?

 このまま目を逸らし続けていれば、この城に奴自身が乗り込んでくる可能性があるからか?」

 

 セイバー・オルタは「やれやれ・・・」と頭を振ってモップを立てかけ、両手を組みながら壁により掛かりつつも切嗣の苦悩に満ちた横顔を眺めながら静かな口調で人についての持論を説く。

 

「前にも一度言ってやったはずだがな。この男に貴様が一対一で戦って倒して得られるほどの物は何一つ持っていない、と。

 だが、それでも貴様はコトミネキレイを意識し続けている。意図的に言葉を伏せたということは、逆説的に貴様がもっとも強く意識している相手だという事実を示している。

 自覚のある関心こそ執着だ。貴様はコトミネキレイに何かを感じ、何かを抱き、自らの手で決着をつけたいと望んでしまっている。

 だからこそ、敢えて話題に出さない。自分が背後から狙い撃つ奴の一人という風に印象づけるための虚言を吐いてまで・・・」

 

「・・・・・・・・・」

 

 切嗣は答えない。ただ黙って震えるのみだ。

 そんなマスターに対してセイバー・オルタは、これ見よがしに溜息をついて見せ、諭すような口調で語りかけていく。

 

 

「人はな、マスター。本質的には欲望で生きる生き物なのだ。己が愉悦のためなら平気で他人を殺し、己の願望に基づく殺戮を正義の名の下で正当化する悪徳さえ許容してしまう。

 悪こそ本質。それが人だ。人の本質は悪なのだ。

 …だからこそ蛇に誑かされやすい…。

 人は悪行によって愉悦を得る。だが、善行によっても喜びを得られる。このどちらもが悦であると言う事実に変わりはなく、悦そのものが悪であると断じるのは無理がある。

 ――そんなつまらん理屈で騙されやすいのだ。この手の子供じみた求道者もどきの若造はな」

 

「悪行で愉悦を得るのと、善行で喜びを得るのが全くの別物であることぐらい子供でも一目瞭然な当たり前の理屈に過ぎない。

 人の本質は悪だ。欲望は悪だ。悪が人であり、人は一人残らず悪人なのだ。

 だからこそ『法』が生まれた。悪なる人を善なる者へと導くために敷かれた規律が。悪なる欲望を罪に至らぬよう制限するための規則がな。

 人間誰しもが欲望の赴くままに生きてしまっては、この世は修羅の巷になってしまう。それを人類自身が選んだ結果だとグラス片手に見ているだけなら王とは言えぬ。王ならば、民草が間違える人々だと知っていたなら法によって正しく生きることを強制するべきなのだ。

 なぜなら、互いに許された範囲内で欲望を満たし、法によって縛られながらも法によって守られることこそ人類国家が築いた平和と秩序の在り方なのだから。

 自由なき自由こそ王の生業、統治における在るべき姿。この男には、それが無い。ただ満たされない飢えを抱えて、誰かに満たして欲しいと願い焦がれる願望しか持ち合わせていない。

 そんな考えなしの無自覚な願望と比べて、自覚的に意図を隠そうとする貴様の理性と罪悪感は比べ物にならんほど価値がある。いちいち下らん些末事な相手のために命を懸けてやる必要はない」

 

「あの、セイバー・・・」

 

 見過ごせなくなったアイリスフィールが、横合いから待ったをかける。

 

「言ってる意味はわかるけど・・・あなたは切嗣に、一体なにをしてもらいたいの?」

 

 はっ、となって切嗣も舞弥もアイリスフィールと、次いでセイバー・オルタの顔を見る二人。

 そうだ。セイバー・オルタは切嗣が言峰綺礼から目を逸らしている事実を手厳しく批判しながらも、決して“こうするべきなんだ”と言うような代案を言っていない。

 

 言うとしたら、ここからだろう・・・。

 アイリスフィールの、その予想は当たっていた。

 

 

「ふむ。つい柄にもなく熱くなってしまったな・・・まぁ、要約すると単純明快になってしまうのだが・・・。

 マスターよ。『私を弾丸に使え』」

 

「「・・・は?」」

 

「は、ではない。私を弾丸に使えと言ったのだ。忘れたのか?

 私はお前の剣、お前のサーヴァント、『魔術師殺し衛宮切嗣が使う武器として召喚された英霊』なのだぞ? 剣の担い手が敵を背後から襲うタイプの剣士だったら、その剣の切っ先が狙う先は相手の背中だ。決まっているではないか」

 

「「「・・・・・・・・・(゚Д゚)」」」

 

「なんだ三人とも、その顔は。私はただ、コトミネキレイが来たとしても問答無用で私を呼び出し、問答無用で魔術師殺しらしい手法で戦って殺せと言ってるだけだぞ? 何かおかしなことを言ったか私は?

 ・・・おーい、貴様ら返事しろー。今度の無視はちょっと王様的に傷ついてきてるぞー?」

 

「「「・・・・・・・・・・・・・・・(゜Д゜)」」」

 

つづく

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