もしも切嗣が喚んだセイバーがオルタ化してたら 作:ひきがやもとまち
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――時系列は僅かばかり過去へと遡る。
具体的には、セイバーがランサーと連合を組んで、キャスター率いる怪魔の軍勢と戦い始める少し前のアインツベルン城のホールでアイリスフィールと切嗣と舞弥が水晶玉に映る映像で戦況を見守っていた時点にである。
「そんな・・・どうして、こんな非道いことを・・・ッ!?」
水晶球に映し出された、蛇に寄生させられ無残な姿となった左右に切り裂かれた子供の死体を見つめ、アイリスフィールは両手で口を押さえながら目を見開き呻いていた。
一瞬前までは、子供を助けに行くように命じたセイバーが逆に子供の命を刈り取ったことに「なぜ?なんで?」という疑問符を繰り返していたことを鑑みれば身勝手にも映る態度ではあったが・・・切嗣にはそんな妻の心情を理解できる以上に“自らも過去に経験した姿”であるのも影響して注意する気にはなれず、言ったのは別のことだった。
「アイリ・・・、君は魔術師というものの中に潜む真の醜悪さについて、まだ教えられていなかったんだね・・・。ならアレを見て嘆き悲しみ動転してしまうのも無理はない」
普段とは真逆に切嗣はアイリを、優しく子供をあやすかのように慰めの言葉と現実についての説明を具体的に行ってやることにした。
そうしなければ今後の戦いでより以上にショッキングな光景で彼女が傷つく可能性を恐れた故である。
――ただし、表現と言い方には気をつけようと強く思いもした。
なにしろアイリは、万年雪に閉ざされたアインツベルン城で千年近くの間ひきこもってる魔術師一族が生み出して育てたホムンクルスの娘なのだ。
聖杯戦争に参加するため生まれて初めて城から出られた、真性の【箱入りお嬢様】なのである。教えられた事と本で得た知識以外で現実なんてほとんど知ってないのが当たり前な超箱庭育ちの娘さんなのである。
しかも彼女を育てた魔術の名門アインツベルンは、聖杯の成就という悲願に取り憑かれ、ステンドグラスに描かせるほど自分たちの祖先が産みだした聖杯を神聖視している節すらある。
狂信者とか妄信的な右翼テロリストとか言う連中が、自分たちの手駒に使うため育てていただけの子供に都合のいい現実以外を教えていたケースなど、切嗣は今まで出会ってきた悪辣外道どもの中で一人も知らない。
今回のキャスターと同様に、アインツベルンが例外である理由も特にはない以上、まぁ常識的に考えて【アインツベルンの聖杯】としての機能を阻害するような情報は何一つ教えてもらってないと見るのが妥当だろう。
「いいかいアイリ、魔術師の家系なんてものは基本的に性格が悪いのがデフォルトなんだよ。このキャスターと同じようにね。
他人が苦しんでるのを見れば唇がほころび、くだらない理由で鬱屈した他人が道を外れるところを目にすると快感に覚えてしまう。
生まれつきそういう連中が、やたらと多いのが魔術師ってヒトデナシ連中に共通する特徴なのさ。一部の例外を除いて大方の俗物魔術師なんて、そんなものなんだよアイリ」
「・・・・・・・・・」
夫の説明に思わず「ポカーン」となるアイリスフィール。突然のカミングアウトに水晶玉に映し出される映像にランサーが追加されているのにも気づかぬまま、今まで教えられてきた「魔術師らしい在り方」とのギャップ差に混乱を来し、ランサーは放置。・・・所詮は女運のない幸運値最低サーヴァントさ・・・。
「特にこのキャスターは、僕が今まで殺してきた外道魔術師たちに一番よくいたタイプだ。他人の不幸を食い物にして、人の命を奪い弄ぶことでしか生の実感を味わえなくなってしまった、墜ちた求道者タイプの魔術師だよ。
根源を目指す過程で、最初は純朴だった男たちがそういう風に墜ちていく様を幾度も見てきた僕には分かる。
最初は手段だった人殺しが愉悦に変わって、品性そのものが劣化し、隠しようもないほど表に現れているからね」
「・・・・・・」
「なによりサーヴァントって言うのは、過去の人類史で名をはせた英雄だろ? その中で魔術師として名を残したヤツなら尚更だ。
古来から権力の巨大さと権力者の卑小さとの間に空洞部が生じたときには、暴虐と淫乱と驕奢によって埋められるのが常だったからね。
しかも、そういうヤツに限って自分のおこないを芸術みたいに褒め称えたがる割に、思考と行動には独創性を欠いているのが歴史上では毎度のパターンだ。単一の個性がクローンされて異なる時代にばらまかれるような感じで、似たり寄ったりのことしかしない。ネロやカリギュラなんかがいい例だろう?
だから別にアインツベルンだけが特別きみに嘘を教えてきたって訳じゃないから、あまり気に病むことはないんだよ、アイリ」
「・・・・・・・・・・・・」
敵を前に臨戦態勢を取っていた夫の顔が、アイリスフィールに向けて一瞬だけ綻んだように気を遣わせてしまいながら、愛された妻としては返事に困ることしかできなかった。
(いや、あの・・・そういう問題で衝撃を受けてた訳じゃないんだけどね、キリツグ・・・?)
そう思って、どう返事していいかで悩んでしまう心優しき慈愛に満ちた良妻賢母アイリスフィール・フォン・アインツベルン。
なまじ聖杯戦争に勝ち残るため戦場で血生臭い日常を送ってきた頃に心が戻ってしまってる今の切嗣は、敵の長所を弱点と捉えて罠におびき寄せて仕留める【魔術師殺し】に心と常識と良識が戻ってしまっており、表現に気遣って加減しながら言った言葉が普通人からすれば全然配慮が足りてないものだという認識が致命的なまでに欠如している状態にあったのである。極端すぎる歴史認識を用いた慰めの言葉は、そのためだ。
元より彼は歴史が特別好きだったわけでもなく、考古学者を目指した過去は一瞬たりとも存在しない。敵が魔術師で、魔術は過去へと至る技術であることから伝統や歴史を知っておいた方が【魔術師殺し】として殺しやすかったから学んだ。それだけである。
ネロやカリギュラについても、敵サーヴァントとして喚ばれてた時への対処法を考えるために学んだだけであって、其れが真実の歴史か否かなどどうでもよく『人々の認識が作り出す英雄が具現化して現れるのがサーヴァントだから一般認知されてる分だけ知っとけばいい』――という方針で軽く弱点になりそうな部分だけ勉強した程度なのである。そんな人物が歴史知識使って他人を慰める言葉をかけたら、こうもなるだろうよ普通に考えて。
「え~とぉ・・・・・・」
「・・・・・・(はぁ・・・)」
今回ばかりは夫をフォローできない愛妻と、女心に徹底的すぎるほど無頓着だった頃の切嗣に戻してしまったことを軽く後悔している愛人・・・と言うか、肉体関係だけのセックスフレンドみたいな美女。
「それよりも他のマスターが森に入ってきた反応がないか、意識をそらさず見張っていて欲しい。僕と同じ事を考える奴だっているだろうからね。
敵の反応を関知したら舞弥を護衛につけて、君には一刻も早く城から逃げて安全な場所まで避難してもらう必要がある。セイバーが離れた場所で戦っている以上、この城はサーヴァント相手には決して安全ではなくなっているのだから」
そんな彼女らに『肉体面での安全を気遣った言葉』を投げかけながら、相手の女たちに心と体で溜息を吐かれてしまっていた、丁度そのとき。
――アイリスフィールの魔術回路に新たな疼きが走り抜け、森の結界の破壊によって敵の侵入をフィードバックでの知らせを受けたのは・・・・・・。
「・・・・・・どうした? アイリ」
「切嗣、あなたの目論見通りよ。どうやら新手がやってきたみたい」
「フンッ。アインツベルンの術式がこの程度のものならば、城の備えとて高が知れているな。
ならばランサー如きの手を借りるまでもなく、私一人で敵城を落とし、この城を乗っ取って愛するソラウへ贈るプレゼントの花束代わりに添えてやるとしようではないか・・・・・・」
森へと侵入し、結界をたやすく踏破しながら城へと向かってまっすぐ進撃してくる敵の名はケイネス・エルメロイ・アーチボルト。
ランサーのマスターであり、時計塔から選出された天才にして神童と呼ばれる男。
偶然にもキャスターを補足し、追尾していた先のアインツベルン城を覆う結界内の森でセイバーとキャスターが戦闘を開始する場面に居合わせる幸運を得た彼は、これを天恵と信じて漁夫の利を掠め取るためランサーをセイバーに向かわせ時間稼ぎを命じ、その隙にマスター同士の一騎打ちによって敵マスターを討ち取る一石二鳥の策を思いついて実行に移したのである。
大胆な挑戦ではあったが、ケイネスには揺るがぬ自信が存在していた。
アインツベルンが如何な防備で待ち構えていようとも打ち破ってみせんとする覚悟と自信が、彼ら名門魔術師一族の強さの秘訣であると同時に【神童エルメロイ】が誇りとする矜持の所以であったのだから!!
・・・・・・彼が後に義妹から『魔術師としては一流でも、戦士としては二流』と酷評されてしまうのは、こういう部分が原因であったのかも知れない。
少なくとも、もし彼が召喚したサーヴァントがランサー ディルムッド・オディナではなく、セイバー アルトリア・ペンドラゴン・オルタだった場合にはこのような言葉で罵倒されていたことは明白だったであろうから・・・・・・。
『偶然手に入れた幸運を利用し漁夫の利を得て、何も失わないまま自らの力と自信だけを元手に一石二鳥という考え方こそ、貧乏人の発想なのだ。
要はただの、火事場泥棒に過ぎないではないか。その程度の覚悟と自信しか持ち合わせていない半端者が勝てる相手など、自分より弱い敵だけだ。
強敵を相手に勝ちを得るため知勇を振り絞り、命をかけて全力で戦う覚悟もなきケツの青い新兵は戦場に来るな! 足手まといだ! 1から見習いとして学び直してから出直してこい!!』
―――と。
「アーチボルト家九代目頭首、ケイネス・エルメロイがここに推参仕る! アインツベルンの魔術師よ! 求める聖杯に命と誇りを賭して、いざ尋常に立ち会うがいい!!」
「・・・城の正門から攻め込んできての正面突破。正々堂々とした王道の城攻めだな。実に騎士道精神にあふれた王侯貴族様らしい戦い方だ。――結構なことじゃないか。
僕の最も得意としてきた狩りの獲物だ。殺し慣れてきた典型パターンの魔術師らしい魔術師だ。これなら勝てる。
隠れ潜むしか能がない暗殺者の僕に相応しいターゲットが罠にかかった今、生きて返してやる理由はどこにもない!
さぁ・・・・・・【魔術師殺し】がおこなう狩りの時間だ!!!」
――騎士道を尊ぶマスターと、合理性を優先するマスターとが一対一での対決を開始していたのと同じ頃。
その場から少し離れた森の中で彼らのサーヴァントである、騎士道を尊ぶ槍兵の騎士と、合理性を優先して黒く染まった騎士王とが連合を組んで怪魔の軍勢と戦を繰り広げていたのは運命の皮肉か、はたまた泥にまみれた聖杯の嫌がらせであったのか。其れは分からない。
分からないが、分かることも一つだけある。
・・・今の自分たちが置かれた現状が芳しくないという戦況分析だけは、ハッキリと分かり切っているのだから・・・
「・・・ここまで埒があかんとなると、呆れるを通り越して驚きだな」
「・・・・・・」
未だ疲弊の色を見せぬまま、流石に声だけは苦々しくならざるを得なくなったランサーがつぶやき、セイバーは無言で剣を振るって敵の一体を打ち倒し返事代わりとする。
勝負はあれから一向に推移していなかった。
あるいは、戦局が膠着状態に陥り泥沼の様相を呈してきたと表現するのが正しかろうか?
怪魔の軍勢は斬っても斬っても数を減じず、斬り殺された味方の死骸が流す血液の中からさえ復活して再生して際限なく損耗した兵力を補充してゆく。
キャスター率いる怪魔の軍勢を一国の軍隊と捉えた場合、物資の補給も人員の補充も気にすることなく数で押し続けることが可能な軍隊という反則的な集団と呼ぶこともできるだろう。
それはまさに『自分の国では畑から兵士が採れる』と嘯いていた当世の国の独裁者でさえ羨望のあまり全身の水分を涎として垂れ流すのは間違いないほど、指導者としては魅力的すぎる能力―――いや、【宝具】と言えた。
「あの魔導書だな。奴はあの宝具でバケモノどもを使役している。我らより後に生まれ、神秘の薄れた時代に魔術で名をはせた英雄が、これほどの回復と補充を可能にする魔力量など持ち合わせている道理がないからな」
「成る程な、そういうことか。・・・だが、あの青瓢箪の手から本を叩き落とそうと思うなら、何はともあれ、この雑魚どもの壁を突破するしかない。
手の内だけ暴いたところで、打つ手がなければ戦局は変えられんと俺は見るが・・・何か策はないか? 騎士王よ。戦上手と呼ばれた貴様の力、剣腕だけではないことを証明してみせるというなら喜んで手を貸すところだぞセイバーよ」
「・・・ならば容易いことだ・・・」
「――え?」
思わず唖然として、にじり寄ってくる海魔の群れに悠然と歩を進めだした黒き騎士王の背中を見送ってしまうランサー ディルムッド。
・・・騎士道物語の定番として名高い『アーサー王伝説』であるが、実際のところアーサー王が生きたとされる時代の紀元四世紀頃に騎士道などという概念は存在してはいなかった。
騎士が馬に乗って敵と戦っていた時代において、彼らはただの暴力者でしかなく、日本の武士道と同じように、高い精神性が尊ばれる人の上に立つ者のたしなみとして騎士道が定着するのは実際に彼らが戦わなくなった中世中期以降からなのだ。
だが、騎士王アーサーも、フィオナ騎士団のディルムット・オディナも生きていたとされる時代に実在した人間ではない。
後世において物語の登場人物として作り出された存在を、一般に認知された騎士道の体現者としてのイメージを依り代にして仮初めの肉体を構築して現界させた英霊を基点とするサーヴァントである。
人々が彼らに抱くイメージが『正々堂々とした騎士道を尊ぶ騎士らしい騎士』である以上、彼らはたとえ自分たちの生きた時代に存在しない概念であろうとも騎士道を尊び、キャスターのような下郎が相手であろうとも正々堂々とした戦い方を選ばざるを得ない。
だが、それでは邪道を得意とする下郎を相手にするには不利になり易いのだ。それは今の彼らが置かれた窮状によって実証してしまっている。
騎士道を尊ぶサーヴァントが相手をするには相性の悪い敵なのである。キャスターは。
“本来ならば”
「何をボソボソと囁いているのです? さては末期の祈りですかな?」
その姿を見たキャスターは逆に、あざ笑いと侮蔑の声を投げかけてくる。
余裕綽々と、何重にも布いた怪魔の軍勢に守られながらキャスターは、敵の剣が届かぬ安全圏から観客のようにセイバーとランサーを見下す視線で眺めてきている。
絶対安全な王城から一歩も動かず軍勢を指揮し、上から目線で愚民どもを見下ろす支配者の視点。
――まさに彼の生きていた時代における王侯貴族の在り方そのものと言える、堕落しきった騎士階級の成れの果てが体現されていた。
彼ら貴族も基をたどればセイバーたちと同じ、敵と戦って国を守る騎士だった者たちの子孫である。
やがて平和な時代になり、騎士が敵と戦い命がけで国を守る本来の役割を果たさずに済むようになると、騎士たちは民を守る者から支配する者へと有り様を変えていく。
馬に乗って敵と戦う騎士ではなく、領地にある居城から指揮棒を振って戦争を指揮する支配者階級としての騎士――『貴族』たちの時代が始まりを迎えることになる・・・・・・。
支配者としての騎士階級『貴族』は、騎士として本来の役割を果たさなくなったからこそ、実際に敵と戦い国を守り抜いた先祖たちの活躍を美談として綺麗に磨き上げ、自分たちが物語に綴られているような『人々のために戦う誇り高い騎士』であり続けているかのように見せかけて支配の口実に利用しようとした。
そのために生み出された支配のための道具。
それが『騎士道という名の概念』だった。
キャスターとセイバー・オルタは同じように敵と戦って国を守る騎士としての先祖を持つ支配者階層でありながら、途中で道を違えた不肖の子孫と、先祖からの伝統を変わらず受け継いでいる古い世代という時代差の違いを象徴する存在でもあったわけである。
「さあ、恐怖なさい。絶望なさい! 武功だけで覆せる“数の差”には限度というものがある。ウフフ、屈辱的でしょう? 栄えもなければ誉れもない魑魅たちに、押し潰され、窒息して果てるのです! 英雄にとってこれほどの恥はありますまい!」
「ハハハハハハハハッ!!!」
勝ち誇ったキャスターからの侮蔑の言葉を聞いたセイバー・オルタが突然、大声で笑い声を上げる。
訝しげに彼女を見つめるキャスターに対し、セイバー・オルタはくつくつと笑いながら、哀れむような視線で、蔑むような視線でキャスターを“見下す”。
「英雄というのはな、キャスターよ。その者の過去の功績に対して公衆から与えられる称号のことなのだ。自らなろうとするものでもないし、ましてやなりたいと思ってなれるものでもない。
自分では其れを英雄的な偉業だと信じ込んで突っ走ったところで、他人が認めてくれるとは限らない。魑魅を片付けるゴミ処理作業に誉れがあるかないかを貴様や我々その場にいる当事者たちに決める権利などありはしない。それが英雄というものだジル・ド・レェ将軍。
貴様の言っていることは筋違いの道化でしかなく、王族という名の支配者階層が作り出した幻想上の絵物語を真実だと規定して分かったような口を利いている子供の戯言に過ぎん。論ずるに足りん」
「・・・・・・・・・」
「そんなに認めて欲しかったのか? ジル・ド・レェ伯爵よ。自分たちのやったことは意味があったのだと。国から正式に認められ、王族から勲章と共に英雄として迎えられる姿でも幻視し続け、夢破れたのがそんなに辛かったのか?
だとしたら貴様が救済すべきなのは、どう考えてもジャンヌ・ダルクではないなぁ~? そうは思わないか? 地獄の底であがき苦しみ、一人きりで泣き叫んでいる哀れな幼子ジル坊や・・・」
「!!! お、おおおおお墜ちよ! その麗しき顔を悲痛に歪ませ我が前に晒すのだ聖処女よ! そうすれば私は! 私は! 私はァァァァァァァァァァッ!!!!」
半狂乱になりながら吼え猛り、魔導書に命じて全ての怪魔たちにセイバー・オルタめがけて一斉に襲いかかるよう指示を出す。
これにより、ランサーの快速を持ってすれば十分に肉薄できるだけの隙は生じてくれたが、まだ足りない。
ただの挑発台詞だけで完全に意識がセイバー・オルタに集中して、敵の急速接近よりも優先してくれると信じ込めるほど彼はキャスターを見くびっていない。
アレでも一応は元元帥であり、軍事的英雄なのだ。戦場の空気を読む鼻の良さはバカにできないものを持っている。多少の不利ならともかく、劣勢が訪れる潮目の変わり時を見誤ってくれるとは到底思えない。
――だから意識をバラけさせるため、こうして、もう一手間加えてやる必要があるんだよ!
「あああアァァァァァッ!! ジャンヌよぉぉッ!! 今度こそ私があなたを救済して差し上げましょぉぉぉぉぉぉうぅぅぅぅぅ!!!」
襲いかかってくる怪魔の群れを避けようともせず、無防備のままボーッと突っ立って迎え撃とうとしているかに見えるセイバー・オルタの愚行に対してキャスターが勝利を確信して勝ち鬨を上げた、その次の瞬間。
「うおらぁぁぁぁぁぁぁッッ!!!
行ってこ―――――――――ッい!!!!」
ブォン!!!と、大きく叫んで音を立てながらキャスターめがけて、ブン投げた。
右手に持ってたエクスカリバー・モルガーンを。
黒く染まった伝説の聖剣を。
サーヴァントにとって切り札となり得る、自分の逸話が具現化された誇りの所以を。
勝ち誇って、安全だと思い込んでる城壁の一番奥でボーッと突っ立ってるキャスターに当ててやるため投擲して、ブン投げてやった。
アーサー王伝説で一番重要な代物をコイツ、野球ボールみたいに敵に当てるために投げつけやがったぁぁぁぁぁぁぁっ!?
「これぞ名付けて、【エクスカリバー・モルガーン・デッドボ―――――ッッル】!!!」
しかも確信犯だったぁぁぁぁぁぁぁっ!?
「ちょ、ま・・・・・・っ!? ギャァァァァァァァァッ!!!???」
悲鳴上げて逃げ出すしかなくなるキャスター。怪魔に命じて肉の壁代わりに使い捨てたところで、宝具相手にどれほどの効果があるというのか? とにかく今は逃げるしかない!
・・・前述したとおり、アーサー王は物語の登場人物であるが故に、自分の時代には存在しなかった騎士道を尊ばなければいけない設定上の縛りを課された存在である。
だが逆に、セイバー・オルタこと反転して黒く染まったアルトリア・ペンドラゴンは『国を守るために騎士道ではなく合理主義を選んだ暴君』という設定が付与されたことで生み出された物語上のIF的存在だ。
自分の生きていたとされる時代には存在しなかった騎士道とかいう、馬に乗った騎士が実際に戦わなくなってから台頭してきた後世の概念に縛られる必要性を持たされていない。
要するに、自分たちが活躍していた本物の騎士時代の戦い方――ただの暴力者としてのやり方で敵を殺ってしまって全然まったく問題ない存在ということで。
とゆーわけだから、キルユ~♪
「今だ! ランサ―――ッ!!!! 魔導書にゲイ・ジャルグを突き刺せ――ッ!!!!」
「お、おう! 了解した!」
「なにっ!? しまった! 私としたことがぁぁぁぁっ!?」
そして、宝具【エクスカリバー・モルガーン・デッドボール】を避けるため全力で横に逃げて隙だらけになったジル・ド・レェを追撃させるため大声で叫んでランサーに指示を出すセイバー・オルタ。
慌てながらも急速接近し、右手に持った真紅の魔槍を憎むべき下郎に突き立てるため前に突き出すディルムッド・オディナ。
間合いは完璧。必殺の距離だ。余人ならいざ知らず、フィオナ騎士団の一番槍が仕留め損なう距離では絶対にない。
当然だ。彼はランサークラスでありサーヴァント中最速の敏捷性で距離を詰め、ゲイ・ジャルグの一刺しでキャスターか魔導書のどちらかは確実に無力化できるだけの技量とクラス補正を保持していたのだから。
「少々心苦しい勝ち方だが・・・これも貴様の外道さが招いた末路。自業自得と思って受け入れるがいいキャスターよ!
いざ、覚悟! 獲ったり、キャスターっ!!!」
「ひぃぃッ!?」
…しかし彼はセイバー・オルタと違って反転していない。
正規の召喚手順を踏んで普通に召喚された、騎士道物語の登場人物ディルムッド・オディナとして現界している正規サーヴァントなのである。
ついでに言えば彼のマスターは変なところで騎士道バカの神童ケイネス・エルメロイだ。
サーヴァントが召喚したマスターの影響を少なからず受けてしまうのが英霊召喚システムの仕様である以上、こんな騙し討ち同然のやり方で全力を出すことは彼には不可能だった。
「抉れ! 『ゲイ・ジャルグ』ッ!!!」
「ぐひぃぃひぃぃひぃッ!?」
唸りを上げて迫る必殺の真紅の穿孔。
だが、その次の瞬間。セイバーがオルタ化している平行世界だけのキャスターが使用できる特殊スキル『ゴキブリ歩行回避機動』を使って逃げ回り出すことは彼の美学に基づく計算には含まれていなかった。
人間とは思考回路が違いすぎる虫のごとき動き方で逃げ回り出したときのジル・ド・レェはキャスタークラスの癖してセイバーの剣戟から逃げまくって生き延びた実績を持つ必殺の逃げ回り方である。
「ひぃぃぃぃやぁぁぁぁぁぁッッ!?」
「なにッ!?」
案の定、騎士道に恥じる行為にためらいのあるランサーの放った、必殺の意思に欠ける必殺の魔槍は敵にとどめを刺すこと叶わず、それどころか魔導書さえも空振りして体の一部に手傷を負わせたに留まることになる。
そして―――其れで十分すぎる戦果となった。
「よくやったランサー! 後のとどめは私に任せるがいい!!!!」
『『な、なにィッ!?』』
いきなり横合いから轟く少女の声!!
そこにいたのは―――セイバー・オルタ!!!
敵の注意が自らの投げた黒い聖剣とランサーと、その二つから逃げ延びることに分散されて、自分が完全に意識野の死角になったことを確信しながら、魔導書から魔力を供給されてるだけで指揮官からの指示は来なくなった怪魔の群れを派手な音を立てないよう回避と移動を繰り返しながら接近し、今この時の敵が隙だらけになり手傷も負って逃げようがない状況に追い込まれるのを今か今かと待ち望み続けた甲斐があったと言うものである!!!
セイバーの手に剣はない。
全力で投擲した聖剣を拾いに行ったのでは時間がかかりすぎる。
かと言ってセイバー・オルタにはランサーと異なり、一撃で相手の魔力供給を切断できる呪いの付与された特殊系スキルや宝具の持ち合わせもない。
だが、問題はない。
要は敵が魔導書を使えない状態にまで追い込んでしまえばよく、其れが呪いの魔槍であろうと、『筋力A』で馬鹿力のステータスを持つ自分が全力右ストレートで抵抗する気も起きないぐらい痛い思いをさせてやることだろうと大した違いはないのだから。
だからこそ問題ない。
今現在、キャスターが振り返った目の前でセイバー・オルタが物凄くいい顔しながら大きく右手を振りかぶって、力一杯自分の顔面を殴りつけようと笑っていたとしても全く一切問題はないのである。
キャスターだけには問題が起きるかも知れないが、一人だけなら端数である。全体のために少数を切り捨てることを由とした暴君である黒く染まったアーサー王の価値観的には切り捨ててしまって一切全く問題はない。
「ちょっ!? これ卑怯すぎませんかジャンヌ!? やめてください! あなたはこの様に卑劣な手段を使う人ではなかった! コンピエーニュの丘を思い出すのです! あの時あの戦場であなたは我々に向かってこう言いました!『主は我々を―――」
「知らんな! あいにく今の私は騎士でも王でもなくサーヴァントだからな! 主に仕える臣下にとって戦は勝たねば何の意味もない! 私個人の武名など守って死んだのでは無能もいいところでしかない!」
「そ、そそそそんなバカなぁッ!? 目を覚ますのですジャンヌ! あなたはフランスを救った救国の聖処じょ――――」
「私を死に追いやった世界で一番気にくわない外道なバカ息子のやり方で死ね!
文句は先に地獄で待ってるバカ息子にでも逝って来ぉぉぉぉぉぉぉぉッッい!!!!!」
バコォォォォォォォッン!!!!!!
「ぐへはへほへはべぶべらべらァァァァァァァッッ!!!!!????」
セイバー・オルタの馬鹿力で殴り飛ばされた『耐久E』のキャスターは、事実上Cランク相当の鈍器系宝具をぶち込まれたのと同等かそこらのダメージ食らって吹っ飛んでいき。
主が戦闘継続不可能になったことを証明するかのように、周囲にバラけていた怪魔たちも次々と魔力供給が絶たれて爆発四散していった。
魔導書が動力路を兼ねているとは言え、軍勢として率いている以上、指揮官に戦争を指揮している自覚がないのでは話にならず、その点で『カリスマB:軍団を指揮する天性の才能』を持つセイバー・オルタ相手に勝てる道理は些かもなし。
「愚かだな、キャスターよ。実に愚かだ・・・。数的に劣勢な軍が、大軍相手に勝利するには奇襲と騙し討ちが基本であることを忘れたか?
なにより貴様は孤軍だ。大軍を生み出せるだけで、貴様自身がいなければ維持できない軍隊。たった一人の王に寄りかからねば存続できない一塊の群れでしかない。
大軍であるが故に雑兵はいくら倒れても補充が利くが、大将一人が倒れた瞬間に全てが終わる。その現実を鑑みれば、今少し距離の離れた最後方の安全圏から指揮すべきだったなキャスターよ。
敵がいたぶられる姿を見物するためノコノコ前線まで出張ってきてしまった指揮官としての貴様の甘さが最大の敗因だ。用兵の基本を学び直してから出直してくるがいい、フランス軍の元帥殿よ」
・・・こうして、夜のアインツベルンの森第一回戦はセイバー・ランサー連合の勝利で幕を閉じた。
しかし、この直後に勃発する短い蜜月の時間の終わりを今の彼らはまだ知らない・・・。
「ば、馬鹿・・・な・・・ッ!? ぐへほへはぁあああっ!! あああァァァっ!?
・・・・・・ガクッ」
「・・・終わりだな、ケイネス・エルメロイ・アーチボルト。捨て置けばいずれ絶命するだろうが、倒した相手には確実にとどめを刺すのが僕の流儀だ。悪く思うなら、自分の傲慢さと思い上がりにでも思っておいてくれ・・・」
《起源弾》により決着の付いた切嗣とケイネスとの戦い。
そして切嗣が敵にとどめを刺すため、確実に相手を殺せるよう至近距離から頭に一発撃ち込むために、彼が生ける屍となったケイネスへと歩み寄ろうとしていた。
この《歩み》こそが、この夜の戦闘を思わぬ方向に引きずり込んでしまうことを、この時点で知る者は誰一人いるはずもない・・・・・・
つづく
オマケ『次回予告のようなネタバレ』
オルタ「いや、歩いて近づいてないでさっさととどめ刺せよ!? 乱射して数撃てば一発ぐらい当たるだろう!?」
切嗣「う、ぐ・・・。し、しかしなセイバーよ。お前がちゃんとランサーを足止めしてさえいてくれたら僕は安心して敵にとどめを刺せたんだからな?」
オルタ「アホか!? 向こうは7騎中最速の敏捷性A+ランサーで霊体化可能で、こっちは若干遅くて敏捷性Aの霊体化不可能セイバークラスだ! 本気で走り出されたら追いつけるか! そういう策はセイバーじゃなくライダーとして召喚したときのステータスを前提に考えておけぇぇぇぇっい!!!!」
切嗣「む、むぅ・・・・・・」
オマケ2『アーサー・オルタさんとディルムッド君のキャスター戦後』
オルタ「ふぅ~。外道を、外道が使っていたやり方で倒すのは気分がいい・・・。やはり英雄には英雄の、騎士には騎士の、外道には外道の殺し方と遇し方があって然るべきだ。大罪人を処刑するときに正々堂々と騎士道を、などと言い出すキチガイにはなりたくないものだとは思わんかランサーよ?」
ディル「うぐ・・・。そ、そうだな騎士王よ。言ってることは結構まともだとは俺も思っているぞ? だがしかし、この国には『一寸の虫にも五分の魂』という素晴らしい諺があるらしくてな?」
オルタ「虫は虫だ、虫でいい。この国ならいざ知らず、私の支配したブリタニアに人の皮を被って人のフリをする虫ケラを保護する法など存在しなかったし、させる気も私にはなかった。魂がどうあろうと生き方が下劣なら、ソイツは虫だ。虫ケラでいい」
ディル「うぐ・・・そ、そうか・・・(は、反論しづらいタイプの暴君意見で少し困るな・・・)」
注:キャスターはまだ生きてます。次回に原作通りのやり方で撤退。
そうなった理由は切嗣さんがケイネスにとどめ刺すまで時間かかったのが原因です。