もしも切嗣が喚んだセイバーがオルタ化してたら   作:ひきがやもとまち

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色々な方からご指摘を受け、私自身も最初に時点から記憶違いの知識である可能性に疑念を持ちながら書いていたのもありましたので今話は書き直させていただくことになりました。申し訳ございません。

書き直した後の話は原作準拠となる予定です、もともと今話の展開が先にあった故の内容でしたから。
なお、今話そのものは書き直しが終わるまでの間の暇つぶし用に残しておきますので『バカバカしい番外編』とでも解釈しておいていただけるとありがたく思います。


ACT14(ボツ案・書き直し前の状態)

「ランサー、どうかしたのか? なにやら先程から心ここに在らずなようだが・・・」

 

 逃げ出したキャスターを追おうともせず、ただアインツベルン城がある方角を見つめて立ち尽くしたままのランサーに、セイバー・オルタは多少の気遣いを込めて問いを投げかけた。

 少なくとも“あの”キャスターよりかはランサーの方が好ましい人柄をしていたし、与しやすさでも圧倒的に上だろう。便利だからこそ好きになる思考を暴君である彼女は悪いと思ったことがない。

 王とは臣下にとって恐怖と畏敬の対象であればそれでよく、好意や友情の対象になる必要は必ずしもない。――それがマキャベリズムにおける統治者の基本であることを、中世期に生きて死んだセイバー・オルタは知らないながらも体験から得た経験則で熟知していたからである。

 

「我が主が危機に瀕している・・・どうやら、俺を残してそちらの本丸に切り込んだらしい」

「そうか・・・」

 

 言いにくそうに告白するランサーに、セイバー・オルタもやや苦い表情で返事を返す。

 そして――

 

「・・・ならば貴様には悪いが、私は貴様をここから通すわけにはいかなくなってしまったわけだな・・・」

 

 ランサーとアインツベルン城との間に割り込んで構えをとって見せた黒い騎士王に、ランサーもまた苦い顔のまま苦い声で返事をするしかない。

 

「・・・やはり、貴様が相手であっても、こうするしか他に道はないのだな。騎士王よ・・・」

「言うな、ランサー。もとより今の我らは騎士でもなければ王でもなく、ただのサーヴァントに過ぎぬ奴原。まして此度の戦は、我ら自身の栄誉を競うためのものでもない。お前とて、この時代の主のために槍を捧げる覚悟と決意はとうに済ませた上で召喚に応じたはずだ。違うか?」

「・・・それは・・・」

「まして貴様のマスターは、単身で敵の本陣へと切り込み、我が今生の主と一騎打ちをしているというではないか。立派な勇者の所業だ。

 仕える主君が自ら望んだ私の主との一騎打ち。それを臣下の都合で邪魔してよいものでは決してない。私はそう考えるが貴様は如何に?」

「・・・・・・」

 

 ランサーは黙ったまま答えようとしない。

 相手の言っている言葉は全うで正しいものだったからである。騎士道に悖る行為でもなければ、卑怯卑劣な裏切りというわけでもない。

 むしろ、先の戦闘で得意の得物である聖剣を投擲し、無手の状態でありながら徒手空拳でも主が手にした勝利を守ろうとする決意に満ちたその表情には、騎士道の祖として称えられるに相応しい決意と覚悟と満ちており、窮地にある自分が思わず見入ってしまいそうになる意志の強さが感じられるほどに。

 

 

 

 ・・・一応ではあったけども、ランサーの想いは間違った解釈ではない。

 少なくとも、セイバー・オルタは嘘を言った覚えはない。ブリテンの王としての名に誓って、心にもない嘘だけは一言も言っていないのである。

 

 強いてあげれば、御三家の一家アインツベルンの姫君であるアイリスフィールをセイバーのマスターだと勘違いしたままのランサーに、本当のマスターは【魔術師殺し】の衛宮切嗣だという真相を教えていない事があるが、別段これとて嘘を吐いているわけではない。知ってはいるけど聞かれていないことを自分からベラベラ語らないことは嘘を吐いているとは言わないはずだ。

 

(――詭弁ではあるがな!!)

 

 慣れない徒手空拳心で構えをとりながら、心の中だけでセイバー・オルタは断言した。厳正なる法による統治を是とした暴君としてのギリギリ譲れない如実に表れていたとも言えるだろう。

 

 実際、セイバー・オルタは決意と覚悟を込めて構えねばならないほどに余裕がなかった。

 何しろ相手はサーヴァント中最速のランサークラスで、軽装の槍兵で霊体化可能で、しかもリーチの長い槍を二本も持っている。

 

 対する自分は、如何に【敏捷A】を持つ最優のセイバークラスとはいえ、重装備剣士のサーヴァントであり、馬に乗ってない騎士の英霊であり、霊体化不可能で想い甲冑姿な上に、しかも今手元に剣がない。さっきの戦闘で思いっきり投げてどこ行ったか探して拾いに行かないと素手のままだ。

 

 こんな状態でランサークラスを足止めしなきゃならんのだから、そりゃ決意も覚悟もせざるを得まい。ハッキリ言って、一瞬でも横をすり抜けられてしまった後に追いつける自信は皆無なセイバー・オルタである。

 行かせたくないなら立ち塞がって、今この場から一歩も先へ進ませない以外には他に選択肢が存在していない。クラス的な能力差が原因で。

 

(・・・おのれ! なぜ私を喚ぶときクラスをもっと慎重に選んでくれなかったのだマスターよ!)

 

 なんか色々と本来の時間軸と異なること考えてしまってるセイバー陣営であったが、とにかく今必要なのは時間稼ぎである。一分一秒でも長くこの場にランサーを足止めしないとマスターがヤバい。追い抜かれると追いつけないから、敵マスターを殺した直後にランサーが着いてしまった場合、最悪令呪を使った瞬間に殺されてしまいかねない。

 

 セイバー・オルタは意外と今、必死の覚悟でランサーの前に立ち塞がっていたのだった。

 

 

「私のマスターは、貴様のマスターを一人で迎え撃ち、そして勝利を収めた。ならば私はマスターを守る盾として、敵を倒す剣として、主の勝利を守り抜くのみ。

 だからランサーよ、貴様も敵のマスターとして忠義を示せ。見事私を突破し、主の窮地を救いに行って見せろ。敵の臣下に情けをかけてもらわなければ主を救うこともできぬ無能な臣下など、勇者に仕える者として相応しくない・・・」

「貴様の言うとおりだ、騎士王よ・・・確かにこの場は俺が自らの力と槍で押し通らなければならぬ場面。忠告、痛み入る。そして、忝い。言葉に甘えて参らせていただく!」

「来い、ランサーよ・・・(来るなっ! もっとゆっくり語り合っていけ! 来ると抜かれる!)」

「元より我らは英雄! 人類史に名を残し、不滅の栄光を刻みし者たち! この程度の劣勢、この程度の勢力差。食らい尽くせずして誰が英雄を名乗れるものか!!

 征くぞ!! デヤァァァァァァァッッ!!!!!」

「ぐ・・・うおおおおおおおッ!!!!!」

 

 

 こうして、夜のアインベルンの森を舞台に再び死闘の幕が切って落とされる。

 勘違いに満ちた想いと想いのぶつかり合いではあったものの、互いに己の心に嘘偽りはなく、想いは純粋無垢な者同士。

 ただ認識と知識を共有しておらず、主観でのみ判断している人間らしい選択と判断を選び合っただけな二騎のぶつかり合いが始まろうとしていた。

 

 

 

 

 ――そして、再び時間は逆行する。

 今度の時間移動の旅は、セイバーとランサーが連合を組んでキャスターと戦い始めてから少したった頃合いにして、切嗣がケイネスを罠にはめるためアインツベルン城の中を逃げ回っていた時分に、セイバーたちがいる場所とは真逆の方角へ向かって走っている二人の美女たちが主役となっていた。

 

 

「セイバー・・・・・・」

 

 夫に避難するよう指示されて逃げる途中だったアイリスフィールは、不安げに揺れる瞳で自分が脱出してきたアインツベルンの城と、その先の森とを同時に眺めやりながら、頼りになる自らの騎士の名をつぶやいていた。

 

 アイリスフィールが冬木の地に踏み込んで以来、思えば不安に襲われるのは初めてのことだったかもしれない。

 常に彼女の側にはセイバー・オルタがいてくれて、あの小さな体から隠す気もなく発散させていた唯我独尊の絶対的な自信と王としての指導力が、どれほど彼女に安心感を与えてくれていたのかを心の底から実感させられていた。・・・客観的に見て、大部分は勘違いと吊り橋効果だと思うのだけど、本人の主観的にはそうなってるっぽい。

 

 あるいは、今セイバーに代わって彼女に付き従っているのが、切嗣の愛人的存在である久宇舞弥であることが心理面に大きく影響を及ぼしているのかもしれない。

 

 互いに思う相手が同じで、互いに相手の異なる部分について誰より深く知り得る立場にある。・・・これで蟠りが生まれない方が異常事態というべき二人の関係性だろう。

 性別は反転しているが、一人の男に二人の女が異なる形で好意を寄せて関係を持っているのだから、これで一度も揉めずに円満な関係を築いていけるとしたら、聖杯なしでの奇跡成就を宣言しても罰は当たらないと思わなくもないほどに。

 

 まぁ、ハッキリ言ってしまうなら完全無欠に切嗣の人選ミスしてるのが原因なのだけれども。

 愛する妻の護衛役に、愛人だけど信頼できるからと相棒の美女を任命する辺りに切嗣の女心に対する絶望的な理解度の低さと能力優先の判断基準が透けて見えるほどではあったが、今回ばかりは人選ミスが最良の結果を生むことにもつながっていく。

 

「――ッ!?」

「・・・どうかされましたか? マダム」

「・・・新手の侵入者よ。ちょうど私たちが進む先にいる。このままだと鉢合わせするわ」

「それでは迂回しましょう。ここからなら北側に回り込めば安心で――」

「やって来るのは、言峰綺礼よ」

「・・・・・・」

 

 アイリスフィールの説明を受け、久宇舞弥はこの時初めて人間らしい感情の揺らぎによる表情の変化を見せて相手を驚かせた。

 彼女が示した、その感情を見た瞬間にアイリスフィールの心中にあった蟠りは、春の雪解けのごとく綺麗に溶け去り、後には信頼と共感だけが残されることになる。

 

「舞弥さん、あなたが切嗣から受けた命令は、私の安全を確保する事よね」

「はい。でも――」

「でも何? あの男だけは絶対に切嗣の所へ行かせるわけにはいかない、と思うわけ?」

「・・・ッ。マダム、貴女は・・・」

「偶然ね。まったくもって同意見なのよ。私も」

 

 言峰綺礼。【魔術師殺し】衛宮切嗣が第四次聖杯戦争参加者の中で唯一『危険なヤツだ』と評した、おそらくは最強の強敵となるであろう聖堂教会から派遣されてきた“代行者”・・・・・・。

 彼女たちの――“女の直感”が告げている。コイツだけは愛する男の前に立たせるわけにはいかないヤツなのだ!と・・・。

 

「綺礼はここで、私たち二人で食い止める。いいわね? 舞弥さん」

「申し訳ありません。が、お覚悟を願います、マダム」

「いいわよ。私の心配はしなくても。あなたはあなたの勤めを果たして。切嗣からの命令ではなく、あなた自身が必要と思っていることを」

「はい」

 

 衛宮切嗣を思う二人の女が、手に手を取り合って死地へと赴く。

 衛宮切嗣もセイバー・オルタも、ランサーもキャスターもケイネスも、誰もかも気づかぬ内に気づいてない場所において、今夜アインツベルンの森で行われていた数多くの死闘のひとつが人知れず始まろうとしていた。

 

 その事をこの時点で知る者は、戦いを挑むために森の中を進み始めたアイリスフィールと久宇舞弥のみであったことだろう。

 

 

 

 

 

 そしてまた、時間軸は今へと帰還してくる。

 場所はアインツベルン城にある、窓際の廊下。

 

 そこで一人の男が、廊下に倒れたまま動かぬ一人の男を見下ろしている・・・・・・。

 

 

「・・・終わったか」

 

 一息吐いて、右手に持ったキャレコを下ろし。

 先程まで生ける骸も同然であったケイネスの、今はもう“死んでしまった只の死体”になっている細胞の塊を見下ろしながら何の感慨もなく静かにつぶやき捨てていた。

 

 相手の頭部には、一カ所の銃創。一瞬前に彼自身が撃ち込んで止めを刺し終えた証である。如何に代を重ねて強固にした魔術刻印があろうとも、これで生きていられる可能性は0だ。0だからこそ切嗣はこの方法で魔術師に止めを刺すことを流儀としているのだから当然のことでしかない。

 

「思ったよりも、呆気なかったな・・・」

 

 勝者の余裕か、そうもつぶやく。

 勝利自体には何の感慨もいだいていない声音だった。これまでと同様に今回もまた計算通りの結論を過不足なく導き出して勝利した。ただそれだけのことだった。何の感情も抱く余地はどこにもない。

 

「ケイネスが単身で城まで乗り込んできただけで、ランサーが一向に姿を現さないところを見ると、セイバーの奴は一応ランサーを引き留めていると見ていいみたいだな・・・ふん。

 高潔な騎士サマなんて生き物が、僕の戦法に付き合ってくれるなんて思ってもみなかったが、まぁ今回だけは少しぐらい奴に感謝してやっても罰は当たらないかもしれないな――」

 

 そこまで言おうとして、いつも癖でタバコを取り出し口に咥えようとしていた直後のこと。

 切嗣の頭の中に轟音が轟き渡り、一瞬だけ意識が遠のかされることになる・・・。

 

 

『マスターか!? 今どこにいるかは知らんが、とにかく逃げろ! 全力で逃げろ! 全速力で今いる場所からどこでもいいから逃げ出せ! 死ぬぞ!

 殺されたくなったら一秒でも早くその場から逃げ出せぇぇぇぇぇぇぇぇぇッい!!!!』

 

 

 

「・・・・・・」

 

 耳鳴りがキーンとするほど物凄い爆音の避難指示だった。非常ベルを間近で聞かされてもここまでは耳と脳を痛めない自信が切嗣には確かにある。

 それでも一応は今回の功労者の避難指示を無視するわけにはいかなかったので事情を聞こうとしたところ、続く言葉でそれどころではなくなってしまった。

 彼女は切嗣に向かって、こう言ったのである。

 

 

『ランサーを足止めしたが、突破された! もうすぐそちらに着いてしまうだろう! 敵マスターを倒した近くに残っているようだったら今すぐ逃げろ! 仇討ちで確実に殺されてしまう! 全速力でどっか適当な方向にとにかく逃げろぉぉぉぉぉぉぉッ!!!!!』

 

 

 話を最初の部分だけ聞いた時点で、衛宮切嗣ロケットスタートで猛ダッシュ。全力逃走を開始したのであった。

 果たして間に合うか、否か? 歴史の分かれ道は切嗣の逃げ足と運の良さに掛かっていると言って過言ではない窮状となる!!!

 

「おま・・・っ! なんでもっと時間稼ぎしてくれないんだ! 僕は今さっきの戦闘で特別な魔術使って体中が激痛に苛まれている最中なんだぞ!?」

『知らんわそんなもん! 私の方も楽して通してしまった訳ではない! むしろ数十秒間だけでも足止めできていたのが僥倖だったと自分を褒めてやりたいぐらいの努力量だったのだ!

 成果が微妙なのは認めるに吝かではないが、努力だけは評価を要求する!!!』

「騎士王の英霊でセイバーのサーヴァントが、入社したての新人サラリーマンみたいなことを言い出してる場合か!? 早くお前も僕のことを助けに来い! 僕が殺されたらお前も消えて脱落するんだぞ! 急げぇぇぇぇぇぇッ!!!!!」

『だから今、全速力で城に向かって走っているのだろうがぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!!!』

 

 

 交わらない線と線、主観と主観。自分の見えているものでしか世の中を判断できない人の愚かさ故に生じる醜い言い争い。

 この日、この夜、衛宮切嗣は敵マスター他の一人ケイネス・エルメロイ・アーチボルトを討ち取った直後、栄光に酔いしれるまもなく全速力で勝利した戦場跡から逃げ出さなければならなくなってしまっていた。

 殺されないために! 生き延びるために!

 

 皮肉な話であったが、それは間違いなくケイネスの思い描いていた『高貴で誇りある紳士のゲーム』、聖杯の権利を賭けて好敵手たちと技を競い合う、魔術師同士の決闘としての聖杯戦争とは掛け離れた現実が実態を以て判りやすく現れていた。

 

 流れる汗も拭わずに、ひたすら走り続けて生き延びようと努力している冴えない中年のおっさんランナーという、夢も希望もクソもへったくれもない泥臭くて汗臭そうな戦場の現実が、ケイネスを打ち倒した衛宮切嗣の全身を使って実証されていた。

 

 それはある意味で、死したケイネスに対して勝利者である切嗣から浴びせられた最大限の罵倒であったかもしれないが、罵倒した側が気持ちよく勝利に酔える状況であったかどうかはまた別問題である。

 

 

「クソッ! よく考えてみたら敵はランサーだ! 【単独行動】スキル持ちで、マスターを殺しただけで即座に無力化できるサーヴァントじゃなかったか!

 しかも僕のセイバーと違って、明らかに忠誠心過剰な騎士道馬鹿タイプの典型的な騎士の英霊・・・ッ!! やはりサーヴァントの相手には、もっと慎重に相手のクラスを見極めた上で任せるかどうか選ぶべきだったッ!!」

 

 

 なんだか色々な面で色々と同じようなこと言い合っているセイバー主従。

 ここまで噛み合ってるようで微妙に噛み合ってないサーヴァントとマスターの関係性も他には珍しい気がするのだが。

 

 意外なことに、彼らと同じぐらい噛み合ってない主従が彼らのすぐ側に今来てたりする。

 

 

 

「主よ! ご無事ですか主よ! ディルムッド・オディナ、ただいま馳せ参じました・・・主ッ!? ――な、なんと言うことだ・・・ッ!!!」

 

 

 生前に果たせなかった、忠節の道。

 曇りなき真義とともに我が槍で手にした勝利を、主のために捧げる騎士の道。

 

 それを叶えたい願望としてディルムッド・オディナは此度の聖杯戦争に参加したはずだった。

 ――にも関わらず、結果はこの様である。

 

 

 ・・・生き残った臣下が立ったまま、死した主の亡骸を見下ろしている・・・・・・

 

 

 確かに生前と違う道を歩めはしたが、こんなものは彼が望み求めたものではない。絶対に違う。断じてこんなものは求めていない。

 何故だ!? 何故こうなった!? 何故こんなことになってしまったのだろうか!?

 

 

「・・・いや、繰り言だ。すべては俺の失敗が原因に他ならない・・・ッ」

 

 ランサーは他人のせいにしそうになっていた己の気持ちを、慌てて自己責任へと呼び戻す。

 守ると誓った自分が盛りきることができなかったのだ。ならそれは、自分の落ち度であり未熟さからくる失態であろう。誰のせいにすべきものでもない。全ては失敗してしまった自分が悪いのだから。

 

 では、主を守れなかった己は責任を取り、主の後を追って自害すべきであろうか?

 ――否、断じて否だ。

 

 

「・・・まだだ。まだケイネス殿には奥方であらせられるソラウ様が残っておられる・・・ッ。あの方を旗頭として聖杯戦争を勝ち残り、勝利を今は亡きケイネス殿に捧げることさえ出来たなら、それは我がケイネス陣営の勝利と呼んで差し支えなきもののはず・・・ッ。ケイネス殿の栄光はまだ終わってはおられない・・・!! 私が自らの槍で自害して果てるのは、それからでも遅くはない!!」

 

 時代錯誤な、亡き主のために勝利手にしてから自殺する騎士道版忠臣蔵みたいなこと言い出したランサーは、丁重な手つきで主の亡骸を抱き上げて愛する奥方の元まで運んでいくためアインツベルンの城を去って行った。

 

 こうして、夜のアインツベルン城で行われていた死闘は完全に幕を降ろした。

 次は森の中でおこなわれていた、マスターもサーヴァントも与り知らない女たちが挑んでいった戦いの記録が待っている!

 

つづく

 

 

*ステータスが更新されました

 ランサーが、主との不協和音が決定的になるより大分早い段階でマスターが殺されてくれたことにより、彼のの中でケイネスに対する忠誠心がアップしました!

 

 ランサーが、亡き主ケイネスの弔い合戦を指揮する名代として、ソラウに対して二心なき忠誠心を捧げる心積もりな模様です。

 

 ソラウ・ヌァザレ・ソフィアリが、棚から牡丹餅な状況を前にして沈痛な面持ちのまま心の中で、子ソラウを狂喜乱舞させてるみたいです。

 

 

注:今回、切嗣が即座に礼術使ってセイバーを呼ばなかったのは、逃げられる可能性と逃げられない可能性が半々だったからです。いざというときには使うつもりでいました。

 

注2:原作と違ってセイバー・オルタがランサーを足止めした理由は、そうでもしないと割が合わないと考えたからです。

 

「敵をおびき寄せて仕留める罠を張って、誘い出しておきながら一人も仕留められずに手傷を負わせるだけで逃げられたのでは話にもならん。

 せめてランサーのマスターだけでも仕留めなければ大赤字ではないか!」

 

 ――というのが理由でした。

 尚、セイバー陣営はケイネスが聖杯戦争のシステム弄くって、ソラウからランサーに魔力供給させてたことを知りません。主観だけでの判断は恐ろしい(゚_゚;)


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