もしも切嗣が喚んだセイバーがオルタ化してたら   作:ひきがやもとまち

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けっこう久しぶりになってしまいましたが更新です。本当はもう少し書き進めてから出す予定だったんですけど、予想より遥かに長く間が空いてしまいましたので切りが良いところで一旦投稿させていただきました。続きは次回ということで何卒お許しの程を。

*謝罪。《直感スキル》はセイバークラスの固有スキルではないとご指摘を賜りましたので書き直させていただきました。作者の不勉強が原因で不快な思いをさせてしまって申し訳次第もございません。


ACT15

 誰より先に脱落したはずのアサシンのマスター、言峰綺礼が冬木市郊外にあるアインツベルンの森で、アイリスフィールと久宇舞弥に補足されたのは、まったくの偶然だった。

 

 本来の意味での魔術師ではなく、聖堂教会から派遣された暗殺者でしかない綺礼にとってアインツベルン陣営が次に選ぶであろう行動方針を推し量るのはさほど難しいことではなく、聖杯よりも衛宮切嗣個人だけに執着する彼にとって利用しない手はない。

 

 一方で、切嗣にとっては避難指示を出したアイリスフィールたちが安全に逃げられていたにも関わらず逆に彼を守るために自分たちの方から戻ってきて綺礼の前に立ちはだかるというのは予測の範疇を超越しており意識の外に置いてしまっていた事態。

 アイリスフィールだけでなく、自分を完成させるための機械として育てたと思っていた舞弥まで彼の指示に背く可能性を考慮していなかったからである。

 

 ・・・あるいはそれが、衛宮切嗣という男の一種独特な部分だったのかもしれない・・・

 彼は理屈と計算だけで人の行動すべてを予測できると思い上がる三流謀略家タイプの人材ではなく、人の感情を数値に換算して計算に盛り込むことができる正しい作戦立案能力を持っているものの、彼が数字に換算できる人の心は【怒り・憎しみ・嫉妬・虚栄】といった負の悪感情に比率が傾いており、【信頼・絆・愛情】といった本来の彼が守り尊んでいる人の好感情にはセンサーも頭も働きぶりが悪くなる。そういう性質を持った男だったのである・・・。

 

 

「――女よ、ひとつ問う」

 

 とは言え、そんな切嗣の矛盾を否定する立場にある無表情に人殺しまくれるマッチョ神父にはどうでもよくて、アイリスフィールが使ってきた切嗣直伝の銀細工による巨大な鷹型ホムンクルスによる攻撃型錬金術の応用を身長185cm、体重82㎏の日本人離れした筋肉マッチョの肉体から繰り出される力業に技術も上乗せして突破して、太さ30センチの成木をパンチでへし折り、エキゾチック美女久宇舞弥も無造作に蹴り飛ばして、一切の表情を欠いた冷淡な間差しでアイリスフィールを見据えながら静かな声で問いを発する余裕すら見せてくる始末。

 

 ・・・ところで、聖堂教会という宗教はこんな奴に神父の資格を与えてなにをしたいのだろう・・・?

 命を尊ぶ神の教えに反してでも神の敵を討滅する必要悪を担う者たちが必要というなら、それ専用の別組織をどっかの山奥に作って死ぬまで光を護るための影としての錬磨を続けさせた方が正しいのではないだろうか? ――ちょうど彼自身が召喚しているアサシンサーヴァントの生前一族の開祖様がそういう人だったらしいので意見を聞くなら金ピカ王より彼の方が適任だったのではないかなと、神様視点で聖杯がふと思ったかどうかは定かでない。

 

 

「お前たち二人は衛宮切嗣を護るために私に挑みかかってきたようだが―――それは誰の意思だ?」

「・・・・・・」

 

 あくまで“彼なり”の基準でとは言え、綺礼としては切実な問いかけにアイリスフィールは答えない。万策尽きて立ち竦みながらも、憎悪と怒りを込めた眼差しで近くまで歩み寄ってきていた綺礼を睨み付けたまま沈黙を返すだけ。

 

「重ねて問うぞ、女。お前たちは誰の意思で戦った?」

「・・・・・・」

 

 答えがないので喉笛掴んで宙に持ち上げ窒息させる拷問にかけらながら再度問うも返事はなし。

 埒があかないと判断して、先ほど蹴飛ばした近くに転がっている黒髪の女の方を傷つけることによりアインツベルンの女に交換条件でも持ちかけようかと、宗教家らしからぬ発想を少しだけ考えついてしまっていたとき。

 

 馴染みのある霊体の気配が傍らに忍び寄るのを感じ取り、念話で語りかけてくる声が脳に直接届けられた。

 

“セイバーに貼り付けていた一人から報告が届きました。こちらに足を速めて向かっているとのこと、程なく駆けつけて参りましょう。

 キャスター、それにランサーとそのマスターが揃って敗走した今となっては彼奴めの足を止められる障害はございませぬ。ここは危険です。わが主よ、撤退の差配を”

 

 斥候を任せていたアサシンが、セイバーの見張りを任せていた別の一人より手に入れてきた情報を聞くと、綺礼は白けた落胆と共に頷いて退却のための下準備を開始する。

 もはやこの状況になってはどう足掻こうとも勝ち目はなく、アサシンと共にセイバーと戦っても無駄死にである。

 今は衛宮切嗣と本当の意味で出会える日まで生き延びるため早急なる退却こそが肝要。そのためには追撃の足を阻ませるための嫌がらせぐらいは最低限講じておくのが撤退戦におけるセオリーというものである。

 

 上着の下から黒鍵を引き抜き、首筋を掴んだまま持ち上げているアイリスフィールの心臓めがけて躊躇いなく切っ先を伸ばす。

 感傷だけを理由にするなら黒髪の女でもよかったかもしれないが、銀髪女のホムンクルスは肖像画として伝わるアインツベルンの『冬の聖女』と瓜二つの容姿をしており、聖杯戦争において『聖杯の器』を用意するのは御三家の中でアインツベルンが担っていると遠阪時臣から聞かされている。

 衛宮切嗣のサーヴァントも聖杯を求めて集った英霊の一騎である以上、護るべき対象の優先順位は『聖杯の守手』がマスターである切嗣に次ぐものであることぐらいアハト翁から聞かされているはず。逃げる敵を追いかけるよりも彼女の治療を優先する方を選ぶ公算は高い・・・そう判断したが故での行動だった。

 

 ――流石の彼も、アインツベルンが必勝を期してコーンウォールから発掘させた聖遺物を使って目当ての英霊を召喚することに成功した7騎中最優とされるセイバーのサーヴァントに苦手意識持って城の地下深くに引きこもってしまった挙げ句、召喚に成功してから一年近くの間に三回ぐらいしか顔合わせたことがない――などというアホみたいな本当の話は想像の埒外すぎていたため発想すら沸かず、常識に基づいて判断しただけのことである。

 

 だから彼がアイリスフィールの腹を刺し貫こうと高速で黒鍵を突き出す際に、こう呟いてしまったのにも特別な理由はなにもない。

 ただ、自分にとって衛宮切嗣のイメージ像に無視できない矛盾と疑惑の泥をなすり付けさせた舞弥とアイリスフィール、そんな疑惑を解消しようと彼女たちを拷問して解を得ようとする作業を邪魔するため歩を早めたセイバー。

 それら彼のイメージする衛宮切嗣像を微かなりと揺らがせてきた女たちに対して、自分の中にあるナニカが気付かぬうちに言葉として口走らせていた。それだけのことでしかない。

 

 

 

「衛宮切嗣がお前たちから理解され、全面的に肯定される存在だと言うことなど、あり得ない。断じて在ってはならない矛盾だ。

 そんな衛宮切嗣を知らない。まるで理解できない存在だ。

 衛宮切嗣は誰にも理解されず、肯定されない、世界と隔絶した魂の持ち主でなければならないのだから・・・・・・」

 

 

 そう呟きながら、同時に伸ばされていた黒い刃がアイリスフィールの腹へと吸い込まれてゆき、彼女の白く美しい肌を刺し貫いて「ふ、ぐッ・・・!」と声にならない悲鳴を上げさせようとした、その寸前。

 

 

 ――突如として綺礼の視界が、猛スピードで横へとスライドさせられていった。

 

 万力のような力で握りしめられた顔は、傍らに立つ成木の幹に押しつけられて前歯が折れ。

 何の感情も浮かべていなかった顔には表情が醜く歪んだ表情が形作られる。

 

 

「ごへぇッ!?」

 

 

 ドゴォォォッン!!!!

 

 

 ・・・綺礼が顔面を敵に捕らわれて、成木に押しつけられて止まったときの轟音が鳴り響くのと、激痛によって自分の置かれた状況に気づいたからだが悲鳴を上げるのとはほぼ同期でおこなわれ。

 加害者が横から悠々と被害者である、“捕らえた敵の捕虜”に話しかける声が聞こえてきたのは、それらが終わった後のことである。

 

 

「おいおい、生臭坊主。仮にも神に仕える者を自称している詐欺師共の一匹が、うら若く美しい貴婦人を無表情に刺し貫こうとするなよ。人の道に外れているぞ?」

「ぎ、ぎざま・・・ッ! ゼイバー・・・、だとぉぉぉッ!?」

 

 自分の顔面を掴んで「ミシ・・・ッ、ミシ・・・ッ!」と頭蓋に悲鳴を上げさせながら冷徹そのものの声を掛けてくる加害者を振り返るため、万力のような力に抵抗してわずかに顔を後ろに向けて相手の声と顔とを一致させた綺礼は驚愕に目を見開いて発声しづらい態勢を取らされた体で声を上げる。

 

 そこにいて自分を捕らえているのは、あり得ない人物。ここにいるはずのない存在。

 “まだ”この場に到達するには早すぎるはずの英霊。衛宮切嗣の召喚したサーヴァント。

 

 セイバー、アルトリア・ペンドラゴン・オルタその人だったから―――

 

 

「馬鹿な!? 貴様、一体どうやって我らに気づかせることなくこの場まで到達して・・・張り付かせていた者からの連絡はなかったはずなのに!!」

 

 マスターに訪れた突然の窮地を救い出すため、アサシンたちが一斉に実体化して姿を現しセイバー・オルタを取り囲み、驚愕の声を上げる。

 事実としてセイバーの動きを逐一観察して報告させていた一人からの連絡は、『敵が速度を上げてそちらに向かい接近し始めた』というのを最後に一切届いておらず、だからこそ彼らにも油断があった。

 如何に最優のサーヴァントといえど、『気配遮断スキル』を持つアサシンが本気をだして完全に気配を断てば発見する事はほぼ不可能なはず。なのにどうして・・・・・・ッ!?――と。

 

「ん? 張り付かせていた者というのは・・・・・・ひょっとしなくても“アレ”のことか?

 私がここへ来る途中で“なんとなく陰から覗き見ているヤツがいるような気がして”投げた小石に何かが当たる手応えを感じさせた例の奴・・・アレがアサシンだったのか? 

 そうか、それはすまないことをしてしまったな。殺したことにも気づかなかったぞ、謝罪してやろう。すまなかった、殺す気はなかったから許すがいい」

『・・・・・・ッ』

 

 そう言って、どうでもいい些事だったかのように軽く頭を下げてくる慇懃無礼なセイバー・オルタの謝罪は、興奮する牛の前で赤い布を振るのに似ていた。

 サーヴァントは聖杯によって現界された超高濃度の魔力の塊。肉体はエーテル体で形作られている彼らを傷つけるには威力の如何に関わらず普通の武器では不可能であり、魔力を帯びていることが絶対に不可欠。

 ギリシャ神話でもあるまいし、いくら最優のサーヴァントが馬鹿力でブン投げようとも、拾った小石に当たって死ぬようなアサシンのサーヴァントなどいるはずがないのである。

 

 ふざけるなッ!!と、アサシンたちの内で誰かが叫びそうになり――ふと気づく。

 

 未だ黒鍵を持ったままになっていた言峰綺礼の右腕を掴んで捻りあげているセイバー・オルタの足下に奇妙な物品が落ちていることに。

 

 それは『血のこびり付いた小石』だった・・・・・・。

 アサシンたちの仮面で隠された素顔が同時に歪む。

 

 ――先に述べたように魔力を帯びていない武器でサーヴァントを傷つけることは決してできない。だが一方で、魔力さえ帯びていれば元が武器でなくてもサーヴァントと戦うことは一応可能であり、理論上はペーパーナイフであろうと魔力付与さえされているなら英霊を殺傷することも不可能ではない。

 

 古来より人の血液に魔力的要素が含まれていることは、ホラー映画などで神秘の薄れた現代日本人でも当たり前に知っている初歩の知識だろう。

 まして“神秘の象徴”たる英霊の中でもとりわけ格の高い、セイバー・クラスの処女サーヴァントが流した血液がこびり付かせた物品なら尚更だ。

 無論、セイバー自身も最高レベルの対魔力を誇る最優のサーヴァントであり、並の攻撃では自分で自分の体を傷つけることさえ容易ではない。

 だが、問題はない。魔力で編まれた甲冑のなかで小手だけを消し去り、あとは手の平が破れて血が流れ出すまで全力で拳を握りしめ続ければいいだけのことである。

 わずかでも魔力付与が成されさえすれば、後はキャスターと並んで紙装甲のアサシンクラス、『筋力A』の馬鹿力で投擲した小石であっても当たり所が悪ければアッサリ殺されてしまうだろう。

 

 

「おっと、動くなよ。はした金で人殺しを請け負うチンピラ英霊ども。お前たちが現界するために必要不可欠な魔力供給源たるマスターの生殺与奪件は今、私の手に握られている。

 聖杯を求めて人間如きの使い魔に甘んじてまで手に入れた第二の人生を今ここで終わらされたくなければ大人しくしていろ、そこの女たちに手を出すな。もし彼女たちに掠り傷ひとつでもつくようなことがあったらどうなるか・・・・・・わかっているな?」

『くッ・・・・・・!!』

「手も足も出ずに悔しがる大根役者ぶりを披露してもらっているところ悪いのだがな。私のマスターは女たち二人のどちらでもない。先ほどまで城内で戦闘をしていた男、衛宮切嗣こそが私のマスターだ。

 私にとって彼女たちの命は、お前たちにとってのこの生臭坊主ほど重くはない。失ったところで替えは利く。ただ気に入っているから殺されると不愉快なだけだ。人質交渉のカードとして手に入れようとも対等にはなれんぞ?」

『ぐッ・・・・・・うぬぬぅぅ・・・・・・っ』

 

 勝利を確信して油断したと敵の隙を突こうと画策したアサシンたちの思惑は、敵の言葉で容易に頓挫させられる。

 もちろん敵の言う言葉を鵜呑みにするほどアサシンたちは馬鹿でもなければ素人でもない。だが、嘘である確証も待たない。

 確実に握られている自分たちの命の源たるマスターの命を、安すぎる可能性に賭けるわけにはいかない事情がアサシンの側にも存在していた。

 

「ぎ、ぎざまゼイバー・・・ッ、私を人質に取ったどころで無駄なごとだばッ!?」

「お前は喋らなくていい。黙っていろ。私にだけ喋らせろ。もとよりお前に用はない。アサシンを脅迫する人質として価値があるから捕まえただけだ。

 ただ天を見上げて口を開き、与えてくれるのを待つしか能のない植物のような、雛鳥のような無知蒙昧な輩に何かを求めるほど私は物好きではない。絶望者は黙って大人しく絶望してさえいればそれでいい。絶望に捕らわれるのも敵に囚われるのも虚無に支配されるのも大した違いはないだろう?」

「ぐ、うぐおぉぉぉぉッ・・・・・・!!!」

 

 屈辱と怒り、言い返したいのに言い返すことを許されず一方的に利用されるだけの現状から脱しようと力を込めて戒めから抜け出そうとすればするほどに馬鹿力で押さえる力を強さを増していく。

 代行者として鍛え上げてきた技と技術、その全てを『単なる馬鹿力』で蹂躙してくるセイバークラスの反転したサーヴァント、セイバー・オルタ。

 通常のセイバーよりも攻撃に傾いたステータス構成は彼の予測を大きく上回っており、オルタ化という現象自体を知らない言峰綺礼は、己の理解が及ばぬ存在をまえに合理的な答えを導き出すことができずに藻掻き苦しんでいた。

 

 

「・・・一つ問う、セイバーのサーヴァントよ。貴様が如何に戦闘面において最優を誇るセイバークラスとはいえ、勘だけで我らアサシンを投擲して攻撃を当てるなど不可能なはず。一体どのようなトリックを使ったのか後学のためにも教えてもらいたいものだ・・・」

 

 アサシンの内の誰かが言った。その言葉に意味はない。単なる時間稼ぎである。

 人質交渉において有利な側は始まった当初の時点では人質を取ったばかりの相手側であることは自分たちの経験上、よく心得ている。

 綺礼の意思に関係なく、今はとにかく自分たちのマスターの安全を確保することが聖杯を望んで召喚に応じた彼らにとって何よりも優先される事柄だったからだ。

 

 

 ・・・皮肉な話だが、今この時この場所において、自分自身に価値を見いだすことの出来なかった言峰綺礼の命にはアサシンたちにとって万金よりも尚高い高い存在価値があると見なされていたのである。

 『聖杯を手に入れるまで現界し続けるために必要な魔力の供給源』として。

 

 もしこれが遠からぬ未来に、ここではない平行世界で行われていた五度目の聖杯戦争で自らが犯していた所業を先払いで償わされている代償だとすれば皮肉以外の何物でもなかったであろうから・・・・・・。

 

 

「生憎と私は暴君なのでな。暴君にとって暗殺者に狙われることなど日常茶飯事でしかない。

 完全に気配を消して物陰に隠れ潜み機をうかがっている暗殺者を、勘だけで斬り殺せるようになれなくては英霊になるまで生きていくことさえ出来なかった。それだけだ。暴君として君臨するなら誰でもやっていることだ、大したことでもあるまいよ」

 

 そう言って肩をすくめてみせたセイバー・オルタは、軽い態度ではあっても本気でそう言っている。

 実際、古今東西ありとあらゆる暴君や独裁者にとって暗殺とは最も身近な脅威であり、世界で最も有名な独裁者アドルフ・ヒトラーに至っては実に300回以上の暗殺計画を立てられながらも計画実行寸前に『なんとなく等』大したことでもない下らない理由で予定を変更して結果的に敗戦寸前まで追い詰められてから自殺するまで無数の暗殺計画をくぐり抜けてしまっている。

 

 『誰からも慕われ、国民たちから愛される名君』と『身内さえ疑い、いつ何時ナイフを突き立てられてもおかしくない暴君』とでは同じ《直感》でも使われる理由とタイミングが正反対過ぎている。

 それがセイバー・オルタがここへ来る途中に“なんとなく影から見られてる気がしたから”と何気なく投げただけの小石を隠れ潜んでいたアサシンに命中させ、彼女の一挙手一投足を見逃さずに伝達するため目をこらしていた相手の顔を顎から上が跡形もなく綺麗に吹き飛ばされた即死体に一瞬にして変えてしまったことの理由だった。

 

 また、綺礼が喚びだしたアサシンたちハサン・サッバーハは“百の貌のハサン”と呼ばれる斥候に優れたサーヴァントであり、《分身能力》を持っていたが数が増えれば増えるほど個体のポテンシャルは落ちていくというデメリットを抱えていたことも偶然に殺された一因であっただろう。

 完全に気配を断って自分を殺すために物陰に潜んでいる暗殺者どもと暗闘を繰り広げるのが日常風景に過ぎなかった暴君アルトリア・ペンドラゴン・オルタにとって、只でさえ低いステータスをさらに弱めた《気配遮断》スキルを絶対視するアサシンなど、自分が返り討ちにしてきた物言わぬ骸共と大差ない程度の雑魚でしかなく、覚えておくにも値しない程度の存在だったのだから・・・・・・。

 

 

 彼女たち暴君にとって“なんとなくの勘”というのは軽視できない重要な要素であり、其れが故にアサシンたちにとっても計算を狂わせる重大な要因になってしまっているのだが、そのことに彼らは今はまだ気づいていない・・・・・・。気づくのは今少し後の話である。

 

 

 

「さて・・・・・・敵にとって価値ある者を人質を取った暴君として暴君らしく、脅迫と要求でもするとしようか。

 ――さっさとこの森から尻尾を巻いて逃げ去れ捨て駒暗殺者ども。

 貴様らが逃げれば、この男も生かして帰してやろう。言っておくが、金で殺しを請け負う犯罪者相手の交渉には一切応じる気はない。NO相談だ。

 諸共に死ぬか、誰もが死なずに生き残るか。好きな方を選ぶがいい。それ以外の選択肢は私が認めん。この場の支配者からの命令である。君命に背く者は、暴君の断罪を免れぬことを覚悟の上で逆賊となる道を自らの意思で選ぶことだな」

 

つづく

 

 

オマケ『次回予告のような会話』

 

アサシン「フッ、我らを甘く見ないことだな、セイバーよ。人質を取って人々を脅すような暴君の言葉など誰が信じるものk―――」

 

ズバァッ!!

 

セイオル「ほら、マスターの体の一部は返してやったぞ。左腕だ。これで私が約束通り貴様らのマスターを返す気がある意思は伝わったと理解するが・・・もし他に欲しければ両足でも指でも欲しい部位を所望するがいい。最悪、右腕と胴体と脳味噌のある頭部さえ無傷で残っていれば貴様らにとって現界しておくための魔力炉として十分すぎるだろう?」

 

アサシン「き、貴様・・・ッ!!!」

 

セイオル「勘違いするな、アサシン。この場における支配者は私だ。脅している私と、脅されている貴様らとは対等ではない。貴様らに信頼の証を要求する権利などないのだ。信じずに人質を見捨てて殺されるか、信じて一縷の可能性に賭けるかだけが貴様らに私が与えた二つだけの選択肢だ。他にはない、私が認めん。支配者である私が上だ、支配下にある貴様らが下だ。立場の違いを理解しろ。無抵抗の女をいたぶる趣味のあるヘンタイ神父と、その手下の下っ端犯罪者共が王に対して要求を突きつける権利があるなどと思い上がるな! 分際をわきまえろ! このクズ共がッ!!!」

 

 

*書き忘れていましたので説明追加追記です。

綺礼の左腕を切り取った刃物は彼自身がアイリスフィールを刺そうとしていた黒鍵を奪って彼自身を切り裂いてます。

敵から奪った武器で敵と戦うのは昔の戦場では普通のことでしたのでね。




*改めて読み返してみると、なんか作風が安定してない様に感じてくる昨今の内容。少し疲れてるのかもしれませんな…。

もしかしたら今作の今話も含めていくつかの作品の最近書いた文だけでも書き直すかもしれませんが、出来るだけ続きで元に戻せるよう努力してみるつもりでおります。

*なお、解かっているかと思い敢えて記載しませんでしたけど、必殺必中でアサシン相手に小石をぶつけられたわけではなく、たまたま一発目で当たっただけで何発もハズレを連発しながらセイバー・オルタは到達しております。格好悪いから言ってないだけでね。

一発目でいきなり当たってしまったのは、セイバーのDより低いEランクの幸運値を分身能力でさらに下がっていると思しきアサシンの不幸体質にあると解釈してくださると助かります。

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