もしも切嗣が喚んだセイバーがオルタ化してたら   作:ひきがやもとまち

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久しぶりの更新となります。セイバー・オルタZERO最新話です。
半ば以上オリジナル回だったせいで時間かかりまくってしまって申し訳ございませんでした。どうにも最近オリジナル回がヘタになってきてる自分を自覚している分、後悔しっぱなしの昨今で上手く書けなくて…。今後は少しオリジナル回を減らす努力をした方がいいのかなーと悩んでいる作者であります(;_;)


ACT16

「なんだと・・・・・・?」

 

 訝しげな表情を仮面の下に隠してアサシンは、相手の真意を測りかねたように問いを投げ返す。

 これに対してセイバー・オルタは、悪い笑顔を浮かべながらも相手の要求に応じてやった。

 

「ほう? 己が主を人質にとった脅迫犯からの脅迫を聞き逃すか。ずいぶんと耳が遠いうえに不忠者の暗殺者がいたものだな。これではマスターもおちおち安心して森に入ることすらできまい。敵に奇襲されて捕らわれてしまいかねん。

 部下に恵まれなかったとは不運なことだなぁ、コトミネとやらよ。血も涙もない暴君の私でさえ、思わず哀れみをくれてやりたくなるほどだ。

 ――尤も、保身のために女を刺し殺そうとした外道に情けをくれてやる気にはなれそうもないがな。ククク・・・・・・」

 

 ただし、黒く染まった暴君特有のブラックユーモアを交えてからの話ではあったけれども。

 

「さっさと、この森から尻尾を巻いて逃げ帰れと言ってやったのだ、捨て駒暗殺者どもよ。

 そこに倒れているマスターの女たちに、これ以上の傷をつけることなく大人しく退くというなら見逃してやるし、貴様らのマスターも無傷で返してやろうと、そう言っているのだ。

 どうだ? 悪い話ではないと思うがな・・・」

 

 その宣言を聞き、アサシンたちは思わず動かぬ仮面で侮蔑の笑みを浮かべてしまう自分を抑えきることに苦労させられてしまっていた。

 このとき彼らの思いは、百体のハサン中、百体全員が同じ感想を同時に心中で抱いていたからであった。

 

(所詮、こいつも栄光だの名誉だのを嬉々としてもてはやす殺人者の一人か・・・。語るに足りぬ)

 

 ――それが、騎士道物語の精華『アーサー王物語』の主人公に対して共通して彼らが抱いた感想だった。

 戦いに正邪があると説き、さも戦場が尊いものであるかのように演出して見せ幻想を売り込み、武名だの名誉だのに誘惑された愚かな若者たちを自分たち支配社会層の支配権力を維持しするためだけに血を流させ死体の山を築き続ける。

 

 ・・・そんな、善意の殺戮者たちこそが騎士どもなのだと、アサシンのサーヴァントたち“百の貌のハサン”は定義していた。

 その様な己の正義感の海で溺死してしまいそうな愚かさに、この黒い鎧を着た騎士王様はピッタリと当てはまる・・・・・・そう思い、我知らず侮蔑の笑みを浮かべずにはいられなかったからである。

 

(敵を前にして、敵の首魁を捕らえながらも要求することが退くだけとはな・・・これだから騎士とやらいう殺人者どもは度しがたいのだ!)

 

 

 ――もともと彼らアサシンのサーヴァント“ハサン・サッバーハ”は、中東のとある暗殺者集団の頭目が襲名する称号でしかなかないものだったが、その暗殺者集団そのものの成り立ちは、とある宗教の敵を排除するため全ての罪を己たちだけで背負い生涯を修練に捧げると誓った狂信的な殉教者集団の一派から端を発している。

 

 ベースとなっているものが、神への信仰と質素な生活、そして自己修練を尊ぶ精神性の集団なのである。

 時代の流れとともに創立の理念は失われてゆき、徐々に俗世へと染まっていったとはいえ、本質的にアサシンたちにとって騎士という存在は敵であるという事実まで変わるわけではなかった。

 綺麗事を口に唱えながらも、やってることは自分たちと同じ大量殺戮でしかなく、それでいて騎士同士がぶつかり合う戦場での殺し合いは綺麗な言葉で飾り、ごまかして正当化し、自分たち暗殺者による単独で多数に挑む命がけの暗殺を卑劣だなんだと蔑み罵倒してくる。

 

 戦場を美化し、自分たちの殺し合いを綺麗に飾り付け、他人を下げさせ自分を上げる。いつの時代も何ら変わるところのない、支配者たちの傲慢な理論。

 その象徴が民衆に夢を見せるために英雄騎士物語の中で描かれている殺人鬼集団“騎士たち”であった。

 アサシンたちは騎士を、そのように捉え、そのように定義している。

 

 そんな彼らの目と耳に、今し方はなたれたセイバー・オルタの宣言は、騎士道などという夢物語を後生大事に守りたがる騎士様らしい綺麗事であふれかえった“格好つけ”としか思いようがない。

 

 

 ――とはいえ、現実問題として現在、自分たちのマスターは人質として夢見る騎士王様の手の中にあり、まずは彼の安全を確保することこそ最優先であり、それを確保した上でセイバー陣営に効率的な痛手を与えてから撤退する手段を講じなくてはならないだろう。

 撤退は致し方ない。だが、手ぶらで帰らなくても良い状態にあるならば、可能な限り敵への打撃を与えた上で帰還すべきなのは戦場での常識だろう。

 たとえ、セイバーにダメージを当たられずとも、そこらに転がっていて動けぬ女二人ならば即死は無理でも殺すこと自体は難しくない・・・・・・

 

「――その要求は承服しかねる。まず第一に貴様は我らにとっての敵であり、我らが約定を守って去った後に、貴様一人が約定を破棄して我がマスターを害さぬという保証はどこにもあるまい?

 せめて我らが退けば、マスターの御身は確実に返してもらえるのだという確証をえたいのだが・・・・・・」

 

 時間稼ぎを目的としたアサシンの無意味な長広舌と、相手の死角から毒塗りのナイフによる不意打ちを仕掛けるタイミングを測っていた別のアサシン。

 その異なるようで同じものなアサシンの二人は、どちらも途中で完全に停止させられることになる。

 

 

 スパンッ。

 

 

 突如として、セイバー・オルタが言峰綺礼の腕をつかんで羽交い締めにしていた腕を解くと、相手がまだギリギリのところで持ち続けられていた黒鍵を半ば以上強引な手で奪い取ると、アサシンたちの目ですらも完全には追いかけられない速度で一閃。

 マスターを救い出すため、セイバー・オルタの一挙手一投足を注意深く監視し続けて、不意打ちによる救出の機会を見逃してしまわぬよう意識の大分部分をそちらに回していたことが裏目に出る結果となってしまう。

 

 幸いと言うより、不幸中の幸いとでも呼ぶべき偶然も重なって、敵が黒鍵を横薙ぎにすることにより“ナニカ”を自分たちの方へと放物線を描きながら飛んできているのは分かっていたし、それが自分たちサーヴァントを傷つけるのに必須な魔力のこもった武器類のどれかでないことだけはハッキリとしており、それを受け取りながらも気の利いた言葉かなにか言おうとした。その瞬間に。

 

「―――!? こ、これは・・・・・・っ!!!!」

 

 落ちてきた“それ”を受け止めて驚愕に引きつらされた表情を、動かぬ仮面で覆い隠そうとして完全には成功しなかったアサシンの一人がうめくように呟かされた。

 

 

 ・・・・・・其れは、切り飛ばされたばかりの生々しさを残す、“人間の指”だった。

 超高速で切断され、切り飛ばされたことから出血量は意外に少ない人の身体の一部“だった物”

 自分たちアサシンのマスター、その肉体の一部分にして、ほんの少し。

 

「貴様らは私の命令を全てではないが、わずかに従った。女たちに手を出さずに動きを止めたのだ。大義であった」

 

 アサシンたちは慌てて視線をセイバーに固定させたまま、目線の角度をわずかにズラして下方へと修正し、そこに己がマスターの指が一本欠けてなくなっている微細な変化をサーヴァントの優れすぎた視力をもって肉眼でさえハッキリと目視させられてしまった。

 

 驚愕のあまり、一瞬だけアサシンたちの意識が自分から外されたことを視線の圧力の軽減から感じ取ったセイバー・オルタは、傘にかかったように嗤いながら彼らに宣言してくる。

 

「貴様らは私からの命令を“わずかに守った”。だから私も貴様らとの約束を“わずかに守ってやった”のだよ。

 貴様らのマスターの一部は約束通り返してやったぞ、下郎ども。これで私が自ら交わした約定は決して破らぬ王であることの証明になるだろう?」

「ふ、ふ、ふざけるなぁぁぁぁぁぁっ!!!!」

 

 あまりにも一方的で身勝手な言い分にアサシンたちは思わず激高し、手は出さずとも口は大声で差し挟んでしまった。

 衝撃のあまり、一瞬だけ生じた心の空白を暴君は見逃さなかったのである。

 

 そして、その判断が良くなかった。敵のペースに乗せられた上での選択だったからだ。

 彼らは、人質を取った敵の誘拐犯から“自分は貴様らとの約束を守るという証”として送りつけてきた証拠の品を完全否定してしまったのである。

 

 これでは証拠にならない。証拠不足であり、敵が約束を守ることの証明にはならないと、誘拐犯に向けて正しき正論を貫こうとしてしまったのだ。

 それは、誘拐犯側から見れば『証拠が足りない、もっと寄越せ』と解釈されても仕方のない愚かな選択肢。

 人質を取る側と、取られた側とが“対等ではない”という前提条件への認識不足が招いてしまった黒く染まったアーサー王にとってのみ都合の良い展開。

 

 

 スパァァァッンッ!!!

 

 

 予測通りに激高してくれたアサシンの叫び声に合わせて、予定していたとおりのタイミングで二本目の指を切り飛ばし、アサシンたちの元へと落ちていくよう絶妙なコントロールで送り届けてやる。

 

 

「騒ぐな。まだ指がたった一本なくなっていただけではないか。まだ九本も残っている。・・・いや、貴様らの愚行が原因で今は八本にまで減らされてしまったところであったかな」

『・・・・・・・・・』

 

 一瞬の不覚によって求められた代償を、目に見える形で示されてしまったアサシンたちは、それ以上余計な激情で判断を誤ることを拒絶した。

 だが、脅迫相手から沈黙での返事を由としてやる義理は、人質を取って誘拐した側には当たり前のように存在しない。

 

「ほう・・・不服そうな気配を漂わせているな。なんなら、あと三、四本ぐらい釣り銭代わりにつけてやっても良いのだぞ。

 無論、指では不満だというなら耳でも爪先でも、貴様らが私を信じる証拠として十分だと求める部位を送り届けてやろうではないか。どこがいい?」

『―――やめろ!!!!』

 

 やむを得ず、アサシンたちはセイバー・オルタに対して激情をぶつけた。

 それが一番誘拐犯には効果的な反応なのだということを彼らは経験則から知りすぎていたからである。

 

 なにしろ―――

 

「ふん。随分と色めき立つではないか、人でなしの殺し屋ども。この程度のこと、貴様らが生前やらかしてきた悪行の一部にすら遠く及ぶまい?」

『・・・・・・・・・』

 

 不思議そうな顔をして、わざとらしく問いかけてくるセイバー・オルタの言葉にアサシンたちは答えない。

 事実だからだ。自らに都合の悪い事実を指摘されたとき、沈黙によって答えとなすのは王族であろうと、王族を暗殺して民を救おうとする義賊であろうと何ら変わるところなどない。 その事実を、暴君としての道を選んだ騎士王アーサー・ペンドラゴンは経験則から、とっくの昔に承知している。

 

「他人に対してなら悪行を平然とやってのけて、自己正当化の詭弁を並べ立てられる程度のことであろうとも、身内がやられた途端にわずかな模倣で激高するか。下らんな。

 貴様ら権力者たる王を否定する下郎どもも、我ら国の繁栄と永続のために民草を生け贄として差し出させる王族と、その点ではなんら変わるところがないのだ。

 所詮は、自らの掲げる大義のために他者を犠牲にして自らは犠牲にならず、心を痛めるだけで済ませようとする加害者の都合であることは同じではないか。馬鹿馬鹿しい」

『・・・・・・・・・』

 

 喝破して敵を黙らせてから、セイバー・オルタは夜の闇と同色の鎧を翻しながら、彼らに向かってこう宣言した。

 黒く染まってもなお誇り高き騎士王は、陽の当たる表の世界を堂々と胸を反らして歩みながら流血の道を突き進んできた暴君として、王者の威を示しながら陽の当たる場所から裏社会へと身を落とした陰の者たちに王として宣言したのである。

 

「貴様ら匹夫野盗のやり口で王の言葉を判断するな! ブリタニアの武人は信義をもって立つ。

 我がマスターの愛妻と妾の安全を保証するためにも貴様らのマスターは、貴様らが森の外に出るまでは確保し続ける。だが遠からず解放して、貴様らの元へと送り返す。

 いずれ貴様らの首も此奴の首も並べて晒してくれるが、それは堂々たる布陣によって貴様ら逆賊どもの軍すべてを討ち滅ぼしてからのことだ。

 忘れるなよ、貴様らのマスターの身命は今、我が手中にあるという事実を! 貴様らになにも要求する権利も資格もない! そんなものを貴様らに許してやった覚えなどない! 貴様ら裏社会に自ら身を落とした犯罪者の群れは、王者の命にただ従わされ、罰せられていればそれで良いのだ!!

 それを王者に対して約定を破らぬ証拠を示せだと? 分際を弁えよ! 下郎ども!!!」

 

 

『・・・・・・っ、う・・・ぐ・・・・・・あ・・・・・・』

 

 

 アサシンたちが剥き出しで発散される王威に対抗しようとして失敗し、蹈鞴を踏む。

 苦しむ民を救い、国を富ませる、王としての正しい道を歩むため『独裁』という名の流血の道を「有効であり、有益である」と信じて選んだ『王道』を征く《暴君》と。

 

 信仰のため、神のためとはいえ、人を殺める悪行を成す自分たちを忌むべき者として表社会から裏社会へと身を窶し、闇に潜んで敵を討ち取る術に長けて、陽の光の下で戦う力はなくしてしまった《影たちの群れ》との存在そのものが持つ致命的すぎる差が、そこにあった。

 あるいは、彼らの始まりである己が貫くべき正しき人の道として影に潜むことを自らの意思で選び取った最初の一人目ならば、陽の光の下でも堂々と姿をさらして騎士を前にしても一歩たりと怯むことなく己の正しさを謳いあげ、相手の土俵で圧勝することが出来たやもしれないが・・・・・・彼らに祖先と同じことは決してできない。

 

 なぜなら彼らは、自らの願望成就のためにサーヴァントとして現界し、聖杯を手に入れるためマスターとして言峰綺礼と契約を交わしてしまっている。

 

 それが願望であれ、聖杯が如何なる奇跡に類するであろうとも、『聖杯』などという西洋の神秘で自らの願いを叶えようとするなど中東の教団組織の長たちだったハサン・サッバーハがやっていいことでは決してない。

 まして、異教徒のマスターに使えてでも願望を成就しようなどとは言語道断である。

 

 目的のためにと節を曲げ、自分たち一族が信じ貫き通してきた信念さえ捨て去り、ただただ暗殺者の語源である“山の長”を意味する『ハサン』という名“だけ”を受け継いでいる《百の貌のハサン》には到底できない。

 

 アサシンのサーヴァントは、個体としての個人を喚べず、歴代“ハサン”の誰かが召喚されて現界する者。

 性質としては“山の長”であり、一応は個人としての名を持たぬアサシンのサーヴァント“ハサン・サッバーハ”として世界からは扱われるが、所詮それらは世界の都合、世界の理屈に過ぎぬもの。

 個人は個人だ。初代ハサンと、歴代ハサンたちとは全員が別人であり、同じ者など一人もいない。劣っている者もいれば優れている者もいる。

 

 たまたま暗殺者一族の一員として生まれ落ち、多重人格などという体質を運良く生まれ持っていただけでしかない“百貌”に、同じアサシンと言うだけで初代と並ぶ資格も能力も精神もありはしなかったのだ。

 

 その事実をアサシンは晒した。晒させられてしまったのだ、敵の言葉と王威によって・・・!!

 

 

「ぼ、暴君・・・・・・」

 

 畏怖とともに、アサシンたちのうちの誰かが呟く声が聞こえる。

 彼らは今になってようやく気がついたのである。自分たちの眼前に立つ者は、アサシンの英霊ハサン・サッバーハにとって本質的には敵の存在である“騎士”ではないのだという事実にだ。

 

 コイツは彼らにとって紛れもなく敵である。倒すべき敵、否定すべき敵、敵以外の何物でもない存在。

 歴代の自分たちが敵対し続け、時に暗殺して勝利して、時に暗殺に失敗して一族最強の精鋭が皆殺しにされてきた憎むべき歴史上の怨敵たち。

 

 正義と正しさの定義を決める権利は自分にあるとして、天も神の摂理も認めようとしない背徳の王たち。

 

『暴君』

 

 それが彼らの眼前に立つ、敵の正体だった。

 つぶやきを耳にしたらしい暴君は、アサシンたちを睥睨して「ニヤリ」と笑い顔を浮かべて見せるだけで言葉は発せず、ただ笑う。

 その嘲笑がいったい何を意味するものか、暴君から否定すべき敵としてのみ見定められたアサシンたちには知るよしもない・・・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(・・・さて、とりあえず敵の行動を止めることには成功したわけではあるのだが)

 

 そんなアサシンたちを見回しながら、セイバー・オルタは心の中で独りごちてから、こうつぶやきを付け加えるのであった。

 

(・・・・・・これからどうすればよいのだろうか・・・? ネタも使い果たしてしまったし、八方塞がりすぎる状態なのだが、どうすれば良いのだ? 誰か正しい答えを知っている奴がいたら教えてほしいものだぞこの野郎・・・)

 

 と、半ば以上ヤケッパチになりかけながら愚痴っていた。

 ――途方に暮れていたからというのが、その理由である・・・・・・。

 

 

 実は彼女、色々と演出をして見せることで優位性を誇示しまくってみたのは、自分の方が不利な事実を隠すためだったりする。

 実際に彼女が今の時点まででやったことと言えば、アイリスフィールが刺されるのを邪魔して、言峰綺礼を大木の幹に殺さないよう手加減しながら顔面から激突させて、指を一、二本切り飛ばして見せただけであり、たった一つの首級すら上げていない。

 

 往々にして権力者というものは、デカいことをやって見せたり、強い言葉を使いまくったりする時に限って脆弱な内情を知られたくない本音を隠そうとしているものなのである。

 

 この時の黒く染まった暴君セイバー様は、ちょうどその窮状にあった。

 なにしろ彼女にはアサシンたちが、本当にここにいる奴で全員なのか判別する手段なんてないし、感知能力低いから見つけられないし、そもそも本気出したアサシンに気配遮断されたら発見とか絶対に不可能だしで、ドコにどれだけ潜んでいるか全く解らないのである。

 自分だけならともかく、自分では指一本動かせない状態にある舞弥とアイリスフィールを守りながら戦って、殺させることなく敵は撃退するなんて神業ができる自信は全くない。

 

 ここに来るまでに倒してしまってたらしいアサシンの一体は、勘で投げた石が本当に運良く命中して殺せただけのラッキーヒットでしかなかった。運が良かっただけなのである。

 もしくは敵の運が悪すぎたかの、どちらかが理由である。運良く勝っただけの成果が次もあることを期待して計画を立てるなどキチガイか馬鹿だけやってればいい。

 

 

 せめて手元にエクスカリバー・モルガーンがあって、霊体化も可能だったら可能かもしれないが、徒手空拳の騎士に瞬間移動じみた霊体化なしで、どうやって闇に潜む暗殺者軍団から動けなくなった負傷兵たちを無事に守り抜けるというのだろう? 絶対に不可能としか言い様がない。

 

(本来の関係ならアイリスフィールは私のマスターではないし、殺されたとしても私が消えることはない。舞弥に至っては戦力的には最弱の駒でしかないのも事実ではある。

 どちらも共に、殺されることが即こちらの敗北につながる者たちでないのも確かなのだが、しかし・・・・・・)

 

 ふぅ、と。

 表面的には何ら変化させぬまま、心の中だけでセイバー・オルタは困り顔をして溜息を吐く。

 

(・・・どちらが死んでも、あのへっぽこマスターは絶対気にしまくるだろうからなぁ・・・。

 ようやく今の状態まで緩めてきたというのに、ここで大切な誰かに死なれて意固地になられでもしたら元サヤに収まってしまいかねん。なんとか二人を無事に救出して城まで連れ帰る手段を模索しなければ・・・)

 

 黒く染まった暴君は己のマスターのために、エーテル製の心臓の内側だけに冷や汗をかく。

 衛宮切嗣の本質が甘い夢想家であることを、黒く染まった暴君騎士王はとっくに見抜いていた。

 彼は必要な犠牲に対して『必要な犠牲だったから』と何も感じていないわけではなく、『必要な犠牲だから仕方がなかったのだ』と自分自身に言い聞かせることで何も感じないよう努力しているタイプの男であり、アイリスフィールに言われるまでもなく根は優しい人物なのだろう。

 

 と言うか、ぶっちゃけ甘い。

 甘くないのなら『聖杯の力で世界を救済したい』などと子供じみた夢想を実現するため、聖杯戦争などと言う眉唾儀式に命がけで参加しようなどとは普通は考えない。

 結局は必要最小限の犠牲だけで世界中すべてが救えるように、自分一人が頑張りまくって罪を背負おうとする計画を絶対に成功させるため冷酷であろうと努力しているのだから、ド外れたお人好しと呼んで差し支えない人物だと言っていいだろう。

 

 そういう男だったから、セイバー・オルタも彼の剣として戦ってやろうという気になったのだから当然のことだ。切嗣が必要な犠牲を捧げるために自らの心を凍らせる、黒く染まった自分自身の劣化版みたいな道を歩んでいるだけの男だったなら彼女はここまで肩入れしてやろうとは死んでも思わない。

 

 が、しかし。

 現実問題として、味方からは犠牲を一人も出さずに敵を倒し尽くすというのは無茶振りであり、一方で切嗣が世界救済のための戦いで仲間に選んだ数少ない信頼できる大切な者たちのうち誰が死んでも絶対に影響しまくるだろうマスターの優しすぎる部分は重すぎるハンデであり、この状況だと本気でどうしようもなくなっちゃうので出来れば何かしら手を打ってほしくて仕方のない、敵の大群に囲まれた際には死ぬ運命になりがちなカムランの丘に立ち続けている騎士道物語の元祖さん。

 

 

(チッ・・・せめてコイツが余計なことを口走るなり、痛みで悲鳴を漏らすなり、アサシンどもに助けを求めるなりしてくれたら楽にことは運んだのだがな・・・。

 そこは腐っても聖職者どもの一員というところだな。プロパガンダに慣れている。容易にはこちらの手には乗ってくれんか・・・やれやれ。敵を侮りすぎたせいで対応を間違うとは、私らしくもない下らないヘマをしたものだ)

 

 チラリと、己の手の中に捕まってからしばらくして大人しくなってしまった言峰綺礼の後ろ姿を、忌々しげな視線で一瞥しながらセイバー・オルタが心の中で毒づく。

 

 彼女が先ほどまで言ったり、やったりして見せていたハッタリの茶番は、所謂プロパガンダであり、暴君として独裁者らしい手法を時間稼ぎに用いていただけのこと。

 『暴君』というシンボルに対して、敵が積み重ねてきた歴史上の象徴的なイメージを強調するような単語や言い方を連発してやっただけであって、謂わば観客の期待に応えてやった演劇でしかなかったとも言える。文字通りの茶番でしかない。

 

 そして、歴史上もっとも効果的にプロパガンダを利用したのはキリスト教会である。

 現代世界における聖堂教会がキリスト教と同じものかまでは、聖杯戦争に必要な現代知識しか与えられてないセイバー・オルタには判然としないけれど、似たようなこと言ったりブラ下げたりしてるから似たようなものと定義して良いのだろう。たぶん。

 

 プロパガンダという言葉の起源は『植える・種をまく』という意味のラテン語で、カトリック教会においてのプロパガンダは『人々に自分たちの宗教的な考え方を植え付けること』『信仰の種をまくという行為』だった。

 要するに、プロパガンダの専門家こそが聖堂教会であり、積み重ねてきた歴史もノウハウも一代限りで終わらされてしまった独裁者アーサー王とでは比較にならない。

 

 さすがに敵である騎士王が自分を殺さない理由まで予測しているのは有り得ないとしても、今の今まで捕らえた敵将を殺すことなく掠り傷程度で生かし続けてきた事実から鑑みて、セイバーには自分を殺したくても殺せない理由があることを予測する程度はしていてもおかしくない。

 

 事実として、最初の内こそ騒がしかった言峰は途中からだんまりを決め込んでしまって、暴君がいくら怖い言葉で脅しをかけても梨の礫だ。実に脅し甲斐のない、権力者をイラつかせる嫌みったらしい生臭坊主に引きこもってしまっている。実にムカつく。

 

「く・・・っ! 騎士王、貴様ぁぁぁぁ・・・・・・ッ」

「ふん。そう感情的に喚くなよ、二束三文で雇われる捨て駒ども。たかが人間のマスターが傷つけられて、オマケとして貴様らも侮辱してやっただけではないか。大したことではあるまい?

 殺し屋ごときに罵倒されて傷つけられる誇りや矜持などあるまいし、マスターに至っては右手と胴体さえ残っていれば現界するのに必要な魔力供給路としては機能する。

 我ら人類史に名を刻んで精霊の域にまで昇華した英霊にとって、人間の魔術師ごとき聖杯を手にするため節を曲げて一時的に仕えてやっているだけの間柄。いずれ裏切る主を相手に感情移入しすぎるのもどうかと思うがな。ククク・・・・・・」

「ぐ・・・ッ!! 貴様、騎士王・・・・・・」

 

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

 

 ――ほら、やっぱり。独裁者の発した一言一句でいちいち騒ぎ立ててくれるのは、歴史に名を残した暗殺者英霊の観客だけで、一番聞いてほしいし見てほしいメインゲストは、ウンともスンとも言やしないし反応も示さない。ホントーに腹立たしい。本気で殺してやろうか、この野郎・・・。

 

(コイツを殺せば、アサシン共も即座に消えるシステムだったなら、さっさと殺しているところなのだがな・・・。そうとは限らん以上、安全策をとらざるをえんのが辛いところではある。ああ、面倒くさい・・・)

 

 セイバー・オルタ、脅迫台詞吐きながら悪い笑顔で内心ウンザリさせれてるの図、である。

 だが、それもまた仕方がない。

 人も英霊も火も、消したからと言って突然消失してくれるとは限らない。煙のように尾を引いて、しばらくの間は残留してしまう可能性が常につきまとってしまう。科学ではない魔術分野では尚のことだ。

 たかが煙とはいえ、英霊の残響として残る煙である。天井へと昇って消えるまでに普通の人間くらい簡単に殺せるだろうし、消えようとしている相手の最後っ屁で動けない味方を殺されるなど笑い話にしてもアホらしすぎる結末だろう。論外である。

 

 それから、くどいようだが聖杯戦争は始まったばかりなのだ。まだまだリスクを伴う賭けに出る時期では全くないと断言できるほどに。

 開始から一定期間が経過したものの、未だに脱落したサーヴァントは0、マスターの方も今夜やっとランサーのマスターに切嗣が深手を負わせただけで、結局は取り逃がしてしまった可能性が高い。重傷を負わせて戦力外になったからと油断する愚行は切嗣もセイバー・オルタも無縁の局地だ。選択肢として有り得ない。

 

 要するに、時間がそれなりに経過したというだけで、戦局的には開始したばかりの頃とさほどは変化していないのが第四次聖杯戦争の現在の戦況だったのである。

 むしろ、開戦初日から毎日のように戦闘させられて、今夜は拠点までボロボロにされたっぽい自分たちセイバー陣営が一番ダメージ大きい気がするのは錯覚だと思いたくて仕方がないほど、あんまし状況的によくはないのだ。

 この上、たかがアサシン相手に味方が殺されてしまうかもしれない可能性のある賭けをしてまで殺すことに執着したくないのが黒く染まった合理主義者なアーサー王の嘘偽りなき本音だった。

 

 ハイリスク・ローリターン過ぎる博打としか思えないし、ラック低くて博打弱いアーサー王の英霊なのに大博打なんかしたくもない。

 

(――というか! そもそも何故アイリスフィールと舞弥は、こんな所でコトミネ相手に戦って敗れていたのだ!? 避難したのではなかったのか!!

 予想外の展開に慌ててやったアドリブとしては、結構がんばったつもりだぞ私!!!)

 

 セイバー・オルタ、再び心の中だけで絶叫。今度は味方に対してです。

 実際、彼女としては予想していなかった状況に鉢合わせしてしまって、地面に倒れ伏してた二人を無事に連れ帰るため即興でつくったプロパガンダ演じるのが精一杯で、敵が攻めてきたのとは反対側の方角に逃げたのだろうと予測していたアイリスフィールたちが全然違う方角で敵に倒されているのを発見したときには、かなり慌てふためいたものなのである。

 

 

(とはいえ、いつまでもこうしているのが不可能なのも確かだ・・・。

 今でこそ演出で私のペースに乗せているアサシン共も、いずれは此方から手を下そうとしない現状から事実に気づくのは確実だからな。そろそろ賭に出ざるをえんかもしれない・・・。

 やりたくはない。だが、人にも英霊にも賭に出るしか道はないこともたまにはある)

 

 

 そう割り切って、腹を決めるセイバー・オルタ。

 マスターに来てもらったところで、サーヴァント相手には殺されるだけだし、《魔術師殺し》に怪我人のアイリたちを守り抜けと命じるのも無茶振りだけど、だからといって援軍に来てくれそうな味方が他にいる訳でもない。

 どうしようもない、八方塞がりの状況なのである。彼女でなくても多少は強引な手も仕方ないと割り切らざるを得なくなるのも宜なるかな。

 

「――わかった、わかった。貴様らの熱意に免じてマスターは今この場で、無傷のまま返してやる。ちゃんと受け止めてやるのだぞ? ・・・・・・落とすなよ?」

「無論だ。――――って、え? 落とすってなんのこ・・・・・・」

「よっこらしょっと」

 

 相手の返しを一切聞かぬままに、セイバー・オルタは言峰綺礼を掴んで、頭上高くに持ち上げてしまう。

 

「・・・セイバーよ。貴様一体何を・・・・・・」

 

 さすがの言峰綺礼も戸惑い気味な声を上げてくるのが、頭上から聞こえてきた。

 いかに中国憲法の達人とはいえ、その両足が地面より引き離されて踏ん張れるだけの足場もなく、手足をバタつかせるだけが挙動のすべてにされてしまった現状に対しては何かしら言いたいことが出来たようだったが、所詮は敵の都合でしかない。

 無視してセイバー・オルタは、彼を軽く放り上げて自らもジャンプして即座に着地。

 持ち方を変えた綺礼の両足をそろえた状態で掴む姿勢に変わってから、ぐるぐるぐるぐる回り出す。徐々に、徐々に、猛スピードで回転速度を上げていきながら、やがて。

 

 

「うおぉぉぉぉぉぉぉっ!!!!!!!

 コトミネキレイを綺麗に返却フルスイング・フォアボ――――――ッル!!!!!

 どっせぇぇぇぇぇぇぇぇっい!!!!!!」

 

「ぬぅっ!? お、おおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!???」

 

『ま、マスタ――――――――――――――ッッ!!!???』

 

 

 現代風の格闘技だとか言う、ジャイアントスイング流投げ技を使って、適当な方向へとお空に輝く星にするため全力投球して投げ捨ててしまったセイバー・オルタと、悲鳴ににも似た大声量の何事かを叫びながら空高く飛んでいかされて見えなくなっていく言峰綺礼。

 そして、彼の後を大急ぎで追い始めてゆく、彼のサーヴァントであるアサシンの連中。

 

 森中のどこに仲間を配置していてもおかしくないアサシン連中とはいえ、セイバーが今この時の思いつきで適当な方向へ投げ飛ばしてみただけの場所に、最初から味方を配置している馬鹿はいないし、空中落下の魔術制御は基本とはいえグルグル振り回されて目が回ってる場合も考慮すると万が一のために迎えに行っておいた方がいいだろう。

 なにより、マスターが離脱させれれてしまった戦場にアサシンだけが残って、戦っても勝てるはずのないセイバークラスを相手に戦い続けなければならない理由はどこにも存在しない。

 直ぐさま彼らも撤退の決断を下して退き始め、内幾人かがセイバーたちに向かって牽制とラッキーヒットによる敵戦力の消耗を狙って投げナイフを投擲するが防がれてしまい、舌打ちしながらも執着せずに全速力で撤退していく後続に合流すると森の闇の中へと姿を溶け込ませてしまうのであった。

 

 敵が撤退した後も、セイバー・オルタは構えを解くことなく安全になったと確信できるまで現状維持を決め、ひたすら時を待ち続けていく。

 しばらくして安全になったと確信できたセイバー・オルタは拳を降ろして周囲を見渡し、舞弥とアイリスフィールの二人を担いで城まで運んでやろうと荷物みたいな持ち方で持ち上げてやると、あまりにも多事多難すぎて疲れすぎた今夜の夜空をボンヤリと見上げる。

 

 

 そして、思うのだ。―――やはり、この聖杯戦争は間違っている。・・・と。

 

 聖杯の術式を作り出したアインツベルン家の現在当主な爺は、たしかこう言っていたはずだった。

 

 

“聖杯は、それを必要とする者から優先的にマスターを選別する。ただし、現界が近づいても人数が揃わなければ、本来は選ばれないようなイレギュラーな人物が令呪を宿すこともある”

 

 

 ――と。

 それを踏まえた上で、少し前に撃退してお帰り願ったキャスターのサーヴァント ジル・ド・レェが言っていた言葉を思い出してみると、確かこう言っていたはずである。

 

 

『貴女が蘇ってくれた以上、もう聖杯などは用済みなのですがね・・・・・・』

 

 

 そして先ほど、夜空のお星にさせてしまいたかった腐れ神父。

 

 

『そんな衛宮切嗣を知らない。まるで理解できない存在だ。

 衛宮切嗣は誰にも理解されず、肯定されない、世界と隔絶した魂の持ち主でなければならないのだから・・・・・・』

 

 

 ・・・なぜか、聖杯そのものよりも、聖杯を手に入れるための手段でしかないはずの倒すべき敵の人格に興味津々だった生臭坊主。

 

 

 

「聖杯・・・マスターもサーヴァントも必要としてなさそうな奴が二人も選ばれているではないか・・・。

 7人と7騎のうちマスターとサーヴァントから最低一人ずつ確認されてる例外ってなんだ。総数十四人の中で二人も例外がいたら、それはもう例外とは呼べんだろう普通に考えて。

 比率的に見ておかしいし、どう考えても人選ミスだし。途中で変心する程度の変化も予測できん杯が万能だなんだと過剰な形容句で呼ばれているなら、もっと性質が悪い代物としか思えない・・・・・・。

 なんというか、これからは余計に気をつけないといけない要素が増えてしまったようで物凄くイヤなのだが・・・・・・誰か助けるための援軍に来てくれんものかなぁー・・・。このさい花のバカ魔術師でもいいから来てほしくて仕方がなくなってきた……はぁ」

 

 

 

 数字を基準として物事を考える合理主義者の暴君は、業も深いが悩みはもっと深いようであった。まる。

 

 

つづく




*『言峰紀礼を綺麗に返却フルスイング・フォアボール』について解説と謝罪。

正確には《ボール》が正しいのですが文字媒体じゃ分かり辛いため《フォアボール》と表記しております。ご了承ください。
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