もしも切嗣が喚んだセイバーがオルタ化してたら   作:ひきがやもとまち

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*サブタイトルだけZEROっぽく変えてみました。


ACT1

「あ痛たたたた・・・・・・くそっ、セイバーの奴め。人間とサーヴァントを同じ基準でトレーニングさせようとするなんて・・・。これだから英雄って呼ばれる連中は気に入らないんだ!」

 

 強く黒檀の机を拳で叩いて理不尽すぎるサーヴァントへの怒りを発散させて、心を落ち着けようとする。

 

 今日も今日とて万年雪に包まれたアインツベルン城周辺を、黒く染まった聖剣振り回しながら追いかけてくる暴君騎士王陛下と命懸けの鬼ごっこを日が沈むまで強制堪能させられた切嗣は酷く機嫌が傾斜傾向にあったのだが、どういう訳だか常は木漏れ日のように優しい笑顔で包み込んで癒やしてくれる愛しき新妻アイリスフィールが「くすくす」と嬉しそうに笑っているばかりで調子が狂って仕方がない。

 

「あら、そんなこと言って。あなただって結構楽しそうにはしゃいでいるように見えたわよ? 私も普段は見られない夫の側面を見ることが出来て嬉しかったし」

「・・・勘弁してくれ・・・」

 

 切嗣は苦々しそうな顔で頭を振って、妻の言を否定すると自室の机に向かって歩き出す。

 如何に生前は勇名を轟かせた名のある英霊であろうとも、聖杯戦争で使い魔として召喚されるサーヴァントは本人自身の影でしかなく、マスターにとっては使い捨ての駒でさえあればそれでいい。

 そう固く信じようとしている切嗣にとって、自分が脳味噌筋肉としか思えないサーヴァントに振り回されるなど笑い話にしたって出来が悪すぎる喜劇でしかなかった。

 

 

 ・・・使い魔でしかないサーヴァントの扱いで、ここまで苦労させられるマスターなんて歴代参加者でも、僕一人だけに違いない・・・。

 

 

 切嗣がそのように感じ、確信を抱いたのと同じ頃。遠く極東にある日本の冬木市では一人の少年見習い魔術師が儀式のための魔法陣を描いている最中にくしゃみを連発していたのだが。

 神ならぬ人の身に過ぎない切嗣には知る由もないことだったので、気にすることなく彼は椅子に座ってデスクトップPCを起動し、先日依頼しておいたロンドンの時計塔に潜り込ませていた密偵からの情報に目を通し始める。

 

 それは、これから自分が参加して戦うことになる聖杯戦争において競い合うライバルたち――他の聖杯戦争参加者たちに関する事柄についてだった。

 

「・・・ふむ。判明したのは四人まで、か」

 

 御三家の一つ、遠坂からは当然のように今代当主の遠坂時臣。

 同じく御三家である間桐は、当主を継がなかった落伍者を強引にマスターに仕立てたらしい。

 

 外来の魔術師は二人。

 まずは時計塔から“神童”と名高い一級講師の、ケイネス・エルメロイ・アーチボルト。

 それから聖堂教会から派遣されてきたという、言峰綺礼。聖遺物回収と異端抹殺を担う教会の暗部“第八”の代行者だったと言う、異色な経歴の持ち主。 

 

 

「・・・・・・」

 

 切嗣は最後の人物に関するデータの辺りまで読み進めてから突然に、画面をスクロールさせていた手を止めた。そして表情を引き締めると、剣呑な面持ちで画面を見入る。

 彼、言峰綺礼という男について書かれた僅かばかりの細やかすぎる個人情報を。

 

「・・・・・・どうか、しました?」

 

 夫の様子に不審さを覚えた妻が声を掛けてきてくれる。

 

「この、言峰神父の息子。経歴まで洗ってあるんだが―――」

 

 切嗣が椅子を動かし身を引いて、愛する妻にも液晶ディスプレイが覗き込めるように角度を調整して上げる。

 それでも尚、紙ではなく画面から文字を読み取るのに慣れていないアイリスフィールは難儀したのだが、真顔の切嗣を慮って愚痴一つ言わずに画面に映された文字を読み進めていく。

 

「・・・言峰綺礼。一九六七年生まれ。幼少期から父、璃正の聖地巡礼に同伴し、八一年にはマンレーサの聖イグナチオ神学校を卒業・・・・・・二年飛び級で、しかも主席? 大した人物のようね」

 

 このまま行けば枢機卿にでもなりかねない絵に描いたようなエリートの人生。

 だが、途中で横道に逸れ、それ以降は彼方此方の部署を転々としながら各部署で一定以上の成果を上げて成果を高めはするが、それらのどれにも執着することなく次へ次へと移動し続けて、最後には聖堂協会の汚れ役を担う出世街道からは一番遠い『代行者』――異端狩りの第一級殺戮者になってしまっている。

 

 ここ最近では魔術師教会への出向という名目で聖杯戦争参加者の一人、遠阪時臣に弟子入りして直弟子の位を授けられたらしいと添付されていた。

 

 なかなかに多芸で、トリッキーな立ち回りを可能とした異色の魔術師と呼ぶべきではあるだろう。

 ―――だが、しかし・・・・・・

 

「・・・・・・ねぇ、あなた。確かにこの綺礼というのは変わり者のようだけど、そこまで注目するほどの男なの? 色々と多芸を身につけてるみたいだけれど、格別に際立ったものは何もないじゃない」

「ああ、そこがますます引っかかるんだよ」

 

 自分の答えに解せない様子の妻に、切嗣は根気よく説明する。

 

「この男は何をやらせても“超一流”には至らない。天才なんて持ち合わせていない、どこまでも普通な凡人なんだよ。そのくせ努力だけで辿り着けるレベルまでの習熟は、おそろしく早い。おそらく他人の十倍、二十倍の鍛錬をこなしてるんだ。そうやって、あと一歩のところまで突き詰めて、そこから何の未練もなく次のジャンルに乗り換える。まるでそれまで培ってきたものを屑同然に捨てるみたいに」

「・・・・・・」

「誰よりも激しい生き方ばかりを選んできたくせに、この男の人生には、ただの一度も“情熱”がない。こいつは――きっと、危険な奴だ」

 

 切嗣はそう結論づけた。その言葉に秘められた裏の意味を、アイリスフィールは知っている。

 彼が『厄介』ではなく『危険だ』と評するのは、最も警戒すべき敵手に対してのみ用いる言葉。魔術師殺し衛宮切嗣が本気の牙を剥くべき敵と見込んだ証であった。

 

「この男はきっと何も信じていないんだ。ただ答えを得たい一心であれだけの遍歴をして、結局、何も見つけられなかった・・・そう言う底なしに虚ろな人間だ。

 こいつが心の中に何か持っているとするなら、それは怒りと絶望だけだろ―――――」

 

 

 バタン!!!

 

 

「マスター! 私を召喚するほどの魔術師でありながら、いつまで薄暗くて湿っぽい城の中で引き籠もり生活を続けているつもりだ!?

 特にやることがなくても身体は動かす。それが出来るマスターというだぞ、ご主人様よ!」

「またお前か!?」

 

 

 毎度のようにドアを蹴破り乱入してくる切嗣が召喚したセイバーのサーヴァント、剣の英霊アルトリア・ペンドラゴン(オルタ)。

 勝手に部屋には入ってくるなと何度言い聞かせても聞く耳もたず、他人の城を我の庭だとでも思っているかの如く自由気ままに歩き回り、不法侵入を繰り返し続ける霊体化できない騎士のサーヴァントは、今日もまたマスターの部屋に土足で踏み入り踏みにじりながら突き進んでこようとする。

 

「来るな! 英霊の影如きが用もないのに僕に近寄ろうとするんじゃない!」

「断る! 良き信頼関係とは何物にも代えがたい宝なのだ。私が貴様に厳しく当たるのは、貴様を信じているからに他ならない・・・。

 故にこそ! 貴様に仕えるメイドとして、主の職務怠慢は看過できん!

 さぁ、外に出て稼いでらっしゃいませ! ご主人様よ!」

「魔術師は外に出て働きに行かないものだと何度説明すれば理解できるんだお前は!

 あと、規格外の資産を持つ大富豪のアインツベルンに婿養子として招かれた時点で、僕は一生遊んで暮らせるだけの大金を手にしている! 今更普通の社会へ働きに出向く必要性は微塵も無い!」

「それは引きこもりの屁理屈だ! ――まったく・・・ここまで手の掛かるマスターとはな。

 そろそろ一人前だと感心していたらこれだ。ちょっと目を離していただけで、元のほんわかマスターに戻るとは・・・。これではいつまで経っても私が面倒を見ていなければならないではないか」

「そんな格好で城の中をうろつき回る奴に言われる筋合いは少しもない!!」

 

 怒鳴り合う主従。それを見守りながら、お腹を押さえて爆笑するのを全力で堪えているアイリスフィール。

 なかなかに混沌とした状況ではあったが、セイバーの格好が場とそぐわないことこの上ないので、今この場においては切嗣の主張にこそ理があり正当性がある。正しく正義の主張と言えるだろう。

 

 ・・・なにしろ万年雪に取り囲まれた極寒の城内で、ビキニ水着にメイドカチュ-シャ付けて革ジャンを羽織るというキチガイファッションである。

 そして、剣の英霊・セイバーのサーヴァントでありながら、右手に握られているのは剣ではなくて、メイド型ホムンクルスから分捕ってきたらしきモップ。

 

 切嗣でなくても怒鳴り散らして注意して、即座に改めさせる以外に選択肢がないであろう異常すぎる服装であったが、反転して暴君化している騎士道の祖たる騎士王にそのような理屈は通用しない。意味を成さない。

 

 

「マスター。敢えて私から問おう。―――このメイド服になにか問題でも?

 メイドとは規律を守る者。即ち軍隊だと私は認識しているのだが?(ジャキン)」

「え。あ、いや、えっと・・・・・・」

「アルトリアと言えば聖剣。聖剣と言えば私だが、このようなモップでさえ私の手に掛かれば如何な名剣よりもよく斬れる斬撃武装に早変わりする。

 基本的に斧と包丁以外は何でも武器として使いこなせるのが私なのだが・・・重ねて問おう、マスターよ。このメイド服に何か問題が?」

「・・・・・・」

「このメイド服は気に入っている。私は決して着替えない」

 

 

 人の身では絶対に敵わない超常的存在が魔力で編んだ黒い聖剣実体化させて睨み付けてきながら質問されたら、如何に裏社会で悪名を轟かせる魔術師殺しと言えども黙って椅子に座り直すしか出来ることはない。

 

 本音を言えば令呪を消費してでも禁止させたい行為が山のようにあるのだが、たった三回しか使い得ないマスターが有するサーヴァントに対しての絶対命令権を、この暴君英霊相手に非戦闘分野で使ってしまうのは無駄遣い以外の何物でもなかったから、そうする以外になかったのである・・・。

 

 

 入室を許可された訳ではないが、制止していた声もなくなったのでズカズカと無断で上がり込んでくる使い魔を誰も止めることができぬままセイバーは、苦虫をかみつぶした表情を浮かべる切嗣のすぐ隣にまで接近して「ん?」と、何かに気づいたように歩を止めて立ち止まりディスプレイの画面を無言のままに凝視し続ける。

 

 それまで面白そうに笑いを堪えていたアイリスフィールも、いつになく真剣そうな面差しのセイバーの様子をいぶかしみ、心配そうに声を掛けてくる。

 

「どうしたの? セイバー。あなたから見ても、この言峰っていう人は危険だと感じるほどの相手なのかしら・・・?」

「いや、違う」

 

 意外にもあっさりと首を振って否定したセイバー・オルタは、「だが・・・」と、己がマスターとなった中年男性の目をまっすぐに睨み付け、噛んで含める口調で忠告してくるのだった。

 

「マスター、今この場でこれだけは約束してもらおう。もしこの男と貴様が一対一で対決しなくてはならない状況に陥ってしまった場合、聖杯戦争の戦況に関わりなく躊躇せずに令呪を使用して私を呼び寄せ、この男を切り伏せ去るよう命じるのだ。

 それが貴様を愛する妻子の元に生きて返す最善の一手になるのは間違いないと断言できるからな」

「・・・どう言うことなんだ? 説明しろ、セイバー」

 

 珍しく切嗣も強い口調でセイバーの真意を詰問する口調で問いただす。

 セイバー・オルタもまた、厳しく真面目な表情をつくり、真摯な口調でマスターに対し換言を奏上する。

 

 

「――私の時代にはよくいたのだ。こういう、生まれてくる家を間違えてしまった子供がな。

 彼らの多くは様々な美徳に恵まれていたが、その全ては彼ら自身にとっては何らの価値も有さないゴミとしか映っていない。周囲にいる他者と己の間で価値基準に大きな隔たりを感じさせられながら育てられなくてはならない家の子供に生まれてしまったからだ。

 それでいて彼らの多くは優秀だった。英雄になれる程の才能はないが、凡人が至れる極みには達することができる程度の才能はほぼ必ず持ち合わせていた」

 

「だからなのだろう。彼らは幼い頃より自らの能力で家が求める素質の持ち主であることを示してしまい、家の都合を第一に考える家族から最大級の愛情と共に素質とは無関係な膨大な量の教育と訓練と様々な物を与えられながら育てられてしまう。

 そこは自分のいるべき場所ではないにもかかわらず、頑張って成果を出せば『何でも与えられる環境』の中で自分に合った物だけ『与えてもらえることなく』育てられてしまうのだ」

 

「どんなに頑張って成果を出して、ご褒美に多くの物を与えてもらったところで、自分がいるべき場所ではない家に、その子供を満足させられる物を与えることはできない。

 多くの物を持っていて、多くの物を与えて上げられる代わりに、その子供が欲する物だけは与えることが決してできない家。

 そう言う家に生まれてしまった子供には本来、自分が求めるべき物がなんであるのか解らぬまま育てられてしまう、知らぬまま教えてもらえぬまま育てられてしまうのだ」

 

「そのように育てられた子供は当然のように、壊れた心を持った大人に育ってしまう。

 自分が何者かさえ知らぬまま、解らぬまま、ただただ『教えて欲しい』、『頑張れば誰かが教えてくれるに違いない』と思い込み、子供の頃から延々と繰り返してきた同じ無駄を再び繰り返し続ける大人に育つのだ。それしかやり方を教えてもらってこなかったから、他の方法があるのかどうかさえ解らないし、知らされてすらいないから」

 

「私が知るだけでも“彼”がいた。私からブリテンを奪うため魔女によって生み出され、その為の機能だけを与えられて伸ばされながら育ってしまった腹心の補佐官が・・・。

 “彼”は自分を作った産みの親にも自らが与えられた使命にも興味を示すことなく、ただ“そうあれかし”と自分の役目を全うするにはどうすれば効率がいいのかだけを考えながら生きてきた。

 彼の心は空っぽだったが、満たそうとも思っていなかった。空なのが悲しいとも辛いとも思っていなかったようだし、あるいはそのような感情すら知らなかったのかも知れない」

 

「だが、彼には私がいた。私は彼を見ていたし、彼も私だけは見てくれていた。私を通してではあるが、私の周囲にいる人間たちにも目を向けてくれるようになっていった。

 ――だが、コイツには私すらいない。いて欲しいと願う人間が誰もいない・・・」

 

「こういう奴はな、マスター。危険ではなく“危うい”と呼ぶのだよ。自分がどんな理由で何を仕出かすような人間になるのか、本人でさえ考えながら生きてきていない。

 加齢に伴い賢しげな知恵と知識を有するようにはなったから、世間の汚れやつまらぬ大人の手練手管には長けているが、その実中身は純真無垢な子供のままなのだ。

 『努力すればいつかは正しく報われる』と信じて、自らで自分を定義しようとは考えようともしない、求める物を与えてもらうため努力し続ける純白の子供心をもって大人に成長した“男の子”でしかない。

 だからこそ、人に欺されやすい。

 それまでと百八十度違ったものを与えられ、それまで得られなかった物を与えてくれるヤツが言う言葉には容易く欺されてしまう。

 “蛇にとってのいいカモ”になりやすいのだ、こういう手合いはな」

 

「マスター。貴様がコイツに何を見ているのかは知らんが・・・私が保障してやろう。

 “コイツから貴様が得られるものは何もない”。コイツ自身が与えて欲しい、与えて欲しいと、あちらこちらに手を伸ばしては手に入らず失望して去って行き、また次へ次へとコウモリのように渡り歩く“持たざる者”である以上は、貴様がコイツに何を期待しても与えられることは決してない。

 “何もかも捨ててきた者には与えてもらうことは出来ても、与えることだけは決して出来ない”。“それ故に、この男から貴様が得るべきものは無く”コイツを操る笛吹き男の掌の上で踊り狂わされて舞台上から転落死する未来だけが確定して与えられてしまうのは確実だ」

 

「だから、マスター。貴様はコイツと出合って戦う際には、決してコイツと戦うな。私を呼び、私に切り伏せさせろ。サーヴァントはマスターを守る盾であり剣だ。

 剣の担い手が行く先で露払いをするのは剣の務めだ。だから私を呼び、私に切らせさえすればそれでよい。どうせコイツには、貴様が殺す価値すら持ち合わせてはいないだろうからな」

 

 

「・・・・・・そうなのか?」

 

 長いセイバーの話を聞き終えた切嗣が、ほんの少しだけ先ほどとは違う感情を乗せた声でセイバー・オルタに問いかけて、彼女はいつもと同じく自信満々で傲岸不遜そのものな声で「無論だ」と断言してみせる。

 

「・・・なぜ、そう言い切れる?」

 

 切嗣から、どこか縋るような響きを帯びた声で尋ねられたとき。

 セイバー・オルタは常と変わらぬ口調と態度で己がマスターと言峰とを、いつも通りに正しく比べて評価を下す。

 

 

 

「愛する妻を得て、帰りたい我が家を得た男が、今さら絶望者如きから何を得られるというのだ? 怒りと絶望しか知らぬ男に、愛を知った貴様は教えて与えることしか出来なかろう?」

 

「逆に私からも問おう。マスターよ、貴様は私に何を望み、何を求めるのか?

 勝利か? 聖杯か? 愛する妻子と共に在り続けられる幸福な未来か? あるいは誰にも邪魔されずに行われる絶望者との決闘か? どれなのだ?」

 

 考えるまでもない質問で在り、答えだった。

 それでも相手が騎士王の英霊、セイバーのサーヴァントというだけで即答したくなくなるのが衛宮切嗣という魔術師殺しが背負った宿命でありカルマでもあるのだろうけれど。

 

 

「・・・・・・未来だ。アイリを犠牲にして作るイリヤが幸せに生きられる平和な未来を作るため、僕はアインツベルンのマスターとして聖杯戦争に参加するのだから・・・・・・」

 

 

「結構。これで契約は成立した。なればこそ、私は改めてここに誓おう。

 我が剣に誓い、必ずや主君、衛宮切嗣の願いを叶えることを今この場において我が名に誓おう。

 セイバーのサーヴァントではなく、ブリタニアを統べる者、騎士王アルトリア・ペンドラゴンとして、必ずや今生の主に勝利の喜びを捧げることを。

 ここに誓いは果たされた。勝利の栄光を、貴様とアイリスフィールとイリヤスフィールの全員に!!」

 

 

 

 ・・・・・・こうして、聖杯戦争の舞台となる極東の日本から遙か彼方の万年雪の古城において衛宮切嗣の立案した作戦は真の意味で完成された。

 

 サーヴァントとマスターの完全別行動。

 歴史に名だたる英雄を勝利のための道具として使う騎士の誇りを穢す行い。

 

 サーヴァントが囮となって敵を引きつけ、その背後からマスターが敵を討つ非情の策略を、囮となるサーヴァントが進んで引き受け主に勝利をもたらすための剣として己を定義し、一週間の短い間だけではあるが完全なる主従関係と信頼関係が二人の間で結ばれたのである。

 

 

 果たしてこの誓いは、血塗れの運命にある第四次聖杯戦争に変化をもたらすものであるのか否か。

 今はまだ、その答えを知るものは誰も生まれてきてはいない・・・・・・。

 

 

 

 

「ところで、マスターよ。城の周りの雪にシロップを掛けてアイス代わりにするのは飽きてきたから、そろそろ本物のアイスが食べたいのだ。街に出て買ってきたいから付いてきてはもらえないだろうか?

 なにしろセイバークラスの対魔力は我が身しか守ってくれないから、マスターが傍にいないと盾としての効果が激減してしまうのでな」

「お前、今までずっとアイスクリームの代わりに雪食べてたのか!?」

「うむ。エーテル製の胃は腹下しを心配する必要性がないからな。味は単調で種類も限られてはいたものの、無い物は仕方がないと諦めていたのだが・・・。

 こうして主従の契りを正式に交わし合ったのだから、当然メイドはご主人様にアイスクリームを買ってきてもらう権利を主張できるようになったと思うのだ。

 それで、どうなのだ? 本物のアイスを食べたいと言う、私の願いは叶えられるのか!?」

「おま・・・まさかそれが本当に聖杯へかける願いなんかじゃないだろうな!? なぁ!?」

「・・・・・・(プルプル震えながら爆笑するのを必死に我慢してるアイリ)」


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