もしも切嗣が喚んだセイバーがオルタ化してたら   作:ひきがやもとまち

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*書いたのが久しぶりだったせいか、1話前の内容と矛盾する部分があったことに今更気がつきましたので一部差し替えました。


ACT18

 ケイネス・エルメロイと言峰綺礼の襲撃を撃退したアインツベルンの森には、ふたたびの静寂が訪れていた。

 だが、城の各所に刻み込まれた激闘の爪痕は依然として生々しく残されている。

 

 本国にあるアインツベルン本家から連れてきたメイド達に手入れさせた城内は切嗣とロード・エルメロイの戦いの余波で惨憺たる有様と成り果てて、壊れた箇所を補修しようにも雑事を任せられるメイド型ホムンクルスを全て帰国させてしまった後とあっては文字通り後の祭り。

 アイリスフィールとしては溜息を吐きながら破壊を免れた数少ない部屋の一室で傷ついた久宇舞弥の治療に専念するぐらいしか他にできることはなにもない。

 

 ――そうなるしかないと思っていたのだが。

 

「フフフ・・・どうだアイリスフィールとマスターよ。私がメイドとしてこの屋敷に来てから屋敷の充実ぶりは?

 壊れた窓ガラスも欠片もない窓枠、瓦礫ひとつ残さず綺麗サッパリ片付けられた廊下――まさに完璧な奉仕と言えるだろう」

 

 ――とか言いながら、なんか戦いはじめる前の時間まで巻き戻って、繰り返される数日間をループしている異空間に迷い込んだような妄言を大真面目に吐きつつ。

 自分が壊したときよりヒドくなった屋敷の惨状を、敵が壊す前よりかはマシだった自分が壊したときの状態まで戻すために、ビキニ水着メイド服着た最優のサーヴァントであるセイバー・クラスの【筋力(A)】を瓦礫撤去という名の清掃作業に転用しまくる、具現化された神秘の無駄遣いが無意味に張り切ってくれてたので何とかなってしまった。

 

 まぁ、一般人の業者に依頼して廃墟もかくやとなった城内の瓦礫を撤去するのに必要となる重機を運び入れてもらう訳にもいかない以上、人間離れした筋力は大いに助かりまくったのは事実なのだけれども。

 さすがに魔術師の名門アインツベルンの傑作ホムンクルスとして、サーヴァントの力をブルドーザー代わりに使うことには抵抗ありまくりもする箱入りお嬢様のアイリスフィールでもあるのであった。

 

「アルトリアと言えば聖剣、聖剣と言えば異敵を撃退して守り抜いた私だが、このようにモップを持たせて、勝利した後の事後処理をやらせても円卓の中で誰にも引けは取らない。

 後は冷蔵庫の中を、冷やされたアイスと冷凍食品で満タンにできれば文句はないのだが・・・まったく。深夜の買い出しタイムでポテトと炭酸飲料を買い足すことすらできないとはな。

 これでは一体なんのために、このニホンという国まで来たのか分からなくなってしまいそうになってしまうではないか。勿体ないにも程があるというものだ」

「いやあの、セイバー・・・? 私たち別に観光にきた訳でも、ジャンクフードを食べるために日本に来ている訳でもないんだからね? 聖杯戦争よ、聖杯。そこの所だけは忘れないでちょうだいね・・・?」

 

 なんとなく、どこかでライダーを召喚してしまったマスターと似たような苦言を言ってしまっていると己自身も気づくことなく、この晩にこれから起こる未来を予測していた訳でもないアイリスフィールとセイバー・オルタは虫の予感があった訳でもない中でそれぞれに出来ることをできる限りやった上で、自分たちの陣営のマスターが帰還してくるまでの時間を思い思いに過ごしていたのだった。

 

 一方で切嗣はといえば、負傷した舞弥が担ぎ込まれるのと入れ違いに城を出て行ったきり、一度も帰ってきてはいないままになっている。

 おそらく取り逃したケイネス・エルメロイを追撃する意図があってのことだろうと察したアイリスフィールだったが、それは『魔術師殺しの衛宮切嗣』が敵の魔術師を仕留め損ねたという事実を示すものでもあったため、そうなった原因はセイバーにあるのだろうと説明されなくてもなんとなくそう思っていたのだったが―――出かけに放たれたセイバーから切嗣へのありがたい忠告によって、ちょっとだけ確信が揺らいでもいたようでもあった。

 

「一人で行くつもりなら、止めておけマスター。手負いの魔術師だけならいざ知らず、ランサー相手に囮役のマイヤも無しな今の貴様がなんの役に立つと言うのだ? 悪いことは言わんから、病人の側で介護でもしておいてやれ」

「・・・・・・・・・・・・」

 

 モップかけて掃除しながら、顔は向けずに声だけかけてきた相変わらず無礼なメイド服着たサーヴァントからそう忠告されて、一瞬だけ身体をギシリと停止させてしまいかけた切嗣だったが、いつも通りそれを咎めるどころか怒りを見せることもなく、ただ冷淡に見えるよう無視するだけでセイバー・オルタをあしらうだけで去って行き。

 

「ジッとしているだけだと落ち着かんか・・・・・・マスターらしいな。しばらくは好きにさせておいた方が和やかマスターの精神衛生的にも良さそうだし、放っておくとするか」

「ええぇ、っとぉ・・・・・・」

 

 なんというか、その態度がより一層にセイバーからマスターを理解させて、手のかかる子供を相手にしている母親めいた言動が飛び出す結果を招くことになってしまっていると切嗣は知ってか知らずか帰ってこないまま双方から話を聞かされてしまえる立場のアイリスフィールを微妙な心地にさせ続けていたのでもあった。

 

 夫と騎士王との上下関係を案じて、彼女がそっと溜息を吐いたときのこと。

 突如として轟音が夜のしじまを切り裂き、目眩のあまり倒れ込みそうになってしまうほど魔術回路に強烈な負荷をかけさせられる。

 轟音はまぎれもなく城の直近に落ちた雷鳴であり、同時にアイリスフィールを襲った魔術のフィードバックは城外の森に張られた結界が破られたことを意味しており、その衝撃の巨大さから突破などという生易しい手段によってではなく文字通りの蹂躙によって術式そのものを破壊しながら敵が進軍してきたことによる反動であることまでを証明するものにもなっていたのだ。

 

「大丈夫か? アイリスフィール。頭痛がするなら、今からでもアイスを買ってきてやるぞ?」

「だ、大丈夫よセイバー。ちょっと不意を打たれただけだから・・・。

 でも、なんてことなの・・・・・・正面突破ってわけ?」

「どうやら招かれざるお客様がいらっしゃったらしい。出迎えにでるから貴様は私から離れないように。

 そして無茶なお客様であってもメイドとしてもてなしてやるために、アイスとポテトの買い置きを次からは十分にしておくように」

 

 いちいち余計な言葉を付け加えてくるセイバー・オルタの言葉の前半部分にだけ頷きを返して、後半部分は聞こえなかったフリをしながら迎撃に出るセイバーに同伴する道を選ぶアイリスフィール。

 彼女の脚力にあわせた駆け足で二人は無残に荒れ果ててはいるものの、瓦礫は一つ残らず撤去され森の中の適当な場所に投げ捨てられて進路妨害してくる障害物はなにも残ってない城内の中を走り抜ける。

 目指すは吹き抜けの玄関ホールを囲むテラス。正面を破って侵入してくるであろう敵とは、おそらくそこで邂逅する。

 

「さっきの雷鳴、それに憚ることを知らぬこの出方・・・おそらく敵はライダーでしょうね」

「だろうな。派手好きなのは趣味ではないが、あの戦車だけは別だ。火力こそ正義!

 あの黒牛のような乗り物を私もライダーなりランサーなりで召喚されたときには持ちたいものだ」

「・・・・・・」

 

 なんかもう、色々と緊張感なさ過ぎる発言を繰り返してくるメイド服姿のセイバーからは、いつも以上にマイペースな気配しか感じさせてくれず、完全に精神がドイツの屋敷にいた頃にまで舞い戻っているのが別ってしまって、先日の倉庫街で見せつけられた宝具『ゴルディアス・ホイール』の大火力を思い起こしていたアイリスフィールとしては頭を抱える以外にはない。

 

 先日のキャスターやケイネス率いるランサーを戦って退けた時の心理状態でならいざ知らず、あれほどの大軍宝具を手加減抜きで今の状態の彼女に解き放たれたらどうなってしまうのだろうか・・・? メイド仕事が終わってなくて、心と体が服装と共に再チェンジしてくれる前のタイミングで襲撃されてしまったのが痛恨事である。

 

「おぉい、騎士王! わざわざ出向いてやったぞぉ。さっさと顔を出さぬか、あん?」

 

 既に正門を踏み越えたのか、ホールから堂々と呼びかけてくる声は案の定、征服王イスカンダルのもの。いっそ間延びして聞こえるほどの陽気な胴間声は、これより戦闘に望むものの語調とは到底思えない。

 

 だが、廊下を駆け抜けてホールを一望するテラスの上に到達したアイリスフィールとセイバー・オルタが採光窓から差し込む月明かりの光に照らされながら見た敵の姿は、間延びした胴間声以上に戦いに赴いてきたものとは到底思いようがないほどの凄まじすぎるもの。

 

「いよぉ、セイバー。城を構えていると聞いて来てみたが、なんともシケた所だのぅ。こう庭木が多くっちゃ出入りに不自由であろうに。

 城門に着くまでに迷子になりかかったんで、余がちょいと伐採しておいてやったから有り難く思うがいい。ワハハハ」

 

 悪びれもせず白い歯を見せて笑いながら、さも大儀そうに首をゴキゴキと捻り鳴らすライダー。

 それに対して逆に、セイバー・オルタは招かれざる客の無礼極まる“出で立ち”に舌打ちの音を盛大に響かせたくなって、辛うじて“メイドとして節度を保ち”適切な語調になるまで和らげた声音特徴で問いかけるのみ。

 

「ライダー・・・・・・貴様なにをしに来た? 大体なんなのだ、そのふざけたファッションは?

 仮にもブリテンの王たる私が住まう居城へと登城するに当たって、そのような道化じみた服装でまかり越すとは・・・それがマケドニアの流儀だったとでも言うつもりなのか? この常識知らずでマナーを知らぬ無礼者めが!!」

 

 ウォッシュジーンズにTシャツ一枚。

 その上、はち切れんばかりに分厚い胸板で自慢げに誇示されている大文字が、現代遊具でしかないゲームタイトルロゴの『アドミラブル大戦略』と書いてある、ふざけすぎてどう評したらいいのか誰にも分からないような出で立ちでやってきた【敵】に対して妥当な痛罵と叱責の言葉。

 

 ・・・だが今この時のアイリスフィールには、己の隣に立ち、自分の結界を破壊し尽くしながら侵入してきた敵を痛罵してくれた頼もしい騎士王のサーヴァントの言葉を聞かされて、一時的にでも剣を捧げてもらっている相手だと承知の上で心の中だけで密かに思わざるを得ない想いが僅かに、だが確かに存在していたのが事実であった・・・・・・。

 

 ―――ごめんなさい、セイバー・・・。

 今の貴女の言葉にだけは、私は声に出して賛成してあげられそうにないわ・・・・・・。

 

 ・・・・・・と。

 仮にライダーの着てきたラフすぎる服装が、敵国の王の城を訪れる際にはマナー違反過ぎて無礼すぎるマケドニア流ファッションだったとするのであれば、今現在セイバーが着ているビキニ水着に丈の超短いエプロンだけ巻いてカチューシャつけて、右手に聖剣ではなくモップ構えて迎撃に出てきた風体をブリタニア風には一体どういうコメントをすべきであるのか、彼女自身の誇りなのかプライドなのかよく解らない感情論を思うなら刺激しない方が良い類いの問題だったのやもしれない・・・・・・。

 

「何をしに来たもなにも、一献傾けにきたに決まっておろうが。見て分からんかったのか?

 大体なんだその、妙ちきりんな侍女服は? 今宵は余のように、当世風のファッションをしとらんのか」

 

 そう言って、自分の胸元で燦然と存在感を主張している『アドミラブル大戦略』のゲームタイトルロゴを、Tシャツの上から自慢げに「バシン!」と拳で叩いて示すライダーのサーヴァントを見上げ、ライダーのマスターであるウェイバー・ヴェルベットは思う。己が近い将来、絶対的な忠誠を捧げることに対象に向かって不敬の極みを思わずにはいられない。

 

 ―――いや、お前が言うなよ!? どっちもどっちだろ! 誰がどう見たって絶対にさぁ!?

 

 ・・・と。そう思っても、思うだけで声に出さない辺りが彼らしいと言えば彼らしくもあったが、今回ばかりは彼の意見が絶対的に正しく筋も通っていて、間違っているのは思われている両人たちだけである。

 

 十一月の寒空の下、Tシャツ一丁とジーンズだけで出歩く筋肉ダルマの大男と、黒ビキニ水着メイド服もどきで堂々と胸を反らしながら痛罵してくる目つきの悪い細身の美少女。

 

 ・・・・・・本気でなんなのだろう? この状況は・・・。

 どちらの方がマシかと問われたならば、どちらも己の方を指さして揺るぎなく、そして第三者達はどちらとも関わり合いたくない故の棄権が多発してしまいそうな状況の中。

 

 それでも。あるいは、それ故にライダーは己の方針もやり方も変えることなく、当初の予定通り持ってきていた酒樽を肩の上まで担ぎ上げ。

 

「ほれ、そんな所に突っ立ってないで案内せい。どこぞ宴に誂え向きな庭園でもないのか? この荒れ城の中は埃っぽくてかなわん」

「・・・・・・・・・はぁ~・・・」

 

 セイバー・オルタはうんざりさせられたという心情を隠そうともせず、これ見よがしに大きく溜息を吐いて見せ、軽く指を振って「着いてこい」という意思をジェスチャーで示して背を向け歩き出す。

 慌てて今の自分のサーヴァントになってくれている騎士王の少女の元まで足早に歩いて近づくと、声を潜めてライダーの真意について質問をし、本当に城の中へあげても大丈夫なのかどうかの確認を取る。

 

「罠、とか・・・そういうタイプじゃないものね、彼って。どういうつもりで来たのか分からないと対処しようも・・・」

「相手の真意がどうであれ、招き入れる以外に手はあるまい? 結界が壊され尽くした今となっては、奴の宝具が掠らされただけで屋敷全体が倒壊しかねん」

「う・・・、それはまぁ・・・・・・確かに・・・」

 

 実際、先程の落雷を結界無しの状態になった今になって改めて食らわされて無事で済ませられる自信はアイリにもない。不思議であろうとなんだろうと、入城そのものは受け入れる以外に他ない訳だ。

 

「あの男、やっぱりセイバーを懐柔したくて仕方ないのかしらね? それとも、まさか本当に酒盛りがしたいだけだったりとかの可能性も・・・?」

 

 ならばと思って、別の切り口から推測を述べてみた訳ではあったが、コレもまたセイバー・オルタに一刀両断されて、それで終わり。

 

「奴が何を企んでいようと、庭に案内してやれば相手から開陳してくる。それから改めて考えればいい問題だろうな。今から我々だけが悩み考えてやる義理はない」

「う、ぐ・・・・・・そ、それもまた確かに・・・」

 

 ぐうの音も出ない正論を前に、今度こそ黙り込むしかなくなってしまうアイリスフィール。

 ここら辺はやはり、学級の徒である魔術師と、合理性に徹した暴君としてのアーサー王が持つ可能性の実体化存在との間に広がる認識の壁という奴なのだろうか? 時々スゴく話がかみ合わなくて少しだけ困るときがある。

 

 ―――まぁ、それでも安心して任せちゃっても大丈夫そうだし。私が出る幕はどうやらなさそうね・・・。

 

 そう思い、今回の戦いでも自分は邪魔にならないよう後ろに一歩退いた場所から見守ってしまっても大丈夫そうだと安堵してもいるアイリスフィール。

 なんにせよ、敵味方の格好がどうあれ自らが信じて命を預けた騎士王のサーヴァントが普段の冷徹な頭脳と合理的に物事を思考する精神状態を回復できたことだけは間違いなさそうだったのだから。

 

 

 

 

「いささか珍妙な形だが、これがこの国の由緒正しい酒器だそうだ」

 

 そう言ってライダーが竹製の柄杓を自慢そうに取り出し、厳つい拳で酒樽の蓋を豪快に叩き割って一杯飲み干す。

 

 彼との宴を開く場所に選ばれたのは、城内の中庭にある花壇であった。

 先日の戦闘の傷跡もここには及んでおらず、一応はもてなしのメンツも立つ場所となると現在の傷だらけになったアインツベルン城内では限られすぎており、いわば消去法でこの場所しかなかったというのが正直な本音ではあったのだが。

 己の窮状を客に知らせぬのが、宴の主催者であるホストとしてのマナーであり、己を招き入れた相手が何を隠すために何を晒してきているかを見抜く目を養うのが敵対勢力の首脳に招かれたゲストのマナーと言うべきものでもあっただろう。

 

 本来は架空の存在である騎士道物語の祖でしかない、外交など全くできなさそうな騎士道症候群の重症患者臭い名君アーサー王とは裏腹に、オリジナルを元にしたIF存在である合理的な現実主義者の暴君アーサー王は『王たちの集う宴』というものを正しく理解していたから、特にこれと言って肩肘を張る必要性も意気込みを持って望まなければならない理由も持ち合わせておらず、自然体のままいつも通りに列席していた。

 

 ・・・せめて服だけでも着替えて欲しかったと、アイリスフィールだけでなく目のやり場に困っている純情童貞少年のウェイバー・ヴェルベット君にまで思われていたことは個人の事情として彼らのためにも言うべきではない真実であったのだろうけれども・・・。

 

「聖杯は、相応しき者の手に渡る定めにあるという。それを見定めるための儀式が、この冬木における闘争だというが――なにも見極めをつけるだけならば血を流すには及ぶまい。

 英霊同士、お互いの“格”に納得がいったなら、それで自ずと答えは出る」

「・・・それはまぁ、いいのだがな。ライダーよ・・・」

 

 相手が酒樽に突っ込んでから差し出してきた柄杓を臆することなく受け取りながら、セイバー・オルタは不審げに周囲を見渡し、自分たち以外にはアイリスフィールとライダーのマスターという『聖杯を手にする資格のない、英霊でもない格を競い合えない存在』しかいないままの光景を確認した上で、

 

「私たちだけの語り合いで答えを出すのか・・・? 流石に無意味すぎると思うのだが・・・」

 

 聖杯に招かれ、聖杯に手を伸ばす資格“だけは”確実に与えられている英霊のサーヴァントたちは全部で7騎。マスターは別としても、現在までに脱落したサーヴァントは事実上0。

 ・・・聖杯を奪い合う敵たち同士が、全員生き残ったままの状況なのである。こんな状況下で七分の二だけが話し合いして、なにを納得し合った所で戦局全体にはなんの影響も与えられるという気がまるでしないし出来ない。

 せめて、言い負かされて納得させられた側が、言い負かした方の配下に加わり次から二対一で一人の相手に挑めるようになるというなら話は別だが、それすらない以上は本気で二人だけで議論し合った所で平行線に終わる結果にしかならんような気しかしてこない合理主義思考の暴君アーサー王なのだけれども。

 

「ん? ああ、そういえば我らの他にも一人ばかり“王”だと言い張る輩がおったっけな」

 

 何気なくそう呟いたライダーの放言に応じるかの如く、まばゆい黄金の光が一同の眼前に沸き起こり、傲岸不遜な物言いと共に『残り最後の一人の王』が彼ら全員の見ている前に姿を現す。

 

 

「――戯れはそこまでにしておけ、雑種」

 

 

 黄金のサーヴァント、名がわからぬ遠阪のアーチャー。

 その突然の登場にウェイバーとアイリスフィールは度肝を抜かれて肝を冷やし、ライダーは気楽そうに泰然とした態度で笑いかけ、セイバー・オルタは彼らとは別の“ある一点”について気になったことで微笑みを浮かべている。

 

「よもやこんな鬱陶しい場所を『王の宴』に選ぶとは。それだけでも底が知れるというものだ。王たる我に、わざわざ足を運ばせた非礼をどう詫びる?」

 

 何時ものように、何時ものごとくアーチャーが傲慢な物言いと言い草で当然の如く己の断りを主張してきながらライダーのことをルビーの瞳で睨み据えてきた、その瞬間。

 

 ・・・クックックッ・・・と、せせら笑うような忍び笑いで黄金の王の『礼儀知らずぶり』を嘲笑する微笑が、黒く染まった騎士王の美麗な唇から漏れ聞こえる。

 

「セイバー・・・貴様、この我を侮辱するとは万死に値す―――」

 

 

「いや、失敬。二人の王が当世風のファッションで集まっている宴の場に、のっけから一人だけ無粋な戦支度で現れた王がいたものでな。

 ついつい、この場所を何かと勘違いさせてしまったのではとホストとして気に病んでしまっただけのこと。気に触ったのなら謝罪しようアーチャーよ。

 宴に招いたつもりで戦場と勘違いさせてしまったようで本当に申し訳なく思っている」

 

 

 

「・・・・・・・・・・・・・・・」

 

 

 その直後、一瞬にして姿を消したアーチャーはしばらくの間、音沙汰もなく戻ってこないまま数分の時が過ぎる。

 そして数分後、再び黄金の光と共に黄金の英霊が、金色の光を纏わせた姿で新たに再登場して戻ってくる!!

 

 

「見るがいい! そして思い知れ王を僭称する雑種共よ!!

 これが真の『王の正装』というものなのだという世界の真理を!!!」

 

 

『こ、これは!?』

 

 

 新たに現れ直した黄金の英霊の纏った、輝かしすぎるほど煌びやかな姿に流石のライダーもセイバー・オルタも瞠目せずにはいられない!!

 

 オールバックに撫で付けていた髪を下ろし、毛皮のファーをあしらったエナメルのジャケットにレザーパンツという現代の若者風装束に身を包ませて、身体の各所に金のブレスレットに金のイヤリング、首にはジャラジャラとした巨大な金のネックレスをぶら下げた姿で現れた英霊の立ち姿は、確かに見る者すべてにとって眩しすぎて・・・・・・金の臭いがプンプンしてきそうな装飾華麗さに思わず「ゴクリ・・・」と喉を鳴らしてしまいそうになる、財源は幾らあっても足りることのなかった国家の財政を預かっていた王二人の俗物共たち。

 

 

「これは・・・・・・うぅむ、たしかに侮れるぬ金ピカよ。貴様には確かに王の宴に参加する資格があるようだ。ほれ、歓迎のための駆けつけ一杯」

「・・・・・・そうだな。私も非礼は詫びよう。貴様には確かに私と語り合う“王の英霊”としての格があるようだ。言葉による決着は言葉によって成すが道理。改めて敷き直すと参ろうか」

「フハハハハッ! よかろう、特に許してやる。良きに計らうがいい雑種共」

 

 

 ――こうして十一月の寒空の下、廃墟もかくやとなった荒れ放題のアインツベルン城の中庭の一角に、外気の冷たさもこの際なんのそのと三人の若者の見た目をした英霊立ちが冷たい石床の上にドカッと座り込んで宴会を始める。

 

 

 Tシャツ一丁とジーンズだけ穿いてる筋肉ダルマの大男と。

 成金ファッションの典型例を貫きまくってそうな金ピカの美青年と。

 黒ビキニ水着メイド服もどきを未だに着たままの姿で王の宴に参加しちゃっている反転した騎士王美少女たちとの語り合いは、こうして始まった。

 

 始まってしまったのである・・・・・・!!!

 

 

「な、何なんだ・・・? このカオスすぎる仮装パーティーみたいな状況は・・・!? 聖杯戦争っていうのは、もっとこう・・・! なんかこう・・・! ああ、クッソウ! 訳わかんなくなって来やがった! ファック!!」

 

「・・・そんなことよりも、セイバー! セイバー! お願いだから、その格好のときだけは座り方に気をつけてちょうだい!

 キリツグから聞いたことある座り方だけど、アグラは駄目! アグラは駄目よ! その服装でアグラだけは駄目なのよー!?」

 

 

 そして、外野が小声でうるさい混沌に満ちた『王の宴』は、こうして開幕の刻を迎える事となる・・・・・・。

 

 

つづく


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