もしも切嗣が喚んだセイバーがオルタ化してたら   作:ひきがやもとまち

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昨日は中途半端になってしまったため急いで続きを仕上げました。
今回の話は割と真面目な内容になっております。

*話数を間違えて保存しちゃってたので書き直しました。申し訳ございません。


ACT19

 いささか以上に奇妙な出で立ちによるものとなってしまったが、本来は敵同士でしかない三人のサーヴァント達による『王たちの宴』は始まる運びとなったものの、その始まり方はあまり穏便なものとは言いがたかった。

 

「――何だ、この安酒は? こんなもので本当に英霊の格が量れるとでも思ったか?」

 

 征服王から渡された柄杓を傾け、ほんの一口だけ舐めるように舌をつけた瞬間にアーチャーは唇をひん曲げ、心底不快だと言うかの如く顔を歪めて吐き捨てたのである。

 

 到底、宴に招かれた側の王が取るべき節度ある対応とは言いがたかったが、当の征服王自身は器がデカいのか慣れているのか、それとも異国の王たちとの宴を最も多く催した征服者としての経験から気にするほどでもないと割り切っていたのか鷹揚とした表情のまま、のほほんと普通の返事を返すのみ。

 

「そうかぁ? この土地の市場で仕入れた内じゃあ、こいつはなかなかの逸品だぞ」

「そう思うのは、お前が本当に酒というものを知らぬからだ。雑種めが」

 

 嘲りに鼻を鳴らしたアーチャーは、己の傍らに例の空間の歪みを出現させ、先日の遠阪邸でアサシンを葬り、倉庫街でも無数の宝具をバーサーカー目掛けて撃ち出していた怪現象の前兆であることを見知っていたウェイバーとアイリスフィールは総身に悪寒を感じて腰を浮かしかけるが、今宵のアーチャーが空間の歪みから取り出したのは武具ではなく、まばゆい宝石で彩られた酒器と黄金の瓶だけだった。

 

「見るがいい。そして思い知るのだな。これが『王の酒』というものだ」

「おお、これは重畳」

 

 偉そうな表情と口調で偉ぶりながら、片手に落としてこさせた二つの杯をセイバーとライダーに1つずつ投げ渡してやり、のんき者なのか憎まれ口など日常茶飯事な生前の臣下でも持ってたのか否か、とにかくライダーはアーチャーの言葉も態度も気にしないまま嬉々として新しい酒を自分を含めた三人の王たちの杯に汲み分けてやけてやってから誰より先に呷って喝采をあげる。

 

「むほォ、美味いっ!!」

 

 その言葉に嘘偽りや誇張は一切なく、セイバー・オルタもまた一口飲んで喉に流し込んだだけで魂が震えるほどの多幸感に打ちのめされかけてしまったほどだった。

 かつて味わってきた、どんな酒よりも素晴らしい逸品。強烈かつ清浄、芳醇かつ爽快。

 惜しみなく賛辞を送るライダーの言葉に、アーチャーが悠然と微笑を返している姿だけは気にくわなかったが、それでも酒の味について否やはなく賛同の言葉でも呟こうかどうかと思っていたところ、

 

「凄ぇなオイ! こりゃあ人間の手になる醸造じゃあるまい。神代の代物じゃないのか?」

 

 ・・・ライダーの満悦そうに杯を手に揺らしながら漏らした言葉で一気に冷めた。

 極上の酒の味そのものは先までと何ら変わりはないし、強烈な芳醇さも、清浄なる爽快さも変わることなく味わえ続けている。

 単に、多幸感を感じられなくなっただけだ。自分自身の感情が邪魔して、この酒の美味を『幸せの味』とは感じられなくなってしまった。只それだけの違いでしかない。

 

「当然であろう。酒も剣も、我が宝物庫には至高の財しか有り得ない。――これで王としての格付けは決まったようなものだろう」

「ふざけるな、アーチャー。寝言は寝てから言うものだ」

 

 そして、一瞬前まで言うべきか否か迷っていた賛辞の言葉とは真逆の喝破をセイバーは口にし、何やら馴れ合いめいた雰囲気の漂いはじめていた場に一石を投じる。

 

「王の格とは、統治の業績によって決まるものだ。何を手に入れ、持っていたか、ではない。手に入れたもので何を成したか、それだけで決められるべきものなのが王の政というものだ。

 その程度の基本すら失念して酒蔵自慢に明け暮れる王など、器が知れようというものだろうよ。戯れ言をほざきたいなら王の宴ではなく劇場においてやるものだ」

 

 そう言って、杯を呷り一息に飲み干すセイバーの言葉にもアーチャーは鼻で嗤って一蹴するのみ。

 

 ――そこが最高の美酒の味はそのままに、彼女が多幸感を感じられなくなってしまった理由だった。

 アーチャーの倉に死蔵された宝は、酒であろうと武具であろうと所詮は『他国から奪い取って倉に収めさせた略奪品』でしかない。

 彼の国の酒職人たちが精魂込めて、この味を生み出すに至っていたという訳ではないのだ。

 この世全てを自分の庭と嘯く黄金の英霊本人ならいざ知らず、征服者共から祖国を守ろうとして戦って、結果的に征服され守り切れずに奪われてしまうことになる側の国家主権者としては、『奪う側の正当性』で味付けされた極上の美酒は味はともかく幸せを感じられる要素は大きく削られざるを得ない部分を、少なくともアルトリア・ペンドラゴン・オルタは感じさせられていたからだった。

 

「さもしいな。宴席に酒も供せぬような輩こそ、王には程遠いとは思わんのか?」

「生憎と、招いてもいないのに勝手に乗り込んできて我が物顔で居座る礼儀知らず相手に守るべき礼節などブリタニアにはない。

 酒の代わりに水でもいいなら、そこらの溜め池から汲んできてやっても構わんが?」

 

「おいこらお前ら、のっけから物騒すぎる上に、双方とも言ってることがつまらんぞ。宴の場の空気ぐらい読め、空気ぐらいは王だったら」

 

 尤もな正論によって場を収められ、セイバーもアーチャーも苦笑しているライダーの仲裁を受け入れ、座に座り直す。

 続いてライダーは、アーチャーに対して先を続ける。・・・どうやら意外と仕切り屋な性分をしている奴だったらしい。コミュ障気味な暴君二人が向き合ってる場においては結構なことである。

 

「アーチャーよ、貴様の極上の酒はまさしく至高の杯に注ぐに相応しい。――が、あいにくと聖杯は酒器とは違う。

 これは聖杯を掴む正当さを問うべき聖杯問答。まずは貴様がどれほどの大望を聖杯に託すのか、それを聞かせてもらわなければ始まらん。貴様はひとかどの王として、ここにいる我ら二人をもろともに魅せるほどの大言が吐けるのか?」

「仕切るな雑種。第一、聖杯を“奪い合う”という前提からして理を外しているのだぞ」

「んん? そりゃ一体どういう意味なんだ?」

 

 不快そうにアーチャーは(自分が自分以外に仕切られること事態が気にくわないだけかも知れないが)ライダーからの挑発的な言葉に応じ、自らの奉ずる王道のなんたるかを蕩々と語り始める。

 

「そもそもにおいて、アレは我の所有物だ。世界の宝はひとつ残らず、その起源を我が倉に遡る。いささか時が経ちすぎて散逸したきらいはあるが、それら全ての所有権は今もなお我にあるのだ」

「じゃあ貴様、むかし聖杯を持ってたことがあるのか? アレがどんなものか正体も知ってると?」

「知らぬ。雑種の尺度で測るでない。我の財の総量は、とうに我の認識を超えている。だがそれが『宝』であるという時点で、我が財であるのは明白だ。それを勝手に持ち去ろうなど、盗っ人猛々しいにも程がある」

 

 アーチャーの言い分にセイバー・オルタを呆れたように鼻を鳴らし、今次聖杯戦争にキャスターとして召喚されてた気狂いの言と重なり合う所を見いだした上で、双方を表す適切な表現と言葉を合理的に考え出してから口にする。

 

「・・・・・・まるで母親に向かってワガママを叫く幼子のような言い草だな・・・・・・」

「いやいや、どうだかな」

 

 適切な表現を用いたつもりであったが、セイバーと違ってライダーの方は何やら合点がいったような言葉を呟いて唸っている。

 少しだけだけど、コイツも同じ子供だから仲間同士の庇い合いをしたいだけなんじゃないだろうか・・・?と邪推してしまった黒く染まった現実志向の騎士王様であったが、幸いと言うべきかどうか今夜のところはライバルが意外と小物だったかも知れない不安は杞憂に終わってくれたようである。

 

「な~んとなく、この金ピカの真名に心当たりがあるぞ余は。まぁ、このイスカンダルより態度のデカい王というだけで思い当たる名はひとつだったがな」

 

 そう言って、穏やかではない発言内容にアイリスフィールやウェイバーたちが思わず耳を側たてたくさせてから、

 

「――とは言え、先日もう一人いたことを知ったばかりだからな~。存外に余の予想も外れておるかもしれん。いや全く、世界を駆けても知らぬ事ばかりとは、つくづく世の中というものは面白い」

 

 素知らぬ顔で嘯いて、二人を背後でズッコケさせてやってから、アーチャーに向かって先を続ける。

 

「じゃあ何か? アーチャー、聖杯が欲しければ貴様の承諾さえ得られれば良いと?」

「然り。だがお前らの如き雑種に、我が報償を賜わす理由はどこにもない」

「貴様、もしかしてケチか?」

「たわけ。我の恩情に与えるべきは我の臣下と民だけだ」

 

 至極尤もな王様らしい主張を嘯き、これには相手に見えないよう微かにセイバー・オルタを頷かせて納得させて、そんな些事などどうでも良いとアーチャーはライダーに向かって嘲りと微笑みだけを与えてやる。

 

「故にライダーよ、お前が我の許に下るというのなら、杯のひとつやふたつ、いつでも下賜してやっても良い」

「・・・・・・まぁ、そりゃ出来ん相談だわなぁ」

 

 ボリボリと顎をかきながらライダーはアーチャーからの誘いに否やで応じ、それでも納得しかねるのか、しきりに首を振っていた。

 

「でもなぁアーチャー、貴様、べつだん聖杯が惜しいってわけでもないんだろう? 何ぞ叶えたい望みがあって聖杯戦争に出てきたわけじゃない、と」

「無論だ。だが我の財を狙う賊には然るべき裁きを下されなければならぬ。要は筋道の問題だ」

「そりゃ、つまり――」

 

 途中まで言ってから酒を飲み、杯を干してからライダーは言葉の続きをぶつける。

 

「つまり何だアーチャー? そこにどんな義があり、どんな道理があると?」

「法だ」

 

 アーチャーの返答は即答だった。

 

「我が王として敷いた、我の法だ」

「ふむ」

 

 ライダーは唸り声を上げ、観念したかのように深々と溜息を吐く。

 

「完璧だな。自らの法を貫いてこそ、王。

 ・・・だがな~、余は聖杯が欲しくて仕方がないんだよ。で、欲した以上は略奪するのが余の流儀だ。なんせこのイスカンダルは征服王であるが故に」

「是非もあるまい。お前が犯し、我が裁く。問答の余地などどこにもない」

 

 アーチャーは厳然と頷いて、ライダーは曇りの晴れた面持ちで共に頷き、合意の首肯を交わし合う。

 なにやら敵対なのか、友誼なのか、どちらとも判別しがたい交流を築きつつあるアーチャーとライダーを前にしながら、セイバー・オルタだけは憮然とした表情のまま黙然として、ただ杯の中に注がれた酒を飲み続け。

 ここまで来て、ようやっと彼女にも彼ら二人の会話の中に問うに値する疑問を見いだすことが出来たので、ライダーに向かって問いかける。

 

「征服王よ。そうまでして、聖杯に何を求める?」

 

 感情を読ませない憮然とした不機嫌そうなだけの表情で騎士王から問いかけられた征服王は、一瞬だけ意表を突かれたようにキョトンとしてから「ハハハ」と照れくさそうに軽く笑い、やがて杯を呷ってから初心な少年のように頬を赤らめ照れくさそうに己の悲願とする野望の礎を告白する。

 

「受肉、だ」

『・・・・・・はぁ?』

 

 誰もが予想し得なかった意外すぎる回答に、セイバーとアーチャーが揃って不審そうに声を上げ、

 

「おおお、オマエ! 望みは世界征服だったんじゃ―――ぎゃわぶっ!!」

 

 ウェイバーに至っては、驚きのあまり思わず素っ頓狂な声を上げて己のサーヴァントに飛びかかって詰め寄ろうとしてしまい、デコピン食らって返り討ちにあいフリダシの場所へと戻されていく光景を敵であるセイバーから、なんとはなしに見物されたりしてしまっている。本気で締まりがなさ過ぎる。

 

「馬鹿者。たかが杯なんぞに世界を獲らせてどうする? 征服は己自身に託す夢。聖杯に託すのは、あくまでそのための第一歩だ」

「雑種・・・よもや貴様、そのような些事のために我に挑むのか?」

 

 さしものアーチャーも呆れ顔で応じざるを得ない平凡すぎる願いであったが、ライダー本人はあくまで真顔だった。

 

「あのな、いくら魔力で現界しているとはいえ、所詮我らはサーヴァント。この世界においては奇跡に等しい、冗談みたいな賓の扱いなのだ。貴様らはそれで満足か? 余は不足だ。

 余は転生したこの世界に一個の生命として根を下ろしたい。何故ならそれが、征服の基点だからだ。

 身体一つの我を張って、天と地に向かい合う。それが征服という行いの総て。そのように開始し、押し進め、成し遂げてこその我が覇道。

 そのためにはまず、誰に憚ることもなく、このイスカンダル只一人だけの肉体を手に入れる。それが余の聖杯に託す願いの全てよ」

 

 普段とは全く異なり、ひどく真摯な態度で想いを言祝ぐライダーの口上に、はたしてアーチャーは耳を傾けているのかいないのか、ただ黙然と手にした杯を口に運び続けていたものの、よく見れば口元には微笑が浮かんでおり、その笑い方があまりに獰猛で陰惨で空恐ろしさしか感じられぬものだったからこそ、他者から見た彼の反応はライダーの話を聞いているのか否か判別しづらいものへとしていたのだろう。

 

 ――だが、次に彼が行った行動によって、アーチャーがライダーの話を興味を込めて聞き入っていたことは明白となる。

 

「決めたぞ、ライダー。貴様はこの我が手ずから殺すこととしよう」

「フフン、今さら念を押すことでもなかろうて。余もな、聖杯のみならず、貴様の宝物庫とやらを奪い尽くす気でおるから覚悟しておけ」

 

 愉快そうに呵々大笑するライダー。

 そして、ここに来てもなお酒宴に加わっておきながら未だ一度として笑みを浮かべたことのない一人がいることに、ようやく気がつく。

 

 

「なぁ、ところでセイバーよ。そういえば貴様の胸の内はまだ聞かせてもらってないが、どうなのだ? 貴様は聖杯を手に入れ一体全体どのような願いを叶えようと欲しておる」

 

 

 ―――来た。来てしまった・・・。

 いよいよライダーから水を向けられたその時、セイバー・オルタの心はらしくもなく千々に乱れて揺らぎまくってしまっていたことを、果たして場に居合わせた二人の王に気づかれずに済んでいたであろうか?

 

 真に誇るべき王道を考えて、この宴に集った我意のみしかない暴君二人の願いよりも自分の叶える悲願の方が上だと胸を張った断言できるか否かを比較し続け。

 

 そして、自分の手番が回ってきたときまでに出しておくべき結論を出し、ようやくそれを口にする機会が回ってきてしまった訳なのだが。

 

 ・・・・・・やっぱり少しだけ・・・・・・この答えを言うのは恥ずかしくない訳でもない・・・・・・

 

 

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・無い」

『・・・・・・は?』

「無いのだ・・・・・・聖杯に託す願いが私には・・・。

 ただマスターたちに勝利をもたらし、生きて家族の元へ返す以外の願いはいくら考えてみても思いつかなかったのでな・・・・・・」

『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・』

 

 

 

 セイバー・オルタが、頬を少しだけ朱に染めながら俯きつつも、自信なさげに小声で放った宣言に座はシ―――――ンと静まりかえって、重苦しい沈黙に包まれまくる。

 

 本来は敵同士である三人の王たちによる宴を、売り言葉に買い言葉で開催場所を提供してしまった挙げ句、『王同士による宴は見栄の張り合い』と認識していたから必死こいて立派そうな願いを捻り出そうと考え続けて黙りこくっていた黒く染まった騎士王様が反転しておかしくなってたせいにより、【王たちの狂宴】はさらなる混乱の中へと陥ろうとしている事を今この場に集まっているものはまだ誰も知らない・・・・・・。

 

 

つづく

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