もしも切嗣が喚んだセイバーがオルタ化してたら   作:ひきがやもとまち

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他のを更新してから続きを出す予定だったのですが、流石に止まり過ぎてると気になりだしてきたので先に更新させてしまいました。
そのせいで最後ら辺が少し雑になってしまったことはお許しください。焦ってましたので…。
更新止まり過ぎると気になり過ぎてしまって、チト困る…。


ACT21

 ――後に関係者の一人が『マスターもサーヴァントも化け物揃いだった』と評することになる第4次聖杯戦争。

 その中で、最も勝つために手段を選ばず、魔術師同士のルールを無視して固定概念を利用し裏をかき、勝てるだけの下準備を完全に整えていたマスターは誰か?と問われれば、間違いなく名が上がるのは『遠阪時臣だ』と断言できるだろう。

 

 彼は、聖杯戦争の監督役である聖堂教会と一年以上前から同盟を組むと、出向という形で他のマスターである言峰綺礼をアサシンと共に手駒とし、召喚するサーヴァントには人類最古の英雄王を遠距離射撃と独自行動ができるアーチャーとして喚び出せる縁の品を見つけ出し、戦いが始まってからはアサシンを使った偽装脱落によって他のマスターたち遠阪家の拠点を攻めづらくさせ、ほぼ完全にノーマークとなったアサシンに情報収集役を委ね、自らは鉄壁の城塞と化した屋敷の中に閉じこもったまま命のやりとりをする戦場には一度しか出てこようとしなかった。

 

 戦争の勝敗は、勝つための下準備を戦う前にどれだけ整えられたかで大半が決まってしまうものだ。その点において、事実上たった一人で戦い続けるしかなかったが故に死ぬ危険を常に犯さざるを得なかった衛宮切嗣よりも遠阪時臣は遙かに優る。

 

 にも関わらず彼が最後の勝利者にはなれなかった理由は、弟子の裏切りに気がつけなかったから――では実のところない。

 魔術師らしくありすぎたこと。只その一事に集約される部分が敗因だったからである。

 

 彼は聖杯戦争初日の戦いで、アサシンたちに情報収集ではなく、集まってきたマスターたちを背後から討つ暗殺をこそ命じるべきだった。

 切嗣でさえアサシンの脱落は偽装と見抜いてはいたものの、アサシンの分裂能力までは見抜けるはずもなかったのだ。

 自身の内の一体を鉄塔に置いて、自分を監視にきたマスターたちを仕留めるよう他のアサシンに命令すれば、『魔術師殺し』といえどもサーヴァント相手には無力でしかない以上、この時点で最大三名のマスターを脱落させることが可能だったかもしれない。

 

 時臣はそうすべきだった。当初に立てた必勝の戦略にこだわることなく、この時点で賭けに出ていれば残るサーヴァントは守りに特化したキャスターと、狂化されてマスターの守りがガラ空きになったバーサーカーだけとなり、事実上この時点で決着をつけることが可能だったかもしれなかったのだから。

 仮に失敗したとしても当初の状態に戻るだけで、遠阪・言峰連合がなにか損をする訳でもない。

 偽装に憤ったサーヴァント連合が遠阪の屋敷を襲撃してきても、アーチャーの守りを突破できねば意味はなく、その背中を残るアサシンに襲わせるのも戦略の一つではあっただろう。

 

 だが現実に彼が言峰を通して命じさせたのは、敵サーヴァントたちの情報収集であり、必勝の策をより完全なものとするための準備の徹底。それだけであった。

 それは聖杯戦争における基本戦術ではあっても、“絶対遵守のルール”ではない。単なる殺し合いの場で、そこまで律儀に守ってやらねばならぬほど価値あるものでは全くなかったはずなのだが・・・。

 

 だが、それでも彼は選べない。その道を選ばなかった。

 それは彼が、『魔術師として一流で、戦士としては二流』だったことを表している部分だっただろう。

 謀略家として行った根回しの政略的下準備をまったく生かし切ることができぬまま、当初に立案した必勝の戦略―――『負ける心配がない安全な勝ち方』に固執し続けてしまった。だから負けた。敗れたのだ。

 

 そして彼は、今ここでも同じ失敗を犯す道を選んでしまう。

 敵の情報収集という役割の締めくくりとして、ライダーの最終宝具を確認するために令呪を使って特攻させ、使い捨てるという最低最悪の手駒の無駄遣いという選択肢を。

 ライダーの宝具がなんであれ。

 ・・・ライダーのマスターを気づかれぬ内に殺してしまえば、宝具の性能やランクに何の意味もなくなるものだったはずなのに・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

「む・・・・・・無茶苦茶だッ!!」

 

 王たちの宴の席に突如として出現し、自分の背後にも現れてビックリさせられて悲鳴上げながら逃げ出してきたばかりのウェイバー・ベルベットが嘆き声を上げていた。

 月明かりの照らす中庭に白く怪異な異物が浮かび上がり、一つ、また一つと闇の中に花開くかのように出現していく、髑髏の仮面をつけて漆黒のローブに包まれた異装の集団たち。

 

 アサシン・・・・・・初日に遠阪邸で倒された一体限りではなく、複数のアサシンが紛れ込んでいることは切嗣たちアインツベルン勢だけでなく、昨日知ったばかりのライダーとウェイバーにとっても既に既知の事実になっていた怪異。

 

 だが、そんな彼にとっても、この数は異常という他ない。今までと違って全員が揃いのローブを纏っていても体格の個体差は多種多様で、巨漢の者もいれば痩身の者もあり、子供のように矮躯の者や女のような艶めかしい輪郭の持ち主までもが混じってさえいる。

 

 そんな黒尽くめの集団が現れたと思ったら、一気に数を増していき、庭を覆い尽くすまで膨れ上がったのだ。これで知っているから驚くなと言う方が無理というものである。

 

「どういうことだよ!? 何でアサシンばっかり次から次へと・・・だいたい、どんなサーヴァントでも一つのクラスに一体分しか枠はないはずだろ!?」

『――左様。我らは群にして個のサーヴァント。されど個にして群の影』

 

 獲物の狼狽ぶりに気をよくしたのか、群れを成すアサシンたちの誰かが忍び笑いと共に嘲りを口にして、他の者たちも口々に自分たちだけが持つ特性について得意げに語り始める『山の翁』その規格外とも呼ぶべき戦慄の正体。

 

 他の代のハサンと異なり、彼は自らの肉体に手を加えることは一切なかった。

 あるときは知略に秀で、あるときは異国の言葉を解し、あるときは毒物の知識で、またあるときは罠の技巧で如何なる状況においても数多の才覚を自在に切り替えて発揮しながら任務を遂げていった万能の暗殺者。

 果たして誰が知ろう。ハサンという単一の肉体にありながら、彼らが全く別の個の魂を持った集団存在であったと言うことを・・・。

 

 多重人格の英霊が、自我の数だけ実体化した存在。

 分裂行動した際の個々の能力値は他の英霊とは比較にならないほど低くなるが、こと諜報活動に関する限り、まさに無敵の集団。

 それこそが今回の第四次聖杯戦争において、事峰綺礼に召喚されたアサシンのサーヴァント『百の貌のハサン』だったのである。

 

 要するに―――今の状況と能力がまったく関係なくないか・・・?

 と暴君たち三人の内、一人には確実に思われてしまっていたのが、今この場に全員が姿を現して正面決戦挑んできてしまっている『最高の斥候サーヴァント・アサシン軍団』だった、と言うことになる・・・・・・。

 

 

「・・・・・・なぁ、金ピカ。一応聞いとくのだが、これは貴様の計らいか?」

「・・・・・・・・・時臣め。下衆な真似を・・・」

 

 憮然とした表情で問いかけられたアーチャーが、直接的には答えず素知らぬ顔で不機嫌そうに吐き捨てたが、相手の問い自体には『否定』を返して間接的に答えも教えてやってしまう。

 正直はぐらかそうかとも思ったのだが、内心で禁じ得なかった落胆故に、つい本音の方が漏れ出てしまった故だったかもしれない。

 

 興が乗ってきたところで冷や水のようにして、つまらぬ幕切れを寄越されてしまったのだから彼の性格的に愉快なはずはない。

 まして、この宴はたしかにライダーが席を設けたものではあったが、酒を供しているアーチャーなのだ。

 敵国の王同士で酒を飲み交わす宴の場とは意地の張り合い。プライドとプライドを激突させ合う場なのである。敵だからと拒絶した方が相手を恐れたと喧伝され、暗殺などすれば戦っても勝てぬと踏んだと見下される・・・そういう状況なのである。

 

 そこら辺の外交の機微が、後に娘から『明日には殺すけど今日は親友だー、なんてのは今時流行らない』と言わしめる遠阪家の現当主殿には分からない。

 ギルガメッシュ王を『生前は王だった者』として遇しながらも、サーヴァントは所詮「使い魔」としか見ていない。

 あるいは『魔術師らしい考え方』として、“使い魔としてしか見るべきではない”と考えていたのかもしれない。

 

 ここまで思い切ったアサシンの動員は事峰綺礼の独断では有り得ず、“まだ”あの男には、そこまで自分で決めて自分で選べるほどの確固たる己の欲望を自覚させることが出来ていない以上は、彼の師である遠阪時臣の指図によるものなのは疑いようがない。

 英雄王に対して丁重に臣下の礼を尽くしているからこそ、アーチャーは時臣をマスターとして認めて「やっている」のである。

 

 この時の蛮行が彼の中で時臣への評価と好意を数ランク低下させ、義理を果たしてやろうという律儀さを守る気がなくさせる方向に数ランク分ほど傾けさせる結果となり、それが後に時臣にとっての悲劇へと繋がっていくことになるのだが・・・・・・この時はまだ沽券に泥を塗られてしまった英雄王自身でさえ予想していない。

 

 

 一方、この場における状況が変わった今となっても他者に対するスタンスが特に変わらず、また変える必要もない王も二人ほどいる。

 

「まさか・・・・・・私たち、今日までずっとこの連中に見張られていたわけ?」

「落ち着け、アイリスフィール。婦女子の着替えを黒尽くめで素顔を隠した怪しげな連中から、物陰からそっと覗き見されていたのを知った初心な小娘でもあるまいに」

「・・・ラ、ライダー・・・なぁ、おい・・・・・・」

「こらこら坊主、そう狼狽えるでない。宴の席を遇する度量でも、王の器量は問われるのだぞ?」

「あれが客に見えるってのかぁ!? あと、お前らはなんで何時もとなんも変わらず超マイペースでいられてるんだよおッ!?」

「そうよセイバー! あと、その事実は魔術師に生まれた娘でもちょっと怖いわ! 神秘とか関係なく、女として生理的に!!」

 

『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・』

 

 せっかく全員登場して初めての真相暴露した歴史の陰に潜みつづけた暗殺者の英霊一族、その驚愕の能力晒したにも関わらず、全く驚いてくれていない二人の英霊にこんな対応されたのでは、さしもの多重人格英霊もすべての人格で憮然とした心情を共有せざるを得ないところであったろう。

 ――あと、アイリスフィールの感想が微妙に痛い。

 特に女の子の人格が女の身体で実体化している、ポニーテール百の貌のハサンとしては尚更に。

 

 とは言え、だ。

 

「「いや、そんなこと言われたって(ても)なぁー・・・・・・」」

「「敵同士でハモるなぁ!!!(らないでよ!!)」」

 

 英雄王以外、二騎の英霊に取ってみれば驚愕しなくていい正当な理由と根拠があるので今一反応が真面目にやりづらいのも確かな事実ではあったので、ここでもやはり認識は共有できないでいたりはしたのであった。

 

 無論、その理由はそれぞれに異なっている。

 ライダーにとって、『隠れ潜むだけが取り柄の鼠』でしかないアサシン共が全てこの場で姿を現してくれたことは、勝利を横からかっさわれる危険性をまとめて蹂躙できることを意味しただけなので意味はない。

 四方八方を取り囲まれた配置で実体化されたことだけは厄介だったが、それさえ最終宝具を展開するだけで逆転する程度の細やかな地理的優位でしかなかったのだから。

 

 対してセイバー・オルタの側は、敵の目的が『自分たちではない』と把握したことが理由になっていた。

 

(・・・アサシン共が最初に姿を現したとき、『ライダーのマスターの真後ろ』に実体化したにも関わらず、狼狽え騒ぐだけの敵マスターに止めを刺そうとはしなかった。

 ならば、この場で姿を晒した目的は、マスターではなくライダーと見るべきか)

 

 と内心での分析を終えて結論づけてまでいる程の冷静沈着ぶり。

 もしあの場面で毒塗りの刃を背中に突き立てていれば、即死は免れてもライダー陣営の遠からぬ敗退は確定していた。それを敢えて見逃した以上、奴らに与えられた任務にライダー存命が関わっていることは自明とみていいからだ。

 

 いかに真っ向から衝突すれば万に一つも負けはない騎士王から見たアサシンクラスであろうとも、守るべき対象のアイリスフィールがいる状態で『数の差』は甚大な脅威と言わざるを得なかったのだが、敵の方針だか都合だかで動きが制限されているなら条件は多少マシにはなる。

 

 おそらくだが、彼の名高き征服王の宝具を調べ尽くすため、敢えてアサシンたちを敵にぶつけて無駄死にさせることにより、敵の戦力と持ちうる武器の性能とを味方の被害規模という形で把握する『威力偵察』とかいう近代に生まれたという戦術の一つをやらされているのだろう。

 無言のまま聖杯ネットワークで検索しつつ、側に寄ってきたアイリスフィールをかばうようにセイバー・オルタは睨み付けるような瞳で周囲に連中を威嚇していると。

 

「あんな奴儕まで宴に迎え入れるのか? 征服王」

「当然だ。王の言葉は万民に向けて発するもの。わざわざ傾聴しに来た者ならば、敵も味方もありはせん。

 如何に礼儀知らずで無粋な来訪であろうとも、“とりあえず”招いてやるのが王の器というものよ」

 

 揶揄するように黄金の英霊が言うのが聞こえ、挑発的な語尾をはじき返すように征服王が応じ返す声が鼓膜に響いた。

 それを聞いてセイバー・オルタは

 

 ――いや、お前これ『王の格を競う宴』とかどうとか言ってなかったっけ? 暗殺者の英霊って王たちの宴に客として迎え入れていい存在だっろうか?

 

 とか思わなくもなかったのだが、まぁ他人事だし、ライダーがアサシン共を挑発して自分のマスターに向かってくる敵が一体でも減るならソレで問題ないので別にいいかと、気にせずなかったことにして無言のまま聞いてるだけの道を選ぶ。

 

「さぁ、遠慮はいらぬ! 共に語ろうという者はここに来て杯を取れッ! この酒は貴様らの血と共にある!」

 

 ウェイバーの不安そうな声に対して、平然と嘯いてからライダーは樽からワインを柄杓で一掬いして高々と掲げ、アサシン共に差し出すように朗らかな笑顔で放たれた宣言に対し。

 アサシンたちからの返答は至ってシンプルに、かつ簡明に、誤解しようもない程わかりやすいもの。

 

 ――ひゅん。

 

 虚ろに風を切る音がしたかと思うと、ライダーの手にあった柄杓は柄だけ残して頭の部分は分断されて地に落ちて、アサシンたちの誰かが放った短刀によって真っ赤なワインは無残に中庭に敷き詰められた冷たい石床の上へとブチまけられる。

 

 ―――フフフ・・・ははは・・・クスクス・・・・・・。

 

 言葉もなく零れた酒を見下ろしていたライダーに、嘲るような忍び笑いをアサシンたちが四方八方から投げかけてくる。

 

 それを見てセイバー・オルタもまた嗤う。

 

 ――ビンゴだ。阿呆“共”が、と。

 

 笑われていた征服王ではなく、笑っているアサシン共の笑い声に対して無言のまま嘲笑を向けながら。

 本来ならアサシンたちにとって毒塗りの短刀による投擲と先制攻撃は一撃必殺でなければならぬはず。たかが威嚇のために武人を挑発して対決に持ち込む暗殺者などいるものか。

 何らかの縛りが今夜のアサシンたちにはあるらしいことが、人の心の弱味を把握する暴君としてのアーサー王には見え見えだった。

 最初は令呪による縛りかとも考えたのだが、マスター側には流石にそんな命令を出す意味もないので、本人たちが令呪とは関係ない部分で何らかのこだわりなり何なりを守るため行動した結果だったと推測される。

 

 たぶん、使い捨てられたのだ。暗殺者らしい末路として用済みとなったから雇い主に切り捨てられて使い捨てられた。最後の奉公として全員が討ち死に覚悟で突っ込んでいくよう令呪で強制されてしまった。

 

 だからこそ彼らは、意味を欲したのだろう。

 自分たちの死に意味を。消滅させられる前に手柄を、功績を。

 自分たち全ての命と悲願を無駄にしてまで得たものが無価値であったなどと、許すことができないから、命令者が欲しがっているものは必ず奪い取って死に土産に持って行こうとしている・・・・・・そんなところかとセイバー・オルタはこのとき雇い主に見捨てられた暗殺者たちの心理を正しく正確に見切ってしまえた瞬間だった。

 

「――なるほど」

 

 征服王イスカンダルが、先ほどまでの屈託のない明るい口調とは異なる、どこか薄ら寒いものを感じさせる声音で短く呟かれた言葉が場に響き、アサシンたちが何かに気圧されたように一瞬にして笑い声を一斉に停止させ、二百近い二つの両目が征服王を見つめ直す。

 

「『この酒』は『貴様らの血』と言った筈。

 敢えて地ベタにブチ撒けたいというならば、是非もなし・・・・・・」

 

 そう言い切ったとき――旋風が吹き込む。

 夜の森に立つ城壁に囲まれた城の中庭。そんな場所に吹くはずのない、熱く乾いた焼け付くような砂漠の風。

 灼熱の砂漠を吹き渡ってきたかのような、轟然と耳元で唸り声を轟かせ、ウェイバーは口の中に砂漠の砂でも入ってしまったらしく唾を慌てて吐き出している音と声がわずかに聞こえ、

 

「セイバー、そしてアーチャーよ。これが宴の最後の問いだ。――そも、王とは孤高なるや否や?」

 

 その声の向こう側から、砂漠の風の渦巻く中心部より轟然と立ち続けている、征服王としての戦装束に身を包み直したライダー・イスカンダルが自分たちに背を向けながら問いを放ってくる声が聞こえる。

 

 アーチャーは、その程度のことは問われるまでもないとばかりに答えを返さず、唇を歪めた失笑だけを返事として送ってやり。

 

「王ならば・・・・・・」

 

 セイバーもまた躊躇うことなく、己が王道と信ずる答えを回答として問いに返す。

 己が“王道だ”と疑うことなく信ずる道を。偽らざる本心を。

 

「孤高であるしかあるまい。―――私の知ったことではない話だが」

「・・・・・・・・・?」

 

 だが黒く染まった騎士王の言葉には、黄金の王と違って“続き”があった。

 

「生憎と『王は人の気持ちが分からない』と言い切られた王だからな。

 所詮は、臣下が死のうと人々が苦しもうと何も感じなかった女には、今更それをとやかく言う資格もなければ意味もあるまいよ・・・」

 

 ククク・・・と、どこか自嘲のような嘲笑のような、誰に向けているかも定かではない含み笑いをわざとらしく付け足しながら言い切って見せた黒い鎧を実体化させた少女。

 

 その道を逸れることを選んで生まれた王に、本来の己が信じた王道には価値がなく。

 王道と信ずる道を行くより、効率と正しさと徹底した法の統治をこそ尊しとした暴君。

 

 王の本質は“幻想”

 政とは“演劇”と同じ。

 国という巨大機構が国民たちに“夢”を見せるために行う虚偽に過ぎない。

 王が信ずることに意味などなく、国民たちに“信じさせること”が王の生業。

 

 暴君とは、そういう者だ。独裁政治とは、そういう制度のことなのだ。その道を選んで黒く染まった騎士王にとって、今さら己自身が王をどう定義するかなど大した問題と思うことなど出来はしないのだから―――。 

 

「・・・ダメだな! まったくもって解っておらん!」

 

 そんな黒い鎧をまとって嗤う少女に対して、征服王は何かしらの感情を抱いたのか自らの答えを一拍の間を置いてから断言して完全否定する。して見せる。

 

「そんな貴様らには、やはり余が今ここで、真の王たる者の姿を見せつけてやらねばなるまいて!!」

 

 そう叫んだ征服王は、ついに己の切り札たる最終宝具を展開し・・・・・・そして。

 

 

 

 

 

 ―――この世の条理たる理は、数千の熱き想いに満たされた砂漠によって覆されることとなる。

 

 

 

 

 

「そ、そんな・・・・・・固有結界―――ですって!?」

 

 アイリスフィールが驚愕と悲鳴、双方を兼ね備えた叫び声を発して、現実を浸食する幻想を否定したがる識者たちの想いを正直に代弁する声が響いた。

 

 

 それはまさに圧巻だった。

 砂塵によって包まれたと思わされた次の瞬間、彼女たち城の中庭にいた全員は夜のアインツベルン城から遠く離れた遙か彼方の、刻の流れすらも超越した遠き異国の地へと場を移していたのである。

 

 照りつける灼熱の太陽。晴れ渡る蒼穹の彼方。

 吹き荒れる砂塵に霞む地平線まで視野を遮るものはなにもない、果てなく続く熱砂の砂漠。

 

 それは明らかに、現実を浸食した幻影。

 奇跡と並び称される魔術の極限に近いもの。

 

 

「・・・心象風景の具現化だなんて・・・・・・あなた、魔術師でもないのでしょう!?」

「フッ――もちろん違う。それに余ひとりで出来ることではないからな」

 

 広大な砂漠の結界に直立しながら、まるで無人の砂漠全てが誇るべき自分たちにとっての領土であると歌い上げるように自信と威厳に満ちあふれた声音でイスカンダルは魔術の何たるかを知るアイリスフィールの問いを否定する。

 

「ここはかつて、我が軍勢が駆け抜けた大地。余と苦楽を共にした勇者たちが、等しく心に焼き付けた景色だ」

 

 世界の変転と、時代の逆行に伴って、征服王“たち”の幻想による現実浸食に巻き込まれた者たちの位置関係までもが覆されていた。

 

 つい先程まで多勢で四方八方からイスカンダルたち全てを完全包囲下に置いていたはずのアサシンたちは、一群の塊となって荒野の彼方に追いやられ。

 中央にはライダーが立ち、アサシン達とは反対側にセイバーとアーチャー、そして二人の魔術師たちが退避させられる配置に変わっていた。

 

『こ、これは・・・・・・っ!?』

 

 遠くアサシン達の誰かが、荒野の彼方で状況の激変に戸惑いの声を上げるのがサーヴァントとしての優れた聴覚によって微かに拾い上げることができていた。

 

 まるで敵を完全包囲に追い込んだと確信した敵将が、一瞬にして覆されてしまった戦況を理解できず、自分の掌に掴みかけたと信じ込まされていた勝利の幻想を諦めきれずに固執するかの如く。

 歴史に名高き名将アレクサンドロス大王が、数々の敵相手に不利な戦況を一変させ、圧倒的勝利を積み重ねてきた偉業の数々が凝縮され一つの戦場に体現されたかの様に。

 

「この世界、この景観をカタチにできるのは、これが我ら全員の心象であるからさ」

 

 そして征服王によって歴史に刻まれた偉業は、征服王一人で成されたものではない。

 歴史に不滅の文字を記した覇王と、彼の名将に率いられた軍勢たちによって織りなされた戦果という名の偉大な歴史の一部として刻みつけられたものであろう。

 

 

 ―――ザッ、ザッ、ザッ・・・・・・。

 

 

 砂塵の向こう、セイバーたちより尚背後の方角から蜃気楼の如く現れだした謎の軍勢たちが、その証。

 人種は異なり、装備はまちまち。

 屈強なる体躯と、飾り付けられた勇壮なる具足は各々が競い合うかのように華々しく精悍。

 互いに互いが互角の偉業をなした、我こそが王たらんと欲して覇権を望んだところで身の程知らずと言われることはあり得ぬ程の英雄豪傑の群れ、群れ、群れ。

 

 到底、一つの軍勢にまとめ上げるなど不可能事としか思えぬほどの実力とカリスマに満ちた、一人一人が英雄であっても驚くことなど何もない一兵卒たる勇者たちの軍勢を目の当たりにして―――只一人ライダーのマスターであるウェイバーだけが理解できた。

 

 ――それが単なる『事実でしかない』という、桁外れの現実を。

 

 

「こいつら・・・・・・一騎一騎がサーヴァントだ・・・・・・」

 

 

 正当なる契約を果たしたマスターのみに与えられる、サーヴァントの霊格を見抜いて評価できる透視能力。

 アイリスフィールが囮役の代理マスターでしかない今この場において、それを持ち合わせている唯一の正規マスターであったウェイバーだけが知ることの許されていた特権。

 自らのサーヴァントである英霊イスカンダルの切り札。恐るべき最終宝具の正体と本質と性能までもを正しく見せつけられ理解させられた未熟な少年魔術師は、ただただ圧倒され唖然とさせられる以外できることなど何もない・・・・・・。

 

「見よ、我が無双の軍勢を!!」

 

 そんなウェイバーに――否。

 この場に招いた全員に、自分たち全ての領土へと客人として訪れた外国人たち全員に示すため、征くべき道筋を指し示すため、征服王は喝破する。

 

 

「肉体は滅び、その魂は英霊として『世界』に召し上げられて、それでも尚、余に忠義する伝説の勇者たち! 時空を超えて我が召喚に応じる永遠の朋友たち!

 彼らとの絆こそ我が至宝! 我が王道! イスカンダルたる余が誇る最強宝具!!

 《アイオニオン・ヘタイロイ(王の軍勢)》なり!!!!」

 

 

 うぉぉぉぉぉぉぉッッ!!!!

 

 

 ――忠誠を誓った偉大なる王の宣言に応えるかの如く、数千の勇者たちの叫びが一斉に木霊し、砂漠の果てまで届けとばかり轟き渡る。

 巨獣と呼びたくなるほどの駿馬であるとはいえ、イスカンダルが乗る愛馬でしかない名馬ブケファラスまでもが後に神格を与えられ、英霊の一員となって王の軍勢に参戦している常識など微塵も通じない、人の形を取った歴史上の偉業たち。

 

 そんな者たちだからこそ、彼らは叫ぶ。彼らは語る。

 彼らだけは、それを語る資格と否定する権利と正当性を持つ者たちであるが故に。

 

 

「王とはッ!―――誰よりも鮮烈に生き、諸人を魅せる姿を指す言葉!!」

 

『然り! 然り! 然り!』

 

 

 ―――王になれば、国のため民のため己個人として生きたいと願うことは許されぬなど、嘘だ。

 

 

「すべての勇者たちの羨望を束ね、その道標として立つ者こそが、王!!」

 

『然り!! 然り!! 然り!!』

 

 

 ―――敵は滅ぼさねばならず、異なる理想は相容れない等という常識論など、幻想。

 

 

「故に! 王は孤高にあらず。

 その偉志は、すべての臣民の志の総算たるが故に!!!」

 

『然り!!! 然り!!! 然り!!!!』

 

 

 ―――王は国と民たちのため歯車でしかないなど嘘だ。

 ―――万民の頂点に立つ王の心は理解されず、心を分かち合う友など出来ないなど幻想。

 

 王とは斯く在るべしと定まっているなら、己が信じる王道により征服してしまえばいい!

 己こそが正しいと、今まで王の定義とされてきた在り方こそが間違っていただけだと、全てを否定し、己が愛する全てを肯定する。

 

 それが征服王たるイスカンダルが奉ずる、征服という名の『王道』

 神意も大義もなく、万国を踏み荒らそうというのでもなく、ただ最果ての海を見たいなどと言う妄想一つで居並ぶ軍神やマハラジャから栄誉も誇りも奪い尽くして、その上でなお彼らに轡を並ばせ歴史に名だたる偉業を成す。

 

 『妄想』を『現実』に変えさせてしまった偉大な王。

 『現実』よりも『妄想』こそが正しいのだと、実績によって示した暴君。

 

 何人にも覆し得ない偉業という名の証拠によって、自らの語る妄想を現実を凌駕する『幻想』にまで昇華させた『暴君の軍勢たち』

 

 

「さて、では始めるかアサシンよ」

 

 

 そしてライダーは、獰猛で残忍な笑みを浮かべて影の群れを見やる。

 王の言葉を阻み、王の酒を拒んだ狼藉者に対して彼は既に一片の情けをかけてやる気はなくなっていたのだろう。

 

 イスカンダルは決して、許しの精神を貴ぶ優しき名君ではない。

 一度は必ず手を差し伸べ、気に入った相手には何度振り払われようとも誘い続けずにはいられない拘りぶりを示し――その逆に気に食わぬ相手には一度の非礼で激怒して死を命じることもある暴君の一人でしかないのだ。

 

「見ての通り、我らが具象化した戦場は平野。生憎だが、数で勝るこちらに地の利はあるぞ?」

 

 言行不一致、自らの唱える信条と矛盾する――そんな“理屈”など征服王にとって、どうでもよい。

 ただ気に入った相手に執着し、気に食わぬ相手には一度の誘いを蹴られた後は殺すのだ。

 

 完全なる神でもなく、感情を持たぬ国の歯車でもない、矛盾に満ちた人間のままで王として君臨する道を選んだイスカンダルの、それが貫くべき王道だったのだから。

 

 かつて、小国でしかなかった母国の若き王から始まって、史上最大の版図を築くまで数多の国々と軍勢に対して行ってきたときと全く同じように剣を持った右手を掲げ、

 

「蹂躙せよ!!」

 

 そして、号令と共に振り下ろす。

 

『AAAAAAALalaLalalalaieッッ!!!』

 

 

 応じて響く鬨の声。

 怯えすくむ暗殺者の群れに向かって、進軍を始めた軍勢たちの雄叫び。

 

 既に、恐怖の余り混乱の極にあったらしいアサシンたちが、去就を定めかねていたところに軍勢の鬨の声が重なり、戦場の勇者たちではない暗殺者の群れたちの戦線は崩壊させられる。

 

 勝敗は―――決した

 

 

 

 

「・・・無様なものだな、盆暗共が」

 

 

 征服王の軍勢によって一方的に蹂躙されていく暗殺者たちの群れを見下すように眺めながら、黒く染まった暴君もまた冷たい声音と冷酷な口調で侮蔑の言葉をアサシン共への死出の土産としてくれてやる。

 

 元々いかな大軍、堅固な城壁、立ちはだかり続けてきた現実的脅威の数々も、心を一つにした征服王の軍勢の迸る戦意と総和の前では敵ではなかったのだ。

 そんな彼らにとって、陰に潜むしか能のない暗殺者の群れなど雲霞の群れにも等しかろう。

 ――まして、自らが召喚に応じてまで果たしたいと願った願望を、たかが令呪の強制によって奪われた程度で方針を変更し、せめて無駄死にはすまいと数の暴力で押し包む特攻戦法による力押しに頼ってしまったアサシンたちでは尚のことだ。

 

 陰に潜み続け、闇の中から不意打ちの刃で標的の命を掻き取ってこその暗殺者ではなかったか?

 何の特殊能力も持たず、凡庸な肉体の持ち主でありながら、多重人格障害という『当時は知る者のなかった病理』こそ、彼ら【百の貌のハサン】の誇るべき偉業だったはずなのだ。

 

 相手に真相を知られることなく、相手が自分と信じる己を偽り、別の自分となって相手を殺す、騙し討ちこそ彼らの得手。彼らの能力、彼らの殺し方。彼らだけが持つ特殊能力。

 

 『群にして個、個にして群の影』それこそが彼らなのだ。

 『個にして群でもある暗殺者たち』が『一つの軍隊』となって陽の光のもと姿を現して正面決戦を仕掛けてくる暗殺者の群れが何処にある?

 

 

「体はともかく、心が弱い者の最期は見ていて辛いな。自らが信じ貫き通すと決めた道を途中で違えた者の末路というのは、いつの時代も無様なものだ」

 

 

 冷たく言い放ち、一人、また一人と分断されては屠られていくアサシン達の素人じみた集団戦闘を、出来の悪い三問悲劇でも見物するような視線で見下すセイバー・オルタ。

 

 混乱の余り、聖杯どころか令呪に科せられた使命すらも忘れたのか、それぞれが勝手な行動を取り始め、もはや集団と呼称しうるものでさえなくなってしまっていた。

 無駄を承知で逃走する者、自棄にかられて吶喊する者、為す術もなく棒立ちになる者

 

 『異なる人格を一つの肉体が使い分けていた』それ故のアサシンのサーヴァント【百の貌のハサン】だったのだ。

 それが一人一人で別々の行動を取り始めてしまったのでは、【百の貌】とは到底呼べない。

 単に『異なる百人の平凡な暗殺者たち』に自ら成り下がる道を選んでしまった“元”ハサン・サッバーハに、黒く染まったアーサー王が思うことなど何もない。

 

 ただただ征服王の軍勢と、その全てが共有しているという“心象”という『心の風景』に何かを感じて、何かを思いながら黙り込み。

 

 

「・・・・・・」

 

 

 その横顔を、どこかしら淫靡で欲望に塗れながら、にも関わらず不思議と尊い聖画でも見物して愉しむような奇妙な印象を受けさせられる視線を黄金の英霊が向け続けてきていた。

 

 

 

 

 やがて闘争とも呼べぬ、掃討と呼ぶことさえ躊躇われる程度の手応えしか得られなかった作業が終わり―――再び時と場所は現代のアインツベルン城中庭へと戻ってくる。

 

 

 

「―――幕切れは興醒めだったな」

 

 何事もなかったかのように、ライダーは杯に残っていた酒を一息に飲み干しながら呟き捨てる。

 

「成る程な。いかに雑種ばかりでも、あれだけの数を束ねれば王と息巻くようにもなるか。――ライダー、やはりお前という奴は目障りだ」

「言っておれ。どのみち余と貴様とは直々に決着をつける羽目になろうて」

 

 アーチャーは何やら不機嫌そうに鼻を鳴らし、ライダーは涼しく笑って受け流す。

 セイバーは特に応じる言葉もなかったのか、無言のまま肩をすくめてみせるのみ。

 

 然もありなん。

 彼女にとっては本当に興醒めな終わり方でしかない結末だったのだから、言うべき言葉の持ち合わせがないのは至極当然の事でしかない。。

 

 たしかにライダーが示し、見せつけた最終宝具は文句なしに凄まじいの一言であり、彼の語る王道を体現した王の在り方にも何かを感じさせられるものは少なくはなかった。それは事実だ。

 

 ――だが、聖杯戦争というサーヴァント同士の殺し合いである点を除外して考えたとき、王の視点から魔術師同士が行う代理戦闘として今し方行われてた戦闘を見た場合には、『汚れ仕事を担わせていた子飼いの暗殺者たちが用済みとなったから切り捨てられて処理されただけ』・・・・・・でしかなかったのが先程までの戦闘の実情でもあった。

 

 それは権力者たちにとって、ありふれた日常の1ページでしかなく、現代では少なくなっても自分たちが生きた古代や中世の時代にはよく取られていた、傲慢な支配者たちの常套手段。

 

 即ち、【暴君の政治手法】である。

 名君としての自分が召喚されていたならいざ知らず、暴君と化して黒く染まった自分には感じることなどあろう訳もない。

 

 否・・・暴君だからこそ思うことも一つだけあるにはある。

 あった事を、ふと思い出していた。

 

 

 それは―――いつの時代も暴君は、己の傲慢さ故に毒を飲まされて死ぬか、部下に後ろから刺し殺されるか。その二つの死に方が多かったなという歴史上の事実だけ・・・。

 

 

(・・・存外、今夜の戦いを命じたアサシンのマスターは、キリツグに殺されるより先にそういう死に方をするのかもしれんな。“かつての私が”そうなったように・・・)

 

 

 最終的な勝利を手にして、栄光と共に凱旋してきたはずのアーサー王を殺めたのは、部下でもあり身内でもあったらしい野蛮騎士と、謀反人に従う道を選んだ本国に残してきた家臣たちの裏切りによってであった。

 

 ライダーによって最終宝具を見せつけられた直後であったことが影響し、自らが生前に味あわされた最初で最期の敗北と死に様を思い出させられていた暴君騎士王の胸に去来し、予言したわけでもなく直感Aのスキルで予感したわけでもなく、ただそう思っただけだった。

 

 単なる感傷に過ぎず、即座に自分自身で失笑してしまう程度の“らしくなさ”に過ぎない想い。

 

 それ故にセイバー・オルタにも分からなかった。まさか己の感傷が現実になってしまう未来など、予言者でも魔術師でもない黒く染まっただけの騎士王には解るはずもなかったから・・・・・・。

 

 

 ――余談だが、時臣を結果的に死をもたらす彼の戦略は、自分自身を殺した裏切り者の弟子によって模倣され、十年後に同じ皮肉な結末をもたらす事になる。

 この戦いより十年の後に行われる戦いにおいて、背信の神父は師と同じく安全な場所に立てこもり続け、斥候を使ってマスターたちとサーヴァントの情報を集積させ、最終局面まで己自身が出張る事なくワインを嗜みながら他者を見下し愉悦に浸る、傲慢な権力者を猿マネしたかのような老醜の姿を晒し続けることになる。

 

 十年前に命令違反を犯してでも執着する相手との決着を望み求めた戦士としての面影は既になく、年老いて傲慢になった権力者となってしまった“元”求道者だった者の成れの果てだけが残るのみ。

 

 栄枯盛衰、奢れる者は久しからず。

 求め続け、駆け抜け続けてきた己の人生と懸け離れた自分になってしまった者に、もはや何の存在価値もない。

 己の貫くべき信念や誇るべき道を、途中で逸れてしまった者の最期は、やはり無様に終わるのが戦士たちの宿命なのかもしれなかった―――。

 

 

「お互い、言いたいところも言い尽くしたようだし、今宵はここら辺でお開きとしようか」

「ああ、そうしろ。とっとと帰れ。私はこれから散々に散らかされた掃除で忙しいのだからなヒマ人共が」

 

 腰を上げて閉幕を告げてきたライダーに、犬でも追っ払うみたいに「しっ、しっ」と右手を振ってイヤそうな表情で返すセイバー・オルタ。

 どうやら再び散らかされた場内の掃除という名の撤去作業を再開する気満々らしい。一応はまだ敵が場内に留まっているから鎧は着てるけど、本心ではとっとと脱いでビキニ水着メイド姿に戻りたくて仕方がないのが丸見えな態度に、アイリスフィールとライダーは全く別の理由で苦笑するしかない。

 

「貴様は相変わらずだな、セイバーよ」

 

 突き放すというか、追っ払いたくて仕方がない声音で言われたライダーが、セイバーの言葉を聞いて軽く返し、近くで宝具のすさまじさに度肝を抜かれて腰抜かすだけになっていた自分のマスター少年を引き寄せて帰るための戦車を召喚し――最期に一言だけ彼女に向かって言葉をかけてやる。

 

「なぁ小娘よ。いい加減にその痛ましい夢は捨ててしまっても良いのではないか? その夢は、いずれ英雄としての最低限の誇りさえ見失わせる羽目になる。そういう類いの呪いが“王というユメ”であることを、貴様なら既に知っているはずだ・・・・・・」

「大きなお世話だ。デカいのは図体だけでいいから早く帰れ、掃除の邪魔だ。この招かれざる客人たち共めらが」

 

 にべもない口調で切って捨てられ、苦笑と共に天高くへと飛び去っていくライダーとマスターの一行。

 

「耳を傾ける必要などないぞ、セイバーよ。お前は己の信じる道を行くがよい」

 

 そして最後に残っていたアーチャーまでもが、人のこと好き勝手言って勝手に評してくる。

 

「お前が尊んでいる“王のユメ”とやらは正しい。微塵たりとも間違いはない。正しすぎて、その細腰では荷が重すぎると判断したであろう、お前の英断も含めて全て正しいともさ。

 人の身に余る王道と理解し、その道を逸れながら、尚も自ら選んだ道を良きことは思おうとせず、悪の道であると弾劾しながら迷いなく実行し続ける貴様の、その矛盾。その相克。

 フフフ・・・・・・慰み者としては中々に上等だ。

 せいぜい励めよ騎士王とやら。ことによるとお前は、更なる我が寵愛に値するかもな―――ハッハッハッ」

 

 

 最後にそう言い残し、黄金の粒の群れとなって霊体化して去って行くアーチャー。

 言うだけ言って、勝手にいつでも帰って行ける霊体可できるサーヴァントの特権行使してくる連中は、つくづく面倒臭くてやっかい極まりない。

 こっちにも言い返す機会ぐらい与えてから消えていけと、口の中でブリティッシュ人らしい罵倒と悪口とブラックユーモアとスラングとを百通りほど並べまくってから掃除作業に戻ろうかと思っていた矢先。

 

「セイバー・・・・・・」

 

 とアイリスフィールが気遣うように声をかけてきて、その表情に思い当たることがあったセイバーは確認のための言葉を投げかける。

 

「・・・・・・先ほど言った『王は人の気持ちが分からない』のことか?」

「・・・・・・うん」

 

 小さく気まずげに、だが確かに頷かれてしまったためセイバー・オルタとしては応える意外に道はなくなってしまう。

 

「昔のことを思い出したのだ。『アーサー王は人の気持ちが分からない』と言い残して、かつてキャメロットを去った騎士がいたことをな。そして当時に思ったことも。

 もしかしたら、アレは円卓に集まった騎士たちが抱いていた言葉なのかもしれない、と」

 

 些かばつの悪い想いを味わいながら、頭をかき。――あまり良い思い出でもない過去話を語った言葉に、アイリスフィールは即座に返すことが出来ず相手を見つめる。

 

「私は国を繁栄させるための手段として、理想論よりも独裁を選び黒く染まりはしたが、悪を由とした訳ではない。

 悪とは裁かれるべきものであり、正義は尊ばれるべきものだと今になっても信じてはいる。

 ・・・だからまぁ・・・・・・征服王の宝具を見せつけられた瞬間、“こうなれる道”もあったのかもしれないな・・・と。正直想いはした」

「・・・・・・」

 

 言葉もなくアイリスフィールは、相手の顔を見つめ続け、しばし黙考してから「ねぇセイバー」と慰めの言葉を続けようとする。

 

 しかし―――。

 

 

「だが所詮、今となっては過ぎたことだ」

 

 

 と、アッサリとした口調で過去を切り捨てるように言い切ってみせる。

 未練だと。やろうとして失敗して成し遂げられる寸前までいったからこそ抱いてしまう、感傷という名の未練に過ぎぬ感情論でしかないのだと。

 理想ではなく合理主義を選んで黒く染まった暴君は断言する。

 

「全ては数百年の昔に終わってしまった泡沫の夢に過ぎない。

 成したいと願望を抱き、最善を尽くして叶う寸前までいきながら、叶うこと無くこぼれ落ちていった夢へと、もう一度手を伸ばそうとしてしまえば、それは願望ではなく『損失への嘆き』になる。

 それは幻想ではなく幻惑でしかない。幻惑でしかない以上、その先に待っているものもまた碌な未来が訪れることはあるまいよ」

 

 

 サッパリとした口調で、二度と戻ることの出来なくなった正義を尊ぶ名君となる道を諦め、遠い昔に滅び去った祖国への思いを抱いたままに『無理はものは無理』と割り切る道を合理主義の暴君は選び取る。

 

 もう既に、とっくの昔に手遅れだ――と。

 

 

「あるいは、聖杯に願えば王としての私の是非や、不可避の運命、あらゆる偶然や運勢などの不条理の上に積み重なっている今の私自身の抱く思いさえ、全て望むままに変えれるのかもしれないが・・・・・・」

 

 

 フゥと、小さく重く吐息を吐くと・・・・・・黒く染まった暴君は、自分がその道を選びたくなくなってしまった今の想いを正直にアイリスフィールへと打ち明ける。

 

 

 

「――ただ、それやってしまうと今までの私の苦労は何だったのかと、バカらしくなってきそうでなー…。

 もし“最初から魔術に全部頼れば良かったのに”とか、花のバカ魔術師に笑われたりした時にはブチ切れて首切り落として殺した後、私も恥ずかしさで自殺したくなりそうな気がして、あまり嬉しくない結末だなーと。そう思わされた」

 

「セイバー・・・それを言い出しちゃうと大体全部、終わってしまいそうだから止めておいた方がいいんじゃないかしら…?」

 

 

 

 最後に出てきて、それまでの展開とか登場人物たちの葛藤とか全部無視して解決してくれるデウス・エクス・マキーナが如き、万能の願望器という台無し大魔術マシーン。

 それと同じくらい、色々と台無しにしやすい価値基準と考え方持ってる黒く染まった合理主義者の癖してプライド高い、負けず嫌いの暴君様の一言によって今夜もまた色々と台無しにしながら今次聖杯戦争最初のサーヴァントが脱落した戦いは終わりを迎える。

 

 

 残るサーヴァントは6騎!

 最初の時点で倒されたと思わされてたアサシンを本当に倒しただけで、人数的にはあんまり変わりなく第四次聖杯戦争は第二局面を迎えようとしていた!!

 

 

 ……意外と先が長そうな損耗比率。

 それが第四次聖杯戦争途中の戦況でありましたとさ……。

 

 

 

 

つづく

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