もしも切嗣が喚んだセイバーがオルタ化してたら   作:ひきがやもとまち

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ユーザー様から応援をいただき勇気とやる気が出ましたので、とりあえず完成させてみました。

【stay night版オルタ】の2話目、最後まで書き上げた完全版です。

紛らわしいので、前に出してた途中まで書いたのは消して、入れ替えました。


もしも士郎が喚んだセイバーがオルタ化してたらStay night第2夜(完全版)

 

「子供の頃、僕は正義の味方に憧れてた」

 

 ――それは今と同じ、五年前の冬の話。月の綺麗な夜に告げられた言葉だった。

 

「なんだよそれ。憧れてたって、諦めたのかよ」

「うん、残念ながらね。ヒーローは期間限定で、オトナになると名乗るのが難しくなるんだ。そんなコト、もっと早くに気が付けば良かった」

 

 自分から見て、正義の味方そのものだった父親が最期に言い残した告解に対して、幼き衛宮士郎はこう答え、己の生涯で変わる事なく消える事なき誓いと化した。

 

「しょうがないから俺が代わりになってやるよ。爺さんはオトナだからもう無理だけど、俺なら大丈夫だろ。まかせろって、爺さんの夢は俺がちゃんと、形にしてやるから」

 

 正義の味方になるのだ。

 自分を救ってくれた養父が叶えることの出来なかった夢を、息子の自分が実現するのだと、幼き時分の衛宮士郎はそう誓い、死ぬまで貫くべき信念、あるいは呪いとして己の心に刻み、己の一生を死後においてまで振り回されることになる・・・・・・。

 

 ――だが反面、子供の時分には「将来の夢」として堂々と語っていた「正義の味方になる夢」を他人に語ることは、年を経るごとに減っていく一方となっていたのも事実ではあったのだ。

 近年では最も親しい間柄の後輩少女、間桐桜でさえ知らされたのは昨日の夜が初めてだった程に。

 

 夢は他人に語るものではなく胸に秘めて実現するもの。無知な子供に分からぬ事も大人になれば分かるもの。周囲に合わせる必要性、世間の評価、風評、体面。――それをする理屈はどうとでも付けられる。

 

 人間、半端に賢くなるとニヒリズムが横行しはじめ、王道を馬鹿にするようになる。

 これも文明が進んだが故に生じる、人の魂の劣化なのかもしれない。

 衛宮士郎もまた、それらを受けて己の在り方に僅かなりと影響されていたとしても不思議ではない。

 

 なぜなら彼は、過去の経験によって心の病を患い、人なら誰もが持っている当たり前の心の一部を欠損した状態で今日まで生きてきた少年だ。

 事故で“一部が欠損しただけ”であって、その他の部分は他人と変わらぬごく普通の少年だったのである。

 

 単に、人間なら誰もが持っていて当然のものを“当たり前に持っている普通の他人たち”にとって見れば、自分たちにとって当たり前のものを持ってないから「異常だ」と「破綻者だ」と感じてしまっていただけのこと。

 

 衛宮士郎は壊れてしまった一点を除いて、至ってマトモで平凡な少年だったのだから、気恥ずかしさもあれば、プライドだって当然にあった。

 それが彼に、人に聞かれるとバカにされやすい夢の内容を他人に語らせない処世術を身につけさせた。只それだけの事である。

 

 只それ故に彼、夢を語らなくなった衛宮士郎は、夢を一人で抱え続け、一人だけで夢と向き合う孤独をも同時に内包した少年になってしまっていたかもしれない。

 

 

 そして、それ故にこそ。

 他の平行世界の自分と異なり、運命の夜に出会いを果たした「青くない少女」の言葉で、最も印象に残ったモノが他の衛宮士郎たちと違っている理由にもなった。・・・かもしれない。

 

 

「それがどれほど稚拙で我が儘で子供じみて幼稚な夢幻だったとしても。

 己が信念と覚悟のもと『自分がそうしたい』と望んだ戦いに掛ける意思であるなら、私は笑うことだけは決してしないと約束してやる」

 

 

 ・・・・・・その言葉が、この夜から始まる第五次聖杯戦争をおかしな方向へと引きずり込む、最初の変化だったことを、この時の彼は知るよしもない―――。

 

 

 

 

 

「――はっ!?」

 

 白昼夢から冷めたような想いで、衛宮士郎は一瞬の既視感から現実の世界へと帰還してきた。

 どこかで見た風景、いつか見た記憶。だが、どこかしら齟齬があるような気がした目の前で展開されている出来事に、体の中の何かが“元のカタチに戻そう”という強制力でも受けたかのような錯覚を感じて、微かな目眩を覚えて体の動きが停止していたのだ。

 

 忘我していたのは数秒。

 だが意識を取り戻した士郎は、体の痛みも忘れて土蔵を飛び出し、今し方自分に手厳しい言葉を告げ、自分を殺そうとしていた男の後を追うように身を躍らせて姿を消した少女に追いすがる。

 

 なぜなら、それが衛宮士郎が選んだ生き方なのだから。

 たとえ相手に言われた指摘が正しく、今の自分に何も出来ず、心に突き刺さる言葉の刃で切りつけられた痛みを忘れることは出来ずとも。

 それでも尚、衛宮士郎は彼女を助けに行く。助けに行かなければならない。

 

 あの娘が、あの男に敵うわけがない。

 あんな物騒な格好をしていようと、少女は自分より小さな女の子なのだから――そう思い、焦る気持ちを胸に土蔵を出て、少女の足を止めさせるため声を出し、

 

「やめ―――!!・・・・・・な・・・・・・」

 

 ろ、と最後の単語を叫ぼうとした口は封じ込められ、思わず何も考えられなくなるほどの光景に声を失うことになる。

 

 

―――キンッ! ギンッ!! ガィィッン!!!

 

「チィッ! ぐっ・・・!!」

「ふんッ!!」

 

 月光の下、戦いは既に始まっていたのだ。

 先ほど士郎自身が体験した、九死に一生を得るような全力のやりとりなど戦闘と呼べるようなモノではなく、これ程のモノこそが争いであり戦闘なのだと、そう心から思わずにはいられなくなるレベルの、人知を超えた戦いが。

 

 狙撃銃のような正確無比と速さで放たれる、男が持った槍の一撃。

 散弾銃の如く火力に物を言わせて振り下ろされる、少女が持つ“ナニカ”の一斬。

 

 見習い魔術師でしかない士郎にとってさえ一目瞭然な程の魔力が籠められた武器同士が、互いにぶつかり合い火花を散らすだけでなく魔力と魔力が衝突し合って、実際に魔力の粒子を周囲に発散させているのである。

 

 そして士郎の目が確かなら、その勝負は少女が男を圧倒しているように見えていた。

 

「卑怯者め、自らの武器を隠すとは何事か・・・!」

「―――」

 

 やや戦いづらそうに顔をしかめながら、槍の男は“手に持つナニカ”を見せぬまま斬りかかり続ける少女に悪態をつき、少女は答えぬまま“ナニカ”での攻撃を打ち込み続ける。

 

 そう。少女は“ナニカ”を持っているのは確かだが、見えないのだ。

 士郎の目にも、そして相手の男の目にも見えていないらしい。

 それがどのような形状で、どれほどの長さなのかさえ不可視なままでは迂闊に踏み込むことも出来ない。

 ただ、周囲全てを飲み込まんと欲するような、禍々しい闇に包まれて見えるそれは、夜の闇の中で余計に相手の男に遣りづらさを感じさせる一助になってもいたらしい。

 

 ――それは本来、少女の好みには合わぬ加護だったもの。

 だが、聖杯から与えられた必要知識によって、今回呼び出された聖杯戦争のルールには適していると判断し、不承不承ながら力を抑制し“一先ずは隠しておくのが賢明か”という合理的計算によって選ばれた戦闘方法。

 

 とは言え、本来喚ばれるはずだった青い自分とは異なる、黒く染まったアーサ王もまた見た目ほどの余裕を持って初戦の強敵と対峙していたという訳ではない。

 

 何故ならば―――

 

(・・・何故だ!? なぜマスターからの魔力供給があまり届かないのだ!?

 契約は完了してパスは通じているはず! マスターも近くにいる! なのに何故、魔力がこん!?

 これでは私本来の戦い方ができんではないか! 私は青い方以上に魔力食いな全力全開で戦うサーヴァントだと言うのにィィィィィィッ!!!)

 

 という窮状を抱えて、敵に気づかれないよう戦っていたからというのが理由だった。

 乏しい魔力の懐事情を敵に悟らせぬ為、クールに振る舞い、無表情の仮面と無言を貫く沈黙の砦に立てこもる籠城戦によって、ひたすら魔力事情が回復するまでの時間稼ぎを図るしか他にない暴君の道を選んだ騎士王の側面アーサー王。

 

 何故なら彼女は、理想のために自らを律し控える名君だった己と異なり、非常に徹して、ためらう事なく強大な魔力を振るう暴君。

 魔力を制御しようともせず、思うままに聖剣を振るうが故、魔力の粒子さえも光ではなく闇となってしまった、魔竜ヴォーティガーンを倒すという使命さえ怪しいものとなってしまった存在なのだ。

 

 そして竜とは、大食いな生き物なのである。

 そんな相手に、飯なしで本来の全力戦闘やれとか言われたら死にます。敵と戦って負けるより先に、飢えて死ぬ。魔力ガス欠して消滅して敗退してしまうだろう、初日の初戦から呆気なく。

 

「テメェッ・・・・・・ふぅんっ!!」

(魔力! 魔力ッ! 魔力はまだかァァァっ!?)

 

 見えない刀身と、見られたくない腹ペコ事情という戦いづらい理由を背負い合い、互いの攻撃を捌き合う二騎の英霊たち。

 生身の人間であり、黒く染まった暴君セイバーとは初対面になる士郎の目には、互いを仕留める事ができる能力者同士が行い合う、先ほどまでの自分と相手とは異なる真の闘争と思えるほどの戦いも内情は、情けない部分を敵に気づかせないための格好つけも結構混じってはいたのが現実だった。

 

 実際の戦闘なんて、そんなものである。

 強敵と戦う際、万全の状態で応じることができるのは戦士にとって、幸運の類いに分類される。

 それがどのような戦力差であろうとも、相手を打倒しうる術があっても腹減って使えない場合は、バレないように誤魔化して戦うのが戦闘と呼ばれるものなのである。

 

 まぁ、半分ぐらいは体内に聖剣の鞘埋め込まれて、魔力パスに偏り起きてる自覚なしマスターにも責任あるんだけど、そんなことは本人もサーヴァントだって現時点では知りはしない。

 

「ふ―――っ!!」

 

 ただ、待てど暮らせど魔力が一気に補充される領が増える気配もないのでジリ貧になり始め、なんとか状況を打開する必要性が生じてしまってたセイバー・オルタの方が、大上段から遠心力もプラスして強力な一撃を打ち下ろし、

 

「調子に乗るな、たわけっ!!」

 

 勝機と読んだ相手に、“わざと”後方に飛んで攻撃を回避させ、勝負に出た一撃を躱され地面に打ち下ろしてしまった刃を“隙”と見抜いた敵が即座に反撃してきたところに、予定調和の二撃目をグルンと独楽のように体を反転させて叩きつける!

 

「ぐっ―――!!」

 

 が、その一撃も相手にギリギリのところで防がれ、回避されてしまったせいで不発に終わる羽目になる。

 ――魔力さえ! 魔力さえあれば!! と内心で思わなくもなかったが、無いものはなく届かなかったものは届かなかったので致し方がないと合理的に判断し。

 

 さて次はどうしようか。

 なんかどっかで似たようなこと、考えた事あるような気がするなと考えながら。

 

 最優である剣の英霊セイバークラスで召喚された黒く染まったアルトリアは、互いに距離を置いた位置で睨み合うと、今度は自分の方から話しかける。時間稼ぎと誤魔化し目的で。

 

「どうしたランサー。足を止めた槍兵など、名前倒れも甚だしいだけではないか。自分からは攻められぬと言うなら、騎士の情けとして私から攻めに行ってやってもよいのだが?」

「は、わざわざ死にに来るか。それは構わんが・・・・・・その前に一つだけ訊かせろ。

 貴様の宝具―――それは剣か?」

「さてな。戦斧かもしれんし、槍剣かも知れん。いや、あるいは弓かも知れんな、ランサーのサーヴァントよ」

 

 相手からの問いかけをも利用して、はぐらかすように笑顔の一つも見せる事なく答えを濁した回答を返し。

 

 そして――――凄まじく不愉快な気分に襲われる。

 口を「へ」の字にひん曲げて、表情を歪めまくる。

 

 どういう現象によるものか、はぐらかすような発言を自分がした途端に、どうしようもなく不快感が魂の内側からこみ上げてきて、激しい苛立ちを感じさせられたのが原因だった。

 

 理由は分からない。

 今の姿に見覚えはなかったが、真名の分からぬ相手の英霊に生前思うところでもあって未練が残っていたやも知れないし、なんらかのスキルなり固有能力なりを持っている可能性も捨てきれない。

 

 あるいは、どこかの平行世界で行われた今次聖杯戦争に青い方の自分が喚ばれて、ランサークラスを相手に、嘘で誤魔化して止めを刺すような行為でもして気にしていたことが、今の自分に影響を及ぼしてでもいるのだろうか?

 

「冗談だ」

 

 だからこそ、キッパリ言い切っておくことにした。

 別段、互いに名乗り合ってから首を掻き切り合うのが騎士道だとか、名乗りもせず無言のまま襲いかかって殺すのは卑劣だとか、お為ごかしな綺麗事を聖杯ほしさの暗闘で持ち込む気は一切ないが・・・・・・気になる。と言うより、気に触る。

 

 自分でも理由のハッキリとしないクサクサした気持ちを抱えさせられ、イライラさせられながら敵と殺し合って、倒した後にも敵を討伐した爽快感が得られないというのでは、割に合わない感じがして余計にイライラし続けられかねん。

 

 どーせ殺し合うなら、何の躊躇いもなく相手をブッた斬って、殺した敵の死体を前に勝利を誇って清々しい心地に浸れる方法で殺した方が、殺す側にとっては気分がいい。

 殺し終わった後に、蟠りやら後悔やら罪悪感だのを感じなければいけなくなるのでは、なんのために苦労して強敵と戦って勝利して殺したのか分かりゃしない。

 

 まして、そんな気持ちになる理由が【自分とは異なる道を選んでいた場合の自分】にあるのだとしたら尚更だ。

 どのみち他の武器を実体化できるわけでもない以上は、すぐバレる。

 

 元々1クラスに1騎ずつしか参加できない聖杯戦争において、他のメンツが出そろっただけでバレるような偽装は序盤においてぐらいしか意味がない。

 その序盤で優位を確保できそうもない、へっぽこマスターに召喚されてしまった今の自分にとっては、もはや全く何の意味もなしてくれる訳も無し。

 

 

「如何にも、私はセイバーのサーヴァント。

 故あって真名までは名乗れぬが、この剣を隠す結界ぐらいは解いて見せてやっても構わんが?」

「う・・・・・・、それは・・・」

「よい。これは私が抱える個人的問題に配慮したに過ぎぬ。

 名乗れば、名乗り返そうとする貴様の誇り高さには敬意ぐらいは表さんでもないが、わざわざ敵のやり方に合わせてやる義理もなかろうよ」

「お、おう・・・」

 

 最初の一言とは裏腹に、相手から堂々とした態度でサラリと返された返答に、むしろランサーの方が鼻白まされながらも頷きを持って肯定だけは返すことができた。

 ・・・・・・どーにも、やりづらさを覚える相手だった。

 

 いや、態度と言い分は嫌いではないのだ。その潔さは、好みの流儀ですらある。

 ・・・・・・ただ、どーにもシックリ来ないというか、違和感と言うべきなのか、当世風に「でじゃぶぅ」という表現を使うべき状況だったのか・・・・・・微妙に相手からの返しと言動が自分の中で噛み合わず、首をかしげたい感情に駆られてしまうのだ。

 

 なんとなく理由はないのだが、もっと捻くれた返答を返してくる前提で考えてしまっていた自分がおり、こんなに素直で正直な答えを教えてくれる相手じゃないような気がしてしまってたのだ。初対面のはずなのだが・・・・・・何故か。

 

 

 ――もしかしたら彼もまた、数多の平行世界で喚ばれ続けて、同じ場面を体験し続けてきたことから、今までと同じはずの相手と微妙に違う展開になってしまった今次聖杯戦争で『変化した現在』との相違を感じ取る部分があったのかもしれない。

 

 なにしろランサーの英霊クー・フーリンは、毎度のように同じ立場で自分ばかりが召喚されやすい存在であり、槍の英霊と言えば自分が召喚されることが多すぎる事情を色んな世界の色んな聖杯戦争で持ちまくり過ぎてしまっているサーヴァントの一騎だったから。

 

 これはランサーとして召喚される英霊たちの候補が、他のクラスと比べて極端に限定されやすいことが影響している結果であった。

 実のところランサーとして聖杯戦争に召喚されそうな、槍の英霊候補は極めて少ない。もともと剣と比べて槍の逸話自体が多くない上に、ステータスも考慮すれば候補は極端に絞られざるを得なくなってくるしかない。

 もともとヨーロッパでは、槍術という分野があまり発達していない。これは騎士たちによる騎馬隊突撃のランスが槍の主流だったことが関係していると思しき部分だ。

 

 ランスの突撃で有名になった英雄だと《ライダー》に認定されてしまう可能性が高く、概念上の繋がりとしてランサーとして召喚されそうな『串刺し公』の異名で知られるルーマニアの王ヴラド・ツェペシュも、槍使いの達人としての逸話を残した人物という訳ではない。

 

 東洋の英霊も召喚可能だったなら、若い頃は格闘技の達人として知られる人物の老後とかが当てはまりそうで、候補は爆発的に増えそうなのだが・・・・・・少なくとも冬木市での聖杯戦争が行われてる平行世界のシステムだと、西洋の英雄だけが候補と決まってるらしいので、その中で選ぶ以外に選択肢は他になし。

 

 そうなるとまぁ、普通に考えてランサークラス喚ぶなら、クー・フーリンか、フィオナ騎士団の一番槍辺りが妥当なところとなってくる。

 神代の時代まで遡れば太陽の槍を持った『施しの英雄』も該当しそうだが、『所縁の品』を見つけるのが『世界最古の英雄王』と同じぐらい難易度高そうなので「妥当」とは言いにくい。それどころか前二者だって決して楽に見つかりそうな連中じゃない。

 紀元前の英雄ばっかり強い槍の英霊に多いのって、聖杯戦争のマスター的に不利そうなだと、貧乏小国の暴君王はちょっとだけ思って共感した。・・・・・・かどうかは分からんけれども。

 

「――ま、いいさ。それはそれとして、だ・・・」

「・・・?」

 

 そう言い切ってランサーは、つい先程まで自分の内側で生じていた違和感に疑問を感じていた心をアッサリと割り切り、槍先を僅かに下方へ下げる。

 元より彼自身、割り切りの良さには定評があるサーヴァントだ。

 

 敵であろうと好む者とは友になり、友であろうと敵になるなら躊躇なく殺して、恨みや憎しみ偽善など『敵と戦って倒す戦場』に必要としない。

 そういうタイプの、感情と戦闘は別物として捉える、現代人の倫理や国粋主義に染まった者達には理解しづらい部分を持った生粋の戦士。

 

 戦いに直接関係のない疑問について、いつまでも拘って戦闘に集中できないような無様を晒す愚かさなど持ち合わせていた覚えは――人生最後の1度しかない。

 

 そんな相手の真名までは、まだハッキリと確信できるまでには至っていないが、油断しようのない強者であることは間違いない神速を誇る槍の名手から、一般的には戦闘を止める意思表示と捉えられている動作を見せつけられ、セイバー・オルタはやや不審そうに相手を見つめ、相手はその反応がおかしかったのか僅かに嗤う。

 

「ついでと言っちゃなんだが、もう一つだけ訊いとくぜ。

 お互い初見だしよ、ここらで分けって気はないか? 悪い話じゃないと思うがな」

「――ほう?」

 

 相手からの提案に面白そうな表情を示して黒い鎧の少女も、また嗤う。

 ・・・・・・正直、悪い話じゃないどころか、有り難すぎて今すぐ飛びつきたいレベルの窮状だったのが実情なんだけど、それやってしまうと足下見られて全力で襲い掛かってこられかねないので言えません。

 ハッタリ効かせて交渉して、自分たちの側にも弱味あることなど微塵も感じさせない余裕あふれる態度で誤魔化します。

 

 よくある話だが、暴君や独裁者という存在が強い態度を示すとき、大抵の場合は苦しい内情を悟らせぬため強気な態度と言葉で隠してるだけなのが実情で・・・・・・ってアレ? なんか前にも似たようなこと思ったことあるような気が・・・・・・いや、記憶にないので気のせいだな。

 

「そら、あそこで惚けているオマエのマスターは使い物にならんし、オレのマスターとて姿をさらせねぇ大腑抜けときた。こっちは元々、様子見が目的だったことだしな。

 サーヴァントが出てたとあっちゃあ、長居するつもりもなかった。

 ここはお互い、万全の状態になるまで勝負を持ち越した方が好ましいんだが――どうだ?」

「ふん、なるほどな。―――だが、断る」

 

 バッサリと、セイバー・オルタは断言してランサーからの提案を切って捨てる。

 もしくは、切って捨てて“見せる”

 

「聖杯を求めて召喚に応じたサーヴァントが遭遇し、刃を交えてしまった以上、どちらかが果てるまで戦うのがセオリーと聞く。諦めて、この場で倒れるのだな。ランサー」

 

 そう言い切って“見せる”まで付け足してまで。

 もっとも、暴君という「政治家の強気発言」などという代物を、字面通りに解釈して本気にするのは阿呆か庶民のどちらかしかいないものなので本心からの言葉では全くなかったのだけれども。

 

 ただまぁ、言っている内容自体は非常に正しくはあったにはあった。

 伝承や逸話で語り継がれる過去の英雄たちを、クラスという依り代に召喚するサーヴァント同士で戦う場合、敵の情報をできるだけ多く集めてから戦いに望むのが聖杯戦争における定石の手段とされている。

 

 何故ならサーヴァントたちは、英雄本人が喚び出された存在“ではない”からだ。

 あくまで《英霊の座》に招かれた英雄本人の一部を影として召喚し、人々が英雄に抱いている幻想という名のイメージで形作った器に憑依させる。

 それがサーヴァントという存在の在り方だ。

 

 そのため召喚された英霊たちは、自身の神話や逸話に強い影響を受けてしまいやすくなる

 『この英雄なら、こんな事はしない』『この英雄は、この部分が欠点になっている』

 ・・・・・・そういうイメージを人々が本体の英雄に抱いていれば抱いているほど、喚び出された本体の影である英霊たちは、英雄本人の意思以上に逸話の中で描かれている英雄の行動や思考や弱点に左右されやすい。

 

 言うなれば、英雄本人の伝承を元にして、英雄自身を『演じている偽物』がサーヴァントという存在の正体だった。

 だから逸話を知ることで敵サーヴァントの弱点は分かりやすくなることは珍しくなく、特徴的な死因が記されている英雄などは、その武器を使って倒せば楽だと全世界的に晒されてしまっているようなものなのだ。

 

 古代ギリシャ最大の英雄を英雄を倒すには、「アキレス腱を狙え」などは、これ以上ない見本と言っていい。

 だから、敵サーヴァントと本格的に戦うには情報を多く集めてから、というのは実に正しく真っ当な戦術と言えるのだが、しかし。

 

 大前提として――――それは、『敵と戦う前までは』の話であって、実際に矛を交えた後からでは条件が変わるのが戦闘というものである。

 

 ランサー クー・フーリンなんかサーヴァントとして弱点になるどころか、生前もそれが殺される遠因になってる辺り鬼門というしかないレベルなのだ。ステータスは理想的に近いのに最終的な勝利者になれるイメージがあんま湧かない英霊なのは・・・・・・多分そこら辺が理由な気がする。

 

 そして、この点ではセイバー・オルタも該当している部分ではある。《インビシブル・エア》は初見殺しとしてなら最高近くの宝具だが、二度目からは今一通じづらくなってくる宝具の典型でもある。

 特に一度目で仕留めきれずに逃してしまったほどの強敵なら、確実に刃筋を読んだ上で再戦してくると考えた方がよい。

 それを考えれば、お互いに万全の状態“ではない今の強敵”である内に殺してしまった方が安全というのが、セイバー・オルタ流の合理的なサーヴァント戦での勝ち方だった。

 

 黒く染まった暴君は、理想的な名君を目指して挫折した青いアーサー王が選べなかった道を選んでいた可能性の具現存在。

 

 ――とは言え、

 

「だがまぁ・・・・・・今の私は、“聖杯を求めて喚び出しに応じたサーヴァント”とは、言い難い状態でもあるようなのも事実だからな・・・」

 

 そう告げて溜息と共に、自らもまた剣の切っ先を僅かに下げて視線を逸らし。

 駆けつけてきてから惚けたように戦闘を眺めやるだけだった、赤茶けた髪の少年の方へ、この戦いが始まってから初めて視線と意識を向け直す。

 

「元より、この身はサーヴァント。マスターの矛であり、盾となり、鎧ともなるべき存在だ。

 生前であれば思うところもあったが、今はその条件を承知した上で召喚に応じてやった身なのでな。貴様を倒すか否か、戦うかどうかは代理として喚ばれただけの私が決めることではなかろうよ。

 ―――で、どうするのだ? マスター」

「えッ!? お、俺っ!?」

 

 突然に話を振られて慌てふためくしかない衛宮士郎。なんかさっきから驚かされてばっかな気がするけど、わけも分からず巻き込まれて決定権まで押しつけられてしまった少年として仕方ありません。

 

 だが、仕方がないで済ませられないことが多いのが、現実の戦いというものでもある。

 

「貴様が正規のマスターでない話は先程聞いた。聖杯戦争を知らずに私を召喚してしまっただけだという話もな。

 だが、それでも私というサーヴァントを召喚してしまった以上、私にとって貴様はマスターであり、私は貴様のサーヴァントである事実に変わりはなく、事情を知って承知の上で召喚したか否かも今となっては些事に過ぎん」

「そ、そんなこと急に言われたって、決められるはずが――」

 

 戸惑いながら、それでも押しつけられた状況に理不尽さを感じて、ほとんど発作的に士郎は相手の言い分に噛みついて返してしまっていた。

 考えての行動ではない。ただ何となく、そういう自分たちの意思を有無を言わさず相手に押しつけるのは良くないと思った。それだけだった。

 

 ――かつて、理不尽や不条理で失われた多くの命を知るが故に。

 他人たちの勝手な都合で、誰かを巻き込んで犠牲にするような行為を止めたいと思うようになった、その一心だけで。

 

 しかし・・・・・・

 

「――戦場に巻き込まれて、そうとは知らずに人を殺しただけだからと、相手の死は手違いとして無かったことになると思うか?

 いきなり武器を渡されて、訳も分からず振り回してただけで、殺すつもりもなく殺めてしまった相手は、事情を知らぬ者が偶然に刺さっただけだからと生き返ることができると思うか?」

「そ、それは・・・・・・」

 

 スッと目が細められて放たれた言葉に、士郎は愕然とさせられる事になる。

 

「ならんだろう。それが戦いであり戦場というものだ。

 承知の上で、覚悟の上で、敵と戦って殺す覚悟を決めて戦場に立つことができる者など幸運の部類。

 生まれた場所で、生まれた家で、生まれた環境を理由に戦う義務を押しつけられて、敵だからと殺し合わなければ生きていくことすら難しい―――それだけで戦っている事の方が多数派であり、普通でしかない。

 それが偶々、貴様にお鉢が回ってきただけのこと。そういうものだ。受け入れろとは言わんし、無理だろうが、決定だけは選んでもらうぞ? それが故意であれ事故であれ、『力持つものを喚び出した責任』なのだから」

 

「――――」

 

 ・・・・・・もう、言葉はなかった。

 あまりにも過分過ぎる責任の重圧を自覚させられ、息苦しさを感じることしか今の自分には出来ていない。

 

 そうなのだ。今初めて気がついた。いや、思い至った。

 黒い甲冑をまとった少女も、彼女と互角の戦いを繰り広げていた槍使いの男も、常軌を逸した存在で、人間のカテゴリーには収まりきらない超常の力を振るう人の形をした戦略爆撃機のごとき存在なのである。

 

 そんなものを自分は、自覚なく呼び出してしまったらしいのだ。

 それは、「喚び出すつもりがなかったから」と、使い所を決めることを放棄し、爆撃機自体に攻撃の有無と戦闘行為の停止や続行を決める権利を委ねてしまっていい程度の、か弱い存在たちでは全くないのだから。

 

「その覚悟がない、“納得できない戦いなら命を奪う選択は選べない”と言うなら、私の命じるがいい。“戦闘を辞めろ”とな。

 私はサーヴァントとして、マスターの心が折れ砕けるまでは、マスターの決定に従おう」

「・・・・・・いいんだな? それで、本当に・・・」

「構わん。戦略的には正しくない判断かもしれんが・・・・・・主の身命だけでなく、“志”も守り抜くのが騎士というものの勤めだそうだからな。

 私が一騎士というのは業腹だが、仕方がないとでも割り切るさ」

 

 肩をすくめながら言い切って見せた少女の言葉で、士郎は完全に腹が決まった。決定を下す覚悟が出来た。

 

 

「だったら・・・・・・俺はアンタの話を受け入れる」

 

 

 士郎は、ランサーからの提案に対してハッキリと、自分の意思を伝えて返事とした。

 了承すると。

 

 ――それは本来、ありえないはずの奇跡が起きた瞬間でもあった。

 

 喚び出されるはずだった騎士王の英霊が、聖杯に固執するあまり怨霊と化した後になっていなかったから可能になった奇跡。

 

 祖国の滅びのやり直しを願い、より確実な成就を求めて世界と契約し、完全に死ぬ前の状態でサーヴァントとなり、記憶の持ち越しが可能になっていた青い騎士王が召喚されなかったから可能になった偶然の奇跡。

 

 士郎の前に彼女を喚び出したマスターが『自分を裏切った』と強く感じさせられた経験の記憶が残っていたら不可能だったかも知れない決定権の委任。

 

 あまりにも自分の生き方と掛け離れていると感じさせられ、だが実際には酷似していると言っていいほど合理性ばかりを重視した戦いを続ける生前の自分のようなマスターに、同族嫌悪とも呼ぶべき過去の繋がりを覚えていないから可能だった、主君への尽くし方。

 

 全てが全て偶然による産物で、運が良かったのか悪かったのか今の時点では判定しようがない結果の集積として、衛宮士郎はこの時この時点で初めて――――聖杯戦争に参加するマスターとして、戦いの決着を自分の方針のもとで決定を下して、自分の望むとおりの結末を手にしたのである。

 

「だが言っとくけど、アンタに刺されたのを許してやった訳じゃないからな? すっげー痛かったし、ただ俺もよく分かんないまま戦うのはイヤだってだけだ」

「・・・・・・セイバーのマスターの英断に感謝を」

 

 士郎から声をかけられ、それまで黙ったまま事の成り行きを見守っていたランサーは、小気味よさそうな目つきで未熟そうな少年と、仏頂面で自分たちを等分に眺めやってくる黒い甲冑姿の少女とを眺めて笑いながら、笑顔で感謝の意を表した。

 

 平和に惚けて折角の素材を台無しにしちまっているガキかと思ったが・・・・・・どうしてなかなか見所のある坊主だったらしい。

 それにサーヴァントの少女も。剣の腕も敵として気に入ったが、騎士としての生き方がなかなかに粋でイイ。

 

(身命だけでなく、“志”も守るときたか・・・・・・イイねぇ。そういう大バカ野郎は嫌いじゃねぇ。

 マスター権を性悪神父に奪われちまって腐ってたが、この戦い思ったよりずっと楽しくなってくれそうじゃねぇか)

 

「おかげでコッチの切り札も晒さずに済んだことだしな。

 うちの雇い主は、槍が躱されたら帰ってこいと抜かしやがる臆病者でな、使うからには必殺必中で確実に仕留めなきゃならんところだった。

 こんな状態で面白い相手との勝負を終わらせちまうのは勿体ねぇ、今日は大人しくお優しいセイバーのマスターの慈悲に縋って逃げるとしよう。

 なんなら、追ってきてくるなら構わんぞ? セイバー」

「追わんし、要らん。いいからサッサと帰れ、こっちはマスターへの説明が必要で忙しいんだ。シッシッ」

 

 と、犬でも追い払うような仕草で右手を振ってイヤそうに顔をしかめる姿に、ランサーは今一度呵々大笑。

 

「ではなセイバー。決着は後日だ。その時には決死の覚悟を抱いて来てもらおう」

 

 そう捨て台詞一つ残し、跳躍して軽やかに闇の中へと消え去っていったランサーの後ろ姿を見送り、完全に闇の中へと消えて気配も完全になくなって、元あった衛宮家の夜の静寂が戻ってきたのを確認してから――。

 

 

 ――――よっしゃ! 乗り切った!!

 

 

 と、セイバー・オルタは仏頂面のまま心の中だけでガッツポーズ決めながら、喝采を上げていた。

 自分の方が不利だったかも知れない勝負で、運良く相手の方から停戦持ちかけてきてくれたのを、交渉術でなんとか誤魔化しただけではなく、マスターに対して礼まで述べさせて借りを作らせるほどの成功まで手にしてしまったとは!!

 

 やるじゃないか私! 青い方は護国の名将扱いされてる割に、力押し一辺倒のイノシシ状態になってしまっていたので、オリジナルから枝分かれした可能性存在として心配だったのだが、交渉で解決もちゃんとできた!

 私は、やれば戦わずに解決もできる王!! ブリタニア万歳!!

 

 ・・・・・・なんか色々と心の中でダメなこと思ってる、ポンコツ具合が平和になるほど悪化しやすいアーサー王の黒く染まったバージョンなオルタさん。

 だけど心の中だけで思ってることで、言葉に出しては一言も言わずに、むしろ仏頂面で黙り込んでるから色々と誤解されやすく、イロイロと誤解させやすい。

 

 そう思っていたのだが・・・・・・

 

「・・・結局、なんだったんだ? お前らいったい何者なんだ・・・? なんであんな所から出てきて・・・」

「何者もなにも先程述べたとおり、私はセイバーのサーヴァントだ。

 とりあえずセイバーとでも呼んでくれ。すぐには本名を知られたくない事情があるのでな。フッ、有名すぎるのも厄介なものだ」

「せ、セイバー・・・? そうか、少し変な名前だけど偽名みたいだし、仕方ないのか・・・」

「ああ。またはキングでも構わん」

「・・・いや、セイバーでいい。それぐらいならセイバーでいいから・・・・・・って、じゃなくて!

 そうじゃなく! つまり、俺が聞きたいことがあって、えっと・・・」

「分かっている。貴様が正規のマスターではなく、意図しない偶然で召喚されてしまっただけらしいのが私というサーヴァントなのだと言うことも含めてな」

「う、ぐ・・・な、なんか責められてるような気が・・・・・・いや、そうでもなく! 俺はマスターなんて名前じゃないぞ! ちゃんと衛宮士郎って名前がある!」

「ふん、そうか。では“ご主人様”でどうだ? この呼び名の場合、必ずや私が英国一のジェントルマンになれるよう教育してやるサービスも付けてやるが?

 うむ。こちらの方が私としても呼びやすいし、親しみも湧く」

「・・・・・・辞めてください、マスターでいいです。それぐらいならマスターの方が遙かにマシ・・・・・・・って、そうでもなく!!」

「分かっていると言っている・・・・・・」

 

 フゥと、まるで自分が被害者みたいな溜息吐いて見せてくる、暴君だからワガママ王様サーヴァントの反応に士郎でなくとも抱えた頭を掻き毟りたくなる衝動に駆られざるを得なくなってる現状の中。

 

 セイバーにはセイバーなりに、現状で落ち着いて説明できる言葉が思いつけない理由を抱えていなくもない事情があって、

 

 

「そこら辺も含めて詳しく説明してやりたいのは山々なのだが・・・・・・もう一組のサーヴァントが、こちらにむかって接近中らしい。

 なにやらランサーを追ってきたらしく、魔力の偽装が半端だったから私でも感知できたようなのだが・・・・・・どうする?」

 

 

 一難去って、また一難。

 状況が解らないまま、召喚されたセイバーがオルタ化してたマスターである、見習い魔術使いの衛宮士郎と。

 魔力食いのクラスなのに、マスターの実力不足で魔力補充ができずに自前分だけで賄わなくちゃいけない状態になってるっぽいセイバー・オルタ。

 

 万全からは程遠い状態で戦わなくちゃいけない主従にとって、最初の運命の夜のピンチはまだ終わってくれそうにない・・・・・・。

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