もしも切嗣が喚んだセイバーがオルタ化してたら   作:ひきがやもとまち

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今の体調なら長いのも書けるようになったので、改めてキャスターVSサーヴァント連合戦序章を投稿。
…先に投稿した話と順番入れ替えたほうがいいかなーと、今さら悩み中。


ACT27

 ――そして時は未来へと進み、また過去へと舞い戻る。

 

 

『見捨てられたる者は集うがいい! 私が率いるッ! 私が統べるッ!!

 我ら貶められたる者たちの怨嗟は、必ずや「神」にも届く! おぉ天上の主よ! 私は糾弾をもって御身を讃えようッ!

 傲岸なる神を! 冷酷なる神をッ! 我らは御座より引きずり下ろすゥゥ――ッ!!』

 

 

 まるで一葉の聖画を前にした信者のように、神を讃える言葉を呪いのように叫びながらキャスターは、セイバーたちの見ている前で海魔たちの群れに飲み込まれていき、巨大化していく。

 膨大さを増していく《プレラーティーズ・スペルブック》から召喚された夥しい数の触手たちが互いに絡み合い、融合し、一つの肉塊を形成していく中心に吸収されていくように入っていくキャスターの姿。

 

 触手の束に総身を巻き取られ、吐き気を催すほどに穢らわしい粘液に濡れ光る海魔たちの中心地点。

 肉の中州とも呼ぶべき場所の頭上に頂かれていたキャスターは、球状になるまで膨張した汚肉の中へと取り込まれていき姿すら見えなくなって、奇声に等しい金切り声だけが勝ち鬨の如く響き続ける。

 

「これは・・・・・・」

 

 夜闇を背景に聳え立つ異形の影。この世ならざる領域の海を支配する悪夢の姿。

 まさに『海魔』と呼ぶに相応しい水棲巨獣を前にして、セイバー・オルタは冷や汗を垂らしながら思わざるを得なかった。

 

 

 これは―――物凄く気持ち悪そうな状態だな。

 

 と。

 女性だったら多分、たいていの人が同じようなことを思うであろう感想を素直に、正直に。当世風の言葉で表現したなら『キモイ』という単語で表現するしかない状況を目前に見せつけられてセイバー・オルタとしては、そう思わざるを得なかったから・・・。

 

 深海の覇者たる鯨から「ジャリジャリ」と擦り寄られても、大王烏賊に「ウジュルウジュル」と絡みつかれたりしても、これ程までに気持ち悪さを感じる絵面にはならないんじゃないかと思われるレベルの気色悪い状態に、自分からなりたがって笑っているキャスターの姿は・・・・・・さすがに女性的に許容範囲を超えかけている・・・。

 

 おそらくキャスターが今まで使役してきた使い魔たちは、本来この巨大生物の一部で、切り離された断片ごとに行動可能だった雑兵たちが、元の姿である魔性本来の姿へと舞い戻ろうとしているのであり、だからこそキャスターが核となる魔力炉代わりに入り込むことが出来たのだと推測されるが、

 

 ―――あんな気色悪い触手にベチャベチャ張り付かれまくって笑い続けてる狂態の前では、そういう理屈はあんま意味を成せそうもない・・・。

 

 人としての情けも、女としての情もとうの昔に捨て去った身ではあっても、思わず女として本能的に生理的嫌悪感で顔を引きつらせて冷や汗を垂らさずにはいられない。

 

 とはいえ、立場が変われば前提条件も変わる故か、同じ女であっても同じ感想を抱くとは限らないようでもあり。

 

「・・・どうやら奴を侮っていたようだな・・・まさか、これ程とは・・・」

「いいえ。いくらサーヴァントでも、召喚して使役できる使い魔の“格”には限度がある。

 ましてキャスターのクラスで召喚されても、魔術師ではなかったジル・ド・レェ元帥には絶対に不可能なはず!

 尤も、“使役すること”さえ考えなければ、その限りではないけれど・・・!!」

 

 隣に立つアイリスフィールから隠しようのない畏怖も露わな声で、大真面目な魔術解説が入ってしまい、偶然とはいえ会話が繋がってしまったことにセイバー・オルタも畏怖を感じさせられてしまって少しだけ困る。

 

 魔術の名門アインツンベルンに生まれたホムンクルスとして、“魔を操る術”を教え込まれた魔術師として、キャスターが呼び出した魔性の脅威を理解して震撼しながらも、『術』とさえ呼べないキャスターの行為に感じる怒りが彼女の意識を『行為自体』に集中させてるせい故か。

 

 アイリスフィールの中で、見た目の気持ち悪さは優先順位として、術より下になっているらしかった。

 あるいは、屋敷から川にくる前に体調不良から『触覚を遮断してる』と言ってたので、感覚的に肉体に絡みついてるアレを想像しても大丈夫な状態になっているということだろうか?

 

「召喚後のコントロールを度外視して、ただ“招き寄せるだけ”なら『門』を拡げるだけの魔力と術式さえあればいいのだから、どんな強大な魔物だろうと理屈としてなら召喚可能になる―――だけど!

 あんなモノを呼び寄せるなんて行為自体が、既に『術』でも何でもない!」

 

 恐怖で顔色を青くしながらも、魔術師として怒りのあまり拳を握りしめるアイリスフィールの叫びを聞きながら。

 セイバー・オルタは、『これ程の変態だとは思っていなかった』という思いを言おうとしていた先程の発言は考えなかったことにして。

 とりあえず誤魔化すためにも、魔術に詳しくないセイバー・クラスとして、仮の主の発言内容に合わせる形で会話を続行するしかなし。

 

「・・・つまり、あの化け物は今やキャスターの制御下にはなくなっている、と?」

「そう考えておいて間違いはないわ。アレは小手先の理屈なんか通用しない真性の『魔』。

 “魔を操る術”が魔術なら、“魔”そのものを呼び出すだけで“操る術”を放棄するというキャスターの行動は、ただ怪物の前に餌を差し出して呼びかけに応じてもらっただけのこと!

 どこまでも果てしなく『餌』を貪り食らって飲み込む、そういう渇望の概念をそのままに具現化した存在を招いて、自分から来てもらっただけなのよ!」

 

 そして騎士サーヴァントでさえ理解するのに苦労がないほど、厄介すぎる事の重大さにようやく自分も戦慄し始める。

 

「つまり、あのデカブツは誰かと戦いに来たわけではないという事か?」

「そうよ。ただ食事に招待されたってだけ。こんな街一つぐらい、数時間とたたずに喰らい尽くしてしまうでしょうね・・・」

「成る程な。偉そうに語っていた割に、統べる力もなければ、率いてるわけでもないとは、つくづく三文芝居しか劇を作れず、宴も他人任せなだけの青瓢箪だな、あのヘンタ――キチガイは」

 

 不快げに舌打ちしながら、両腕を組み直して毒づくセイバー・オルタ。

 ・・・・・・彼女と彼女のマスター魔術師一族の名誉のため断っておくが、セイバー・オルタはなにも巨大化し続けていく敵を前にして何もせず、偉そうに論評するだけでボンヤリ見物していた訳ではない。

 

 ――待っていたのである。

 

 アイリスフィールからの説明によるならば、キャスターの行為は聖杯戦争という魔術儀式と相容れぬモノだ。

 聖杯戦争という大魔術儀式そのものを、術とは呼べない行為によって破壊して無に帰させるつもりで、この街の生命全てを異界の海魔に餌として食わせてしまうつもりらしい。

 戦いへの認識や、何を得るため勝利を目指すかという目的意識も、今のキャスターが行っている狂乱の行動からは欠落してしまった後なのは疑いなかろう。

 秘して為すべしとする、聖杯戦争の暗黙の了解さえ完全否定して無意味化させていると言っていい。

 

 そんな行為は少なくとも、『聖杯を欲して』聖杯戦争に参加した欲深な魔術師たちと、その決闘代理人として招きに応じて召喚された『聖杯で叶えたい願望を持つ英霊たち』にとって許容できる行為ではまったくない。

 

 案の定というべきか、背後からは僅かな期間で聞き慣れてしまった雷鳴の轟きが響いてきたので振り返ると、ライダーのサーヴァントこと征服王イスカンダルが乗る《ゴルディアス・ホイール》が自分とアイリスフィールがいる広場に降り立ってきたばかりであった。

 

「よぉ騎士王。良い夜だな――と言いたいところだが、どうやら気取った挨拶を交わしておる場合じゃなさそうだな」

「御託はいい、征服王。他の奴らで来そうな奴はいたか?」

 

 手綱を握る巨漢のサーヴァントは、先客たちに対して不遜な笑みで投げかけた言葉に対して、不快そうに顔をしかめながらも予期していたらしき返事を返してくる好敵手に今度は破顔する。

 

「ほう? 余の行動と選択を読んでおったか、流石よな」

 

 ニヤリと笑って、ライダーは敵の戦術眼を賞賛する。

 もっとも、褒められた方としては謙遜やら自慢話をする気もなく、時間もなかったので肩をすくめる手間すら惜しんで沈黙したまま無視しただけだったが。

 

 あのデカブツを相手にしては、如何なサーヴァントといえども単独で挑むのは難しい。

 もともとキャスターの強みは、一体一体は弱くとも何体倒しても復活させることが可能な海魔の軍勢たちによる『高すぎる回復力』こそが最大の脅威となって今までトドメを刺せずにきた相手。

 

 しかも今回は、あの巨体だ。正直セイバークラスといえども単独で挑んではジリ貧にしかなれそうもない。

 だから聖杯戦争の存続と決着を願ってそうな『聖杯を欲して召喚に応じたサーヴァント』の到着まで、魔力消耗を押さえるためにも待ち続けていたのである。

 

 その中で、もっとも共同戦線を受け入れそうなのは、間違いなくライダーだった。

 現状では唯一、聖杯で叶えたい願いを語っているサーヴァントであり、個人的な欲望に根ざした願望ではあったが、そのぶん利害損得による共闘には然したる抵抗も感じないタイプだろう。

 

 そして2番手になるのは、敵にもよるがランサーだろう。

 叶えたい願いに関しては聞いたことがないが、一方でキャスターとの因縁という点では自分の次に深い付き合いで、相手のやり方に最も怒りを感じていた騎士道タイプの英霊なのが彼だからだ。

 もしも騎士道の祖である青い方の自分が召喚されていたなら、順位は入れ替わったかもしれなかったが、現実の今次聖杯戦争で召喚されたサーヴァントとして、キャスターの非人道行為に怒りを燃やして阻止したがってるのは彼しかいない。

 

「貴様の言うとおり、さっきから呼びかけて廻ってたせいで到着が少し遅れてしまったわ。

 だが、アサシンは余がぶち殺してしまったし、バーサーカーは話できんから論外だし。

 ランサーだけは承諾して、じきに追いついてくるはずなんだが・・・・・・」

「なら、参戦可能メンバーは全員揃ったと言うことだな。結構だ。ランサーが到着次第、打って出る」

「・・・・・・おい? アーチャーのことは聞かんでいいのか? アイツにも一応は声をかけてきたのだぞ?」

「要らん。聞くだけ無駄だ」

 

 バッサリと切り捨てて、セイバー・オルタは躊躇いなく黄金のサーヴァントを戦力外と見なして除外し、使える戦力の自分とライダー、ランサーという二騎士+騎兵の組み合わせでどうやって攻めるかのプランを考え始めることを優先する。

 

「アレは、他人とともに敵と戦い、“自分だけでは勝てない”と認めたことになる屈辱に甘んじるより、一人だけで戦って殺される方を選ぶタイプだろう。

 仮に参戦しても、外部からの助っ人参加が関の山だ。共に戦う戦力としては最初から頭数に入れない方がいい。

 私の時代にも同じようなタイプがいた、団体行動が苦手そうな男だから、よく分かる」

 

 ―――どういう時代だよ、とライダーの戦車に乗ったままのウェイバーは思ったけど、今はまだ言わずに口を差し挟まなかった。・・・戦いを前にしてピリピリしてるセイバーがちょっと怖かったからである。

 

「うむ、まぁその通りなんだがな。ありゃ馴れ合いに応じる柄ではないし、自分が天辺に立ってる以外の場所だと、組織に向いてる奴でもない。

 もっとも、“ヤツが認めた唯一無二の親友”でもいたなら別だったかもしれんがな。余の時代にもいるタイプだったから、よく分かる」

 

 ―――どういう時代の、どういうタイプだよ、とウェイバーはやっぱり思ったけど、やっぱり言わずに口を挟まなかった。黄金のサーヴァントの真名に心当たりありそうなライダーの使った表現に意識を引かれてたからだったけど、やっぱり今回も収穫なしなようで肩を落とす。

 

 相変わらず微妙に目の付け所がよく、それでいてヘタレな性格も健在らしい彼の行動には、興味も敵意も感じさせられるものは特になく、セイバー・オルタは普通の口調でライダーに向かって改めて一時的な同盟の意思を口頭で伝える。

 

 って言うか、空の上から船に乗って地ベタを這いずる人間ども同士の会話など聞こえない高度で見下ろしてる英雄王ディスりまくりだなコイツ等は…。

 

「では改めて、一時的な軍事同盟といこう。こちら側は共闘に異存はないが、貴様の方はどうなのだライダー?」

「フフ、相変わらず物分かりが良いときは頗る良いヤツよな。無論のこと余の側にも異存はない。しばしの間だが、共に忠を誓おう。・・・・・・って、んん?

 なんだ、マスター連中は同盟に不服であったのか?」

『『・・・・・・』』

 

 ライダーから、いたずら坊主じみた口調で問いかけれたアイリスフィールとウェイバーは、揃って即答できずに沈黙を返すしかない。

 無論、彼女たちとて同盟に不服というわけではないのだが、過去の蟠りをアッサリと棚上げにして一時だけでも敵に背中を預けられるライダーとセイバーの割り切った潔さに、裏切りが常套化している魔術師社会で生まれ育った者として些か鼻白まずにはいられなかったのだ。

 特にウェイバーなどは、チャリオットの御者台から小心に顔を覗かせているだけで、一向に降りてくる素振りすら見せようとしないほどだ。

 

 もともと彼は、魔術師の最高学府として多数の家門から多くの魔術師たちが集められ、同じ学舎で学ぶという言葉だけなら聞こえは良いが、実際には騙し合いやら利用し合いやら権力闘争の坩堝と化している老人たちの巣になっているような場所から独断で参加してきたマスターでしかない。

 彼自身も、師匠に届けられていた聖遺物を勝手に盗んで、出し抜いて聖杯戦争で勝利してやろうと参加してきた外部マスターであり、先日はその報いとして聖遺物を盗んだ師匠から「罰として殺してやろう宣告」を賜ったばかりでもある。

 

 到底、それが必要な状況とはいえ敵を容易く信じれるような立場では全くない人物だったのだ。むしろ、これぐらいが普通の反応であり、1000年近くも森の中に引きこもったまま外部の人間と関わること少なく、身内だけと接していればいい生活を送ってきた深窓の令嬢アイリスフィールの方が条件的には遙かにリベラルになりやすいんだから仕方ないと思ってもらうしかなかった。

 

(・・・きっと戦場を生きた者たちにとっては、敵を殺すのも同盟を結ぶのも、ともに私情を差し挟む余地のない冷酷な判断という点で同次元のものなんでしょうね・・・。

 こればかりは同じ乱世を駆け抜けた者同士じゃないと共有できない精神性なのかもしれない。

 あるいは、それはキリツグにとっての私も、同じなのかもしれない・・・・・・)

 

 そう考えてしまい、少しだけ寂しさを感じてしまったアイリスフィールは頭を振って邪念を追い出し、「夫婦間の愛」という私情ではなく思考を優先して選ぶべき選択肢を考える。

 

 もっとも迷うほどに選択肢は多くない状況なのが現在だ。

 今は何をおいてもキャスターの暴挙を止めることが最優先であり、誓いが信じるに足る相手とのものであれば、ここは力を合わせるのが最も賢明な判断というより唯一の選択肢だろう。

 

「構いません。アインツベルンは休戦を受諾します。ライダーのマスター、宜しくて?」

「・・・・・・皮肉か? その質問は・・・・・・もう多数決で完全に負けてるのに宜しいも何もないじゃないか・・・」

 

 アイリスフィールからの呼びかけに対して、ウェイバーは捻くれた言い回しながらも不承不承といった体で了解し、頷きを返す。

 こうして、セイバー、ランサー、ライダーによるサーヴァント連合は成立することとなる。

 

 

 

 ・・・・・・もっとも、その同盟締結はアイリスフィールが思っていたほど、特別な時代状況や事情は必要ない類いのものではあったのだが・・・。

 

 何故ならサーヴァントたちにとって、聖杯戦争における自分たちの戦いは、『よそ者の戦いへ援軍にきた』という立場でしかないのが大前提だったからである。

 

 アイリスフィールは、自分たちが当事者だから失念しているようではあったが、サーヴァントたちは本来『マスターと同じく聖杯を欲する』という動機によって召喚に応じて現界する。

 極論してしまえば、『聖杯を手に入れるため』という目的が同じ者同士だから手を取り合っているだけの、利害打算に基づく報酬を目当てとした関係性でしかないのだ。

 

 仮にセイバーが、アインツベルンではなく遠坂家のサーヴァントとして召喚されていたならば、敵側の剣として聖杯戦争勝利のためアイリスフィールを殺す役を担っていても何ら不思議はないのが彼女たちの立場だった。

 

 そんな敵も味方も同盟も、召喚された相手と時と場所によってコロコロ変わってもおかしくはない存在である以上は、たまたま今回は利害が一致したから手を組んだ相手がサーヴァントだった。それだけでしかなかったのである。

 

 

 ここら辺は、ある意味で確かに『乱世を駆け抜けた者同士じゃないと共有できない精神性』というのが正しいのかもしれない。

 『乱世を駆け抜けた者』でなければ、現代人には英雄になりづらい時代に今日ではなっている。

 ならばアイリスフィールやウェイバーなど、現代の比較的平和な社会で生きてきた者たちには分からないという理屈も、まぁ理解できないほどではなかった・・・・・・かもしれない?

 

「・・・・・・アインツベルン、あんたたちに策は? さっきランサーに聞いたが、キャスター本人と戦うのは、これが最初じゃないんだろ?」

「ともかく速攻で倒すしかないわ。あの怪物、今はまだキャスターからの魔力供給で現界を保っているのでしょうけど、アレが独自に糧を得て自給自足を始めたら、もう手に負えない。

 そうなる前に、キャスターを倒すか、あの魔導書を破壊しなければ・・・」

 

 話を切り替えるためか迷いを振り切るためか、とにかく今度はウェイバーからアイリスフィールに問われた質問に対して、苦い表情を浮かべながら彼女は答える。

 表情の苦々しさは、その二つの条件のどちら共が今のところ、同じ一つの条件になってしまっている状況にあるのが、その理由だった。

 

 キャスターが召喚した海魔たちをどうにかするには、キャスターが手に持つ魔導書を壊さなければならない。

 だが今、キャスターは宝具の本と共に巨大海魔の腹の中だ。どっちかを先に倒したくても、どちらかを倒せた時には今一つの方も巻き込まれて倒された後になっているのではないだろうか?

 

 その懸念が、アイリスフィールの表情に表れている。

 そこまで読めたわけではなかったものの、ライダーにも要点は伝わったらしい。

 

「成る程な。奴が岸に上がって食事をおっ始める前にケリをつけにゃならんわけだ。

 しかし当のキャスターは、あの分厚い肉の奥底ときた。さて、どうする?」

『引きずり出す。それしかあるまい?』

 

 スゴク嫌そうに眉をしかめながらライダーが、ウニョウニョとうねくる暗緑色の巨体を眺めてボヤきとして漏らしただけの言葉に返事があった。

 

 見ると背後の闇から、街灯の光の中へ姿を現した槍兵の麗影が現れて進み出ていた。

 天翔るチャリオットより多少遅れて、ランサーの参陣だった。

 

「奴の宝具さえ剥き出しにできれば、俺の『ゲイ・ジャルグ』は一撃で術式を破壊できる。

 ・・・・・・もっとも、奴とて英霊である以上は、生前は英雄となっていた身だ。

 やすやすと二度目を許すほどとも思えん」

 

 ランサーの不敵に微笑みながら語られる言葉を聞かされて、セイバー・オルタは多少むずがゆさを感じずには居づらくなってきたため、“また再び”心の中だけで呼びかけてみる。

 

 

 ―――実のところセイバー・オルタには、あの巨大海魔を葬り去れる手段を持っているのが、その理由だった。

 

 

 《対城宝具:聖剣エクスカリバー・モルガーン》

 

 

 騎士王伝説の代名詞ともされる聖剣が、黒く染まった状態にある宝具を使用して、あの巨体すべてを覆い尽くせるように放てたならば確実に勝てるだけの自信がセイバー・オルタには存在していた。

 

 それにも関わらず、自身が所有する対城宝具の存在を語らないままキャスター討伐の具体的な作戦ばかりについて話し合っていたのには、彼女なりに深刻な理由があっての事だったのだ。

 

 

 

【・・・・・・マスター。応答願おう、マスター。キャスターが思ったより難敵になってしまった現在の状況下で、通常の斬撃だけで始末するのは流石に難しそうだ。宝具の使用を許可して欲しい】

《・・・・・・・・・・・・・・・》

【って、また黙りか!? ええぃ、クソ! こんな時ぐらい返事をしろマスター! 律儀にアインツベルン城にいた時の取り決めを堅守し続けなくてもよかろうに!? オイ! なんとか言えこの側室持ち! 当世風ランスロットの魔術師殺し女ったらし男が!!】

《・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・》

 

 

 ――単純にマスターからの使用許可も、開帳許可さえ与えられてないままである事が、口に出せないし使うこともできない理由だったのがセイバー・オルタの事情だったのである。

 

 青い方だったら相性悪くなりそうなマスターとの人間関係も、自分の英国製メイドとして完璧なるご奉仕によって立派な英国紳士とするため絆を深め合った間柄のセイバー・オルタにとっては(注:オルタ主観的自己評価です)衛宮切嗣との会話にしろ連絡にしろイヤがる理由は特にないまま今日まで来ることができている。

 

 そうなると逆に、マスターの許可なし勝手に宝具を使うのは難しくなる。

 元々ランサーの《ゲイ・ジャルグ》やキャスターの《プレラーティーズ・スペルブック》などの低ランク宝具、もしくは魔力消費の少ない燃費のいい高ランク宝具と違って、セイバーの対城宝具は大量の魔力食いな代物だ。マスターからの自主的な魔力提供があるのとないのとでは威力に違いが生じやすい。

 

 二度目が許されない勝負での使用なら、一撃必殺になってもらうことが絶対条件として必須になる。

 出来れば、令呪を一角消費してブーストしてくれたら確実性は更にいや増すだろうが・・・・・・逆に言えば、それらに関する指示がアイリスフィールにも自分にも届いていないということは、『まだ使うな』と無言で命令してきていると解釈すべきところではある。

 

 また現実問題として、エクスカリバー・モルガーンの使用時には、結構長い『溜め時間』が必要になるという欠点が存在してもいた。

 一撃で海魔たち全てを飲み込んで、闇の光によって消し去らせる為には、出来れば最高のタイミングで狙った場所にぶち込みたいところだとは正直思う。

 

 そういう事情から『今は使うのが難しい』と判断したセイバー・オルタは、対城宝具については伏せたままランサーたちに話を振って誤魔化してることを誤魔化しつつ―――キャスターとの最終決戦に向かって、サーヴァント連合の一員として突撃を開始する。

 

 

 マスターが何かやろうとしているならば、マスターの剣として、マスターの鎧として、マスターに代わって戦うのがサーヴァントの果たすべき役割。

 ならば、それを果たそう。マスターが諦めていないのなら、まだ心が折れていないのならば、自分の方が先に諦めたり折れるわけにはいかないのだから――

 

 

 

「行くぞ! 今夜こそ決着の時だキャスター!!

 見捨てられた雑魚どもを! 貶められて復権できぬ負け犬どもを!! 虐げられたまま復讐できなかった敗者どもを!!!

 どれほど統べたところで天には届かず、どれほど率いたところで負け犬の遠吠えにしか聞いてくれる者は誰もいないという現実を教えてやろう!!

 貴様は負ける! また負ける!! 貴様が自分を見ろと泣き叫んだところで、天上にいる主とやらいう観客は他人を見ている!

 とっくの昔に終わってしまった貴様の舞台など、今さら誰も見はしないのだ! 永遠にッ!!!!」

 

 

『~~~~~~ッッ!! !!!! プレラーティィィズぅぅッ!!!

 プレラぁぁぁぁぁティィィィ~~~~~ッッズぅぅぅぅッッ!!!!』

 

 

 

 神を信仰し、神に裏切られ、神を冒涜しながら、尚も『神は偉大なる存在』『偉大なる敵』として扱う英仏百年戦争の怨霊と。

 

 大陸から攻め寄せる異民族の侵略から阻止できなかった、創世神話を持たぬが故に絶対神もいないキリスト教到来以前のブリタニア王との戦いが―――今宵、決着する!!

 

 

 

つづく

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