もしも切嗣が喚んだセイバーがオルタ化してたら   作:ひきがやもとまち

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良し悪しは微妙ですが、とりあえず最新話ができましたので投稿しました。
最近、再放送やってるため書きたくなっちゃって…。


ACT30

 キャスターのマスターである雨生龍之介が衛宮切嗣による『魔術師殺し』の犠牲者となって射殺され、宝具で召喚された巨大海魔が動きを停止させた姿を見せた時。

 

「・・・・・・む」

 

 空から戦場を俯瞰視点で見下ろしていたライダーは一瞬だけ目を細め、鋭い視線を眼下の怪物へと投げかけていた。

 結局それは一時の停滞をもたらしただけでしかなく、しばらくして海魔は再び進軍を再開させ、それどころか先程よりも勢いと邪気を増したように見える偉容で以て全てを飲み込み食べ尽さんとばかりに夥しい触手を自分たちへと襲い掛からせてくる!

 

 それらの流れを見終えた時、ライダーは何を思ったか再反撃しようとはせずに一旦後退を決意して眼下のセイバーたちに呼びかける。

 

「おぉいセイバー! このままじゃ埒があかん。いったん退け!」

「馬鹿を言うな! ここで食い止めねば後がない! ・・・・・・と言いたいところだが、今のままでは結局は同じ事か、クソッ!」

 

 その呼びかけに最初は反発の怒声を返したかに見えた騎士王だったが、そこは祖国繁栄のため独裁を良しとして黒く染まった合理主義者の暴君オルタだ。戦況の拙さを認め、犠牲覚悟で撤退して教条主義に拘らない柔軟性は持ち合わせている。

 

 如何に深く切りつけた一撃も、次の瞬間には跡形もなく傷が塞がれてしまい、ほんの僅かに海魔の歩みを遅らせるため大量の魔力を消費する大技を叩き込む必要があるというのでは、事実上なんの意味もないに等しい。

 

 先程の海魔が一時停止した際、自分たちが攻撃の手を止めたことが、その事実を物語っていた。

 岸に上がるのを阻止するのが目的のサーヴァント連合にとって、動きを止めた敵を下手に刺激して攻撃再開を促す呼び水になってしまうのは本末転倒というのが、そうした理由ではったものの、理由も分からず敵が勝手に動きを止めただけでしかない以上は、いずれ再び進撃がはじまることは明らかなのも事実ではあったのだ。

 

 にも関わらず、自分たちは仕掛けなかった。

 一時的な停滞でしかないと承知の上で、敵の一時進軍停止を反撃の好機と捉えて、リスクを冒してまで強力な一撃で戦局打開を狙おうとはライダーも自分もしなかったのである。

 

 その選択こそが、彼我の戦況と戦力差を最も分かりやすく示していた。

 “今の自分たち”には決め手がない。エクスカリバーさえ使えれば、と思わないでもなかったが“条件が揃っていない”今の時点で使えても確実とは言いがたい。

 ここは征服王の言うことに理を認めて、一時後退すべき時かと、黒く染まった合理主義者の暴君アーサーもまた決断を下す。

 

「――いいだろう! 業腹だが貴様の決定に従ってやる! だが何かしら策があった上での後退なのだろうな!? 無くて退けと言っていたなら斬るぞ貴様!」

「安心せい! 余に考えがある、貴様の期待は裏切らんと約束してやるわい!」

「フンッ! どうだかな・・・・・・でやりゃァァァァッ!!!」

 

 ズバァァァッ!!と、置き土産代わりに渾身の一撃を放ってから連続ジャンプして空中を後退していくライダーの後に続き水面を河岸まで駆け戻っていくセイバー・オルタ。

 少しでも時間稼ぎになればと放った一撃だったものの、今までの流れからすれば効果があるかは疑問だったが、やらないよりかはマシなのも事実。

 

 ・・・・・・つまりは、そんな手に頼らねばならぬ程、自分たちは戦況不利な状況下で追い詰められつつある。そういう事だったのだ・・・・・・。

 

 

 

 

 

 

「――いいか、皆の衆。この先どういう策を講じるにしろ、まずは時間稼ぎが必要だ。

 故にひとまず余が、《アイオニオン・ヘタイロイ》による固有結界で奴を引きずり込む」

 

 河岸まで戻ってきて、ランサーとアイリスフィールの二人とセイバーが合流を果たし、戦車に同乗していたウェイバーも合わせて対キャスター連合の戦力と頭脳の総員が集まった状態になってから、ライダーは前置きを抜きにして早急に結論から口にした。

 

 実際その通りの戦況であり、もっと言うなら今まで自分たちがやっていた事自体が『時間稼ぎの戦闘』でしかなれていなかったのが実情でもあり、その為だけに総出で掛かってランサーは投擲のため後方待機するしかなくなっていた。

 

 言うなれば現状をどうにかするため策を講じる時間を稼ぐため、まずは策を講じる時間を“奪われないため”の時間稼ぎを行っていた。という為体が実情だったのである。

 その点を踏まえれば、ライダーの案は一歩だけとは言え現状から前進する策と言っていい前向きなものではあったが、時間稼ぎでしかないのも事実ではある。

 

「とはいえ、余の精鋭たちが総出で掛かってもアレを殺し尽くすことは無理であろう。せいぜい固有結界の中で足止めするのが関の山だ」

「確かにな。で? その後は、どうする? ライダー」

「わからん」

 

 頷いてから問いを発したランサーに対して征服王は、あっけらかんとした回答を真剣な面持ちで即答する。

 

「あんなデカブツを取り込むとなれば、余の軍勢の結界が保つのはせいぜい数分が限度。その間にどうにかして――英霊たちよ。勝機を見いだしてほしい」

 

 急場凌ぎの時間稼ぎ。歴史に名高い名将にして、コリントスを征服し尽くしたマケドニアの征服王が持つ《軍略:B》の戦術的直感力をもってしても、その程度の秘策しか思いつくことができない。そういう窮地に現在の自分たちは立っている。

 

 その事実を改めて口に出されたサーヴァントたちの表情は暗いが、その策で状況が打開できると信じる根拠も征服王は見いだしていない訳ではなかった。

 

「先程キャスターの海魔による、一時的な進軍停止。アレは恐らく奴のマスターが何者かによって殺された故のことだろう。それ以外で奴が足を止めるべき理由は何もない。

 とすれば、令呪による強制命令だけは考慮しなくて良くなったという事だろう」

「・・・・・・そうだな。そう考えれば海魔が活性化した説明もつく。一刻も早く新たな魔力源を得なければ、自分たち自身が現界を保つことはできんのだから」

 

 一瞬だけ返答までに空いた時間を誤魔化すため、セイバー・オルタは顎に手を当て考えるポーズをとって海魔の行動と自分の行動に整合性をつけられる分析を口にする。

 自身にとって本当のマスターである《魔術師殺し衛宮切嗣》の存在と戦い方を今ここで勝手に明かす訳にはいかなかったし、征服王の見かけによらない観察眼を誤魔化すには相応の理由付けが必要だったからではあるが、思いついた分析自体は理に適っているようにセイバー・オルタ自身にも思われた。

 

 キャスターの宝具がいくら低燃費で、マスターからの魔力供給が少なくても使用可能な代物だったとしても、宝具は宝具であり使用するには魔力を消費し、再活性化するには今まで以上の魔力消費が要求されるのは構造上どうしようもない。

 キャスターの消滅と共に、キャスターの宝具も消滅する。

 仮に宝具だけ残ったとしても所有者からの魔力パスが途絶えた以上は聖遺物の一つぐらいしか力を持たない道具と化すしかなく、宝具によって召喚された海魔たちはランサーの『ゲイ・ジャルグ』に刺された時と同じように只の肉塊に成り果てる運命となる。

 

 マスターが死んで即座に消滅することはなくとも、サーヴァントが現界を維持していられる時間にタイムリミットが課せられた事実までは変えようがない以上、『食事に招かれただけ』の海魔たちとしては一刻も早く自分たちの巨体を維持し続けるだけの魔力路を捕食する必要があり、それにはエーテル体の塊とも呼ぶべき神秘の具現した自分たちサーヴァントこそが最も『餌』として適している。・・・・・・そういう構図だったのだろう。

 

 無論、大部分が状況証拠と憶測とをつなぎ合わせた推測の域を出ないものだが、今の時点でそれ以上を望み求めたところで得られるはずもなく、また求める必要性もない。

 今この戦場で必要なのは、正しい答えではなく、『キャスターと海魔を殺すことだけ』なのだから。

 

 ライダーの推測通り、キャスターのマスターが殺されたとすれば、令呪によってキャスターだけを一瞬で遠方へ移動するよう命令される展開などは警戒しなくて良くなった事を意味している。

 仮に、「食事に招かれた海魔“だけ”」を倒し尽くせる手段を思いついて実行したとしても、令呪によって召喚主であるキャスターだけが傷ついた状態でも移動して回復されてしまえば完全に無駄な徒労になってしまう。

 

 どこかの平行世界では10年後のイレギュラーな聖杯戦争で、見習い魔術師のヘッポコマスター少年が似たようなことを成し遂げている。

 少なくとも、エクスカリバーで勝利するのに必要な条件は、一つだけでも満たすことができたのだ。

 

「それと坊主、貴様もコッチに残ってセイバーのマスターたちと行動を共にせよ」

「お、おい!? 勝手に決めるなよ! ボクはお前の――」

「いざ結界を展開したら、余には外の状況が解らなくなる。何かあったら坊主、貴様が強く念じて余を呼ぶのだ。伝令を差し遣わす」

「あ・・・・・・う、うん・・・」

「よし。では、セイバー、ランサー、後は頼むぞ」

 

 御者台の中から摘まみ出したウェイバーを持ち上げ、いつになく真面目な表情と口調で真面目な作戦説明を行われて、黙って頷くしかなくなったマスターを了承させ、時間稼ぎのためには別行動を取らざるを得ない彼の護衛を敵であるはずのセイバー陣営たちに委ねることも済し崩し的に受け入れさせてしまう。

 

 ――もっとも、いくら同盟中とは言え、本来は敵であるサーヴァントたちに預けられて、自分のサーヴァントと別行動を取らなきゃいけなくなったヘタレ気味な性格のウェイバーとしては内心で戦々恐々だったんだけれども。

 同盟相手の裏切りを警戒していられる状況でないのも、また事実。

 

 同盟相手のセイバーかランサーに裏切られて殺されるか、キャスターの海魔に殺されるか。どっちだろうと『敵サーヴァントに殺されそうな大ピンチ』であるにことに変わるところは一切全く本気でない状況なので、ウェイバーとしては不満でも怖くても頷くしか他に道はなかったのである。

 

 それでも仏頂面で返して面子を保とうとする辺り、意外に根性あるのかも知れなかったが・・・・・・なにも不満に思っているのは彼だけではない。

 

「・・・・・・仕方があるまい。心得てやる」

 

 ライダーからの申し出にランサーは真顔で頷いて請け負ったのに対して、セイバー・オルタはやや不満と言うより、少しだけイヤそうな顔で請け負わざるを得ない。

 なにしろ自分の方はマスターを偽ってる上、本物の方は《魔術師殺し》の暗殺者なのだ。この状況下でライダーのマスターを背中から撃つアホウではないと信じてはいるものの、終わった直後までは責任が負いきれない。

 

 仮にそうなった時、『卑怯者よ、臆病者よ』と罵倒されるのは、存在を知られてないマスター切嗣ではなく自分だけなのだから、プライド高い暴君的にはちょっと嫌な気持ちになるぐらいは致し方ないと受け入れてもらいたい。

 

「うむ、では任せた。ハァッ!!」

 

 そして準備を終えたライダーは、手綱を引いて掛け声一閃、空へと駆け上がって戦場へと舞い戻っていき、先程よりも河岸に近づきながらサーヴァントたちのどちらを獲物として狙おうか迷ってもいたらしい触手の合体生物へと戦車を急速接近させていく。

 

 やがて光に包まれたソレは、巨大海魔すべてを飲み込んで『こちらの世界』からは居なくなり、ライダーたちが造り出した心象風景が形作る『古代ペルシャの大地』まで時空を超えて限定的に転移させられ消え去っていく。

 

 ―――だが、その直後。

 

 

 グォォォォッ!!

 

「きゃあっ!?」

「くっ!? バーサーカーか!」

『Aurrr・・・・・・ッッ!!』

 

 一瞬だけではあるが、アーチャーと空中で追いかけっこを繰り広げていたバーサーカーが強奪して宝具化した戦闘機が、黄金の船ヴィマーナが低空飛行するのを追跡して比較的近くを通り過ぎ、ショックウェーブによる衝撃と波で身体を洗われ、アイリスフィールたちが小さく悲鳴を上げる。

 

 英雄王ギルガメッシュという強敵が目の前に居る現状では、コレだけで済んだものの、この時のニアミスは、この戦闘で初めてバーサーカーに『セイバーの存在』を視認されてしまった瞬間でもあった。

 

 《直感スキルA》によってセイバー・オルタは、未来予知に近いイヤな予感を感じさせられたが、今の時点で対処できる問題でも無い。

 とにかくバーサーカーに余計なちょっかいを出されないためにも、アーチャーと戯れてくれている今の内にキャスターをどうにかするしか今の彼女にできることは何もなかった。

 

 とは言え―――。

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・でも、どうする? 時間稼ぎとか言われても、その間にボクらが何も思いつかなかったら結局は元の木阿弥だ。なぁおいアインツベルン、何かいい手はないのかよ!?」

「そんなこと言われても・・・・・・」

 

 ウェイバーから焦った声で問われ、アイリスフィールも困り顔で返答を濁すしかなく、場に沈黙が落ちかかる。

 請け負ってたとは言え、ライダーの決断と秘策が応急措置でしかなく、それだけでは何の解決にも至りようがない手なのは、この場にいる誰もが理解させられていた。

 

 錬金術の名門アインツベルンが造り出したホムンクルスであり、名家出身の魔術師でもあるアイリスフィールとしても有効な作戦案や戦術分析が思いつけるようなら、とっくに実行している。

 

 また、他の者たちと違ってアイリスフィールには『対城宝具エクスカリバーを使えば・・・』という解決案を“知ってはいる”ものの、使用する権限が仮初めのマスターである彼女には与えられていない。

 令呪による威力強化はできないし、本物のマスターである切嗣が拒めば無理やり魔力を吸い上げる形になってしまって完全な形での使用ができない恐れが出てくる。

 

 問題を解決できる方法を『知ってはいる』が『知っているだけで使うことが出来ない』という立場のアイリスフィールとしては板挟みのような心境にならざるを得ないのが現在の状況だったのである。

 

 

 ・・・・・・もっとも、本人に確認を取るため『いざという時用に』と渡されていた携帯電話があるので、聞くだけだったら可能ではあったんだけど、機械が苦手な魔術名門ホムンクルスだったから使い方が解らず、相手から掛けてきた場合でも聞き方すら解らないという状態。

 聞き方すら解らないホムンクルスに、自分から掛けて確認するのは更に無理である。

 

 切嗣としても、掛け方をキチンと教えた上で渡してはいるのだけれど・・・・・・そもそも『使えるのが当たり前の人間』と『魔術じゃないから解らないホムンクルス』では基準が違う。

 挙げ句アイリスフィールの性格的には、『教え方が難し過ぎて解らなかった』とかの再説明を求める言葉を、忙しそうにしている夫に言えそうなタイプでは全くなく。

 

 結果的に今、自分では判断できず、判断できる夫への連絡手段があるけど使えない状況に陥ってしまって困る羽目になってました。

 

 本人的には本気で困っていて、ふざけてる訳では決してないのだが・・・・・・内情が少しだけショボさが混じってしまうのは、未来より過去へと至る魔術探求の名家アインツベルンらしい欠点故だったのかも知れなかった・・・・・・。

 

 

 そんな時である。

 

 

 ピピピピピ! ピピピピピ!!

 

 

「ふぇっ!? え、あ、こ、コレって確か・・・・・・」

 

 不意に聞こえてきた場違いなほど軽快な電子音に、音の発信源をポケットの中に入れていた持ち主である、他ならぬアイリスフィール自身が一番面食らって慌てふためきながら、たどたどしい動作で音源になっている機械を取り出す。

 

 それは携帯電話だった。

 十年後には魔術師たちの中にも知ってる者が希にいるようになる代物だったが、現在の時点では多くの魔術師たちにとって見下されている神秘とは無縁で歴史も浅い科学の産物。

 

 まだ携帯するには少し大きめのサイズしか造れてない時代だったけれども、切嗣からすればブラックバーン振り子にも似たインクと宝石と羊皮紙とが必要な遠阪家が使っている連絡手段のように仰々しくデカすぎる魔術道具よりかは持ち運びしやすいのは当然だと判断して持たせていた物だったのだが・・・・・・使い手が使い方を熟知してない状態では、振り子の方がマシだった部分もあったのかもしれなくはなく。

 

「えぇと、あの―――これ、どうやって使うのかしら?」

 

 と、切嗣から渡された切嗣からしか掛けてくる相手がいるはずのない連絡手段を、困った顔して敵であるウェイバーに渡してしまおうとする訳だから・・・・・・確かに情報漏洩の危険ありまくりであった。あくまで魔術師が使う場合はの話だとは思うけれども。

 

「・・・ったくもう、アイツといいアインツベルンといい、この大事な時に何やってんだよまったく、ホラ貸せっ」

 

 そして携帯電話を使い方解らないからと差し出されちまったウェイバーとしても、気分はアンニュイ。

 昼間にサーヴァントと買い物に行って、ゲームソフトとゲーム機を神秘の具現に財布渡したせいで買わされちまって、夕方頃には説教されるまえに「一緒にプレイして遊ぼう」とか言われちまってる身としては、せめて魔術の大家で千年の歴史を持つ名家アインツベルンまで俗っぽくなって欲しくなかったのだが・・・・・・そのアインツベルンが使い方解らない携帯電話を普通に使える自分が言えたことでは余りない。

 

 さっきより更に仏頂面にならざるを得ない理由が増えちまったウェイバーは、とりあえず「ピッ」と通話ボタンを押して電話に出てやると、その直後に

 

 

『―――アイリか?』

 

 いきなり男の低い声で、通話口の相手から呼びかけられてビクッとさせられてしまった。

 緊急事態の対策会議中に、メンバーの一人が電源切ってなかったせいで掛かってきた携帯電話の呼び出し音で会議を中断されてイラついてた、十年後にはよくある光景を先行実現させちまっていたウェイバーは、苛立ちの余り他人の電話にそのまま自分が出ちまってた事実にようやく気付いたからである。

 

 これは慌てる。普通の人なら普通に慌てる。

 十年後にも慌てる人は多そうな状況だったけど、掛けてきてる相手の方は慌てない。

 

「い、いやボクは、じゃなくてえっと・・・・・・」

『?? ――そうか、ライダーのマスターだな。丁度いい、お前にも話がある。念のため質問に答えてもらう』

「だ、誰だアンタは?」

『そんなことは今どうでもいい。それよりキャスターを消したのは、お前のサーヴァントの仕業で間違いは無いな?』

「・・・・・・・・・そうだけど、一応は」

 

 質問の意図が分からず、相手の正体も分からなかったウェイバーは、情報の隠蔽も考えて曖昧な答えを返そうとしたが思いつかず、「一応は」という中途半端な表現だけを付け足す形になってしまったが、結果として言ってる内容は間違っていない。

 キャスターを消したのは確かに自分のサーヴァントだが、『この世界から消えた“だけ”』であって、存在が消え去った訳では全くないのだ。

 

 数分後には元通りになる存在を『消した』と表現するのは、魔術的に適切ではなかった。

 せいぜいが『別の空間に移動させた』ぐらいが妥当な状況だったろう。

 

『質問だ。ライダーの固有結界、あれは解除したときに中身を狙っている場所に落とすことは出来るか?』

「・・・・・・ある程度、せいぜい100メートルかそこらの範囲だとは思うけど可能なはずだ。外に再出現するときの主導権はライダーにあるだろうし・・・」

『いいだろう、充分だ。後で僕がタイミングを見計らって信号弾を打ち上げる。その真下でキャスターを解放しろ。できるな?』

「出来る―――と、思う。多分だけど・・・」

 

 次から次へと繰り出される質問に対してウェイバーは、自分が時計塔で学んだ固有結界の基本法則と一度だけ目にしたライダーの宝具の性質とを掛け合わせて導き出した解答や、ライダーが作戦開始寸前に言い残していった「伝令」の件を思い出しながら慎重に答えを選んで返答していった。

 

 それは結果論としてだったが、切嗣から見て満点に近い模範解答だったといって良かったかもしれない。

 無駄な反問や誇張が入らず、確実と言えないことを伝えた上で、数字の指定は細かく示し、そう考えた理由も説明してくれる。

 存外に刺々しい態度とは逆に、教師なり何なり説明や解説をする仕事が向いている人材なのかも知れなかった。

 

 将来の『名教師Ⅱ世』としての器は、この時点から発揮されていたのかも知れない。

 そして名教師としての素質が目覚めたとするならば、『名探偵』としての器も同時に目覚めることになり・・・・・・

 

(それにしても、この電話を掛けてきた相手は誰なんだ? おそらくアインツベルン陣営なんだろうけど、話しぶりからして近くから見ているとしか思えない・・・。

 けど、最初にボクが出たのが分からなかった事から見て、直接見える距離にいる訳でもない。携帯電話も使えるみたいだし、一体どういう素性の奴なんだ・・・?)

 

 ウェイバーとしては、《魔術師殺し衛宮切嗣》の特殊性故にもつ特徴的な部分が多すぎてしまって混乱させられずにはいられなかった。

 最初に掛けてきたときに、自分たちが見えていることを知られないため言葉で偽装した、という可能性も無くはなかったが、恐らくその可能性は低いだろう。

 

(出だしに、《アイリ》って言ってたからなぁー・・・・・・。

 たぶんセイバーのマスターの、アイリスフィール・フォン・アインツベルンの事なんだろうけど、愛称で呼び合う関係なの? この男。

 この声で「アイリ」って、なんかスゴく似合わなかったんだけど・・・・・・)

 

 そういう理由でウェイバーは、電話の主がホントに自分たちが見えていなかったと推測していた。

 映画に出てくる殺し屋みたいな声で『アイリか?』とか、可愛い呼び方の名前を聞かされた、間違えて電話に出ちゃった他人の身としては気にならざるを得なかった思春期少年ウェイバー君でありましたとさ。

 

 名探偵は重箱を突っつくような小さな部分を気にするのが得意な生き物である。どっかの平行世界で英国名探偵をサーヴァントとして召喚された聖杯戦争があった時には色々言ってきて鬱陶しい限りかも知れなかったけど、とりあえず今は幕間劇の余談でしかない。

 

『それともう一つ。その場にいるセイバーに言ってやるといい。

 “お前の左手には対城宝具があるだろう”、とな』

「はぁ?」

 

 その言葉を最後に通話は向こうから切られ、ウェイバーとしては途方に暮れるしかない謎ばかりが大量に残る結果となってしまうしかなかった。

 謎を解こうにも、空しく空伝音が響き続ける通話が切れた携帯電話しか証拠が残っていないのでは、本職ではない名探偵ではどーしようもない。

 

「どうかしたのか?」

 

 意味が分からず混乱しているらしいウェイバーに、通話内容が聞こえなかったランサーが胡乱げに問いかけ、聞かれた側の少年は意味ありげな視線をセイバーに向けながら彼の質問に答えを返す。

 

「なんか・・・・・・そいつに言えって伝言があった。

 『お前の左手には対城宝具があるだろう』とか何とか・・・・・・」

「なんだと!?」

 

 その言伝を聞かされてランサーは愕然となり、そしてセイバー・オルタは憮然となってソッポを向く。

 その頬からは、一筋の冷や汗が流れ落ちていた。明らかに気まずそうな態度と表情になっている。

 

「本当なのか? セイバー」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ああ」

 

 聞かれてから、現状で可能な限りとは言えメッチャ長い間を開けて、ようやっと仕方なしに短い返事だけで肯定するセイバー・オルタ。

 出来れば、このタイミングで、こういう持ち出され方を避けたかったのだが、今更どうしようもない。

 

 切嗣がマスター殺しを続けるため、敢えて遠回しな言い方と伝え方してきたのは解るには解るのだけれども、自分だけが非難がましい視線を向けられ、自分だけが恥じかかされる立場を押しつけられた気がメッチャするのは事実な訳で。

 

 合理主義者だがプライドの高い暴君でもある彼女としては、唇尖らせて目を細めて、気まずそうに目を逸らしながらの子供っぽい態度になってしまうぐらいは、許容してもらうのは致し方なし。

 

 あと、終わった後でボコりたい。

 マスターを一発グーで、八つ当たりにボコリと殴りたくなったセイバーちゃんでありましたとさ。 

 

「・・・・・・だが、謝罪はせんぞ? ランサー。

 貴様がマスターの許可無く宝具の開陳を許されなかったのと同じように、我々には我々なりの戦略がある。主の許しもなく勝手に作戦を崩壊させる訳にはいかんのだから」

「―――それを言われてしまうと、俺としては返す言葉がないな」

 

 苦笑しながらランサーは、セイバーの言に正しさがあるのを認めてやることにする。

 過去にセイバーと初めて戦った際、己の宝具を秘匿することで罠にはめ、彼女の命を取ろうとしたことがあるのは他ならぬ自分自身だったのだから、セイバーの方だけ宝具を隠し持っていた事実を知らされ怒る資格が自分にあるとは到底思えなかったからだ。

 

 もっとも、柔らかい笑みを苦笑の形で浮かべたのは、セイバーを責める意思がないことを現すためのものではなく。

 

 ・・・・・・ただ彼女の、子供っぽい表情と態度が、外見通りの可憐な少女らしいものだったから愛くるしく感じただけが理由だったのだが・・・・・・その事実はプライドの高過ぎな暴君少女に言わない方が華であることは心得ている色男サーヴァントな槍使いである。

 

 

「その事で俺はお前を責めはしない。責める資格もない。

 だが、一つだけ聞かせて欲しい。

 その宝具なら――キャスターのあの怪物を一撃で仕留めうるものなのか?

 

「可能だろう。・・・・・・だが私の聖剣は黒く染まって威力は上昇している分だけ魔力食いになり、全力で放つには相応の時間をかける必要がある。

 言うなれば、我が剣は誉れを捨てて重くなっているのだ。

 重量が増した分だけ威力は高いが、力任せに振り回さざるを得なくなってしまっている。

 あの怪物どもは想像以上に素早く、読まれてしまえば避けられる危険性が高い。私から言い出せなかった理由の一つも、そこにある」

「なるほどな」

 

 ランサーは、多少言い訳がましい部分を交えながらも正直に事情を話しているらしいセイバーの話を聞いて得心していた。

 彼女が自分になにを求め、今キャスターを倒すため自分が何をする必要があるのかを完全に理解したのだ。

 

 要は、時間稼ぎが必要なのである。

 キャスターと海魔を纏めて倒すのに充分な魔力を集めて、万全の状態で放てるようになるまでの間、彼女を守り、彼女のために戦う騎士としての務めを果たす頼もしい護衛役が。

 

 プライドの高い暴君には、敵に対して自分から求められる願いでは確かになかった。

 

「――なぁ、セイバー。俺はあのキャスターが許せない」

 

 ぽつりと、やがてランサーが呟くように言ったのは別の話。

 否、彼の中では全く同義語の、自分がそれをする理由。しなければならぬと誓える事情。

 

 敵に向かって無防備な背中を晒させ、自分もまた敵を守るため敵に背を向ける、今までの共闘とは比べものにならぬほどのリスクを背負う戦い方を承諾できる自分の行動、その根拠。

 

「奴は諸人の絶望を是として、恐怖の伝播を悦とする者。『人類悪』と呼ぶべきものが、この世に在るとするならば、奴は間違いなく“それ”に最も近づいた存在だろう。

 なればこそ、騎士の誓いに賭けて、あれは看過できぬ“悪”だ。

 やがて人類悪へと至らせぬため、全ての時代の英雄たちが倒し続けなければならない悪しき存在。その一つが奴なのだ」

 

 言い切りながらランサーは・・・・・・それに、と思う。

 もし仮にあの時。あの戦いの中で。

 

 宝具を秘匿して弄した自分たちの策が的中し、セイバーを倒してしまっていたら・・・・・・いや、倒せないまでも仮に“左手”だけでも呪いの黄槍で傷つける戦果を上げていたならば。

 

 自分は今ここで決断を迫られ、そして躊躇うことなく“そうする道”を選んでいただろうとランサーは、あり得たかも知れない可能性を、無数の平行世界で現実となった現在を夢想し、そして比較する。

 

 その道を選んだことで、自分は決して後悔することはないだろう。

 だが、セイバーと約した決着を、万全な状態で挑めなくなるのは否定できない。

 

 そうならなかった現在が、果たして自分にとって、相手にとって良いことであったか悪いことであったのかは、今の自分に解ることはまだ出来ないでいるが・・・・・・一つだけ解った確かなことがランサーにもある。

 

「いま勝たなければならないのは、セイバーか?ランサーか? 俺か? お前か?

 それとも、我らが奉じた『騎士の道』か? 貴様が何かを得るために選んだ黒く染まる道か?

 ――否だ。どちらでもなく、どれでもない。

 ここで勝利すべきは、『人の善』だ」

「・・・・・・・・・」

「お前と俺、選んだ道はそれぞれ事なり、あるいは同じだったものが途中で違えた故かも知れぬが、どのような道であろうとセイバー。

 お前も『守るものの為』に優れた手段と信じて選んだ道なのだろう? ならば今敗れるべきものは、我らが守り続けてきたもの全てを無にする、あの悪のみ。

 勝利ではなく、敗北を与えることが必要な戦だ」

 

 ランサーは語りながら、既に動き出していた。

 足先に向けて下ろされていた二本の魔槍をゆっくりと持ち上げながら後ずさり、黒く染まって暴君と化す道を自ら選んだ英霊アルトリアを背中から狙える位置へと下がる。

 

「アレは俺たち全ての英雄たちが守り続けてきたものを否定する存在だ。

 人の善意を貶め、人の美徳を貶し、世界すべての本質は“悪”でしかないと喝破して、人の成す全ての行為を無にして壊し尽くすためだけに存在するような、極めつけの悪。放置すれば必ずや世界全てを飲み込み、闇へと誘う人類悪へと至る萌芽となる存在。

 それを妨げ、人類悪の脅威から人類史を守れる正義の戦であるならば――」

 

 そして―――くるりとランサーは、セイバー・オルタに背を向ける。

 

 

「我らが勝利の悲願を、騎士王の一刀に託す。

 黒く染まって誉れを失ったと自ら語った聖剣の刃に助力するため、俺は今生で二度目の不忠を成し、二君に仕える。

 “王”の背中は俺が守る!! 万軍を従えたつもりで進めセイバー!! 今この時のみ、俺はお前を守り戦い忠義を尽くす騎士となる!!」

 

 

 今生で仕える主は一人きりと決めていたランサー、ディルムッド・オディナにとって、誓える誓いの中でも最大にして最悪の誓い。

 主替えばかりをして、なんと不誠実な騎士よ、ふしだらな男よと呼ばざ呼べ。

 こうでもしなければ自分の背中を『万全な状態の敵』に晒して安心できぬ状況ならば、自分に出来る最大の不誠実を成すことこそ今この場では最大限の誠実さを示す行為となり得る! そう自分は信じている。

 

「・・・・・・フン。まったく、そこまでしてくれんでも良かったのだがな」

 

 決まり悪そうにセイバー・オルタは応じ、どのみちやるべき事は決まっていた状況下で腹を決めて前に出る決意を新たにする。

 過剰すぎるランサーの示した誠意であったが、自分にとっては確かに有効だった事実を苦々しく認めざるをえない心地を自覚させられながら。

 

 青臭い騎士道を奉じる、理想の名君の道を歩みたがっていたアーサー王なら必要なかったかも知れない儀式。

 だが、国を富ませるため独裁を良しとして暴君となる道を選んで黒く染まったアーサー王にとって、確実性の乏しすぎる賭けに出ることには躊躇いを捨てきれない部分が確かにあったのだ。

 合理的ではない感情論に賭けるリスクを選ぶことに、どうしても蟠りを感じてしまう。そういう状態になるのが、理想を捨てて誉れも捨てて実利を選んだ暴君としてのアルトリア・オルタという英霊の在り方なのだから。

 

 

 だが、敵からここまで示されてしまっては、暴君として退くわけにはいかない。

 プライドもある、意地もある。騎士が示して、王が出来ないと誹られては我慢できる自信も無い。ならば後は征くのみである。

 

 ――ただし。

 その前に一つだけ、やっておくことをやった上で。

 

 

「掛け合ってやろう、ランサー。

 我らとて、敵である貴様にここまでされて、頑迷に己の道を固守し続ける訳にもいかぬからな・・・・・・そうだろう!? アイリスフィール!!」

「え!? ちょ、待っ、な、私ぃっ!?」

「事こうなってしまった以上は、やむを得まい! “マスター”!

 我らの策も今ここで放棄し、宝具の開帳許可をいただきたい!!」

 

 宝具を使うからには、マスターからの許可を得たから使えるようになったことにしておかないと、衛宮切嗣の策が露呈しかねないので“仮マスター”のアイリスフィールに許可求めて取っておくことも忘れていない、どんな時でも計算高さと合理主義を忘れていない暴君アーサー・ペンドラゴン・オルタさん!

 

 ランサーの魔槍で、腕を呪われてた場合は必要ない作業だったけど、それが無かった平行世界だと整合性取るため何かしてからじゃ無いとマスターの作戦が台無しになりかねないのでセイバー・オルタも気を使います。

 

 騎士道貫くアーサー王を呼び出すつもりで黒く染まった暴君の方が召喚されて、魔術師殺し衛宮切嗣と感情的に対立してなかったことで面倒くさくなってしまった出来事が、久方ぶりに今このタイミングで発生してしまっていたのである。

 アイリスフィールにとってはいい迷惑だったけれども、囮の仮マスターとはそういう役割だから仕方がないと受け入れてもらうより他になし。

 

「え?え? あの、なん・・・あ! そ、そうねセイバー! 確かに、こうなった以上は仕方がないわよね!

 私たちも用意していた作戦・・・え~とぉ・・・・・・そう!

 《牙を隠してお尻は隠さない黒ウサギさん作戦》は放棄して、宝具の開帳を許可します!

 セイバー、この私に勝利を!!」

「了解したマスター、今こそ我が剣に勝利を誓う!!」

 

 

 こうして、実際には離れたところにいる本当のマスターからの宝具使用許可と、必要となる自主的な魔力供給が行われ初めて活性化したセイバー・オルタの身体から、闇に染まった粒子が溢れはじめる。

 

 青い自分が喚ばれた数多くの平行世界と異なる流れを辿る、この平行世界の第四次聖杯戦争キャスター戦も遂に決着の時を迎えつつあった。

 

 

 そして、それは―――多くの平行世界で凶星が大空高くから舞い降り、騎士の理想というユメを啄む猛禽の如く襲い掛かってくる瞬間を意味するものでもある・・・・・・。

 

 

 

「A―――urrrrrrッッ!!!」

 

 

 

つづく




*本当は切嗣さんが『魔術師としては弱い方』というネタも絡めたシーンまで描く予定だったのですが、長すぎたので一旦切りました。

一応キャスター戦の流れの中で関係している、『魔術師としては弱いからこそ可能だった』という設定解釈に使う前提の予定でしたので、そこだけ先にご説明をば。

切嗣さんファンの方々のためにも、誤解は解いておきたい作者です。
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