もしも切嗣が喚んだセイバーがオルタ化してたら   作:ひきがやもとまち

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色々と言いたいことが多い方もおられるでしょうが……とりあえず更新です。
書かなくちゃいけないものが多い時に、いろんな理由で手間取ってるので焦り気味(冷や汗)


ACT31

 今さら改めて言うまでもない事柄ではあるが。

 魔術師殺し衛宮切嗣は、魔術師としては二流以下の腕しか持たない魔術使いにしかなれない人物だ。

 その理由は、彼が受け継いだ衛宮家伝来の《魔術刻印》が本来託されるはずだった量の二割に満たない残り滓しか受け継ぐことが出来なかったからである。

 

 幼き日にアリマゴ島で殺した父の死体。それが更に島を包む大火で燃え残っていた分から回収されたものの一部だけを、引き取り手となった狩人ナタリアが時計塔と交渉して返してもらった分だけが、今の切嗣が衛宮家伝来の魔術を行使する際に使用できる魔術刻印の力、その全てなのが今の彼が使える魔術師としての力なのだ。

 

 ・・・・・・要するに、保有できる魔力の総量が乏しいのである。

 膨大なエネルギーを使用する際に必要となるコントロール方法と、少ない量をやり繰りすることで大規模破壊と同じ結果を再現するためのコントロール技術。

 力の制御という点では同じであっても、必要となるコントロール術の分野はまったく異なる方向を向いてしまう。

 

 原子爆弾と連鎖爆発の違いで考えてみればいい。

 爆発を連鎖して大規模爆発へ繋げるためには、建物の構造と爆発物の配置場所とを綿密に計算して仕掛けなければ倒壊にまで至ることは出来ないが、原子爆弾なら一発で粉々に破壊し尽くすことが可能となる。

 だが、コントロールを誤った原子力エネルギーがどれほどの危険をもたらすか・・・・・・この時代に生まれた者なら切嗣でなくとも知っている常識的知識でしかない。

 

 それが魔術師としての衛宮切嗣が二流にしかなり得ない理由となっている理屈であった。

 だが、それは魔術師としてはともかく『魔術師殺し』としての切嗣にとって、然したる問題になるべき部分ではなかった。

 無いのなら無いで、使えないのなら使えないことの利点を見つけ出し、相手を殺す手段に役立てる。それが暗殺者の戦い方というものだからだ。

 

 そして、それは今回のキャスター戦でも変わることなき切嗣の戦い方におけるスタンスとして根付いている。

 自身の魔力総量が低いことを利用して、切嗣は巨大海魔の中核にいるであろうキャスターを倒すために担うべき役割を彼は既に見いだしていた。

 

 キャスターに召喚された巨大海魔。

 マスターと思しき男を射殺する際、他の野次馬たちよりは距離的に近い川に浮かぶ船の上から狙撃したにもかかわらず、あのデカブツは切嗣に一切の反応を見せなかった。

 

 おそらくは、魔力に強く反応する性質を持っているのだ。

 キャスターからの命令という縛りもあろうが、マスターを失って現界を保つため早急に魔力を必要とする海魔にとって、巨大な魔力の塊とも言うべきエーテル体でできたサーヴァントの肉体は眩しいほどに食欲をそそる存在といっていい。

 それこそ、衛宮切嗣がごとき魔術師としては二流以下の魔力しか持たぬ残り滓に近づかれたところで、左程の過剰反応を示す恐れなどは無いと言っていいほどに――。

 

 そこが今回の作戦の付け根だった。

 ライダーの宝具を解除させ、狙っているポイントに海魔を出現させる際、誘導役の切嗣に惹かれて妙な動きでもされて僅かでも生き延びられたら面倒な計算違いを起こされかねない。

 

 その心配が最も少ないのは自分だと踏んだからこそ、切嗣は分捕った快速船に脱出用として積み込んであったゴムボートで移動を開始させ、セイバーの必殺宝具で確実にキャスターを仕留められるベストポジションへと向かおうとしていた。――そのはずだったのだが・・・。

 

「・・・不味いな。アーチャーとバーサーカーの戦い、あの様子では合図を出すのは、まだ早い・・・」

 

 予期せぬ戦況の激変ぶりを遠くに見晴るかしながら、切嗣は常と変わらぬ冷静沈着な無表情を変わることなく続けながらも、その声には僅かな焦慮を宿して小さく舌打ちせざるをえなくなっていた。

 

 セイバー・オルタが、ランサーからの全面的な支援と護衛を確約されて後方の安全は万全になったと解釈し、黒く染まりながらも未だ力衰えることを知らぬ聖剣を振りかぶって膨大な魔力をぶっ放すための準備を始めた、その矢先での出来事だった。

 

「A――urrrrrrrrッッ!!!」

「なにッ!? この狂犬、急に動きが良く・・・・・・っ!」

「Arrrrッ!! thurrrrrrrrッ!!!」

 

 急に動きの良さが格段に上昇したバーサーカーの駆るFー15イーグル戦闘機が、アーチャーの乗っていた黄金の船ヴィマーナの撃墜に成功してしまい、爆発して錐揉み状に墜落していく相手の消滅を確認しようともせず、真っ直ぐにセイバーたちのいる方角へと取って返してしまったのである。

 その動きとタイミング、そして極端な過剰反応ぶりなどから見ても、バーサーカーはセイバー個人に対して異常なこだわりを抱いていることは明らかだった。

 このままでは海魔を葬るのに必須の『対城宝具』を放つために魔力の溜め時間を確保できなくなる恐れが生じてしまっていた。

 

「いったい何を血迷ったと言うんだ、あのバーサーカーは・・・・・・アーサー王に因縁のある英霊が彼女との決着を望み求めて召喚に応じたということか・・・?」

 

 敵が今まで示した異常な動きと、セイバー自身の来歴から切嗣はそう分析する。

 セイバーことアーサー王が、御三家の一つアインツベルンの城にサーヴァントとして喚び出されたのは聖杯戦争開幕から1年近く前のことだった。

 その彼女との決着を今生において付けたいとする悲願を持った英霊がいたとするならば、アーサー王との因縁を晴らすためだけを目的として、彼女の参加が確定していた第四次聖杯戦争への新たな参戦を望み求めた結果だったとした場合、少なくとも理屈としての説明は可能になる。

 

 そして、その際に最も選ばれやすいクラスは《バーサーカー》だ。

 アサシンと並んで召喚前にマスターが選べるクラスの一つであり、凡そあらゆる英霊に『狂化』の属性を付与することでパラメーターの補正を図れるクラス。

 

 それは言い方を変えれば、『目当てのクラス』を狙って引くことが出来る反面、『目当ての英霊』を選べるという訳ではない。ましてパラメーター補正を必要とする程度のマスターが召喚可能なサーヴァントとくれば尚更のことだ。

 10年後には例外中の例外のような神代の超人が喚びだされるクラスであったが、本来《バーサーカー》は弱い英霊しか召喚できなかったマスターが、狂化によってドーピングを図ろうとする。それだけのクラスなのである。

 

 だからこそ、『英霊自身の意思』で『割り込みやすい』

 思えば倉庫街での発遭遇したときにも、アーチャーが現れた直後に乱入してきたバーサーカーは当初こそ黄金の英霊との戦いに集中していたものの、目当ての相手がいなくなった途端、ランサーもライダーも放置したままセイバーだけに獣の如く襲いかかってきていた。

 

 マスターである間桐雁夜が抱える事情を鑑みれば、遠阪のサーヴァントに固執するのは理解しやすい。それに一泡吹かせてやったことで気をよくした彼が、適当な獲物へ襲いかからせたという可能性も0ではないだろう。

 

 だが、同じ流れが二度も続けば流石に偶然とは思えなくなってくる。

 あの黒騎士の英霊には、間違いなくセイバーか、あるいはアーサー王に強い執念のようなものを抱いていることは間違いない。

 

 ――問題は、この状況下でそれが分かったところで、今の自分に何が出来るのか?という点だったが・・・・・・

 

「・・・・・・どうすることも出来そうにはないな。今はもの好きな騎士道連中の青臭い友情ゴッコでなんとかしてくれることを期待して、コチラはコチラで予定を進めるだけでしかない」

 

 そう結論づけて切嗣は、当初に予定していたポイントまで河面を移動して近づくためモーターボートを発進させる。

 狂戦士のサーヴァント相手では、近づくだけで何をどう反応するのか切嗣でさえ予測するのは難しい。移動して片がついてから再び戻ってくるまでの所要時間を勘案すれば間に合わなくなる危険性が高すぎる。

 

 

「いざとなれば令呪を使って強制移動させるという手もある。今回も取りあえずは、可愛い騎士王様のお手並みを拝見させてもらうとしよう」

 

 

 そんな言葉を口の中と心の中で、代わる代わる呟きながら切嗣はモーターボードを使った目標地点への移動を優先して選択する。

 三つしか無い強制命令権および一時的に魔力ブーストさせる、戦力としてみた場合のサーヴァント相手には有効打たりえる切り札を、切嗣の戦略ではハッキリ言って最後まで使うことを予定していなかったが、万が一と言うこともある。

 残せるのなら残しておいた方が、ブラフぐらいにはなるはずなのだから・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方で、マスターから「可愛い」などという表現を使われたことなど知るよしもなく、むしろ無精ヒゲはやしたままで髪グシャグシャで、美人妻と美少女子持ちなオンボロコート姿の中年オッサンから「可愛い」なんて言われたことは知らない方が良いか悪いか判断しづらい、妻が愛人と逃げられた経験ありな姿形の成長止まった少女姿の騎士王さまは。

 

「ちぃっ! バーサーカー、また奴が来たかッ!!」

 

 アーチャーとの空中戦が思いのほか早く決着してしまい、特殊能力によって自身の宝具と化さしめた黒き鋼の狂鳥F-15イーグル戦闘機を駆ってコチラへと向かってくる姿を見つけたことで、直観的判断によって堤防から河面へと先んじて飛び出し、敵機の強襲から一時退却を選び取る。

 

 ハッキリ言って、相手が異能で奪った『空飛ぶ平べったい鉄の円盤』がどんな攻撃手段をもってるのかは全く知らないし分からないのだが・・・・・・《直感的に》この場に止まるのは危険だと考えた故での選択だった。

 正直、遠巻きにチラ見したときにアーチャーへ向けて使っていた『火を噴く空飛ぶ棒』なら切り払っての迎撃が可能そうだと判断していたのだが、直観的な判断によって危険であると棄却せざるを得ないと感じたのだ。

 相手の性能も武器も、何が出来るかも全く知らないし、この場で立ち止まっても迎撃できる自信だけなら十分あったのだが・・・・・・直感によって!

 《直感Aスキル》による未来予知に近い研ぎ澄まされた第六感が、セイバー・オルタに逃げろと言っているので一時退避したのである。第六感の直感によって!!

 

 そして結果的に、その判断が自身はともかく、自身の大切な人への最適な対応を選択したことになる。

 

 ガガガガガガッ!!!

 

 

「うおぉぉぉッ!? あ、アイツこんな武器まで装備していたのか! 火力こそ正義とはいえ、我がブリテンと縁もゆかりもない奴らに使われると不快なだけ、ってウワアァァッ!?」

 

 という風なノリで、バーサーカーが特殊能力によって宝具と化していた鋼の狂鳥F15イーグルに装備された機銃斉射が、河面へと逃げた彼女を追って20mm砲弾の雨を浴びせかけてくるのを必死に回避しまくるしかなくなるセイバー・オルタ!

 

 もし堤防に止まって迎撃していたら、普通の人間でなくとも防御力などでは深窓の令嬢レベルしかなさそうなアイリスフィールだけでなく、固有結界内でキャスターを押さえ込んでいるライダーのマスターまで巻き込ませてしまって最悪の展開になりかねないシーンだったのだが・・・・・・狂った黒い騎士が狂気に犯され、セイバーの何かに執着してくれていることが幸いする。

 

 セイバーを倒したいだけなら、河面に逃れたセイバーなど追わずに、アイリスフィールを狙うのが聖杯戦争のルール的には正しく、正統的な勝ち方に当たる。

 実際にはセイバーのマスターは衛宮切嗣で、アイリスフィールは代理のマスターでしかなく、彼女を殺したところでセイバーが消滅することはないとはいえ、『その秘密』を知っている者は関係者の数名のみ。

 知らない者からすれば、アイリスフィールこそマスターに見えるが故の『代理』だったのだ。もしそれで本当にアイリスフィールを撃たれてしまっていたら大変なことになっていたかもしれない。

 

 だが、どうやらバーサーカーの興味は『セイバー・オルタ個人だけ』に限定されているようで、『結果的にセイバーが消えるなら同じ事』という判断基準でアーサー王の英霊を追いかけ回しているわけではないようである。

 

 とは言え――

 

「クソッ! やはり今回も私の方へ襲ってこられるのか!? 私の《LUC》の低さは本当に伊達ではないのだな! これも全てランスロットのせいでクソゥッ!!」

「Arthurrrr――――ッ!!!」

 

 現在地から遠ざかりすぎる訳にもいかずに、遮蔽物のない河面へと逃げる以外に選択肢がなかったセイバー・オルタにとって、ジェット戦闘機で猛スピードで追撃されながら上空から掃射され続ける弾丸の雨は、剣の英霊にとって甚だ不利な情勢と言わざるを得ない。

 

 挙げ句の果てに、伊達ではない《LUC》の低さによって知らず知らずの内に相手をピンポイント刺激する発言かまして、余計に相手を感情的理由でパワーアップさせちまう始末。

 

 狂気に犯させることで理性を奪われた狂戦士のサーヴァントは、狂戦士なので怒り度合いでもパワーアップしやすそうな存在。

 時間的に未遠川から遠い家庭のお茶の間では、似たような理由でパワーアップする伝説の超戦士が悪を倒して地球を守る英雄譚でも見てる子供たちが多くいるかもしれなかったが、現実の戦闘中に怒りでパワーアップ覚醒するのは超戦士ではなく狂戦士という夢のない戦いを繰り広げている合理主義者の暴君にとっては何の意味もなく、知識としても聖杯から与えてもらってないので関係もない。

 

 どちらにせよ、このままではジリ貧であり、なんとか剣の届かぬ高さから一方的に撃ってくるだけを維持し続けるバーサーカーに一太刀だけでも浴びせて退場させなければキャスター討伐に集中することさえ出来そうにない!――その瞬間だった。

 

「セイバー! 今だッ! 河底へ沈めッ!!」

「ッ!? てぇッい!!」

「Arッ!?」

 

 後方となった河原に残してきたランサーから呼びかけられ、その意図はまったく分からぬままに直感で、いや《直感スキルAランク》によって、自らが誇るスキルを信じて湖の乙女から死後も得られ続けていた水の上を走れる加護を、一時的に解除する。

 

 ジェット戦闘機に拮抗するほどのスピードで水上を疾駆していた、漆黒の甲冑を纏ったセイバー・オルタの黒影が、加護を失った代償として重さで川の中の水中へと即座に沈む。

 

 ボチャ――――ッッン!!

 ・・・・・・と。盛大に水音と水柱を迸らせながら、重い鎧を着込んだ軽い少女姿の暴君王が、一瞬にして暗い水面の底へとアッサリ沈んでいって姿を消す。

 

 未遠川まで来るのに使った乗り物の「えんじん」とやらと違い、小さい鍵を回すだけで扉のように開閉できるほど便利なものではなかったものの、湖の精霊の加護は一応ながら自分の意思でカットすることは可能ではあるのだ。

 

 そうでなければ風呂にも入れないし、入る予定はないが当世の『プール』とやらで寛ぐことすら出来なくなるだろう。

 霊体化できないから常に実体化し続けなきゃいけない、『まだ厳密には死んでない系サーヴァント』としては地味にキツい加護になる羽目になってしまうしかない。・・・・・・むしろ呪いではないかと思えるほどに。

 

 そういう理由でカット可能な湖の精霊の加護を切ったことで水中に没したセイバーに対して、

 

「Arrrrッ!! thurrrr――――ッ!!!」

 

 狂戦士の英霊バーサーカーは、バーサーカーらしくバーサークしてるため、水に沈んだ敵を倒すため、乗っ取った機体の高度を落として米国ゼネラルエレクトリック社製のM61機関砲を毎分12000発の連射速度でぶち込んでやるため後を追う!

 

 そして!!!

 

 

「・・・・・・捉えたぞ、バーサーカー。お前の姿、もはや我が槍の間合いの範囲内だッ!!」

 

 

 ――ランサーの『霊体化して移動できる範囲』へと、ほんの微かに飛び込むこととなる。

 瞬時にしてウェイバーたちの側から姿を消した美丈夫が、一瞬後には狙い違わず黒い魔力が脈打つF15戦闘機の機上へと、真紅の魔槍を手にした勇姿で再び現れる。

 

「Urッ!?」

「そこまでにしてもらうぞ、狂戦士! そして!

 セイバーの勲は俺が頂くと言ったはずだッ!!!」

 

 叫ぶや否や、ランサーは右手に掴んでいた『ゲイ・ジャルグ』の切っ先で、異形化した機体の翼を刺し貫く。

 瞬時にして、あらゆる魔力の循環を遮断する紅き魔槍の一刺しによって、バーサーカーの怪能力によって宝具化していた戦闘機は即座に崩壊を開始しはじめる。

 

「errrrrッ!!」

 

 だがバーサーカーは、その魔槍での一撃を倉庫街での戦いで横やりを入れられた経験から既に思い知っていた。

 狂化してなお周到さを失っていない、バーサーカーの基準が通じぬ系サーヴァントは、ランサーが持つ『魔力殺しの宝具』を前にして同じ轍を踏み、二度の邪魔までもを許してやる真似をしてやる意思は微塵もなかった。

 

 紅い槍先が機体をえぐる直前に、要所だけを力ずくでもぎ取って高々と跳躍する。

 その手に残っているのは、崩壊した機体に装備されていたバルカン砲ユニット一式。

 まだ自分の支配下にあった時点で、崩壊する機体から奪ったバルカン砲は、未だにバーサーカーの能力の影響下にあり、これだけでも黒騎士が触れさえすれば宝具として使用可能になるのだ。

 

 しかし――。

 

「そこまでにしてもらうと言ったはずだ! 狂戦士ッ!!」

 

 槍先を機体に突き刺しながらも、怪能力の解除のみを目的とした一撃は深く貫通することなく、浅く突いただけで次の行動へと移りやすいよう済ませていたランサーもまた、真紅の魔槍を手放すと、バーサーカーを追って自らも虚空へ向けて舞い上がる!

 

 倉庫街での戦いを教訓として、敵の強さを思い知っていたのはランサーも同様だったのである。

 もし仮に、自分が通常のランサー・クラスと同様に一本だけしか宝具の槍を持っていなければ、一撃必殺の意思を込めた攻撃の後、バーサーカーの挙動に対応できぬまま鉄屑と化した機体の残骸と共に落ちていくことしか出来なくなっていたかもしれないが・・・・・・生憎ディルムッド・オディナは『二槍使いの英霊』

 

 一つが無くなる時が来ようとも、今一本の魔槍ある限りフィオナ騎士団の一番槍は、戦いを最後まで手放すことは決して無い!!

 

「殺ったぞ! バーサーカー! あの時の屈辱的な同盟の悔い、今こそ晴らすッ!!」

「Ar!? errrrrッ!!!」

 

 互いに空中でぶつかり合い、落下するまでの短い一瞬だけで交わり合う不確かな戦場!!

 ガキィィッン!!と、魔力で編まれて再現された、実物より遙かに固い金属と金属がぶつかり合う!

 

 その戦いにおいて、狂化されて理性を奪われた狂戦士のバーサーカーは、最後まで『優先順位を間違えなかった』

 

「チィッ! やはり此奴も易々と勝ちを獲らせてくれる相手ではない・・・・・・!!」

「Arrrrッ!!」

 

 ランサーが擦れ違いざまに放った呪いの槍の一撃から、バーサーカーは完全に『バルカン砲ユニット』を守り抜くことに成功したのだッ。

 空を飛ぶ手段をもたない自分たち二騎の英霊が、この高度からセイバーを攻撃するためには飛び道具を失うことは失敗と敗北を意味している。

 守るべきは、自身の肉体ではなく宝具化した現代武装のバルカン砲であり、足場の存在しない空中という戦場で、ランサーは一撃必殺の攻撃で仕留めきれなければ落下していくことしか出来なくなるしかない。

 槍での投擲も、この体勢からでは同じサーヴァント同士の攻撃でなら、射撃武器の方がわずかに、だが確実に速い!!

 

「■■■■■■■―――ッッ!!!」

 

 片腕一本に損傷を被りながらも、刃渡りの短いランサーの黄槍を凌ぎきったバーサーカーは、落下していくしかないランサーの姿を見送ることなく、謎の奇声を勝利の雄叫びのように轟かせ、水中から浮上してきたばかりのセイバー・オルタに向かって照準を合わせる。

 

 魔力に加速された回転砲身が瞬時にスピンアップを果たして、怒濤の砲弾がセイバーの矮躯を蜂の巣にするため雨のように降り注ぐ!!

 

 ――そのはずだった。

 

「ッ!? er!?」

 

 これまでより格段に距離が短くなったセイバーに向けて、疑似宝具を連続発射しようとした瞬間。

 バーサーカーは、自分の身体が負わされた異常に気付く。

 

 

 

 

 ――それは、一騎の英霊の変質によってもたらされた、三騎の英霊たちの変化が集大成となって現れた瞬間でもあった。

 

 魔術師殺しに召喚された騎士王が黒く染まった暴君として喚び出され。

 騎士道にこだわらず合理主義を選んだ暴君は、ランサーの魔槍で左手を傷つけられる事なく。

 左手を呪われていない暴君は、聖剣を使用するため呪いの黄槍を破壊する必要が無かったのだ。

 

 

 その積み重ねの結果が、今バーサーカーの身体に負わされた傷という形で、狂いの集大成が刻みつけられていた。

  

 右腕の動きが鈍い。健を切られたのだ。

 五指の内の一本である、人差し指が動かない。

 

 ――バーサーカーは今、『引き金を引くこと』が出来なくなっていた。

 

 厳密には、怪能力によって自身の宝具化しただけの戦闘機に装備されていたバルカン砲を撃つため、引き金など引く必要があるはずもない。

 だが今、崩壊した機体から奪い取ったバルカン砲は、怪能力によってバーサーカーの宝具と化している。

 

 『銃の宝具』となっているのである。

 

 勝利を約束された聖剣の宝具が、刃によって敵を切り裂くものでないにも関わらず、『剣を振り下ろす』という挙動が必要であるのと同じように。

 

 銃の宝具として使用するためには、『引き金を引いて発砲する』という、宝具の使い方ルールに囚われずに使用することは、如何なバーサーカーの異能を持ってしても出来なかったのだ・・・!

 

「Grッ!?」

 

 更に続いて、横から衝撃が走るとバーサーカーの身体は駒のように空中を回転させられながら、錐揉み状に水面のいずこかへと落下していく水柱が上がる。

 黒騎士に一撃を食らわせた投擲武器が、ブーメランのようにクルクルと回って戻っていく発射地点らしき橋の上には、黄金の鎧を纏った英霊が傲岸不遜な視線と目付きで、『このように滑稽な展開へと持って行かせる発端』となったであろう黒い騎士王の姿を面白そうに見下ろしながら、愉悦を込めて独白する。

 

 

 

「さぁセイバーよ、示すがいい。お前が本来のあり方さえ失ってまで得た黒き輝き、その真価を我に見せてみよ。

 その輝き次第で、本来の貴様が得たかもしれぬ我からの寵愛を奪った罪、免罪するか否か、この我が見定めてやるのだから!」

 

 

 

つづく

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