もしも切嗣が喚んだセイバーがオルタ化してたら 作:ひきがやもとまち
【ステイナイト版】の3話目。不満ある方もおられるでしょうが、とりあえず更新をば。
義父と約束した『正義の味方』に憧れる少年が、命の危機におちいったとき助けてくれた青い騎士王の少女と出会い、新たな憧れの対象となった運命の夜。
その少女と『同じモノ』になるため生涯を送ったが成ることができず、妥協案として示された道を受け入れてしまって思ってたのと違いすぎる現実に打ちのめされ、絶望者と化して自身の消滅を願うように変貌してしまい、そう変わってしまった未来の自分と戦って勝利して別の未来へ続く道を手にする始まりにもなっていた、2つの運命が同日に発生していた本当に運命だった夜。
だが現在進行形の時点では、今はまだ命の危機でしかない2つめの運命が最初の運命の危機を退けたセイバー・オルタとマスターのもとへ迫りつつあった。
対決中に目撃者を消すため戦場を離脱したランサーを追って、二刀流使いの弓使いという異色のアーチャーとマスターが、ランサーを交渉の末に引き分けという形で撤退してもらったばかりの衛宮邸へと急速接近しつつあったからである!
その危機に対処するため、巻き込まれただけで状況が理解できてない単語の意味も分からないマスターと、黒く染まってポンコツさと火力はUpしていた騎士王のサーヴァントとで協議の決断として!!
・・・・・・結果として、何とかなってしまって今に至る。
「へぇ、けっこう広いのね。和風っていうのも新鮮だなぁ。
あ、衛宮くん、そこが居間?・・・って、うわ寒っ!? なによ窓ガラス全壊してるじゃないっ!」
「・・・・・・仕方ないだろう? ランサーって奴に襲われた時にブチ破って入ってきたんだから。
セイバー?っていうのが出てきて助けてくれるまで一方的にやられてたから、なりふり構ってられなかったんだよ」
「ふぅん? ヘンな見栄張らないんだ。そっかそっか、ホント見た目通りなんだ衛宮くんって♪」
「・・・・・・・・・・・・」
自分のマスターである少年と、アーチャーのマスターだった少女魔術師が同じ学舎で机を並べている学友同士で、双方ともに互いの正体を知らずに付き合ってきて、今さっき知ったばかりだったからである。
当世風の単語では「くらすめーと」と呼ばれている関係性に当たるらしいことが、聖杯から付与される現代語翻訳機能で教えられる。今はまだ発音が微妙かもなので黙っておくが、そのうち慣れるだろう。聖杯の真贋はともかく翻訳機能は万能です。
「まっ、私がやらなくてもそっちで直すだろうけど、そんなの魔力の無駄遣いだしね。
――Minuter vor Schweiβen――」
「・・・? え!? 壊れたガラスが元に戻って・・・スゴい! 遠阪、今のって・・・!!」
「ちょっとしたデモンストレーションよ。助けてもらったお礼にはならないけど、一応筋は通しておくものだし。
ホントなら窓ガラスなんて取り替えれば済むけど、こんな寒い中で話すのもなんだったしね」
「――いや、凄いぞ遠坂。すごく助かった。俺はそんな事できないからな。
このままだと朝になってから修理屋に電話して、幾らかかるか考えて頭抱えてたところだったし、直してくれて感謝してる」
「出来ないって・・・・・・そんな事ないでしょ? ガラスの扱いなんて、初歩の初歩だもの。
たった数分前に割れたガラスの修理なんて、どこの学派でも入門試験みたいなものなんだから」
ごく当たり前のことと言う風にサラリと断言する相手の少女、真っ赤な色したド派手な上衣をまとって太股を晒した、婦女子としては破廉恥な格好をした現代の魔術師『遠坂凜』
彼女は別に、嫌味や自慢話をしている訳ではないらしく、本気で不思議そうに問い直してきているだけらしい。
そうは言っても、義父から手ほどきを受けた以外には魔術について何も知らないに等しく、教えられている知識も乏しい魔術師見習いという辺りの、たぶん知識的には前回に戦ったライダーのマスターで、名前覚えてないが同世代ぐらいだった少年の方が遙かに上回ってるかもしれない衛宮士郎にとっては素直に感嘆して尊敬と感謝の視線を向けることしかできない。
そして、そんな基礎すら知らずに半端な魔術だけ教えられて育ったらしいマスターに召喚されたサーヴァントの方は、憮然とした表情になって黙り込むしかない。
凜の話を聞かされて――そうだったのかと。
花のバカ魔術師は、やってくれたっけかな?と。
そんなこと出来るのが当たり前なのに、やってくれなかっただけなら殺して処刑したいなアイツと。
・・・・・・新たな知識を得た事によって、過去の恨みを思い出し、さらなる恨みの念を増幅させる理由となって、ますますバカ魔術師のことが嫌いになっていっただけの状態に陥りながら。
貧乏島国で内戦続きだったブリタニアで、魔力だけ浪費して壊れた物資を直してくれてたら、国民に離反されることもなく、本土に残してきた残留部隊がバカ息子を自称するバカ騎士モードレットに寝返ることもなかったかもしれないのに・・・・・・。
いっそ聖杯の力で過去に戻って花のバカ魔術師を粛正すれば、ブリタニア滅びの未来を消滅させたり出来るんじゃないだろうか?―――とか、今とは違うマスターの未来と似たようなこと考えてしまいながら、ただ過去を思って殺さなかったこと後悔しながら沈黙中。
本体の陰でしかないサーヴァントは、呼び出したマスターに影響されやすいので仕方がない。
「そ、そうなのか? 俺は親父にしか教わったことないから、基本とか初歩とか知らないんだよ」
「・・・・・・は? ちょっと待って。じゃあ衛宮くんって、自分の工房の管理もできてない半人前ってことなの?
まさか五大要素の扱いとか、パスの作り方も知らないなんてことはないわよね? 見習いでも知ってて当たり前の常識なんだし、まさかとは思うけど念のために」
「お、おう・・・・・・し、知らないけど・・・」
問われたので素直に答えはすれども、念押しセリフを付け足されたことで歯切れは悪くなる士郎くん。
自分が悪いわけではないんだけれども、「素人でも知ってる常識レベルすら知らないのか?」という聞き方されると、微妙に正直な答えは言いにくくなるのは致し方なし。
「・・・・・・・・・(ムッス~~・・・)」
そして、それを聞かされて益々不機嫌そうな表情になっていく遠阪凜。
正規の魔術を学ばされ、今日まで修練を続けてきた彼女にとっては、そんな素人じみた相手が『最優』と評されているセイバークラスを召喚できてしまったことに納得いかないモノを感じずにはいられないのだ。
とはいえ彼女の不機嫌さにも一理あるとも言えるし、無いとも言える。教えなかった側が悪いとも言えるし、調べなかった方が悪いという考えも間違いではない。
なにしろ士郎は、この自分が持つ『魔術の力』を使って人助けが出来るようになることを目指している高校生だったのだから。
進路希望の紙にもアヤフヤなことしか書けずに、担任の女教師から『公務員』と当たり障りのない表現に書き直してもらったのも、その自身の夢に起因している。
――義父が幼い自分を、炎に包まれた地獄の中から救い出してくれたのと同じように。
自分もまた、魔術を使って義父と同じように苦しんでいる人たちを救える人間になるため、『切嗣と同じになる為』に。
その想いを胸に士郎は、義父であった切嗣が死んでからも今日まで魔術の鍛錬を怠ることなく続けてきている。
続けてきてはいるのだが・・・・・・それは憧れの義父を絶対視している証明でもあったため、教えられたことしかやってないのと、教えに反することには手をつけない清教徒的な生き方を現すモノでもあり、自身の経験から『養子には魔術師になって欲しくない』と願っていた切嗣の願っていない『正義の味方』という夢を目指してる士郎の努力内容は、叶えたい夢と必ずしも一致してない微妙な今日までの現実な日々。
だから遠坂家当主の娘に生まれた者として、父の後を継ぐという夢を叶えるため正規の努力をし続けてきた凜としては、たしかに士郎の不勉強というか、『自分のやりたい事しかやらずに夢を叶えたがってる努力』を聞かされて不快に感じる気持ちも理不尽という程ではなかったのである。
たしかに、『魔術師としてやるべき事』と『守る必要がある手順』は、凜の方が遵守していて、士郎はショートカットの『魔術師殺し的教育法』で育てられちまってるルール違反上等なやり方に無自覚になりつつあったんだけれども・・・・・・しかし。
「はぁ・・・・・・なんだって、こんなヤツにセイバーが呼び出されるのよ、まったく・・・」
「『所縁の品』を使って召喚の議を行わなかったからではないのか? 目当てのサーヴァントを呼び出すには、本人ゆかりの品を触媒に用いるのが聖杯戦争の鉄則だからな」
「う、ぐっ!?」
思わずボヤいた途端に、今まで黙っていたセイバー・オルタからツッコミというか、ごく当たり前の指摘を入れられて発作的に唸るしかない遠坂凜。
そう・・・そこが問題なのだった。いま問題になっているのは、その部分についてなのである。
遠坂凜はたしかに、今日この日のために努力し続け、聖杯戦争に備えて準備し続けても来ていた。修行もした、鍛錬も怠らなかったし、一般社会の勉強だって優等生だ。
・・・・・・だが、聖杯戦争で最重要な、サーヴァントを呼び出す『所縁の品』だけは、あんまり探し出していなかった・・・。
しかも、魔力絶好調の時間に儀式おこなってたつもりで、時計が軒並み1時間遅れてるのを朝知って、夜に忘れて儀式をおこなう。
挙げ句の果てに、召喚の触媒は『私は天才だから触媒なしでも最優のセイバー確実!』・・・・・・とかいう、根拠はあるけど客観的な確証はない主観的評価だけを『所縁の品』代わりにしてサーヴァント召喚を断行。結果として皮肉屋なアーチャーを喚べました。・・・という状態に今の凜はなっていた。
だからセイバーを偶然引けた素人の士郎に怒っているのだが。
・・・・・・普段優等生の自分が、たまたま運悪く偶然にもミスっちゃっただけで引けなかった最高のカードを、運良く引けただけの初心者を相手にその・・・・・・世の中の理不尽的なナニカに対して激しい怒りと不満を。
他人が聞けば、『八つ当たりじゃねぇか』とか言われそうな気もするけど、だからこそ言えない。事情を言えずに怒るしかない遠坂さんです。
まぁ、サーヴァントの方も後に運命の一つで、『これはただの八つ当たりだ』と自分の行動を皮肉って、過去の自分への憎しみぶつけてるし。サーヴァントはマスターに影響されやすいものである。
(ち、違う! これは別に・・・私のせいじゃないし! ただの一族が受け継いで来ちゃった、“ウッカリ癖”が原因で起きただけの事故だし!
結果的にアーチャー強かったんだから、所縁の品もなしでセイバーを召喚できると確信して儀式おこなった私の失敗とまでは言えないんだから断固抗議するわ!断固!!)
「え? そうなのか? えっと・・・セイバー。サーヴァントって、所縁の品ってのを用意しておけば、そいつと関連するヤツが呼び出せるようになってるのか?」
「ああ、そうらしい。――もっとも今回の貴様の場合は、なにに引き寄せられて私が喚ばれたのか確たることまでは分からんが・・・・・・参考までに問うだけだが、アーチャーのマスターは召喚のときに何を触媒として用いていたのだ?
正直セイバークラスを喚びだしたいだけなら、一番ゆかりある物品を入手しやすいクラスのように私には思えるのだが・・・」
「そ、それは・・・・・・それはぁ・・・」
追い詰められる遠坂凜。
――たしかにスペックを考慮しなければ、セイバークラスは全サーヴァント中でも特に引き当てやすいクラスかも知れない。安い安くないとか以前に、絶対数が一番の多そう。
かなり新しい時代まで適正ある英雄が居続けそうだし、東洋以外限定でも結構な数がいる。
ぶっちゃけ、自分の生前に部下だった円卓メンバーだけでも10人近くか、それ以上だ。英霊登録されてるかどうかまでは分からんのもいるので確実じゃないけれども。
アグラヴェインとか、兄のサー・ケイとか。英雄基準だと微妙扱いされてそう。
「それは・・・・・・それは今は置いておくとして! 衛宮くん!!
今あなた、自分がどんな立場にあるか判ってないでしょう!? だから今は説明が先!
既に知ってることを話すのは心の贅肉! 贅肉は落とさなきゃダメ! 女の子にとってのダイエット舐めるな! アンダスタン!?」
「お、おう・・・・・・わ、分かった。――なんか誤魔化された気もするけど、言わないでおくよ・・・」
「キッ!!(ぎらりッ!!)」
という感じで強引に押し切って、長すぎる無駄な前振りは終わって、ようやく本題に入ることになる衛宮邸でのアーチャーとセイバーとマスター達による聖杯戦争談義。
もっとも本題とはいえ、聖杯戦争に関する説明なので、士郎にとっては別としてセイバーオルタにとっては知っていることばかりだったので、本題の方が余録として考えても良かった代物だったんだけれども。
――こうして、衛宮家の食卓を囲んで始められる運びとなった、遠阪凜の話を要約すると、半人前魔術師の少年こと『衛宮士郎』は、とある『ゲーム』に巻き込まれてしまったらしいのだ。
7人の魔術師達がマスターとなって、たった一つの聖杯を奪い合う『聖杯戦争』という名の殺し合いゲームに、参加者の一人であるマスターとして――。
「せ、聖杯戦争!? こ、殺し合い!?」
「そ。あらゆる願いを叶えてくれる万能の願望機である聖杯を巡って、7人の魔術師たちが最後の一人になるまで互いを潰し合う。聖杯を手にできるのは、勝ち残った一人のマスターとサーヴァントだけ。それが聖杯戦争。
衛宮くんにも宿った『聖痕』は、そのゲームに参加する資格を聖杯から与えられた証なのよ」
食卓を挟んで、窓側の席に正座して茶をすすりながら解説してくれる凜。
対して、彼女とは反対側の位置に、あぐらをかいた姿勢で座り合っている行儀悪い主従の二人、セイバーオルタと衛宮士郎。
話を聞かされて驚愕しているマスターの方は男で少年だから仕方ないかも知れないが、傍らに座って霊体化できないから実体のままな美少女剣士は、それでいいのか?と思わなくもなかったものの、まだ真名わからないし、時代によってはおかしくないかも知れないから今は無視しておくかと割り切って凜は説明を続けていく。
体に宿った聖痕は『令呪』といって、サーヴァントに対する絶対命令権であること。
ただし、三回しか使えないので、用いるタイミングには気をつけること。
聖杯戦争は既に何十年かに一度の割合で、何度か続いてきていると言うこと。
聖杯は参加した一人のマスターが、他のマスター達を駆逐していった末に顕現すること。
サーヴァントは聖杯が与えた使い魔のような存在であること。
サーヴァントは受肉した過去の英雄の魂であること。
他のマスターを1人残らず殺し尽くすまで終わらない魔術師同士の殺し合いこそ、聖杯戦争であること。
そして、自分もまた聖杯に選ばれたマスターの1人であること―――等である。
・・・・・・それらの話を聞き終えた上で、黒く染まった騎士王は心の中で、こう呟くことになる。
(何というか・・・・・・所々で微妙に違っている部分があった気がするのだが。
しかも何か、「魔術師を殺して勝たねばならない」という必須ではない部分を強調したがってるようにも聞こえたし。
ひょっとしてだが、この娘『聖杯戦争』に何やら美化したイメージ持ってて、それを基準に語っているのではあるまいな? 『革命か、死か』とかのノリで)
そんな微妙にツッコんでいいのかどうか判断に苦しむ内容を、心の中だけで・・・・・・。
実際問題、聖杯戦争においてマスターである魔術師達の死は、とくに重要な条件というわけでもない。
聖杯は霊的な存在のため、必要となるのはマスターが召喚した過去の英雄を実体化させたサーヴァント達の方で、人間でしかない魔術師達など7人どころか7万人殺しまくったところで聖杯を顕現させるほどの魔力には届かないのではないだろうか?
マスターである魔術師を殺すのは、単に実体化した英霊であるサーヴァントを殺すよりは楽だからというだけが理由で先に殺す対象に選ばれやすそう。という程度の意味に過ぎない。
戦術的には確かに正しい方法論ではあるのだが・・・・・・実際にその方法をとっていたマスターは、前回の『魔術師殺し』以外だと多くないらしいし、基本的には聖杯戦争中も魔術だよりで隙だらけなのが多数派らしいからこそ前回マスターは『マスター殺し』で勝ち残ろうとしてたような気もしたのだけれども。
・・・・・・ただ、あんまし覚えてないので確信が持てなかったので言えなかった。
直接経験した『青い方の自分』だったらハッキリ言えるので分かるかも知れなかったけども、今度は逆に前回のこと気にしすぎて魔術師達やマスターに隔意もった対応でしか応じたがらなかったかもしれない。
死ぬ寸前で止めてしまった記憶継続系サーヴァントというのも、存外に面倒なものでもあった。
英霊本体に近しい存在でいられるから、強くはなれるのだけれども。ステータス面以外ではデメリットが大きすぎる気もしなくもなく。
――満身創痍になって死のうとしている意識朦朧の状態で、今までの人生で築き上げてきたものが全部台無しになることが確定した現在を思えば、誰だって後悔の念と恨み辛みで満たされるという、青い方の想いは分からなくなくもなかったものの・・・・・・もう少し考えてくれてたら今の自分は楽だったかもなーと。セイバー・オルタは心の中で、そう考えていた。
「さて、衛宮くんから話を聞いた限りじゃ、セイバー。あなたは不完全な状態みたいね?」
「ああ、そのようだ。どうやらマスターとの魔力パスが完全ではないようなのでな。今のままでは魔力の回復も難しいというのが正直なところだ」
「・・・・・・驚いた。そこまで重傷だとは思わなかったわ。でも、そのことを正直にあなたが話してくれたのは、もっと意外だったけど」
「別に。見抜かれていたようだったのでな。むしろ貴様の方こそ、ここまでマスターに情報提供をしてやるほどの義理はないはずだろう? そういう事さ」
「――っ、承知の上ってわけか・・・。風格も十分だし、まったく益々惜しくなっちゃったわね本当に・・・」
キリリとした態度と表情を崩すことなく、威風堂々とした風格ある対応で、堂々とウソを吐いて誤魔化す暴君アーサー王。
合理主義者の道を選んで、名君になる道捨ててしまった後の黒いセイバーの場合は、こうなります。
ホントは青い方が原因で霊体化できないだけですが、魔力回復難しいレベルじゃなくて腹ペコなのですが。
そういう都合の悪い内情があるときには、臣民たちに語らず、表面上を取り繕って威厳ある態度で面子を守って国家防衛に利用する。それが暴君。
一般庶民基準だと情けなく聞こえるだろうとは思うけれど、正直に語っても呆れられて見限られて国家崩壊して征服されるよりは大分マシだという、窮状にある国家代表の実情も分かっていただきたいと、心の中で思わんでもない。心の中だけでだけれども。
とはいえ、幾ら暴君でも言わざるを得ない事もあるにはある。
「はぁ・・・・・・まぁ、いいわ。もう決まった事に不平をこぼしても始まらないし。
とりあえず話に区切りがついたところで、そろそろ行きましょっか?」
「?? 行くって、どこへだ? 遠坂」
「だから、貴方が巻き込まれたこのゲーム――『聖杯戦争』をよく知ってるヤツに会いに行くのよ。
衛宮くん、さっきまでの話しぶりだと聖杯戦争の理由について知りたいんでしょ?」
「それは当然だ。こんな他のマスター全てを殺して願いを叶えるなんて悪趣味な事について説明されて、納得なんていくわけがない。
・・・・・・けどもう、こんな時間だぞ? あんまり遠い場所だと流石に・・・」
「大丈夫、隣町だから急げば夜明けまでには帰ってこれるわ。
それに明日は日曜なんだから、別に夜更かししたっていいじゃない♪」
気楽そうな口調で語られた、アーチャーのマスターから『聖杯戦争の監督役の話』を聞きに行くという誘いの言葉。
それを聞かされてしまっては、如何にセイバーオルタが黒く染まった暴君とはいえ、この言葉を言わざるを得なかったから―――
「阿呆」
と、ただ一言を白い目で凜を見つめながら―――
「あ、な!? あ、あ、アホって、あなた、なんてこ・・・っ!?」
「ちょ、せ、セイバー!? 遠坂相手に何言って・・・!?」
「阿呆な提案をするから阿呆と言うしかなかったのだ、仕方なかろう。まったく・・・・・・」
「魔術師の戦いは人目を避け、夜に行うものなのだろう? わざわざ敵に襲いやすい場所まで自分から入り込みに行くつもりか? 説明を聞くためだけという目的で?
朝になってからで良かろう。たかが説明を聞くためだけだったら、朝になってからで」
『『う・・・・・・それは・・・そうかもしれませんが・・・・・・』』
あまりにも常識的すぎる対応に、魔術的な話は『魔術師の時間である夜におこなうもの』という不文律を律儀に守るのが当たり前になってしまっていた凜と、なんとなく魔術がらみの話ではあったので一緒に謝ってしまう魔術師見習いの士郎くん。
ただまぁ、今回の場合は完全無欠にセイバーオルタが正しい正論と判断せざるを得ず、戦いを仕掛ける覚悟で赴くならともかく、説明を聞くためだけで聖杯戦争に参加するか決めかねているマスター連れて、敵にとっては襲いやすい時間帯の夜道をブラブラ隣町まで歩いて行って、夜明け近くまではかかる時間までは攻撃範囲内に身を置いてやる必要性はさすがに無い。まったく無い。心じゃなくて、時間と物理の贅肉すぎる無駄遣いにしか本気でなれない。
しかも明日、日曜日だし。休みだし。
土曜日の深夜に急いで行って用事を済ませて、日曜までに終わらせて帰ってきたいって、どこのサラリーマンの残業かと。この時代の知識があったら言ってたかも知れないほどに・・・・・・無駄だった。
暴君セイバー的にも、魔力補充できないので無駄な戦闘避けたいです。
でも、言いません。自身の弱点について正確に全部は言わない、戦争の鉄則。
「で、でも相手は相手で忙し――くはなさそうだけど、毎日毎晩ヒマって訳では流石にないだろうし、日曜だと一般客とか来てる事ある場所だし、朝の時間帯だと魔術からみの話は教えにくい可能性も―――」
「先触れの使者を出せば良かろう? そのための使い魔だ。
あるいは、そこにある・・・“デンワキ”?とやらいう遠距離での通信手段を用いて、時間を空けておくよう伝達してもいい。
監督役と言うからには、参加者のために、その程度の時間と手間暇を裂くのは当然の義務。それすら出来ぬ職務怠慢の無能ならば、斬首して挿げ替えてしまった方が全体のためにもなる。問題はあるまい?」
「ひ、ヒデぇ・・・・・・んだよな? なんか頭の中で良いのか悪いのか整合性が・・・あれぇ~・・・?」
そんなこんなで夜の闇とともに(マスター達は)混迷を深めつつ。
とりあえず衛宮家の電話を借りて、凜が監督役の綺礼に連絡して、翌日の予約を取って、相手からの反論は聞かずに問答無用でぶった切り、今日は普通に帰って寝る事にして明日からの正式な聖杯戦争開始(予定)の日に備える事にして解散となった運命の夜。
「・・・・・・来ない・・・・・・へっぷし!!」
『・・・・・・・・・』
とある雪深い北欧から来た少女が、3メートル近い身長の大巨人の横で待ちぼうけしながら、クシャミをしていた。
大巨人は理性失ってるので無言のまま、少女の前に立って寒風から少女を守るため立ち塞がり。
「ありがとう・・・・・・バーサーカーは・・・暖かいね・・・・・・」
『・・・・・・・・・・・・』
なんか主従の絆を深め合っていた。
来ると思っていた日に来なかったりすると、色んな人の予定が狂って大変です。
外出の際は、相手方のスケジュール確認をお大事に。――ということが運命を知ってるものだったら分かった、運命の夜の分岐点であった。
つづく