もしも切嗣が喚んだセイバーがオルタ化してたら   作:ひきがやもとまち

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ようやく新年になってから調子が戻ってきたのが書けるようになったものの、体力不足までは如何ともしがたく、それが原因で端折ったりとかが目立つ今日この頃。
本来なら今話も、残り半分を付け加えて完成させてから出す予定だったんですけど、体力的に意志が弱くなってきましたので、半分だけ先に投稿して後から完成版とするか続き書くかを考える予定。

他の作品も書く必要あるため、途中で意志変わる可能性も厄介ですしね。
次は『ISドライロット』を更新予定。


ACT33

 

 生暖かい午後の日差しが、古びた土蔵の外壁を優しく暖めながら、ゆっくりと中点から過ぎつつある時刻。

 そんな時間に、小さな採光窓からわずかに差し込む光だけを受け入れて、黄昏のように淡い暗闇にある倉の中。

 

 セイバー・オルタは壁際の床に座ったまま、ただ時が過ぎるに身を任せていた。

 傍らに描かれた魔法陣の中央で、胸元に手を組んだ姿勢になって仰向けで両目を閉ざしているアイリスフィールの横に座って、ただ黙ったまま静かに時が過ぎるのだけを待ち続けていたのである。

 

「モッキュ、モッキュ・・・ごっくん。――ぱくっ」

 

 ・・・・・・帰る途中で大量に買い溜めしてきたハンバーガーを平らげながら、ただ時が過ぎるのを新たなアインツベルン拠点に帰ってきてから、眠ってるアイリスフィールの横で、もうすぐ午後過ぎになる時刻までず~~~~っと。

 

 ただ待ち続けながら、食べ続けていたのだった。

 他にやる事が無いので仕方がない。決して働かずに食える身分を満喫したいから何もしないで食ってるだけを続けてる訳ではない。断じてない。魔力補給も兼ねてるのは事実ではあったし。

 

 

「・・・ん・・・・・・セイバー・・・?」

「モッキュ、モッキュ――起きたか。アイリスフィール、具合の方は“まだ”保ちそうなようだな。マスターのためにも結構なことだ」

「・・・・・・ええ、うん。なんとか大丈夫だったみたい、今のところは――ね」

 

 やがて、わずかな身じろぎの気配とともに、セイバーの見ている前でアイリスフィールがゆっくりと上体を起こしながら、「あふ」と慎ましやかな欠伸を漏らす。

 充分な休眠を終えて目覚めたからであろうか? 血色は少なくとも昨晩に帰ってきたときよりかは良くなっており、気怠さは感じられるものの、苦しさから呻くと言うほど弱ってまでは至っていないらしい。

 

「御免なさい、心配させてしまった―――という訳でも、あんまりなさそうだったみたいね? このゴミの山を見る限りではの話だけど」

「モッキュ、モッキュ、ごっくん。ふぅ・・・・・・いや、心配自体はしていたのだぞ? 本当に。単に私が出来ることは何もなさそうだなと判断していただけのことだ。

 だがどうやら、その様子を見るに“なんとか保った”が、大丈夫“ではない”ようだな」

「ええ・・・・・・あなたの言っていた通りの理由で・・・」

 

 相方の言葉に苦笑して肩をすくめて見せながら、アイリスフィールは皮肉そうな口調で自嘲するように呟き捨てる。

 破天荒でありながらも、妙なところで鋭さを発揮してくる暴君故の言葉尻の捉え方に、余計な手間をかける必要のない安堵の念と、隠し事が通じづらい人を見る目への想い。二つの異なる感情で小さく肩をすくめて見せながら。

 

 彼女たちが武家屋敷のような新たな拠点に帰ってきたのは、昨晩の戦いが終わった直後。共闘と妨害の入り乱れる混戦の果てに、ようやくキャスターを打倒した少し後でのことだ。

 今までアイリスフィールが横になって休んでいた、ホムンクルスにとっては唯一の回復手段らしい魔法陣を彼女と共に敷設して、仮マスターの肉体の異常に気づいた日のことが、今となっては少しだけ懐かしく感じるほどに・・・・・・前回のキャスター戦は今までで一番の死闘だった夜でもあった。

 アイリスフィールの疲労と、回復の必要性が生じていたのも無理はない。

 それほどに、長い一夜の戦いだったのだから。

 

 

 ・・・・・・だが、それ程の死闘だった割に、あの一晩での戦いで聖杯戦争の戦局そのものは、大して進展していないのも事実ではある。

 

 あの戦いでの勝利から、今次聖杯戦争は各陣営ごとの事情と戦略によって、奇妙な停滞に陥ってしまっていた。

 

 遠阪のアーチャー陣営は、最初から護りを意識した戦略だし、なかなか当初からの作戦を変えようとしたがらず。

 

 間桐のバーサーカー陣営は、時臣にアッサリ敗れた雁夜が言峰綺礼に拾われて九死に一生を経て、間当家の屋敷前に放置されてたのを臓顕から強化と罰則を同時に与えられて、激痛に苦しんでる真っ最中。

 

 ウェイバーのライダー陣営は、驚異的な威力の最終宝具を見せつけられはしたものの、アレ程のものを昨日今日と立て続けに使用するのは消耗が激しすぎてマスターの方が保てない。

 一日や二日は魔力補充期間に充てなくては、万全な状態で戦いに臨むなど神代の魔術師だって難しい。少なくとも今日明日に自分の方から攻めてこれる状態ではなくなっている。

 

 

 ・・・・・・こうなると消去法で考えて、今最も攻めやすく、攻めることが可能な相手はアインツベルン城でマスターを弱体化させたランサー陣営こそが最有力候補になるのだが。

 居所が分からないままという点ではライダー陣営と同じで、先手を取れる条件が満たせていないままだった。

 

 今、狙えそうなターゲットの悉くが逃げ延びられてしまっているため、狩人である切嗣はまず獲物の巣穴を探す作業に成功しないと先に駒を進めることが出来なくなったままで放置されてるのがセイバー・オルタたちの現状という構図になっている。

 結果論として、やること無いまま拠点でお留守番しているだけ・・・・・・そんな状態で死闘があった次の朝を迎えていた。

 

 大仕事や一大イベントがあった次の日の朝というものは、空費されたエネルギーと微妙な気分と、昨日の残り物で食事して、料理したい気持ちになりづらい何となく微妙な心地になりやすいもんである。

 今のセイバーたちが、まさにそういう心理状態の典型にあった。

 だからこうして、倉の中で日向ぼっこしながら無駄話をダベって過ごしている。

 

 数年後には、隣で横になって休みながら寝てる女性の夫も、縁側に座ってボンヤリ庭を見ながら過ごすようになる未来に平行世界の一つではなってるらしいし、案外そういう伝統が生じやすい魔術的要素を持った屋敷だったのかもしれない。

 

「あなたにはもう昨日、バレちゃってたみたいだし、隠しても意味のないことだから言っちゃうけど・・・・・・どうやら私、ここに来て色々と問題が出始めちゃってるみたいでね。

 もうこの先は、あなたの隣でサポートを続けるのは――そうね、あと一回ぐらいが限界みたい。

 御免なさいね。不甲斐ないとは思うんだけど、無理をしても、あなたの足手まといになることしか出来なさそうだから・・・・・・」

「気にするな、アイリスフィール。

 自己の果たすべき役割と、ホムンクルスとしての己が持つ肉体限界を把握して最善の道を選ぼうとするお前の選択は、私にとって中々に好ましい。

 自己の感情を満たすためだけを目的として、足手まといになるのを承知で付いてこようとし、味方を死なせる無能もいるのが戦場というものだ。

 それと比べれば、お前は賢明――いや、この場合は『良妻賢母』と称すべきなのだろうな? 実に後方を支える女性として好ましい」

「あなたらしい表現の褒め言葉ね、それ・・・・・・でも確かに、そういう心配だけはホムンクルスには無縁かも」

 

 同情した素振りなど何も見せない暴君なりの労りの言葉に苦笑しつつ、衒いのない笑顔を向けてアイリスフィールは自分たちという存在について、魔術師ではなく錬金術師でもないアーサー王の可能性存在に、こう説明する。

 

「私たちホムンクルスは人間と違って、ちゃんと自分の身体の構造を把握できるよう造られているの。だから、そういう無理をして周囲の負担になる道は自ずから選ばない。

 燃料切れのランプが灯るのを、無理して隠そうとするような自動車があったら、そんなの正真正銘の故障でしょう?」

「ふむ・・・・・・」

 

 短く唸ってセイバーは、相手からの的確なたとえについて少し考え、結論を出す。

 ――よく分からん、と。

 

 考えてみれば当たり前のことで、中世ヨーロッパの紀元元年近い時代に死んでる騎士王アーサーに、燃料が減ってきたらランプで知らせてくれる機能が付いた20世紀マイカーの基本機能について語られても、感覚として・・・・・・まぁ普通に考えて分からんだろう。

 

 セイバー・クラスが与えられてる【騎乗スキル】のおかげで、乗れば何となく動かし方が分かるようになってはいるけど、鞍も手綱もない「飛行機という名の空飛ぶ乗り物」について数日前には全くイメージできてなかった奴に、車の基本知識あること前提の話はさすがに無理。

 

 現代人相手であれば子供でも的確な例えだったが、中世ヨーロッパ人相手には不適切になる時代差がありすぎる例えを使って説明してくるアイリスフィール。

 要するに、それだけ弱っている。ということなのだろうと、セイバー・オルタは解釈して余計なツッコミは黙っておくことにする。

 

 

 ―――余談だが、この世界とは異なる平行世界のどれかにおいて、ナチス・ドイツの力で大聖杯を盗み出させて、ルーマニアで大規模に実行しようとした聖杯戦争に、マスター兼サーヴァントとして参加することになったホムンクルス少年という存在がいた世界があり。

 自分の身体のことを承知で全然止まろうとせず、死ぬ前提で突っ走って壮絶に周囲を巻き込みまくった、昨日消滅したキャスターご執心の救国の聖女と、死ぬ数日前にイチャラブデートしてた事とかあったりするのだが・・・・・・平行世界の出来事である。

 

 

 あくまで平行世界のパラレルワールドで造られたホムンクルスがやってた事なので、コッチの平行世界のホムンクルスと同じに考えてはいけない。

 平行世界とは自由である。プロモデル動かす粒子が異世界から持ち込まれた平行世界では英雄になれそうな人物だったら、そう言ってたかもしれない程度には千差万別。ときどき万別すぎること多いけれども。

 

 ただ、だからこそ。

 この平行世界では、“起こしてもいい”と思える小さな変化が、その世界の内側だけで終始する出来事として発生する場合も希に存在するらしい。

 

「・・・・・・私は、聖杯戦争のために設計されたホムンクルス。それはセイバー、あなたも知っているでしょう? だから聖杯は私にとって、自分自身も同然なの」

「アインツベルンの翁たちから聞かされていた話だな。たしか貴様が、『器の護り手』を務めていると言うことだったが―――ん? いや、待てよ・・・・・・」

 

 アイリスフィールが、“とある理由”で起こした気紛れを実行しようと話を振られ、特に大した意味もなく普通に返答した直後。

 ふと、合理主義者の暴君は、聖杯から与えられていた言語翻訳の機能も合わさって、考えついた部分についての疑問にようやく合点がいったという風な顔で頷きを返す。

 

「・・・たしか当世では、イリヤたちと過ごした城があるゴート族がブリタニアへ攻め寄せるための拠点を築いた地域の言語で、『フィール』は『器』という意味だったはず・・・。

 なるほど、そういう事だったのか。

 ゲルマン地方に居を構える魔術師が造ったホムンクルスの名が、アイリスフィール。娘につけた名もイリヤスフィール。

 母親だけなら偶然という線もあろうが、そういう繋がりに因んだ名付け方であったとはな」

「あらら、言うまでもなくバレちゃったか。タネを明かす前に素人からネタを当てられようにちゃったら、魔術師もそろそろ廃業かしらね? 奇術師にでも転職した方が子供たちに好いてもらえるかも」

 

 会話内容的に重くなりすぎないようにする配慮からか、あえて冗談めかした口調でコロコロ笑いながら感想を付け足すアイリスフィール。

 ・・・・・・とは言え、それは彼女の語る事情が普通に話せば、必要以上に重くなってしまう確率の高い内容だと、彼女自身が思っていることを示す証拠でもある。

 

「あなたが推測した通り、アハトのお爺様から教えられた私の役目、『聖杯を降霊するための依代としての器を管理し運搬する』という説明は、正確には正しくないの。

 前回の聖杯戦争でお爺様は、サーヴァント戦に敗れただけではなく、何より重要な聖杯の『器』まで乱戦の中で破壊されてしまったらしいわ。

 そのせいで3度目の戦争は勝者が決まるより先に、奪い合うべき聖杯が使用できない状態に陥ったことから無効になってしまった・・・・・・そのときの反省を活かして造られた存在、それが私」

「・・・・・・」

「お爺様は前回の失態を繰り返させないため、『器』そのものに生存本能を与え、あらゆる危険を自己回避できるようにした。

 聖杯の完成を成し遂げることを目的として、自己管理能力を備えたヒトガタの包装。

 私とイリヤは、その目的達成のためにのみ造られ、機能するよう初めからデザインされていた、アインツベルンの為の『モノ』でしかない存在」

「・・・・・・・・・」

「だから聖杯戦争が進んで、大詰めの局面に近づくほど、私の身体は本来の役割を果たすため、聖杯を起動するための『器』としての機能が表に出やすくなるよう仕組まれているのよ。

 役割を果たすまで、目的地にたどり着くまで『器』を守ればいいだけの余計な飾りは取り除かれ、管理と運搬に特化したヒトガタとしての機能は破棄されていき、『器』としての機能に特化するよう再調整が自動的に始まっていく作りになっている。

 願望器でしかない聖杯に、自我を持ったままのヒトガタは邪魔になるから・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・・・・」

「だから今の私の不調は、正確には不調ではなく異常でもない。予め決まっていた通りに肉体が機能しているという証拠。

 正常に機能しているからこそ、私というヒトガタの飾りは弱まってきた結果なの。むしろ今まで『ヒト』として機能できていたことの方が、私にとっては奇跡みたいな幸運だったの」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・そのことは承知しているのか? 貴様の夫でもある、マスターは」

 

 ボソリとした口調で胡座をかき、頬杖をつきながら冷たい瞳で見下ろしながら、セイバー・オルタの口から発せられた言葉は、それでも一般的には気遣いに属する短い質問。

 その問いかけにアイリスフィールは「ええ」と、頷く。

 

「本当は、あなたにも知らせないまま無理をした方がいいかな、って迷いもしたんだけどね。大事な戦いを控える身として余計な心配を・・・・・・それも、どうすることも出来ない事柄で心理的負担を課すなんて合理的判断とは言いがたい」

 

 言いながらアイリスフィールは思う。自分自身にあり得たかも知れない可能性――ではなく、相手にあり得た可能性が“起きなかった時”。

 自分が今と同じ選択肢を選んでいただろうか・・・?という、現実的に「そうだった場合の相手」に対する適切で合理的な判断の基準について。

 そして出てくる答えは、語り出す前に達したものと同じ。『否』である。

 

「セイバー、あなたなら――誇り高き騎士王たるアーサー王が黒く染まって暴君となる道を選んでいる今のあなたなら、決して私を憐れんだりしない。きっと私を認めてくれる。

 そう思ったから、今言っておくことに決めたのよ。・・・・・・迷惑だった?」

「・・・・・・・・・」

 

 血色の良くなった顔色で、だが横になったまま微動だにしない姿勢で問われた言葉に、暴君たるセイバー・オルタは無言のまま肩をすくめるだけで答えとして、「パクリ」と残ったハンバーガー最後の一切れを飲み下す。

 そして、

 

「私に、そのような気遣いなど期待するな。臣下が死のうと人々が苦しもうと何も感じなくなる道を選んだ女が、ここにいる私なのだからな」

 

 素っ気ない口調で言い切って見せ、アイリスフィールは心の底から笑みを浮かべる。

 こういうサーヴァントだったからこそ、アイリスフィールは自分の肉体が与えられた役目と枷と、最初から確定している自らの最期を今の時点で話してしまっても大丈夫だと思うことが出来たのだ。

 

 想像するしかないことだが、切嗣が召喚したサーヴァントが名高き騎士道の祖たる高潔なる騎士王アーサーその人だったなら。

 道具として生まれながら、ヒトとして生きて死のうとしている自分の末路を、心の底からの慈しみと愛しさを持って憐れんでくれたのではないだろうか?

 

 自分が人か、ホムンクルスであるかという種族の違いに関係なく、自分という『個人』の人格を肯定し、一人の夫に尽くした女性の命が失われて逝くのを悲しみ、これからも生き続けて欲しかったと。そう心から述べてくれていたかも知れない。

 

 それは優しさであり、間違いなくアイリスフィールに対して最大限の敬意でもあっただろう。

 悪意や否定、見下しといった負の感情は、何一つとして自身に向けられる想いや言葉に込められていない。

 過信や自意識過剰ではなく、アイリスフィールはそう思う。

 

 自らの受難より他者の傷みを苦とする伝説にある通りの騎士王が、衛宮切嗣のサーヴァントとして召喚されていた場合には。

 自身が掴み取ろうとしている勝利と願いの実現は、アイリスフィールを生け贄の犠牲によって叶えられるものだと知ってしまった時にはきっと・・・・・・心からそう思ってくれる人だったのだろう――と。

 

 ただ・・・・・・と思う。

 それらの評価や敬意は、善意ではあるけれど―――自分にとっては“完全否定”でもあるのだ。

 

「私は、自分の生き方と人生に誇りと喜びを抱いている。

 アインツベルンのホムンクルスとして生を受け、切嗣と出会って結ばれて、人形としての生き方以外があるのだと教えてくれた人の夢を実現させるための最重要なパーツとして死んでいける自分という肉体さえ、今の私にとっては福音以外の何者でもないと思えるほどに」

「・・・・・・・・・」

「そりゃあ、普通の人間の女の子として生まれていたなら、切嗣とイリヤと一緒に、ずっと幸せな夫婦として、親子として暮らし続けて、何十年も経って最期の時をどちらかが見送ってから安らかに眠りにつく・・・・・・そんな生き方も出来たかも知れないと思う。それはそれで幸せの形で羨ましく思う気持ちは、私の中に確かにある」

 

 だけど、とアイリスフィールは言う。

 

「だけどそれじゃあ―――切嗣の夢を叶える役に立つことはできない」

 

 そう。それこそがアイリスフィールにとって、自分という造られた存在と与えられた人生と、最初から目的のために捧げられることが定められて、ヒトの形を与えられていただけの紛い物でしかないホムンクルスとしての使命を最期まで全うする生命に。

 

 【人として生まれた以上の価値】を見いだしている理由。その根拠。その全て。

 

 愛する夫の夢を叶えるためには、自分という生け贄が絶対に必要なのだ。他の者では決して代わることは出来ない。

 切嗣を愛して家庭を築ける人間の妻には、人の女として生まれた者なら誰でもなること自体は可能だが、アインツベルンが生み出したアインツベルンの願いを叶えるための願望器を使って、切嗣の夢を叶えてあげられる者は、アインツベルンに造られた生け贄としてのホムンクルス―――この自分だけしか世界中にいないのだから。

 

 愛する人にとって、生涯をかけた最大の夢を叶えるための、最も重要なパーツとなれる唯一の資格を持った存在として、【死ぬこと】ではなく『捧げること』が許されているのは自分一人だけなのである。

 

 これを誇りに思わず、特権だとして他の女たちに誇らず、何を誇りに思うと言うのか?

 アイリスフィールは、そう思うのだ。

 本当に心の底からアイリスフィールは、そう信じている。だから―――

 

 

「アイリスフィール、お前は―――私が思っていたより遠い存在の女だったのだな」

「・・・・・・え?」

 

 傍らに座して見下ろしてくる少女王がボソリと言った言葉に、思わずキョトンとした表情を浮かべてアイリスフィールは戸惑いの表情を浮かべさせられることになる。

 その途端、急に不安が襲ってくる。

 彼女なら分かってくれると思ったからこそ口に出した心情と本音――だが、それは誤りだったのかも知れない。彼女にとって自分はやはり、そういう存在としか思われないものだったのかもしれない。

 

 だとしたら―――これからの戦いにおいて切嗣の勝利のため、自分は重石を架してしまう話を語ってしまったのだろうか・・・・・・

 

 

「私は卑王ヴォーディガーンを討つために、竜より造られた者だったはずの存在だ。

 だがまぁ見ての通り、その使命も白々しいものとなって久しい限りの身の上。ミイラ取りがミイラに、という奴だ。

 ヒトとして生まれ落ちながら、道具としての生き方を貫くため命をも捧げられるマイヤも。

 道具として造られながら、ヒトとして生きた女の末路という結果さえ“良し”と認めて死んで逝こうとしているアイリスフィールも。

 私から見れば非常に遠い、尊敬に値する生き方をできている者たちだ。

 今となっては手遅れの死んだ後の私には、何も言う資格がないこと甚だしいのでハンバーガーのおかわりを持ってくる。あと1ダースぐらい追加で持ってきていれば良かったな」

 

 そう言って立ち上がり、背を向けて食堂の方へと歩み去って行く黒スーツ姿のアーサー王の姿を見送りながら。

 ポカンと口を開けて見ていることしか出来なかったアイリスフィールは、思わず「ぷっ」と吹き出すと、クスクス横になりながら笑い続けることしかできなくなる。笑うしかない。それ以外にいったい自分になにが出来るというのだろう?

 

「クスクスクス♪ あー、お腹痛い。・・・まったく、つくづく出会った時からコッチの考えてることとは違うことしか言ってくれない王様なんだから。

 『憐れまない』と思っていた相手に、『尊敬する』なんて普通言う? まったく、私の騎士様は最期まで乙女心を弄んでくれそうで結構なことで。うふふ・・・♪」

 

 

 

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