もしも切嗣が喚んだセイバーがオルタ化してたら   作:ひきがやもとまち

45 / 49
ランサー戦とセットで前後編で投稿したいと思ってたのですけど……色々と思うところがあり、とりあえず更新をば。


ACT36

 

 ――血のように赤く、紅い夕暮れの日差しがステンドグラスから差し込む中。

 昼間が終わり、夜が迫っていた、光と影が交差する逢魔が時。

 古くから『魔』が人の世に入り込む時間帯として、この国でも人の世と魔の理が交わるとされていた刻限の中。

 

「不肖、この遠阪時臣の招待に応じていただき、まずは感謝の言葉もない」

 

 暮れなずむ冬木教会において、遠阪家から示された会見の申し入れを結局アイリスィールたちは受けることになり、夜になる寸前の時刻に教会の中へと招き入れられていた。

 何のかんの言っても戦局が硬直状態にあるのは事実だったし、敵が複数いる状況下での同盟は本来なら当たり前に執るべき手段でもある。

 

 遠阪は遠阪でアサシンに集めさせた情報を、やや使いあぐねている面があり、このさい交渉材料として使い捨てる道を選びたい思惑を持ってもいた。

 

 綺礼に命じてアサシンに収集させた情報を軸に、時臣は全てのマスター達に対して必勝の戦略を練り終えていたのだが・・・・・・逆に言えば彼にとって情報の使い道は既になくなってしまった後になってしまって、『敵の居場所を自分だけが知っている』けど『自分にとってだけ全く役に立たないゴミ情報』という、なんか微妙な立場になってしまっていたので、このさい誰かに提供して他のマスター駆逐に使ってくれた方がリサイクルできて良かったのである。

 

「此度の聖杯戦争も、いよいよ大詰めの局面となってきた。

 我々としては当然ながら、最終的には『御三家』のみに絞り込まれた最終戦で聖杯の帰趨を決したいところではある。

 だが残念なことに今回の間桐は戦略を誤った。そこで此度の会見をおこなう流れと相成ったわけだが・・・・・・」

 

 かつては同盟相手であり、いっときは互いに聖杯を狙って競い合う相手でもあったが、10年後には義理の息子が実の娘の弟子みたいな立場になる衛宮家が婿入りしたアインベルンと遠阪との会見は、穏やかなムードの中で進んでいた。

 

 魔術師同士による魔術からみの話は『夜にすべきもの』という暗黙の了解によって、列席者を限定して密閉空間で交わされる前提なのに、わざわざ深夜まで待ってから始められた会見だったのだが・・・・・・やはり、そこは志を同じくし合った過去を持つ家柄同士。

 始まった当初から両家の代表は友好的な態度と言葉を欠かすことなく、礼儀正しい対応によって相手との交渉は進められていく。

 

 たとえば、そう。具体的には――

 

 

「未だ残っているマスターたちは案の定、『始まりの御三家』のマスターたちと、飛び入りの外様が二人。――アインツベルンの各方は、この戦局をどうお考えか?」

「別段、何とも。我らは最強のセイバーを統べるが故に、姑息に機を窺う必要もなく、当たり前に勝つだけのこと」

 

「既にアインツベルンが願うのは、第三魔法の成就そのものに尽きるはず。

 ならば今なお『根源』を目指す、この遠阪時臣に聖杯を託せば充分に本意に沿うはずだが?」

「トオサカは物乞いの真似事までして、我らから聖杯を奪いたいと?」

「フッ・・・・・・聞き手の品性を疑いたくなる解釈だが、まぁ置いておこう。問題とすべき脅威は、その程度の些事ではないからな」

 

 

 ――という様な、言っても相手が聞き入れるとは発言者自身も思ってなさそうな、見下しと罵倒の言葉でブン殴り合った上で、『自分の方に協力するのが正しい正論。邪魔する方がエゴの邪道』という一方的な主張を互いに延べ合う。

 

 こういう会見の場面では誰やるのが定番で、時間の無駄じゃねぇか?と第三者的には誰もが思うけど、誰でもやってから本題入るのがルールか伝統化している『敵対勢力同士で会見するときの社交マナー』を両者共にキチンと守り合ってから本命の要望を伝え合う。

 

 それぐらいに仲良く友好的な、互いに礼儀を守り合って会見に臨む辺りは、流石に元同盟相手の御三家同士としか言いようがなかった。

 この手の場面では、定番の罵り合いやら一方的な要求を述べない奴こそ、腹に一物もった腹黒なヤツなのが謀略陰謀歴史劇の定番というもの。

 

 そーいう意味では互いに仲良く礼儀正しく、ルールを守って罵り合ってから会見はじめた遠阪家とアインツベルン家はルール無視し合わない仲良し同士な名門友達と言えなくもなし。

 解釈とか見解の相違とか色々ありそーな説だけど、黒く染まった合理主義者な暴君オルタ的にはそう思う。時臣の後ろに控えてる裏切り大好き神父も賛成してくれるかも知れない。

 

「もとより我らアインツベルンは他家と馴れ合うつもりなどなく、同盟など笑止千万。

 ――ただし、敵への対処に順列をつけてほしいと言うなら、そちらの誠意次第で一考してもいいでしょう」

「・・・・・・つまり?」

「トオサカを敵対者として見なすのは、他のマスターを倒した後――そういう約定なら応じる用意もあります」

「条件付きの休戦協定、か。落としどころとしては妥当だな。して、其方が望む条件とは如何に?」

「こちらの条件は2つ」

 

 交渉の主導権を取ろうとする場合の常套手段として、居丈高に傲慢な口調で高飛車に、アイリスフィールは自分たちが求める条件を切り出す。

 言葉で、その場における上位性を確保しようという手法は、古い時代の古代から現代も続いてる手法の一つである。

 

 当世における今いる国では『正論で言い負かすのは愚か』という発想が流行り始めているという話題を、政治関連のエコノミなんとか言う本で読んで知っていたセイバー・オルタであるが、結局は『正論で言い負かす者は愚か者“という正論”』によって言い負かす文化に言い方変わっただけのようにも見えなくもなく。

 

 その点では現在の会見も似たようなものかも知れなかったけど、まぁいいかとオルタは割り切る。

 どの道、結果を見てから自らの進む道を決めるべき場面なのだから――という理由で。

 

「まず第一に、ライダーとランサー、そのマスター達について、そちらが掴んでいる情報をすべて開示すること」

「・・・・・・いいだろう。綺礼、お伝えしなさい」

「――はっ」

 

 僅かに沈思黙考した後、時臣は最初に紹介してから無言を貫き通していた傍らに無言で控えていた直弟子に向かって命令し、綺礼は言葉少なに説明を始める。

 その挙措や仕草、言動に、自分がアインツベルン邸を襲撃してアイリフィールたちに何をしたか、一方で報復としてセイバー・オルタからされた事などへ思うところは何も見出せず、謝罪もなければ恨み言もなし。

 

 時臣は時臣で平然としたまま、彼がやったことについての説明もなければ謝罪もなく泰然自若としたままである。

 その態度は、同盟話を持ちかけた相手に何かやらかした相手という視点で考えた場合には信頼感を損なうこと甚だしいものでもあったが、そもそも知っててやってる事かどうかが今市よく分からない。

 

 ――やはり綺礼個人が、独断で仕掛けた行動だったのかも知れない・・・。

 

 とアイリスフィールは相対してる敵手達の反応の違いから、その可能性が高いことを感じ取っていた。

 それは“あの切嗣”が警戒する相手が飼い犬に甘んじるとは思えなかったからでもあったし、会見が始まる前にセイバーから告げられた『忠告』を自分なりに実行してみようと努力した結果でもあった。

 

 いずれにしろ、綺礼の側で気にすべき理由は何一つない。

 淡々と師に命じられた通りの情報を伝えるのみ。

 

「ライダーのマスターは、ケイネスの門下にいた見習い魔術師で、名前はウェイバー・ベルベット。現在は深山町中越二丁目のマッケンジーという一般人の老夫婦に催眠術をかけて寄生している。

 ランサーのマスター、ケイネス・エルメロイは新都区域から東へ入った郊外に建つ、廃工場を仮の拠点としたまま動こうとしていない」

 

 すらすらと淀みなく教える側の綺礼に対し、情報を教えられた側のアイリスフィールと舞弥は息を飲む。アサシンを召喚した綺礼を擁する遠阪陣営の諜報作戦に、あらためて戦慄せずにはいられなかった。

 

 ――だがアインツベルン勢の中で、セイバー・オルタだけは綺礼から聞いた話を別の方向で解釈していた。

 遠阪達は、これほどの情報を早期に入手していながら、今の今までライダーとランサーのマスターたちに対してアサシンによる暗殺をろくに仕掛けたことが一度もなかった事実を、この情報は示すものでもある。

 

 また、今になって情報を隠すことなく提供するのは、集めた情報に隠す価値がなくなったと判断されたからで、セイバー陣営がランサーとライダーを葬ってくれるなら楽だという計算によるものでもあったろうが・・・・・・これも逆に言えば、今まで集めた敵情報を『敵の討伐に活かせなかったから無価値として残った』という側面があるのだ。

 

(・・・当初の作戦に固執し過ぎたのか、それとも戦い方への拘り故か。

 いずれにしろ、乱世には向きそうにない男だな)

 

 というのがセイバーから見た時臣評(心の中の呟きだけバージョン)

 そう思っていたところへアイリスフィールから、続く言葉が聞こえてくる。

 

「第二の要求は――言峰綺礼を、聖杯戦争から排除すること」

 

 この発言内容には、流石のセイバー・オルタも瞳を見開いてアイリスフィールの姿を瞠目して見つめずにはいられなかった。

 ――あまり有効手とは思えなかったからである。

 

「・・・・・・理由を説明してもらえるかね?」

「そこの代行者は、我々アインツベルンと少なからず遺恨があります。トオサカの陣営が彼を擁して庇い立てするのであれば、我々は金輪際其方を信用することはできない。むしろ最優先の排除対象と見なし、ライダーたちと協力してでも攻撃に転じます」

「・・・・・・・・・どういう事かね? 綺礼」

「・・・・・・・・・」

 

 疑惑ありげな視線で直弟子を振り返った師匠に、沈黙を貫くだけの教え子。

 結局、同盟を持ちかけた側が身内に知らされてなかったヤラカシがあったことが負い目となって、遠阪陣営は綺礼の排除を受け入れざるを得なくなる。

 命まで奪うことは不可能としても、今次聖杯戦争が決着するまで聖堂教会本部がある外国へと帰還してもらうという形で決着する。

 

 それでも尚、夫と強敵との衝突を恐れるアイリスフィールとしては満足のいく結果であった。

 もっとも、その代償としてコチラも条件を飲む必要が出てこざるを得なくもなったが。

 

「――致し方あるまい。だが、その条件を容れる代わりに、こちらからも一つ条件がある。

 先日の戦いで見せてもらった、そちらのセイバーの宝具は、あまりに威力が高すぎる。冬木の地を預かるセカンド・オーナーとして看過できない。今後は使用に制限を課したい」

「何故トオサカが我々の戦略に口を挟む? 昨日の戦いでセイバーの宝具が近隣私設に被害を与えましたか?」

「幸いながら最小限ではあったがね。射線上に大型船舶があったおかげで、河岸の民家が一掃されることはなかった。ただし、その船は亡き璃正神父が手配して配置させたものでもあったが。

 聖杯戦争を継続するためにも、これは必要な処置だと思うが如何に?」

「・・・・・・・・・」

 

 そう言い返されてしまうと、アイリスフィールや舞弥としても反論の余地がない。

 前回の聖杯戦争では、戦いの中で起きた異常事態で有耶無耶になって中断した、という苦いヤラカシを経験したばかりでもあるのが第四次聖杯戦争なのである。

 

 しかも、ここで今次戦争が中断した場合、次の開催は通常通りなら『50年後』

 ・・・・・・当然ながらアイリスフィールは生きていないし、切嗣でさえ怪しいところ。それどころか娘のイリヤでさえ存命してるか否か・・・・・・ホムンクルスだから寿命短い。

 

 結局この条件は、アインツベルンの方こそ飲む以外に選択肢がなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 日もとっぷり暮れて夜になり、アイリスフィールたちは車とバイクに別れて帰宅するため、冬木教会前の駐車スペースに止めてあった移動手段に乗り込んで、タイヤの音だけ響かせながら夜の帳の中を進んでいく。

 

 交換条件の徹底として、綺礼の追放を翌朝には即座に、確実に実行することだけは確約させて、たった一点の予定外だった妥協以外は満足のいく交渉となった会見を終えて、アイリスフィールたちは武家屋敷を改築した新たな拠点へと帰宅していく、その途上で。

 

「ふう・・・ぅ・・・・・・」

「・・・・・・マダム?」

 

 車内で運転手役を務めていた舞弥は、急に自らの肩に寄りかかってきたアイリスフィールの行動をいぶかしんで声をかける。

 最初は破天荒な言動が目立つ、この美しすぎる世間知らずな貴婦人らしい突飛な行動――その一種かとも思ったのだが、様子がおかしい。

 吹き出す汗の量が異常で、顔色も悪く、息も荒い。

 とうてい健常者の肉体が示す反応とは思えなかったが、

 

「ごめん・・・ね・・・・・・セイバーにはもう、バラしちゃった後なんだけど・・・・・・これは異常ではないのよ、コレは・・・私は聖杯戦争のために設計されたホムンクルスという話は、知っているわね・・・?」

 

 そうして明かされた彼女の抱えてきた肉体に付与されている真実は、舞弥をして驚愕するに足る内容だった。

 その見た目や性格からは想像もつかないほどの過酷すぎるほど過酷な真相に、舞弥は心の底から深く『共感』した。

 

 だが、『同情』だけは感じる気には微塵もなれなかった。

 自分はそこまで『ヒト』として、大層な生き方ができてきたという意識は舞弥はまるで持てなかったからである。

 

 

 ――同情や哀れみ、俗に「可哀想」といった言葉は、ある種の人間達にとっては最大限の『侮辱と見下しの言葉』になりえるものであることを彼女は身にしみて知っている。

 

 「お前は可哀想な人間なんだよ」「アンタは哀れな生き物なんだよ」――と他人から言われて喜べる人間というのは、果たしているだろうか?

 

 まして、そう言われるような生き方を自ら選んで進んできた自分“たち”のような者にとって、それは今まで過ごしてきた時間と努力と成果を完全否定されたに等しい。

 

 やってきたことの全てが無意味で無価値な『可哀想なだけの人生』と切って捨てられ、ゴミのように路傍へと捨て去られて『悲劇的な生い立ち“だけ”』しか評価されない・・・・・・そんな立場にされることを誰が喜ぶ? 誰が尊ぶ? 舞弥はそう思う。

 

 だから舞弥は、アイリスフィールが抱える肉体の真実を聞かされても『共感する』だけで『同情』はせず。

 セイバー・オルタは、与えられた役目を全うすることを誇りとして生き抜こうとするアイリスフィールに『階級社会の専制国家を統べた王』として『敬意』だけを感じたのだ。

 

 

 

 もし、切嗣が召喚していたのが理想の王として騎士道を体現しながら、自らは『国を動かすための歯車でよい』とした青い方のアーサー王だったら、そうはならなかった解釈。

 

 自分自身は『他人のためのパーツ』で良く、『パーツとして生きた自らの人生と誇りを汚すことは許さない』としながらも、他人が自分と同じように生きているのを見ると同情を示して『非道い、哀れだ』と心からの嘆きを見せる騎士王様は・・・・・・確かに理想的な絵物語の名君だったかも知れないが・・・・・・

 

 同時にヒドく歪で、ウソと欺瞞に満ちあふれた、中身のない空洞のような存在だったのかも知れない。

 

 『理想の王“という役”を演じる人生』に一生の全てを費やした己の生涯を否定されることを許すことができず。

 『名君の役を演じる役者』としての人生を肯定し、『役者を選んだ者が人選ミスをしただけ』と選び直しを求めることで、『自分は何も間違いを犯していない』と間接的に主張したがる。

 

 そんな歪さと欺瞞を抱えた存在を、衛宮切嗣が召喚してしまっていた平行世界のアイリスフィールなら、あるいは―――その時だった。

 

 

 コンコン、と。

 窓のフロントガラスを叩く音がして、舞弥はハッとなって外を見る。

 

「・・・・・・セイバー?」

「マイヤ。アイリスフィールの状態は、一先ず落ち着きはしたようで何よりだな」

 

 運転席の車窓を開けた先に話しかけてきたのは、バイクに跨がった格好のダークスーツをまとったセイバー・オルタだった。

 彼女は進行方向上の安全を確保しながら進むため、アイリスフィールたちが乗っている車より少しだけ先行して付かず離れずの距離を維持し続けながら進んできていたのだが、途中で速度を緩めて車と併走しながら話しかけてきたらしい。

 

 深夜の路上で、他に走っている車の姿はなく、だが今の拠点である武家屋敷がある辺りは住宅地になっているため、ある程度は距離がある間に話しておけることは話しておこうと考えたらしき合理主義者の暴君様は、メンドーな社交辞令は抜きにして単刀直入に要件だけを問うてくる。

 

「少し話したいことがあったのでな。先程の会見だが、マイヤはどう思ったか? 意見を聞いておきたい」

「意見、と言われましても・・・・・・」

 

 いきなりの質問に、舞弥としては困惑するしかない。

 アイリスフィールもまた、自らの体内に埋め込んでいた《聖剣の鞘》による治癒能力が、多少なりともラインを残してくれているおかげで、セイバーとの距離が近づいてくれれば状態はある程度まで“巻き戻せる”のが現時点での段階であり、考えられるようになった頭で彼女と一緒に悩むしかない。

 

 切嗣に拾われ、切嗣のための道具としてだけ生きれば良いとしか考えてこなかった女性と、道具として産まれて途中までは道具として生きてきた令嬢に、そういった個人的見解を求められても困るのだが・・・・・・セイバー・オルタとしてもそれでは困る――かもしれない事態になるかも知れない恐れがあった。だから聞きに来ているのだから。

 

「ふむ、言葉が適切ではなかったかもしれんな。では言い直そう。

 あの会見の結果に、“コトミネキレイは大人しく従う”と思うか?

 私には、どーもそういう手合いとは思えなかったのだがな・・・・・・」

「!! 言峰・・・綺礼・・・・・・っ」

 

 その名を出されたことは、舞弥にとって確かに強烈な効果を及ぼすものだった。

 事が切嗣にとって重要事に関わる問題という話題に関しては、彼女もアイリスフィールもそれなりに自分たち独自の推測と行動計画を考えて、独自に動き出すことがあるのはインツベルン城での一件で証明されている。

 その際には結局かんがばしい成果が出せなかった出来事でもあるが・・・・・・当時と今とでは状況が異なる。

 

 もはやアイリスフィールに当時と同じ自衛能力は期待できず、敵の手駒に斥候のサーヴァントはなく、アインツベルン城という戦場でもなければ、聖杯戦争決着よりほど遠い序盤戦の時期ですらない。

 

 何もかも変化した現在の情勢下において、厄介極まる敵の動向についての分析と予測をしてみる行為は必ずしも無駄にはなるまい・・・・・・そう舞弥もアイリスフィールも心の中で言い訳して、独自の思考と分析をおこない始める。

 

「そうだ。何というかこう――最後の出陣前に自称バカ息子が、妙に大人しく本国の守りを引き受けたときのような、イノシシらしくない静けさというか、本心を隠したがってる時ほど忠義面したがる逆賊臭さと言うべきなのか・・・・・・なんかそんな《直感スキル》的な理由によって」

 

 ただし、疑う理由はヒドかったけれども。

 ヒドい理由だけど、実績持ちによる正統な根拠にもなってはいるけれども。

 過去に死んだ英雄の魂をコピーした偽物を召喚して戦わせ合う、聖杯戦争だからこそ起きえる現実の人間では整合性取れない理論によって、セイバー・オルタは二人の美女達に真剣に考えざるを得ない『外れた時にはカムランの丘かもしれない問題』に直面させて悩まさせることに成功したのだった。

 

 ・・・・・・とはいえ、「必要だからやれ」と言われて即座に出来るようになるなら、人に反復練習や訓練など必要ない時代に現代はなっていることでもある。

 今までろくにやってこなかった者達が、いきなりやって成果が出せるというものでもなく、ぶっちゃけセイバー・オルタ的にもそこまで大して期待してもいなかったりするし。

 

 

「・・・ですが・・・そう、言われましても・・・・・・」

「そう・・・なのよね・・・・・・キレイには、そもそも、聖杯を手にできる理由がすでに、ない・・・・・・し・・・・・・」

 

 二人の美女はそろって首をかしげてしまう。

 綺礼を危険視している彼女たち2人であるが、一方で今の綺礼が『聖杯を得られる手段』という点については、正解を導き出すことが出来ている訳ではない。

 

 なにしろ、アサシン全滅のときに綺礼の令呪は確実に消滅しているはずなのだ。

 聖杯を求めて召喚に応じたサーヴァントを、あのような形で使い捨てたマスターを残っているアサシンが許すはずがない以上、彼は令呪を全て失うつもりで特攻を命じるより他に生き残れる手段がない。

 今も綺礼が生き続けている事実こそが、彼の手に令呪が既にないという証拠になる。そのはずだ。―――よほどの例外事項が起きない限りは絶対に・・・・・・。

 

「令呪がなければ、聖杯は得ようがない・・・。仮に他すべてのマスターとサーヴァントを刈り尽くして顕現させることは出来たとしても、手に入れて願いを叶えるには他のマスターの誰かと結託する必要があります。その可能性が一番高いかと」

「そうね・・・使われずに終わった令呪が、他のマスターに宿ることも理論上ではありえることだけど・・・・・・でも、その際の序列は御三家を筆頭に近しい者が選ばれる仕組みになっているし・・・・・・。

 外様で、しかも魔術師ですらない聖堂教会からの出向してきた代行者に蘇らせてあげる理由が・・・・・・な―――」

 

 そこまで言った時だった。

 アイリスフィールはふと、昔聞かされた聖杯戦争におけるルールの一つを思い出し、その可能性に思い当たって、動かぬ身体を思わず身動きさせてしまう。

 

 

「ある・・・・・・あるわ。あるわよ今のコトミネキレイには未使用の令呪が! それも大量に!

 アハトお爺さまから聞いたことがあるの! 過去の聖杯戦争で敗れたマスターたちの未使用だった令呪は、監督役の神父が預かって保管しておくってルールになってたはず!

 だとしたら・・・もし、コトミネキレイが死んだ璃正神父の跡を継いで、地位を継承している場合・・・・・・過去に使われず終いだったマスターたちの令呪が、キレイは全部を未使用状態で受け継げてるって事になって・・・・・・っ」

「なんですって!? ですが、マダムっ。それほどの数の令呪を、預かって継承しているだけが役割のはずな聖堂教会の監督役でも、マスターに選ばれていたはずの場合は使用可能になる、と言うことですか!?」

「え? い、いやえっと・・・・・・そういう事例は過去になかったから、ちょっと私にも分からないんだけど・・・・・・」

 

 そしてシリアス顔の舞弥に問い詰められて、しどろもどろになるしかないアイリスフィール。

 彼女としては本当に知らないのでどーしようもないし分からない。

 教会側の代行者がマスターに選ばれたこと事態が初めての出来事で、そんな立場のヤツが監督役の地位と顕現まで継承できてしまうなんて誰も想像していなかったわけだから、そうなった時にはどーなるかなんて誰も分かる事なんて出来るわけがなし。

 

 なんか、どっかの国で過去に起きた、王位継承で制度の不備が問題になってメッチャ混乱しまくって大乱に至ってた出来事を連想しちゃいそうな状況ですね。

 理想の王様の国の、お隣さんの国ですが。自分の国も未来の王が介入しちゃってますが。

 最終的には、この前倒したギョロ目元帥やら、救国のKYとかが暴れまくって、アーサー王の国の王様を殺すまで言って終結してる大乱でしたが。

 

 やっぱり海の向こうの夷国は、騎士道の祖である理想の王様にとって敵でしかなし。

 自分の物語で一番有名なの書いたのも同じ国の夷国人ですが、それでも理想のアーサー王にとっては敵国人。悲しい現実だった。

 

 

「い、いえちょっと待って! コトミネキレイには聖杯戦争から排除することを、私たちは今さっきトオサカに約束させたばかりなんだから!

 なら・・・・・・大丈夫よ・・・トオサカだって愚かではないわ・・・・・・この状況下で私たちとの約束を反故にしても、残る他の陣営を有利にするだけで、得がないことは熟知して―――」

 

「そうだな。我らはトオサカとの盟約を交わし合って、確実な履行を約するだけのメリット・デメリットを示してもいる。

 ・・・・・・トオサカと交わした盟約だ。コトミネが守るとは一言も言ってなかった気がする約束でもあるが・・・・・・」

 

「ああぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッ!!??」

 

 

 

 土壇場になって、色々と可能性が急浮上しまくってきてしまった、衛宮切嗣が召喚したアーサー王が、黒く染まって勝つために手段選ばん合理主義に躊躇いなくなってる暴君だった場合に起きえる平行世界の第四次聖杯戦争。

 

 そんな腹ぺこ暴君が今になって明かしたカミングアウトで混乱に陥りまくる中。

 舞弥が服の中にもっていた携帯電話が鳴り響き、忍ばせていた通信機をとおして離れた場所で、会見の中で語られていた情報を知ることができていた“マスター”から緊急の新たな指令が届けられることになる。

 

 

 

『舞弥か。今からセイバーたちと共に新都外れの廃工場とやらへ向かってくれ。彼女たちは途中で降ろし、僕と合流してもらう。

 今日中に、ランサーとマスターたちには完全に敗退してもらおう』

 

 

 

つづく

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。