もしも切嗣が喚んだセイバーがオルタ化してたら 作:ひきがやもとまち
最近、深夜に書くのが精神的にキツクなってきてる体力なきインドア作者です。
「トオサカの情報によれば、この道を真っ直ぐ進めば左手に廃工場が見えてくるはずよ。そこがランサーたちの拠点らしいそうだから」
「イエス・マム」
助手席に座って指示を出してくるアイリスフィールに、騎士らしいのか執事っぽいのか、はたまた『メイドの返事とはこういうものだ』とか考えているかもしれない返事の仕方をしながら、セイバー・オルタが運転する車は新都区画を東へ外れ、いつしか人気のない郊外へ続く道へと分け入っていく。
――遠阪から得たばかりの情報によって判明した、ランサーたちの拠点を襲撃するためである。
会見がおこなわれた即日の内に、まだ夜が明け切る前の時点で、ランサー勢力との決着を即座につけにいくよう衛宮切嗣が指示を下したのには理由があった。
彼は会見の間中も、舞弥にもたせた腕時計型の高性能な通信機器を使って、外部にいながら室内での会話内容を盗み聞きしていた。
そしてそれは、車内で交わされた予期せぬ妻と愛人との密談さえ例外ではなかった訳である――。
普通の生活している一般的男性や、未来の自分が養子にしてる少年だったら居心地悪すぎて仕方ない、間男のようなポジションで盗み聴く羽目になっちまった会話の内容を、切嗣は私情を挟まず冷徹に使命を果たす魔術師殺しとしての鉄面皮で聞き流していた。
第三者視点だと間の抜けた構図になってたシーンだったかもしれないが、ラストで口を挟んできたセイバー・オルタからの警告だけは無視できない戦略的要素を含んでおり、彼としては行動を急がざるを得なかったのが、その理由だった。
――アイリスフィールの話によれば、言峰綺礼には現時点で既にマスター権と令呪が戻っている可能性があり、あの『危険なヤツ』に令呪だけでなくサーヴァントまで手中に戻るより先に決着を急ぐ必要性が、彼としては出てこざるを得なくない。
マスターを倒してもサーヴァントが残っていれば、『はぐれサーヴァントとの再契約』という形で敗者復活されてしまう危険性がある。
それを確実に防いで敵を倒すには、マスターとサーヴァントを同時に始末することが必須だろう。
無論できることなら、綺礼が最も自分のサーヴァントを手に入れやすい位置にいる遠阪のアーチャーを先に始末するのが最善だが、そのための手段が切嗣にはない。
彼には切り札として、隣町の貸倉庫に遠隔操作仕様に改造したタンクローリーを用意してあり、いざという時には安価な巡航ミサイルもどきとして遠阪邸に特攻させて自爆させて仕留める――という手も魔術師殺し的にはありなのだが、アーチャーに迎撃可能な宝具があるかないかという不確定要素が残ってしまう。
(・・・いっそ、遠阪時臣に言峰綺礼の謀反を密告して内部分裂させるというのも一つの手だが・・・・・・)
そんな手まで考えたほどだった。
が、結局は確実に仕留められそうなランサー陣営の完全な脱落こそが、今の時点では最善手という結論に達して今に至る。
下手に綺礼が令呪を回復している可能性があることを遠阪に知らせれば、他のマスターを殺して自陣営の回復を優先する危険性が招じかねない。
現に昨日まで敵同士だったアインツベルンに同盟を持ちかけてきたばかりなのだ。
もとは同じ御三家とは言え、袂を分かって久しい家系より手駒の直弟子が強力なサーヴァントを回復できるなら、アインツベルンと交わした約定など即日の内に破棄して後ろから討ちに来かねない。
――尚、ライダー陣営ことウェイバー・ベルベットは情報聞いた直後に切嗣がマッケンジー老夫妻宅のもとへ向かった時には不在となっており、『逃げられた』と判断してコッチに方針転換した直後に帰宅してきて、サーヴァントの魔力回復に当てた一日を平和に終えていたりする次第。つくづく変なところで運が良すぎる少年だった。
まっ、それは置いておくとして、セイバー・オルタたちに自分たちの居場所を察知され、遂に討伐に赴かれる立場になってしまったランサー・ソラウ陣営はと言えば。
それは彼女にとって、愛する美貌の騎士と過ごす日々の終わりという・・・・・・“ハッピーEND”の到来を意味するものでもあった――。
「この――無能めがッ! 口先だけの役立たずめがッ!!」
主からの激しい罵倒の応酬に、ランサーはただ悄然と頭を垂れて恥じ入り、甘んじて叱責を受けるより他になかった。
「ただのいっとき、女一人の身を守ることもままならぬとは度し難いにも程がある!
一時の代替とは言え、ソラウは紛れもなく貴様のマスターだったのだろうが!
それを守り仰せることすら叶わんで一体なんのためのサーヴァントか!? 騎士道が聞いて呆れるわ!! この英雄気取りなだけの不忠者めがッ!!」
「・・・・・・面目次第も・・・ありませぬ・・・・・・っ」
持ち前の美貌を悲痛に歪ませている彼もまた、痛恨の成り行きに切歯している。
跪いて面を伏せたまま、ランサーが双肩を激しく震わせ、己の失態による弁明しようのない窮状に声もなく、ただ主からの嘲りと叱責の言葉を黙って受け入れるより他にない。
だが、しかし。
「ハッ、白々しいことを! 貴様の間男ぶりは伝説にまで名を馳せる有様だったからな。主君の一門とあっては、色目を使わずにはいられない性なのか?
フンッ、勘に障ったか? 怒りに耐えぬか? 何となれば私に牙を剥くつもりか?
身の程を知りたまえベルベット~、ウェイバ~くぅ~~~ん」
「――主! ケイネス殿! 何故・・・・・・何故この段になっても、まだ分かってくださらないのか・・・・・・っ!!」
・・・・・・頭変になって久しいケイネス・エルメロイ・アーチボルトという、ランサーが忠誠誓ったままの主が、どっかに向かって言ってる罵倒に対してだったんだけれども。
ディルムッドにとって、召喚に応じて参戦した第四次聖杯戦争において、忠誠を誓った主君と呼ぶべき対象は、ケイネス・エルメロイ只一人。
相手がどうあれ、一度誓った主従の誓いを貫き通してこそ騎士の道。
いやむしろ窮状に陥り、他の同胞たちが去っていった後も一人残り続けて守り続ける方こそ、騎士の道。忠義を貫く騎士道物語の王道中の王道というものだろう。
その道を貫くに当たっては、現界するための魔力の供給元も、令呪の有無も関係ない。
たとえ負傷して頭変になって、自分に向かって言ってるのか、別の誰かに語ってんのかサッパリ分からなくなってる言葉であろうと、主君の言葉であれば頭を垂れて受け入れるのみ。
・・・・・・史実でもたまにいるが、年老いて痴呆になったっぽい老君の命令にも律儀に従い続ける忠義の士をリアルな風景として見た時には、こういう光景になるのかもしれなかった。
綺麗に見える騎士道物語を現実にやると、ホントは汚い云々以前にアホウらしく見える場合もたまにはある。
「身の程を知れよ傀儡めッ。そうとも所詮貴様はサーヴァント! 魔術の技で現身を得たというだけの影ではないか! 貴様の語る誇りなど亡者の世迷い言でしかない。あまつさえ主に対して説法するなど烏滸がましいにも程がある!
悔しいと思うなら、その大層な誇りとやらで我が魔術に抗ってみせるが、諸葛ウェイバ~くぅ~ん。
その意地も矜持も、貴様という傀儡のカラクリの正体よデミ・ウェイバ~亮くぅ~ん」
しかも遂に、時間軸や平行世界の壁をも越えて、今の世界には存在しないし未来においても現れないままの可能性高いナニカの幻覚まで見え始めてきたらしい。
このままだと、刻も距離も超えて心を飛ばせる能力にまで覚醒して、新たな環境に適応した人類にまで進化するのも遠くないかもしれない可能性も0ではない、かもしれない。
未来の戦争で一騎打ちが主力として復活した中、同じような状態になった英雄少年いた平行世界もあるにはある。
「・・・・・・ケイネス・・・殿・・・・・・! 私はただ、ただひとえに誇りを全うしたいだけのこと! 貴方と共に誉れある戦いに最後まで臨みたかった!・・・ただ、それだけなのです・・・・・・。
その騎士の心胆だけは、どうかご理解頂きたかった・・・・・・ッ」
そして、そんなのにも律儀に己の想いと奉答を返すディルムッド。
しかも彼にとって、この言動は必ずしも矛盾するものにならないところが余計に厄介だったランサー主従(真)
――と言うのもディルムッドにとって、聖杯戦争の召喚に応じた理由は、生前に選び得なかった『騎士として主君に尽くす忠義の道』を貫き通すことだ。
グラニア姫の一途な想いに応えるため、主に背く道を選んだ人生に後悔はない。ただ一度きりの過ぎてしまった人生を否定はすまい。
だが、『主君に忠義を尽くす騎士としての本懐に生きる道』を、同じくらい選びたかったのも事実だった。
同等に魅力的な道を、どちらか一方だけしか選べない人生だったからこそ、彼は片方を選んで進んで、選んだ道を後悔しなかっただけのこと。
選ばなかった道だから、選んだ道より価値が低いことになる訳ではない。同等であり等価値の道だった。
だからこそ、もし二度目の人生が与えられる機会があったなら。
生前に選んだ道とは異なる、もう一つの道を選んだ場合の人生も歩んでみたい―――そんな悲願をディルムッドに宿すことになる。
つまりは仮に、ケイネスの弟子が未来で大成した後に趣味とする娯楽の用語を用いて、当世風に言うなれば。
ディルムッドの悲願は、『2周目プレイで1周目とは別ルートを選ぶ』になるのだろう多分だが。
そういう視点で考えるなら、ケイネスが正気だった頃にランサーへと示し続けた疑心と不信は、あながち間違ったものでもなかったとも言える。
ランサーにとっての勝利は、『騎士として忠義の道を貫く悲願』を成就するための“手段”であって“目的”ではない。
無論、戦いに勝って主に栄光を持ち帰れるなら一番よいが、騎士道を全うする道を全力で貫き通した結果として、力及ばず敗退するなら『致し方なし』と満足の中で消滅できてしまえるのが、英霊ディルムッドが抱いた願いの“カタチ”
聖杯は欲しいし、戦いにも勝って生還したかったケイネスとは、当初から微妙に戦う理由と目的が合っていなかったのが彼ら主従だったのだから。
・・・・・・最初から実は相性悪い者同士だったという事実に、ケイネスが気づく前に頭変になったのは、彼にとって不幸だったのか否か・・・。
そして今一人、家臣と微妙に合ってない主君がここにいる。
「ああ・・・ディルムッド・・・・・・っ。
あんな傀儡同然のガラクタ状態なケイネスになっても尚、忠義を尽くし続けるストイックな貴方が・・・・・・ス・テ・キ・・・♡♡」
壁の影から顔と上半身の一部だけ「ソッ」と出し、頬をかすかに赤く染めながら片手を「ギュッ」と握りしめ、「ハァ・・・、ハァ・・・♡」と浅く熱い吐息をつきながら。
やってる仕草だけ見るなら、奥ゆかしい恋愛物語の清楚ヒロインっぽかったが、やってる行動的には恋心をこじらせてヒロインを嫉妬で呪うサブキャラの美女としか思えない。
冬木の聖杯戦争では喚べないが、東洋の英霊も召喚可能だったバージョンの平行世界でだったらデミ・サーヴァントに憑依でなれてた可能性もあったかもしれない程に。
主に、恋の炎でブレスを吐いた純真無垢な姫君英霊などで。
「ああ、ケイネス・・・・・・やはり貴方から令呪を奪わなかったのは正解だったわ・・・。
魔術戦すらできなくなった貴方に価値なんて少しもないけれど、今こうして凜々しいディルムッドの姿を横で見続けられるのは、彼があなたを再起させることを祈願してのものだからこそ。
今そうあってくれてるからこそ、私は騎士道に殉じようとするランサーの雄姿を、心と瞳に焼き付けながら逝くことができるのだから・・・・・・♡ はぁ・・・、はぁ・・・♡♡」
恋情に曇りまくって、♡マークを撒き散らすような眼差しで見つめながら、ヌケヌケとそんなこと言い出し始める、重篤患者の夫を持ってるはずの若奥様ソラウ・ケイネス・ソフィアリさん。
夜が明ける前の暗闇が明け切らぬ時間帯に、こんな一般人の姿を目撃したなら通報する一択の状況になって久しい昨今だったが、生憎エルメロイ夫婦は一般人カップルによる普通の夫婦からは程遠い職業の者達であり、彼ら夫婦に家臣として仕えているディルムッドもまた普通人とは到底呼べない出自と役割と、そして――能力を持ち合わせた存在だった。
「・・・・・・・・・ソラウ様」
その異能の域に近しい能力が今、ランサーとしての彼に、守るべき主君と奥方にとっての脅威が接近しつつあることを鋭敏に察知させる。
「――どうしました? ランサー。
やはりケイネスと過ごすための場所を、私が見てしまっていたのは貴方の誇りを穢してしまうものだったかしら? そうであれば私の失態です、以後は配慮を約束しましょう」
「否、そうではありません。お気遣いには痛み入りますが、別の問題が発生したようです。
何かがここに近づいてきております。おそらく『自動車』なる装置の駆動音かと」
ソラウには何も聞こえなかったが、常人の聴覚を遙かに超えるサーヴァントにとって、人気のない廃工場を目指して雑草をかき分けながら突き進んでくる車のエンジン音を聞き分けるぐらい造作もない程度のこと。
口の中だけで呟き、外には吐息しか発することなく恋の言葉を語り続けてハァハァやってたソラウさんの隠蔽工作とは違うのだ。
恋する乙女は時にアサシンの真似事さえやってのける。それが恋愛感情のエネルギー。
・・・・・・だが、そんなソラウにとっての人生最初で最後の恋物語にも、そろそろ終わりの時が訪れたらしい。
「・・・・・・敵ですか? 他のマスターたちのいずれかに、この隠れ家発見されてしまったと」
「おそらく。ケイネス殿が魔術の力を失う前に偽装結界を施してより、既に幾日が過ぎており、綻びが生じてきた故のことかと」
「何度かの補強は行ってはいましたが・・・・・・やはり私の力では、完全に機能を維持させ続けるのは無理だったという訳ね」
自嘲気味に呟きながら、ソラウは肩をすくめて右手を軽く掲げ見る。
生家であるソフィアリ家からエルメロイへの嫁に出され、魔術師一族にとって最大の家宝とも呼ぶべき魔術刻印すら受け継ぐことが許されず、ただ名門魔術師一族の『血を引いている』それだけしか価値を認められることが終ぞなかった己の半生と、魔術師として夫に遠く及ばぬ未熟さとを同時に冷たく笑い飛ばしながら。
それでも尚、ソラウの心は先程までとは真逆に、冷たく、冴えきったまま。
こうなる未来は、とうの昔に知れていた。覚悟していた。
なら最後は―――自分の決めていた終わりの物語を最期まで演じ貫く。それだけのこと。
「ランサー、迎撃にでてください。狭く遮蔽物も多い室内戦闘では、槍の英霊である貴方に不利です。侵入される前に出向くしか他に手はありません」
「御意。・・・ですが、ソラウ様それでは――」
「私たちとのことなら心配する必要はありません。ケイネスを連れて、貴方が敵を撃退し終えるまで隠れられる場所に避難しておきましょう。あなたはただ、敵と全力で戦い、悔いを残すことなく聖杯戦争を終えられればそれでいい」
「ソラウ様・・・しかし、それでは余りに・・・・・・」
「いいのです、ランサー」
躊躇いを宿した瞳で言いよどむ色男の、秘めた憂いに濡れた瞳で見つめられ、思わず濡れてきそうな感情に突き動かされそうになりながら必死で我慢して、表面上は激情を押さえ込もうと必死に耐えている女に見えるよう演じながら―――ソラウはランサーに向かって、淡い微笑みを返すだけ。
「それがランサーのマスターとして、召喚した英霊に対して果たすべき義務と責任というもの・・・・・・なのでしょう?
たとえそれが、自分の個人的感情が多分に入ってしまっているものだと自覚していたとしても・・・・・・それをこそ貴方は、マスターという主君に求めているはず。違いますか?」
「・・・! ソラウ様、そのお言葉は――ッ」
「それとも―――この期に及んでも想いを捨てきることができず、義務と責任で自分を誤魔化すことでしか責任を果たす道を選べない・・・そんな浅ましくも愚かしい女の情を、貴方なら異なる評価を与えてくれますか・・・・・・?」
「―――ッ!!」
その言葉を言われ、震える肩と雫を浮かべた瞳で見つめられ。
ランサーには、返す言葉など一つもあるはずはなかった。
ただ純粋に、下心など微塵もなく、無私の心を以て跪き。
今生の別れとなるかも知れない覚悟を決めた主の想いに応えるため、必勝を誓って主命の元に出陣する。
それだけが忠義の騎士として、彼が“彼女に”示せる最大限の想いの返し方だったから―――
「では、ソラウ様。
フィオナ騎士団の一番槍ディルムッド・オディナ、行って参りますッ!」
「ええ、任せます。ランサー、この私とケイネスに勝利を!」
「御意ッ! 必ずやッ!!」
さり気なく、自分が忠誠誓う主を立ててくれる言い方で見送ってくれた仮初めの主の心配りにランサーは、男臭い会心の笑みを浮かべて戦士らしく颯爽と戦場へと赴いていく。
その心に悲嘆はなく、鬱屈もなく、迷いもなければ憂いもない。
ただ涼風のように曇りなき闘志を呼び込んでくれるため、最善を尽くしてくれた未熟な主君への恩義に報いること。
それのみが、今の彼の胸に満たされた熱い想い、その全て。
だから彼は振り返られない。後戻りする必要はない。
進むべき道は前にしかなく、勝利は前進の先にあると信じて・・・・・・ただ如何なる敵をも一命を以て突破し、主の元へ勝利の栄光を持ち帰るだけが我が征く道!!そう信じて!!
―――もっとも、常人とは懸け離れたサーヴァントの視力を持ってしても、前だけ見てるときは後ろの光景は見えないものだから、出会ってから今までで一番の微笑みを向けられてしまった『偽りの理想的主君』が、どんな醜態さらして悶え苦しみ、萌え上がっていたかについては・・・・・・彼が知ることは最後までなかったのはLACKの低さ故かだったのか何なのか。
そして、ランサーに接近を察知された廃工場へと続く道を走ってきていた車の中で、別の主従もまた異なるタイプの会話を交わし合っている。
「たしかに、魔術結界の痕跡があるわ。コトミネからの情報に嘘じゃなかったみたい。
・・・でも変ね? ずいぶんと弱まってて、所々で綻びが出始めている・・・。
手入れだけはしてあるみたいだけど、結界の出来栄えに比べて、施術者の実力に差があるみたい。何かあったのかしら?」
「さてな。大方、アインツベルン城へと攻め寄せて撃退された折りに、マスターと戦ったランサーのマスターが深手でも負わされたのではないか?
そーいう戦い方だけは得意そうな、狡っ辛いところがあるからな。あの甘ちゃん坊やなマスターは」
肩をすくめながらドアを開いて地面に降り立ち、助手席から出てきて困った笑顔を浮かべているアイリスフィールへと振り返る。
言峰教会での協定締結が終わった帰り道の途中で切嗣からもたらされた連絡の中で、舞弥には「任せるべき役目がある」と運転を代わるよう命じられ、メルセデスをセイバー・オルタが、V-MAXを舞弥が重量軽減の魔術も使って何とか乗りこなし、こうして目的地である廃工場にそれぞれの方角から接近してきた訳だが。
「マイヤに別の役割があると言うことは今回もまた、私の役目はマスターが敵の魔術師を倒すまでの間、敵サーヴァントの目を引きつける陽動ということなのだろうな」
「たぶん・・・・・・そういう意味なのでしょうね、キリツグの事だからきっと。けど・・・・・・」
何気なさそうな口調で言われたセイバーからの発言に、アイリスフィールは肯定を返しながらも気遣わしげな瞳になって、助手席から運転席に座る黒服の少女の方へと視線を向ける。
彼女は何も、今さらセイバーが切嗣の戦い方に不満を感じて対立する危険を危惧していたという訳ではない。
セイバーの英霊として召喚された彼女は、彼の名高き騎士王その人自身“ではなく”。
彼女にあり得たかも知れない可能性が具現化して黒く染まった合理主義者の暴君だということは、短いながら濃厚な日々を過ごしたことで多少は理解できるようになったと思う。
ただ、共に過ごした時間があるからこそ、それらの問題は『時と場合と相手への感情と関係性による』というのが、この黒く染まった騎士王だということも理解できるようになっていたため、その点が気にかかっていた。
セイバー・オルタは暴君らしい特徴として、人や物の好き嫌いや、相手への感情や評価次第で対応が激変する場合が非常に多い少女なのだ。
さっきまで仲良く話してたのが、気づいたら殺気だって殺し合いになりかかってても可笑しくない、そんな印象が強すぎる不条理なる暴君。
そんな相手にとって、自分から見たランサーに対する感情は、割と気に入っているように感じられていた。同じ志を共有する者同士、とまでは思っていないようだが少なくとも嫌いでは全くない。そんな印象。
果たして、そんな相手と戦っている最中に、背後から主君を刺し殺すような勝ち方で終わらせようとするキリツグの手法に、黒く染まりながらも騎士の英霊ではある一員として思うところはないのか否か・・・・・・その点だけは気になっていたのだが―――
「別段それは、気にすべき事柄とは思えんな」
当の本人からの反応と評価は、気にしていた他人が想像していた以上にサッパリしたもの。
「元より、城内から駐留する兵力を誘き出し、城と軍勢を個別に攻略するのは攻城戦における常套手段だ。特に恥じるようなことは何一つあるまい。
まして、獲られてしまえば敗けとなる大将を置いて出撃し、敵と矛を交えている間に隙を突いて主君を討たれ敗れたなら、武人として無能の証。
それを以て、“卑怯よ”“恥知らずよ”と敗者の側が勝者を愚弄するのは、其奴自身に誇りも矜持も騎士道もない、ゲスな性根の持ち主だったと言うだけのことだ。
―――お前も、そう思うのではないか? ランサー」
「フフ・・・相変わらず耳に痛い辛辣な舌鋒だな、セイバー。
もっとも、その評価そのものには心から賛成するのも吝かではないがね」
「なっ!? ラン、サー・・・っ」
セイバーが吊り目がちな瞳で、キツく鋭い目つきを向けながら問いを向けた視線の先で、そのあからさまな挑発に応じるようにして艶貌の槍兵は忽然と姿を現し、アイリスフィールは驚きの声を上げさせられる。
自身の果たしたいと願った悲願の故に、不意打ちや奇襲による決着は端からランサーの選択肢には入っておらず。
か弱い女性を勝利のためにと後ろから不意打ちして『勝ちを盗む戦い方』で満足できるのなら、最初からランサーの英霊ディルムッド・オディナは聖杯戦争に参加していない。
難儀なところのある性格の持ち主ではあったが、戦の常識が全くないというほど甘ちゃんという訳でもない。
戦の酸いも甘いも、フィオナ騎士団で仲間だった者達とは戦わず、フィン王が外部から招いた外法の使い手達との戦いで武勲を上げ続けた彼には今さら説法されるまでもなし。
主との軋轢で清々しさを求める想いに駆られておらず、騎士道を貫ける可能性を求めて魔術師達の招きに応じた先で卑怯者ばかりに振り回された歪みもなく。
召喚に応じた直後の頃と同じように、清い心だけで拠点をでて迎撃に赴いてきたランサーにとって、セイバーとの決着は喜びではあったが、唯一の胸の内に涼風を呼び込んでくれる存在にはなっていなかった。
彼にとって、その胸に涼風を呼び込んでくれる理想的な主君は別にいる。
少なくとも彼自身は、そう信じている主君の女性は別に得ていたので、結果として感情に流されることなく冷静で客観的なものの見方を語れる精神を保っていたディルムッドの舌鋒は、その槍裁きと同じぐらいに鋭いことも言えるらしく。
「俺とて別段、守るべき主を守ることも出来ず、戦いに現を抜かしていた未熟を他者のせいに押しつける卑劣漢に同調してやる意思など微塵もない。
もっとも、その結末が味方の卑劣な裏切りによるものだったというなら話は別だが。
その点では貴様も同意してもらえると思っているのだが、如何か? 騎士王よ」
「・・・・・・不愉快な比喩だが、正しいものの見方ではある意見だな。やはり貴様とは気が合わん」
「フフ、それはお互い様、というべき所かな。酒を飲み交わす友としてなら別として、そうでない限り貴様とは俺も気が合いそうにない。
戦って決着を付けたいと願う想いを抑えるのに苦労が耐えん」
爽やかな口調で、相手の痛いところを突いてくる言い分で反撃されたセイバーは憮然とした表情になって睨み付け、相手との間合いを一歩詰めるため前に出る。
「それで、何用あっての来訪だ? セイバー。よもや貴様が世間話に興じにくる性格とも思えんが」
「無論、あの時の決着をつけるために」
静かな口調で断言し、黒い甲冑と黒く染まった聖剣とを実体化させながら、セイバー・オルタは『自分個人が思っている内容的には』嘘偽りない真摯な凶暴さと戦闘意欲で刃の切っ先を相手に向ける。
「既にアサシン、キャスターといった搦め手で横から割り込んでくる面倒なサーヴァント共は脱落した。ライダーもまた例の宝具を使用したことで消耗し、すぐには戦場へと復帰は難しかろう。
・・・・・・つまりは、ようやく初日での決着がつけられる段になったと言うことだ。
余計な茶々が入る心配なしに、全力で殺し合える。強敵との斬り合いが愉しめるというなら・・・・・・魔術師共に現身でしかない影として召喚に応じてやった甲斐があるというもの。そうだろう? ランサーよ」
「フッ・・・相変わらず、高潔なる騎士王の言葉とは思えぬ野蛮な理屈だな。
だが――相変わらず良いがな。嫌いではないぞ、その理屈も考え方も」
言いながらランサーもまた、赤と黄の魔槍を構え、セイバーを迎え撃つため異形の構えで立ち塞がる。
あの夜に出会った二人が、あの夜と同じ構えと構えで向かい合い、あの夜につかなかった決着を今夜こそ果たさんがため、互いの殺気を高め合い・・・・・・やがて―――激突する!!
『『はぁぁぁぁぁぁぁぁッッ!!!!』』
――ガキィィィッン!!!!
激突し合う槍と剣! 魔力が凝縮された宝具と宝具!!
強大すぎる力と力が衝突し合い、小さな力では巨大すぎる魔力の渦にかき消され、察知することすら出来ないまま無視されるのが道理と思えるほどの凄まじい神話の戦い! その再現!!
その始まりを確認した瞬間、
「始まったな・・・! 行くぞ、舞弥。セイバー達がランサーを引きつけている隙に、僕たちは廃工場へと突入してケイネス・エルメロイと婚約者ソラウを見つけ出して捕殺する」
『了解しました、切嗣。それでランサーへの処置は、セイバーに任せるのですか?』
「まさか。僕は一騎打ちにロマンを求める騎士様たちほどギャンブラーじゃない。求めるのは確実な結果だけさ。
ランサーのマスターであるケイネスを捕縛し、ランサーの自害を命じさせる。奴は死んでいなくとも、僕の起源弾を食らって魔術師として再起不能の状態にあるはず。
この状況下で商談を持ちかけられれば、必ず奴は乗ってくる。婚約者を人質に取るのも有効だ。
今日の夜が明ける前に、必ずランサーのサーヴァントだけでも令呪を残すことなく完全に敗退させる・・・ッ」
ハンドサインと携帯電話とトランシバーによって舞弥に作戦開始と突入を知らせる合図を送る魔術師殺し衛宮切嗣。
既に言峰綺礼がマスターとして復活している可能性がある以上、他のマスターたちが同じような展開を繰り返させる訳には行かない。それを成すには一度に令呪が受け継がれる全ての候補者たちを殺し尽くすか、令呪を使い切らせて殺させるかの二択しかない。
綺礼を放置していれば、奴が使える令呪の数が増えるかも知れないのだ。
敗退したと他のマスターから思い込まれているヤツ自身の手でマスターたちを殺して周り、殺されたマスターたちの未使用のまま残った令呪を回復して回る。そういう手段もヤツにはとりうる立ち位置にある。
だから切嗣としては先手を取って、候補を潰して回る道を歩むしかなかったのだ。
未遠川での戦いで最も激しく消耗し、強力すぎる宝具を有するライダーのマスターから先に倒すという選択肢もあるにはあったが、彼の征服王の宝具は黄金のサーヴァントへの当て馬として未だ有効なため後回しにする必要があった。
また、最も追い詰められた立場にあるランサー陣営が、命惜しさで遠阪・言峰陣営の傘下に収まらないという保証もない以上、排除できる内に完全な排除を目指すというのが切嗣の立てた戦略だった。
まぁ、もっとも。
「なぜだ? なぜ勝てない? 確実な勝機がないのなら、いっそ逃げるべきであろうに!
そもそも魔術師にとって勝利とは一切の固定観念を廃し、ただ最終目標に到達することだと、いつも教えているのがま~~だ分からんのかねウェイバ~・ベルベッふごふごご」
荷物のように押し込められて、声が出ないよう口の中に詰め物されて、ただランサーとの決着がつくまで邪魔にならないよう殺されなければいいと、愛する妻に置いていかれた探し求めるターゲットが。
・・・・・・実は今さっき通り過ぎてった部屋の中で、ロッカーに押し込まれた格好で隠してあったんだけど・・・・・・そのことに気づかぬまま敵拠点の奥へ奥へと進んでいってしまった、魔術師殺し衛宮切嗣の作戦の成否は如何に・・・?
つづく
説明補足:
【1周目プレイで1周目と違うルートを~】だけだと、言い方のせいで印象軽くなり過ぎる危険性があったため、今作版ランサーの補足。
ランサーの印象は恐らく『薄い』と言うより『軽い』のだと推測される。
召喚された時点で願いが半分叶ってしまっているため、他のメンバーみたいに戦うための【重い理由】がない。
どうしても聖杯を勝ち取りたい理由はなく、死んでるから生に執着する必要もない。
だから「潔く」はなれるけど、勝利への「拘り」は全く持てない。
ぶっちゃけ完全に【傭兵】のスタンスです。もしくはアサ次郎。
『聖杯はどうでもいいから、自分の求める戦いを貫かせろ』――は聖杯戦争だと、なんか世界観が違いやすい。
それが彼の印象を相対的に弱めてる理由の一つではと推測される。
聖杯に執着してる人多い作品世界っすからねぇ。聖杯を巡る戦いの話でもあるし…。
実際、原作における彼のダークな部分は【人間関係で揉めて生前と同様に上手くいかなかった】これに尽きており、他の部分では特に描かれていない。
生前と同じ道たどってたから屈折キャラの一人になってましたが、環境が違った時にはクー・フーリン並に単純明快で始まって終わったキャラだった気もするレベル。
なので試しに、【そうだったバージョンのディルムッド】を描いてみた次第。
悩む理由がなかった時には、単純すぎる戦バカになる。
マスターが切嗣でなくても重かったセイバー達とは、そこが違う。個人的にはそう思っていました故に。