もしも切嗣が喚んだセイバーがオルタ化してたら 作:ひきがやもとまち
…ただ正直、あんまり自信ない内容ですが…ラスト近くになってくると色々と出やすくて…。
他の長く更新できてない作品も、休みを利用して更新を目指すつもりです。
自らの手で、自らの首筋を切り裂いて鮮血の中で事切れたソラウ・ヌアザレ・ソフィアリの亡骸を前にして、セイバー・オルタは今更手の施しようのない相手に駆け寄る無意味な行為をする意思はなく、別のことについて思案していた。
ソラウの死によってケイネス陣営は完全に聖杯戦争から脱落し、かくして黒く染まった騎士王の剣はランサーとの誓いを果たすことなく、さりとて破棄したという訳でもない。
栄誉とは程遠そうな恋情に満ちあふれた、けれど誇りという『自分の中では有ったように信じれれば有る』そんな主観的な場合の「誇り」で良ければあったかもしれない戦いで決着の一斬だけは振るうことができた。
そんな戦場跡となった、数瞬前まで死闘が行われていた廃工場前の空き地の中央近くに立ちながら。
「――っ、切嗣――ッ!!」
そんな悲鳴じみた叫びの声を上げたのは、果たしてアイリスィールであったか久宇舞弥か両方か。それは分からない。
ただ一つ確かなのは、叫び声を上げさせたのは、名を呼ばれた一人でも名を呼んだ二人でもなく、この場で生き残っている者達の中で最後に一人だけしかあり得ない、という事実のみ。
「・・・エミヤ、キリツグ・・・・・・私が剣を捧げたマスターよ。今日こそは貴様に確認しておかねばならぬ事がある。正直に答えてもらおうか?」
「―――」
まるで穢らわしいものを眺めるかのように、切嗣が見据える先に映っているのは、暗くくすんで灰色に変色したような翠緑と、その手に握った鈍い光を放つ長剣。
その切っ先は真っ直ぐ、切嗣の首元に据えられてピタリと動きを止めている。
鋭利な刃の先は、かすかに切嗣の首皮にめり込まされ、ちょっとでも互いの体を動かすために力を込めれば細い赤い糸が、首から流れ落ちはじめるのは確実な状況。
「これまでは私も、敢えて貴様の好きにやらせてやる道をこそ、良しとしてきた。
貴様が私と話したくないのなら、無理矢理にでも話すほどのことでもない・・・・・・と。
だが今日より先は話は別だ。是が非でも、私からの問いに答えてもらうぞ? 我がマスター、エミヤ・キリツグ」
「―――」
だが、予想外すぎるであろう現状にいたっても尚、衛宮切嗣は答えない。
むしろ予想していた範疇の出来事の中で、最も出来が悪い劇を見せつけられたかのように興醒めした表情を瞳に浮かべたまま、冷ややかな視線で自身のサーヴァントと無言のまま見つめ合っている。
「答えよ、マスター。貴様が万能の願望機とやらを求める真の理由とは何なのかを。
まさか本当に、『世界の救済』などという幻想に使う気でいるわけでもあるまいに」
その問いの言葉を聞かされて、アイリスフィールと久宇舞弥はハッキリと悟っていた。
あるいは、彼らの愛する一人の男も気づいたかもしれない。
・・・・・・セイバーが、英雄叙事詩に詠われた護国の王は――やはり黒く染まっても尚、『清廉なる騎士王だった』という事実に。
彼女の問いは、それを示すものだった。
先まで行われていたセイバーとランサー、二騎の騎士クラス同士による最終決戦。
その在り方に、その戦いの中で用いられるはずだった衛宮切嗣の『殺し方』に、誇り高き騎士王の矜持が我慢できないものを感じさせられ、黒く染まった心に本来の在り方が戻ってしまう時が、遂に来てしまったのだ――と。
「・・・・・・セイバーに答えてあげて、切嗣。いくら何でも今回あなたが行うつもりだったことについては、あなたにも説明の義務があるわ」
「―――いいや、アイリ。そこのサーヴァントに話すことなど何もない。栄光だの名誉だの、そんなものを嬉々としてもてはやす殺人者には、何を語り聞かせても無駄なことだ」
そんな状況に至りながら、衛宮切嗣のセイバーに対するスタンスは変わることはなかった。
あくまで『アイリスフィールを仲介役の壁』として挟ませた体勢での会話のみに終始する、魔術師殺しとしての衛宮切嗣が最強クラスのサーヴァントを使いこなすために考案された指揮系統を、一歩も崩すことなく彼は維持する道を選びとる。
・・・セイバーからの言葉に答えぬ自分に、アイリスフィールが仲介し、アイリスフィールからの言葉に答えるという形でセイバーへと間接的に伝達する――それが切嗣が考え出した、価値観や思考法が自分とまったく違いすぎる【騎士サマの英霊】と関係を破綻させることなく駒として使い続けられる唯一の策だった。
この体勢をとることによって、切嗣は相手からの問いに『答えていい質問だけ』に応じることが可能となり、アイリスフィールの手前いくら激高しようとセイバーの側が自分に直接手出しをすることは難しい。
自分の妻を、生きた防波堤か、あるいは人間型の翻訳機のように使うことで、近くにいながら壁を挟んだ対応だけしか出来るようにはなれない形で構築された、切嗣の策。
もし【高潔なる騎士道の祖】が【魔術師殺しの暗殺者】と直に向き合って己の考えを伝え合ってしまえば、互いを否定し合うことしか出来ないだろう。
順当通りにいけば、殺し合いは避けられない立場にある者同士なのだ。
仮に目的のため相手を受け入れることが出来たとしても、それは『片方が自分の意見を捨てて』『残る片方の意見を全面的に受け入れる』という一方的な形だけでしか成立しようがない。
半端な妥協や譲歩は後顧の憂いと連携の足並みを乱す役にしか立ちようがなく、互いを猜疑し合っての同盟関係など裏切りの芽を育む結果しか招きようもない。
それが当初、アインツベルンの翁から英霊召喚のための【所縁の品】として、【星に鍛えられた聖剣の鞘】を渡されたときに切嗣が立案して実行される予定でいたセイバーとの付き合い方だったのである。
・・・・・・まぁ、結果的に召喚された高潔な“はず”の騎士王が、水着エプロンで雪中の場内を歩き回って、マスターを聖剣振り回しながら雪の中を走らせまくってくるキチガイ王様に変異してしまっていたせいで中途半端にしか今まで用いられることが出来なかった手段になってしまっていたのは事実だが・・・・・・さておき。
その方法が今、当初に立案していた予定通りに使用されるべき時が訪れただけのこと。
切嗣にとって、なんら気にするほどの大事ではなく、計画を変更するほどの計算違いにもなりようがない。
その程度の些事。だから当初の予定通り、彼は対応するだけでしかない。
「そういえば、僕の殺し方を直に君に見せるのも、これが初めてになるはずだったんだねアイリ。
なら、よく覚えていて欲しい。騎士なんぞに世界は救えない。過去の歴史がそうだったように、今これからも同じだということを。
こいつらはな、戦いの手段に正邪があると説き、さも戦場に尊いものがあるかのように演出してみせる。
歴代の英雄どもが、そういう幻想を売り込んできたせいで、いったいどれだけの若者たちが武勇だの名誉だのに誘惑されて、血を流して死んでいったと思う?」
「・・・・・・」
途中から語られる言葉の表現が荒くなってきた切嗣の長舌に、セイバーは逆に答えない。無言のまま相手を見据え続けて、聖剣の切っ先を突きつけ続ける。
「こいつら英霊様は、よりにもよって戦場が地獄よりマシなものだと思っているのさ。冗談じゃない。
いつの時代も、あれは正真正銘の地獄だ。戦場に希望なんてない。あるのは掛け値なしの絶望だけ。敗者の痛みの上にしか成り立たない、勝利という名の罪科だけだ。
闘争という行為の悪性を悔やんで、最悪の禁忌としない限り地獄は地上に何度でも蘇るのに、それでも人類は、どれだけ死体の山を積み上げようと、その真実に気づかない。
いつの時代も、勇猛果敢な英雄サマが、華やかな武勇譚で人々の目を眩ませてきたからだ。
血を流すことの邪悪さを認めようとしない馬鹿どもが余計な意地を張るせいで、人間の本質は石器時代から一歩も前に進んじゃいない!」
語る中で感情が激してくるナニカの記憶を思い出しでもしたのか、徐々に怒りと怨嗟が声と瞳に溢れてきて、最後には初めて怒鳴り声で誰かに向かって、“ナニカ”に向かって罵倒するほど。
それは今までセイバーに向かって、冷酷無比な鉄面皮ばかりを見せ続けてきた切嗣が初めて自主的に見せてきた別の側面。
底知れぬ悲憤と悲嘆にすり切れるまで打ちのめされてきた男としての、怨嗟にも似た独白という側面を。
「それじゃあ――それじゃあ切嗣、あなたがセイバーやランサーに屈辱を与えるような戦い方を殊更に選んで実行したのは・・・・・・英雄に対する憎しみのせい・・・?」
「まさか。そんな私情は交えないさ。僕は聖杯を勝ち取って世界を救う。その為の戦いに、もっとも相応しく効率的な手段で臨んでいるだけさ。
――もっとも、“そういう手段”が、その手の奴らには有効打になりやすかったから多用してきたのは、否定しないけどね」
夫から初めて聞かされる話に、かける言葉を失っていたアイリスフィールからの問いかけに、切嗣は肩をすくめて答えに応ずる。
おそらく彼は、この地で戦いの火蓋が切って落とされた日から、目の前で颯爽と武勇を誇るべく召喚された英雄たちの姿を、抑えきれぬ憤怒と共に見守ってきたのだろう。
英名を遺す者、英名に憧れる者、それらの者達が夢見た目標が叶えられることは、多くの犠牲と地獄を生み出されてきた『生贄』が支払われた後になっている事実を意味する。
それは人々の『英雄への祈り』が、偉業と呼ばれるほどの大事を成し遂げるため犠牲の山を築いてきた者達を神聖視する『英霊』という概念を生み出す構造のシステム。それは彼から見て、双方共に許しがたい欺瞞と殺戮の共犯にしかなりえない。
そんな彼にとって、『小綺麗な騎士の誇りある戦いを貫き通したいだけ』を理由と目的に召喚に応じたランサーや、騎士道の祖として高名な騎士王のセイバーというサーヴァントたちは、最も怒りと憎しみの感情を刺激される存在でしかなかっただろう。
そう思ったからこそ、気遣いと共に放たれたアイリスフィールからの問いであったが、切嗣にとってそれは別の問題であり、憎いには憎いが、感情を戦いに持ち込んで策を見誤るケイネス・エルロイやランサーの鐵を不向きは彼にはない。
「今の世界、今の人間の在りようでは、どう巡ったところで戦いは避けられない。最後には必要悪としての殺し合いが要求される。だったら最大の効率と最小の浪費で最短のうちに処理をつけるのが最善の方法だ。
それを卑劣と蔑むのなら、悪辣と詰るなら、ああ大いに結構だとも。
正義で世界は救えない。そんなものに僕はまったく興味がない」
そして――彼は遂に明かす。
今まで明かさなかった、自分の望みを。聖杯にかける願いを。
万能の願望機を手にすることで叶えたいと欲する、自分の悲願を。
世界の救済。戦いを終わらせる。――そんな曖昧模糊とした抽象的な表現のみで語られてきた、自己の具体的な目標を。手にした聖杯の使い方を。
彼は今、はじめてセイバー・オルタたちにも聞こえる場所で、遂に明かす刻が訪れる。
「終わらぬ連鎖を、終わらせる。それを果たしうるのが聖杯だ。
世界の改変、ヒトの魂の変革を、奇跡を以て成し遂げる。僕がこの冬木で流す血を、人類最後の流血にしてみせる。
そのために、たとえ“この世のすべての悪”を担うことになろうとも―――構わないさ。
それで世界が救えるなら、僕は喜んで引き受ける」
「・・・・・・なるほど・・・・・・」
そこまでの話を聞き終えて。
セイバー・オルタは誰にともなく独言のように呟いてから、吐息する音を漏らす。
今ようやく分かった、己がマスターの目指すところ。叶えたい願い。その内訳を彼女は今はじめて、ようやく『相手からの言葉』として聞くことが出来、理解して。
「つまり貴様は――マスターは・・・・・・やはり“世界を救う気はなかった”という事だな?」
バッサリ切り捨ててしまうのだった。
再び同じ場所に、同じぐらい重苦しくて微妙な沈黙が訪れちまったのは・・・・・・言うまでもない。
その翌日の――いや、同日の陽が昇ってから昼を過ぎた頃。
衛宮切嗣は、深山町にある目的地から街区ひとつを隔てた位置にある公団住宅地の六階建てマンション屋上から、狙撃用スコープを使って一般家庭を覗き見していた。
そういう表現をすると世間体が悪くなりそうだが、やっている行動内容的には、そーいう行為ではある。
雑居ビルなどと違って居住者たちの利用を想定してないから、不審者として発見されにくく、給水塔の影に隠れるだけで階下から見咎められる恐れすらない。
朝の爽気が消え去って、次の時間帯に変わる寸前辺りから彼はずっと、この場所に忍び込んで潜み続けながら、時々タバコをスパスパやる時間を送っている。
ライダーのマスターを、仕留めるためだ。
先日結ばれた遠阪との密約によって得られた情報から、長らく不明だったライダーのマスターが催眠術によってスコープに映る一般家屋を拠点として使用していたことを彼は知ることが出来た。
ならば未遠川での戦いで、ライダーは巨大海魔を相手にサーヴァントでありながら《固有結界》を展開させる離れ業をやってのけ、かなりの消耗を強いられているはずだった。
今ならばサーヴァントの守りが薄くなった相手を『マスター狩り』で仕留める絶好の機会と判断して、朝からこうして狙いをつけたまま潜み続けているのだが・・・・・・どうにも先ほどから焦りを感じるようになってきてもいる。
『マスター、指示どおりの家屋を訪ねてみたが、ライダーたちは早朝から出かけて留守のようだ。
行き先も、彼らは「少し出かけてくる。帰りは遅くなる」としか聞かされていないのだそうだ』
「・・・・・・・・・」
『周囲にもサーヴァントの気配はなく、そもそも“あの”ライダーが自分を訪ねてきた敵を前にして気配を消したまま隠れ潜める奴とも思えん。空振りだったと判断するしかないのではないか?』
「・・・・・・・・・・・・」
先ほど届けられた、先行させていたセイバーからの報告内容が彼に判断と決断を悩ませている原因となっている所以だった。
あまりにもタイミングが良すぎる撤収――こちらに所在を知られたのを察知された、ということなのか?
だが一体どこから、どうやって・・・・・・その疑問が切嗣の脳裏を何度もよぎっては消えていく。
実際には単純に、未遠川での戦いで消耗しすぎたライダーの魔力を回復させるため、近くの召喚場所である公園で「ZZZ・・・」と熟睡しているだけだったりするのだが・・・・・・そこに思い至らないところが切嗣の、『昨晩指摘された致命的弱点』だったのかもしれない。
なぜなら彼は、自身がライダーのマスターを仕留めるには今が好機としたのは『未遠川での戦いでサーヴァントが魔力を消費しすぎている』というのが理由だと認識している。
にも関わらず、『敵が戦闘継続のため回復を優先している可能性』については全く考えていないからだ。
どこかしら独り善がりで、『魔術師殺しとしての思考法を絶対視している』それが衛宮切嗣という魔術師が抱える大きな弱点の一つだった。
自分が考える合理的な思考“とは異なる”『別の合理的な思考法』というものの存在を、彼は全く考えることができない人格に、いつの間にか成長して今に至ってしまっている。
今まで彼は、全てを一人で考え、一人で分析し、一人だけで計算して計画し続けてきた。
実行段階でアイリスフィールや舞弥を使うことはあっても、彼女たちは所詮は「パーツ」であり「歯車」でしかない。
自分という機械がより確実に『自分の考えた計画』を成功できるように完成させていく『自分を形成するパーツ』その一つとしか彼は使うことが出来ていない。そうなるよう自分が求め、相手がそれに応じた以上はどうしようもない。
自分が答えを出した時点で、それがファイナルアンサーになってしまう人間。
究極的には自分しか愛せないような、自己完結型の思考をもった、自分一人が全てを背負うと決めたから、世界の全ては『一人だけでも背負える程度のものだ』と自分だけの考えで答えを出してしまって、それが現実的だと信じてしまっていた人間。それが衛宮切嗣という孤独な人間の在り方だった。
そうであるが故に彼は、自分の中での合理的思考と合理的思考が対立したときには、判断と選択が選びにくくなってしまう欠点を内包するようになってしまっていた。
自分一人だけで、司令官と参謀長と参謀チーム全てを兼任しているようなものなのだから当然そうなる。そうなるしかない。
だからこそ―――というわけではないのだろうが・・・・・・切嗣はふと。
朝の爽気が漂い始める前に、あの朝靄けぶる廃工場跡の前で、自身のサーヴァントの口から告げられた言葉と指摘を、一瞬だけ頭をよぎって思い出してしう。
『つまり貴様は――マスターは・・・・・・やはり“世界を救う気はなかった”という事だな?』
あの時、あの場所で。
自分の悲願と決意の形を言葉として聞かされた、あの無駄に偉そうで横暴なサーヴァントは彼に向かって、こう言葉を続けていたのだ
『―――いや。より正確には、一種の“救い”であり、多くの民草が望み求める“救済”ではあるのだろう。
人類が今まで求め続けて、遂に実現することが出来ていないという点では、世界全てを変革させ、全人類を蝕む悪徳の一つから完全に解放されるという表現も可能なはず。マスター』
『貴様の聖杯にかける願いとは―――「戦争の消滅」だな?
人類史から未来永劫に渡って、内乱・反乱・国家間戦争、あらゆる「闘争」が二度と発生できることがなくなった世界の到来。それが貴様の叶えたい悲願ということだな?
飢えや病、災害や事故死、殺人その他全ての悪徳を無くすというわけではなく、それらによって如何なる被害が生じようと、闘争にさえ至らなくなれば世界は「戦争の脅威から救済される」―――それがマスターの聖杯に求める願い。・・・違うか?』
切嗣は、その言葉に答えなかった。
サーヴァントに話す言葉などない。「英霊」などに、自分が話すことなど本来一つもあるはずがない。
『ああ、別に返事は必要ない。気にしなくてもよい。
貴様の願いの是非や善悪などは、私の関知するところではない。
なにしろ、臣下が死のうと人々が苦しもうと、何も感じない女だからな。
卑王ヴォーティーガーンを討つため竜より造られ、ミイラ取りがミイラになった暴君が、他者の願いの善悪善し悪しきを判断するなど・・・・・・あの魔女や裏切りのバカ騎士辺りが聞けば何というか、というところか。フフ』
その評価が、自分のサーヴァントとして今後も聖杯戦争を戦っていく意思を示したものだったとしても、ああ知ったことじゃない。
どのみちサーヴァントは英霊の座にあるオリジナルからコピーを呼び出した傀儡に過ぎない、魔術師にとっては使い魔の延長上にある存在でしかない。そんな奴らの意思に意味なんかない。
『私が求めたのは、貴様が私の求めに応じ、“私からの問い”に“貴様が貴様自身の言葉で答えを返すこと”――それだけだったからな。
貴様は、その求めに応えた。だから私は今後も貴様の指示に従い続けよう。
貴様の心が折れて膝を屈するまで、その時までずっと・・・・・・それまでは私に頼るがいい。
だが―――』
『だが一つだけ言っておこう。マスター。
それが必要だと判断したときには、“私を信じ”、“私に任せろ”。
それが出来ねば、おそらく貴様は最終的な勝者にはなれない。
仮になれてもも、願いが叶えられることは決してない。そう私の《直感》が告げている』
『今までは良かったが、これからの戦いでは確実にそれが必要となる場面が必ず訪れる。断言できる。
敵の数は減った。序盤のような横やりを入れられる恐れは激減し、サーヴァントにサーヴァントをぶつけさせ、マスターをマスターが一騎打ちで仕留めることが可能な状況が発生しやすくなってしまった現状に今はある。
そういう情勢下の中で、“私を信じて任せ”“自らは先に行く”・・・・・・それを二心なく完全な信頼のもとに実行して、背中を任せられんままでは戦いには勝てんものだ』
『今すぐにやれ、とは言わん。完全に実行しろ、とも求めん。
――だが、仮初めにしか出来んままでは、負けて願いは叶わぬものと覚悟はしておけ。
必要なとき、必要な分だけでいい。互いを信じ合う信頼関係は何者にも代えがたい力となり得るもの―――私が生前に得られることなく滅びて終わった力だ。
それを心しておくがいい・・・・・・』
そう言って朝靄の中で交わされ合った、自主的には初めての自身が喚び出したサーヴァントと衛宮切嗣とが向かい合って行われた「互い同士での会話」だった。
その時に言われた言葉を戯れ言として認識しながら―――どこかしら頭の中で引っかかるものを感じさせられるのを消すことができずにいる。
それが今の衛宮切嗣の心理状態。
ずっと自分一人だけで世界と戦い続けてきた衛宮切嗣にとって、自己否定にも等しい行為の要求でもある、『信じ合い』『背中を任せる』という行為。
そんなものは必要ない。
効率こそが全てだという確信は僅かな揺らぎも抱くことはないままに―――ふと、一瞬だけ。
脳裏に映し出される光景が浮かんだ。――ような気がした。
―――真っ赤に染まった夕暮れの空の下。
無数の亡骸と、無数の剣、無数の戦死者たちの山が築かれた丘の上。
一人立ち尽くしながら、激しく泣き咽ぶ鎧姿の女の子を。
ごめんなさい、ごめんなさい、と。
ただただ、何かに向かって誰かに向かって、誰もいなくなった場所で誰かへ向けた謝罪の言葉を、ひたすらにひたすらに言い続けて泣き続けている、孤独で哀れな一人だけになった少女の光景を。
―――真っ赤に染まった夕暮れのような空の下。
無数の亡骸と、無数の瓦礫、無数の死者たちと苦しむもがく人々で築かれた町の中。
一人立ち尽くして、幽鬼のように歩き出し、地面を掘っては歩き、また掘っては歩き出す、地獄のような光景の中をさまようコート姿の男を。
誰か●●●か・・・、誰か●●●か・・・と。
ただただ、誰かに向かって何かを求めて、誰もいなくなろうとしている場所で誰かを求め、ひたすら何かを探す言葉を言い続けて泣くことも出来ずにいる、孤独で哀れな一人だけになった男の光景を。
そんな光景を切嗣は知らない。見たことなど一度もない。
無いはずなのに・・・・・・何故だろう。妙に引っかかる。
それこもれも今朝方に、余計なことを告げてマスターの意識を乱した、あの暴君がすべて悪いのだが――――それ以外にも一つ大きな理由が、相手にはある。
――というのも先程。ライダーのマスターを訪ねさせて、マッケンジー宅に正面から向かわせて留守だという事を知った後。
あの黒く染まったセイバーは、結果をマスターである自分に報告した後に、
『倒すべき敵がいないのでは、私がいたところで意味は無い。先に屋敷へ帰らせてもらおう。帰宅したことが分かったら連絡をくれ、マスター。ハンバーガーを残したままなのでな』
「・・・・・・え? あ、おい、ちょっと待――」
という、やり取りを交わし、マスターを置いてサーヴァントだけ先に拠点へ帰ってしまった後になった末に今に至っていたという事情があったりするからだった。
――まったく、あのサーヴァントは!
敵地の近くにマスターを置いて自分だけ帰宅するサーヴァントがどこにいる!? マスターが倒されれば自分も終わりだという事ぐらい分からないのかアイツは本当に!!
・・・まぁ、この時間帯まで粘って何の変化もないのだから、あの家に居続けているのを隠していたわけではないのは確実だろうし、ライダーがいない状態ではサーヴァントを引きつける役のセイバーがいたところで目立つだけで邪魔にしかならないのは事実だったが・・・・・・
知らず知らずの間に、自分が狙っている相手のマスターと同じような悩みと苦悩を共有する羽目になっていた己を、衛宮切嗣はまったく知ることなく、可能性を考えようともせぬまま、タバコを吸いまくるだけで無駄な時間を過ごしていく。
―――帰ろうかな、と。
状況だけ見て考えたら、ダメっぽい人の結論みたいに思われかねない選択を選ぶか否かで、比重が傾いていた。まさにその時。
『マスタ――――――――ッッッ!!!!!!』
「う、うわぁぁぁぁっ!? な、なんだ!? 何があったセイバー!? 一体何がッ!?」
突如として心の中だけで、大声で呼ばれてメッチャ驚かされてしまった!!
あくまでマスターとサーヴァントとの間でだけ通じる意思疎通手段であって、声に出して伝達されたわけではなかったけれども!
それでも脳味噌をガンガンに揺さぶりまくるような大音量で叫ばれた側としては堪ったものではなかった!
なかったのだが――――今はもっと、それどころではなかったことを、その大声によって知らされる事になる!!
『緊急事態だ!! アイリスフィールが浚われた!! 急いで戻れ! 大至急だ!!』
「――っ! 敵の姿は!? 飛行宝具をもつライダーか・・・!?」
『・・・おそらく! 私の接近を察知したのか、あばら屋に戻った直後に石倉の壁を壊して撤退されてしまった!
マスターからもらった“ばいく”とやらで後を追っている!! マイヤも負傷させられている! 急げよッ!?』
「わかった! お前はそのまま敵を追跡して、アイリを奪還しろ!!」
『イエス! マイ・ロード!!!』
打てば響く交信を終えたときには、すでに切嗣は離脱準備を終えて走り出した後になっている!
アイリスフィールをライダーが何故!?
いや、そもそも奴らに彼女たちの居場所を知ることが出来た理由が分からない・・・・・・何がどうなっている!?
「クソッ・・・! 一体、なにが・・・・・・っ」
切嗣が予想外すぎる事態に、焦燥と困惑で焦らされていた頃!
彼のサーヴァントもまた、彼とは違う疑問、異なる矛盾点に心と頭を悩ませながら、それでも必死に空を行くライダーの後を追跡し続けていた!
ライダーが何故アイリスフィールを・・・?
いや、そもそも奴が彼女たちの居場所を知ることが出来たのだとしたら、まず・・・・・・それなのに何がどうなっているのか!?
「クッ・・・このまま行けば目的地は『シント方面』とやらいう場所になるか・・・! 飛行宝具相手に地上からでは不利だが、しかし問題はそれ以前に・・・・・・ッ!!」
マスターから与えられたメルセデスとやらいうマシンに跨がり、常識外の性能と《騎乗スキルA》を最大限にフル活用して異常なまでのスピードを発揮して、浚われたアイリスフィールを確保したまま空を行くライダーの後ろ姿を追跡していく!
グッタリとして小脇に抱えられている、今朝方から体調が更に悪化していたアイリスフィールを連れているため、ライダーには霊体化による撤退ができない。
宝具の性能があるとは言え、物理的な手段での移動に動きを制限させざるを得ない縛りをおっている。だからこそ地上を行くセイバーにも追跡が可能だった訳でもあるが・・・・・・それ故に解せない点が一つある。
それを確かめてからでなければ――――気が済まない!!
「むっ!? 奴め・・・降りてきたか!!」
地図で言うところの『コクドウ』とやらいう土地にある、森へ向かって伸びる開けた街道。
おそらく、そこを戦車を走行させる戦場として待ち受けるため、敢えて頭上の優位性を捨てて地上へと降りてくる腹づもりなのだろう。
自分という敵手と決着をつけるために!!
「いいだろう――。貴様の望み通り、燃え尽きるまで駆ってやるとしよう。
――だが!! その前にッッ!!!」
巨体な車体を横滑りさせながら降下してくる、御者も乗り物もデカブツ過ぎるデカ過ぎなチャリオット!
その敵を迎撃するためメルセデスを縦横無尽に操りながら、黒く染まった聖剣を実体化させ、宝具《エクスカリバー》を使用するため魔力を充填させ始めながら!
「ライダーァァァァァァァァァァァァッ!!!!」
セイバーは敵に向かって、叫び声のような問いを投げかける!!
場合によっては、これが恐るべき敵ではあっても、憎むべき怨敵ではなかった相手と交わす、最後の問答になるかもしれない問いを。
黒く染まったアーサー王のあり得たかもしれない可能性の一つは――今、再び。
可能性の一つを掲げよう―――
「戦う前に一つだけ、問う!! 貴様―――
敵国を落として美姫を浚ったとき、犯すか!? 殺すか!? どちらを選ぶぅぅぅッ!?」
「無論、犯すッ!!
食事にセックス! 眠りに戦!!
何事につけても存外に愉しみ抜くことが人生の秘訣というものであろう!?」
――判決、確定。この筋肉ダルマの男臭いマッチョは無罪。
どう見たって性欲強そうで絶倫そうな大男が、マイヤみたいな美女を犯すことなく殺そうとして、アイリスフィールだけ浚っていくなど合理的に考えてあり得なかった。
だから疑問だったわけだが・・・・・・これで謎は解けたので、セイバーはメルセデスを止めてバイクを降りる。
「・・・なんとも下らぬ上に興醒めで、下品な幕切れだったな・・・。
キレイよ、このように品のない劇を王の御前で演じさせ続ける脚本家が貴様というなら、相応の覚悟が必要になるのだがな・・・」
その結末を、遙か上空に浮かんだまま見物していた黄金の船から見下ろしながら、スッゲー見下した目つきで、汚いモノでも見るみたいに見物していた幕間劇を主演女優と男優の、性が今より奔放だった戦乱時代に生きてた王様と男装女王様は知らない。
つづく
*結果論として、舞弥生存ルート。
こんな理由で生き残れたのが本人にとって嬉しいかは知らない。
色々と不満のある内容だった方も少なくはないと思われますが、原作ストーリー的にこなさずにはいかないイベントなので書かずにはいきません。
義務は終わったので、次話から書きたい話に戻しますが、ギャグに使える原作シーンが残り少ないのも事実なので少し悩み中。
尚、今話の話で一番重要な原作との相違点は、【ライダーの「ゴルディアス・ホイール」が失われていない】です。
そこはお忘れませんようお願いしたい(真剣。伏線あり)