もしも切嗣が喚んだセイバーがオルタ化してたら   作:ひきがやもとまち

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ACT7

「よもや、この我を差し置いて“王”を称する不埒者が、一夜のうちに二匹も沸くとはな」

 

 その黄金の光は、ひとしきりライダーが吠え立てた直後に現れた。

 地上10メートル余りの高さに佇立する街灯のポール上に足を載せて現界した、金色に輝く黄金の甲冑をまとった絢爛豪華なサーヴァント。

 

「あいつは・・・」

 

 以前に一度、使い魔を通して目にしたことがあるウェイバーだけが瞬時にその正体を察することができていた。

 昨夜に遠阪邸へと侵入しようとしたアサシンを圧倒的な宝具の物量で葬り去った謎のサーヴァント。

 素性はわからないし、真名も不明だが、遠阪邸をアサシンの侵入から守り抜いたという事実から推測して、御三家の一つ遠阪家が召喚したサーヴァントで間違いはないだろう。

 

 それにクラスも、身なりからしてキャスターである可能性は低く、タイミングからしてライダーの挑発に乗って現れたと予測できるから理性を奪われたバーサーカークラスである可能性もほとんど無い。

 

 ならば残るは三大騎士クラス最後の一つ、アーチャーだ。

 

「難癖つけられてもなぁ・・・イスカンダルたる余は、世に知れ渡る征服王に他ならぬのだが」

「たわけ。真の英雄は、天上天下に我ただ独り。あとは有象無象の雑種に過ぎん」

 

 傲岸不遜なさらりとした態度と口調で言い切って見せた黄金のサーヴァントは、直後に左右の空間を「ゆらり」と陽炎のように歪ませて、昨夜見せたのと同じ攻撃方法をライダー目掛けて放つ準備を整えさせる。

 

「我が拝謁する栄に浴してなお、この面貌を見知らぬと申すなら、そんな蒙昧は生かしておく価値はない」

 

 宣言する黄金のサーヴァント。

 それを見たウェイバーは恐懼し、姿なきランサーのマスターは息を呑み、遠くから離れて監視していた切嗣と舞弥もまた緊張に身を固くさせられていた。

 

 三者三様、三騎のサーヴァントそれぞれのマスターに応じた反応の仕方ではあったが・・・それでも彼らが失念していたことに変わりはないと言えたのも事実ではあっただろう。

 

 それは、『これ以上サーヴァントが参戦してきてはいけない等というルールはない』という基本中の基本。

 本来こんな混沌とした戦場に、一枚しかない戦力にして切り札を投入するのは戦略的に見てバカげているし、勝ち残りをかけたサバイバル方式である聖杯戦争の定石からは外れすぎている。

 

 とはいえ所詮、定石は定石。戦略的合理性は勝ち残ることを前提として立案されたものでしかない。

 前提条件が異なるマスターがいた場合には、当然無意味化するのが自然の道理というものであろう。

 

「はは、はははは」

 

 闇の中で、使い魔を通じて遠阪が使役するサーヴァントを目にした男が憎悪に隻眼を血走らせて笑い声を漏らす。

 

「殺せ!」

 

 そして、積年の憎しみを声に出し、一年間に渡る生き地獄の中を耐え抜いてきた恨みと雪辱を晴らすための指令を下す悦楽に酔いしれる。

 

「殺すんだバーサーカー! あのアーチャーを殺し潰せぇッ!!」

 

 

 

 

 

 闇の中で御三家の一つ、間桐からきたマスターである間桐雁夜が憎しみの雄叫びを上げるのと同時、未遠川の側にある倉庫街で轟と吹き荒れた魔力の本流は誰一人として予期しないものだったが――ただしそれに続くであろう展開は、一人だけ予期しやすい状況になったことを意味してもいた。

 

「・・・バーサーカー・・・?」

 

 アイリスフィールから訝しげにつぶやいて、いきなり現れた“それ”を見つめる。

 それは言うなれば影だった。影としか形容しようのない異形の風体を持つサーヴァント。

 長身で肩幅の広い、おそらく性別は男のまとう甲冑に飾り気はなく、面貌すら覗わせない無骨なフルフェイスのヘルメットから覗く双眸だけが爛々と不気味な輝きに燃えたぎっている。

 

「・・・なぁ、征服王。アイツには誘いをかけんのか?」

「誘おうにもなぁ。ありゃあ、のっけから交渉の余地なさそうだわなぁ」

 

 揶揄するようにランサーがライダーに声をかけ、受けたライダーは憮然としながら顔をしかめる。

 

 ウェイバーは、マスターとして与えられている特権的な能力を使って相手サーヴァントの能力を視ようと試みて阻害されてしまう事実に驚き慌てて狼狽え騒ぎ、

 

「どうやら、アレもまた厄介な敵みたいね・・・」

 

 アイリスフィールもまた新たな強敵の参戦に緊張の色を隠せなくなってくる。

 

「それに、四人を相手に睨み合いとなってしまった現状では誰も迂闊に動くことができないわ」

 

 確かに彼女のいうとおりではあっただろう。バトルロイヤルの常道でいくなら、もっとも劣勢な者に総掛かりで襲いかかって潰すのが一番効率的で堅実と呼べる戦術なのだ。従って、もしこの場で弱みを見せようものなら最悪の場合四対一で絶望的な戦いを強いられる羽目になる。

 

 まずは誰が誰に仕掛けるか、さらにその隙を誰が衝くか――この場を生き延びるため、すべてのサーヴァントは敵の動向を正確に見極めて動くしかない。

 場は絶妙なアンバランスさで保たれた均衡の上で成り立つ、一時的な拮抗状態に陥ってしまっていたのである・・・・・・。

 

 が、しかし。

 

 

「そうかな? 存外、アッサリ事態は動き出すものと私は予測しているが・・・」

「え?」

 

 意外な言葉をセイバー・オルタは放ち、ドンヨリとした瞳と目つきで周囲を眺める。

 彼女には集まった面子の顔ぶれを確認した瞬間から、すでに最悪のシナリオが頭の中で合理的に思い浮かべられてしまっていた。

 

 サーヴァントにはマスターと違って、敵のステータス情報などを視る能力は与えられていない代わりとして、自分より後に生まれた英霊との知識的優劣を補いうるため、真名さえわかっていれば生前における敵情報や逸話までもを結構深くまで検索することが可能な機能が付与してもらっている。

 

 サーヴァントのステータスは純粋な能力面だけではなくて、生前の逸話や功績に影響される度合いが大きい。正確なステータスが視えなくても逸話さえわかれば大雑把な予測は対して難しいことでもなかったのだ。

 

 その結果は、セイバー・オルタの持つ軍団を指揮する天性の才能、カリスマスキル:Bにとって最悪の展開を予測しうるものとなっていた。

 

 

 ――そもそも危ういバランスの上で成り立つ拮抗状態というものは永続するものでは絶対になく、そのバランスを崩してしまうのは感情に走った誰かからの凶弾と相場が決まっている。

 そして拮抗という秩序が崩壊した乱戦の中で感情に走った敵に狙われやすいのは、純粋に運の悪い奴らであることを碌でもない戦場経験により把握していたセイバー・オルタにとって秩序が壊れた直後に訪れる破局の被害者候補の予測もまた範疇内ではあったのだ。

 

 まず、イスカンダル。問答無用でラックは最高ランク近いだろう絶対に。運の勝負でこいつに勝てる気がある奴の方が珍しいと彼女は思う。

 

 次に黄金のサーヴァント。真名は知らんが、全身くまなく金ピカ装備の超絶美形な自称王様が運悪いなどと古今東西聞いたこともない。なので普通にラックは高いと見るべきだろう。

 

 次、ランサー。ステータスを見るまでもなくフィオナ騎士団の一番槍ディルムッド・オディナの幸運値が高いわけがない。

 

 バーサーカーに至っては一見しただけで呪われている。明らかに亡霊とか怨霊の類いな雰囲気満載である。これで生前は幸福に生きたから幸運値だけは高かったら、そんなのを狂化してバーサーカーにしたマスターを選出する聖杯は真正のアホだと断言できる。

 

 

 そして、他の何よりも自分自身。

 最優のサーヴァント・セイバークラスであり、伝説の序盤を黄金の文字で埋め尽くされたブリテンの騎士王ではあるのだけれど、人生の後半生で色々やらかして晩節を汚す形で終わっているため正義の象徴扱いされてる割には幸運値が異常なほど低い。たったのDランクしかない。

 

 まぁ、たぶんディルムッドよりかは高いと思っているのだが、あいにくと彼の薄幸さは女絡みでないと意外に発揮されない逸話が多く、そして現在この場にいる女は自分とアイリスフィールの二人だけである。

 

 んで、アイリスフィールの方は生まれはともかく切嗣と出会って以降は結婚して子供産んで夫婦円満、見ている方が恥ずかしいほどのラブラブカップルである。相手冴えない中年親父だけれども。

 

 ・・・要するに、当世風で言うところのリア充だ。同じ絶世の美形でも“女”としては差がつきすぎている。特に胸とか。

 

 

 ――なのでまぁ、この顔ぶれが一堂に会して不幸に見回られるとしたら自分だろうなぁ~・・・と、セイバー・オルタは覚悟を決めて諦めの境地に達してしまっていたから色々とどうでもよくなっていた。

 何はなくとも生き延びることが最優先事項。ウォーティガーン討滅の時もここまで悲壮な覚悟はしてなかった気がするけど、今更言っても詮無きことである。

 

 と言うか、これら全部大体すべてが――――

 

 

「・・・・・・補佐官を殺して逃げて円卓を割る遠因をつくった裏切り者が全部悪い。アイツいつか時の彼方で出会ったら絶対殺す。今度こそ情け容赦なく恨み節ぶつけまくってから絶対殺してやる。補佐官の貢献に報いるためにも・・・・・・っ!!」

 

 円卓の嫌われ者として緩衝材になってくれてた補佐官のアグラヴェインから、姦通の罪犯してることを糾弾されて逆ギレして殺して逃げた円卓の部下のことを黒く染まったアーサー王は、今更ながら生前に処刑し損ねたことを心底後悔し始めていた。

 アイツさえ余計なことしやがらなかったら幸運値もここまで低下しなかっただろうし、こんな絶体絶命のピンチに陥ることはなかった気がする。

 そうだ全部アイツが悪い。だから殺そう。処刑しよう。

 

 そうだ、ランスロットを殺しに行こう。

 

 

 ・・・少し先の未来で日本の京都へ観光旅行にでも行くときのノリで軽く現実逃避をしながらセイバー・オルタが事態の推移を見守っていると、

 

「・・・・・・っ!!(ビクッ!?)」

 

 なぜかは知らねどバーサーカーが一瞬、ビクついていたように見えなくもなかった。なんか生前に嫌な逸話でもあって、オルタが発した負の情念でも吸収したのかもしれない。

 

 アイツ、周囲の怨念とか吸収してそうな見た目しているからな―、と事態を見守ることしかできない傍観者らしい他人行儀な気楽さで彼女がぼんやりバーサーカーを眺めていたところ。

 

 

「誰の許しを得て我を見ておった? 狂犬めが・・・・・・」

 

 アーチャーが怒りも露わに不躾なバーサーカーを見下ろし、睨み据えていた。

 

「剰え、この我の神々しい立ち姿に見惚れたというなら情状酌量を検討してやるか一考する程度の余地はあったかもしれんが、この我を見上げた後に王を僭称する他の雑種に見るものの先を変えるだと・・・? そこまで死に急ぐか、この痴れ者の狗如きめがッ!!」

 

 一喝し、展開を完了していた宝具をさらに二本増やしてから射出する。

 彼の知るところではなかったし、知ったところで行動が変わるわけでもないだろうが、バーサーカーの示した反応のうち前半のは、理性を失って自我もないからマスターである雁夜の指示に従っただけであり、後半のは召喚に応じて参上した理由の願望に起因する本能的な反応に過ぎなかったため全くの事実無根な冤罪である。彼に罪を犯そうとする意図はなかった。

 

 が、しかし。

 罰とは法を犯したこと、その行動と結果に対して下されるのが正しくて正義なものなので、動機とか意図とかは裁く側に温情の余地があるかどうかを査定する程度の意味しか持っておらず、裁判長兼死刑執行人でもあるアーチャーが『情状酌量の余地なし』と判断して判決を下したのだから、バーサーカー側の事情に意味や価値など微塵も認められない。

 

 それが厳正な法による統治の基本なのである。

 同じ暴君の治世としてセイバー・オルタと似ている部分もあるが、彼女の場合は性悪説を基にした法治主義なのに対して、アーチャーは王の意思が全ての法に優先する性善説を基にした人治主義なので根本的に相性が悪い。

 

 まぁ、法治も人治も古代中国の政治思想なので、ハンムラビ王すら生まれていない古代メソポタミアの王と比較するのはどうかとも思うが、時代と状況の違いというものはこういうものだと理解してもらえたらそれでよい。

 

 あと、アーチャーの正体はこの時点だとマスターの時臣と内弟子の綺礼と、年の離れた友人の璃正ぐらいなものだし。この場にいる本人以外の全員カンケーねー。

 

「せめて散りざまで興じさせて、我の不快さを少しでも慰めてから逝け。雑種ッ!!」

 

 冷厳なる宣告と同時に放たれた必殺の一撃。いや、四撃。

 だが、その全ては無意味に終わる。

 敵のバーサーカーは理性を無くしているとは思えぬほどの技量を示して、敵から放たれた投擲武器による攻撃を掴み取り、逆に切り払いの防具として、また反撃用の武器としても応用して見せたのだ。

 

「奴め、本当にバーサーカーか?」

「えらく芸達者な奴よのぅ。ありゃ、スキルにまで昇華された生前の逸話かなにかによるものかな?」

 

 張り詰めた声でランサーがつぶやき、セイバーのカリスマより軍団指揮に優れた効果を発揮する『軍略』のスキル持ちサーヴァントのライダーが唸りながらも感心した声で応じていた。

 

 彼にしても、生前の逸話がスキルにまで昇華されたのであって、それを可能ならしめた実績と能力あってこそのスキルであることは承知している。

 単なる数値としてのスキル使用だけでなく自分自身の鍛え上げた戦術眼をもってしてライダーはバーサーカーの持つ特異性の一端を暴き出すことに成功していたのだが、それが正しい答えであることを知る機会はおそらく来ることがないのもまた殺すか殺されるかが基本のバトルロイヤル聖杯戦争の悲しい現実だった。

 

 

「その汚らわしい手で我の宝物に触れたばかりか、天に仰ぎ見る我を同じ大地に立たせるとは・・・・・・不敬極まる雑種めが! もはや肉片一つ残してやる温情の余地など許してやらんぞ! 雑種―――――――ッ!!!!!」

 

 

『いや、お前は初手からそんな優しさは塵一つ分も持っていなかっただろう?』

 

 

 怒髪天を衝く勢いで叫び立てるアーチャーの怒声を聞きながら、未だ戦闘に参加する気のない(片方はとっとと撤退したい)二人の軍勢指揮するのが得意な暴君サーヴァントたちは冷静に心の中でそう評していたけど、声には出さなかった。

 下手に刺激して自分の方に飛び火するのは避けたかったし、怒り狂って冷静さを失ってる相手に正論なんて意味ないことぐらい承知の上だったし。

 

 合理的な思考ができる王様たちは、軍勢を指揮するのに向いてはいるが、ドラマティックな場面で空気に流されることがないから場の雰囲気をぶち壊しにしてしまう傾向がある。

 

 相手の弱点に自分の長所をぶつけ、相手が怒ったら煽り立てて利用することが戦争であり、相手の嫌がることは進んでやりましょうが戦争における倫理観の基本である。

 割と本気でこういう場面には向いていない連中だと思わなくもないのだが・・・まぁ、それはそれとして。

 

 

 

『拙いですね。ギルガメッシュは本気で、さらなる『ゲート・オブ・バビロン』を解き放つ気でおります。序盤はアサシンの諜報に徹するという我らの戦略的に非常に拙い状況です。

 ――導師よ、ご決断を』

『うむ・・・やむを得んな』

 

 

 

 倉庫街より遙か遠く、遠阪家の屋敷地下にある工房と聖堂教会の有する教会内から状況を観察していた二人の男のやりとり。

 

 そして、二人のうち片方が右手の甲を前にして己が胸にかざす。

 

『・・・礼呪をもって命じる。偉大なる王よ、怒りをお鎮めください・・・・・・』

 

 

 

 

「・・・チッ、命拾いをしたな。狂犬」

 

 今にも全力全開法具を解禁、出してもいい範囲でありったけのゲート・オブ・バビロンを発射してやろうとしていたアーチャーだったが、それが急に冷静さを取り戻して大人しくなり、憤懣やるかたない面相ではあったが一度決めた処刑命令を取り下げて殺意を消し、その傲岸さだけは揺るぎないまま居並ぶバーサーカー以外のサーヴァントたちを“今更になってようやく”睥睨する。

 遅すぎるだろ、と思わなくもなかったが・・・まぁ暴君だし。自分勝手なのは致し方なし。

 

「雑種ども。次までに有象無象を間引いておけ。我と見えるのは真の英雄のみで良い」

 

 最後にそう言い残して実体化を解き、姿を消す黄金の甲冑をまとったアーチャーのサーヴァント。

 それまでの喧噪が幻想であったかのように輝きの残滓は消え失せて、後に残るは見窄らしい倉庫街だった場所の残骸のみ。

 

 誰も予想しなかった形で、黄金と闇の騎士の対決という絵物語じみた戦いはあっけなく終結した・・・。

 

 

「・・・嵐のような男じゃったのぅ・・・」

「うん、どうやらアーチャーのマスターは、アーチャー自身ほど積極的な性格じゃないみたいだ・・・って言うか、お前そのセリフどっかで聞いたことがある気がするんだけど僕の気のせいだったか?

 具体的には昨日の晩に、マッケンジー宅の二階で僕の金使いながらビデオ見ながら」

「気のせいであろうよ」

 

 爽やかな風に吹かれているかのような清々しい表情を浮かべ、東洋の文化大好き征服王が論評し、そのバカを喚び出すことに成功したラッキーボーイのマスターが冷静に敵を分析しながら、ついでにツッコミも入れている。

 

 戦い終わって弛緩した空気がなせる業ではあったのだろうが、この中で唯一『直感スキルAランク』持ちサーヴァント、セイバー・オルタだけは緊張感を微塵も解いていなかった。

 むしろ、余計なことさえしなければ傍観者でいられた先ほどまでより更に数段階ぶん引き上げた緊張度と臨戦態勢を取って、漆黒のバーサーカーを睨み付けていた。

 

 理由はわからないながらも、彼女の本能と直感がうるさいぐらいに訴えかけてきているのだ。

 

“今夜の自分にとって本当の戦いはここからだ。

 ここからが自分にとって今夜の戦い本番なのだ”

 

 ――と。

 

 実際、その原因となるであろう定石無視するアーチャーが去った後に残った中では唯一戦術関係なさそうなサーヴァントであるバーサーカーは、当初の敵を見失いマスターの指示を果たし終えたと判断してからセイバー・オルタに目をつけて、怨念と執念の色だけに染まった視線でジッと凝視し続けてきている。

 

「・・・・・・・・・」

 

 当世風の表現を用いるなら、一途さを拗らせたストーカーにタゲられて相手の気持ちに決着がつかない限りは自分の方でいくら何をやっても無駄なタイプと相対したような、そんな場合と似たような危機感をプレッシャーとして押しつけまくってきている奴なのである。

 

「・・・・・・er・・・・・・」

 

 やがてバーサーカーは、地の底から響く呪詛のような声を発し、セイバー・オルタの背筋に悪寒を奔らせる。

 

 ・・・なんとなくだが、偏執狂的なまでに女で失敗する変質者と同じ気配を感じ取って怖気がしたのである。

 アインツベルン城でいろんな服着て色々な部分を見られ続ける中で微妙に敏感化していた彼女の中の女の部分が悲鳴を上げている。“コイツ、ヤバい。あとキモい”――と。

 

 

「・・・・・・ar・・・・・・er・・・・・・ッ!!

 urrrrrrrrrrrrッッ!!!!」

 

「やっぱりかい!!!」

 

 

 そして予想通りに全力で殺意を漲らせながら、ものすごい勢いと速度で漆黒の騎士王目掛けて突進してくる黒い騎士のサーヴァント。

 

 本当に、今夜の戦いはこれからだった!

 普通だったらここで終われる戦いだろうと、横紙破りが基本の聖杯戦争だと、ここからが本当に戦いの本番が始まってしまうものなのだから仕方が無い!

 礼儀正しく誇りを賭けた魔術師同士の決闘なんて、殺した者勝ちのルール有って無きが如しな聖杯戦争には一切合切金輪際関係しなかったから!

 

 今夜における本当の戦いは、本当の本当にここから始まる!!!

 

つづく

 

オマケ『次回予告のような駄文』

 

切嗣「・・・舞弥。僕のタイミングに合わせてアサシンを攻撃しろ。制圧射撃だ。それで出来た隙に僕がランサーのマスターを殺してセイバーだけが不利な状況を打破する。危険な賭けだが他に手がない――」

 

セイオル『やめろ阿呆! いきなり何をトチ狂った暴挙に出ようとしてるんだ貴様は!?』

 

切嗣「セイバー!? だが、この状況では他に手がな――」

 

セイオル『まだ開戦一日目の一戦目だぞ!? 一介の捨て駒暗殺者でもあるまいに、初っぱなからいきなりマスターが賭けに出てどうするつもりなんだ貴様は!? 本気で勝ちたいなら長期的にものを見ろ! 命の賭け時と捨て時を誤るな! やるにしてもまだ早すぎるだろうがぁぁぁっ!!!』

 

切嗣「む。・・・むぅ・・・だが、どうするつもりなんだセイバー? このままだとお前に勝ち目はないぞ? お前一人で挽回できる状況とは到底思えん・・・」

 

セイオル『単独でどうにか出来ない状況では、防御に徹して籠城し、状況の変化を待つのが兵法の基本だ! なんのための騎士の英霊サーヴァントだと思っている!? 馬鹿にするな愚か者!!』

 

切嗣「・・・・・・・・・むぅ」

 

セイオル『今はとにかく待て! 耐え忍べ! 勝利が私を見捨ててないなら必ず変化は訪れる! 戦の勝利は偶然手に入るものではなくて、勝つべくして勝つ者に与えられるものなんだ! お前も兵ではなく私を従えるマスターとして聖杯戦争に参加しているなら大局的に戦局を見て判断することも覚えるのだ!』

 

切嗣「・・・・・・・・・・・・・・・むむぅぅ・・・・・・」

 

 

*基本的に苦しむ人々を見てられなくて我慢できずに救済のため暗殺者になった切嗣さんは他人に任せて何もせずに待つのが苦手な人であり、罪悪感から自己犠牲で誰かを救いたがる自殺願望持ちな救世主タイプの男の人でもあります。

 

 

オマケ2『聖杯番外問答』

 

征服王「騎士王に金ピカ王に征服王たる余と、槍兵の騎士に黒い鎧の騎士・・・・・・王様多すぎるのではないか? 一人一家臣でも王様一人分余ってしまうぞ?」

 

騎士王「たしかに。職業と総人口がまったく噛み合ってないのは法による厳粛な統治的に見ても良くない状況だな。この際勢力図をハッキリさせておきたいのだが・・・・・・」

 

ラン・バサ『・・・一応、ブリタニア(ケルト)出身の俺たち(私たち)なんですけども・・・』

 

 

英雄王「不忠極まる謀反人どもめらが!(激怒)」

ウェイバー「・・・・・・(将来の征服王家臣は怖いので今は黙ってる)」


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