政略結婚をして、お家復興を目指す悪魔   作:あさまえいじ

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第15話 悩める部員を導くのも部長の仕事です

どうも、ゲーティア・バルバトスです。

 

レイヴェルの実家、フェニックス家にお邪魔してから、一週間が経ちました。

レイヴェルとは毎日連絡を取っており、日々の近況を伝えあっている。

連絡を欠かして愛想を尽くされる訳にもいかない。

義兄上である、ライザー殿にも言われたように、レイヴェルを泣かせるつもりは毛頭ない。

そろそろどこかにデートに行きたいところだ。

 

実は私と一護が不在の間、剣道部で少々厄介なことになった。

剣道部の部内対抗戦以降、部内が険悪になってしまったようだ。

原因はとある部員と他の部員との温度差にある。

仕方がない。

私が行くしかない。

 

side 木場祐斗

僕は木場祐斗、剣道部所属の一年だ。

僕は悪魔だ。リアス・グレモリー様のナイトだ。

そんな僕が今、剣道部の中で浮いた存在になっている。

原因は部内対抗戦でのことだ。

 

今から二週間程前に部内対抗戦が行われた。

昨年全国制覇を成し遂げた剣道部、その強さの秘密は常に上を目指していく姿勢にこそある。

そこで行われたのが序列を決めること。

部内対抗戦で序列を決め、その序列は、大会に出場する選手の選考に直結する。

誰もが分かりやすく、納得するシステムだ。

部内で強い者が他の部員全員の思いを継ぎ、戦う。

それが剣道部が常に上に、進化していく秘密だ。

 

現在の僕の序列は・・・・・・・最下位だ。

これはもちろん本気で戦ったからではない。

僕は悪魔だ。

そんな僕が全力で戦うことになれば人間を殺しかねない。

それに僕は大会に出場するつもりはない。

だから、部内対抗戦で敗北し続けた。

結果は全敗だった。

誰もが全力で、誰もが一番を目指し、戦った。

僕以外は。

序列はバルバトス公爵、黒崎先輩を除く二年生が序列の上位を独占した。

一年で唯一の一桁の序列9位となった、柴田君を激励したとき、僕は言われた。

 

「木場、お前に声を掛けて欲しくない。お前は俺達を下に見て本気で戦わないからだ。俺達は必死でお前に向かったのにお前はそんな気が全くなかった。だから木場、俺もこんなことを言うのはどうかと思う。だが言わせてくれ。剣道部を辞めろ。お前がいると、俺達は成長できない。」

「ーー!」

 

僕には言い返せなかった。

彼が言うことは至極真っ当だ。

そして、今なら入部当初の、ゲーティア部長が新入部員に言った、

 

「我が剣道部の目標は全国制覇だ。その意思がないものはこの場を去れ!」

 

僕は逃げそうになった、でも他の誰も動じなかった。

みんなには覚悟があった。

覚悟を持って、ここに来た。

でも、僕にはなかった。

その違いをまざまざと見せられた。

 

それから、僕は剣道部の部活には参加していたが、練習に身が入っていなかった。

黒崎先輩は最近忙しくて部活にこれていない。ゲーティア部長もだ。

だから、その間はある意味助かった。

部内対抗戦以降、顔を合わせていない。

黒崎先輩に合わせる顔がなかった。

指導して頂いて、以前よりも強くなったのは確信できるほどだ。

でも、それを生かそうとしない。

そんな指導、黒崎先輩からしたら、する意味がないだろう。

 

僕はリアス先輩に剣道部で一番強くなると言ってここに来た。

だけど、そんな僕は今や剣道部の最下位。

本気を出せば負けないだろう。

だけど、彼らと違い僕は悪魔だ。

体の強度が違う。

そう考えていると先輩達とゲーティア部長が道場に来られた。

 

「みんな、私の都合で指導を疎かにしてしまった。まずはその事を詫びたい。済まなかった。」

「何を仰いますか、部長。」

「そうです。部長が謝られること等、何もありません。」

「そうか。私は素晴らしい仲間を持った。これからも頼りにさせて貰う。」

「!!!」

 

先輩たちが驚愕している。

ゲーティア部長が先輩たちに礼を言った。

頼りにする、と言った。

先輩達の顔は歓喜の涙で溢れている。

一年の時に剣道部を作り、指導し、全国制覇に導いたゲーティア部長に頼られるというのは先輩達にとって、望外の喜びだったんだろう。

 

「では私の謝罪はこれ迄として、今日の練習に入る。だが、その前に木場祐斗、柴田勝家、両名、前に。」

「え、あ、はい!」

「・・・はい。」

 

僕と柴田君が前に呼ばれた。

柴田君の方を見ることができない。

あれから、特に何かをされることもない。

だけど気まずかった。

 

「柴田勝家、此度の部内対抗戦、新入部員の中で最高の結果を残した。これをまず評する。良くやった。」

「あ、ありがとうございます!」

 

柴田君は喜んでいる。

柴田君は他県からゲーティア部長の指導を受けたくて越境入学してきた。

誰よりも熱心に練習を取り組んでいることは僕もよく知っている。

それは、柴田君と一緒に練習しているのは僕だからだ。

最初に剣道部に馴染めていない僕に声を掛けてくれたのが柴田君だ。

だから彼に部をやめろと言われたことは悲しかった。

 

「だが、柴田・・・・・・何か勘違いしていないか?」

「え?」

「木場に剣道部を辞めろと言ったそうだな。」

「・・・・はい。言いました。」

「柴田、まず言っておく。剣道部の部員は個人の意思で退部を決める。これは何人も犯すことが出来ない我が部の法だ。それは知っているな。」

「はい。存じております。」

「ではなぜ木場に言った。」

「彼の部内対抗戦での戦績は全敗であり、結果は部内最下位です。彼はこの剣道部に不要です。」

「言ったはずだ、柴田。それを決める権利は誰にもない。」

「ですが彼の部内対抗戦での戦いはあまりに礼を欠いていました。対戦相手に全力を出さない、という、相手に最も礼を失するものでした。」

「!!」

 

見抜かれていた。

どうして。

 

「彼とはいつも共に練習してきました。だから、彼の実力は知っているつもりです。」

「だから、全力を出さない木場に柴田は剣道部を辞めろと言った、ということか?」

「はい。その通りです。」

「弛んでおる。木場ではなく柴田がだ。」

「何故ですか!」

「いつから、誰かを気にかけることができるほど、強くなった。」

「そ、それは・・・」

「柴田、お前はいつから、誰かの進退に口出し出来る程、偉くなった。」

「・・・・」

「新入部員の中で、一番強いということで、そのような驕った考えを持つようになったか。」

「・・・・」

「相手が全力を出そうが、出すまいが関係ない。ただ対峙する相手を己が打倒せんとする事以外考えるな。それは弱さだ。何かの邪念を振り払えない弱者の考えだ。現に他の新入部員の中で木場を気にかける者など一人もいない。其方以外は皆序列が二桁だ。誰もが其方を超えようと、必死なのだ。誰かを顧みることなどできぬほどに。」

「・・・・」

 

柴田君は何も言えない。

違う。それを責められるのは僕の方だ。

僕が真実を告げられず、必死で頑張る彼らを見下すように全力を出さず、わざと負けてきた。

だが、そのことを口にすることは僕にはできない。

 

「だが、柴田のいう意見で確かなことは、木場が我が部で最弱だということだ。」

「!!」

「反論の余地はあるか」

「そ、それは!」

「反論できる材料があるなら、木場、お前は驕っている。」

「僕が驕っている?」

「お前は全力を出すことを躊躇っている。何故か、力が強すぎるため、動きが速すぎるため・・・・・などと考えているならそれは負け犬の遠吠えだ。私は最初に言ったぞ。人は平等ではない、と。力があるのになぜ使わん。脚が速いのになぜ走らん。お前は驕っているといったのは本気を出せば勝てるなどという幻想を抱いているからだ。お前は弱い、この部で、最も。出せぬ力を誇り、出せる力で負けたそなたは、ただの弱者だ。」

「そ、それは!」

「嘘だと思うなら戦ってみよ。信長、道具を出せ。私が相手をする。」

「ゲーティア部長・・・」

「全力を出してみよ。私がお前の力、受けて止めてやる。」

 

ゲーティア部長は自分で防具を付けようとするが、周りの部員がやろうと奪い合っている。

ゲーティア部長の周りには人が溢れている。

僕の周りには誰もいない。

ただ1人を除いて。

 

「・・・木場、防具付けるの、手伝う。」

「・・・柴田君・・・」

「・・・ほら、早くやるぞ。」

「あ、ああ。ありがとう。」

 

柴田君は答えない。

僕は彼の信頼すら裏切ってしまった。

だから彼は僕を手伝うことなどする必要がない。

 

「できたぞ。」

「うん。ありがとう。」

「木場・・・お前いつも本気出さなかったな。」

「柴田君、気付いてたのかい?」

「お前が俺が作ったスキに、何時も気づく、その動きも俺が確実にやられる程の速さだ。なのに打つときにいつも躊躇する。意気地がないのか、いや違う。力を抑えるのに必死だと思った。最初は練習だから怪我させないようにしていると思っていた。だけど部内対抗戦ならお前も本気になると、思っていた。でもお前はまた本気を出さなかった。それどころか、何時も俺と練習しているときに見せたスピードも見せず、相手よりわざと弱くしていた。・・・だから俺はお前が許せない。お前が俺達を競い合う相手とみなしていないことに、そして何より・・・お前に全力を出させることが出来ない、不甲斐ない自分に腹が立つ!」

「・・・柴田君」

 

僕は彼にここまで真摯に向き合ってきただろうか。

僕を剣道部に馴染ませてくれた、いつも練習に誘ってくれた彼になんと酷い裏切りをしてきたのか。

僕は一体彼になんと言えばいいんだ。

 

「木場、お前が本気を、全力を出しても、ゲーティア部長に敵うとは思っていない。」

 

確かに僕にはゲーティア部長に勝てる気がしない。

黒崎先輩にもまるで勝てる気がしない。

黒崎先輩もゲーティア部長に勝てないと言っていた。

なら僕が勝てるはずがない。

 

「だから木場、良かったな。」

「え?」

「お前がやっと全力を出せる相手だ。やっと、相手を気にせず、本気で戦えるんだ。お前が強くなりたいなんて、いつも一緒に練習してきた俺が一番よくわかる。だから木場、楽しめ。お前の本気、俺に見せてくれ!」

柴田君は僕に拳を差し出してきた。

僕はその拳を、無意識に自分の拳で合わせていた。

 

「柴田君、ありがとう。行ってきます。」

「ああ、行って来い!」

 

僕は柴田君に背中を押され、ゲーティア部長の前に立つ。

いいものだな、誰かに背中を押されるというのは。

 

「互いに礼」

 

眼前に見えるゲーティア部長。

大きく、強く、そして圧倒的な威圧感を放っている。

柴田君に背中を押されなければ、眼前に相対することも出来なかった。

 

「始め!」

 

審判の開始の合図と共に弾かれるように飛び出した。

 

「胴!!!!」

 

僕は全力の、悪魔としての、ナイトとしての、全力のスピードでゲーティア部長の胴を狙った。

僕とゲーティア部長には大きな身長差がある。

その僕が面を狙えば、確実に狙い撃ちにされる。

小手を狙ってもリーチ差もあるため、容易に引かれて躱される。

突きも論外。

なら、狙いはただ一つ。

全力最速で一気に胴打ち決める。

 

「遅い。」

 

ゲーティア部長は僕の胴打ちを突きで止めた。

そして今も止められている。

 

「な!」

 

驚愕の一言だ。

何故僕の剣がピクリとも動かない!

ゲーティア先輩は僕の竹刀を自身の竹刀の先、一点で支えている。

 

「非力だ。」

 

ゲーティア部長が呟き、押し飛ばされた。

僕は何とか、地面に這いつくばり勢いを殺した。

ただ押されただけで、ここまで飛ばされた。

 

「その程度の力とスピードで全力を出すのを躊躇ったのか。それはあまりに愚かだ。」

 

ゲーティア部長が距離を詰めてくる。

僕はもう一度全力でかけて、胴を狙う。

 

「この程度のスピード、二年なら軽く上回る。」

 

今度は止められもしなかった。

僕はゲーティア部長の姿が目の前で消えたようにしか見えなかった。

なので必死でクビを回し、視界に入れようとした。

でも、いない。

 

「木場ー!後ろ!」

「どこを見ている。私はずっとお前の後ろにいたぞ。」

 

背後から声が聞こえて咄嗟に前に飛んだ。

 

「ようやく私を見つけたな。」

 

速い。

全く見えなかった。

 

「では受けてみよ、木場。胴!」

 

一瞬で距離を詰められ、右手一本で竹刀で振りぬいて僕は壁に叩きつけられた。

 

「ガアッ!!」

 

僕には何も見えなかった、咄嗟に竹刀で防いで直撃を免れた。

でも壁に叩きつけられていた。

防ぐことも満足に出来ていなかった。

 

さすが上級悪魔だ。

僕が勝てないのはゲーティア先輩との単純な力の差だ。

これは恥ではない。

人間が相手だったら負けなかったのに・・・

 

「木場、お前まだ、種族のことを気にしているな。」

「え?」

 

ゲーティア部長は僕にだけ聞こえるように小さい声で話してきた。

 

「お前の気持ちも分かる。私と一護が大会に出ないのはそれが理由だ。」

「ゲーティア部長、やっぱり僕の考えは間違いでは・・・」

「だが、木場。お前、私や一護と自分が同格だと思いあがっているのではないか。」

「ーー!」

「ハッキリと言おう。お前は弱い。これは事実だ。信長達に遠く及ばず、一年の中にもお前より強い奴もいる。」

「そ、そんなわけ・・・」

「ある。」

 

また一振りで壁に叩きつけられた。

そして、ゲーティア部長はまた声を掛けてきた。

 

「今の一撃、二年なら止められた。」

「え!」

 

またも一振りで飛ばされた。

今度もゲーティア部長は話しかけてきた。

 

「今の一撃、二年なら躱したぞ。立て、木場!」

「ーー!」

「構えろ!」

「は、はい!」

「打ち込んで来い!」

「はい!」

 

今度は僕から打ち込みをかけた。

それを受け止め、今度は顔を合わせながら、話してきた。

 

「木場、身体的な有利は悪魔と人間の種族の差だ。それは否定しない。だが、努力した人間が堕落した悪魔に勝てない道理はない。彼らの努力は悪魔をも上回る。人間をなめるな、悪魔。」

 

僕は人間をなめていたのか・・・

元は人間なのに。

悪魔に転生して、人間をなめていた。

僕は人間に復讐を誓ったのに。

 

あの日、僕たちを殺した人間に、復讐を誓った。

なのに、これまでの平穏でそれを忘れていた。

ゲーティア部長、僕は忘れていました。

人間は狡猾で残忍で命を道具のように扱う、悪魔以上の悪魔だ。

なら、人間なんて殺してもいいですよね。

 

「うおおおおおおおお!!」

 

僕は吠えた。

僕を殺した、僕の仲間を殺した、人間を殺す。

そう決めたなら、練習中に全力を出して殺しても問題ないですよね。

 

「それが全力か?」

「うおおおおおおお!!!」

「・・・・本当に全力か?」

「うおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

「・・・・・・・・最後にもう一回聞く、それが本当に全力か?」

「うおおお・・・・・・ハァハァ・・・・はい・・・」

「情けない。」

 

その言葉と共に再度壁に叩きつけられ、気を失った。

 

 

僕は剣道場の壁の近くで目が覚めた。

防具は外されている。

そして、剣道場を見渡すとそこには・・・・・大勢の剣道部員が倒れていた。

 

立っているのはゲーティア部長と先輩たち八人だけだ。

 

「チェストォォォォォォォォォォォ!!」

 

島津先輩がゲーティア部長に突進していく。

その速さは僕の全力以上だ。

 

「ふん!」

 

ゲーティア部長が受け止めた、今度は両腕だ。

 

「やるじゃないか、義弘。お前の力は我が部、最強だな。だが、まだまだ私には及ばない。ブルラアアアア!!」

「グホォ!!あり、がとう、ございます、ゲーティア、部長。」

 

そう言って島津先輩が倒れこむ。

ゲーティア部長はその後も毛利先輩、武田先輩、北条先輩、長尾先輩と次々に倒していく。

全員僕以上の力とスピードでゲーティア部長に食らいつき、皆褒められながら倒されていく。

 

「是非もなし!」

「面白い…その力、我自ら見極めてやろう!」

「絆の力を見せてやる!」

 

織田先輩、豊臣先輩、徳川先輩の三人がゲーティア先輩に向かっていく。

3人とも僕なんて烏滸がましい程の力とスピードで迫る。

 

「おもしろい、楽しませてみろ!」

 

ゲーティア部長は圧倒的な威圧感を放つ。

僕はその威圧感で身を縮める。

だが、三人の先輩はまるで効いていないようだ。

その後の戦いは、僕にはまるで見えず、何が起こっているのか、分からなかった。

そして、最後に立っていたのは、

 

「貴様らはぁ、俺の最高の玩具だったぜぇ!」

 

ゲーティア部長だった。

嬉しそうに倒れた先輩たちを見下ろして、その言葉を発した。

その言葉を聞き、倒れている先輩たちは嬉しそうな顔をしながら、意識を失った。

 

「これが、剣道部。」

 

僕にはこの剣道部に加減が必要ないことを心底理解した。

 

 

それからの僕は必死で稽古に打ち込んだ。

毎日練習に付き合ってくれた柴田君、そして多くの友達が出来た。

でも、序列は・・・・・30位。

全部員が40人なので、10人には勝った。

でも頂点はまだ先だ。

 

リアス部長、ごめんなさい。

僕もう無理かも・・・

 

剣道部で一番になる、と言った過去の自分を全力で阻止したい気分だった。

 

side out

 


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