政略結婚をして、お家復興を目指す悪魔   作:あさまえいじ

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第16話 婚約者と友達

どうも、ゲーティア・バルバトスです。

 

剣道部の問題が解決してから二週間が経った。

季節は6月に入った。

先日、二度目の部内対抗戦が行われ、順位の変動が色々あった。

中でも木場は順位を10も上げて30位に上昇した。

どうやら、吹っ切れたようだ。

最近は練習する姿に迷いはなく、遅くまで居残り練習していることを知っている。

特に、柴田と打ち合いをしている姿をよく見る。

これからも頑張ってほしいと思う。

リアスの眷属だからと言って、剣道部の部員である以上、指導に手を抜くことはない。

木場も剣道部員の一員として全国制覇を目指して頑張ってほしい。

来月は夏合宿、そして地区大会が始まる。

そして順当に勝ち抜ければ、再来月には全国大会だ。

気を引き締めなければ。

 

風紀委員の仕事も最近は特に進展もない。

いいことだ。私が忙しくないというのは。

駒王町全体が平和になったことを大変うれしく思う。

変態三人組に関しても、着けている監視からも動きはない、という報告が上がってくる。

これは監視している人員を日替わりで交代しているにも関わらず、同じ意見が上がっているので信用できる。

大人しくなったな。

このまま監視を継続すれば、平和を維持できそうだ。

 

文芸部の方だが、夏が近いので来てほしい、と楓から打診されている。

最近は全く顔を出せていなかったので、近々行くことを約束した。

楓は涙を流し、歓喜してくれた。

そこまで喜んでもらえると、私も嬉しい限りだ。

 

さて、現在の私は駅にいる。

なぜなら、

 

「ゲーティア様~」

「レイヴェル、よく来てくれた。」

 

レイヴェルが人間界に遊びに来たからだ。

冥界から悪魔専用ルートでやって来たため、私が迎えに来ている。

 

「ゲーティア様、お待たせいたしましたわ。」

「ようこそレイヴェル。直接会うのは2週間ぶりだな。」

「ええ、御逢いしたかったですわ。」

 

彼女が人間界に来たのには訳がある。

 

「では、お願い致しますわ。ゲーティア様。」

「ああ、では行こう、レイヴェル。」

 

私はレイヴェルを連れ、駒王学園を目指した。

 

 

「こちらが、ゲーティア様が通われている学園なのですわね。」

「ああ、ようこそ駒王学園へ、レイヴェル。」

 

来年からレイヴェルも人間界の学校に通うため見学に来た。

私に色々案内させるつもりのようだ。

でも、折角来てくれたんだ。

たくさん案内しよう。

 

今日は休日のため、生徒たちは部活に来ている生徒以外はいない。

静かな校舎の中を歩いていると、レイヴェルは物珍しいのかキョロキョロ見回している。

そんなレイヴェルを見ていると。、今日の訪問先一つ目にたどり着いた。

 

side ソーナ・シトリー

私の名前はソーナ・シトリー。

駒王学園の生徒会に所属しています。

私は休日にも関わらず、学校に来ている。

駒王学園の部費の割り当てや風紀委員の増員に伴う予算の調整を行っています。

そして、約束があります。

コンコン、と生徒会室の扉がノックされる。

今日は休日だ。

でも私はその音を待っていた。

 

「どうぞ」

 

私の声が届いたようで、扉が開いた。

 

「失礼する、ソーナ。」

「いえ、お待ちしていました、ゲーティア。それに・・・レイヴェルさん。」

「ご無沙汰しておりますわ。ソーナさん。」

「ええ、どうぞこちらへ。」

 

私は二人に席を進めた。

二人掛けのソファーに二人並んで座った。

私は彼と対面に座った。

椿姫にはお茶の用意をしてもらい、今日の訪問者に対峙する。

 

「今日の訪問の理由はレイヴェルさんの学校見学でしたね。」

「ああ、そして正式にソーナにも紹介しておきたい。ソーナ、私、ゲーティア・バルバトスはこちらのレイヴェル・フェニックスと正式に婚約をした。友人であるソーナには紹介が遅れてすまなかった。」

「フフ、その話は既に伺っています。ですが、お二人揃ってのご挨拶痛み入ります。」

 

彼も律儀な人です。

レイヴェルさんも。

 

私がレイヴェルさんを知っているのは親友のリアスが彼女の兄、ライザー・フェニックスさんと婚約をしているため、紹介されたことがあったからだ。

ただ、あの時とは印象が随分違う。

あの時は高飛車な性格に見受けた。

でも今は落ち着いた、大人の女性のような印象に変わりつつある。

 

ゲーティアとレイヴェルさんの婚約は悪魔界で有名なのだ。

当然だ。魔王ルシファー様がお選びになった、魔王公認のカップルだからだ。

その話は、今、悪魔界の女性の中でブームになっている。

御家を継いだ若い公爵が、困難の果てに魔王様に願い出る。

私の理想の妻を探して下さい、という願いだ。

そして、魔王様は最もふさわしい女性を見つけ、公爵と見合いをさせた。

そこからだ、一気に盛り上がったのは。

一目見た公爵は第一声として、

 

「あなたが欲しい。結婚してください。」

 

いきなりプロポーズだ。

これに貴族の女性陣は大いに感動した。

誰もが家のために結婚すると思っていたのに、あなたが欲しい、という言葉。

この言葉は政略結婚でも運命の出会いがあることを女性陣に教えた。

この彼らの出会いをもとに作られた作品が大ブームなのだ。

当然、私も小説版を持っている。

後に映画化を予定しているらしい。

お姉様がヒロインをするようだ。

何でもプロデューサーに誠心誠意"ONEGAI"したそうで、そのプロデューサーは涙を流しながらOKをくれたようだ。

直後にプロデューサーは入院してしまったが、サーゼクス様が代わりにプロデューサーをする事で更に話題になった。

自身も本人役として出演するそうだ。

権力の無駄遣いである。

 

「お茶が入りました。」

「ありがとう、椿姫。」

「ありがとうございますわ。」

「いえ。」

 

椿姫がお茶を用意してくれました。

お茶、それを見ておもいだした。

 

ゲーティアと出会った、一年以上前を。

最初は同い年の公爵、という何処か近寄りがたい想いを抱いていた。

でも、せっかくなのでお茶に誘って見ると予定を聞いてから、直ぐにOKしてくれた。

次の印象は、真面目な印象を感じた。やるべき事をしっかりやる人だと思いました。

お茶に誘って、その場にリアスがいて、身構えたのを覚えています。

だから、面白そうなので、リアスの隣の席に案内しました。

ただ、居心地が悪そうなので、リアスとの間に入ってあげました。

二人の間の蟠りが解けたのは私のおかげですね。

そのあと彼の話を聞いて、彼のことを知りました。

 

それから同じ学校に通うことになり、彼がまた、やらかしました。

剣道部を作ったんです。それはいいんです。それは。

でもいきなり全国制覇させたんです。

最初は彼が出て、全員倒して優勝したのかと思いました。

でも違いました。

彼は部長として、部員を預かる立場として行動し、指導をし、優勝させました。

部員全員が彼に心服していました。

彼は、指導する才能がある、と思いました。

私の夢はレーティングゲームの学校を作ることです。

経済状況や身分で参加出来ないということを変えたいと思っていました。

だから、彼ならわたしと同じ夢を見てくれるかもしれない、と勝手に思いました。

 

でも、すぐに彼とは意見が合わない、私たちは絶対に相いれない、そう思いました。

あるとき、チェスをしないかと、誘いました。

彼は渋りました。

 

「私はチェスは好かんのだが・・・」

 

それでも彼はやってくれました。

結果は私の勝ちでした。完勝です。

その後、ゲーティアは言いました。

 

「やっぱりチェスは好かんな。」

 

何故好かないのか理由を聞きました。

 

「対等で始まるからだ。」

「対等?なにかおかしいですか?」

 

チェスは対等の条件から如何にして勝利するか知恵を巡らせるゲームだ。

ハンデでもつけろとでもいうのか?

 

「戦いとは始まる前から決まっているものだ。強力な仲間を集め、圧倒的な数を揃え、質と量で勝つ。その準備をし終えてから戦えば勝つ。」

 

ゲーティアの言うことは分かる。確かに戦いに勝利するのに、強力な駒や兵の数は戦いの勝敗を左右する。

だが、それだけで戦いが決まるわけではない。

緻密な作戦が勝利を決める。

私はそんな考えを持っていましたが、ゲーティアは反論しました。

 

「一度の勝利ならばそれで構わない。だが、それで終わりか。次は、どうする。その作戦を実行する兵も少しずつ減れば、最後は数の勝利だ。」

「消耗戦ですか。だからこその作戦です。少ない戦力で効率的に勝利する、これが戦いの醍醐味です。」

 

私も彼も主張を曲げることはなく、何度も話し合い、熱い議論を交わし、一度も結論が出ません。

昨日もそうでした。

きっと彼とは分かり合えない、だから来週も議論をするんだろう。

 

私と彼の間柄は友達です。

この一年、彼の起こす騒動に巻き込まれた。

最近では風紀委員長になった。

それの調整を行ったのは私です。

そんな騒動に文句も言わず助けるのは友達の私くらいです。

決して他の誰でもない。

もし私が生徒会長になって、風紀委員長に指名するのは彼だ。

 

私はシトリー家の次女ですが、お姉様は魔王です。

シトリー家を継ぐのは私です。

だから彼とは縁がない。

そんなことは彼の存在を知ったときから知っていました。

だから、今彼と机を介して向かい合う、この距離間が私と彼の、友達の距離です。

決して、彼と彼女が座る二人掛けのソファーの距離間ではない。

これだけの縁があったんです。

これ以上を望むのは・・・・・

 

「ソーナ」

 

私はゲーティアの声で顔を上げた。

 

「どうかしたか?」

 

彼が私を真正面から机から乗り出し、私の顔を見つめる。

やめてください。

その机を越えないでください。

その机が彼女と私の境界線。

婚約者と友達の境界線。

 

「顔色、悪いぞ。大丈夫か。」

 

彼は私の心の葛藤をよそに腕を伸ばしてきた。

彼は私の顔に手を添え、ジッと私を見つめる。

 

「あ、暑いですから・・・大丈夫ですよ。」

 

私は笑えているだろうか?

ちゃんと友達の顔を出来ているでしょうか?

彼との縁を壊したくない。

 

「だが・・・」

「ゲーティア様、あまり女性の顔に触れるのは感心しませんよ。」

 

ッ!

私に向けられていた視線が、手が、離れていく。

彼女に全て向けられていく。

 

「レイヴェル、だがソーナの調子が・・・」

「だからと言って、女性にみだりに殿方が触れることは宜しくありませんわ。」

「ああ、そうだな。ソーナ、すまなかった。」

「い、いいえ。気にしていません。」

 

私は何故か胸が痛いような錯覚に襲われた。

二人を見ていると、何故か。

 

 

「ソーナ、すまないな。時間を取らせてしまって。」

「いいえ、ゲーティアとレイヴェルさんが折角ご挨拶に来てくださったんですから、これくらいは大したことではありません。」

「ソーナ様、本日はありがとうございました。」

「レイヴェルさん、いえ、こちらこそご挨拶に来ていただき、ありがとうございます。」

「では、また来週。」

「私も近いうちに、またお会いしましょう。」

 

私は二人を生徒会室の外まで見送り、二人が見えなくなると生徒会室に戻ってソファーに座った。

さっきまでレイヴェルが座っていた場所に。

私にはこの場所に座る権利も、縁も、ない。

そう自分に言い聞かせて、天を仰いで息を吐いた。

すると視界が真っ暗になった。

 

「椿姫、暑苦しいですよ。」

 

椿姫が私の顔の上に自分の胸を乗せてきた。

 

「そうですね、暑いですね。」

「ええ、このままだと汗をかいてしまいます。」

「いいですよ、私は気にしません。」

「・・・・・そうですか。後で後悔しても知りませんよ。」

 

私は汗が止まらなかった。

目からこぼれる汗を自分の意志で止めることが出来なかった。

水の魔力を使うのは得意なのに、自分の意志で止めれない。

椿姫は私の上で動かない。

ああ、本当に暑い。

 

一頻り出し尽くしたのか、やっと収まった。

椿姫には悪いことをしました。後で、お礼をしませんとね。

そうだ、手作りのお菓子を作りましょう。

心を込めて作ります。

私の感謝の気持ちです。

受け取ってくださいね。

 

side out

 




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