義兄殿とリアスの対戦が決まった次の日、私は風紀委員室で一人仕事をしていた。
今日はレイヴェルはいない、実家に顔を出しているからだ。
そんな風紀委員室に来訪者が現れた、アーシアだ。
以前来たのは先月、お礼を言いに来たときだ。
どうしたんだろうか、私が考えていると、アーシアの言葉に私は自分の耳を疑った。
「すまない、アーシア。もう一度聞かせてもらっていいか?ちょっと理解できなかった。」
「はい、部長さんは朱乃さんと小猫ちゃんを連れて合宿に行きました。本当は眷属全員で行こうとしてたんですけど、イッセーさんと木場さんはそれぞれ仕事があるので残りました。私はイッセーさんが残るので、残りました」
「ああ、そこまでは理解できた。リアスと朱乃と塔城の三人で合宿に行ったんだな、そこまでは分かった。後はなんだった?」
「はい。なので仕事はお任せする、だそうです」
仕事、今までしたことあったか?
私の疑問が晴れなかったが、まあいい。
いつも通りに仕事を遂行しよう。
私は連絡してくれたアーシアにねぎらいとこれからについて尋ねた。
「アーシア、態々連絡すまない。しかし、アーシアはどうするんだ?後9日後には義兄、ライザー殿と戦うことになるだろうが」
「はい、でも私は戦えませんから、ついて行っても仕方ありません」
確かに彼女は戦いに向く性格をしていない。
なら仕方ないだろう。
義兄殿も向かってくる相手ならば容赦しないだろうが、戦わない相手まで攻撃するようなことはないだろう。
「そうか、ならば戦いが始まったと同時にリタイアしろ、無駄に怪我する必要はない。いいな」
「はい、分かりました。ゲーティア先輩」
素直な子だ。
尚の事、彼女をこんな世界に引っ張り込んだリアスには一言いいたいところだ。
しかし、彼女をリアスに任せたのは私だ。
ソーナや魔王様にお願いするなど他にも手はあった。
だが選ばなかった、彼女にそこまでする理由がないからだ。
そんな私がアーシア・アルジェントを今更気にかけても、ただの偽善だな。
だから最低限の、学園の先輩、後輩くらいの関係で彼女を助けよう。
「アーシアは普段の放課後はどうしている?」
「普段はオカルト研究部で部長さん達とお茶してます」
「‥‥‥そうか」
私はどう反応しようか、悩んだ。
彼女がオカルト研究部でお茶していることはまだいい、部長さん達と、言った。
働けリアス!思わず叫ばなかった私を誰か褒めて欲しい。
いかん、落ち着け、私。
アーシアは悪くない。
リアスが悪い、そう思おう。
私は気を取り直し、アーシアに質問した。
「アーシアは学園で困ったことはないか?転校してきて日が浅いだろう、それに日本での暮らしに疑問や問題はないか?そう言ったことがあれば私やソーナに言ってくれ。私もソーナも学園の生徒の手助けを行う役職にいるんだ。なんでも言って欲しい」
「はい、ありがとうございます。あの~実は教えて欲しいことがあるんですけどいいですか~」
「ああ、構わない。何でも聞いてくれ」
「あの、イッセーさんの事なんですけど‥‥‥」
「一誠がどうかしたのか?」
「あの、イッセーさん、自分の魔力が少ないことを気にしているみたいなんです。だから何か私で力になれることはないでしょうか?」
「うーん‥‥‥」
一誠の魔力が少ないことは私も知っている。
最初はミジンコレベルで最近はハエレベルに成長した。
確かに少ない、私と比べると太陽とハエの差だ。
だが着実に成長している、焦る必要はないんだが、こういうのは周りが言っても、当人が納得しないと仕方がない。
それにこういうのは言い換えれば向上心というんだ。
成長するためには必要な要素だ。
だがそれ以上に必要なのは競い合う相手だ。
一誠を成長させるためには共に競い合ってくれて、何より一誠を見下さない、それでいて同じ出発点の存在が必要だ。
私はそう考えると、真剣に私の答えを待っている、アーシアがいる。
彼女なら、一誠も負けないように頑張るだろうし、彼女は一誠を決して見下さないだろうし、煽るようなことはしない、ならば彼女を育てて、一誠と競い合わせよう。
「アーシア、一誠のライバルにならないか?」
「え?」
アーシアが戸惑っている。
だが、アーシアを説得するいい言葉がある。
「アーシア、魔力の量を鍛えるために必要なことは地道な努力なんだ。魔力は要は体力と同じで、使えば減るし、休めば回復する。そして継続して鍛えることで上限を増やしていけるんだ。ここまではいいな?」
「はい、それは分かります」
「では、継続して鍛えるにはどうすればいいか、それは誰かに見ていてもらうことだ」
「誰かに見ていてもらう、ですか?」
「ああ、地道な努力というのは成果が現れにくい。何日、何か月、何年もかかってようやく成果が分かる。でも、少しでもサボればあまり増えない、頑張っても増えないと思ってしまう。長期的に何かをするのに最も大切なことは自分を信じることだ。でも、自分というのはブレるものだ。自分を疑えば質を、量を、落としていく。そうなると成果が悪くなるんだ。でも、他人が見ている、そう、競い合う相手が見ていれば、手を抜けない。その役目をアーシアが担ってみないか?」
「私に出来るでしょうか?」
「ああ、アーシア、君なら一誠を決して見下さない。それが一番大事なんだ。最初はだれでも出来ない。でもがんばれば出来るかもしれない。だがやる気を失くせば出来る者も出来なくなる。君なら、一誠はやる気を出すし、何より励まし、やる気にもさせられる。それに君自身も魔力の使い方に慣れていないから、一誠と一緒に練習して成長すれば、良き相談相手であり、競い合うライバルであり、良き友となれる、私はそう考えている。アーシア、一誠のために君の力を貸してほしい」
「はい!分かりました、頑張ります!」
アーシアがやる気になってくれた。
これで一誠も更に頑張るだろう。
頑張り過ぎて倒れるかもしれないが、まあいいだろう。
悪魔だから頑丈だし、アーシアは回復の神器持ちだ、首から上だけ残っていれば復活出来るだろう。
私は一誠ならやれると信じて、アーシアを鍛えることを決めた。
「そうか、では早速練習してみよう」
「はい、頑張ります」
アーシアもやる気になってくれた。
一誠に私が教えてやれるのは戦い方くらいだ。
基礎能力を高めるには地道な努力だ、だがそれは一人でやるよりは二人がいいし、仲間、いやライバルがいた方が気合が入るだろう。
肉体の強化は私がサンドバック代わりに叩き続ければ強くなるが、魔力量は使い続けないと鍛えられない。
それに使い続ければ、魔力の使い方も覚えるだろう。
アーシアは性格的に戦いは向かないが、魔力量の向上と操作技術は出来るに越したことはない。
退屈な時にでも遊びで使う感覚で使えば十分だろう。
私はそんなことを考えながら、アーシアに魔力を使った遊びを教えた。
side 兵藤一誠
「お疲れさまでした、織田さん。」
「兵藤、よくやった。褒めて遣わす」
「ありがとうございます。では俺はゲーティア風紀委員長に報告に向かいます。織田さんはこれから剣道部ですか?」
「ああ、もうすぐ部内対抗戦だ。今年で最後だ、ならば悔いが残らぬようにやるだけよ」
「織田さん、応援しています」
「フ、デアルカ」
俺は風紀委員のはぐれ悪魔対策部隊の末席に組みこまれている。
俺はいつも剣道部の人と組むことになるが、よく組むことになるのが織田さんだ。
織田さんは近寄りがたい雰囲気の人だが、気の利くいい先輩だ。
俺のことも認めてくれてからは何かと、面倒を見てくれている。
たまに組手の相手もしてくれて、そのたびに負けている。
剣道部の序列一位は伊達じゃない、その力を思い知らされた。
俺ももっともっと強くならないと、そう思って、リアス部長達の合宿を断ってこっちに残った。
他にも木場とアーシアも残った。
ここに残って改めて、ライザー様との戦いについて考えた。
リアス部長の眷属で一番強いのは木場だ。
そして次が俺だ。
リアス部長、朱乃さん、小猫ちゃん、アーシア、たぶん後はこの順番だ。
最近、ゲーティア風紀委員長に鍛えられるようになってから強さが肌で分かるようになってきた。
この学園では間違いなく最強はゲーティア風紀委員長だ。
次は文芸部の部長の秋野先輩、剣道部の副部長の黒崎先輩、後は剣道部の序列通りに続いて、大体20位くらいにソーナ会長のポーン、確か匙だったか、が入ってくる。その後は序列通りで、一年の剣道部の数人に続いてリアス部長とソーナ会長、その後は各眷属が入ってくる。
ライザー様の力はゲーティア風紀委員長に匹敵するほどだろう。
あの時握手をしたとき、圧倒的な差を感じた。
ゲーティア風紀委員長に相対したような、圧倒的な差だ。
まともにやっても勝ち目なんてない、俺は冷静にそう思った。
気合や根性で勝てる程、そんな簡単な差では決してない。
合宿に行くにしても、ゲーティア風紀委員長のような圧倒的な強者のいない合宿に意味などない、そう思って残った。
実際、俺も木場もこの環境の方が合っている。
強い相手と戦い実戦を積む。
リアス部長の合宿で、どれほど強くなれるのかは未知数だ。
でもゲーティア風紀委員長は俺を間違いなく強くしてくれる、そう確信している。
だけど、情けないのは俺の方だな。
魔力が低すぎる、こればかりはどうしようもない。
折角のゲーティア風紀委員長との修行も時間よりも先に俺の魔力が尽きて終了する。
どうすれば魔力の量を増やせるだろう、そんなことを考えながら風紀委員室の扉をノックした。
「風紀委員長、兵藤です。失礼いたします」
俺が中に入ると、アーシアがいた。
「あれ、アーシア、風紀委員室にいたのか?」
「あ、イッセーさん。はい、ゲーティア先輩に魔力操作に関して、教えてもらってたんです」
「魔力操作?」
「ああ、先程からアーシアに教えていたんだ。まあ、見ていろ。アーシア、もう一回だ」
「はい。いきます」
アーシアが右手人差し指を立てて、魔力を集中していく。
すると、そこに魔力が集まりだしていく。
俺もそのくらいは出来る、だが大きさが全然違う。
アーシアはテニスボールくらいの大きさにして見せた。
「よし、良いぞ。そのままゆっくり大きくしていけ」
「はい」
テニスボールの大きさが徐々に大きくなっていき、最終的にバスケットボールくらいの大きさになった。
凄い、俺はまだハエくらいの大きさにするのが精いっぱいだったのに‥‥‥俺、才能無いのかな。
俺が落ち込んでいると、更にアーシアが驚きの技を見せてきた。
「アーシア、次は左手人差し指だ」
「はい、頑張ります」
まさか、もう一個作るのか!
俺の驚きを他所に、左手人差し指で魔力を右手人差し指と同じ大きさにして見せた。
俺は更に落ち込んだ。
アーシアが片手でできる分を全力を使っても全くできないことに悲しくなった。
そして更に驚愕の出来事が起こった。
「アーシア、仕上げだ。両方の魔力を一つに合わせろ」
「はい、ゲーティア先輩」
返事をしたアーシアは魔力を一つに合わせて、押しとどめた。
魔力がバチバチとうなっているようだ。
そんな魔力をアーシアが作ったというのか。
俺は驚いた声も出なかった。
「よし、良いぞ。後はゆっくりと分解して、自分に戻せ」
「はい、‥‥‥ふぅ~、終わりましたー」
「よし、もう大丈夫そうだな。一誠、今日から魔力量の向上はアーシアが指導する」
俺はその言葉で見捨てられた、と思い、ゲーティア風紀委員長に慌てて聞いた。
「ゲ、ゲーティア風紀委員長、俺が‥‥‥才能がないから、ご指導を止められるんでしょうか?」
「いや、そうではない。私と一誠では魔力量に差があり過ぎる。それに私は生粋の悪魔であるため、魔力が自身にあることが普通なのだ。だが、一誠とアーシアは転生悪魔だ。魔力が無いの存在から、魔力がある存在に変わった。だから教え方が分からないんだ。ならば、教えられる者に教えてもらうことにした。アーシアも元は人間からの転生悪魔だ。確かにポーンとビショップの差はあるが同じく転生悪魔だ。なら、アーシアで出来た方法を一誠も試してみれば、上手くいくんではないかと思ったんだ。それに魔力量が少ないとしても、一誠の神器は倍化の力がある。元を少しでも多くすればそれだけ倍化したときの威力が上がる。最終的には今のアーシアくらいに出来れば、一誠の倍化で私に攻撃が通るようになるかもしれんな」
「ーー!俺の攻撃がゲーティア風紀委員長に通るようになるんですか!」
「一誠、お前の頑張り次第だ。まずはアーシアに教えてもらえ。そして、アーシアを越えて見せろ。その先に私はいるぞ」
「はい!アーシア、俺を鍛えてくれ」
「イッセーさん、はい。一緒に頑張りましょう」
俺は恩人であるゲーティア風紀委員長にいつか俺の力を認めて欲しいと常々思っていた。
いつも指導して頂いているというのに、まともに攻撃が通らない。
ゲーティア風紀委員長が防御もしていないというのに、攻撃が効かない。
いくら倍化をしても、限界まで強化しても、まるで効かない。
最近は身体強化の仕方も教えてもらったのに、魔力が足りないから、まともに強化も出来ない。
魔力を鍛えることは何時も欠かさずやって来た、でも、どうしても結果が出なかった。
だけど、アーシアが魔力量を増やしてくれれば、いや、アーシアの指導を参考に俺が魔力量を増やす。
そうすれば、ゲーティア風紀委員長に俺の攻撃が届く、いや届かせて見せる。
どうしようもなかった俺を風紀委員にしてくれた、恩人のゲーティア風紀委員長に感謝の言葉を言えていない。
いや、まだそんなことを言えるような立場じゃない。
まだなにもできていない、弱者の俺がそんなことを考えるなど烏滸がましいことだ。
あの人に俺を認めてもらった時、初めて言えることだ。
俺、頑張ります!ゲーティア風紀委員長に強者と認めてもらえるように頑張ります!
俺も男だ、あの人みたいに強くなるんだ!
side out
さて、一誠の強化はアーシアの指導に任せよう。
出来ないことを他のことで補うのもいい、だが何事も限界がある。
それなら、出来ないことを出来るようにすればいいが、これも限界がある、というよりできれば最初からやっている。
それでも出来ないから他を探して、補おうとして、また結局の堂々巡りだ。
だから結論は、無理矢理にでもやらざるを得ないときはやるしかない、だ。
ここからは気合と根性だ。
まあ、私が教えるよりもかわいい女の子が教えたほうが一誠もやる気が出るだろう。
さて、後は裕斗の方だな。
どうやって、強くしようか、義兄殿との戦いに間に合わせるために急ごしらえを教えるわけにはいかん。
それに今の義兄殿にそんな小細工は効かない。
ならば簡単だ。
単純に強くしよう、それが今の裕斗に必要なことだ。
私はそう考え、剣道場に足を運んだ。
side 木場 裕斗
「裕斗、少し話がある。ついてこい」
「は、はい!」
部活終わりの自主練中にゲーティア部長が現れ、僕を呼んだ。
一体なんだろう?
僕がグレモリー眷属だから、指導をできない、ということだろうか?
いや、ゲーティア部長はそんな器が小さいことを言う人ではない。
ならば、何だろう?
僕は答えが出ないまま、ゲーティア部長の後をついて行き、たどり着いたのは風紀委員室だ。
ゲーティア部長は風紀委員室に入っていったので、僕も続いて入っていった。
そこには、僕と同じグレモリー眷属の兵藤君とアーシアさんがいた。
どうやら、魔力操作を練習しているようだ。
僕が入ってきたのに気づいていないようだ。
それほど集中しているんだろう。
僕は彼らを邪魔しないように静かに距離を取った。
「裕斗。今度の義兄殿との戦いで恥ずかしい戦いをされては、私の名に傷がつく。よって対決の日まで私の直接指導を受けてもらう」
「ぼ、僕がゲーティア部長の直接指導を!」
「不服か?」
「いえ!滅相もありません!是非お願いします!!」
「よし、では早速行くぞ」
そう言ったゲーティア部長は転移陣を作り、僕を連れて転移した。
「到着だ」
回りに何もない、ただ広く、明るい空間にたどり着いた。
「裕斗、ここは楓に準備してもらっている空間だ。通常とは異なる空間のため、決して壊れず、周りへの影響を考えないでいい場所だ。ここで私と戦ってもらう」
「は、はい!宜しくお願いします。」
僕は魔剣創造から竹刀と同等の長さ、重さ、そして切れ味の鋭い剣を作り出し、ゲーティア部長に相対した。
ゲーティア部長は斧を出して構えた。
「さあ来い、裕斗。私に力を示してみろ!」
「はい!ウオオオオオオ!」
「ブルァァァァ!!」
僕は全力で真正面からゲーティア部長に挑み、思いっきりブッ飛ばされた。
真正面からの衝突だったがあまりの力の差に、僕だけ一方的に飛ばされた。
痛みが有るわけでなく、僕が作った魔剣が折れただけで、意識がはっきりしているけど、落ちることなく飛ばされているため、どこまで飛んでいくんだろうか、この世界に果てはあるんだろうか、そんな考えが浮かびながら飛ばされていった。
そんな僕が突然止まった。
どうしたんだろう、この世界の果てに着いたんだろうか、そんな考えが一瞬浮かんだが、直ぐにやめた。
「何で飛んでった僕を受け止めているんですか、ゲーティア部長」
「飛んでった裕斗より速く移動しただけだが」
「ああ、そうですか」
僕は考えるのを止めた。
僕はゲーティア部長に地面に下ろされ、第2ラウンドに突入した。
さっきは真正面からの斬り合いを挑んだが、衝突しただけで吹っ飛ばされた。
ここは緩急を使って撹乱しながらヒットアンドアウェイを心掛けよう。
僕は足で小刻みにリズムを刻み、急激な加速とブレーキをかけ、攪乱しながら距離を測り、一気に側面からの攻撃をおこなった。
「はあ!」
「遅い!」
その攻撃をまるで意に介していないように、無造作に払われ、また弾き飛ばされた。
今度は何とか地に足が付いたため、踏ん張ることが出来た。
「さて裕斗、終わりか?」
「まだまだ!」
全速力の突進からの急ブレーキ、そして方向転換してから、また側面への攻撃を試みた。
だけど、ゲーティア部長は僕の攻撃を完全に見切り、目で威嚇してきた。
だけど僕はそう来るだろうと思っていた。
そう僕に視線が向いたとき、魔剣創造で剣を下から作り、足を目掛けて剣を生やして突き刺そうとした。
だが、生やした剣がゲーティア部長に触れる前に粉々に砕けた。
「今、何かしようとしたのか?」
「!!」
気にした様子はない、ただ垂れ流した魔力だけで僕の剣が砕かれた、それが事実だと認めるしかなかった。
ゲーティア部長に小細工は効かない。
だけど僕には小細工以外に手がない。
ただ一太刀、渾身の一太刀以外全部小細工だ。
だから届かせる、そのための道を作るんだ。
「では、私から攻めさせてもらうぞ。ブルァァァァァ!!」
「クッ!」
ゲーティア部長の突進を何とか躱したが、それで好機は訪れない。
突進が躱されたと見るや、瞬時に反転し、掠るだけで即死しそうな程の力を持つ斧を振り回す。
その攻撃も何とか躱した、だけど反撃をする機会は訪れない、それからもゲーティア部長の攻撃は止むことはなかった。
僕は五感を研ぎ澄ませ、ゲーティア部長の一挙手一投足に細心の注意を払い、攻撃の軌道を読み、最高のタイミングを待て、と自分に言い聞かせ、ゲーティア部長の攻撃を凌ぎ続けた。
一振りで鎌鼬のような鋭い風を産み出す斧、地震のような衝撃を与える踏み込み、一睨みで失神しそうになる眼光、どんな攻撃も通さない強靭な肉体、どこにあろうと感じるであろう威圧感、その全てから全力で耐えた。
僕はゲーティア部長に決して勝てない。
剣道部の部員全員を相手にしても一方的に蹂躙してきたことを僕は知っている。
その強さに憧れ、近づきたいと思ってきた。
だからせめて一太刀だけでも届きたい、いや届かせる。
「よくぞ耐えた、だがここまでだ!今死ね、すぐ死ね、骨まで砕けろ、ジェノサイドブレイバー」
「今だ!!」
ゲーティア部長の必殺技、ジェノサイドブレイバーは魔力を溜める必要があるため、一瞬無防備になる、そのスキを待っていた。
僕は残りの全体力、全魔力を使い足を、そして剣を抜く腕を強化した。
「ウオオオオオ!!」
今から使う技は師匠の居合切り、見様見真似だけど、この際何でもいい。
最速の一太刀をゲーティア部長のクビを目掛け一閃した。
「な、なにーーーーーー!!」
ゲーティア部長もまさかのタイミングだったようだ。
今なら、一太刀、行ける。
届く、僕の一太刀が、ようやく‥‥‥
「なあんちゃって」
ゲーティア部長はジェノサイドブレイバーのチャージをしていなかった。
振りだけだった。
そして僕の一太刀を左手の指先で掴み、止められた。
「裕斗、覚えておけ。これが駆け引きだ」
「‥‥‥はい」
その後は覚えていない、掴み取られた後、引き寄せられ、殴られたのか、投げられたのか全く覚えていなかった。
次に目を覚ましたら、風紀委員室だった。
「目を覚ましたか、裕斗」
「‥‥‥ゲーティア部長」
「これを飲め」
僕はゲーティア部長に手渡された飲み物を飲んだ。
すると体の痛みや疲れが消えた。
「ーー!ゲーティア部長、これ」
「フェニックスの涙を薄めたものだ。そのくらいの疲れや傷くらいなら一気に消える」
「ありがとうございます」
僕はゲーティア部長に感謝の言葉を言った。
でもそれ以上に言いたい言葉があった。
「あー、一太刀も与えられなかった!!」
悔しかった。
ただ、単純に悔しかった。
それが、騙されたことだからなのか、届かなかったからなのか、他の何かだからなのか分からない。
だけど悔しかった。
「なんだ、最後の事か。裕斗の場合、私に一太刀を与えることに必死になるだろうと思っていたからな。だからわざとスキを作った。そうすれば裕斗は間違いなく、そのスキをつき、全力の一撃を撃つと思っていた」
「‥‥‥そうですか。読まれていましたか‥‥‥」
完全に読まれていた。
完全に掌で遊ばれていただけだ。
悔しさも、何も、ない。
僕が顔を下げ、気を落としていた。
だけど、僕の目の前にゲーティア部長の左手が現れた。
「裕斗、完全には読めていなかった。お前の一太刀は私に届いた。一太刀を指で掴める、そう思っていた。だがなお前の一撃は私の想像の上を行った。お前を見誤った私の未熟だ」
その左手には小さな傷があった、そこからはわずかに血を流している。
その傷は刃物傷、僕が作った魔剣の傷だ。
「‥‥‥そう、ですか。と、届きました、か」
「ああ、私の上を行った、素晴らしい一太刀だった」
僕は嬉しかった。
初めて届いた、僕の努力は無駄じゃなかった。
涙がこぼれる、我慢できない程に、嬉しかった。
「裕斗、9日後のライザー殿との戦いではこの程度の傷、すぐに回復するぞ。この程度で涙していては勝てんぞ」
「はい!」
僕は涙を拭いて向き直った。
でも、疑問があった。
それを聞いてみたくなった。
「ゲーティア部長は僕らが、その、グレモリー眷属が勝ってもいいんですか?」
「まあ、貴族的には義兄殿が勝つ方がいい。それにいくら裕斗が強くなっても、義兄殿は不死だ。この手のような傷では到底倒せない。だから、勝つのは義兄殿だ。‥‥‥だがな、私には責任がある。裕斗と一誠を鍛えた責任が、ある。私個人が裕斗と一誠を鍛えていることだが、貴族ゲーティア・バルバトスが鍛えていることでもある。悪魔界のバルバトス家は武門の家柄、その当主が鍛えた者が負けるなど、我がバルバトス家の名に傷がつく。貴族として、家名に傷がつくなど言語道断だ。今度のライザー殿との戦いは、我がバルバトス家の家名も掛かっているんだ。故に裕斗よ、義兄殿を倒し、我が家名と私の名を守れ。‥‥‥頼んだぞ」
「‥‥‥は、い‥‥‥」
僕はリアス部長が結婚しようが、そんなものどうでもいい。
ただ強者と戦い、己を高めたかった、そんなこともどうでもいい。
『ゲーティア・バルバトス』の名を守ることに比べれば、全て些事だ。
僕は全力で勝つ、ライザー・フェニックス様、後にゲーティア部長の義兄となられる方でも関係無い。
全力で勝つ、『ゲーティア・バルバトス』様の名を守るために、絶対に負けられない!
side out